『最高の一粒 〜after〜』



※※※ ご注意 ※※※
 本作品は、ころがり三昧vol.4掲載の 『最高の一粒』 の続編にあたります。
 が、前作を読まなくても分かる内容にしておりますのでご安心ください。
 先に『最高の一粒』 (サンプル版)に目を通しておくと、何となくカイト側の事情もお楽しみいただけます。





-1-


――ずっと気になっていた。
自分でも変だなって思うくらいに。


2年前、ユリカさんと一緒に作ったバレンタインのチョコレート。
アキトさんには渡せたのに、一緒に手伝ってくれた彼にだけ渡せなかった。
たったそれだけ。それだけなのに何故か気になった。

あんなに手伝ってもらったのに、何も返すことができなかったから。
他に何も用意していなかった自分が情けなかったから。
とても申し訳なかったから。悔やんだから。
だから忘れられないんだと思っていた。

リベンジしようとした昨年。
手作りじゃないけれど、ちゃんと2年分用意していたのに。
ふざけた騒ぎに巻き込まれて結局渡せなかった。
本命以外からは受け取らない――彼がそう叫んでいたから。
用意したチョコはそのままゴミ箱に捨ててしまった。
また渡せなかった。胸のどこかがチクリと疼く。
喉の奥に刺さった小骨のように手の届かないもどかしさ。
その疼きは1年経っても消えてくれなかった。

だから今年こそ絶対に渡そうと思った。
昨年のような騒ぎが起きないように釘を刺し、
誰にも邪魔されない方法を考えて。

けれど、自分以外の誰かのために用意されたものをもらえる訳がない。
当の本人に断られて、それはそうだと思った。
2年前だってそうだったじゃないか。
ユリカさんはアキトさんのために作っていたから、彼は受け取らなかったんだ。

やり方を間違えた。どうして気づかなかったんだろう。
他に渡したい相手なんて居ないのに、今更誤解を解くこともできなくて。
内心焦りながら、時間稼ぎに2年前の出来事を口にした。
そこで初めて、彼があの時の事をすっかり忘れているのだと知った。
彼にとっては別に大した事ではなかったのだ。
私がチョコを渡していても、いなくても。

気にしなくて良いと言われても、納得できない自分が居た。
無理矢理押しつけるようにチョコレートの包みを手渡した。
食べてもらえなくても良い。捨てられても構わない。
これが彼の手に渡ってくれれば、それで良いんだ。
無性に恥ずかしくて堪らなかったけれど、
その包みが彼の手の中に収まっている姿を目にした瞬間、
予想以上の満足感と嬉しさが胸に込み上げた。

彼はちゃんと受け取ってくれていた。
わざわざ部屋の前まで、美味しかったと伝えに来てくれた。
驚きで声も出せなかった私に、お礼にデートしようとまで言ってくれた。
嬉しかった。諦めずに渡せて良かったと心底思った。
2年越しの望みは今やっと達せられたのだ。


それなのに。
どうしてまだ気になるんだろう。
私は何を気にしているんだろう。

彼はあの日の後も何一つ変わっていないのに。
変わってなんかいないのに。

――――カイトさん。







<-2-へ続く>




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