12 : アキトの毎日


地球・日本 極東方面軍 士官学校

アキトの毎日は忙しい。

ざっと流しても、起床となる1時間前に起きて、朝のジョギング。
朝食を済ませたら、午前の講義。
昼休みには昼食と携帯端末を使って、会社の書類確認などの事務仕事をすませる。
昼休みが終わったら、午後の講義。
夕食前に時間が空くので、武道場で練習。
夕食後は、休憩室で読書か、各学科の委員長との打合せやクラスメイトと雑談。
お風呂を済ませたら机で勉強してから就寝となる。

この基本パターンに3学科の予定を組み込んで、ネルガルとMarsの仕事を重ねる。
休日は、だいたい会社の仕事でパー。
家族との連絡は専らメールのみである。


そんな毎日を繰り返していたが、入学してから2ヶ月目に入った時に、ネルガルからの荷物が届いた。
ゲート前には黒塗りの高級車両が到着し、ゲート前の歩哨に書類を渡していた。

「ネルガルからの荷物って、どこにあるんだ? (書類を読んで眼がテン・・・) 大型コンテナで100個!!!」

歩哨が書類に書いている数字を見て驚き、まわりを探しても、そんな荷物は見付からない。
書類を渡した運転手が上を指差ししているので見上げると、そこには大型の船が浮いていた。

「Marsの輸送船 ・・・ あれに積んでいるのかーーー」

管制に連絡を取り、ハンガー前に届けるように指示をすると、ゲート前の高級車は進み、それを追うように上空にいた輸送船も進んだ。
ハンガー前には、士官学校の機動兵器科に所属するパイロットたちが準備を整えて整列している。
パイロットたちの前には教官たちが整列している。
一応、他学科の生徒たちも別場所に整列している。
今日は、ネルガルから貸与という形ではあるが、最新型の機動兵器が届けられる・・・日になっていた。

整列している前に高級車が停車し、中からネルガル会長と秘書っぽい女性が2人降りてきた。
アキトは新入生なので見学として会場が見渡せる建物の屋上にいた。

(アカツキと、エリナは判るが、もう1人は ・・・ 誰?)

アカツキが車から降りると、士官学校・校長と握手を交わしている。
その、すぐ後ろには秘書のエリナがいた。
その反対側にいる秘書を知らなかった。

「貸与とはいえ、最新型を入れて頂き、大変感謝しております。」 (校長)

「いえいえ・・・ 学生の皆さんには旧式より最新型の方が、卒業してからも役に立つでしょう。」 (アカツキ)

「いやぁーごもっともです。」 (校長)

「それでは荷物の受け渡しを行いましょう。」 (アカツキ)

アカツキの後ろにいたエリナが校長へと書類を見せるように広げてると、校長は確認のサインをする。
校長のサインを確認すると、もう1人の秘書が無線で連絡を取っている風だった。

屋上で見学している学生たちが、今まで日向だったのに急に日陰になり、上を見上げて騒いでいる。
アキトも同じように見上げると、見慣れた輸送船が通過していた。

「おい! あれって最近、名が売れている運送会社の船か?」
「間違いない。あの側面のマークに見覚えがある。」
「それにしてもデカイなぁー」

くちぐちに素直な感想を言っている学生たちの上空を通過し、パイロットたちが整列している後方へと降りていく。
地上まで、あと少しという高度になると一時停止して、お腹の扉が開いているのか、納品されるエステバリスが降りている。
それも1機ずつではなく10機単位で、まとめて降ろしていた。

「荷物の補助しているエステって、最新モデルの機体じゃないか!」
「向こうのは、現在の主流エステバリスがあるし・・・」
「Marsって会社がエステバリスを使っているとは聞いていたけど」
「いったい何機のエステがいるんだ!」

あっというまに降ろされたエステバリスの列が出来上がった。
降ろしたエステの数を、無線で指示している秘書と教官が確認してから、校長へと搬送完了の報告をしていた。

今度は整備科の学生たちに、降ろされたエステの起動準備にかかるように拡声器を通した声で指示が出されていた。
各エステに整備科の学生たちが取り付き、起動準備を始めている。
格納庫前に整列していた学生パイロットたちは準備が整うまではヒマだった。
整列しているのは、シュミレータで訓練を積み、今回の搬送のために選ばれた100名である。

「実際に、見てみると・・・ おっきいなぁ〜」
「整備班の準備が整ったら、動かすことになるけど・・・ 自信ないなぁ」
「訓練で使用しているエステと外形上は変わらないけど・・・どんだけパワーアップしているかな」
「下手に扱けると下級生に舐められる」

最新型のエステバリスを見て、これから動かす学生パイロットの反応は様々。
上級生は旧型になった、現在のモデルで訓練を積んでいるので、最新型に載ることを喜んでいる。
選ばれた100人の中には、新入生も混ざっており、不安を口々に呟いている。
そんな学生パイロットの列へと校長と握手を交わした女性が歩いてくる・・・ 学生パイロットたちの反応も色々。
マジマジと見る者・・・ 声をかける者・・・ 一歩引いてしまう者・・・ 学生パイロットの中には女性もいるので、色々な反応が出ている。

整列しているパイロットたちを、ひと通り見てから、アキトたち見学者がいる建物を見上げていた秘書は、見学者のいる建物へと向かってきた。
屋上に上がってくると、目指す人物が見付かったのか、まっすぐに歩いてきた。
向かって行った先には、アキトを含む3クラス合同のグループがいた。

「おいおい・・・ ネルガルの秘書さんだろ・・・ あの人って」
「なんで、こっちに来るんだ!」

アキトの前に向かって来て立ち止まると、校長がサインした書類を両手で差し出している。
「2ヶ月ぶり! 元気みたいだね!」 秘書風に扮装していたのは、笑顔が眩しいユリカだった。
「ああ・・・久しぶり・・・ユリカも元気そうだなぁ」 差し出された書類を受け取り、笑顔には笑顔で返すアキト。
周りからは驚きの声と視線が集まっている。


同じ学科に所属しているジュンは、アキトの近くにしたので、ユリカに話しかけて色々と世間話をしている。
その側では、アキトが書類を確認しながら必要な箇所にサインをしていた。
周辺にいる学生たちは、そんな3人を見て不思議がっていた。
ユリカから渡された書類を確認していたが、ふっと視線を上げた時に、まわりの視線に気が付いた。

「みんなには紹介していなかったね。」 (アキト)
「ん・・・ なになに〜」 (ユリカ)
「オレの後ろでジュンと世間話しているのが、ミスマル・ユリカ・・・んで、今回の輸送責任者・・・でいいのか?」 (アキト)

アキトの腕に、まとわりついてくるユリカ。

「うん・・・ 一応、輸送責任者という事で来たよ」 (ユリカ)
「しかし、書類が多すぎ・・・ 少しは整理してから渡せよ」 (アキト)
「今回は100機だったからねぇ・・・ ウチの中でも中型クラスの船じゃないと運べなかったし」 (ユリカ)

書類を捲りながら確認していくと新入生の受取りになっている機動兵器がある。

「ユリカぁ 1年生の機体もあるが、どこに降ろしているんだ」 (アキト)
「えぇ〜とね・・・ この建物の隣に降ろしている最中だよ」 (ユリカ)
「この中にいるかなぁ・・・ 一応、機動兵器科の1年生は全員いると思うけど・・・」 (アキト)

アキトが名前を読み上げてみると、全員・・・いた。
受取り証を渡して、荷物の確認をして貰い、サイン後の書類を回収していると、ユリカがアキトの機体について言ってきた。

「アキトの機体なんだけど・・・」 (ユリカ)
「オレのか・・・ どこに降ろした」 (アキト)
「まだ船の中にあるよ」 (ユリカ)
「入れたのは誰だぁー カイトか?」 (アキト)
「うん、カイト君が入れてくれたけど、降ろしはアキトがやってくれって・・・伝言」 (ユリカ)
「やれやれ・・・ 面倒だけど・・・ 降ろしに行くか・・・」 (アキト)

「ついでに頼まれていたライフルもあるから」 (アカツキ)

後ろから声を掛けられて振り向くとアカツキとエリナが、校長や教官たちと、いっしょに来ている。
アキトが前にテストしていたライフルが完成し、完成品第1号をアキトへと渡すために持ってきたらしい。
そして、エリナからはライフルの仕様書を手渡された。

「あれも・・・いっしょに降ろしてくれると助かる・・・」 (アカツキ)
「先に降ろしたじゃないのか」 (アキト)
「まあ、学校に貸与する分は、箱詰めのまま渡したけど、キミの分は、カイト君が持って行ったよ。」 (アカツキ)
「しゃあないなぁ・・・」 (アキト)

おもむろに無線機を取り出したユリカは輸送船へと連絡している。
連絡を受けたのだろうか、ユリカの頭上にピタリと付けて、タラップを降ろしてくる。
すぐ頭上に輸送船が止まっている状況に屋上にいた人たちは気が気でない。
普通は、このような状態に持って行くのは、ほぼ無理。
だいたいは誘導で、着陸したり、指定した空間へと移動させる。
建物の屋上にタラップが降ろせるような状態に持っていくだけでも無理がある。
しかし、Marsの輸送船は、危なげもなく指定された空間へと留めている。

タラップからアキトが乗り込むと、タラップは収容されて輸送船は高度を取った。
ユリカからの指示らしく、現在の位置だと学校関係者が気が気でないらしい。
まあ、自分の頭上に、輸送船が浮かんでいるのだから、「事故」が気になるのだろう。

屋上から指示を出していたユリカは、ジュンと楽しく話している。
アキトのクラスメイトたちもジュンの紹介で打ち解けている。

「アキト君とは、どんな関係ですか?」
 ・・・ 「一応、ウチの父親公認の仲です」 ・・・ 男女関係なく、どよめきが上がる。
まわりから色々な質問が出て、それにスラスラと答えている。
時にはアキトが聞くと「おまえなぁ〜」って言いそうな返事もあったりする。

そうしている内に、建物横の上空に移動していた輸送船から何か黒い塊が落下してきた。
それは地表近くになるとスラスターを吹かして、静かに着地するとユリカや学生たちがいる建物へと歩いてきた。

ズシン・・・ ズシン・・・ ズシン・・・ ズシン・・・

今回搬入された最新型のエステバリスと比較しても、印象が全然違う。
少し大型で、いかつい感じがする機体で、全身真っ黒・・・ 今まで色々な機体を見てきた教官たちでさえ、目の前にある機体のモデルは知らない。

「アキト〜、どう調子は?」 (ユリカ)
「まあまあかな・・・ なんかライフルが軽く感じるけど、何か改良したのかー」 (アキト)
「まあね。材質研究班が作り上げたのを使っているから、全体の強度が増して、重量は少なくなった。申し分ないと思うよ!」(アカツキ)
「全体バランスもオッケーだし、このまま使うことにするよ。」 (アキト)
「こちらとしても・・・(電話の呼出し音) ちょっと待った」 (アカツキ)

背広の内ポケットから取り出し、神妙な感じで通話していたが、途中から何かしら思い付いたみたいで楽しそうな会話をしている。
そして、電話が終わると、アキトが乗っている機動兵器へと向かって言ってきた。

近くにあるネルガル工場が襲撃を受けたらしい。
その時に、襲撃犯は多量の廃棄寸前の武器を強奪し、こっちの方向へと逃亡中。
アカツキが言ってきたのは、デモンストレーションがてら、新型ライフルのお披露目をしてほしい・・・というものだった。

「デモンストレーションはいいけど・・・ どうやって誘導するんだ! この基地まで」 (アキト)
「その点は大丈夫! ウチのSSたちが追い込むから・・・ そう言っているうちに到着したみたいだよ。」 (アカツキ)

アキトは後方モニターを見てみると、トラックや機動兵器などの一群がフェンスを突き破って基地内へと入ってきたところだった。
振り返らずに、ライフルを持った腕を肩越しに担いで、後ろ向きのまま連射。

「アカツキ・・・ あれで全部か?」 (アキト)
「さすがだね〜 でも1機、逃げてるよ。」 (アカツキ)
「デモなんだろ・・・ 上空に報道っぽいヘリが来ているから、ちょっと待ちかな。」 (アキト)
「長距離射撃のデモになるねぇ〜」 (アカツキ)

ライフルを後ろ向きに構えた機動兵器が振り返り … ひざ撃ちの体勢へ … そして、ゆっくりと狙いをつける。
上空を回っていたヘリは目標となっている物が判ったのか、そっちへと向きを変えて進んでいった。
肉眼では点の状態まで離れている。
その状態になった所で、1発・・・ 見事に命中した。


その日の夜・・・ ニュースには士官学校の敷地内でおこったデモンストレーションが報道されて、ネルガルの新型やライフルの売上げがアップした。
その見事な射撃を披露したアキトは学校内でも有名になった。

当然の結果であろう。


忙しすぎる毎日

あの事件を境に、アキトの周りは急激に変わった。
それは忙しすぎる毎日へとなっている。

通常ひとつの課だけでも卒業するのは難しいのに ・・・ アキトは3つある。
これに臨時で各部隊の新型エステバリス教官も勤めているし、ネルガルのテストも担当している。
自己所有機を持ってきているので、整備授業の担当官も勤めている。

今日も午前の講義が終わると食堂へダッシュ ・・・ 食事をしていると回りには3人の女性たちが集まってくる。
制服の徽章が違うので、所属している課が違うことが判る ・・・ 3人ともアキトが所属してる課の委員長たちである。
本当はクラス単位で男女1名ずつがクラス委員長であるが、アキトは3つの所属課の委員長を兼任している。

「アキト君 この後の予定は、どうなの? ・・・ 夜にでも宿舎で夏休暇前の行事打ち合わせをしたいけど大丈夫なの」
「(モグモグ ・・・ ゴックン) んあ? ちょっと待ってて ・・・ 」

予定を書き込んだ手帳を取り出すと広げて、予定を調べてみる。

「午後は主計課の講義を受けて、その後、上級生たちのバトルロイヤルに参加して指導。夕食前にネルガルの打合せ。夕食後から2時間ばかし時間があくよ」
「2時間ね ・・・ 相変わらず予定がびっしりね ・・・ 身体持つ?」
「なんとか(笑) ははは・・・ 時間を空けるのは、体育祭の打合せでいいのかな?」
「えぇ・・・ 他のみんなにも伝えておくわ・・・」 (急いで知らせないと・・・)
「もう・・・いるみたい・・・」 (まわりにイッパイ)

「えっ?」

アキトの周りのテーブルには3つの課が陣取っている。
全部、アキトが所属している課の人たち・・・。
委員長が、みんなに伝えなくても全員が、この場にいる ・・・ 委員長であるアキトが忙しいので、時間が重なる時に、同じ場所へと集まるのが通例になっていた。
アキトがいる学校での行事は、一応、学年ごとに別けられているが、部隊編成で必要な課が集まって1つのチームを編成する制度を採用している。
あのデモンストレーションで、アキトは新入学生たちの中でも中心を担う存在になっていた。
今の時期にチーム編成が始まるのが通例らしいが・・・いつの間にかアキトを中心とする課に集まり1チームが出来上がっている。
アキトが所属している3つのクラスが連携・・・ そこへ整備授業を担当しているクラスと、支援課のクラスが合体して、ちょうど1チーム。

「あとは整備課と後方支援課への連絡ね。」
「ちょうど、深夜から整備課の特訓があるから、その時に知らせておくよ。整備課に伝わったら支援課にも伝わるし・・・。」

ちょっと待て?
周りを取り囲む皆が気付く・・・今日は土曜日・・・打合せの時間後に整備特訓!?
この学校の整備特訓は修理完了するまで終わらない・・・ので、土曜日深夜から始まって、下手すると日曜日の休暇はパー。
最悪の場合は月曜日まで潰れる時もある。

いつ休むのよ(だよ) ・・・?

「まあ明日の朝にはベッドで寝れると思うし・・・(笑) 途中で困った場合にはメールで知らせてね! じゃぁ!!」

広げていた予定表に追加の書き込みをすると、食器を片付けてから、またダッシュで走り去った。
あとに残ったチームメイトたちは食堂という場にもかかわらず体育祭の事前打合せを始めた。
アキトが空けた2時間は、結果のみを連絡できるようにするためである。

この状況を見ていた教官たちは・・・
「あのチームは、結構いいところまで残りそうですね。」
「中心が、うまく纏めているし、そのまま部隊編成しても使えるのでは・・・」
「そうですねぇ〜 秋になったらネルガルの試供戦艦の訓練もありますし、そのまま載せてみましょうか?」
「上級生たちの反発があるかも知れませんが、そこは実力の差・・・という事で」
「あのチーム・・・現時点で卒業年次生より腕はいいですから・・・」

この話しは、そのまま秋の訓練航海で起きてしまった。
ネルガルが相転移エンジンを載せた試験戦艦を作り上げ、テスト航海するのだが、提供企業からの意向でチーム編成された腕の順で・・・という注文が付けられている。
現在の佐世保チームで腕の良いのは、食堂で会議を行なっている1年次チームたち。
入学してから半年しか経っていないのに、もう卒業年次(3年生)より成績と実力は上・・・あとは経験だけという状況になっていた。

数週間後に行なわれた体育祭は無事に終了。
結果は、1年次ではトップ ・・・ 1年次から3年次まで含めた場合でもトップ3には入っている健闘ぶり・・・。
そのままの勢いで、訓練航海のメンバー編成の決定となった。


あとがき

アキトの士官学校での生活を考えて作っていたら意外にも長い(汗)
結局、2回に分ける手にしました。
この次は、ユリカのお話です。
まだまだ前哨戦といえるお話が続きます。
今のペースだと、20話までが前哨戦になるかな(笑)


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