06 : ルリ


少し時系列を戻して 地球・日本 某研究所

ルリは、日課となっているお昼の散歩のために、研究所敷地内にある中庭を歩いていた。

ちょうど午前の実験を終えて、お昼の後、午後の実験が始まるまでの間を利用して散歩しています。
散歩の途中にあるベンチに座ると、ポケ〜と流れる雲を見ていました。

「今日もポカポカして気持ちが良い天気です・・・空には鳥さんがいますね・・・自由に飛べるって、どんな気持ちなんでしょう・・・!?」

ポケ〜っと空を見て、飛んでいる鳥を見ていたルリが、変にフラフラしている鳥(?)を見付けた。
翼もあるし遠目には鳥に見えるのだが、近付いている・・・というより落ちているのか、だんだんと大きくなっている。
そのまま、じぃぃぃぃと見ていると、中庭の端っこに落下した。

大きな落下音といっしょに舞い上がる土埃。
舞い上がった土埃がなくなると、地面に何か機械みたいなものが埋まり込んでいた。
いつの間にやら研究所の所員たちが集まってきている。

「やっぱり・・・落下したなぁ・・・」

「IFSの処理が合わないのかな?」

「おーい・・・大丈夫かぁー・・・起せるかー」

埋まり込んだ機械を確認している所員がいるが、その人たちはIFSを研究している所員たち。
ルリも演算能力の実験協力として知っている人たちだった。
周辺にいる所員のひとりがベンチの方向に眼を向けると、座っていたルリを見つけて声をかけた。

「ルリ! 大丈夫かぁー」

「大丈夫です。怪我もありませんし・・・驚いただけです。」

「どっちにしても、今日の実験は休みになるから、部屋に帰ってもいいぞ。」

実験中止・・・珍しいこともあるんですね。
それだけ、地面に埋まり込んだ機械が大切なんでしょう。
良く見ると、大きな翼を持った機械の塊。
少しずつ動いているので、故障はしていないのでしょうが…

「おーい! カイト君 大丈夫かぁ」 (所員)

「カイト・・・?」 (ルリ)

外部スピーカにしたのか大きな返事が埋まりこんでいる機械から聞こえますね。
トラブルが起きたのか所員と問答しているみたいです。

「ちょっと待って下さい。腕が埋まりこんで抜けない・・・。」

「こっちからも掘ってみようか?」

声の感じからすると大人というより子供っぽい。

「よぉっし! 腕が動くから機体を起しますよ〜。離れて下さい。」

機械の近くにいた所員たちが離れると、機械が左右に揺れ始めた。
埋まりこんでいる場所のまわりが持ち上がって、太い腕が土の中から出てくる。
パッと見た目には、頭から地面に刺さった状態で、お尻にあたりそうな部分のみが地面から出ている感じ。
もぞもぞ動いているのか、今度は胴体が抜け出てきて、やっと上半身が起き上がった。
昔風のアニメにでてくるロボットっぽい・・・所々土の色が着いているが、下からは白が見えているので、全身は真っ白なんだろう。

ルリは座っているベンチから動かずに、ポヤァ〜と地面から出てくる機械を見ていた。
そうしているうちに、穴から出てきた機械が、ちょうど目の前に立ち上がった。

(ふぅ〜、やっと抜け出たぞ。機体の損傷は・・・)

コクピットでは、カイトが機体の損傷をチェックしていた。
飛行型の新しいIFS演算処理機を組み込んで、実験に飛び立ったのだが、機動操作に入った所で制御が利かなくなり墜落した。
そして落ちたところが研究所の中庭。
ひと通り機体の確認が終わって、正面のモニターを見てみると、ベンチに座っている少女に気付いた。

(あれは・・・ルリちゃんか・・・)

ついつい見とれていた。
ベータが気を利かしたのか、モニターの画像はルリが良く見えるようにズームアップしている。
・・・が、モニター正面に所員の顔が、ドアップに映った。

それは移動作業車に乗って、ロボットの顔の前に移動した所員だった。
驚いたカイトは思わず操作したのか、後ろにあった建物へと派手にずっこけた。

(いったぁ〜、うっかり操作したんだな。建物壊したなぁ・・・)

カメラモニターごしに破壊した部屋の様子が判る。
カイトの部屋と変わらないみたいで、ベッドのカバーなどから女の子の部屋だろうと連想できる。
いつまでも倒れている訳にいかないので、機体を起すと壊した建物前に立たせた。

ベンチに座って一部始終を見ていたルリは驚いていた ・・・ が、表情は困った顔をしていた。
隣にいた所員は、ルリを見なくても理由が判っている。
そう・・・カイトが壊した建物は、研究所にいる人たちの居住スペース。
それもオペレーターたちの居住スペースであり、建物の位置からすると、ルリの部屋がある箇所だった。

「部屋の住民は実験棟に行っているだろうから、けが人はいないと思うけど・・・部屋がなくなったのは困るなぁ・・・」

3階建ての建物が半壊状態。
他の建物へと引越ししたとしても部屋数が足りるかどうか疑問だったらしい。
その原因を作った機械は、壊した建物前に立っていた。
移動作業車が機械に近付き、色々な箇所を確認している。

機械のフタ(?)みたいに開いたところから人が出てきた。
近くの所員と話しをしていたが、機械から離れてルリがいるベンチへとやってきた。
白いツナギにパットが着いていて、ヘルメットを被っているので、御伽噺に出てきそうな『騎士』に見える。
ベンチに座っているルリの横にいる所員が声をかけた。

「おい! カイト、大丈夫か」

「僕の方は大丈夫です。しかしエステの方は、処理が追い付かなくて墜落です。」

「落ちたときのダメージは、どうだ?」

「寸前で逆制動をかけたけど不十分で、地面にめり込みましたけど・・・(ははは)」

「壊れたかな?」

「各関節にダメージがありますが、次の実験日までには直るでしょう。」

所員と話していた『騎士』みたいな格好をした人がヘルメットを取っていた。
隣にいた所員と比べてみると背格好は小さい。
声も若いので、少年っぽい。
じっと見て・・・気付いたのかカイトと呼ばれる男の人はルリへ声をかけた。

「初めまして・・・僕はカイト・・・テンカワ・カイトです。(笑顔) 君の名前は?」

「私はルリ・・・ホシノ・ルリ・・・(真っ赤)」

2人の挨拶を見ていた所員は建物を調べていた別の所員と話していた。
背広を着ている事務員風の人と相談したみたいで、カイトとルリに話しかけた。

「カイト君・・・こけた理由は大体判るよ・・・(ニッ)」 (所員)

「やっぱり判りますか・・・(汗)」 (カイト)

「見とれていたんだろう・・・(わっはっは)」 (所員)

「見とれていた・・・?」 (ルリ)

「そう・・・ルリを見詰めていて・・・操縦をミスったんだろう(爆笑)」 (所員)

「図星です・・・拡大モードだったんで、目の前に映ったモノに驚いて、見事にズッコケました。」 (カイト)

いつの間にか、まわりには野次馬として出てきた所員たちがいた。
そしてカイトの話しを聞いて、大爆笑している。
ルリはポカンとした表情をしていた。
(普段は鉄仮面みたいな顔をしている人たちが笑っていますね・・・なんででしょう?)

「みなさんで笑わなくても・・・・(うるうる・・・)」

「でもなぁ・・・潰した所が不味かったなぁ・・・」

「そうなんですが、咄嗟だったんで避けられなかったんです。」

「まあ、ルリの寝るところが無くなったから、カイトの部屋をひとつ貰うぞ。」

「えぇ・・・(驚) 不味くないですかぁ・・・異性の部屋ですよ。」

「カイトだったら大丈夫だろ」

「まあ一応、男ですけど・・・そこまで悪じゃありませんし・・・」

「そこの点は安心してる。」

(カイトさんの部屋で寝るんですか・・・担当の所員が大丈夫といっている事ですし大丈夫なんでしょう)

「それにしても操縦の制御プログラムの組み直しとなると結構時間がかかりそうだな・・・」

「担当オペレーターが足りないんですか?」

「そうなんだよな・・・。実際1人でオペレートしているし、これで武器制御などが加わると足りなくなるなぁ〜」

「僕も手伝いますし・・・来月になったら応援もくるでしょう・・・」

「それまではルリだけで頑張るかぁ・・・2人とも仲良くな!」

(え・・・)

「そうだったのかぁ〜、ルリちゃん・・・よろしくね」

担当の所員さんから教えて貰ったのですが、私が実験していたのは、カイトさんが乗っていたエステバリスの基本制御。
最近になって、空中での姿勢制御プログラムを作っていたのですが、それが一応完成して、今日の実験となったらしいです。
しかし結果は・・・・・・目の前の通りで・・・・・・失敗です。

中庭の一部は穴が開いた状態になったので、私の部屋から私物を取って、カイトさんの部屋へと移動しました。
私の部屋はワンルームなのに、カイトさんの部屋は2LDK。
一般研究所員の部屋と同じです。
リビングルームを挟んで両方向に部屋があるのですが、私の部屋として空けて貰ったのは右側。
・・・というのもバス・トイレが部屋のすぐ隣にあるので、使い勝手がいいだろうとカイトさんが荷物を運び込んでくれました。
当然、私の部屋の向かい側は、カイトさんの部屋。
隣は小さいながらもキッチンになっています。

自分の部屋になったので、ベッドを整えたり私物を整理すると、ドアのノック音が聞こえます。

「ルリちゃん、片づけが終わったら、お茶にしない?」

ちょうど終わったので、リビングへ行ってみると・・・エプロンを着けたカイトさんがケーキを切り分けてティーセットの準備をしてました。

「今日は紅茶にしようと思っていたから準備したけど・・・コーヒーが良かったかな・・・日本茶も中国茶もあるけど・・・どれにする?」

「どれでも構いません。」

私の場合は、ジャンクフードとドリンクが通常の食事だったので、お茶の種類は判りません。
キッチンを覗いてみると、お茶の名前が書いてある筒がイッパイありました。

「それ全部、お茶っ葉が入っているよ・・・コーヒーだけは豆だけど・・・(嬉)」

テーブルにつくと、いい香りのする紅茶を出してくれました。
お茶の隣にはケーキがあって、あまり食べたことがなかったので食べてみると・・・とても美味しかったです。
素直に感想を言って見ると・・・

「それは良かったね。作った甲斐があるよ・・・」

(カイトさんが作ったケーキだったんですね)

「夕食は何にしようかな? リクエストとかある?」

(作るみたいですね・・・いつも自販機で選んで食べていたので、料理した物は食べたことがありません。)

「チキンライスにしようかな?」

「チキンライス・・・? どんな味がするのですか?」

「食べたこと無いの?」

( こっくり )

「それだったら楽しみにしててよ・・・夕食にするからさ・・・(嬉)」

お茶を済ませると私はリビングに置いている端末を、じっと見ていました。
研究所にある物とは違うので、気になっていたのですが、カイトさんの私物らしく触れませんでした。
触りたくて、うずうずしていると・・・・・・

「データを変えないなら、使ってもいいよ!」

「いいんですか?」

「IFS対応機種じゃないから、面倒かも知れないかも・・・それでも、いいなら触ってもいいよ!」

了承を得られたので触ってみたのですが、IFSが使えないので、ちょっと苦労しています。
キーボードを使ってアクセスしてみると、その端末のセキュリティなのか、『ベータ』という名前が付いたウインドウが出てきました。

「ベータ・・・この娘がルリちゃんだよ・・・セキュリティ・レベルAまで解除してね。」

カイトさんが端末に呼びかけると『ルリ』という名前を検索していました。
研究所の名簿でも調べているのでしょうか・・・研究所のセキュリティは、どうしたんでしょ?
『検索完了』の文字が表示されると音声で返事が返ってきました。

「ホシノ・ルリ・・・セキュリティ・レベルAまでの使用許可をマスターが承認・・・了解しました」

芸が凝っていますね。
画面が浮かび上がると、レベル名が書いてあるブロックをどんどんと壊していく画像が出てきました。
許可されたレベルAになると、ファンファーレが鳴って、花びらまで舞っています。

正面に浮かび上がった画面に扉があり、開いてみるとフォルダが沢山入っていました。
色々と、めくっていたのですが、気になる言葉があって開いていました。
それは、中庭に墜落した『エステバリス』のフォルダです。

中に入っていたのは、機体の図面。
基本の構想図から武器の詳細データまで、いろいろ入っています。
私が作ったデータも入っていて、それを使用した時の実験データもありました。

「熱心に見ていると思ったらエステバリスを見ていたのか!」

カイトさんはエプロンを着けたまま、フライパン片手で私の後ろから画面を覗いていました。

「カイトさん・・・この設計図は研究所にありませんけど、どこで手に入れたんですか?」

ルリの質問で、カイトは困った。
色々悩んだが・・・今、知っては不味い部分だけ誤魔化して答えられるだけ答えることにした。

「手に入れたというより、自分の図面だよ・・・コレ!」

「自分の図面・・・・・・エステバリスってカイトさんが設計したものなんですか?」

「うん、そうだよ。もとはネルガルの試作機動兵器だけど汎用性を持たせた機体を考えたら、こんな感じになったんだよ」

驚きました・・・パイロットだけだと思っていたら開発も出来たんですね。
これにオペレータもできるとなると、驚きしかありませんね。

(ずいぶん驚いただろうなぁ・・・鉄壁の基礎データで作ってみたけど・・・それでも段違いの性能だったし・・・)

「驚いたみたいだね。制御プログラムは手が回らないから研究所で作って貰っているんだ。」

「それを私が作っているんですね・・・」

「そうなんだけど・・・今回のテストで5回目だけど、どうしても途中で墜落になっちゃうんだよ。」

「5回目・・・とうことは5回とも墜落しているんですか?」

「汎用と陸戦は完成済みになっているし、宇宙戦闘と海上・海中戦は僕が完成させたけど・・・あと1タイプ」

「現在、開発中の空戦のみ出来上がっていないんですね。」

「1回目は離陸できなかったけど、2回目からは離陸できたけど、今日日の5回目は、空中機動をしたらコントロール不能になって墜落。」

「空を飛ぶ感覚が、いまいち判らなくって・・・」

「また、頑張って作ればいいさ・・・」

また、キッチンに戻ったカイトさんは調理しているみたいで、テンポのよい音が聞こえています。
時計を見てみると、もう夕方。
キッチンからは、美味しそうな香りが届きます。
また、画面をめくって色々見て、時間を潰していると・・・調理が終わったみたいです。

「これがチキンライスですか・・・。」

出来上がったチキンライスから眼が離れません。
まじまじと見ていると、カイトさんは楽しそうな表情をしていました。

「さあ、どうぞ! 召し上がれ。」

「いただきます!」

スプーンを取ると、さっそく食べてみました。
素直な感想ですが・・・美味しいです。
気に入ってしまったのか、モクモクと食べてしまいました。

「ごちそうさまでした!」

「美味しかった?」

(こく・こく)

「それは良かったね。」

夕食を済ませてから、お風呂に入り、まだ早いですが、新しいベッドへと潜り込み寝ました。
こうして、カイトさんの手料理をいただく、同居生活が始まりました。


あとがき

やっとルリちゃんの登場です。(今回は長すぎたかも・・・)
お話しから判ると思いますが、次回ではユウとラピスが合流します。
今後の予定としては、別件を1つ書いてから、アキトとユリカのお話しにしてから、本作の第1話へとつながる予定です。
まあ、本作に入っても、裏のお話も書いていくので、通常の長さにはならないと思います。
気長に読んで下さい。


| 2006/08/12 製作開始 | 2006/08/23 校正 | 2006/08/24 『風の通り道』 投稿 |


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