「久しぶりだね、アキト君」
「はい、お久しぶりです。ミスマルの小父さん」
今アキトは、ミスマル・コウイチロウの前に居る。
ユリカと宇宙港で別れてから、2週間遅れで火星から地球へと引越ししたことになっている。
「すまん」 コウイチロウは突然アキトに頭を下げた。
「な、なんですか。やめてくださいよ」
「そんなことになっていたとは・・・。何も出来ずに、申し訳なかった」
「いいんですよ。終わったことですし・・・それに、小父さんが悪いわけじゃないですから」
「すまない・・・」 申し訳なさそうに、悔しそうに頭を上げるコウイチロウ。
あの日、ミスマル一家が火星を離れた日。
アキトの両親、テンカワ夫妻はテロにより死亡した・・・と、表向きにはそうなっている。
アキトは、真実を知っているのだが、今ここで言っても仕方が無い。
「それで、なぜ今になって地球へ?」
「その・・・・・・軍に入ろうかと思いまして」
「軍へ? 火星にもあるだろう?」
「それが・・・」
「構わん、言いたまえ。」
「はい!」
アキトは、コウイチロウを見据え、話し始める。
軍に入るなら、いろいろコネが必要かなと思ったこと。
ミスマルの小父さんが、地球の極東方面軍にいること。
両親が亡くなった火星に居ずらいこと。
火星から出たことがないので、地球で頑張ってみようかと・・・。
それで、ミスマルの小父さんを頼って、軍に入ることを思い立ったこと・・・など。
若者らしい、色々な理由を、コウイチロウに話した。
(これで駄目なら・・・一般公募で受かるしかないか・・・
コウイチロウは、自慢のカイゼル髭を撫でながら悩んだ・・・。
(本当はマズイが、ユリカのお願いもあるしぃ・・・仕方がないか?)
「私が面倒を見よう!」
「いいんですか?」
「本当はいけないんだがね。頑張れよ!」
「あ、ありがとうございます!」
深々と頭を下げるアキト。
すべては計算してのことなのだが、顔には出さない・・・というか、出せない。
「それで、住む場所はどうするのかね?」
「ええ・・・カイトは地球の研究所に住込みで決まっているので、そこへでも行こうと思ってますが・・・」
「先立つものはあるのかね?」
「アルバイトしたりして何とか頑張るツモリです。」
「ははは、構わん構わん。部屋はたくさん空いているから2〜3人増えても困らん。ユリカも喜ぶ。」
「・・・はい。お世話になります」
ミスマル邸で生活するようになってから数週間が経過していた。
アキトの予定通り、コウイチロウのツテで士官学校へ受験し、合格通知を受け取っていた。
来週になるとアキトは士官学校へ入学し、ユリカは飛び級で、連合宇宙大学へ入学する。
今後の予定について話し合おうと、カイトが研究所からの帰宅を待って、アキトの部屋に4人が集まった。
「来週から学校かぁ〜、学科が3つ・・・(身が持つかな)」 (アキト)
「私は1つだけ・・・アキトぉ〜コックさんと、パイロット、参謀・・・3つも大丈夫なの?」 (ユリカ)
「メインは参謀になるけど、戦闘指揮もする場合があるから、それも必要・・・コックは夢だから(諦められない)」 (アキト)
「欲張っているね、兄さん。パイロットの方は、僕もやるから大丈夫だよ。」 (カイト)
「カイト君が、研究所でテスト・パイロットになるとは思わなかったなぁ〜。」 (ユリカ)
「僕もオペレーターで研究所に入るから・・・」 (ユウ)
「タイミング的には、カイト君とユウ君が、同じ研究所にいるルリちゃんとナデシコで合流かな?」 (ユリカ)
「俺とユリカが、軍からの出向で、ナデシコに行けば・・・合流できるな。」 (アキト)
「後はラピスだけど・・・ユウ君・・・場所の特定は出来た?」 (ユリカ)
場所がミスマル邸に変わっても、アキトとユリカは、コウイチロウの目の届く範囲で勉学に勤しみ。(コウイチロウが安心する)
カイトは研究所で、オペレーターで実力を発揮し、パイロット技能も出して、研究所バック企業のテストパイロットに収まっている。
ユウはカイトの研究所に遊びに行っている事にして、キャリーの電算室へ行っては、ラピスの居場所を探していた。
まあ、キャリーばかり行っていると理由にならないので、玉には研究所で手伝いをしていたら本格的にオペレーターとして入ることになった。
「前記憶から現社長派の研究所・・・と思って探していたけど・・・数・・・多すぎ・・・」 (ユウ)
「まさか地球全域に、散らばっているとは思わなかったしね。」 (ユリカ)
「特定できないから、順番にハッキングして調べて、やっと見付けた。・・・・・・・ココ!」 (ユウ)
「それじゃぁ〜そろそろネルガルの方にも行かないとね。」 (ユリカ)
「ああ・・・すでに連絡は入れてある。」 (アキト)
「わ! 早いねぇ。」 (ユリカ)
「早い方がいいからな。そろそろ向こうの方から接触してくると思う。」 (アキト)
朝のうちに、アキトはユウに言って、アカツキの秘匿回線を通じて、コンタクトを取っていた。
その時に、あるデータを送っていたので、驚いたネルガル(アカツキ)の反応は当然のことだろう。
ピピピピピ・・・・・・ (アキトのコミュケに着信音が鳴る)
「言っている側から・・・」 (アキト)
「だね・・・」 (ユリカ)
「アルファ・・・音声だけで接続しろ・・・」 (アキト)
「了解! 出します」 (アルファ)
「失礼するよ。話したいのだが・・・画像はなし・・・なのかな・・・」 (アカツキ)
「ああ・・・今のところは音声だけにさせて貰おう。」 (アキト)
通信を送ってきたのは、ロンゲの軽薄そうな男。
ユウ以外の3人にとっては懐かしい・・・アカツキが画像に映っている。
「信用されていないねぇ・・・それじゃぁ、本題に入ろうか・・・僕に何をさせたい?」 (アカツキ)
「どういう意味だ」 (アキト)
「どうって、あんなデータを送ってきたぐらいだから、僕ではなくてネルガルに何かをさせたいんだろう。」 (アカツキ)
送ったデータは、アカツキでなくても大金になりそうな物を送っている。
詳細なボソンジャンプの実験データ・・・現在、開発しているであろうエンジンを上回る相転移エンジンの設計図・・・その他いろいろ。
「そうだな・・・俺たちは、ネルガルの助けを必要としている。」 (アキト)
「それは光栄だけど、なんでウチに? 明日香やクリムゾンもあるだろう。」 (アカツキ)
「この技術ではネルガルが進んでいると考えている。」 (アキト)
「光栄だね! それで何をすればいいのかな?」 (アカツキ)
「通信機を通していると話しが漏れるかもしれないから、今から、そっちに行ってから話す。」 (アキト)
「今から・・・って、時間は?」 (アカツキ)
「すぐだ!」 (アキト)
アキトはアカツキの返事を聞かずに通信を切った。
そして、ユウからクリスタルを受け取ると、ジャンプした。
「すぐ来るって、どういうつもりだろうねえ?」
アカツキは、最後に言った言葉が理解できなかった。
まあ、来ると言ったのだから、このビルに来るだろうから、来訪者があると告げるために内線電話を取った。
・・・が、告げる前に、机の前に青い光が集まって、中から1人の青年が出現した。
「なっ・・・!」
「邪魔をするぞ!」
声で理解できた。
今さっきまで話していた声の主が、いきなり目の前に現れた。
当然、仰天するだろう。
「い、今のって、まさか・・・」
「推察どおり・・・ボソンジャンプだ。」
アカツキは椅子に座りなおすと話しを続けた。
目の前にいるのは、そこらにいる青年に感じない。
身体から出ている雰囲気で、違うと本能的に感じ取っていた。
「送ってくれた詳しいデータがあったんだ・・・出来ても当たり前か?」
「解説しなくて助かる。」
「わかった。立ち話もなんだから、そっちへ座りたまえ。」
さすがは、若くして大企業の重役を務める男である。
アキトに座るように勧めると、秘書(エリナじゃ無かった)を呼んで、お茶を出すように伝えた。
「改めて・・・話しって?」
「回りくどいのは面倒だ・・・俺たちに協力して欲しい!」
「協力・・・っと言っても内容次第だね。」
アキトは懐から1枚のデータディスクを取り出し、アカツキの前に出した。
飄々とした顔のまま、目の前に出されたディスクを手に取った。
「これは・・・」
「まずは中身を読んで欲しい・・・話しの続きは、それからだ。」
胡散臭そうな表情のアカツキだったが、ディスクの内容を読んでいくと真顔になり最後には悲痛な表情になっていった。
これから起こるであろう内容と、その裏の部分、歴史を修正するために戻ってきた「帰還者」の存在等など・・・。
「僕たちも含めて最後は、こんなになるのか・・・(汗)」
「酷い・・・というものじゃないぞ! 俺たちが受けた苦しみは、アカツキが考えるより、もっと酷いぞ!」
「OK・・・理解したよ。協力させて貰おう!」
「その言葉・・・しっかり覚えとけよ・・・裏切ったらネルガルごと消滅させてやるからな!」
アキトの発した殺気で、アカツキは「絶対忘れん!」と覚えた。
飄々としても一応、大企業の重役・・・いつかは会長・・・と狙っているので、ハッタリかどうかは、すぐに判った。
「わ、わかってるってば・・・(ここまでマジにならなくても)」
アキトもリラックスした姿勢に直して、深く椅子に座りなおすと、話しの続きを始めた。
「受け入れて貰えたので、幾つかの技術を提供しよう・・・ただし、引き換えに条件がある。」
「あの技術だけでもライバル企業を出し抜けるのに、更に追加するなら、出来る限りの協力をしよう!」
「まずは、1つ目。ボソンジャンプ実験の即時中止。死人が増えるだけで利益はない! 損害が増えるだけだ。」
「あの資料を見て、さっさと中止の事を考えたよ! OKだ。」
「2つ目として、MC(マシンチャイルド)計画の中止。そして子供たちの保護。機械ではなく人道的な扱いをして欲しい。」
「ちょっと待てよ。MC計画は、すでに中止指令が出て、計画破棄になっているはず・・・。」
「知らないんだな・・・反会長の社長派が、隠れて計画を続行しているぞ。」
「なんだって! すぐに調べて辞めさせる!!」
「心配ない! 俺たちで調べて場所は知っている。」
「え・・・(汗)」
「俺たちで破壊しても構わないが・・・それではアカツキの功績にはならないだろう・・・(更に上を狙うにしても)」
「そうだね。ウチのSSを派遣しよう。」
「俺と、もう1人・・・SSに同行させて貰うぞ・・・保護したいのがいるからな」
アキトは、アカツキに見えるように1枚の写真を出した。
写真に写っているのは、桃色の髪をした少女だった。
「かわいい子だねぇ・・・知っている子なのかな・・・」
「ちょっとな・・・」 (コイツ・・・こんな顔をする時もあるんだな・・・)
アカツキは、内線を取ると、警備部を呼び出し、部屋に来るように電話をした。
警備部からSS作戦担当者がくるまでは、地図などを準備して待っていた。
「俺たちのことは、アカツキ専属のSSということにしておいてくれ。その方が都合がいいだろう!」
「そりゃ・・・まぁ・・・ね。これ1回だけだと、疑われるぞ。」
「判っている。あとは機動兵器のテストパイロットでもしてやるさ。」
「それなら大丈夫だろう・・・。」
「3つ目として、建造予定の戦艦・・・ナデシコに乗せて貰おう」
「知っているんだね」
「あぁ・・・建造で困ったことが起きたときの為に、こちらとの直通ラインを教えておく。」
「なぜに? ウチのメンバーで建造できるよ。」
ネルガルの技術力を自慢しているアカツキに追加する情報を渡した。
最新式の相転移エンジンや、フィールドジェネータ、新型エステバリスなどの設計図を渡した。
「新しい技術が盛り込まれている・・・単独で開発できるかな・・・」
「確かに、同時進行で出来上がるシロモノじゃないね。ホットラインを遣わさせて貰うよ。」
「ついでに現在作っている相転移エンジンの情報は、宇宙軍に流して恩を売っとけ!」
「勿体無いなぁ・・・」
「こっちのエンジンは現在開発中のエンジンより性能が上のブツを渡すんだから・・・古いのは渡しておくんだ・・・」
「なんでまた?」
「同じ相転移エンジンでも、性能が上なら、宇宙軍と戦闘になっても、ネルガル製戦艦の敵じゃぁないだろう!」
「でもなぁ・・・タダは勿体無い・・・というか・・・」
「タダより高いモノはないと言うぞ! これをネタに宇宙軍と協定を結ぶのさ。ネルガルは独自に戦艦建造をするが、徴発には応じない。」
「なるほどね・・・」
「さらに、独自に行動できるように指揮権を貰っとく・・・のさ」
「抜け目ないねぇ・・・もし・・・宇宙軍が駄々をこねたら、どうする?」
「宇宙軍からの出向を受け入れれば問題なくできる。」
あくまで民間製の戦艦だが、指揮を執るのは軍人ということ。
これなら軍も、文句が言えない。
さらに人道的な理由を付ければ、無下に断ることも出来なくなる。
実際に、軍は火星を見捨てて、逃げ帰っている。
話し終えるタイミングで、警備部からのSS作戦担当者が到着した。
場所を知らせて、作戦についての打合せを済ませて2人だけになると、アキトはボソンジャンプで別れた。
「後を着けようとしても、アレだと出来ないねぇ・・・。さてナデシコ就航までに色々と忙しくなそうだなぁ。」
いつもは白紙に近いアカツキの手帳。
女性との約束を消しながら、これからの予定を書き加えていく。
(ネルガル会長・・・って、目標があるからかなぁ・・・)
やっと場所が火星から地球へと変わってきました。
まあ、インターバル的なお話しを書いたのですが、このインターバルが長くなると思います。
・・・と言うのも書こうとする予定表を作っているのですが、ナデシコ発進までに色々絡んでいるので、1つずつ書くと・・・(思考停止)
最初っから長くなるのは覚悟の上なんで、書いておきたいことを順番に書いていこうと思います。
| 2006/08/08 製作開始 | 2006/08/09 校正 | 2006/08/17 『風の通り道』 投稿 |
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