たとえ忘れてしまっても…


-3-

―― 何も変わったりしないよ ――

―― もしも全部忘れてしまったとしても ――

―― ずっとそばにいるから ――

―― もう一度…――








「あ、ルリちゃん、ちょっといい?」

「はい?」

2人で早めのお昼ご飯を食べた後、カイトさんがそう言った。
最後のお皿の水を切って立てかけてから、カイトさんの方に向き直る。

「今日はウリバタケさんの手伝いに行かなきゃいけないんで出かけるんだけど。」

「ウリバタケさん?」

聞き覚えがあるけど一瞬顔がつながらない。

「うん。元ナデシコの整備班班長で発明好きなおじさん」

「あぁ。あの人ですか」

ツナギを着たメガネの男の人を思い浮かべる。
オモイカネの記録の中にも『いろいろな意味』で登場していたことを思い出した。
ちょっと顔に出てしまったらしい、それを見たカイトさんは苦笑しながら話を続けた。

「ははは。うん、その人の手伝いに行くんだけど、結構時間がかかりそうなんだ。
 もし良かったらルリちゃんも一緒に行かない?」

少し考えてからついて行くことにした。
なんとなく…カイトさんの居ない部屋に一人でいるのもつまらない気がしたから。










「よしっカイトっ!スイッチ入れるぞ!」

「待ったっ!ウリバタケさん!電圧計測がまだ…」


ポチ。



ボンッ!!



「「……………」」



オリエさんがいれてくれたお茶をすすっていると作業場からすごい破裂音がした。
続いて鼻をつくゴムが焦げたような匂い。

居間のTVの音に混じるように2人の声が聞こえてくる。


<だからあっ!チェックがまだだって言ったじゃないですかっ!>

<す…すまん、カイト(汗)まぁ…大丈夫だと思って…なぁ>

<頼みますから…これ以上遊ばないでくださいよ(涙)>

<漢が遊び心を忘れてどうする!?>

<爆発しない遊び心にしてくださいよぉぉっ!!>

<何言ってるんだ。爆発は漢の浪漫だぞっ!>

<……そ〜ゆ〜浪漫は……1人のときにしてください(怒)>

<まぁまぁまぁまぁまぁ。落ち着け、なぁ(汗)>



背後から剣呑な雰囲気が漂ってくるが……ここに来て既に4回目のことなので放っておく。

カイトさんもつきあい良いよね。


「まったく…ウチの人も相変わらずこりない人だわ。
 カイトくんにはホント申し訳ないわねぇ。」


ケーキの食べカスがついたお子さんの口を拭いながら、オリエさんがため息混じりにそう言った。


「いえ、あれで結構楽しんでると思いますから。気にしなくていいですよ」

「ふふふ。まるで奥さんみたいなセリフね。仲が良いこと」

「べ、別にそんなことは…」


とっさのことに言葉がでない。
自分が知ってるカイトさんを思った通りに言っただけだったのに。
からかいを含んだオリエさんの言葉に、ほんの少し顔が熱くなるのを感じた。


「でも、ホント良かったよ」

「え?」

「また…ルリちゃん達が一緒にいるところが見れるようになってさ」


作業場から再び金属音が響いてくる。ようやく作業に戻ったようだ。
オリエさんは、お茶を入れ直しながらゆっくり話し始めた。


「ルリちゃんが記憶喪失になった――って聞いてね。
 もしかしたら、もうこんな風景見れなくなっちゃうかもしれない…なんて…馬鹿なことも考えちゃってね」

「あの…。以前もこんな風にお邪魔してたんでしょうか?」

「え?えぇ、そうよ。カイトくんはウチのに付き合ってアレでしょ。
 ルリちゃんはそれを手伝ってくれり、ここで私の話し相手になってくれたりね。
 結構ちょくちょく2人で来てくれてたのよ。」

「……………」


初めて聞く話に少し戸惑っていた。
覚えがないこともそうなのだけれど…
カイトさんからも聞いたことがない話だったから。


「ルリちゃんが事故にあった後はカイトくん1人でここに来てくれてたんだけどね。
 元気そうに笑ってはいたけれど……やっぱり…寂しそうだったわ。
 ふふふ。それが今日は別人みたい」


そう言って微笑むオリエさん。


「ふふふ。でも記憶をなくしててもやっぱり恋人同士ね。
 さっきのセリフなんか貫禄があったわよ」

「えっ!?」



耳に届いた言葉が信じられなかった。








4 へつづく




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