『約束』










「カイトさんにお任せします。…できますか?」


作戦会議中のナデシコBのブリッジで,艦長…ルリちゃんは僕にそう尋ねた。
僕の答えは決まっている。


「もちろん。できるよ。」













――僕にできると信じてくれたなら僕はどんなことでもできる――

――それがあの日の約束――














- 1 -


『レベル14クリア。続いてレベル15のテストを開始します。』

訓練プログラムの無機質な音声が休む暇も与えずに僕を追い立てる。

『レベル15の戦域を展開します。60秒以内に全機破壊してください。』

「クゥッ!」

先程のレベルとは比較にならない数の敵機と
知覚できる限界ギリギリの素早い攻撃に翻弄される。

『5秒前』

『4』

『3』

『2』

『1』

「クッ!!」

『タイムオーバー』


赤いアラームがスクリーンいっぱいに点滅している。
まるで僕の力の無さをせせら笑うかのように。

『レベル15のテストに失敗しました。再度レベル15のテストを開始します。』

ダンッ!!

コンソールを殴りつけてシミュレータから飛び出す。
頭を冷やさなければダメだ。
外の空気が吸いたかった。


テストがクリアできないまま既に2日が経過している。
おそらく今日中にクリアできなければ不適格品として処分されるだろう。

ここの連中が欲しいのは完璧な戦士だ。
替わりはまた造ればいい。より性能の良い新しいミカズチを。

不適格と決まれば廃棄か,それとも使い捨ての実験台か…。
少なくとも僕をこのまま生かしておいてはくれないだろう。

頭を冷やすつもりが,考えれば考えるほど焦りが胸に渦巻く。
その焦りがさらなる失敗を導くと分かっていても考えずにはいられない。


できなければ…明日はないのだ。


「ミカズチ!ここに居たのね。」

「…イツキ。」


走り回って探していたのか,ほんの少し息の上がったイツキが僕の隣に腰掛ける。

思わず顔をふせてしまう。
たぶん酷い顔をしている。
こんな顔を見られたくない。


「…まだ…終わってないのね…?」


ビクッ。


「………イツキ…。」


彼女を引き寄せ抱きしめる。
強く強く。
少しでも離したら消えてしまいそうで…
何もかも全て…
自分すら消えてしまいそうで…
怖かった。ただ怖かった。
このままならもう二度とイツキには逢えない。


「…バカね…。」


僕の頭を撫でながらイツキが耳元でささやく。


「何を怖がってるの?ミカズチ。怖がるようなことなんて何もないわよ。」

「っ!イツキ…僕はっ!」


顔を上げて言いかけた僕の言葉を彼女は人差し指でさえぎった。
それから両手を僕の頬に添えて,まっすぐに瞳を覗き込みながら言った。


「怖いことなんて何もないわ。だって貴方ならできるもの。」


一瞬力の抜けた僕にイツキは優しく微笑んで続ける。


「貴方ならできると私は信じてる。だから貴方はできるの。」


ゆっくりとゆっくりと力をこめた声が響く。


「知っていた?ミカズチ?
 私はね。できると言ったことは必ずできるの。
 『イツキならできる』と貴方が信じて待っていてくれるから
 どんな任務もテストもクリアして帰ってこれるのよ。」


…言葉がでてこない。


「貴方ができると信じてくれるから…私は必ずやり遂げて帰ってこれるの。」

「私が貴方ならできると信じてるから…貴方は必ずできるのよ。」

「だから…貴方はできない心配なんてしなくていいの。」


イツキはそこで一息ついて,にっこり笑った後,おでこを僕のおでこにコツンと合わせた。


「約束して,ミカズチ。
 私ができると言ったなら必ずできると信じると。
 そして必ずやり遂げて帰ってくるの。
 それから…その先は…2人で考えましょう。」


目頭が熱い。


我慢できずにイツキを抱きしめる。
強く強く。
でもさっきとは違う。
愛しくて…そばに居たくて抱きしめる。


「約束するよ,イツキ。」


涙で掠れそうな声に力をこめて伝える。


「約束する。
 君ができると言ったなら必ずできる。
 そして…僕ができると言ったら必ずやり遂げる。
 それから…その先を2人で進もう。」


彼女の瞳を見つめて微笑んだ後,そっと口づけて僕は誓った。










――君ができると信じてくれたなら僕はどんなことでもできる――

――僕ができると言ったならどんなことでも必ずやり遂げる――

――それが僕の誓い――










<2へつづく>