機動戦艦ナデシコ

〜 Endless  Story  第一章  アカキヒトミ 〜











最低だ・・・


人には色々言いながら自分は何一つ出来やしない・・・


誰かのため・・・無理だ・・・


昔も今も僕は自分のためにしか戦えない・・・


僕はあの人とは違う・・・


でも・・・もういい・・・


僕のこの力は『復讐』のためにしか使えないと知ったのだから・・・



最低さ・・・自分が一番良く知っている・・・







第9話 力と正義




「これは明らかに地球規模の反乱である!地球連合憲章の見地から見れば、まさしく平和に対する脅威であろう。しかし時空転移は新たなる世界、新たなる秩序の幕明けだ!我々は勝たねばならぬ!!さあ、勇者たちを導け!」

火星にある『火星の後継者』の本部では草壁中将自ら兵士たちの士気を高めていた、その力の入り方は尋常ではない。それだけこの作戦に対する意気込みが感じられる。そしてそれに呼応するように兵士たちの士気は高まっていた・・・

「イメージ・・・」

「イメージ・・・」

「イメージ・・・」

クサカベの言葉を皮切りに作戦は開始された・・・

「目標!地球連合ビル」

「目標!統合軍本部ビル」

作戦は至って単純そして大胆だった・・・ほぼ完璧にボソンジャンプのコントロールに成功した火星の後継者は地球にある軍事的重要拠点にボソンジャンプによる奇襲攻撃を仕掛けようとしていたのだ・・・誰かが夢見たようなこの作戦、しかしこの作戦は確実に進行していた。

「ナビゲーター、イメージング続行!」

「イメージ伝達率50%」

「伝達促進プログラム、入力開始。モードはマルチ」

ヤマサキは的確な指示を飛ばしつつ、一人笑っていた。その笑みはまさに不気味・・・ヤマサキは心から作戦の成功を信じていたのだ、自分が発見したボソンジャンプによってもたらされる勝利を・・・

「マルチモード入力」

『イメージ伝達率91%』

『イメージ伝達率98%』

伝達率の上昇と共に遺跡の一部と化したユリカの発光現象は高まっていた、そしてその光が最高潮に達したとき飛んだのだ・・・クサカベの言う『勇者達』が・・・






「貴様の負けだ!ミカヅチーー!!」

「黙れ・・・負け?それがどうした?例え負けようが貴様だけは殺す!!」

「・・・笑わせるな!甘ちゃんのお前には所詮無理なんだよ!!」

「さっき言っただろうが!・・・黙れクサナギ!!

「甘いんだよ!だから貴様は何も守れないんだ!!『アイツ』の死顔見せてやりたかったよ!」

黙れ・・・黙れ!クサナギ!!

「無理だな!俺を黙らせたいなら殺すか、貴様が死ぬかだ!!」

「だったら死ね!!」

「死ぬのは貴様だよ、ミカヅチ!!」

「「ウオオオォォーーー!!」」






「・・・フゥ〜・・・(昔の事さ・・・昔の・・・)」

カイトはかつて無いほど落ち着いていた。目の前ではシャトルが敵の攻撃にあっているが、カイトはまるで関係ないかのように着々と準備を整えている。肩から足元に伸びていた一対のグラビティカノンを脇に挟み込むように持ち替えると、試し撃ちのように二つの砲門から黒い弾丸が発射された。発射された弾丸であっさりと二機の機動兵器を沈めるのを見たカイトは軽く微笑んだ後、全推進力を使いシャトルを追走していった。もちろんその間もグラビティカノンを連射して敵を撃墜していく、全て一撃で・・・

グラビティカノンとは簡単に説明すると弾丸状のグラビティブラストである。確かに今までジンタイプと呼ばれる兵器はグラビティブラストを標準装備していた、しかし所詮大型の機動兵器、戦艦並のグラビティブラストを放てるはずが無いのだ。さらに無尽蔵なエネルギーを使用するため後の戦いにも影響が出てしまう。それらの弱点を解消した奇跡の兵器がグラビティカノンなのだ、弾丸状にする事によりエネルギーの消費を最小限に抑え、さらに機動兵器程度のディストーションフィールドなら紙のように突き破る威力を確保、戦艦といえど一発で致命傷を与えられるほどの性能は、現在存在している機動兵器の装備の中では最高の威力を保持していた。もちろん今までの科学力ではグラビティブラストを弾丸状になど出来はしない、しかしこの兵器は遺跡で偶然発見されたパーツを流用していたためにこの奇跡のような兵器は完成したのだ。多大なる失敗を繰り返しながら・・・

「イケる!」

この絶望的な状況でもカイトには確信があった、シャトルを救えると・・・



「おいおい、なんなんだありゃ?」

リョーコはシャトルを守りながら戦うカイトに魅了された、隙の無い鮮麗された動き、確実に一撃で相手を葬り去る腕前と見たことの無い武器の性能、どれをとっても自分とは次元が違った。

「すっご〜い・・・あれホントに人が乗ってるんですかね?」

そして客席に腰掛けていたアヤもカイトのあまりの腕前に感嘆の声を漏らした・・・

「そりゃね〜カイト君だったらあそこまでやるんじゃない?」

隣のヒカルも一パイロットとしてカイトの戦いを見つめていた、先ほどまでのおちゃらけた表情ではない一つの動きも見逃さないように真剣な表情でカイトの戦いを見つめていた。

「(カイトの奴・・・また腕を上げやがったな・・・)」

シャトルに乗り込んでいた全てのパイロットがカイトの戦いを真剣に見つめていた・・・



『敵残数35』

『PM1:55』

この時のカイトはウィンドウを見るほど余裕があったのだが、しかし・・・

ボンッ・・・

『グラビティカノン損壊』

「あっ・・・壊れた・・・」

次を放とうとした時、突然の爆発音がカイトを襲った。さすがに一瞬驚いたカイトだったがハンドカノンに切り替えると先ほどと変わらず敵を撃墜していく、一撃とはいかないがそれでも確実に敵の数を少なくしていった・・・しかし今まであった余裕はどこへやら、カイトの顔が一瞬で引き締まった・・・

「(やばいなぁ〜・・・まさかここで壊れるなんて・・・)」

ここでカイトは作戦を変更した、今までのようにシャトルに付き護衛するのではなく・・・カイトが壁となり機動兵器の大群を引き付けようとしたのだ・・・そしてカイトの絶妙な『壁』は上手く敵の進攻を食い止める事に成功したのだ・・そしてカイトが引き付けている間にシャトルが敵陣を振り切った・・・

『PM2:03』

時計を見たカイトは今までの真剣な顔からようやく微笑んだ・・・

「(そろそろ来るかな?)」

そう思った瞬間だったカイトの目の前に新たなウィンドウが表示されたのだ。

『前方50キロ ボソン反応確認』




「何!?」

「でかいゾ、これは・・・」

「うわ〜、マズさの2乗倍」

コックピットでは全員が一瞬終わりを感じた。しかしそれはこの声によって打ち砕かれるのだ・・・

「グラビティブラスト、行っきま〜す!」

「え?」

思わずルリも声を上げてしまうほどその声は戦場に似つかない明るい声をしていた。そうその声はルリの弟分ハーリーの声だった。




「(やっと来た・・・さて、ここに居たら危ないし・・・)ジャンプ!」

その時全てを悟ったカイトは迷うことなくネルガルの月ドッグに向けてボソンジャンプした・・・




そしてシャトルの前では美しく輝く白い船体を露にしナデシコCが現れたのだ。ボソンアウトと同時に艦首が三つに別れると急速にそこに光が集まりだした・・・そして・・・



「緊急跳躍!逃げろ!」

火星の後継者側の隊長機が叫ぶが既に遅かった、目の前に迫る黒い閃光は全てを包み込み破壊していく・・・



「艦長、見ててくれましたか?」

改めてルリたちの前にウィンドウが開かれた

「・・・ハーリー君」

「ムフ♪」

ルリの声と同時に一人の男がウィンドウに乱入してきた。ボサボサの髪にメガネ、さらに意味深な頬の引っ掻き傷、間違いなくその男は元ナデシコクルーの整備班班長ウリバタケ・セイヤその人だった。

「「「「・・・え――――ッ!?」」」」

クルーたちの驚きの声を聞いてウリバタケはまさにしてやったりとピースサインをクルーに向けた。

「は、班長ォ?」

「お〜〜う、お前ら、元気してるかぁ?」

「セイヤさん、どうしてここに?」

ルリは思わずウリバタケに問いただした。それも当たり前、当初はウリバタケもナデシコCに乗船予定だったがルリの独断で本人に事情を話すことなく今に至ったはずだったのだ。

「・・・こんなこともあろうかとってな、先に来といて正解だったぜ、御都合主義だと笑わば笑え!しかし見よ!見よ!この燃える展開!見よ!このメカニックゥ!!第一こんなにニューテク謎テク満載な展開は技術者魂が黙ってられねえってもんだ、ガハハハハ・・・」

「顔の引っ掻き傷、ありゃ奥さんだね」

熱く語るウリバタケを懐かしそうに見つめていたのは意外にもイズミだった、ウクレレを手に持ちながらもまともな事を呟いた。

「御都合主義も大変だね・・・あぁ〜あ、前歯も折れちゃってるし」

イズミの言葉に反応してヒカルは苦笑すると、事の成り行きを見守るように腕を組んだ。

「どうでもいいんですけど、セイヤさん、ハーリーくん」

「「え?」」

「どうやってボソンジャンプしたんです?御都合だけじゃ、ちょっと・・・」

恐らくその場にいる全員が思っていた質問をルリは二人に聞いた。幾らナデシコCが最新鋭の戦艦であろうとA級ジャンパーのナビゲートなしには長距離の単独ボソンジャンプはできないのだ。

「・・・説明しましょう」

そう言って現れたのはハーリーを月に導いたA級ジャンパーだった。彼女はクルーの目の前に立つとジャンプ実験ドームでも着けていた細長いバイザーを外した。

「「「「・・・エ――――ッ!!」」」」






シャトルとナデシコが感動の再会を果たしていた頃、地球では『火星の後継者』による地球圏占拠作戦が開始された。先のボソンジャンプ技術を使い空間より突如出現する敵に対し、軍は成す術なく、地球の主要施設は次々と占領されていった。

「ええそうです。いきなり現れて・・・うわぁ!!」

「国際高速通信社占拠!」

火星の後継者の本拠地では、占拠速報を知らせる薔薇の花が淡々と飾られていった。

「「「「おお〜〜っ!」」」」

「もうすぐですな、閣下」

次々と届く吉報に幹部たちは笑みをこぼしていたがクサカベだけはその顔が緩むことなく厳しい顔つきだった。

「うむ。新たなる秩序が始まる・・・」






「こんにちは、お久しぶり、初めまして。ナデシコ医療班並びに科学班担当のイネス・フレサンジュです」

謎のA級ジャンパーの正体はなんと3年前にシャトルの事故によって死んだと思われていたイネスだったのだ。すでにナデシコに乗り込んだクルーたちは現在の複雑な状況をされるべく、イネスによって一つの部屋に集合させられていた。

「政治・経済・娯楽・道徳・貞操と、ボソンジャン時代到来に伴う新たなる秩序を我が物にしようというのが彼らの真の目的。でも何故ボソンジャンプで世界が変わるかというと・・・」

これから2、3時間は話そうかと意気込んでいるイネスを止めるようにルリは静かに手を上げた。

「しつもん」

「何、ルリちゃん?」

「みんな恐らくこう思ってると思うんですが・・・イネスさん、あんた死んだんじゃなかったの?」

「な、何よ!人を死んでなくちゃいけないみたいに・・・まぁいいわ説『僕が説明しよう』

イネスの話を止めたのは意表を突いてアカツキだった。さらに何故かウィンドウに映るアカツキの後ろには花などが大量に置かれている。

「あ、落ち目の女たらし」

「あっはっはっ、耳が痛いよ。世間じゃA級戦犯やらなんやらでうるさくてねぇ〜」

ヒカルの突込みにもアカツキは動じる様子は無かった、笑みを浮かべながらさらりと突っ込みを流す。

バンッ!!

「そんなこたぁ、どうだっていいんだ!とっとと、わけを説明しやがれ!」

今まで無言だったリョーコはあまりにも緊迫感のないアカツキに腹が立ち机を叩いて立ち上がった。

「あれ、リョーコ君、キミ、統合軍じゃないの?」

「!!・・・いいんだ、そんな事は!!」

少し赤くなりながらアカツキに抗議するリョーコだったが、その隣の席のアヤはさらに居づらそうに縮こまっていた。

「(改めて言われるとそうなんですよね・・・まだ軍、正式に辞めてないし・・・ハハッ・・・)」

「まぁ、アレだよ。敵を欺くにはまず味方からって言うアレ!テンカワ君も艦長もさらわれちゃっただろ?だから一番有効な方法を取らせてもらったわけ。要は戸籍上死んでもらったってことなんだけど・・・あ、あとカイト君分かってると思うけど、さっきみんなの前に現れただろ?」

アカツキの言葉でわかるようにクルーたちは今回の作戦に当たってある程度の説明は受けていた。アキトとユリカが死んでいないということなどその内容は様々だったが、やはり確信に迫るような肝心な事は伝えられなかった。というかアカツキは当初はアキトの事を内密にしておこうとしたのだが、カイトの一言によってアカツキは皆に伝える気になったのだ。




「アカツキさん・・・アキトさんの件、皆さんに話してもらえませんか?」

「何故だい?」

「みんなが何も知らなかったらアキトさんを受け入れにくいかもしれないでしょ?」

「・・・まぁ、一理あると言えばある気もするが・・・」

「ねっ!」

「しかしテンカワ君は戻るつもりなのかな?」

「・・・さぁ〜、でも大丈夫ですよ!きっと戻ります・・・」

「(カイト君・・・キミはどこまで先を見つめているんだ・・・)」




「アカツキさん・・・一つ質問していいですか?」

「んっ?なんだい」

ハッと我にかえったアカツキは改めてウィンドウの先のルリを見つめなおした。

「いったいアカツキさんはイイモノなんですか?ワルモノなんですか?」

「アッハッハッ、相変わらずキツイな君は・・・あっ、キャッチが入っちゃった。じゃ!」

目の前に新たなウィンドウを確認したアカツキは『時』を悟りルリたちに別れを告げた。

「こちら正門前、敵の攻撃凄まじくぅ・・・」

言葉の途中で警備員らしきその男は爆風に包まれた

「うひょー、凄いなこりゃ!いいよいいよ、後は任せて♪」

「はっ」

煙から顔を出した警備員はアカツキの言葉を聞きウィンドウを閉じた。

「さて!舞台は整った。さぁ、行こうかァ!!」






地球連合総会議場前

「警備の部隊、沈黙!」

「よし、これより突入!

その言葉を合図に今まで警備部隊と交戦していた火星の後継者側は一気に総会議場に雪崩れ込んだ。そして手当たり次第ドアを破ると各部屋を制圧していった。

「おい!ココだぞ!!」

「おう!・・・一気に行くぞ!!」

そう言うと総会議場の中にある一番立派なドアに突っ込んでいった。彼らの予想が正しければココには総会出席者が多数いるはずだったのだ。

「ダメダメ、せっかちさん♪」

「メグたん・・・」

頭を熱く煮えたぎらせた火星の後継者の一団は目の前の特設ステージの各所にスポットライトが当たるの見ていたが、その声で思わずフッと力が抜け頬を赤く染めた。

「皆さん、こんにちは!メグミ・レイナードです!」

「ホウメイガールズで〜す♪」

「今日は私たちのコンサートにようこそおいでくださいました。」

「たっぷり楽しんでいってくださいね♪」

「ウオォォーッ」

笑顔のアイドルの声で今まで使われていなかった、モニターに数え切れないほどの観客が現れてメグミたちに惜しみない拍手を送った。この状況に火星の後継者たちは混乱した、自分たちの目的を忘れるほどあるものはメグミたちに見入り、またあるものはただこの状況に困惑した。

「な、なにがどうなっている、総会は?地球連合の総会はどうした?」

「どうしたも何もないさ・・・」

「何ッ!!」

その声に一団の隊長は改めてステージを見た。するとゆっくりとだが全てを見下ろすような場所にアカツキが現れたのだ。

「貴様はアカツキ・ナガレ!!天誅ゥ〜!!」

その言葉で我にかえった火星の後継者たちはアカツキに向け遠慮なく引き金を引いた・・・

「おいおい・・・あんまりなめないでもらいたいね!」

火星の後継者の放った弾丸は一直線にアカツキを目指していたが、数メートル手前でフィールドに弾き返された。

「クッ・・・ディストーションフィールド!・・・貴様、どういうつもりだ!!」

「・・・無理な事は止めたほうがいいと思ってね!」

「何だとぉ?」

「総会出席者を人質にするような組織じゃ天下は取れんよ!」

「ならば貴様が死ね!」

ズドォーーーン

大音響と共に天井を突き破って機動兵器が進入してきた。いくらアカツキと言えど機動兵器には勝てるはずが無い、しかしアカツキの目は絶対の余裕に満ちていた。

「奸賊アカツキ・ナガレ覚悟!!」

機動兵器が銃身をアカツキに向けた瞬間アカツキは笑った。その笑みに答えるように機動兵器とアカツキの間に割って入るように新型と思われる機動兵器がボソンアウトしてきたのだ。新型は颯爽と登場すると共に前腕部に内蔵された大型クローを装着すると機動兵器を一瞬で片付けた。

「おおっ・・・」

「外もあらかた鎮圧した。あきらめて投降しろ」

「ボソンジャンプ・・・敵の新型か」

敵陣の隊長が思わず呟いた瞬間だった。新型機動兵器のハッチがおもむろに開いた・・・

「久しぶりだな、カワグチ少尉」

「つ・・・つ、月臣中佐!?」






「ルリちゃんとナデシコCが無事合流したそうよ」

「勝ったな・・・」

ネルガルの極秘月ドッグではエリナとアキトが真剣な表情で話していた、もちろんアキトの傍らにはラピスの姿がある。

「ええ。あの子とオモイカネのシステムが一つになったら、ナデシコは無敵になる」

「俺たちの実戦データが役に立ったわけだ」

「やっぱり行くの?」

「ああ・・・」

アキトのその言葉に思わずエリナは俯いた・・・

「復讐。昔のあなたには一番似つかない言葉だったわね・・・」

「・・・昔は昔、今は今だ・・・。補給ありがとう」

「いいえ。私は会長のお使いだから・・・」

その言葉を聞いたアキトは身を翻しアキトたちの艦、ユーチャリスへと歩いていった。

「行きましたね・・・」

「!!・・・カイト君?」

アキトの背中をいつまでも見つめていたエリナはその声にハッと後ろを振り返った。しかしそこには誰も居ない、曲がり角の先に居るのがわかるように影だけがエリナの前にあった。この時点ではカイトの変化にはエリナは気がついていない。

「・・・来てたの?」

「えぇ、先ほど・・・でも邪魔しちゃ悪いと思って・・・」

「余計なお世話よ・・・」

少し赤くなりながらもエリナは少しきつめにカイトに返した。

「ハハッ・・・ところで例の件、大丈夫でしたか?」

「えぇ・・・でもどうしたの急に?『ユーチャリスに新たな、自分が座れるくらいのIFSシートが欲しい』だなんて・・・」

「色々と考えるところがありまして・・・」

「・・・もしかしてカイト君・・・」

「なんですか?」

「・・・・・・いえ、なんでもないわ。」

そう言ってエリナはカイトの顔を見ようと歩き出した・・・

「エリナさん・・・」

「えっ!!」

カイトの一言でエリナは足を止めた。

「・・・あと、よろしくお願いします・・・」

「!!・・・あなたルリちゃんの気持ちを考えた事あるの?」

一瞬頭に血が昇ったエリナはカイトが居ると思われる角を曲がったが、そこにカイトの姿は既に無かった・・・

「あの子じゃないけど・・・馬鹿ばっかね・・・」

目の前を漂うボソンの光を眺めながらエリナは呟いた・・・






「(ルリちゃんの気持ち?考えたさ、考えたけど・・・僕にはこれしか道が無いんだ、血塗られた道しか・・・お願いだ・・・もう何も欲しないから、誰も何も奪わないでくれ・・・これ以上、大切な人が居なくなるのには耐えられそうに無いんだ・・・もう誰も・・・)」






「当確全て取り消しィ・・・!?どういうことだ。説明しろ!」

火星の後継者の本部では驚くべき報告が届いていた、クサカベを含めた全員が困惑していた現在の状況に・・・

「は、はぁ、それが敵の新たな新兵器と、その・・・説得に・・・」

「説得?」

「ハイ、これです・・・」

申し訳なさそうに頭を掻きながら報告担当の男の横に新たなウィンドウが開いた。

『白鳥九十九が泣いているぞ・・・本当にこれ・・・』

「「「「おおっ!?」」」」

「月臣!?」

「月臣少佐だ!まさか生きていたとは・・・」

またもや全員が顔をしかめた。相手方に月臣がいることはさすがに予想外の事だったのだ・・・

『・・・旧木連、そして地球の勇者諸君、武器を収めよ・・・』

「我が基地上空にボソン反応!」

「何!?」

月臣の説得が続く中、クサカベの耳に不思議な報告が届いた

「(ボソンジャンプだと・・・そのためにも私は人を捨て全てのA級ジャンパーを捕らえたというのに・・・これも業か・・・)」

しかしその報告に間違いは無かった、火星の後継者たちの本拠地・・・火星極冠遺跡の上空では白い戦艦がボソンアウトしようとしていた。

「哨戒機より、映像、ナデシコです!」

「ナデシコ!・・・よし迎撃態勢を・・・」

「ウオッ!!」

本拠地の護衛艦隊が態勢を整えようとした瞬間、全てのウィンドウに『休み』『SLEEP』などのウィンドウが被さりその戦艦は機能を停止した。

「こらっ、お前ら持ち場を離れるな!」

「離れたのではない!勝手に機体が・・・」

「何を言ってい『休み』

「「わっ!!」」

「制御不能!」

「制御不能!」

「乗っ取られた・・・妖精・・・!?」

ボソンジャンプの研究所ではヤマサキが一人絶望に伏していた・・・






「相転移エンジン異常なし」

「艦内警戒体制、パターンBに移行してください」

ミナトとユキナは着々と状況報告を済ませるとルリの指示を待った。

「ハーリー君、ナデシコCのシステム、全てあなたに任せます」

ウィンドウボールを展開しながらルリはウィンドウ越しにそう伝えた。そういうルリの顔にはナノマシンの活性化による光の筋が顔に浮き出していた。

「えっ!?ぜ、全部ですか?バックアップだけじゃないんですかぁ?」

「ダメ」

そう言い切るルリの言葉に思わずハーリーは泣き出しそうになった。本人曰く話が違う・・・らしい・・・

「私はこれから火星全体の敵のシステムを掌握します。フネまでカバーできません。ナデシコC、あなたに預けます」

「で、でも・・・!!」



「甘えた分は男にならなきゃ駄目だよ・・・マキビ君・・・」



「・・・わかりました、やります!!」

その言葉を聞いたルリは軽く微笑むと自分の仕事に集中し始めた。

そもそもルリとナデシコの中枢コンピューター、オモイカネはIFSによってリンクしている。それによってルリは『火星の後継者』が占拠している極冠遺跡にあるヒサゴプランのセントラルポイント『イワト』の制御システムにリンクし、掌握したのだ。ルリはナデシコC、オモイカネと一緒になる事で敵のシステムをハッキング、掌握することができるのだ。『イワト』のシステムを掌握した今、勝敗は決した。

「かくして火星宙域の全ての敵は、ルリちゃんにシステムを掌握された・・・」

「さすがね・・・」

ナデシコに内にある一室でウリバタケとイネスは呟くように話していた・・・

「体の方は大丈夫か?」

「えぇ・・・あの子に比べたらどうってことないわ・・・

「なんだって?」

「別に・・・でもやっぱり戦艦一隻を火星まで飛ばすのはこたえたわね・・・」

「・・・そうか」

「・・・新たなる秩序か・・・」

イネスはおもむろに天を仰いだ・・・


今・・・強き意志が交錯しようとしていた・・・



つづく



後書き

どうもです〜海苔です。

ふぅ〜・・・やっと9話ですね、もう何も語りません。次回10話が一章最終話になっております。

楽しく読んでいただければ幸いでございます・・・

それではこの辺で・・・海苔でした・・・ホントに短いですね・・・





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