機動戦艦ナデシコ

〜 Endless  Story  第一章  アカキヒトミ 〜











人の心には『鬼』が潜んでいる・・・


別に恥じる事は無い・・・それは当然・・・


ただ・・・それが表に出るか、出ないかというだけで・・・


しかし・・・あの男は少し違った・・・



いつも『鬼』の面を着けながら・・・



心の中では『天使』がただ・・・




ただ・・・寂しそうに泣いていた・・・







最終話 罪を背負いし者




「皆さん、こんにちは」

突如火星の後継者たちの居る司令室にウィンドウが開いた。そしてウィンドウの先に写るルリのその一言は全ての事態を察していた・・・

火星の後継者とナデシコCの戦いは、始まると同時にルリのシステム掌握により終結・・・ヒサゴプランのセントラルポイント『イワト』により統一されていた、火星の後継者の護衛艦隊は事実上無力化。全ては呆気ないほど一瞬にして片がついたように思われた・・・

「私は地球連合軍所属、ナデシコC艦長のホシノ・ルリです。元木連中将草壁春樹、あなたを逮捕します。」

ルリの声が不気味に木霊する火星の後継者たちの司令室では既に主電源は落とされ、薄暗い部屋でクサカベは静かに目を閉じていた・・・
部屋が暗いためか全員が見つめるウィンドウは一層際立ってその場にいる幹部たちの目に飛び込んでいた。

「!!黙れっ、魔女め!」

「我々は負けん!」

「徹底抗戦だ!!」

頭に血の上っている幹部たちは心のままにルリに罵声を浴びせた。そしてクサカベは幹部たちの言葉で目を覚ましたかのように目を開け、その重い口をゆっくりと開いた・・・

「・・・部下の安全は保障してもらいたい」






「ボソン反応6つ!!」

ナデシコブリッジではユキナの声が不思議と響き渡っていた・・・

「ルリルリ!」

ユキナの報告を聞いたミナトも思わずルリの方向に首を向けた。

「データ照合・・・木連最新鋭機動兵器夜天光1機六連5機!!」

「・・・かまいません」

一瞬ユキナの報告に耳を傾けたルリは少し間を置くとあっさりとそう言い放った。

「「「「え?」」」」

ルリの言葉はブリッジにいるクルーにとってやはり信じがたいものだった。確かにナデシコと敵の距離はかなりあるがそれでもやはり要危険因子にはかわりは無いのだ

「あの人に・・・任せます!(カイトさん・・・これでいいんですよね?あの人に任せて・・・)」






数時間前 カイトの墓にて・・・

「ルリちゃんに一つお願いがあるんだ・・・」

「なんですか?」

「アマテラスにいた赤い機動兵器を覚えているかい?」

「はい。」

「・・・多分、これからルリちゃんの前にその機動兵器、夜天光が現れると思う・・・大きな壁として・・・そうしたら相手にしないで欲しいんだ。」

「えっ?」

「あっ・・・ゴメン言葉が悪かったね、正確にはアキトさんにケリをつけさせて欲しい・・・」

「!!と言うことはもしかして?」

「ユリカさんを連れ去っていった男さ・・・」

「・・・『出来損ない』・・・」

「なんだって?」

「いえ、さっきの人が言っていたんです・・・A級ジャンパーの誘拐なんて『出来損ない』で充分だって・・・」

「北辰が『出来損ない』か・・・フッ、確かにそうかもね・・・じゃあルリちゃん頼んだよ・・・これはアキトさんが越えなければいけない壁なんだ・・・」






「いいんですか隊長?」

ナデシコに最後の抵抗を試みるべく現れた北辰達であったが、部下の一人が呟くように北辰に尋ねた・・・

「ジャンプによる奇襲は諸刃の剣だ。アマテラスがやられた時、我々の勝ちは五分と五分。地球側にA級ジャンパーが生きていたという時点で、我々の勝ちは・・・」

『前方機体反応アリ』

改めて知る現在の状況に北辰は一瞬影を落としたが、モニターに映る言葉に爬虫類を想像させるような不気味な笑みを浮かべた・・・

そうした北辰たちの行動を予期していたように、一行の目の前にアキトの艦ユーチャリスが姿を現した。その艦首にはブラックサレナの姿がある、アキトもまた、決着をつけるべく火星の地に現れたのだ・・・






「これが私のエステ・・・スーパーエステバリス・・・」

ナデシコCの格納庫ではアヤが自分の乗ることになる機体の前で目を輝かせていた。

「こんな事もあろうかとってな!なんでもネルガルの格納庫に試作機として埃被ってた奴を今回のために整備したらしい!!」

アヤの隣ではウリバタケが機体の説明を着々と進めていた。

「いいか?基本的にはオマエの乗ってた量産型エステと何も変わらん!!出力系統が馬鹿みたいに高くなっただけだ!最初は違和感を感じるかも知れんが慣れっちまえばコッチのもんだ!!」

「慣れっちまえば!っていきなり実戦じゃないですか?」

「じゃあココに残るか?」

「行きます!」

そう言って明るい笑みをウリバタケに向けたアヤは颯爽とコックピットへと入っていった。

「行けるか?」

シートに着くと同時にウィンドウ越しにリョーコが現れた。その顔は覇気に満ち、アヤの一欠片の不安をいとも簡単に取り去っていった・・・

「はい!借りを返さないといけませんから!!」

「そうだったな!じゃあ・・・シッカリついて来いよ!!」

「はい!!」






そしてアキトの闘いが始まろうとしていた・・・

「決着をつけよう」

その言葉を合図に北辰たちが戦闘を開始した。夜天光と六連が一気に上昇したのだ、もちろんアキトの乗るブラックサレナもそれを追いかけるように空へと消えていった・・・

「(ユリカ・・・)」

1対6という絶望的な状況の中でアキトは変に冷静だった。六連には目もくれず確実に夜天光だけをハンドカノンで狙い撃ちしていく。しかしそこは北辰、数発被弾したが直ぐに体勢を整え、腕に内蔵されているミサイルランチャーを発射し一時間合いを取った・・・

「・・・・・・。」

もちろんアキトもその程度の事で動じるはずが無かった、ミサイルを簡単に打ち落とすと夜天光との距離をさらに縮めていた・・・そしてそんなアキトに呼応するかのようにナノマシンの活性化の光がアキトの顔に浮かび上がっていたのだ・・・






「あなたは誰?私はルリ・・・これはお友達のオモイカネ。あなたは・・・」

その時ルリは意外にもユーチャリスのシステムに交信を試みていた・・・

「ラピス」

「ラピス?」

その声にルリは一瞬戸惑った、その声は冷たくまるで機械と話しているような不思議な感覚に包まれる。しかしその時ルリは同時に感じていた、その声の奥深くにある意思のような物を・・・

「ラピス・ラズリ。ネルガルの研究所で生まれた・・・」

「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、アキトの・・・アキトの・・・」

「(ネルガルの研究所?・・・アキトさんの?この子はもしかして私と同じ・・・)」

「・・・・・・。」

その時ラピスの脳裏に忌まわしい記憶が蘇る。彼女もルリと同じく遺伝子操作技術によって生み出された少女だった。ネルガルの研究所にいたところを『火星の後継者』に拉致され、空白の時を経て、アキトと行動を共にするようになったのだ。






一方その頃アキトは圧倒的不利な条件の中で苦戦を強いられていた。

高性能を誇るアキトのブラックサレナは六連に対して軽く威嚇程度の射撃をして絶妙な間合いで夜天光の動きを追っていた。しかし敵もそれほど甘い相手では無かった、夜天光にハンドカノンによる攻撃を仕掛けると同時に六連は錫杖をブラックサレナ向けて放った。

「・・・・・・。」

『両肩装甲損傷』

六連の放った錫杖はブラックサレナのディストーションフィールドをいとも簡単に貫通し追加装甲部分に突き刺さったのだ。もちろんアキトもその程度では怯む筈が無い。しかしアキトが一瞬乱れた体勢を立て直した瞬間、夜天光は一気に間合いを詰めブラックサレナに白兵戦を仕掛けてきたのだ。夜天光が拳を繰り出すごとにアキト周りのウィンドウにノイズが走る・・・

「怖かろう。悔しかろう。たとえ鎧を纏おうと・・・心の弱さは守れないのだ!!」

北辰の声はブラックサレナのコックピットに確かに届いていた。その声を聞いたアキトは奥歯を噛み締めるが、頭の中では走馬灯のようにユリカとの思い出がグルグル回っていた・・・

楽しきナデシコでの生活・・・

嬉しかった結婚式・・・

少し恥ずかしかった新婚生活・・・

そして・・・ユリカを守れなかったあの日の思い出が・・・

そしてアキトはそんな思いを振り切るように各部のスラスターを全開にして夜天光に対して体当たりを試みた。さすがの夜天光もさすがに押され始め、ブラックサレナを振り払うように一蹴すると一旦間合いを取ったのだ。苦し紛れにアキトもハンドカノンを放つが当たる気配は無い、そして誘われるようにアキトは北辰を追って行った・・・

「隊長ォ〜〜ッ」

そんな二人を見て六連のパイロット達も追走しようとしたが、いつもそう思い通りには行かないのだ・・・

「何!?」

突然の後方からの銃撃に思わず六連はバランスを崩した。

「騎兵隊だぁ〜〜ッ!・・・男のタイマン邪魔する奴ァ、馬に蹴られて三途の川だ!」

その場にいる全員にリョーコの声が響き渡った。そして六連のパイロット達が振り返ったそこには多種多様にカラーリングされた計5機のエステバリスの姿があったのだ。

「馬その1、ヒヒン♪」

「その2のヒヒン♪」

「・・・えっ、あの・・・え〜と、とりあえずヒヒン」

そう言う声と共にリョーコの周りにヒカル、イズミ、アヤの三人がウィンドウ越しに現れた。

「おいおい、俺も馬なのかい?」

そこに新たにウィンドウが現れた、ウィンドウの先のサブロウタは明らかに呆れている、少し楽しんでいるようにも見えるが・・・

「そうそう、馬だけに・・・イズミさん?」

「リョーコはサブを尻に敷き♪」

「オッ!やるねぇ〜」

ヒカルとイズミの漫談にサブロウタが軽く微笑んで答えた。

「へぇ〜、たいちょ!・・・じゃなくってリョーコさんもやりますね〜♪」

「バカヤロー!何が尻だ!!」

そこをアヤがからかって、リョーコが赤くになりながらツッコミを入れる。これでこの5人のコント(?)は成立したのだ・・・

ところでこの5人楽しいお喋りをしているように見えるがそんな事は無い、初めてとは思えないほどの連携で既に一機の六連を落としていた・・・

「おっと」

思わずサブロウタの顔が引き締まる、六連はサブロウタのエステバリスを取り囲んでいたのだ。と言ってもこの5人普通ではない、巧みにフォローし逆に六連達が劣勢に立たされていた。

「まぁ、尻に敷くか膝枕かはその後の展開として、ねェ中尉?」

「バ、バカ!」

「お〜〜、アツイアツイ」

「いいなぁ〜私もそんな会話してみたいですね、ヒカルさん?」

「でも相手がサブちゃんじゃねぇ〜・・・」

「あ〜・・・ヒドイな〜オイ!」

「クッ。テメーら、これが終わったら覚えてやがれ!」

ここまできたらもうどうしようもなかった、戦闘の激化と共にリョーコ達の会話も花を咲かせていった。

「気をつけろ。ヘラヘラしとるがきゃつらは強い・・・クッ、くそぉッ、ム、無念・・・」

そしてさらに一機の六連が火星の大地に消えていった・・・






「ナデシコ前方に新たなボソン反応!!」

ナデシコのブリッジが凍りついた瞬間だった・・・
しかしブリッジの時間が凍りつこうが関係ない、ナデシコの面々が見つめる中漆黒に彩られた夜天光が姿を現した・・・

「また会ったな・・・ホシノ・ルリ」

現れた夜天光は直ぐに攻撃には移らなかった。何故かナデシコのブリッジにウィンドウを開いたのだ

「あなたは・・・」

この状況に思わずルリの頬を汗が伝った・・・

「・・・覚えておいてくれ・・・クサナギ・・・俺の名さ、また何度も会う事になるからな・・・」

「クサナギ・・・(この人がカイトさんを変えてしまった?)」

「そう、クサナギ・・・忘れるなよ・・・」

そう言ってクサナギは笑った・・・ブリッジクルーの背筋を凍らせる笑いを・・・

「・・・それにしても遅いなアイツは・・・待ってるんだろ?」

「!!」

「図星か?・・・まぁしょうがない沈めるか・・・!!」

そう言い残すとクサナギはウィンドウを閉じた・・・

「うおおおおぉぉぉー・・・」

叫び声と共に現れたのはサブロウタのスーパーエステバリスだった。ボソン反応が確認された時点でサブロウタはこの場所に急いでいたのだ。

スーパーエステバリスはレールカノンで上空から夜天光を強襲した、しかしクサナギも馬鹿ではない。あっさりと弾丸を避けるとアマテラスの時のようにその機動力を生かし間合いを詰めてきたのだ・・・

「(射撃による攻撃はほぼ無意味・・・かといって接近戦は向こうに分がある・・・あの時の借りを返したいが、今はその時じゃないよな)」

サブロウタは熱くなる頭を理性によって押さえつけていた。そして一つの結論に達する・・・

「しょうがねぇなぁ〜・・・気は乗らないがアイツのための時間稼ぎでもしてやるか・・・」

戦いには色々ある・・・この状況もその中の一つである。逃げ腰の者を追う戦い・・・この戦いは意外にもてこずってしまうのだ、それが例えクサナギと言えど・・・

「フッ・・・ちょこまかと・・・」

クサナギが思わずぼやいた、しかしそれは当たり前のことなのだ。元々勝つ気の無いサブロウタは絶妙の間合いで夜天光を牽制・・・さすがのクサナギもそこまでされると攻め倦んでいた。

「(今の所は順調・・・しかしどこまで持つか・・・)」






「おい!アヤ!!コッチはいいからサブの援護に行ってやれ!アイツでもそうは持たない!」

「・・・はい!!」

そう言ってアヤは目の前の六連を一蹴するとスラスターを全開にしてサブロウタの元に急いでいった・・・






「・・・そこのエステのパイロットなかなか良い腕だ・・・しかしさすがにもう飽きた」

ここでクサナギは意外な行動を起こした・・・なんとサブロウタに交信してきたのだ。

「(コイツが・・・)だったらどうするんだい?」

「終わりにしよう・・・」

「!!」

ウィンドウに映るクサナギが笑った瞬間だった・・・消えたのだ・・・忽然と・・・

「ボソンジャンプ!?」

サブロウタは一つ完全に忘れていた・・・正確にはそこまで頭が回らなかったとでも言うのだろうか、とにかくサブロウタはクサナギがA級ジャンパーと言う事を忘れていたのだ・・・

「(どこだ・・・どこにいる・・・どこに消え・・・)!!」

「さよならだ・・・そこそこ腕の良いパイロット君・・・」

突如としてスーパーエステバリスの真後ろに現れた夜天光は手に持つ錫杖を振りかぶるとサブロウタ目掛けて振り下ろしてきた。

「(や、やられる・・・)」

「待ちなさ〜い!!」

ここで間一髪アヤが間に合った、手に持つラピッドライフルを牽制目的で放った・・・

「チッ・・・」

クサナギもアヤの突然の出現に手元が狂った。錫杖はスーパーエステバリスのコックピットを貫く事は無い・・・しかし錫杖は確実にスーパーエステバリスに致命傷を与えていた。

「大丈夫ですか?サブロウタさん!!」

「あ、アヤちゃんか?助かったぜ・・・でもワリィこれ以上は持ちそうない」

そうアヤに言い残すとサブロウタの乗るスーパーエステバリスは力無く落下していった・・・

「サブロウタさん!!」

地面に落下したスーパーエステバリスは動く様子も無くただそこに埋もれていた

「・・・救難信号が出てる・・・ふぅ〜とりあえず生きてる・・・」

そしてアヤは前方に佇む黒い機動兵器と向き合った・・・

「かかって来なさい!そこの黒い人!!」

「・・・はぁ〜・・・疲れる連中だ・・・まぁ今度は全力で行かせてもらう」

夜天光のコックピットにアヤの明るい声が響き渡ったが、クサナギの持つ空気はそんな明るい空気も弾き返した。

「!!・・・(怖い・・・この人の持つ空気は一体?)」

アヤは驚愕した、目の前にいる機動兵器が放つ只ならぬ殺気に・・・少なくともアヤには今までサブロウタと戦っていた人間と同一人物とは思えなかった。

「でも!!」

そんな思いを振り払うように、アヤは果敢に攻撃を仕掛けたのだ。

ラピッドライフルを乱射して間合いを計る・・・しかしこの時点でアヤの負けは確定していた。アヤの腕は悪くないむしろ良いくらいだ、しかしアヤはこの相手に対する戦いを間違えたのだ・・・

「嘘・・・」

夜天光は飛び交う弾丸をいとも簡単に避けながらアヤのスーパーエステバリスの上空に移動したのだ。

「クッ・・・」

アヤは必死に機体を制御したが既に遅かった・・・目の前に迫っていた夜天光はアヤをあざけ笑うかのようにスーパーエステバリスを一蹴した・・・

「キャ・・・」

ズドォォォ―――ン

さすがにどうする事も出来ずスーパーエステバリスは地面に叩きつけられた。その時アヤに出来た事と言ったらスラスターを地面に向けて噴射し地面への衝撃を和らぐ事ぐらいだったのだ・・・

「うっ・・・」

機体を制御しようとするアヤだったがスーパーエステバリスは思うように動きはしなかった・・・そして・・・

「楽しかったよ・・・お嬢さん」

目の前に降り立った夜天光は高々と錫杖を振りかぶった・・・

「んッ・・・」

アヤもたまらず目を閉じた・・・しかし夜天光の動きが止まることは無い・・・

「アヤァ―――――ッ!!」

リョーコの叫びもここでは悲痛な叫びにしかならなかった・・・

「(もう一度・・・あの人に会って見たかったな・・・)」

『ボソン反応確認』

「「「「「エッ!!」」」」

そのウィンドウが表示されたのと錫杖が振り下ろされたのはほぼ同時だった・・・

ガシッ・・・

「オマエの相手は・・・僕だ・・・」

その声は全員の耳に確かに届いた・・・そして錫杖を掴むアンスリウムの姿が現れたのだ・・・

「大丈夫ですか?」

カイトはアヤにとウィンドウを開いた・・・

「・・・はい」

頬を軽く赤くさせながらもアヤは言葉を返した・・・そしてその答えにカイトは微笑むと・・・

「さぁ・・・始めようか、クサナギ」

「あぁ・・・また『あの時』と同じ思いをさせてやるよ・・・『大切な人を守れなかった』思いをなぁ!ミカヅチ!!」

その言葉を合図に二人の機体は一気に急上昇した・・・

「(カイトさん・・・)」

その光景に思わずルリも胸のペンダントを握り締めた・・・この時点ではルリのシステム掌握も一段落していたのだ。

「クサナギ・・・オマエは何を考えている?」

「何も・・・なわけは無いよな・・・覚えているかミカヅチ?俺たちの最初で最後の『任務』を・・・」

「あぁ・・・!!・・・も、もしかしてオマエ?」

「フフッ・・・それ以上は内緒・・・」

「なら実行に移す前に・・・消す!!」

「やれるかな『甘チャン』のオマエに・・・」

「やるさ・・・必ずな・・・」

この二人・・・余裕綽々と話しているが、その戦いは想像を越えていた・・・全ての攻防は熾烈を極め、まさに一進一退とでも言うような戦いだった・・・

カイトの乗るアンスリウムは左腕のハンドカノンで牽制し右手に持つフィールドランサーUで一撃必殺の機会を伺い、クサナギの乗る夜天光は弾丸を全て紙一重でかわしミサイルランチャーを煙幕代わりに一撃離脱を繰り返していた・・・

「思い出すなぁ〜・・・『あの時』の勝利の美酒は甘美の味がしたよ・・・」

「なら今度は僕がその勝利の美酒を味わらせてもらうさ!」

「フッ・・・立派だよ・・・立派」

「・・・?」

「あの時代・・・俺たちは何かを壊すためだけに動いてきた・・・それが今はどうだ?オマエはあの船を・・・仲間を・・・そしてあの女を守るために戦っているのだから・・・」

クサナギは微笑みながらカイトを皮肉った・・・しかしカイトは全く動じる様子は無い・・・

「守る?・・・勘違いするなよクサナギ・・・僕は自分のため意外に戦った事はただの一度も無い!!」

「じゃあオマエは今何のために戦っている?」

「『復讐』さ・・・僕を『壊す物』だと言ったのはオマエだろが!!」

「フッ・・・上等!!」


この二人の戦いが盛り上がっていく中・・・もう一つの戦いが終わりを告げようとしていた・・・






今、火星の地にアキトと北辰の機動兵器が距離を置いて立っていた・・・

「よくぞここまで・・・人の執念、見せてもらった」

夜天光のコックピットで北辰は呟いた・・・

「勝負だ!!」

「・・・・・・。」

この時二人にはそれだけの会話しかなかった・・・アキトも北辰もただ一人の男としてこの場にいたのだ・・・
そしてアキトは両腕部に装備されたハンドカノンを収容して拳を構えた・・・

「抜き撃ちか?笑止」

そう言った北辰だったが手に持つ錫杖を放り捨てるとアキトと同じように拳を構えた・・・

「「!!」」

二人は同時に加速した・・・二人の距離が急速に縮まり始め・・・そして・・・

グシャッ・・・

先に攻撃が当てたのは北辰だった、繰り出した拳はブラックサレナの装甲に埋もれていく・・・しかしアキトも体勢を整えて夜天光のコックピット部分に拳を放った。

「ゴプッ・・・見事だ」

勝負は決した・・・北辰の拳はブラックサレナの追加装甲に阻まれコックピットには届かず、一方アキトの拳は確実に夜天光のコックピットに突き刺さっていた・・・

「ハァハァ・・・テンカワ・アキトよ・・・一つ忠告をしてやろう・・・ガハッ!・・・『アカキヒトミ』の男に気をつけろ・・・必ず人に仇をな・・・」

そこまで言うと北辰は逝った・・・最後は『火星の後継者』としての潔さを持ちながら・・・

「ハァハァ・・・ハァハァ」

『装甲排除』

『フィールドジェネレーター強制排除』

『システム再構成中』

ブラックサレナのコックピットに幾つものウィンドウが開き、アキトのエステバリスカスタムを覆っていた追加装甲が落ちた・・・

「(赤い瞳・・・カイトの事なのか?)」

そして今この場を持って・・・アキトの『復讐』は終わりを告げたのかもしてない、北辰の死で・・・

「カイト・・・こっちは終わったぞ!おまえは・・・どうだ?」

アキトはコックピットのハッチを開け・・・青く澄み渡る空に向かって呟いた・・・






「ここで終わりにしてみせる!!」

一方カイトとクサナギの勝負も最高潮に達しようとしていた・・・

「あぁ、そうだな貴様の相手をするのは少々疲れる・・・」

そう言うとクサナギは急加速でカイトへと迫ってきたのだ・・・

「!!」

咄嗟に身を捻って夜天光をやり過ごすと、夜天光の背後に向けハンドカノンを放った・・・

「甘い・・・」

まるで後ろに目があるかのような神がかり的な回避能力をクサナギは見せ付けてきた・・・しかしカイトも普通ではない、このハンドカノンのよる射撃は全て先を読んだ行動だったのだ・・・

「何っ!!」

今度はクサナギが驚く番だった・・・ハンドカノンを放ったアンスリウムの姿が忽然と消えていたのだ・・・

「味な真似を・・・」

クサナギは全神経を集中させカイトのボソンアウト地点を見極めようとしていた。

「そこかぁ!!」

何かを悟ったようにクサナギは何も無い空間を横殴りにした。

ガキィィ――ン・・・

アンスリウムはクサナギの予想通りの場所に現れた・・・しかしカイトという男・・・『読み』と言う部分では完璧にクサナギを上回っていたのだ。

「終わりさ・・・クサナギ・・・」

クサナギの錫杖による攻撃はアンスリウムによって受け止めれていた・・・

「チッ・・・機体の差がここで出たか・・・」

確かにクサナギの言うとおり、もし機体の性能がクサナギのほうが上回っていたならば先ほどの錫杖の攻撃で終わっていたのかもしれない・・・しかしこの戦いは・・・

「終わりだー!!」

「しかし!!」

ここでクサナギがまたもや神がかり的な回避能力を発揮したのだ、アンスリウムのフィールドランサーUによる攻撃を避けきれないと判断したクサナギは咄嗟に身を捻り、左腕を犠牲にする事により撃墜の危機を回避したのだ。

「・・・クッ・・・邪魔だ!!」

苦し紛れに夜天光はアンスリウムを一蹴した。さすがにカイトも体勢を崩されクサナギに距離を置かれてしまったのだ。しかし相手は既に致命傷を負っている、それは外から見たカイトが一番わかっていた。

「ふぅ〜・・・今回は俺の負けだな・・・フッ・・・よくやったよ!ミカヅチ・・・あぁ・・・それと『リン』は元気かな?」

「!!何故オマエが名前を知っている?」

「はぁ?俺がつけたからに決まってるだろ・・・」

「しかしあの子は『あの時』まだ目が覚めていなかったんだぞ・・・」

「・・・じゃあ名前の由来も知らないだろ?・・・rin・・・俺がruinと言う単語を文字ってつけたんだ・・・」

「じゃ、じゃあ・・・」

「ruin・・・意味は・・・破滅・・・」

「・・・・・・。」

「さて、今回はここまで・・・じゃあな・・・」

その言葉は一見無謀にしか聞こえないがクサナギが言うと意味は変わってくる・・・なぜならボソンジャンプという手段が残されているのだから・・・

「・・・確かに今の僕にはオマエを止める手段は持たない・・・しかし覚えておけクサナギ・・・僕の心には『牙』がある、何者にも屈しない強固な『牙』が・・・貴様がどこへ逃げようが、何をしようが必ず見つけ出して貴様の喉を食いちぎってやる!!」

「フッ・・・さっきも言ったろ上等だと・・・」

その言葉を聞いた瞬間、カイトのアンスリウムは急加速し夜天光を一閃した・・・しかし手応えは感じられない・・・カイトは直ぐにクサナギの逃亡を悟った・・・

「まだだ・・・まだ・・・終わらない・・・そして・・・」

そこで何を思ったのかカイトはアンスリウムの機動力を使い、ある地点へと飛んで行った・・・






その後・・・リョーコ達と交戦中だった六連は逃亡・・・さらに火星の後継者の本部では着々と各部屋が制圧されていった・・・もっとも抵抗する者などいなかったのだが・・・






「さて・・・決まりましたか?アキトさん・・・」

突然アキトの前にウィンドウが開いた、その先にいるカイトは少し安心しているかのような顔をしている・・・

「何がだ?」

アキトはこの時点で遠方から近づいてくるカイトのアンスリウムを発見した。

「帰るか・・・帰らないかですよ・・・」

「カイト・・・俺は・・・」

アキトの言葉にカイトは思わず苦笑した・・・

「覚えてますか?引っ張ってでも連れて帰るといったことを・・・」

「あぁ・・・」

「なら、やりましょうか?・・・」

「・・・フッ・・・わかったよ、しかしカイト約束しろ・・・」

「なんです?」

「俺が勝ったら・・・お前が戻れ!」

「えぇ・・・そのかわり僕が勝ったら・・・」

「わかってるさ・・・」

「じゃあ・・・」

「「勝負!!」」






「なんで男の人って馬鹿が多いんですかねぇ〜」

「さあな、でもいいんじゃねえか?なんか・・・楽しそうじゃねぇか、あの二人・・・」

無事救出されたアヤやサブロウタを含めたパイロットの面々がアキトとカイトの戦いを静かに見守っていた・・・






「全く・・・なんで素直に戻ってくれないんですかこの分からず屋!

「うるさい!頑固なお前に言われたくないぞ!!」

「あなたの方が頑固でしょ!!全く・・・みんなの事も少しは考えてください!」

「おまえこそルリちゃんの事を考えて戻れ!!」

「・・・・・・。」

「カイト?」

「・・・隙アリ!!」

呆気ないほど簡単に勝敗は決した・・・カイトの勝利で・・・

「卑怯だぞ・・・」

「何故ですか?公平を期すために僕も追加装甲を排除してエステで戦っているのに!」

「俺が言っているのはそう言うことじゃ・・・」

「ラピスちゃんはどうするんですか?」

その瞬間カイトの顔が引き締まった・・・

「!!」

「わかってたんでしょ?最初っから・・・」

カイトの顔に笑みが戻った。

「カイト・・・」

「とりあえずユーチャリスへ行きませんか?色々積もる話もありますし・・・」

「あぁ・・・わかった・・・」

そう言葉を交わす二人はユーチャリスのハッチ部分に吸い込まれていった・・・






そして一方ルリたちは・・・

「・・・カさん」

「ユ・・・カさん」

「ユリカさん!!」

「あれ?・・・みんな?」

ルリたちはついにユリカの救出に成功していた・・・遺跡と分離を果たしたユリカはみんなの呼びかけにゆっくりとその目を開けたのだ。遺跡との結合で仮死状態になっていたユリカは何事も無かったかのように辺りを見回した・・・

「・・・・・・みんな、老けたネ」

目覚めて早々ユリカのボケが炸裂した・・・

「「「「フ〜〜〜〜・・・いつものボケだ・・・」」」」

その時全員が胸を撫で下ろしたのは言うまでも無い事だろう。それほどみんながユリカに対する思いが強かったのだ・・・

「私、ずっと夢見てた・・・アキト・・・アキトはどこ?」






「さて!これから少し説明しますよ!!」

ユーチャリスの格納庫でカイトはアキトとラピスの前で演説じみた事を始めたのだった・・・

「とりあえずアキトさん、そしてラピスちゃん!二人にはこの後遺跡内部に行ってもらいます、そしてユリカさん・・・多分今ごろ救出されていると思いますが・・・とりあえずユリカさんと一緒に火星の後継者によって拉致されて・・・そして『今』救出されたことにします。」

「そこまで考えていたのか・・・」

「そしてこの艦は僕が貰いますのであしからず・・・」

「そんなことしたら・・・わかっているのか?」

「コロニー襲撃事件の犯人は僕になりますねぇ〜」

そう言ってカイトはアキトに向けて笑みを浮かべた。

「やめろ!!やはり俺が残る!」

「アキトさん勝負は勝負!僕が勝ったんですよね?」

「しかし・・・」

「しかしもだってもありません!!ラピスちゃんの事も考えてください!」

「ラピス・・・。」

「さて説明はもう終わりです!ほらほら早くラピスちゃんを連れてジャンプしてください!」

カイトはアキトに近づくとCCを手渡した・・・

「カイト・・・いいんだな?」

「はい・・・しかしお願いがあるんですが?」

「俺に出来る事だったら言ってくれ!」

「・・・え〜とですね、ネルガルの本社にリンちゃんという子がいるんですが、その子を守ってもらいたいんです・・・とっても良い子ですから!」

そのときカイトはまるで我が子を自慢する親のような笑顔をアキトに向けた。

「リン・・・ちゃんだな?わかった・・・しかし・・・」

「しかし?」

「一年だ!それ以上はその子の思った通りにさせる・・・だからそれまでには帰って来い・・・」

「・・・えぇ・・・それとこの『手紙』をルリちゃんに渡してください・・・」

その言葉通りカイトはアキトの前に封筒を差し出した・・・

「わかった・・・確かに渡そう・・・」

「さて!じゃあ行ってください、僕も行かなきゃいけませんし・・・」

「・・・わかった・・・なら俺もお前にこれを渡しておくよ」

アキトは小さく折りたたまれた紙をカイトに差し出した。

「これは?」

「テンカワ特製ラーメンのレシピだ!今度会うときまでに練習しとけ!!」

「・・・ハイ!」

カイトはそのレシピを大事そうに握り締めた・・・

「じゃあ、行くよ・・・ラピス!」

ラピスがアキトに張り付くのと同時に二人はボソンの光に包まれ始めた・・・

「じゃ・・・」

「また・・・会おう!」

簡単に別れを告げると二人はカイトの前から姿を消した・・・

「さてと・・・忙しくなりそうだなぁ〜」

様々な思いを振り払うように伸びをするとカイトはゆっくりブリッジに向かって歩いていった・・・

その後・・・誰にも見られることなく・・・カイトの乗るユーチャリスはボソンジャンプしていった・・・






『ボソン反応確認』

ユリカを取り囲むクルー達は思わずそのウィンドウに息を飲んだ、そして次第に浮かび上がってくるアキトとラピスの姿・・・

「アキト!!」

この場で一番最初に声を出したのはやはりユリカだった。その目には涙が溢れ・・・その場にいる全員の涙を誘った・・・

「アキトさん」

「テンカワ!」

様々な懐かしいクルーがアキトに声をかけた、その声は暖かくアキトの心を和ませていく・・・

「ユリカ・・・」

アキトはユリカの前で跪くとゆっくり・・・そして確かにユリカを抱きしめた・・・

「痛いよ・・・」

そう言うユリカだったが、微かに震えるアキトを優しく包み込んでいた・・・アキトも感じている事だろう、ユリカの大切さを・・・暖かさを・・・

「アキトさん・・・」

その二人に水を差すようにルリが声をかけた・・・本人としてもここで声を掛けたくは無かった・・・しかしルリは自分の本能を止める事は出来なかった・・・

「ルリちゃん・・・」

そしてアキトも何かを思い出したように立ち上がるとゆっくりとルリの前に立った・・・

「あの・・・カイトさんは?」

「ゴメン・・・俺にはアイツを止める事は出来なかった・・・」

「そう・・・ですか・・・」

アキトの答えにルリは思わず俯いてしまった・・・わかっていた答え、しかしその言葉はルリに重くのしかかった・・・

「カイトからの預かり物があるんだ・・・」

アキトはルリの前に封筒を差し出した・・・

「・・・・・・。」

ルリはゆっくりとその封筒を受け取ると封を開け・・・手紙の内容を一読した・・・




「・・・馬鹿・・・」




その一言がこの事件の終焉を告げていた・・・



エピローグへ



後書き

ども海苔です・・・

終わった・・・

でもエピローグが残ってますよ〜(^▽^)

それではこの辺で・・・海苔でした・・・





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