機動戦艦ナデシコ
〜 Endless Story 第一章
アカキヒトミ
〜
第6話 アカイナミダ
火星極冠遺跡
「何がどうなっている?」
「イメージ伝達率、下がっていきます!」
「ノイズが大きいぞ」
「どうしようもないのか?」
「ナビゲータのイメージングを中止させろ!」
「メインシステムに逆流」
「はぁ〜・・・またかよ・・・」
「回路をすべてシャットだ」
「中断だ、中断!」
火星の後継者の本拠地、火星極冠遺跡ではアマテラスで回収した『遺跡』の扱いに今でも苦戦していた。遺跡に融合されたユリカを通してナビゲーターのイメージを遺跡に伝えようとしているのだが、この研究だけは今だ平行線だった。
「あ〜、相変わらずご機嫌ナナメですねぇ」
「さすがお姫様は気難しい・・・ところでタカハシ君?」
極冠遺跡の一角にある研究室でヤマサキとタカハシと呼ばれた男は話し合っていた。お互い白衣に身を包み、一つ上のランクにいる事を印象付ける・・・
「なんですか?博士」
「君はノイズの原因をなんだと思う?」
「原因ですか?・・・私的な風に言うと『夢』みたいなものじゃないかと?」
「『夢』・・・その考えもあるねぇ・・・んっ・・・『夢』か・・・フフフッ・・・もしかしたらいけるかもしれないよ?タカハシ君!」
「なにがです?」
「ボソンジャンプ・・・」
ある考えがヤマサキの頭に閃いた時、ヤマサキは一瞬本性を見せるような笑みを浮かべた
第十三番ターミナルコロニー『サクヤ』
地球の人々が眠りについているであろうその時、統合軍は火星の後継者によって制圧されたターミナルコロニー『サクヤ』を奪回すべく、大艦隊を持ってサクヤ攻略戦を展開していた。
「何としてでも抑えるんだ、もう少しだ、もう少し!」
「統合軍の包囲網、さらに狭く!」
「マジン部隊、全滅!」
圧倒的火力の前にサクヤの防衛ラインは易々と突破され、サクヤ司令室では司令官の耳に届く吉報は無かった・・・
「耐えるんだ・・・味方が来る!!」
「敵の損耗率、50%を突破!我が方は損耗率3%」
「フッ・・・順調だな」
統合軍側ではオペレーターの報告に司令官が笑みを浮かべた。
「先ほど『クシナダ』も落ちたそうです・・・」
「そうか・・・よし、降伏勧告を出せ!」
「ボソン反応増大!!」
「何!!」
艦内が揺れたと感じた瞬間、辺りにウィンドウが幾つも開いていった
『被弾』
『敵機ボソンアウト』
『ボソン反応多数』
『機関室損害甚大』
「何が起こっているのだ!!」
司令官が困惑しながら目撃した物、それは対艦ミサイルを搭載した新型機動兵器が次々と味方の戦艦を打ち落としていく光景だった。
「ぜ、前方にボソン反応!!・・・や、やられます!!」
火星の後継者側の意外な伏兵の存在により、統合軍の隊列は乱され、圧倒的な数を誇っていた戦艦もいつのまにか数えるほどになっていた統合軍はその場から退却する事しかできなかった。
後に言う『サクヤ攻防戦』である、そしてこのサクヤ攻防戦は火星の後継者にとって大きな一歩になった事は言うまでも無いだろう・・・不可能とされたA級ジャンパー以外の長距離単独ボソンジャンプの成功例として・・・
「「「「「おお〜〜っ」」」」
その様子を見守っていた火星の後継者の幹部達は余りの出来のよさに感嘆の声を出した。
「ぶい」
それを察したようにウィンドウを通じてヤマサキが幹部達の前に現れた
「おめでとう、ヤマサキ博士」
ヤマサキの向かい側に座っているクサカベは素直な感想を口にした、その口調は火星の後継者の指導者らしく威厳と尊厳に満ちている
「フフ」
「これは大成功と受け取っていいのかね?」
「はい、イメージ伝達率98%、これによりイメージ通りの場所に飛べますよ」
「そうか」
ヤマサキの言葉にクサカベは微笑んだ、といっても顔には表れてはいないが・・・
「今回の成功のカギはズバリ『夢』と『愛』です!」
「「「「『夢』と『愛』?」」」」
その場にいる全員が息をそろえて復唱した、よく分からないところで息が合っている・・・
「わかりやすく説明してもらおうか、ヤマサキ博士・・・」
「はい、簡単に説明しますと、今までの失敗の原因が人間翻訳機であるミスマル・ユリカの出すノイズの為だったのです。」
「だからどうしたというのだ・・・」
「ならばノイズを跳ね除けるだけの強力なイメージで対抗しようと、当初我々は考えていました。」
「「「「・・・・・・。」」」」
「しかし、そこが大きな間違いだったのです・・・ミスマル・ユリカの出すノイズ、それはズバリ『夢』です!・・・ならばその『夢』をコントロールできればいいのではないかと考え、従来のイメージにラブラブな感じをミックスしたのです。すると結果は・・・」
「先ほどのボソンジャンプというわけか・・・」
「まさに我々、技術班の勝利!!」
ウィンドウの先でヤマサキが微笑んだ・・・
宇宙軍・宿舎
カポー――ン
そこは宿舎ご自慢の女子大浴場、今一人の少女が湯船につかっていた・・・
「星のきらめきは人の想い・・・そう教えてくれたのあなたでした・・・」
「星がきれいだね・・・ルリちゃん・・・」
「はい、とっても・・・」
その時、二人は川辺の草むらに座っていた・・・
アキトのラーメン屋がネタ切れのため、その日はいつもより早く二人は仕事を上がっていたのだ・・・
「星はなんであんなに綺麗に見えるんだろうね・・・」
「えっ・・・」
「昔こんな事を聞いた事があるんだ・・・星のきらめきは人の想い・・・想いの強い星は強く輝き・・・想いの弱い星は弱く輝く・・・だから星はあんなに綺麗に光るって・・・」
「カ、カイトさん・・・昔って思い出したんですか?」
「・・・あっ、あれ・・・そういえば、なんでこんな事いったんだろう・・・?」
「じゃあ記憶は・・・?」
「・・・戻ってない・・・」
「・・・・・・カイトさん、このままだと風邪引いちゃいますよ、そろそろもどりましょ?」
そういって立ち上がったルリはカイトに手を差し伸べた・・・
「そうだね・・・帰ろっか!」
カイトも笑顔でルリの手を取った、思わず赤くなってしまうルリだったが二人はそのまま手を繋ぎながら帰路についた、ふとルリが横を見るとカイトもほんのり頬が赤くなっている・・・その横顔につい手を握る力が強くなってしまうルリだった・・・
「なぁ、ミカヅチ・・・星のきらめきが人の想いなら、太陽は誰の想いなんだろうな?」
「お待たせ・・・」
その後お風呂から出たルリは『用がある』と言っておいたハーリーに声をかけた
「い、いえ・・・」
そして二人は特に何事もなく、ルリの部屋に向かった。
「はぁ〜〜・・・」
ハーリーは手に持つフルーツ牛乳を飲み干すと一人、ルリの部屋にいるという事実に感動していた。
「マキビ・ハリ少尉」
「はいっ!」
辺りをコソコソ見回していたハーリーはルリの声に思わず背筋を伸ばした
「明日午前八時、長距離ボソンジャンプでネルガル月工場に直行、ナデシコCの最終チェックをしてください」
「月ですか?チューリップは使えませんよ?」
「A級ジャンパーのナビゲーションによる単体ジャンプです」
「え!?」
「シャトルでの移動は敵の狙い撃ちにあうから、これが一番安全です・・・・・・オモイカネをよろしく・・・」
その後ハーリーの頼みでルリとハーリーは手を繋いで寝たという・・・これがハーリーの『甘え』だったのだろう・・・
都内某所 ゲームセンター
「フルーツバスケット!」
「ぁぁぁ・・・」
ナチュラルライチの必殺技が炸裂した瞬間、リョーコは低いうめき声を上げた・・・
「やりぃ!!」
リョーコの姿を一瞥した後、ヒカルは勝利に酔いしれた・・・
「もう一回!もう一回勝負だ!」
「ハイハイ、何度でも!ゴリゴリリョーコなんて楽勝だもんねーっ!」
「うるせー!!行くぞ!コンチクショウ!!」
「ハイハイ」
そう言っては二人はゲームの画面に集中した・・・
「いいのですか、これで?」
二人の後ろで見守るように立っていたゴート・ホーリーは横に立つプロスペクターに話しかけた、やはりゴートもかつてのナデシコに搭乗していた人だが、他の人とは少し違う意味合いで乗っていた、ナデシコのクルーというよりもネルガルの社員として・・・
「えぇ。いかなヒカルさんといえど、2年のブランクは長い。短期間での効果的かつ実践的の体感シュミレーションとして、このゲームはまさに最適!」
「コノヤロ〜!軍人さんの真の力見せてやるからな!」
「ホ〜イ・・・頑張ってねぇ〜」
「コノヤロ〜」
一分後・・・
「うわぁー、やられたよ・・・もう一回!!(次こそ、ぶっ倒してやる!)」
「ホホホッ、よしよし・・・(次も、もらった・・・)」
「それにしても、ヒカル君は凄いですね・・・」
「いやいや、まだまだ昔の6割・・・」
「まだ、6割ですか?」
「えぇ・・・あのバケモノたちと対当に戦ってもらわないことには・・・。奴らの動向は掴めましたか?」
その瞬間プロスペクターの顔から余裕が消え厳しいものになった。
「いえ・・・。しかしこの日本にいるのは確かです。奴らの目的はただ一つ」
「フム・・・・・・・・・おぉ」
プロスペクターは店の入り口に立つ人を見つけ、思わず顔に笑顔が浮かぶ。
ボロ〜〜ン
「ブランク・・・長いです・・・。」
イズミはそう告げると店の奥に入っていった・・・
「これで全員揃いましたか?」
「実はもう一人・・・いるんですよ・・・」
その言葉を聞き思わずゴートはプロスペクターの方に顔を向けた
「そろそろ来てもいいんですが・・・」
「ごめんなさ〜い!!遅刻しました〜!」
赤毛の女性は入ってくるなり、深々と頭を下げた。
「いえいえ、いいんですよアヤさん、ちょうど今揃ったところですので・・・」
プロスペクターはアヤに近づくと優しく声をかけた。
「あぁ〜それとあそこにいるのは、イズミさんと言う方なんですが、相手をしてあげてくれませんか?」
「なんのです?」
「ココはどこですか?」
「ゲームセンター!」
ネルガル本社
「ふ〜・・・やっと着いたね」
「・・・うん・・・」
二人は部屋に入ると同時にベッドに座り込んだ
「・・・疲れた・・・」
「ハハハッ・・・確かにね!・・・あっ!そうだリンちゃん、お腹減ってない?」
「・・・減った・・・」
「・・・そうだよね、さっきのお店で全然食べてなかったもんね!」
「・・・うん・・・」
「じゃ、頑張って作るとしますか!」
カイトは一気に立ち上がった、そして軽く伸びをするとキッチンに入っていく。
「・・・・・・。」
カイトはキッチンに入ると、テキパキと準備を整えていった
「準備よし!っと・・」
「お兄ちゃん・・・」
「なに?」
「・・・さっきのお姉ちゃんも呼んで上げて・・・」
それはカイト以外の人に対するリンの初めての優しさだったのかもしれない、少し前まではカイト以外の人と喋ろうともしなかった人間には見えなかった。
「・・・そうだね!・・・ちょっと待ってて。」
そう言うとカイトもコミュニケを操作してユウキを呼び出した。
「ん〜・・・カイトか、どした?」
どうやらユウキは本社に戻ってからすぐに仕事を始めたらしい、別れたばかりだというのにその顔はオイルで汚れている。
「あっスミマセン、もう仕事始めてたんですね?」
「あぁ・・・帰ってくるなり他の奴らに怒られっちまったよ。・・・で、何のようだ?」
「あぁ、リンちゃんがユウキさんをご飯に誘ってくれって!」
「・・・・・・ワリィ、今回は遠慮しとくわ!あれだけ大量に食ったし、なにより仕事が山積みなんだ・・・」
「そうですか・・・それじゃあ仕方ないですね、リンちゃんにも伝えておきます。」
そう言ってウィンドウを閉じようとした瞬間、ユウキが引き止めた。
「あっ、カイト、リンは近くにいるのか?」
「はい・・・変わります?」
「おう、頼むよ!」
「リンちゃん、ユウキさんがリンちゃんに言いたいことがあるんだって・・・」
「・・・なに?・・・」
そう聞き返すリンの前にカイトがウィンドウを開いた
「よっ!!」
「・・・あっ、さっきの・・・」
言い方はいつもと変わらないが不思議と喜んでいるようにカイトは感じた
「さっきのはヒドイなぁ〜俺にはユウキって言う名前があるんだぜ。」
「・・・ユウキ?・・・」
「そっ・・・って最初会った時にも言ったろ!」
「・・・言ってない・・・」
「あれ?そうだっけ?・・・まぁいいや、とにかく今から一緒に飯は食えねぇんだ、ごめんな!」
ユウキは軽くウインクすると一言付けたした
「暇になったらいつでも遊びに来いよ!いつでも遊んでやるからな!!」
「・・・うん・・・」
寂しげな表情だったリンの顔にまた喜びの色が現れた
「じゃあな!!」
「・・・じゃ・・・」
潔く一言、言うとウィンドウを閉じた
「残念だったね・・・」
「・・・遊んでもらうからいい・・・」
「・・・そうだね!」
カイトの顔に笑みが浮かんだ、本人は自然と浮かんだのかもしれないが、きっとリンの成長がうれしかったに違いなかった。
「な〜んて言ってる間に完成!」
フライパンで炒めていたものを皿に移すと皿を手にテーブルに歩いていった、もちろんその後ろにはトコトコとリンがついている
「さっ!特製チャーハンのお待ちどう!」
カイトは自分の前と向かい側に座るリンの前に皿を置いた
「・・・・・・おいしい・・・」
目の前に置かれたと同時にリンは手に持つスプーンでチャーハンを口の中に放り込んだ
「・・・。」
「(・・・・・・ホント、今が大変な時だって忘れちゃいそうだよ・・・早く・・・帰りたいな、みんなの元に・・・ルリちゃん・・・)」
ゲームセンター
「ホントによかったのか、コッチに来ても・・・」
「ヒッド〜イ・・・プロスさんの話では、隊長の推薦だって言ってましたよ!」
ゲームセンターの中でリョーコとアヤは缶ジュースを飲みながら話し合っていた、そのすぐ近くではヒカルとイズミが勝負に明け暮れている。
「甘い、甘い!!」
「きぇぇぇ〜〜〜〜」
こんな調子で・・・
「お前の腕は俺が保障するし、このまま何も知らないのと、知ってて見過ごすのでは違うと思ってな・・・」
「・・・その通りです、隊長!やられっぱなしだと居心地が悪いですもん、だから来たんです!」
アヤは拳を握り締めて語った、それほどアマテラスでの敗北はアヤの心に残っていたのだ。
「おいおい、隊長はもうやめてくれよ!」
「エッ!・・・じゃあ何て呼べばいいんですか?」
「リョーコでいいぜ!」
軽くジュースを飲みながら答えるリョーコにアヤは明らかに動揺した。
「リョ・・・リョーコ・・・さん」
「なんかぎこちないけど、まっ好きに呼んでくれ!」
「は、はい!」
このときアヤは「何かシックリこないなぁ〜」なんて思ったが、そんなことよりも頭にある本題をどう切り出そうか迷っていた。
「リョーコさん、実は私がこの極秘任務に参加した理由は火星の後継者をぎゃふん!と言わせることと、もう一つあるんです。」
「んっ・・・何だ?」
「あの白い機動兵器の事です・・・」
アヤがその言葉を言った瞬間リョーコの顔色が変わった。
「リョーコさんは、あの白い機動兵器を知っていますね?」
「・・・まっ一応おまえにも話といた方がいいのかな・・・」
そう言うとリョーコはゆっくり歩き始め、壁に背を付けると昔を思い出すようにゆっくりと天を仰いだ・・・
「・・・・・・。」
そんな普段とは違うリョーコをアヤは黙って見ていることしかできなかった
「勝てなかった奴がいる・・・一度もな・・・この事は前にも言ったよな?」
「はい、アマテラスの時に確かカイトさんって・・・」
「そいつは記憶喪失だった、しかし誰に対しても優しく・・・そして強かった・・・ここまで言ったら判るだろ?」
「あのパイロットがカイトっていう人・・・なんですか?・・・でも死んだって・・・」
「俺は話を聞いただけだ・・・それにあの動きはアイツしか出来ないさ・・・」
「でもなんで・・・そんな事をする必要があるんですか?」
「必要か・・・今、この時のためだろ・・・あくまで俺の推論だがな・・・」
「火星の後継者・・・」
「で、アヤ・・・その白い機動兵器と会ったらどうするつもりなんだ?」
「・・・まずお礼を言って・・・そして、お手合わせをお願いします。」
その瞬間リョーコの顔がいつもの明るい顔に戻った
「ハッハッハッハ!!・・・お前らしいな!」
リョーコはゆっくりアヤに近づくと肩を叩いた
「・・・そうだな・・・俺だったら・・・カイトだったら・・・一発殴って・・・昔の続きでもするさ・・・」
軽く微笑むとヒカルやイズミの所に歩いていった・・・
「来る!!」
カイトは突然目を覚ました、嫌な予感・・・いや確信がカイトにはあった。
ビ―――――、ビ―――――
この音がカイトの運命を狂わせ始めたのだ・・・
「何事ですか?」
急いでカイトは管理室に連絡を入れた、しかしすぐにカイトは気づく事になる・・・これから何が起こるのか・・・
「カイトさん!・・・地下格納庫で謎のボソン反応が・・・すでにシークレットサービスの方々が向かって・・・・・・・」
それより先はカイトの耳には入らなかった
「この殺気・・・夜天光の時と同じ・・・」
この時カイトは体の奥底から溢れる不思議な感覚に一瞬気を取られた、その感覚はカイトを冷たく包みこみ・・・しかし冷たさの中には口には言い表せない、ドロドロしたものがあった・・・
「な・・・なんなんだ・・・こ、これは・・・?」
「クサナギ・・・」
カイトの頭の中に不思議な声が流れた、それは確かに自分の声・・・しかしどこかが違う・・・
そう・・・その声は、カイトにはない感情・・・憎しみと言うものに満ちていた
「・・お兄ちゃん?」
先ほどの警報で目を覚ましたのだろうリンがカイトの服を引っ張った。
その力は微力なものだが確実にカイトの意識を現実に引き戻す事が出来た・・・
「リンちゃん・・・」
リンの姿に我を取り戻したカイトは事の深刻さを痛感した・・・
謎のボソン反応が『格納庫』に現れたということを・・・
「3時過ぎ・・・ユウキさんがまだ格納庫にいる時間帯だ!!・・・クッ・・・リンちゃん!絶対部屋の外に出ちゃだめだよ!!」
リンの肩を掴み、言い聞かせるとポケットに手に入れた。
しかしカイトの思惑は外れ、手は空を掴むばかり、目的の物はポケットの中には入っていなかった
「・・・ない!!・・・クソッ!!こんな時に・・・」
普段カイトは緊急用に常にCCを携帯している。しかしこの日、カイトはCCを連合宇宙軍地下ジャンプ実験ドーム行く時に使って持っていなかった。
「・・・・・・。」
その事実をあっさり受け止めると、無言のままカイトはトランクに近づいていった、慣れた手つきでトランクのロックを外すと中から大型の銀色の拳銃を取り出した。
暗い室内で銀色の銃だけが月明かりに照らされ鈍い輝きを放っている。
「部屋で大人しくしてるんだよ・・・」
カイトは屈んで優しくリンの髪を撫でると急いで扉から出て行った。
「(頼む!!間に合ってくれ!!)」
「あっ・・・」
部屋から出て行くカイトをリンはこの時止めたかった・・・カイトと同様にリンの中にも悪い予感があった、それはカイトよりも一層鮮明でリンの中に一つの感情を植え付ける・・・
しかしリンの願いは叶わない・・・ドアへと伸ばした手は何も掴むことは無かった・・・
「・・・・・・あぁ・・・」
リンは自分の中で目覚めた『恐怖』という感情に一人苦悩した・・・
「ハァ・・・ハァ・・・」
右手に銃を持ちながらカイトは格納庫の扉を開けた・・・
この時点ではまだ不審な点は無い、ドアの向こうから感じる『殺気』と微かな『血の匂い』以外は・・・
「ウッ・・・」
部屋のドアが開いた瞬間、恐ろしいほどの殺気と辺りを漂う血の匂いがカイトを包み込んだ・・・
そしてあまりの『血の匂い』に思わずカイトは鼻を覆った。
「・・・・・・!!」
カイトの目の前に広がったもの、それはまさに地獄だった、地面に横たわるシークレットサービスの面々が10体以上転がっている・・・カイトの知っている顔もいくつかある・・・そのどれもが苦痛に顔を歪め、ある者は首の骨を折られ、またある者は眉間に銃弾が突き刺さっていた
「クサナギ―――――ッ!!」
カイトは我を忘れて前方に立つ男に銃を向けた。この時には微塵も『血の匂い』は気にならなかった、むしろ血の匂いさえも体の一部のような気さえしてくる。
目の前に立つ男、クサナギは黒髪に獣の様な赤い瞳・・・そして身を切り裂くような殺気を纏いつつカイトをあざけ笑う様に一瞥した・・・
カイトはこの時点で確信していた、クサナギ=黒い夜天光のパイロットという事を・・・
「久しぶり・・・その様子だと記憶はまだ戻ってないみたいだな・・・ミカヅチ・・・」
クサナギの声は恐ろしいほど冷たく、なによりカイトの脳裏に何かを訴えた。
「貴様が・・・」
「そうさ・・・俺がやったんだ・・・思い出すだろ・・・昔みたいで・・・それよりもなかなか良い目つきになったじゃないか殺意に満ちた、いい目を・・・な・・・ミカヅチ」
「僕はミカヅチじゃないカイトだ!!」
ダン ダン ダン・・・
カイトは遠慮なく引き金を引いた、しかしクサナギを覆うフィールドみたいなものに阻まれ当てる事が出来ない
「おっと・・・危ない・・・記憶は無くても、腕は落ちていないようだな・・・正確に、眉間と心臓を狙ってくるとは・・・少し安心したよ・・・面白くなりそうで・・・」
ダン ダン ダン・・・
クサナギの言葉に再度引き金を引くが、やはりフィールドに阻まれた
「・・・今回の目的は終わったし・・・俺はここら辺で失礼するよ・・・もう少し居てもいいんだが・・・長居したらお前に怒られそうだし・・・」
そう言うとクサナギの体が光に包まれ始めた・・・
「ま、待て・・・」
ボソンジャンプをするとわかった瞬間カイトは走った、追いつく追いつかないに限らず力の限り・・・
「そうそう・・・一つ勘違いしてるようだから、お前に教えてやろう・・・お前はなにも守れない・・・なぜならそれはお前が守る者でなく壊す物・・・だからさ・・・フフフッ・・・じゃあな、ミ・カ・ヅ・チ・・・」
カイトの手がクサナギに触れようかという瞬間、クサナギはカイトの目の前から姿を消した・・・その場に不気味な笑みを残して・・・
「クソッ・・・」
自分の不甲斐なさを消し去るようにカイトは床を殴りつけた、その手には、床には血がついている・・・
「・・・カ・・・イ・・・ト・・・か・・・」
カイトは耳に入ってくるか細い声に耳を澄ませた・・・
「・・・カ・・・イト・・・」
「ユウキさん!!」
今にも消えそうな声、それは確かにユウキの声だった・・・しかし悲しくなる位その声に力は無い・・・
カイトは声の方へと走り出した、考える前に体が動き出したのだ。
「ハハッ・・・すまねぇ・・・アンスリウムのデータ、アイツに取られちった・・・めちゃくちゃ・・・強くてよ・・・」
アンスリウムの足元でユウキを見つけたカイトはゆっくりとユウキの頭を膝の上に置いた、ユウキの体からは至る所から血が滲み、口からも血が流れていた・・・
「そんなことより・・・喋っちゃ駄目ですって・・・今、人を呼びますから・・・」
今にも泣きそうなカイトはすぐにユリに繋いだ
「どうしたのカイト君?」
「ユ、ユリさん・・・急いで・・・すぐに来て下さい、ユウキさんが・・・」
先ほどの警報、カイトの慌てぶりに事態を重く考えたユリは・・・
「わかったわ!!すぐ行くから、動かしちゃ駄目よ!」
と告げると急いでウィンドウを閉じた
「あぁ〜あ・・・こんな事ならカイトの手料理食っとけばよかったな・・・」
「元気になったら、お腹いっぱい食べさせて上げますから・・・だから・・・」
「あ・・・あとリンとユリに『ありがとう』って言っといてくれ、楽しかったって・・・!!・・・ガハッ」
吐血・・・カイトには見えないがユウキの肋骨が肺に刺さっていた、その血の量は凄まじく、カイトは思わず顔を背けたくなった・・・
「ユウキさん!!」
泣きそうになりながらも必死に叫ぶカイトを見て、ユウキはプルプルと震えた手でカイトの胸を小突いた
「ったく・・・何度言わせんだよ・・・『さん』はいらねぇって・・・言ってんだろ・・・・・・・・」
そう言ってカイトに笑顔を向けた瞬間、ユウキの目がゆっくりと閉じた・・・
高らかに上げていた手も、ゆっくりと落ち・・・カイトはユウキの体から力が抜けるのを感じた・・・
「ユ、ユウキ・・・ほ、ほら呼んだじゃないですか?・・・」
そう言ってカイトはユウキの体を揺さぶるがその返事は全く返ってこない・・・
「あっ・・・あぁ・・・
ウワァァァアアアアアアア―――ッ!!
」
カイトがルリと離れネルガルに来た時、カイトは心に一つ決まりを作っていた・・・それは『誰に対しても距離を置く』ということである。理由は簡単、別れが辛いからである・・・記憶喪失のカイトにとって家族とも言える人達の別れは死ぬほど辛かった、『二人』がいなくなった時カイトの隣にはまだルリがいた、しかしそのルリも、もういない・・・ならばとカイトは自分の周りに壁を作ってしまった、しかしユウキだけはそんな事も構わずズカズカとカイトの領域に侵入してきた。壁が無くなったカイトは言葉でしかユウキに距離を置けなかったのだ、しかしカイトはその行為は全くの無意味だったと痛感した事だろう・・・皮肉にもユウキの『死』を持って・・・
「(・・・ユウキ・・・僕もそっちに行ったら、好きなだけ僕の手料理をご馳走しますよ・・・それまで少し待ってて下さいね・・・)」
カイトは一度ユウキを抱きしめるとゆっくりと地面に置いて立ち上がった・・・
「まただ・・・また・・・守れなかった・・・」
カイトは思わず拳を握り締めた、爪が手のひらの皮を破り血が滴り落ちるが、カイトは気にかける様子も無かった・・・むしろその痛みは今のカイトにとっては安らぎさえ感じられる
「なぜ・・・なぜ涙が出ないんだろう・・・こんなに悲しいのに・・・・・・」
力無く、フラフラと天井を見ながらもカイトはドアへと歩き出していた・・・
「悲しい?・・・この気持ちは本当に悲しみなんだろうか・・・」
何だろう・・・其処にいつものカイトは既にいなかった。歯車が崩れてしまったのか?それとも歯車が正常に噛み合い始めたのか?
「・・・違う・・・・・・この煮えたぎるような気持ちは・・・・怒り?・・それはなにも出来ない自分に対する?それともクサナギに対する?・・・・・・ハハハッ・・・両方・・・か・・・」
この瞬間、カイトは変わってしまった・・・精神的にも、そして身体的にも・・・カイトはまだ気づいていないのだ・・・自分の瞳が真っ赤に燃え上がっている事を・・・
「カイト君!!」
カイトがドアの近くまで着いたとき、ドアの向こうからユリが現れた、その顔には疲労の色が見える、相当急いできたのだろう、しかしそれももう意味が無かった・・・
「ユウキは?ユウキは無事なの?」
ユリの必死の問いかけにもカイトは首を横に振る事しか出来なかった
「そ、そんな・・・」
その場にへたり込むユリを尻目にカイトは格納庫を後にした。
その後、ユリが顔を上げた先には銀色の拳銃がポツンっと落ちていたという・・・
「・・・お帰り・・・!!」
カイトは部屋に入ると同時にリンに歓迎された・・・しかしカイトの様子にはさすがのリンも唖然とした、普段のカイトと別人の様な気がしてたのだ・・・悲しくもリンの予感は確実に当たってしまった・・・
「・・・・・・。」
部屋に入るなりカイトは無言でベッドに倒れこんだ・・・
「・・・大・・・丈夫?・・・」
リンはカイトの顔を覗き込んだ・・・自分の知っている人がそこにいることを信じて・・・
「(この子にまで心配をかける訳には行かない・・・)大丈夫だよ・・・ありがと、心配してくれたんだね・・・」
これが今のカイトにできる精一杯だった・・・
「・・・お兄ちゃん・・・目が真っ赤・・・」
カイトは敏感にその言葉に反応した、サッと立ち上がると洗面所に急いだ
「赤い・・・瞳・・・そうか・・・やっぱり・・・僕も・・・」
カイトの瞳は紅蓮の炎よりも赤く・・・まるで血のような深さがあった・・・リンの様に決して綺麗なものではない、どちらかといえば相手に恐怖さえ呼ぶだろう
「クッ・・・・・・!!」
しばらく自分の瞳を見つめていたカイトは鏡に映る自分が何故かクサナギとダブってしまった・・・
ガシャ!!
次の瞬間、辺りに変に澄んだ音が響いた、カイトが拳を鏡に叩きつけたのだ・・・
「・・・お兄ちゃん・・・」
洗面所の入り口でリンがカイトの様子を唖然と見守っている
「リンちゃん・・・今日はもう遅い・・・早く寝ないとね・・・(この子も・・・)」
そう言って優しく髪を撫でるとリンをベッドへと進めた。
「う、うん・・・」
リンもカイトの様子に負け大人しくベッドに入っていくしかなかった、それを見たカイトもゆっくりした足取りで窓に近づいていく
「(守れない・・・何も守れない・・・僕の力は・・・何にも守れないのか・・・じゃあ、この力は何のために・・・)」
月を仰ぐカイトにクサナギの一言が頭を巡った・・・
「一つ勘違いしてるようだから、お前に教えてやろう・・・お前はなにも守れない・・・なぜならそれはお前が守る者でなく壊す物だからだ・・・」
「ハハッ・・・アイツの言った通りなのか・・・僕の力は何かを壊すためにあるのか・・・何も・・・守れないのか・・・」
その時、カイトの赤い瞳から一粒の涙が流れた、それは自分という存在の『裏切り』大切な親友の『死』全てが混ざり合っての涙だった・・・
「・・・・・・ならば壊せばいい・・・僕の大切な人を壊すものを・・・・・・大丈夫さ・・・僕のこの手は、既に赤く血塗られているのだから・・・」
カイトが自分に言い聞かせるように呟いた時、カイトの中で何かが変わり、そしてカイトの中にある『何か』と『何か』が混ざり合い始めた・・・
「みんなの元に帰る・・・そんな夢は、もう見ることは無いのかもしれない・・・」
「!!」
ルリは勢いよくべッドから起き上がるとなんとも言えぬ恐怖感に襲われた
「・・・・・・。」
ルリは自分の肩を抱くように触ると、ペンダントを取り出した・・・
「大丈夫ですよね・・・カイトさん・・・」
ハーリーが隣で静かに寝息を立てるの横目で見ながら、ルリはこれからの先行きを案じた・・・
「とりあえず君は無事なんだな?」
ウィンドウの先でアカツキがいささか慌てた様子でカイトに尋ねた
「・・・はい。・・・しかしシークレットサービスの人やユウキが・・・」
「・・・・・・。残念だった・・・としか言いようが無い・・・」
カイトの言葉にアカツキは俯いた、しかしその口調からは普段は見せない『怒気』が見える、幾らアカツキといえど部下の死は気持ちがいいものではなかった。
「そういえば、他の整備員の人達は無事ですか?」
「あぁ・・・彼らから話も聞かせてもらった、どうやら彼らは『奴』が来ると同時に彼女に逃げるように言われたらしい・・・全く惜しい人物を亡くしたものだ・・・」
「アカツキさん・・・頼みがあります・・・」
今まで俯いていたカイトは顔を起こした、その赤い瞳の奥に何か決意のようなものが見える。
「!!・・・なんだい?」
アカツキはカイトの赤い瞳に一瞬戸惑ったが、あえて顔には出さず話を進めた
「実は・・・・・・・・・・。」
「・・・しかし君は、本当にそれでいいのかい?」
「はい・・・決めた事ですので・・・」
「君がそう言うなら、僕が断る理由も無い・・・」
「ありがとうございます・・・それでは・・・」
「ちょ・・・」
最後にアカツキが何かを言おうとしていたがカイトは気にせずウィンドウを閉じた。
「クサナギ・・・貴様は、貴様だけは・・・必ず・・・・・・」
カイトが『何か』に侵食され始めた瞬間だった。この時、カイトは何かの扉を開けたのだ、それが過去への扉なのか、未来への扉なのか、その答えはカイトだけが知っていた・・・
つづく
後書き
ども海苔です(^▽^)
いやぁ〜6話、何て言うか・・・暗いですね・・・(T ― T)
ユウキさん、死んじゃったし・・・結構気に入ってたキャラなんですが・・・
?「じゃあ殺すんじゃねぇーーーー!!」
海「ゲハッ!!・・・だ、だれだ!!」
?「今回、殺された・ひ・と・で・す!!」(怒)
海「はっ!!・・・ユ、ユウキさん・・・死んだはずなのに〜〜」
ユ「てめ〜よくも殺しやがったな〜〜!!」(怒怒)
海「ストーリーの都合上・・・」
ユ「都合で殺すんじゃね〜!!」(怒怒怒・・・プッツン)
海「ギャ――――――!!、殺される―――!!」
ユ「てめ――――も死ね――――!!」
海「ぅぅぅ・・・(ガクッ)」
ユ「根性のない・・・つーことで今回はここまで!!次も見てくれよ!!俺は出ないけど、死んでるしな・・・まっそう言うことで・・・・・・」
海「ふ〜、やっと行ったか・・・『必殺死んだ振り』決まった!・・・感想、ご意見、メール待ってま〜す!!返事はもちろん出しますよ〜〜それでは、さようなら〜!!」(^▽^)/
ユ「てめーー、まだ生きていやがったな〜〜」
海「キャーーーーー逃げろ〜〜・・・」\(>◇<)/
ユ「待てって言ってんだろ〜〜!!」
[
戻る
][
SS小ネタBBS
]
※感想メールを海苔さんへ送ろう!メールは
こちら
!
<感想アンケートにご協力をお願いします>
[今までの結果]
■読後の印象は?(必須)
気に入った!
まぁまぁ面白い
ふつう
いまいち
もっと精進してください
■ご意見・ご感想を一言お願いします(任意:無記入でも送信できます)
ハンドル
:ひとこと
: