機動戦艦ナデシコ

〜 Endless  Story  第一章 アカキヒトミ 〜








第五話 儚い日常




8月13日 連合宇宙軍本部

地球にある連合宇宙軍本部では、総司令であるミスマル・コウイチロウを中心とした面々が、火星の後継者の蜂起についての策を練っていた。かつて、元木連連合の指導者にして、現火星の後継者の指導者である草壁春樹、彼はボソンジャンプの技術を独占、政治体制を覆し、新たな秩序を築くことを目的としていた。そしてその理想に賛同する者も増えつつあるのも、コウイチロウたちにとっては憂慮すべき問題だった・・・

「草壁春樹。元木連中将。大戦中は実質的な木連NO.1。反クサカベ派の若手将校たちによる『熱血クーデター』において自ら出撃し、戦闘中に行方不明のはずが・・・」

初代ナデシコの副長にして、現宇宙軍中佐である、アオイ・ジュンは言葉を濁した。その顔はジュンらしくない厳しい顔だ、いや・・・正確にはその場にいる宇宙軍幹部たちの顔も厳しいものになっていた。

「生きて・・・いましたな」

ジュンの言葉を聞いたキノコ頭の白髪の男が口を開いた、その男の名はムネタケ・ヨシサダ。かつて初代ナデシコに搭乗していたムネタケ提督の父親である。階級は参謀長、ナデシコBにコロニー事故調査を命じるようコウイチロウに進言した人物でもある。

「うーーーむ・・・」

ムネタケの向かい側に座っていた、角刈りの男は低い声でうなり声をあげた。それもそのはず、角刈りの男こと秋山源八郎は現在は宇宙軍の少将という立場にいるが、かつては木連将校としてナデシコと敵対し、反クサカベ派を率いて『熱血クーデター』を起こした人物でもあるのだから、かつての仲間達が起こした今回の事件はアキヤマにとっても感慨深いものだった。

「元木連組としては、いや、ホント、スマンです」

「まあまあ・・・」

机に手をつけ頭を下げるアキヤマをコウイチロウがなだめた

「ホシノ少佐が持ち帰ったデータによると、クサカベへの賛同者は多数。いずれも軍人、政治家に関わらず、ヒサゴプランの立案計画にたずさわった者ばかりです」

今回の会議で司会、進行を任されているジュンはことの重大さを解いて聞かせた、その上空ではかなりのウィンドウが開いている、そのどれもが火星の後継者に属している者たちだ。その中にはアマテラスの時、指揮していたシンジョウ・アリトモ、アズマの後ろに立っていたヤマサキ・ヨシオの顔もある。

「要するに、地球連合軍はクサカベのためにヒサゴプランというお膳立てをしてやった、ということですな」

「はい。プランの発起人であるクリムゾングループをはじめとする・・・」

同日朝方に地球に到着したルリは今回の事件の重要参考人としてこの会議に参加していた。ムネタケの質問に律儀にも立ちながら発言するルリにコウイチロウは一声かけた。

「ルリ君、発言は座ってでもいいからね」

「はい。」

コウイチロウの言葉に席に着くとルリは報告の続きを始めた

「反ネルガル企業とクサカベは、どうやら大戦中から接触していたようです。目的はボソンジャンプの、ひいては政治経済の独占支配・・・・・・」

「クサカベ閣下は、常々ボソンジャンプの危険性と重要性を説いておられたからなァ・・・」

ルリの言葉に何かを思い出したようにアキヤマが口を挟んだ。

「本人としちゃ正義なんでしょうけど、支配される側は迷惑です」

「そうだナ」

ジュンが皮肉交じりに愚痴をこぼすとアキヤマは微かに笑みを浮かべながら相槌を打った。

「アキヤマ君」

「はい?」

「クサカベという男、どういう人物なのかね?直属の部下だった君の目には、彼はどう映った?」

コウイチロウの言葉にアキヤマは誰を見るわけでもなく遠くを見つめながら語りはじめた。

「正義を愛する熱血漢・・・。理想の為に死ねる男・・・。ただ、問題なのは、自分の中の理想こそが人にとっての理想でもあると固く信じているところです・・・」

「ルリ君・・・君の報告に在ったナデシコ襲撃の黒い機動兵器・・・なにか分かったかね?」

コウイチロウはアキヤマの言葉で思い出したかのようにルリに尋ねた。

「いえ、現在の時点では詳しくはわかっていません・・・唯一わかるとすれば火星の後継者側の人間という事だけです。」

「・・・・・・わかった。今回はここまでとする。ルリ君、すまないが後で副長を連れ私の部屋まで来てくれたまえ・・・」

暫し考えたコウイチロウはルリの方を向き、一言そう告げた。

「はい。わかりました・・・」

ルリの返事を聞くとコウイチロウはゆっくりと重い腰を上げた。






「ナデシコしぃ!?」

コウイチロウの前に立っている、ルリ、サブロウタ、ハーリーの中でサブロウタが思わず驚きの声を上げた。会議室を出たルリは至急コミュニケを使いサブロウタをココに呼んだのだ、もちろんオマケとしてハーリーも付いてきたがルリは余り気にせずにコウイチロウの元へと向かい、現在に至る。

「そう。三代目ナデシコ。A、B、CのC」

平然とした口調でコウイチロウは話を続けた・・・

「現在、ネルガルの月ドッグにおいて、最終チェック中だ」

その言葉と同時にコウイチロウの後ろにナデシコCと思われる戦艦のスペックなどがウィンドウで表示された

「君達には独立ナデシコ部隊として遺跡奪還の極秘任務にあたってほしい」

今まで口を閉ざしていたアキヤマが腕を組みながら、ルリたちに話しかけた。その声に迷いなどは微塵も感じられず、先ほど言った言葉の意味を本当に分かっているんだろうか・・・

「分かりました。ということは正規の軍人さんは使わない方がいいですね。」

アキヤマの自信満々の言葉にルリはナデシコCに何かあると感じたのか、自殺願望者が行うような任務をいとも簡単に引き受けた、もっとも命令されれば実行する。それが軍人というものなのかもしれないが・・・

「その通り!」

ルリに自分が話そうとした事を先に言われ、幾分か不服そうにアキヤマは相槌を打った。

「艦長?本当に大丈夫なんですか?」

ハーリーは自分の素直な意見をルリにぶつけた、それもそのはず相手は『火星の後継者』なのだ、戦艦一隻でどうにかなるとはハーリーには到底思えなかったからだ

「安心したまえ、マキビ少尉・・・我々も勝てない戦をするほどバカではないさ・・・今回の任務・・・私はルリ君とナデシコCにしか行えないと考えている・・・」

ハーリーの問いに答えたのは意外にもコウイチロウだった、きっと本人もそう言うことを聞かれると考えていたのだろう・・・

「じゃ、じゃあ・・・正規の軍人を使わないなんて、どうするつもりなんですか?」

「アッハッハッ、その事はお任せください!」

「「え?」」

ルリ、ハーリーなど部屋には5人しか居ないというのに新たな6人目の声にサブロウタとハーリーは辺りを見回した

「♪水の中から、こんにちは―――ッ」






「ナデシコも地球に来たし・・・決戦の日も近いのかもしれないね・・・」

「確かに・・・できればこうなる前に止めたかったのですが・・・」

「しょうがないさ・・・僕らには時間が無さすぎた・・・君の機体にしろ・・・ナデシコにしても・・・」

「・・・・・・ここまで来てしまった以上、勝たねばなりませんね、この戦い・・・」

「もちろんさ、それが僕のためであり、君のためでもあり、そしてあの子のためでもある・・・」

「えぇ・・・(クサナギ、赤い瞳、黒い夜天光・・・時間が経てば経つほど点は線へと・・・僕の記憶が蘇ってくる・・・)」

「そうだ・・・君に行ってもらいたい所があったんだ。」

「・・・どこです?」

「連合宇宙軍地下ジャンプ実験ドーム・・・」








「という訳で、わたくしどもがお手伝いする事になりました」

公園の片隅でルリたちは謎の男の説明を聞いていた、もっともルリはその男の正体を知っているのだが・・・

「プロスペクタ―・・・・・・」

「本名ですか?」

サブロウタとハーリーは男に渡された名刺を物珍しそうに見つめると、目の前にいるサラリーマン風の男に自分達の率直の意見を言った。

「いやいや、ペンネームみたいなもんでして・・・」

プロスペクターは慣れた風に応対すると、本題に入ろうと手帳を広げた。

「それでは、手分けして人集めといきましょうか。歴史はまた繰り返す。ま、ちょっとした同窓会みたいなものですかね・・・」

「はい・・・」

「まー、それにしてもルリさん、お久しぶりですねぇー」

そう言ってプロスペクターは屈託の無い笑みを向けた、その顔は初めて見る人にも安心感を与えるものだ。

「ええ、ほんとうに・・・」






その後、プロスペクターと分かれたルリ達は、新造戦艦ナデシコCの搭乗員を集めるため軍を辞し民間人としての生活を送っている、かつてミスマル・ユリカを艦長とした初代ナデシコのクルー達を招集することにしたのだったが、今民間人として普通の生活を送っている彼らに対して強制することは出来ず、本人達の自主性を重んじ判断をゆだねなければならなくなった。

「艦長、僕らがいるじゃないですか!僕ら三人がいれば敵なんて!勝てますよ!!」

そんなわけで、ルリ達はクルー集めのために各所を回っているのだがプロスペクターの話を聞いたハーリーがやたらとルリに絡んでいた。もちろんこの時三人は軍服ではなく各々の私服を着ている。

ピンポ―――ン

ハーリーの訴えを軽くあしらいつつもルリは都内某所にあるマンションの一室の呼び鈴を鳴らした。

『アマノ・ヒカル』

チラリと見た名札にはそう書かれている、ルリ達がココに来たという事は、もちろんアマノ・ヒカルも元ナデシコクルーの一人なのだ、もともとナデシコに乗った理由が漫画の資料集め、というだけありヒカルは現在連載を抱える漫画家になっていた。

「ごめんください。」

ルリがそう言うと同時にドアも開かれた。

「うわぁー、久し振りだね、ルリルリ♪」

言っている内容は非常に明るそうなのだが、言った本人は目の下に隈をため非常に不健康そのものである、一日やそこら徹夜してもここまではなるまい。

「「おおーーーッ!」」

「「おおおおーーーッ!!」」

部屋の中に入ったルリ達はヒカルの仕事場へと通された、もちろん漫画家の仕事は漫画を書くことなんだから、もちろん原稿というものが辺りに無造作に置いてある。それを発見したサブロウタとハーリーがそれに興味を示さないはずが無かった。

「やっぱりプロってすごいんですねーーー!」

「おおお!」

まさにこんな調子である。呆れ顔で二人を見たルリはさっさと本題を持ち出した。しかしこのときこの三人は気がつかなかったんだろうか、突然押し入ったというのにアシスタントらしき人が誰もいないのを・・・

「ナデシコしぃ?」

「はい。今度の作戦は極秘任務なので、正規の軍人さんは使えなくて・・・」

「・・・うん、いいよ。(とってもね・・・フフッ・・・)」

ズズズッとお茶をすすりながらヒカルはいともあっさり承諾した。

「「え?」」

漫画家の部屋というものに興奮していた二人も思わずヒカルの方へと向き直った。

「でも、連載あるんですよね?」

キランッ・・・このときヒカルの眼鏡が不気味な輝きを見せたのは言うまでも無い。

「ふふ。ふふふふふふふふ・・・(アシ、ゲッチュー)」

この瞬間、ルリ達のアシスタント入りが決定した。






プロスペクターは一つのバーの前で足を止めた、『BAR花目子』いつの時代もBARの名前はよく分からないな・・・などと思いつつプロスペクターは重たそうなドアに手を掛けた。

「いらっしゃい・・・」

ドアを開けた瞬間プロスペクターの鼻を独特の酒類の匂いが刺激する。しかしさすがは大人なプロスペクターそんな匂いにも不快感を示さず店の中に入っていった。

「お飲み物は?」

カウンターに腰掛けたプロスペクターにバーテンが声をかけた。

「そうですね・・・ブランデーを・・・」

「かしこまりました。」

プロスペクターはこの場所に酒を飲みに来たわけではなかった。ここにはかつてのナデシコのパイロット、マキ・イズミが雇われママとして勤務している場所なのだ

「♪一歩二歩三歩・・・。散歩のときは連れてって・・・。だめだよポチはイヌだからー」

事前に事の一部始終を話しておいたためか、酒を飲むプロスペクターの横ではイズミが一人漫才(送別会)をしている。その時、時刻は既に深夜を回っていた、そして懐かしげに壁に貼られていたナデシコ時代の写真を見つめていたプロスペクターにバーテンが話し掛けてきた。

「・・・・・・ママのお知り合いで?」

「戦友です」

誇らしげにそう口にすると、プロスペクターはステージの方をチラリと横目で見た。

「歩けば棒に当てられる・・・。棒の当たり屋、そりゃバット・・・。ブラに入れるはそりゃパット・・・。」

「(それにしても変わらないものですね。)」

プロスペクターはイズミの言っている事を半分懐かしげに半分あきれながら聞いていた。マキ・イズミ、凄腕のパイロットであると同時に曲者ぞろいのナデシコで異端な才能を発揮していた人物でもあったが3年経った今でもそのキャラは変わっていないかった・・・

「次は、あの人ですね・・・確かアヤさんとか言いましたか・・・」






8月14日

「ハァ・・・ハァ・・・」

制服を着た女の子、白鳥・ユキナは風を肩で切り裂きながら坂道を疾走していた。

「うひょ――ッ!」

「ヒューヒュ――!」

「彼女〜どっこいくの〜?」

「乗ってかな〜い?」

歩道を走るユキナを車道からあきらかに軟派そうな男達が声をかけた、なかなか高そうな車に乗って顔も悪くはない、軽い女ならついていったかもしれないがユキナは違っていた。

「また今度!」

ユキナはそれ所ではなかった、胸に秘めた吉報を一分でも早く自分の大切な人に伝えたかったのだ。

「ただいまーッ!やったよミナトさんジュニアメンバー大・抜・擢!!・・・・・・あれ?」

玄関を駆け抜け居間へと入っていったユキナは辺りを確認することなく自分のもたらした吉報を口にした、がそこにはユキナの大切な人兼親代わりのハルカ・ミナトの姿は無く、テーブルの上に置かれた電話の一部ががただ点滅しているだけだった。

『伝言メッセージ再生中』

それに気づいたユキナは電話に取り付けられている『伝言』と書かれたボタンをためらい無く押した。

「ゴメン、急用なの、ちょっと出掛けてくるね、じゃ!(チュッ!)」

ユキナは目の前の光景に唖然とした

「・・・な・・・投げキッス・・・。・・・あやしい・・・。なんか・・・あやしいよね?」

思わずユキナはもう一度、伝言メッセージを再生した。

「ゴメン、急用なの、ちょっと出掛けてくるね、じゃ!(チュッ!)」






「いやはや、今回の事件で連合軍だけでなく連合内部もガタガタですな(ガブッ!)」

ムネタケは特に慌てる様子も無く口を開いた正確には余裕シャクシャクだ、夏に相応しいスイカにかぶりついている。

「ま、当然でしょう。(ガブッ!)」

「それで、敵の動きは?・・・(ガブッ!)」

アキヤマの言葉に危機感を覚えたのかコウイチロウは真剣な口調になった。しかし、その口の中には何故かスイカが含まれている・・・

「はい!敵『火星の後継者』は現在火星極冠遺跡を占拠、クサカベの主張に同調する者が続々と集結中。その数現在までに、統合軍の4割近くまで達しています。」

「4割!?そりゃ凄いね〜(ガブッ!)」

「連合の非主流派の国々も、非公式ながら支持の動きがあります」

「宇宙軍からは同調しようにも人がいないからねぇ・・・・・・(ガブッ!)」

「いやいや、全くよかったですナ!(ガブッ!)」

「よくありません!!」

コウイチロウとムネタケの会話に堪らずジュンの怒声が突っ込んだ。

「だいたい向こうは反乱者ですよ!何でそんなにみんな心優しいんですかッ!?」

ジュンは肩で息をしながらも先ほどから頭の中を巡りめぐっていた、疑問をぶちまけた。

「ハハッ・・・この手のテロは、何かカッコよく見えるからなぁ、単純明快で信念に生きるって感じで!」

ジュンの隣に座っていたアキヤマが軽くあしらった、もしかしたら本心なのかもしれないが・・・

「そ、そんなぁ・・・」

「アオイ中佐、外線です」

「え?」

秘書らしき人は一言そう告げると画面を切り替えた。その間ジュンはイマイチ現状を理解していなかった、目の前のウィンドウを半分口を開けながら見つめている。

「ハァ〜イ、ジュンちゃんお元気ィー?」

ジュンの目の前に現れたのは先ほどまで一人で大騒ぎしていたユキナであった、そしてユキナの浮かべる屈託のない笑顔は不思議と何か裏が感じられる・・・

「おおっ―――――!!」

目の前に現れた女の子におじさん連中(コウイチロウ・ムネタケ)は感嘆の声を漏らした。

「な、何で回したんだ!?」

そう言うジュンの顔からはうれしさ半分ヤバさ半分とでも言うところだろうか、ジュンにはココに連絡を入れてくる理由に心当たりが在ったからだ

「ごく親しい方からの至急の用、ということでしたので」

改めてジュンの前にウィンドウを開いた秘書はシラッと言うとウィンドウを閉じた・・・

「グッ・・・」

「ねぇ、ミナトさんそっち言ってるでしょ!」

「(や、やっぱり・・・)・・・え?さ、さあ・・・」

「とぼけてもムダムダ!!」

ジュンの白々しい言い分にユキナの怒声が飛んだ。

「まぁ〜た、ネルガルだか宇宙軍だか知らないけど・・・何か企んでるんでしょ。図星よね!そーよ図星よ!何か隠してるんでしょ!」

「そ、そんなこと軍の機密だよ・・・・・・(アッ!!)」

「ア――ッ、やっぱり隠してたッ!!」

「!!」

「ね――お願い、おしえて!」

ユキナの言葉から逃げるようにジュンは目の前のスイカにかぶりつくとワザとユキナから視線を逸らした

「お願い・・・(ウルウル)」

負けじとユキナのウィンドウもジュンの目の前に移動してくる、そしてジュンがまた逸らす一進一退の攻防が繰り広げられていた。

「・・・アオイさんだけが頼りなの。教えてくれたらデートでも何でもしてあげちゃう。ワガママも言いません!あなたのユキナになりますからッ!

ユキナは目の前で手を合わせ、瞳に涙を溜めながらジュンへと懇願した

「バ、バカ!何言ってんだよもう・・・。」

そう言いつつもジュンの顔は赤くなっている、やはりジュンはユキナに気があるのは確かのようだ、現にナデシコ長屋から別れた後にも何回か会っている・・・っと言っても痴漢を殴り倒して補導されたユキナの保護者として・・・だったりとそんな事ばかりなのだが・・・

「アオイ君もそれなりにデキる奴なんですが、いわゆるイイ人過ぎて・・・」

いつの間にかジュンから離れていたコウイチロウは呟くように口にした。

「うんうん・・分かります」

「女子高生に手玉に取られてはいけませんなぁ・・・」

コウイチロウの言葉を聞いたアキヤマとムネタケが小声でコウイチロウに告げた。しかし今この場にはユキナを含んでも五人しかいないのだ、小声で話そうがジュンの耳には確実に届いていた・・・

「ああ―――、もぉウルサ――イッ!!」






『夏の空・・・ジュンにも遅い春の風・・・』






連合宇宙軍地下ジャンプ実験ドーム

「分かりました、彼には必ず伝えておきます・・・」

「ありがと・・・あと、あなたの所にいる・・・え〜名前なんていうんだっけ?」

「リンちゃんですか?」

「そうそう・・・その子!」

「リンちゃんがなにか?」

「あの子の事で幾つか分かった事があるからその事をね!」

「何がわかったんです?」

「カイト君・・・驚かないでね、実は・・・・・・」







ピ〜ンポ〜ン・・・

『ササキ・イワオ』

プロスペクターは手帳に書いてある名前と家の玄関にかけられた名札を見て一人納得すると、遠慮なく呼び鈴を押した。

「は〜〜い・・・どなた様ですかぁ〜」

ドタドタと近づいてくる足音と共にドアの向こうから声が聞こえてきた。

「え〜私、ネルガル重工の者ですが・・・」

まだ開かれていないドアにプロスペクターは答えた

「ネルガル?」

そう聞こえたと同時にドアが開かれた・・・隙間から顔を出したのは五十代近くのおばさんだ、別に特別な特徴は無い、商店街などを歩けば一度は見るような顔をしている。

「はい、私こういうものでございます・・・ササキ・アヤさんはご在宅でしょうか?」

慣れた手つきで名刺を差し出すと早速本題を切り出した。

「・・・アヤ?居ますけど、何の御用でしょうか?」

「スカウトに来た・・・とでも申しましょうか・・・」





「・・・お出かけなんですか?」

そこは都内から少し離れた場所にある下町風な場所だった、ここには初代ナデシコの整備班長だったウリバタケ・セイヤが住んでいる、ルリ達がここを訪れた理由・・・それはもちろんナデシコCの件だった。

「ええ・・・。ちょっと町内会の寄り合いで・・・。あの・・・何の御用でしょうか?」

ウリバタケの家内であるオリエが遠慮しがちに尋ねてきた

「・・・・・・。」

その言葉を聞いてもルリは何も答えず辺りを軽く見回した。そしてオリエのお腹に目を向けると一瞬考え、そして口を開こうとした瞬間、痺れを切らしたハーリーがルリよりも一歩早く言葉に出した

「・・・あのですね・・・じ『何でもありません。ちょっと近くまで来たものですから・・・。赤ちゃん・・・楽しみですね・・・。』

ルリがオリエに微笑みかけるその横でハーリーが一人納得できない顔をしていた。

「・・・じゃ艦長・・・そろそろ行きますか・・・?」

サブロウタがおもむろに口を開いた、その言葉は現在の事態を察しての事だろう。

「そうですね・・・では、私たちはこれで失礼します・・・。」

そう言って三人はウリバタケの家を後にした

「艦長・・・これからどうします?」

「そうですね・・・ご飯にでもしましょうか・・・。」






「20人目・・・歴戦の勇者、また一人脱落、と・・・」

三人はあの後すぐにルリの行きつけの店『日々平穏』にやってきていた、辺りに漂うイイ匂いにこの店のシェフの腕前が現れている。

「ほい、火星丼おまたせ!」

この店の料理長であるホウメイが慣れた手つきでハーリーの前に火星丼を置いた、何を隠そうこの店の料理長であるホウメイはかつてのナデシコでもみんなの胃袋を預かっていた人だ、この辺りにもルリが地球に来るたびにこの店に来る理由が見え隠れしている。

「あ、スミマセン」

「ハーリー・・・しつこいぞお前」

先ほどからのハーリーの愚痴に堪らずサブロウタが口を挟んだ

「だ、だって!」

「だって何だよ?」

「そんなに昔の仲間が必要なんですか?」

「必要」

ハーリーの問いはあっさりとルリによって流された

「!!」

ここまでズバリと言われ一瞬ハーリーは戸惑ったがすぐに言い返した

「べ、別にいいじゃないですか。僕達だけでも!・・・ま〜エステバリスのパイロットの補充は良しとしましょう、でも船の操縦は僕だってできるし、戦闘指揮はサブロウタさんだってできるし・・・何がなんでも懐かしのオールスター勢揃いする意味があるんですか?」

「ハーリー・・・いい加減にしろ!」

「艦長、答えてくださいよ」

「・・・・・・。」

ハーリーの必死の訴えにもルリは無言で答えた。

「僕はそんなに頼りないですか?艦長!!」

「・・・ホウメイさん、おかわり」

この一言が決定的だった、ハーリーの自尊心は意中の相手の絶望的な言葉でズタズタに引き裂かれた、となるとハーリーが今できる事それは・・・

「うぅわぁああ―――んッ!」

この場から逃げ出す事だった・・・

「おい、ハーリー!お―――い金払えよって聞こえねえな・・・こりゃ!」

店から飛び出していくハーリーを見たサブロウタはこの時、走り去っていく少年の先行きを案じた・・・

「追わなくていいのかい?」

ホウメイは厨房で他の料理の下ごしらえをしながらもカウンターに座っているルリに声をかけた、ホウメイはホウメイで先ほど始めて会ったハーリーの事を気にかけているのだろう。

「いいんです」

「本当に?」

「私だけでは敵には勝てない。それはあの子だってわかっているはずです。」

「わかっていても割り切れないものだってあるんだよ・・・誰にでもね・・・」

「・・・・・・」

ルリはホウメイの言葉で何かに気づいたように大きく目を見開いた・・・

「人間だから・・・。あの子はヤキモチを妬いてるね・・・昔のあんたの仲間に。昔のナデシコってやつにさ・・・」

「・・・・・・。」

「・・・ヤキモチか・・・どこから探すかねぇ〜・・・」






「うう・・・ううう・・・」

日々平穏を抜け出したハーリーは行く当ても無くただ商店街を肩を落としながら歩いていた・・・

「艦長のバカ・・・。バカバカ・・・・・・バカはいいけど、結局宿舎には戻らなきゃいけないし・・・。どーいう顔して二人に会えばいいんだろ・・・・・・
ウワッ!

突然の衝撃がハーリーを襲った、不意の事なので成すすべなく地面に尻餅を着こうと瞬間、大きな力で支えられた・・・

「おっと・・・大丈夫かい?」

ハーリーの前に現れた黒髪の青年はゆっくりとハーリーを元の体勢に戻した

「は、はい・・・(うわぁ〜〜・・・かっこいい人だな〜・・・)」

ハーリーは目の前の青年に心を奪われた・・・

「うん・・・怪我も無さそうだね・・・・・・んっ!もしかして泣いてたのかな?」

そういうと青年は優しい手つきでハーリーの瞳からこぼれ落ちる涙を拭った。

「・・・う・・・う・・・うわぁぁぁぁ〜〜ん!」

本当にツライ時・・・人に優しくされることがツライ事もあるのだ、まさに今のハーリーの心情はこの状態にあった・・・

「え?・・・え?・・・え?・・・」

辺りからの冷たい視線・・・目の前で泣く少年・・・イマイチ掴めない現状に青年は一人困惑した・・・






「落ち着いた?」

二人は公園のベンチに腰掛けていた、泣きじゃくるハーリーに困り果てた青年がこの場所に連れてきたのだ・・・

「はぁ・・・もう大丈夫です。スミマセンでした。見ず知らずの方にホントに・・・相談にまで乗ってもらって・・・」

「・・・別にいいさ・・・でもね、君の好きな人がどんな人かは僕にはわからないし・・・見た事もない・・・でも、僕にもいるんだよ・・・大事な人が・・・」

青年は優しい口調でハーリーに語りかけていた・・・

「(なんか・・・不思議な人だなぁ・・・でもどこかで見た気が・・・)」

「その人は、僕の妹であり・・・姉であり・・・そして時に母でもある人なんだ・・・守ってあげたい、でも・・・僕には傍にいることすら叶わない・・・だからさ・・・」

遠くを見つめながら語る青年の瞳にハーリーは、ほんの少し青年の心が見えた気がした。

「・・・?」

「好きな人が近くにいるんなら・・・甘えちゃってもいいんだよ・・・」

「え?」

「君が本当にその人のことを思っているんなら・・・きっと君の事をわかってくれるさ・・・」

「甘えてもいいんですか?」

「無理して意地を張る事なんて無いさ・・・完璧な人間なんていないんだからね・・・」

どこまでも優しげな口調にハーリーは呆然と聞き入っていた・・・

「・・・!!・・・さてと・・・僕はそろそろ行くよ・・・」

そう言って青年はベンチからおもむろに立ち上がった、一方ハーリーはこの時、目の前の青年に憧れに近い感情を持った

「・・・おっと、言い忘れるところだったよ・・・甘えた分は・・・男にならなきゃだめだよ!・・・マキビ君・・・」

そう言って青年は公園の奥へと姿を消した・・・

「あれ?僕、名前言ったっけ?」

「おいっ!ハーリーこんな所でなにしてるんだ?」

「ウワッ!!・・・・・・サ、サブロウタさん?」

「何そんなにビックリしてんだよ。」

「えっ・・さっき不思議な人がいて・・・いなくなったらサブロウタさんが急に・・・」

「不思議な人?・・・どんな奴だったんだ?」

人見知りの激しいハーリーが見ず知らずの人と話すなんて珍しいな・・・なんて軽い気持ちでこの時サブロウタは聞いていた。

「すごいかっこいい人で黒髪の人でした。でも、どっかで見た事あるんですよね?」

「へ〜〜、おまえがそんな事言うなんて珍しいな!」

「ハーリー君・・・帰ろ・・・」

サブロウタから少し遅れてルリも公園にやってきた、どうやらハーリーを見つけたサブロウタがルリに連絡をとったらしい

「あぁ――――ッ!!」

ルリを見つけた瞬間、ハーリーの中の突っかかりが外れた

「うおっ!急に叫んでどうしたんだよ?」

「思い出したんです。さっきの人を!」

「・・・落ち着けって!・・・・・・で誰だったんだ?」

興奮気味のハーリーをなだめながらサブロウタは尋ねた、いささか興味があるんだろう。

「艦長ですよ!艦長の席に置いてあった写真に写ってる人ですよ!」

「「・・・!!・・・」」

ハーリーの言葉で二人の顔色が明らかに変わった

「おい!ハ―リー!!確かに写真に写ってる黒髪の男だったんだな?」

「は、はい・・」

「ハーリー、そいつはどっち行ったんだ?」

「奥に入っていきましたけど・・・」

「クソッ・・・・・・艦長!ちょっと行ってきます!」

そう言うとサブロウタはルリの返事を待たずに公園の奥に走っていった・・・

「ハーリー君・・・その人は何か言っていましたか?」

明らかに普段とは違う様子のルリに困惑しながらもハーリーは答えた

「えッ!!・・・えぇ・・・大事な人がいるって・・・守ってあげたいけど傍にいてやれないって・・・」

「(カイトさん・・・)」

ハーリーの言葉を聞いたルリは服の上からペンダントを握った・・・

10分後・・・

「ハァ・・・ハァ・・・スンマセン艦長・・・見つけられませんでした・・・」

奥からサブロウタが帰ってきていた、その顔は普段見た事もないような苦痛に歪んでいる

「いえ・・・構いません・・・さぁ・・・帰りましょうか・・・」

「「・・・はい・・・」」

その後三人は無言のまま宿舎にと戻っていった・・・

「(カイト・・・やっぱり生きてたんだな・・・)」






「遅いぞ!カイト!」

「お兄ちゃん・・・」

青年・・・カイトは公園の出口で立っていた二人に声をかけられた

「ユウキさんにリンちゃん・・・やっぱり二人だったんですね!・・・でもなんでココに?」

「ユリがよ・・・急に『ヨロシク』とか言いやがって置いていきやがった・・・ア〜ンド・・・この子がお前に会いたいってきかねぇんだよ!」

血走った目つきでそういうユウキを尻目にリンはカイトの方へ走ってきていた

「ハハッ・・・らしいというか何というか・・・まっとりあえず帰ろっか!」

そう言ってカイトはリンに手を差し伸べた。

「うん・・・」

当たり前の様にカイトの手を掴むとまるで自分の居場所と主張するようにカイトの横を並んで歩き始めた。

「ちょっと待ったぁ〜!!晩飯食ってから帰ろうぜ!もちろんカイトの奢りで・・・」

「言うと思ってましたよ・・・」

一回大きくため息を吐くとカイト達は近くにあるレストランを目指した・・・確かそのレストランの名前は『まずかったらお代はお返しします!味自慢!!』






日々平穏

「あんたも乗るのかい?ナデシコCにさ・・・」

ホウメイは至って真剣な口調で横に座るハルカ・ミナトに話しかけた・・・

「そうだね。プロスさんから連絡会った時はルリルリの顔見て帰っちゃおうかと思ってたけど・・・あの子見てたら、そうも言ってらんない」

「会ったのかい?」

「ここに来る前にちょっとね・・・」

「・・・確かにかなり無理してる。顔には出してないけど。艦長としての責任、任務の遂行、敵は強い・・・なにより・・・」

「・・・なにより?」

「・・・家族の欠如・・・とでも言うのかね・・・」

「確かにこんな時彼がいてくれたら違うんだろうけどね・・・」

「カイトの事かい?」

「そっ・・・ほら、あの二人・・・+と−がうまく噛みあってる・・・みたいな感じがあったじゃない?・・・」

「そうだね・・・あんな事が無ければ・・・」

そう言ってホウメイは酒を煽った






「うまそ〜!!」

ユウキは目の前の料理に広がる料理に感動しながら片っ端から胃袋に詰めていった・・・

「(あいかわず凄い食欲・・・)」

など思いつつカイトは自分も食べ始めた、チラリと横を見るとリンも目の前の料理をつまんでいる。

「おいしくない・・・」

「えっ・・・」

リンの一言で辺りの空気が変わったようにカイトは感じた・・・そうなにか寒くなったような・・・

「リン!好き嫌いはよくないぞ、なんでも食べないとでっかくなんないぞ!」

辺りの空気が掴めていないユウキは気にせずに食事をしている

「お兄ちゃんの作った方がおいしかった・・・」

リンのその言葉でさらに辺りの空気が寒くなってきた。

「(い、居づらい・・・)」

冷たい視線を感じながらカイトは横目で二人を見た

「へ〜・・・カイトの料理ってそんなにうまいのか?」

「うん・・・」

「リンが其処まで言うのなら本当なんだろうな・・・一度食べてみたいなぁ・・・」

そう言ってチラチラ見てくるユウキを気づかないカイトではなかった。

「わかりました。今度ご馳走しますよ!」

「やっぱ話のわかる男はいいねぇ〜・・・ってカイト、お前全然食ってないな!」

「ちょ、ちょっと食欲が無くて・・・」

「ふ〜ん・・・まっいいけどさ、俺は充分に食ったから!」

かれこれ30分後・・・

「お兄ちゃん・・・帰ろ・・・」

そう言ってリンはカイトの服を引っ張った。

「・・・そ、そうだね・・・そろそろいいかもね・・・」

そう言ってカイトはゆっくりとユウキの方を見た

「俺も構わないぜ!お姫様が帰ろうって言ってるし・・・」

その言葉を聞くとカイトは急いで会計を済ませ、急いで店を後にした・・・恐るべし『味自慢!!』

尚、最後までカイトが冷たい視線を浴びた事は言うまでも無いだろう・・・

「さぁ〜て・・・帰って寝るかぁ〜」

「・・・仕事あるんじゃないですか?」

「嫌な事思い出させんなよ・・・」

「ハハッ・・・スミマセン・・・」






そう・・・このまま何事もなく夜が過ぎ去るはずだった・・・しかし・・・運命はそれを許しはしなかったのだ・・・


今・・・カイトにとって忘れない夜が始まろうとしていた・・・





つづく



後書き

どうも〜海苔で〜す。(^▽^)

5話でした!どうだったでしょうか?楽しんでいただければ幸いでございます・・・

今のうちに断っておきますが、ナデシコのキャラは余りって言うか全然容姿については説明しておりません。(ゴメンなさい!苦手なんです・・・)

原作どうりなのであんまり気にしなくてもいい気がしますが・・・一応という事でm( _ _ )m

それにしてもリンちゃんの性格がかなり変わってますね・・・(スミマセン・・・)

事の真相は本人に聞いて見ましょう!

リ〜ンちゃ〜ん・・・

リ「なに?・・・」

海「ウオッ!・・・いつのまに?」

リ「・・・。」

海「・・・。」

リ「・・・。」

海「あ、あのさ〜?・・・なんで急に変わったの?」

リ「知らない・・・」

海「そ、そう・・・じゃあ好きな物は何かなぁ〜?」

リ「お兄ちゃんの作った料理・・・」

海「じゃ、じゃあ・・・嫌いな物は何かなぁ〜?・・・」

リ「お兄ちゃん以外の人の料理・・・」

海「ふ〜ん・・・」

?「リンちゃ〜ん・・・」

リ「あっ・・・」

?「こんな所にいたんだ・・・」

リ「お兄ちゃん・・・」

カ「ご飯できたから帰ろ!」

リ「うん・・・」

海「あっ行っちゃった・・・まあいいか!リンちゃんは謎な人という事で・・・というわけで皆さん次は次話でお会いしましょう、次は悲しいお話です、それではさようなら〜」(^▽^)/



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