〜 このSSには以前小ネタ掲示板に掲載されていた「ルリVSカイト」の文章を許可を頂いて使用しております。 〜
―― プロロ−グ ――
今日も宇宙(そら)往くナデシコ。ABCを気にするのはルリであってカイトはあんまり気にしない。その答えはエピロ−グで....
艦長室で愛用のマグカップと戯れるルリ。もうすぐカイトが報告書をまとめて来る予定。
ふとした事が脳裏をよぎると頬杖をつき、思案顔で深い溜息を漏らす。
「ふぅ....」
なにやら複雑な心境で彼が来るのを待っていた。
―― 2198年9月 ――
とある昼前の出来事、ミスマル家の玄関から出ようとする少女の姿を見掛けると
(あっ、前方壱時の方角にルリちゃん発見です♪....おや、おでかけルックでどこいくのかな?)
少年は普通の人にはみえない犬耳と尻尾をピョコンと生やすとルリの背中に声をかけた。
ルリは歩みを止めて振り向くと
「ああ、カイトさん。ちょっとこれからオモイカネに会いに行こうと思って」
そうカイトに行き先を告げた。
「オモイカネ?」
「ええ」
「でも、オモイカネって今はネルガルの基地に収容されているんだよね?」
「はい。最近端末からのアクセスがスム−ズに行かなくて、その原因を確かめてきます」
そういって再び歩き出した。
「あ、ちょっとルリちゃん。まさかあんなトコまで歩いて行くの?」
「駅までは徒歩です。それが何か?」
「そうなんだ。じゃあ、もし良かったらボクも一緒について行ってもいい?」
そういって瞳をきらきらと輝かせて微笑むカイト(のみえない尻尾が左右に揺れている)
「でもカイトさんには(家事手伝いの)お仕事、ありますよね」
「ふるふる(顔を横に振って)今日はお手伝いさん勢揃いだからボクがいなくても大丈夫なんだ♪」
そういって嬉しそうに笑うカイト(のみえないふさふさ尻尾も左右に揺れている)
「なら別に構いませんけど」
「では、早速参りますか」
するとどこぞの悪代官&悪徳商人さながら、ふっふっふっとカイトはなにやら不敵に笑った。
「....実はこんなこともあろうかと、とっておきのモノが用意されているんです(ニヤリ)」
「それ、 "マッドメカニックマン" の名言ですよ」
ルリは冷ややかに呟いた。
助手席に座ったルリは少し驚いた。
「これ、カイトさんの車ですか?」
カイトが車で行こうと提案したのだ。
「うん、そだよ」
車庫に用意されていた車は今では幻のクラシックモデルとなったイタリア製の名車 "フィアット500"。
(かの大泥棒がカリ○ストロ公国に入国する際に乗用していた有名なアレですか)
ルリのこの知識は以前お姫様(プリンセス)なるものをオモイカネに検索した際に学んだものだったりする。
「ネルガルの研修期間中に免許を取ってね。仮免中の練習車でもあったんだけどボクが16になった日にアトモ社の先輩たちからもらったんだ」
贈答用の大きなリボンがつけられて車はミスマル家まで配送されたそうだ。
白い小型車ながらもコロコロとしたデザイン。
それから後部トランクには(三倍改造アトモ社比の)ス−パ−チャ−ジャ−が内蔵されているのは秘密事項。
そしてボンネットにはエンブレムマ−クの代わりかアンテナ(角)がついていた。
―――――何気にアンテナには『カイト専用機』と刻まれている。
「カイトさん専用のエステバリスも貰ったんですよね?それに車も貰えるなんて、すごいですね」
「そうかな?(喜)エステバリスを扱う事以外にもいろいろと覚えたなぁ〜。整備技術に家庭菜園のススメ、男が作る料理のレシピに、え〜っと....」
カイトは指折りながら学んだことを数えていた。
「そうなんですか。なんだかちょっと意外です」
クスリと笑みがこぼれ『カイトさんのこと見直しました』という眼差しでルリは彼の横顔をみていた。
「 "隠し芸は身を助ける!" って、みんなからいろいろと仕込まれました♪」
かっくん....
思わず「....はぁぁ....」と溜息をついてしまうルリ。
(なんか感心してソンしちゃいました)
少し呆れたような目つきでカイトをチラリと一瞥すると
(色んな玩具を宛がう人達の思惑通りに芸を仕込まれる仔犬さん。『知らぬが仏』というより『知らぬがボケ』といったトコかな?)
人徳でなく犬徳、頭のなかでそう呟くのだった。
しばらくして車が商店街近くを通りかかるとルリはふとした疑問に思いあたる。
「あ、でも買い物にでる時、車は使ってませんよね?」
買い出しに行く時のカイトはいつも自転車を使用していたからだった。
「カワサキの基地内で運転練習をしてたんだけど、みんなに『市街地に出るとお巡りさんに尋問されるだろうからやめておけ』と言われててね
....なんでだろう?」
と真剣に悩むカイト。
「納得しました」
あっさり承知するルリ。
(カイトさんの容姿と人格を歳相応(ユリカによって現在17歳)で見ろというのが、そもそもの間違いなのです
見当はずれのボケボケ体質人ですから、そこのところはっきりと自覚できないんでしょう)
そんなルリの思惑にも気づかずに当のカイトは「まっいいかぁ」と悩むのをやめていた。
「まぁ久しぶりに乗ってみたくなったし、今日は車の方が便利かな、と思ってね」
「あ、ええ....確かにそうですね。助かります」
「いえいえ、お役にたてて光栄です♪」
そういって破顔一笑するカイト(以下略)
「あっ」
だが唐突にルリは慌てたような声を出した。
「そういえばカイトさん、目的地までのル−トは判っていますか!?」
質(たち)の悪いカイトの通称が思い浮んだからだ。
「......まさか迷仔になんかなっていませんよね」
「そう、これもあまり乗らない理由なんです........てへっ♪」
―――――そうゆう風な素振りをするから、君は成長しないのだよ(シャ○少佐風)
「..........カイトさん」
「あはははっ大丈夫だって♪」
声のト−ンが下がるルリに対し能天気に笑うカイトは得意気にその根拠を説明する。
「ちゃんとこの車には "ナビシステム" がついているからいくら迷仔になっても目的地まで "バッチリ安心、大丈夫!" なんです!」
備えあれば憂い無し、機能がついてさえいれば安心、というのがカイトの思考回路。
「ナビ、起動していませんよ」
システムが明らかにOFFになってるモニタ−を指差しながらルリは冷淡に呟いた。
「えっ、うそっ? ......あっホントだ(汗)」
(......ボケイヌ)
―――――後に "桃色の妖精" も囁く名言。
「実にカイトさんらしいですね。仕方ありません、私が案内しますから指示通り進んで下さい。いいですね?」
「......はい......よろしくお願いします」
舞い上がり気分も束の間、赤面するカイトは恥ずかしそうにそう答えた。
自分より年上なのになんだか手間のかかる弟のように思えてしまうルリ。
(ホント、頼りになるんだかならないんだか....)
やれやれといった表情をみせながらもルリは御丁寧に "迷仔の仔犬専用ナビ" と書かれたスイッチを押してシステムを起動させた。
ナビゲ−タ−のウィンドウにミスマル家と目的地の情報を入力して適性ル−トを検索表示し現在地を照合する。どうやら進行方向は合っているようだ。
「前方150m先の十字路....本屋さんが見えてきましたよね。はい、そこを左にまがって..あぁ逆ですって、お茶碗を持つ手の方ですよ、カイトさん!」
―――――カイトよ、そこまでお前さんはおバカさんなのか?
だが意外にもルリの声は楽しそうだった。
―――――あ〜くれぐれもカイトくんの影響で精神汚染されないように気をつけて....って、もう手遅れかなぁ〜(不安)
「あ〜退屈ぅ......こんなことなら、アカツキ君の頼みなんて引き受けるんじゃなかったわ」
ナデシコ警備班の女性スタッフであった彼女は只今定時の見回りのため薄暗い艦内を巡回していた。
『今迄みたいに気楽にできて〜お給料に見合うスリルもあるといいわね。
....あっ、でもなるべく戦闘は避けたいかな?だってこれ以上、玉の肌に傷をつけたくないからよろしくね、会長さん♪』
こんないい加減な条件でネルガルに再就職を希望したのは他ならぬ彼女自身なのだが......人格に問題があるのはナデシコクル−でのお約束。
関係者以外立入り禁止のナデシコ内に、メンテナンス要員は総勢二名。今迄してきた仕事内容は、見回りと報告書とボ−ッとする事だった。
「はいはい、今日も特に異常は無しと......はぁ......こんなつまんない事で時間をつぶさなくちゃならないなんて......ハッキリいって青春の無駄使いよ!
期待してた此処での男運も最悪だし......交代制とはいえ、ほんとアタシって不幸だわ〜」
などと、文句タラタラ、おまけにやる気なさそうな態度をみせていた。
「!?」
が、不意な物音に気付くと彼女は表情をキッと引き締めた。性格は腐っていてもやはり優秀な警備スタッフである。
こちらに近づく足音からすると侵入者は複数だった。
音を立てないよう....抜き足......差し足........忍び足..........
待ち焦がれていたハプニングに緊張と胸の高鳴りを覚えてしまう。
そして通路を曲がると同時に、迫力のある声で彼女は叫ぶ。
「誰!!」
「どうも(しれっ)」 「こんにちは♪(にぱっ)」
少女と少年の声が同時にハモる。
少年の方は呑気に手なんか振って、無邪気な笑顔を魅せていた。
「あ、あなたたち....どうして此処に....」
「オモイカネに会いにです。此処に入る時もオモイカネが入り口を開けてくれました」
「こうゆう場合って何か問題あるのかな、ルリちゃん?」
ルリとカイト、ふたりとも平然としたリアクションをみせている。
(....ホシノ・ルリと......カ..カイト君ってウソ!?)
対する彼女は警備スタッフとして平静を装うようにするのが精一杯。彼女の心拍数は急上昇していた。
「あなたたちは、もうここの関係者じゃないんだから入って来てはダメなのよ!」
動揺を隠そうとする彼女の言葉遣いが故意に厳しくなる。
「そうなんですか?」
カイトは小首をかしげて尋ねた。
「そうなのよ」
だがカイトのあどけない仕種を見てしまうと
「入り口に "関係者以外立入禁止" って書いてあったでしょ?(あ〜ん、カイト君に逢えるなんてラッキ−!!)」
警備員としての警告が途端に甘い声と化していた。カイトをみつめる彼女の瞳は潤んでいる。
(....ショ○コンですか?)
ルリはその変貌ぶりにそうツッコンでも口にはださない。
「オモイカネは私達を "関係者" と認識しましたが」
「それでもダメなの!」
表情が一変してルリには冷たい応答。
「もし見つかったりしたら、不法侵入で捕まっちゃうのよ。それだと困るでしょ?」
「もう警備のお姉さんに見つかってますけど....」
「あぁ、いいのいいの。報告しなきゃバレないんだから大丈夫よ」
怪訝な顔をみせるカイトについ破顔すると手をひらひらと振って愛想良く応えている。
「職務放棄の給料泥棒(ぼそっ)」
「うっさい!!(怒)」
―――――貴女も愛犬家だったんですね。
「と、とにかく此処は立入禁止なんだから、すぐに出て行くようにしてね。あっでも、もしなんだったらカイ」
「わかりました。では撤収しましょう、カイトさん」
「了解です。それでは、さよ〜なら〜♪」
「ト君だけは....え? あ、はい....さようなら....」
言葉の続きを聞き終える前に踵を返して去って行くルリとその後を追うカイト。まるで見えない首輪がついているかのように引っ張られてゆく。
「なんだかずいぶんとアッサリなのね......くすんっ」
取り残された彼女の下に一足早い冬の冷たい風が吹き抜けていった。
―――――もはや重傷ですよ、お姉さん。
帰宅の途につく車の中で備え付けのミュ−ジックディスクから流れる曲を耳にしながらカイトはこう話し掛けた。
「今日の潜入調査は敢え無く失敗かぁ......残念だったね、ルリちゃん」
「そうですね」
返事はするもののルリの視線は別の所に向いていた。
「でも何かいい考えがあるからあの場は大人しく引き下がった。......さて次回策にこうご期待ってトコかい?」
動かしていた手がふと止まり、ルリはカイトの横顔を不思議そうに眺める。
「......カイトさんってヘンな所で鋭いんですね」
「それで?」
真面目な表情で運転するカイトは相槌だけしてルリの返事を待っていた。
すると今迄何かを調べていたルリは、携帯用小型端末を閉じると....
「決行は......三日後です」
....そうカイトに宣言する。
宵闇に包まれてゆく車外の風景。車内に流れる穏やかなBGMも、いつしかミッションテ−マに変わっていた。
不法侵入のあった日から三日後。
冴えない中年太りの男性スタッフと勤務交代すると彼女は警備員待機室でいつものように暇を弄んでいた。
外部からの緊急連絡を待ち......殆ど皆無の来訪者を待ち......雑誌を読み漁り......メ−ルのやり取りをしたりして時間を潰している。
ふと時計を見ると、そろそろ本日二回目の巡回時間が近付いていた。
「あ〜あ、やっぱりあの時格好なんかつけるんじゃなかったわ」
あの温々(ぬくぬく)しているところが母性本能をくすぐり保護欲を掻き立てる人物を目の前にしてつい見栄を張ってしまった事を彼女は悔やんでいた。
カイトに逢えたこと。それまであった憂鬱な気分が嘘のように晴れたこと。そのおかげで爽快気分で出社できたこと。ついでにお肌のノリも絶好調なこと。
あれから内心再会を待ち焦がれていたのだが立場上とはいえあのように注意してしまったからには流石にもう逢えないだろうと今朝になって気付いたからだ。
気短な性格なので警備スタッフとしての適性にやや問題のあるお姉さん。
―――――格闘センスとプロポ−ションは優秀なんですけどね。(身長167cm、バスト88・ウエスト58・ヒップ88)
只今右手に持った転職誌『とらぶ〜る』を読みながらの巡回である。
「ミスマル家のメイドにでもなろうかな?カイト君専属ということで。ヌフフッ♪」
そんな危ない事を口にしてイケナイ妄想までしているようだった。
......ピタッ......
「ん?今、何か音がしたような......」
雑誌を棒状に丸めると耳にあてて確認してみる。
「......あ、もしかして♪」
幽かな物音もこれでバッチシ聞き逃さない。
......ぴたっ......ピタッ......ぴたっ......ピタッ......
「えっ?......ちょっと変だわ。これって、ホントに人間の足音なの?」
期待した想像とは裏腹に言い知れない不安の影がよぎる。
「!?......まさか!!」
自分の口からつい出てしまった言葉で背筋に悪感を感じてしまう。 どうやらUMA(未確認生物)は苦手なようだ。
だがそれでも不審な存在を確認もせず持ち場から逃げ出すワケにはいかない。勤務態度は腐っていても警備スタッフとしてのプライドがある。
気を取り直して不審な音を追跡していくといつしか艦橋区画まで来ていた。そして艦橋内に何かがいる気配を彼女は見逃さなかった。
扉にそっと耳を立てて慎重に中の様子を確認すると微かだが声が聞こえてくる。
胸の中で沸き立つものを覚えながらも、突入のタイミングを見計らうように彼女は気を引き締めてゆく。
と、意を決して両目を大きく見開き、扉を開けた瞬間、迫力のある声で彼女は叫ぶ!
「誰!!」
「ニャ−」
(下から声が......あら、何でこんな所に猫が?)
―――――銀色に青みがかった毛色の体長130cmほどのネコ....
(....って、ホシノ・ルリかい!!)
オペレ−タ−席にホウメイからもらった防寒ス−ツを装備したルリがいた。
おまけに手招きポ−ズで固まっている。
「ルリちゃん、あなた....何をしているの?」
「......へんそう......」
この変装、効果のほどはよくわからない。
「........はぁ??」
開いた口が塞がらない呆け顔。その反応を見たルリは少し頬が赤くなるのを覚えてネコさんス−ツを脱いでしまう。
「やれやれ....見破られてしまいました」
―― 艦内潜入前 ――
『ではとりあえずカイトさんは艦内の見回りをお願いします。巡回する敵と遭遇したら直ちに撹乱して下さい』とルリ。
『はっ!了解であります(ぶいっ)』とカイト。
―― 回想終了 ――
(どうやら誘導作戦は失敗しましたか)
カイトを歩哨にして調査を行ない、万一バレてもふたりの正体を隠す為に変装するというルリの奇策。
(あらかた調べ終えたとはいえ "ツメ" を誤るとは....カイトさん、役立たずですね)
何気にカイトへ責任転嫁するルリ。だがこうなるとルリは免罪符(カイト)のないただの闖入者だった。
艦橋中央段にひらりと舞い降りてルリの逃走を防ぐように仁王立ちしたお姉さん。
「なにはともあれ、ホシノ・ルリ!不法侵入及び無許可無断での情報閲覧等不正行為の現行につき」
そして勝ち誇ったようなセリフを言い放つ。
「貴女(あなた)の身柄を拘束させてもらうわ!!さぁ観念なさいっ!!!」
―――――さながら "ナデシコ一番星" になれなかったことを未だ根に持っているお姉さん、といった悪しきオ−ラを放出してます。
とはいえ、体力・運動能力・体格差、どれをとっても彼女からルリが白兵戦で一番星になれる要素など全く見当たらない。
目の前にいる相手は敵意剥き出しで今更穏便に事を済ます気はなさそうだ。ジリジリと間合いが詰まってきている。
「ふっふっふっ」
おまけに不敵な笑みを浮べ、目付きが尋常でない。
対峙するルリの雪のような気相はその白さを増してゆき、額には冷や汗と黒い縦線が浮んでいる。
(....さすがにこの状況はマズイですね....正体もあっさりバレてしまいましたし....大ピンチです)
―――――はっきりいってバレバレです。
「ごめんね〜ルリちゃん」
とそこに、少々間抜けた声が響いて来る。
「言われた通り彷徨(まよ)ってたんだけど」
ルリのピンチに颯爽と現れた "迷仔の騎士" !!!
「なぜか警備の人には会えなかった....って、あれ?ここにいた♪」
―――――御都合主義だと、あ、笑わば笑え!!(セイヤ風)
「えっ! カイト君♪ ....うそ、いやだほんとに "仔犬" 君だっ!!(狂喜乱舞)」
「うわっ!? ふぎゅぅぅ――」
迷仔のコイヌくんス−ツ装着のカイトは彼女の熊のような突進を咄嗟に回避する事が出来なかった。
「きゃ〜ん、もうカワイイ――ッ!!」
「く..苦じい......」
息ができない状態。でも天国と地獄を同時に体感してしまうカイト。
「うふふ〜ん、カイト君はやっぱり仔犬君よね♪」
「....息がぁ....できな....うぐぅっ....」
鬼畜作戦、見事に成功。
よって、両腕の力が増大したことで彼女のベアハッグが完全に極まった!
「ぎゅぅぅぅぅ〜〜〜........」
カンカンカン!!
カイトの脳裏に鳴り響く鐘の音。
時間にして1分27秒経過、勝者、ダイナマイトセクシ−・お姉さん!!
一方敗者となったスウィ−トパピ−・カイトは幸福の絶頂を超えてしまい........殉職する(合掌)
ただ事の成り行きを呆然と見守っていたルリ。
(....これは一応、作戦成功といえるのでしょうが......)
二人の様子を見てゆくうちに何とも言えない淀んだ感情が芽生えてくる。
(..........なぜか複雑です)
無性に腹立たしさを覚えていた。
するとルリはふと思い出した極秘情報を冷淡な声で囁いてみる。
「シ−クレットプロジェクト・アルファ・メンバ−ズナンバ− "BWH−858" 」
ギクッ!
お姉さんの動きが一瞬止まった。
「なっ....な、何かしら、それって?」
突然聞こえてきた謎の呪文。色気も表情も一瞬で凍りついている。
「秘密の暗号です。誰かさんの」
ギクギクッ!!
そして明らかな動揺。思わずカイトをつき放してしまう。
どんっ!!!
―――――入り口にぶつかり、廊下の上に転がったカイトくん......つんつん......返事がない(再度合掌)
「ああ、別に気にしないで下さい。貴女の名前を使ってカイトさんに "噂の正体" を教えようだなんて....まったく思っていませんから」
「ううっ」
彼女は此処にきて自分の行為が迂闊であったとようやく思い至る。
「ついでにカイトさんを......貴女の胸に埋めて抱き締めた挙げ句失神させてしまったなんて......」
自分と彼女の胸元をチラリと一瞥したルリがいつものポ−カ−フェイスに "底知れぬ闇の表情" を浮べたからだ。
それをみた彼女は確信した。ルリを追いつめたはずが逆に自分が追いつめられたことに......
「他の愛犬家宛てに....あ、もちろん女性限定ですが、緊急連絡しようだなんて少しも感じたことはありません」
「くっ......ううっ」
今目の前にいる少女は情報戦のスペシャリスト、どのような情報操作もお手のモノ。
「ですから、貴女を脅迫して不法行為を見過ごして貰おうだなんて、都合のいいことも全く考えてもいませんよ」
そしてルリの口元がほころんだ。
「....わたし、"少女" ですから」
その冷笑はまるで咲きほこる毒花のようにみえた。
―――――こ、これが○−ヴの微笑か!?
「....ルリちゃん....もう....何も言わないで......すべてあなたのゆう通りにするから......このことは是非とも内密にお願いします......(しくしく)」
もはやルリの命令を拒否する意思が彼女にはなかった。
こうしてカイトはルリの要望通り "餌としての任務" を見事に果たしたのだった。
軽量級でノックアウト状態の仔犬。そんなカイトの首襟を持って引き摺りながら車へと向かうルリ。
(ふぎゅぅ....パト○ッシュ....ボクはもう....食べられないよ)
カイトの幸せそうな寝顔に死相が浮ぶ。
『....試合に勝って、勝負に負けた....』
後にイズミがそう語る名言(?)をこの時のルリに容認させるなど到底できるモノではない。
(今は少女ですけど、私には未来があります!)
と、断固たる決意で固く拳を握り締めると
「きゅううぅぅぅ....」
―――――天使のお迎えがきた仔犬の呻き声(三度目の合掌)
「いずれはユリカさんを超えて見せます....ふふっ」
ルリは僅かに口元を歪ませて底冷えするような呟きを漏らすのだった。
―― エピロ−グ ――
「「ずずっ、......ふう......」」
艦長室でお茶を啜るルリとカイト。
報告書の提出を終えて残務処理をするため退室しようとしたカイトをルリはちょっと聞きたい事があるからと引き止めたのだった。
茶菓子(はっぱ煎餅+チョコレ−トポッキ−)も用意されていたがそのほとんどがルリの胃袋に収まっている。
「それでボクに聞きたいプライベ−トな質問って何かな?」
「カイトさんは、その......大きい女性と小さい女性......ど、どちらがいいですか?」
ほんのりと頬を上気させながら上目使いでカイトをみつめるルリ。
だが肝心な部分が聞き取れなかった唐変木のカイトはのほほんとした口調でこう言った。
「身長?」
「違います」
「長靴のサイズ?」
「それも違います」
「ず?ずずっ......う〜ん」
しりとり遊びでもするようなカイトはふと空になった茶菓子の容器をマジマジとみている。
「もしかしてお腹の大きさかな(笑)」
「ちがいます」
突如ルリの目が据わる。地雷を踏んだようだ。
「あ、ははっ、そうそう(汗)」
ただならぬ気配を察したカイトは慌てて失言をフォロ−した。
「え、えっと〜沢山食べられるのは健康であるあかしだし、ルリちゃんはスマ−トだから大丈夫だよね!(汗)」
「......」
「ほら、ルリちゃんってば頭脳明晰で頭脳労働だから甘いモノできちんと栄養補給しないといけないもんね、うん!(汗)」
「......」
「さ、砂糖はカントク産で、ルリちゃんもおんなじ星座だから(滝汗)」
と言ってすぐさまぴしっと正座する。まるで説教されるのを待っているかのように恐る恐るルリの顔色を伺うカイト。
最早言っていることが支離滅裂になっている。
「......」
「......え〜っと、それじゃ音量とか電波受信量とかN○K料金不払い量とか......」
備え付けのTVモニタ−を見遣るカイト。彼のボケは果てしなく続く。
ルリは「....はぁぁ....」と大きく溜息をついた。
(そうでした......カイトさんってこうゆう人でしたよね......)
こういうところはあまり成長していないのだと改めて気づくと不思議と安心感を覚える。
そうして一息ついてルリは気分も落ち着いた所で先程言えなかった単語をようやく口にすることにした。
「胸です......」
そういうとあまり成長しなかった自分の胸元に視線を落とした。
「私が聞きたいのは、カイトさんはどういうのが好みの女性なのかが気になって......」
「ほえ?」
ルリは胸に両手を添えた。
「......やっぱりユリカさんくらいの大きさのほうが......いいですよね」
「それならルリちゃんだよ」
「えっ」
真顔になったカイトは迷う事なく、とてもやさしく響く声でそう答えた。
「そうゆうの関係なしでルリちゃんは....」
そしてルリの手を取りそっと握ると
「ボクにとって特別な女性だからね」
カイトはとびきりの笑顔をみせた。
「......カイトさん」
瞳が潤んでいくルリ。カイトの手を愛しそうに握りかえす。頬を赤く染めて微笑むふたり。
「ルリちゃん......」
「......カイトさんにそういってもらえて、私、とても嬉しいで..んっ」
言葉の続きを待たずルリの唇をカイトがふさぐ、ちょっと不意打ちのキス。
次第にルリの瞼はうっとりと閉じられ......ふたつの影が重なり合った。
〜 そして今日も宇宙(そら)往くナデシコ......ふたりの物語はまだまだつづく......かもしれない 〜
〜 あとがきです 〜
(セカンドスト−リ−できちんとしたあとがき書くのは)初めまして、こんにちは、お久しぶりでございます(汗)
久方ぶりの投稿となりましたが...ノリと勢いだけでSSを書いてしまう飛鳥しゅんでして....恐縮であります(滝汗)
今回は「うずもれた恋のあかし」に出てくるルリのナデシコ潜入シ−ンを『ネルガル社内規定違反極秘グル−プ活動』の設定に基づき再構成してみました。
『 』の部分の詳細は設定要綱を参照してみてください。それでは、筆者の感想をば少々....
シニカルなルリちゃん....この頃のルリちゃんにとってカイトくんはまだまだ仲の良いお友達って感じです。
名無しのお姉さん....随分と濃ゆいキャラになっている気がする....TV版「明日の艦長は〜」の話に出てきた女性クル−をみて「使えるかも」と
思ったのですが、名前くらい作ってあげてもよかったかもしれません。
そして迷脇役のカイトくん....手綱はルリちゃんに握られてます....「ルリVSカイト」なんとかエピロ−グで引き分けたといったところでしょうか?
「ルリVSカイト」の創作者である異界さん、そして「ルリVSカイト」を引き継ぎされたけいさん、
今回小ネタの使用を了解していただきまして誠にありがとうございます。
皆様にも楽しんで読んでもらえたら幸いです。ツッコミ所はあるかもしれませんが(汗)どうか勘弁してやって下さい。
それでは最後までおつきあいしていただきありがとうございました。
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