ミーーン ミン ミン ミン ミン ミーー・・・・

 

 

 

蝉の声。

 

 

 

じゃばじゃばじゃば・・

 

 

 

水の音。

 

 

 

ごしごしごし・・・

 

 

 

カイトさん。

 

 

 

「よーし、ここは終わり!っと。じゃ、屋根やっちゃうから、ルリちゃんは休んでて

 

 

 

お昼はいつも買出しに行っているアキトさん。

 

昼間は軍でお仕事をしているユリカさん。

 

だから、夜は暗くてできない屋台の手入れはわたしとカイトさんのお仕事。

 

でも、台にのっても手が届かないから、屋根の掃除はカイトさんのお仕事。

 

仕方ないからわたしはいつも、アパートの階段に腰掛けて〜っとカイトさんを見てます

 

 

その日はとってもあつい日でした。

 

 

じりじりじりっとお日様が、屋根のない階段を照らします。

 

だからなのかな?

 

いつもより〜〜っとなって・・・

 

 

 

「は〜・・・にしてもあっつい〜?ルリちゃ・・・」

 

ぼてっ・・・

 

「ルリちゃん!?」

 

 

 

倒れちゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ短編集

 

【たった一つのプレゼント】

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱた・・ぱた・・ぱた・

 

 

 

なんだろ?涼しい・・・

 

 

 

ぺた・・・

 

 

 

あ・・・冷たい・・・でも・・・きもちいい・・・

 

 

 

「・・・あ、気がついた?ルリちゃん?」

 

 

 

目を開けると、カイトさんの顔がありました。

 

涼しい正体はカイトさんのうちわ。

 

冷たい正体はおでこにあてられたタオルのようです。

 

 

 

「いきなり倒れるからビックリしたよ」

 

 

 

いつのまにか夕方。

 

いつのまにかアキトさんの部屋。

 

いつのまにかカイトさんの膝枕です。

 

 

 

「でも気がついてよかった。今飲み物もってくるから、おでこ冷やしてそのまま横んなってな

 

 

 

わたしの頭をゆっくりと枕に移して、カイトさんはちっちゃな冷蔵庫をのぞいてます

 

カイトさんがここまで運んでくれたのかな・・・?

 

 

 

チリンチリン・・・

 

 

 

風に吹かれて、窓に吊られた風鈴が鳴ってます

 

・・・・・・

 

なんでこの人はこんなに優しいだろう・・・?

 

 

「はい、麦茶。なんかありえないくらい冷えてるから、一気に飲むと・・・」

 

 

誰にでもそうなのかな・・・?

 

・・・・・・むぅ!

 

 

 

ゴクゴクゴクゴク!!

 

 

 

「お゛ーーー!!??」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ッキィーーーン!!!

 

 

 

っっつーー!!

 

 

 

「ほら、いわんこっちゃない」

 

 

 

そう言って、こめかみに指を当てているわたしの頭を、ふわふわと撫でるカイトさん。

きもちいい・・・じゃなくて、子供じゃないですから!

 

 

 

「ま、とにかく、軽い日射病ですんでよかったよ。今日は日差し強かったからね」

 

 

 

カイトさんは、また立ち上がりました。

 

 

 

「でも、ルリちゃんが無事でよかった。うん、ほんとによかった!」

 

 

 

カイトさん・・・

 

 

 

「じゃ、暗くなる前に残り済ませてくるから!ちゃんと寝てなよ?アキトはもう少しで帰るって」

 

 

 

ガチャ・・・バタン。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

風鈴の音を聞きながら、窓から顔を出してカイトさんの仕事を見ていました。

 

視線に気付いたカイトさんが顔を上げ、きょろきょろと二階のわたしを見つけると、にこっ!と微笑みました。

 

 

 

どきん!

 

 

 

わたしはあわてて顔をひっこめます。

 

ふう。びっくりした。いきなり振り向くだもの。

 

でも・・・どきどきがおさまりません。

 

なんなんだろ?この気持ち・・・

 

 

 

じゃばじゃばじゃば・・

 

 

 

また、水の音が聞こえます。

 

わたし、いつもカイトさんに助けられてる・・・

 

なにか、お礼がしたいです・・・

 

 

 

そんな時、ふと前日のことを思い出しました。

 

 

たまのお休みに、四人でお出かけしたときのこと。

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

カイトさんとわたしは、案の定はぐれてしまったアキトさんとユリカさんを探していました。

 

こんなときにコミュニケはアパート。

 

ユリカさんが「服が欲しい!」と言っていたのを思い出し、片端からお店を回っていました。

 

 

 

「はぁ〜、ここにもいない・・・どこいったんだぁ?あの二人・・・合流しないと飯食えないよ・・・」

 

 

 

ため息をつくカイトさんを尻目に、わたしはショーウインドウに飾ってある帽子に目を奪われていました。

 

 

きれいな帽子・・・

 

 

まっ白な、どこかのお嬢様が身に付けていそうな帽子。

 

その帽子は、やさしく輝いているように見えました。

 

 

 

こんなの、わたしには似合わないだろうな・・・

 

 

 

そんなことを考えながらウインドウに片手をあてて、〜っと帽子を見ていました。

 

 

 

「かっこいい靴だな〜」

 

 

 

いつの間にかカイトさんが後ろに立っていました。

 

両手をモモにおいて、わたしと目線を合わせるように肩の後ろから顔を出します。

 

二つに束ねた髪の毛の一方が、カイトさんの首筋にふれました。

 

ほっぺたに、カイトさんの体温を感じます・・・

 

 

どきどきどき・・・

 

 

ちょっと・・・近すぎです・・・

 

まじまじと、帽子の隣に飾ってある青いシューズを見ているみたい。

 

 

 

「うん!サイズもぴったり!でも高いな〜」

 

 

 

現品限り!と書かれたPOPのよこに、値段の表示されたカード。

 

うん、たしかに。

 

店内の他のシューズに比べて倍くらいの値段がします。

 

 

 

「ま、靴なんて履ければいいしね。よし、行こう?ルリちゃん」

 

 

 

やっと顔を上げて、カイトさんが言いました。

 

 

どきどきどき・・・

 

 

深呼吸。そしてコクンとうなづきます。

 

するとカイトさんは、わたしの左手をとって歩き始めました。

 

 

 

「ルリちゃんまではぐれたら大変だしね」

 

 

 

だそうです。

 

はじめて握ったあなたの手。

 

その手は大きくて、ちょっと冷たくて、でもやさしくて・・・

 

せっかく深呼吸したのに、また胸が苦しくなっちゃいました。

 

 

・・・結局二人は見つからず、その日は二人でご飯を食べて、二人で帰りました。

 

 

どちらかともなく手を繋いで、その温もりを感じながら・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・ただいま〜!」

 

「ん?どうしたの、ルリちゃん?」

 

 

 

どうやらまた〜っとしていたようです。

 

帰ってきたカイトさんとアキトさんが「?」って顔をしてます

 

心配させたくないので、わたしは両手でガッツポーズを作りました。

 

アキトさんは相変わらず「??」って顔してたけど、カイトさんには通じたみたい。

 

 

 

「うん、よし!」

 

 

 

ってうなずいて、ごしごし頭を撫でてくれました。

 

 

やっぱり・・・きもちいい・・・

 

 

真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくて、くしゃくしゃになった前髪を直すふりして顔を隠しちゃいました。

 

 

 

つぐつぐつ・・

 

 

 

アキトさんはスープの仕込み。

 

カイトさんはその材料を切っています。

 

そんなカイトさんを見ながら、わたしは次の休日の壮大な計画を立てていました。

 

 

 

 

 

そして、その日は来ました。

 

 

 

 

 

「ルリちゃ!いってらっしゃ!!」

 

 

 

ユリカさんが部屋から出て、階段を下りようとするわたしに手を振ります。

 

わたしもかるく手を振ってそれに答えると、そこに向かって出発しました。

 

目指すは青いシューズのお店。

 

ナデシコに乗っていた頃のお給料に基本的には手を付けてないので、まだそれなりに残っています。

 

 

カイトさん・・・よろこんでくれるかな・・・?

 

 

カイトさんの笑顔を思い浮かべると、自然と顔がほころびました。

 

当のカイトさんは、わたしが起きる前にすでにどこかに出かけたようで。

 

ま、わたしが起きたのがお昼だったからなんですけど。

 

 

電車を降りて、お店に向かいます。

 

今日もすごい人。

 

うろ覚えだったから心配でしたけど、ばっちりお店にたどり着けました。

 

 

 

プシュー。

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

 

中に入って、まっすぐショーウインドウに・・・あ。

 

 

今すれ違った人が、あの青いシューズを持っていました。

 

 

あ・・

 

 

そのまままっすぐカウンターに。

 

 

 

「これください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・あ・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらさらさら・・・

 

 

 

川の音。

 

 

体育座り。

 

 

わたしは今、いつもの川原の草の上に座っています。

 

 

夕焼けが、空を、草を、水面を・・・すべてをオレンジに染めていて・・・

 

 

なんて・・・きれい・・・

 

 

アパートに帰ったけど、誰もいませんでした。

 

うらの方にも回ってみたけど、あるのは屋台だけ。

 

あのお店を出るときに見たショーウインドウには、青いシューズも、白い帽子もなくなっていました。

 

 

 

 

 

なんか・・・寂しい・・・

 

 

 

 

 

ぽふ・・!

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

頭にのせられた何かで、いきなり目の前を真っ暗にされました。

 

あわてて両手でそれを取って振り向くと・・・

 

 

 

「ルリちゃん〜つけた」

 

 

 

そこにいたのはカイトさん。

 

のっていたのはあの帽子。

 

 

・・・え?・・・え??

 

 

 

「アパートに帰ってもいないからさ、ここかな〜?って思ってさ」

 

 

 

そう言って隣に座るカイトさん。

 

わたしは、カイトさんから、白い帽子から、目が離せませんでした。

 

じっと帽子を見ているわたしに、カイトさんは言います。

 

 

 

「ルリちゃんにその帽子、プレゼント」

 

 

 

え・・・?

 

 

 

「前の休日のときに入った店で、じっとその帽子見てたよね?気に入ったでしょ」

 

 

 

なんで・・・?

 

 

 

「わかるよ。僕はいつも君を見てるんだから。あ、いい意味でね」

 

 

 

カイトさん・・・

 

 

 

「それに帽子をぶってれば、もう日射病も怖くないしね。あ、もちろん君に似合うかも!て買っただよ?」

 

 

 

そう言うと、帽子の縁を握っているわたしの両手を握って、もう一度、今度はそっとわたしにそれをかぶせてくれました。

 

 

 

「うん、やっぱり似合う。とっても可愛いよ、ルリちゃん」

 

 

 

胸の鼓動が、一気に跳ね上がりました。

 

嬉しい・・・嬉しい・・・嬉しい・・・!

 

さっきまでの寂しさなんて、これっぽっちも残っていませんでした。

 

うれしくて・・・恥ずかしくて・・・切なくて・・・

 

また赤くなった顔を隠すために、ずっとうつむいてるわたしを、カイトさんは変に思ったみたい。

 

すくっと立ち上がると、わたしの隣から後ろに移動して、すっと座ります。

 

 

なんだろう?

 

 

そう思ったときにはわたしはもう、カイトさんに抱きしめられていました。

 

カイトさんの腕がわたしの胸の前で交差して、背中にカイトさんの胸の温もりを感じます。

 

体の横を二本の長い足が通って、わたしの身体は、カイトさんのその大きな身体にすっぽりと包まれてしまいました。

 

 

 

どきんどきんどきん・・・!!!

 

 

 

「・・・気に入らなかったかな・・・?」

 

 

 

後ろからささやくようなカイトさんの声が聞こえます。

 

 

そんな・・・!そんなことありません・・・!!

 

 

どきんどきんどきんどきん・・・!!!!

 

 

きっともうカイトさんにばれちゃってる・・・この胸の鼓動・・・

 

こんなに近くにいるだから・・・

 

 

言葉は出ませんでした。

 

でも、想いは通じたみたい。

 

 

 

「・・・そっか、よかった・・・」

 

 

 

言葉が・・すぐ耳元で聞こえました。

 

カイトさんの首筋に、わたしの髪の毛がかかります。

 

でも今日わたし・・・髪の毛結ってません・・・

 

ほっぺたとほっぺたがくっつきました。

 

今横を向いたら、きっと・・・

 

 

 

どきんどきんどきんどきんどきんどきん!!!!!!

 

 

 

身体の芯がアツイ・・・!!!

 

 

 

あたまの奥がじんじんする・・・!!!

 

 

 

くるしい・・・!!くるしい・・・!!!!

 

 

 

もうダメ・・・!!!!

 

 

 

わたし・・・!!!!

 

 

 

むね・・・こわれる・・・!!!!!!

 

 

 

 

 

そう思ったとき!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ぐぅ〜〜〜・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・寝ちゃいましたね。

 

 

 

 

 

そっか。この人にとって、今日は早起きでしたからね。

 

 

あたまの奥が〜っとして、胸の鼓動も心地いいものに変わっていきました。

 

 

すぅ〜・・・すぅ〜・・・

 

 

耳元で、規則的な寝息が聞こえてきます。

 

 

くす・・・かわいいのはカイトさんですよ。

 

 

気付いたら、わたしは笑ってました

 

 

ありがとうございます、カイトさん。

 

 

このお礼、いつか必ず。

 

 

絶対に、しますね。

 

 

 

「・・・ん・・・すうぅ〜・・・」

 

 

 

でも今一つだけ、お礼しちゃいます。

 

 

 

 

 

かおを上げて、ほっぺたをはなして・・・

 

 

 

 

 

もう一度、そのほっぺたにくっつけた。

 

 

 

 

 

・・・ちゅ。

 

 

 

 

 

たった一つのプレゼント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーーン ミン ミン ミン ミン ミーー・・・・

 

 

 

蝉の声。

 

 

 

じゃばじゃばじゃば・・

 

 

 

水の音。

 

 

 

ごしごしごし・・・

 

 

 

カイトさん。

 

 

 

「よーし、ここは終わり!っと。じゃ、屋根やっちゃうから、ルリちゃんは休んでて

 

 

 

お昼はいつも買出しに行っているアキトさん。

 

昼間は軍でお仕事をしているユリカさん。

 

だから、夜は暗くてできない屋台の手入れはわたしとカイトさんのお仕事。

 

でも、台にのっても手が届かないから、屋根の掃除はカイトさんのお仕事。

 

仕方ないからわたしはいつも、アパートの階段に腰掛けて〜っとカイトさんを見てます

 

 

その日はとってもあつい日でした。

 

 

じりじりじりっとお日様が、屋根のない階段を照らします。

 

 

 

「は〜・・・にしてもあっつい〜?ルリちゃん」

 

 

 

でも・・・

 

 

 

「ルリちゃん・・・?」

 

 

 

わたしは白い帽子をかぶりなおすと、元気にカイトさんに答えました。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、カイトさん♪」

 

 

 

 

 

 

 

今日は、へいき!

 

 

 

 

 

 

 

〜fin〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも〜!YOUです。

長くてスイマセン。

ごめんなさい。あんまし甘くないですね〜。ほのぼの系になっちまいましたね。

やっぱりムズイですよ、砂糖は・・・

ってか初期設定では、

 

カイトの(気を引く)為に!プレゼントの為に!我らルリ今立ち上がる!!

元ナデシコクルーのもとで短期バイトに励むルリ!!!

元ナデシコクルーのもとで毒を吐きまくるルリ!!!

プレゼントを従え!ナデシコクルーを従え!カイトのもとに突撃するルリ!!ルリ!!!ルリ!!!!

 

と、砂糖の気配など微塵もないハズだったですが・・・

「あれ?ナデシコって給料もらえたよな?じゃあなにか?ルリって意外とお金持ち!?・・・バイトなんていらないじゃ

と、いうことになりまして。

小さく変更していったらいつの間にかこうなってました

ので、急遽本編に出てくる「白い帽子」をルリがカイトにもらったときの話にシフトしました。

いつか書きたいと思っていたので、丁度よかったです。

また本編に白い帽子が出てきたときに、このストーリーを思い出していただけたらうれしいです。

あと右も左もよくわからないので、アドバイス是非とも欲しいです。砂糖とくいな方、よろしくお願いします!m(_ _)

短編ってなってるんで、またネタがあったら続けるかもしれません。

 

ではでは〜!

YOUでした〜。

 


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