暗い・・・くらい

 

 

ここはどこ・・・?

 

 

ふわふわして

 

 

暖かくて

 

 

 

「・・・ちゃん。・・リちゃん!」

 

 

 

・・・なんだろ?何か聞こえる・・・

 

 

 

「ルリちゃん!おーい、ル〜リちゃん」

 

 

 

え・・

 

 

 

「?どうしたの、ルリちゃん」

 

 

 

カイト・・・さん?

 

 

 

「・・・」

 

「な、なに?そんな幽霊でも見るような目ぇして・・・僕のこと忘れちゃった?」

 

「・・・あ・・・」

 

 

 

そんなはずがない

忘れるはずがない

忘れられるはずがない

 

 

あなたがいない世界

永遠にも思える三年間

あなたを想い続けてきたのだから

 

 

あなたの声

あなたの髪

あなたの瞳

全部・・・あのときのまま・・・信じられないくらい・・・あのときのまま

 

 

 

「カイト・・・さん」

 

 

 

あなたの名前を口に出してみた

それだけで・・・

涙があふれる。頭が真っ白になる。胸が締め付けられる

苦しい・・・!苦しい・・・!苦しい・・・!・・・・・・嬉しい・・・!!

 

 

 

「うん。ルリちゃん」

 

 

 

今すぐあなたに抱きつきたかった

また頭をなでて欲しかった

「今までがんばったね」ってほめて欲しかった

 

 

山ほど伝えたいことがあった

ユキナさんと仲良くなったこと

ミナトさんに料理を教わったこと

一人暮らしをはじめたこと

お気に入りのマグカップのこと

頼もしい仲間ができたこと・・・

 

 

だけど、身体が動かない。動いてくれない

自分の身体が自分のものじゃないみたいな感覚

緊張で、喉はカラカラに渇いて・・・

手足はなぜか、小さく震えて・・・

いわなきゃ・・・言わなきゃ・・・!!

 

 

 

「あいた・・かった」

 

 

 

・・・言えた・・・

 

 

 

「あいたかったです・・・カイトさん・・・!」

 

 

 

あなたが目の前にいる。それだけで、想い続けた時が報われた気がした

あなたが生きていてくれる。それだけで、恋焦がれた時が報われた気がした

 

 

 

「・・・うん。僕もだよ。またあえて、すごくうれしいよ」

 

「あ・・・わたしも・・・わたしもです・・・」

 

 

 

涙がどんどんあふれて止まらない

カイトさんの姿が涙で見えなくなるのがイヤで、両手の項で目じりをぬぐう

 

 

 

「・・わたしも・・・あえ・・て・・・・・うれしぃ・・!」

 

「・・・ルリちゃん」

 

 

 

体中にカイトさんのぬくもりを感じる

抱きしめ・・・らてる・・・

 

 

 

「ルリちゃんは泣き虫だね。そんな子にはお仕置きだ」

 

 

 

カイトさんの体がスッと離れて、かわりに顔が近づいて・・・

 

私は目を閉じて

 

その場所に、全神経を集中させた

 

 

 

「・・・」

 

 

 

でも、いつまで待ってもその感触は来ない

かわりに気配がしたのは耳元・・・

 

どうして・・・?

 

 

 

・・・ルリ

 

「あ・・・」

 

 

 

耳に優しく息がかかる

 

ピクンと身体がふるえた

 

そして・・・

 

愛しい人の声が聞こえた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

The Prince of darkness

U

― 傀儡の見る『夢』 ―

 

 

第四話

【アイツの『名前』】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ・・・」

 

 

自分の声で目が覚める。頬は涙で濡れていた。

 

 

(・・・カイト・・・さん)

 

 

ゆっくりと体を起こし、周りを見渡す。

白い天井、白い壁、白いベッドに白い布団。枕元のボタン。

それと、腕に通っている管が、ここは病院だとルリに理解させた。

壁にかかっている時計を見る。時刻はAM7:00。

 

 

コン、コン。

 

 

ドアが叩かれる。叩いた主は、返事はないものと思い込んでいたのか、ルリが答える前に部屋に入って来た。

そして、目が合う。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・・・・どうも」

「あ、うん・・・じゃなくて!やっと起きただ」

 

 

ノックの主、ユキナは持っていたカバンを下ろした。

 

 

「よかった〜!ま、とりあえず・・・ちょっと暗いから明かり入れるね〜」

 

 

「お日様、こんにちは〜!」とカーテンを開け放つ。

同時に差し込む光。

少し眩しかったのか、ルリは目を細める。

それに気付いたユキナは、カーテンを半分だけ閉めた。

一瞬、ルリの目元が光る。

 

 

「?ルリ、泣いてたの?」

 

「・・・いえ」

 

「ふぅん・・・」

 

 

そして、ベッドの隣にあった椅子に腰掛け、話し始めた。

 

 

「なんかアンタ、気絶した状態でここに運び込まれただって」

 

「気絶・・・ですか」

 

「うん。別に怪我とかなかったから点滴で様子見よう、ってことになっただって。それから丸一日ぐっすり眠ってたんだよ

 

 

ルリが運び込まれたって聞いたときはビックリしたよ、と微笑んで話すユキナ。

 

 

「みんなお見舞いに行くってうるさかっただけど、病院に大勢で行くのは非常識だ、ってミナトさんがね。で、あたし代表」

 

 

その笑顔に、少し気分が落ち着いてくる。ユキナさんってすごいな、とルリは思う。

 

 

「にしても、お見舞いに来たのはあたし一人じゃないみたいね」

 

 

と、テーブルの上の花瓶にいけられた・・・というかいけきれないほど大量の花束と、ピラミッド型に重ねられた巨大な果物の山に目を向ける。

 

 

「よかった、軍にもいい友達がいるみたいで」

 

「・・・ええ」

 

 

まるで自分のことのように、本当にうれしそうな顔でつぶやくユキナ。

その様子を見てルリは、この人と友達でよかった、とあらためて思う。

 

 

「にしても気絶ってアンタ。なにしたの?頭でも打った?どれどれ〜?」

 

 

ベッドの上に乗り、両手でルリの頭を撫で回すユキナ。

 

 

「別にどこも打ってないです。あ、勝手に髪をお団子にしないでください」

 

「だぁって〜、ルリが髪の毛おろしてるとこ久々に見ただもん」

 

「別にめずらしいもんじゃないです。・・・みつあみもダメです」

 

「ちぇ・・・」

 

 

しぶしぶベッドから降りるユキナ。くしゃくしゃになった髪を整えるルリ。

椅子に座りなおしたユキナはもう一度たずねた。

 

 

「で?なんだったの?宇宙でなんかあったでしょ?新たな敵?ゲキガンガー的展開?」

 

「・・・カイトさんに会いました」

 

「・・・は?」

 

 

予想外のルリの一言に、思わず声が上ずる。

 

 

「ちょ、ちょっと、もう一回言って?最近耳が悪くなったのかな〜、よく聞こえ・・・」

「カイトさんに会いました」

 

「・・・・・・」

 

 

空耳でないことを認識したユキナは急にマジメな顔になる。

そして、鼻と鼻がふれあうほど顔を近づけた。

 

 

「アンタ、ルリ・・・それはまずいよ・・・死者が見えちゃってるよ・・・連れて行かれちゃうよ」

 

「・・・・・・」

 

「いい、ルリ。死んだ人は帰ってこないの。ルリがカイトのこと本当に大事に想ってるのはわかってる、でも・・・」

 

「そんな三途の川的なものじゃないです。気絶する前です」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

 

ルリのハッキリとしたつっこみに少しドモ

 

でも、アイツはあの日に・・・

いや、ルリがこんな悪質なウソをつくはずがない・・・

だとすれば・・・だとしたら・・・

 

 

「それじゃホントに・・・」

 

「はい」

 

 

ドサッ!と、そのままベッドに脱力するユキナ。

ルリに背を向ける形で座る。

はぁ〜、と大きく息を吐く。そして大きく吸って・・・

 

 

「アイツ・・・生きてたんだぁ・・・」

 

「・・・はい」

 

 

静かになる室内。風がカーテンを揺らす。

 

しばらくその静かな時を二人で過ごした。

 

やがて、頭を整理し終えたユキナが口を開く。

 

 

「それで?ってゆーかどこで会ったのよぉ?ナデシコは戦闘中だったでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

「あ、わかった!ナデシコのピンチに颯爽と現れて『ルリ・・・僕は君を助けに来ただ!』って・・・」

「殺してやると、言われました」

 

「え?」

 

 

ルリを振り返る。

いつもの表情でユキナを見つめるルリ。

しかしその瞳には、いつものきはなかった。

そして、こわれたラジオのように。もう一度、繰り返す。

 

 

「殺してやると、言われました」

 

「な・・・なんで・・?」

 

 

うろたえるユキナに、ルリはポツポツと話し始める。

 

 

「アマテラスに・・・アキトさんが・・・ボソンジャンプで・・・急に現われて・・・カイトさんが・・・火星の後継者に・・・」

 

 

それは断片的過ぎて内容の分かるものではなかった。ルリ自身、何を喋っているかきっと理解していないだろう。

そんなルリをユキナはやさしく抱きしめる。

 

 

「アキトさんも・・・ユリカさんもいて」

 

「うん」

 

「カイト・・・さんが・・・」

 

「うん」

 

「私・・・引き止めたかったのに・・・!」

 

「うん」

 

「また・・・いなくなっちゃう・・・!」

 

「・・・大丈夫。だいじょうぶだよ、ルリ」

 

 

ルリの頭を自分の胸に抱き、包み込むユキナ。

ユキナの身体にしがみつくルリ。小さく、震えていた。

強く、もっと強くその背を抱く。

その悲しみを、少しでも癒せるように。

 

二人は、親友だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

- ネルガル重工本社ビル 

- 会長室 -

 

 

アキトは部屋の主を待っていた。ラピスはユーチャリスの調整。一時別行動をとっている。

 

アキトの五感はほぼ失われていた。ラピスを通じて入ってくる感覚が今のアキトの全てだった。

火星の後継者はアキトから全てを奪っていった。

 

幸せな未来。

穏やかなる日常。

友達。

 

愛する人。

 

・・・・・・・

 

 

(でも・・・俺は今ここにいる・・・)

 

 

火星の後継者のモルモットとして使われていた自分。

ネルガルのシークレットサービスに助け出されなかったら、今も実験材料に使われていただろう。もしくは、彼女と共に・・・

今自分がここに存在できるのはネルガルの・・・いや、『アイツ』のおかげだ。

今でも覚えている。あの日・・・

アキトの頭にそのときの様子が、鮮明に思い出された。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

タッタッタッタ・・・・!

 

 

「くっ!ふぅ・・!しつこいな」

 

「・・・!もう・・・!」

 

「あきら、めるな・・・!はっ・・はっ・・!・・合流地点は、すぐ、そこだろ」

 

「俺を置いていけ・・・。俺を背負っていたら・・・お前まで・・・」

 

「なに、言ってんだよ・・はぁ・・!お前がいなきゃ、ユリカが、悲しむだろ?」

 

「・・・」

 

「今頃、ゴートさん達が・・助けてくれてる!」

 

「・・・ああ」

 

「じゃあ、行くぞ!また、四人で、屋台を押そう!」

 

「・・・ああ!」

 

「・・!!いたぞー!!こっちだー!!」

 

「!見つかったか」

 

「・・っ!」

 

「大丈夫だ!何とかなるさ!」

 

「そこか!!」

「逃がすか!」

「こっちだー!早く!」

「腕か足を狙え!殺すじゃない!」

「いや、逃がすくらいなら殺せ!!」

 

「エレベーターに!・・・間に合わない!!くっ・・アキトォ!!」

「撃てェ!!」

 

 

パンッ!‥パンッ!‥パンッ!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

宙に浮く感覚。

 

背中の痛み。

 

両手を広げたアイツの後姿。

 

発砲の音。

 

赤い鮮血。

 

閉まるドア。

 

そして・・・

 

・・・覚えているのはそれだけだ。俺の虚ろな意識はそこで途絶えてしまった。

 

 

(・・・・・・)

 

 

気付いた時にはもう地球にいた。病院の、ベッドの上。

身体のいたる所に針が刺さり、俺に命を注いでいた。

そこで聞いたことは四つ。

 

ネルガルの動きが直前で敵に知られたこと。

俺の身体はもうボロボロだということ。

一人の少女を助けたということ。

 

そして・・・

 

ユリカも、アイツも、ここにはいないということ。

 

 

(あの時・・・俺が動けていれば・・・!)

 

 

拳を握り締める。その拳をそのまま自分に打ち付けたい衝動に駆られる。

 

 

(・・・いや、やめよう)

 

 

そんなことは過去に何度もやった。今はそんな無駄なことをしている場合ではない。

 

療養中に、それまでの全てを聞いた。

ヒサゴプラン、反地球連合、ボソンジャンプの生体実験、A級ジャンパーの誘拐、イネス・フレサンジュの偽装死。

- 迂闊に手を出せないということ。

 

・・・自分が情けなくなった。俺はここで何をしているのか。

どうしようもなくなって、俺は叫んだ。

でも、声は出なかった。

悲しくて、悔しくて、俺は泣いた。

でも、涙は出なかった。

変わりに体中が発光し始めた。俺はどうなってしまったのだろう・・・

 

俺は五感を失っていた。

 

絶望した。俺はどうすれば・・・何もできないまま・・・ここで・・・

しかし、希望の光が差した。

他人との五感の共有。同調。そんなことができるらしい。

その相手として、あの日救出された例の少女が挙げられた。

 

『ラピス・ラズリ』

 

「瑠璃石」の名を持つその少女は、俺の期待に十分応えてくれた。

ラピスのおかげで日常生活はもちろん、失われていた五感も少しずつ、本当に少しずつだが回復の兆しを見せていた。

彼女には感謝している。心から。ラピスがいなかったら今の俺はない。

 

そんな彼女に、俺はたまに質問をする。彼女の過去に関する質問を。

彼女はネルガルの研究所で生まれた。その研究所が火星の後継者、北辰達に襲撃を受け・・・その後は分かるだろう。

奴等の目的は遺伝子操作を受けた試験体の奪取。

襲撃後の研究所は、それは悲惨な光景だったらしい。

 

その一部始終を見ていたショックからだろうか。度重なる実験からだろうか・・・

彼女はたびたび記憶が飛んでしまうのだ。

それは十分前だったり、一年前だったりまちまちだが、助けられる以前の記憶はほとんど全滅している。

だから、彼女に過去の事を聞くと決まってこう答えるのだ。

 

 

「・・・覚えてない」

 

 

と。

過去を聞くたび少し辛そうな顔をする彼女。しかしその『思い出す』という行為が記憶欠如の改善に繋がるらしい。

だから俺は聞くことをやめない。彼女に少しでも恩返しをしたいのだ。

 

しかし、不思議なこともあった。

ネルガルの研究所では試験体を番号で呼ぶという。奴等の施設でも同じことだった。

理由は簡単。その方が管理をしやすく、試験体に情が移りにくいためだ。

 

彼女に名前はなかった。

 

だが救出されたとき 『ラピス・ラズリ』 という名前は、彼女自らが名乗ったらしい。

研究所の誰かが名付けたのだろうか?

いや、単にその言葉をどこかで聞いて、記憶していただけかもしれない。

しかし彼女が覚えていたということは、よほど強く印象に残っていたのだろう。

 

今では滅多にそんなことはないが、当初彼女の記憶は頻繁に飛んでしまっていた。

さっきまで会話をしていた彼女が突然俺を離れ 『・・・だれ・・・!?』 と怯えるのだ。

人の名前を忘れるなど日常茶飯事だった。自分がどこにいるかも分からなくなった。

急に倒れ、目を覚ましたときにはその記憶のほとんどを忘れていたこともあった。

 

しかし自分の名前だけは、ただの一度も忘れたことはなかった。

 

ある日、自分の名前が好きか?と尋ねる。

「すき」

と答えた。

 

何で好きなのか?と尋ねる。

「・・・覚えてない」

と答えた。

 

やはり鮮明ではないのか、他に彼女が覚えていたことといえば北辰の・・・いや、もうやめよう。

 

ラピスは、ラピスだ。

 

 

プシュ!!

 

 

ドアが開く。

アカツキと、ツクオミが顔を出した。

 

 

「やぁやぁ、お待たせしちゃったねぇ」

 

「御託はいい・・・さっさと用件を言え」

 

「おお怖い。ツクオミ君」

 

「はっ。・・・北辰が地球に来ている」

 

「・・!!」

 

「狙いはA級ジャンパー・・・貴様だ、テンカワ・アキト」

 

「・・・上等だ」

 

「そこで貴様をエサに使い、奴らをおびき寄せる。待ち伏せ場所は霊園だ」

 

「なぜ」

 

「街中では他人に危害が及ぶ」

 

「墓なら無駄に人はいない。見渡しもいい。隠れる場所も十分にある・・・か」

 

「そういうことだ。日もフレサンジュ博士の三回忌に合わせた。不自然なところもない」

 

「ああ」

 

「貴様の服装は不自然だが。喪服に見えないこともない」

 

「・・・・・・」

 

「ま、そんなとこだね。ツクオミ君、もう下がってもいいよ」

 

「・・・御意」

 

 

アカツキに一礼すると、そのまま部屋を出てゆく。

アキトの正面にドカッと腰を下ろすアカツキ。

「さて・・・」と腕を組み、話し始めた。

 

 

「名無し君のことかな」

 

「ああ。・・・間違いない。あの機体に乗っているのはアイツだ」

 

「そうか。君がそう言うならそうなんだろうね」

 

「ああ。でも・・・」

 

「でも、違う人間のようだった・・・と」

 

「・・・ああ。何か情報は?」

 

「以前あの日以来情報なし。探ってはいるだけどねぇ・・・ーにもこーにも。ま、普通に洗脳じゃないの」

 

・・・ミカズチ

 

「ん?なんだい」

 

ミカズチ。アイツのもう一つの名前らしい。それでも探りを入れてみてくれ」

 

「了解。人使い荒いねぇ、君も。・・・どこに行くだい?」

 

 

席を立ち、廊下に出ようとするアキトに訊ねる。

 

 

「・・・サレナの様子を見てくる」

 

「そうかい。テンカワ君」

 

「・・・?」

 

「ま、気張るのは勝手だけど、無理はしないことだ」

 

「・・・ああ」

 

 

プシュ!ウゥゥ・・・ン

 

 

「やれやれ・・・僕も甘いねぇ」

 

 

ソファに横になり、天井を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ルリ、落ち着いた・・・?」

 

「・・・はい」

 

「もう、大丈夫みたいね」

 

 

やさしく声をかけるユキナ。その腕の中のルリの震えはもう止まっていた。

 

 

「正直、ワケ分からないことだらけだよ・・・アキトさんとユリカさんが生きてて、カイトも生きてて・・・」

 

「・・・・・・」

 

「カイトは敵で、みんなの事忘れてるみたいで、ナデシコを襲ってきて・・・」

 

「・・・」

 

「・・・でもね」

 

 

ユキナの顔を見上げるルリ。その瞳をまっすぐ見つめるユキナ。

 

 

「アンタが元気で、カイトが元気だったなら、まずはそれでいいじゃない。カイトが生きてたんならそれを喜びなよ」

 

「あ・・・」

 

「気になることがあるだったら、今度会った時にでも聞けばいいのよ!『ずっと待ってたのに、その態度はなんだー!』って」

 

「・・・ふふ」

 

「それにアンタのアイツが好きだ!って気持ちは変わってないでしょ?」

 

「・・・はい。今でもずっと、カイトさんが・・・好きです」

 

 

そう。それは間違いない。三年間、一度も忘れたことはなかったのだから。

今でも感じる、この心を満たすあの人への想い。

 

 

「うん。その気持ちがあれば大丈夫!昔から言うでしょ?ドキドキ恋する乙女は無敵って!」

 

 

身体を離し、ベッドを降りるユキナ。置いてあったカバンを持ち上げる。中からファッション雑誌を取出しルリに渡す。

 

 

「これ、お見舞い!ヒマっぽいしね。じゃ、そろそろ帰るね。もうすぐ部活だし」

 

「はい」

 

「大丈夫!チャンスはいくらでもあるだから!生きてさえいれば・・・ね」

 

「ユキナさん・・・」

 

 

少しうつむいた後、すぐに顔を上げる。そしてVサイン。

 

 

「がんばれ!ホシノルリ!!」

 

 

そう言い残して、部屋を出て行った。

「わっ!廊下を走らないでくださ!!」

「ご、ゴメンなさ〜!」

(ありがとうございます。ユキナさん)

 

 

ふとテーブルの隅のコミュニケが目に付いた。なんとなく手に取る。

 

 

(あ、着信履歴が・・・)

 

 

そこには仲間の名前があった。たくさん、たくさん。みんなの名前があった。

中でも『マキビ・ハリ』と表示された名前は、着信の実に五割を占めていた。

そして、大量のマキビ・ハリの後に入っている名前は必ず『タカスギ・サブロウタ』だった。

 

ルリはその名前の主に連絡を入れた。どうしても、伝えたいことがあって。

 

 

ピ!!

 

 

「こんにちは」

 

《ぶほぉ!!??》

《おわぁ!!吐きやがったコイツ!!》

《ごほ!ごほぉ!!・・はぁ、はぁ・・か、かんちょう!?》

《おいおい・・・ハデに飛び散ったな》

 

 

どうやら二人は食事中だったらしい。遅めの朝食だ。

 

 

《よかった〜!!目が覚めたですね!!》

《艦長、元気そうでなによりです。あとハーリー、鼻から麺出てるぞ

ーことはもっと早く言ってください!!!》

《いや、狙ってるのかと思ってな

《そんなワケないでしょぉ〜!!》

 

 

いつも通りの二人漫才を見ていると、自然に笑みがこぼれた。

 

 

《・・・あ》

《お前、艦長に笑われてるぞ・・・》

《えええええー!!そんなぁぁぁぁぁ!!!》

 

 

そして言った。本当に・・・

 

 

「ありがとうございます。ハーリー君、サブロウタさん」

 

 

ありがとうございます。みなさん。

 

私、がんばります。

 

ミカズチだかなんだか知りませんけど。

 

そんなのに負けません。

 

絶対に、私のこと思い出させてみせます。

 

そして言ってやるです。

 

懐かしい、あの言葉を。

 

だからその時は・・・

 

 

(覚悟してくださいね、カイトさん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- ネルガル重工本社ビル 

- 地下格納庫 -

 

 

「・・・以上です」

 

「ああ・・・行くぞ、ラピス」

 

 

先の戦闘で大破したサレナ。その修理状況を確認すると、じっとその様子を見ていたラピスに声をかけた。

 

二人並んで暗い廊下を歩く。どこまでも続く長い廊下。二人の足音以外、何も聞こえない。

その時、不意にラピスが口を開いた。

 

 

「今・・・一昨日の事考えてた?」

 

 

横から上目使いにアキトを見上げる。

いきなりで何のことだか分からなかったが、アマテラス襲撃のことだと理解する。

 

 

「ああ」

 

「昨日・・・思い出したの」

 

「なにを」

 

「わたし・・・会ったことある」

 

「?だれと」

 

「あの・・・金色の機体に乗っていたヒト」

 

「・・・!なに」

 

 

歩みを止め、ラピスに向き直る。

彼女が過去を語るのは、ここに来てはじめてだろう。

ラピスは繰り返す。

 

 

「あのヒトに・・・会ったことある。わたし、あのヒトの顔・・・覚えてる

 

 

こちらに向き直すラピス。とても綺麗な瞳をしていた。

 

覚えている・・・アイツを・・・?

 

アイツと会ったことがある?

 

あの実験施設。そこで他の実験体と会うという機会は限られている。

廊下ですれ違うか、一緒に実験を受けるか、だ。

覚えているということはおそらく後者だ。

なんにせよ、それはとてもいい思い出ではない・・・きっと思い出さない方がいいことだろう。

 

 

「あのヒトは・・・」

 

 

「ラピス・・・」と話を切ろうとした時、予想外の言葉が聞こえた。

 

それは最後まで・・・『アイツ』が『アイツ』で在り続けた証だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしに名前をくれたヒト・・・」

 

 

「・・・!」

 

 

 

 

そのとき、頭の中で何かがはじけた。

 

 

 

 

「名前がないのは可哀想だって、『わたし』をはじめて呼んでくれたヒト」

 

 

 

 

ああ・・・そうか。そうだったのか。

 

 

 

 

「いつもわたしに話しかけてくれたヒト」

 

 

 

 

まったく・・・お前らしいよな。

 

あの子の名前、そのままかよ。

 

 

 

 

「あのヒトがいなかったら・・・きっとわたし、壊されてた

 

 

 

 

ラピス・ラズリ・・・

 

『ルリ』

 

 

 

 

「いつもわたしをかばってくれた」

 

 

 

 

お前も怖かっただろうに、辛かっただろうに、寂しかっただろうに・・・

 

 

 

 

「痛いこともいっぱいされたけど、『がんばれ』って言われたから、がんばった」

 

 

 

 

なのにお前は人のことばっかり気にして・・・

 

お人好しにもほどがあるよ。

 

 

 

 

「ラピス・ラズリ・・・いい響き・・・わたし、とっても気に入った」

 

 

 

 

ほら、名前気に入ったってさ。

 

なあ・・・聞いてるか

 

 

 

 

「あのヒトが、わたしを呼んでくれるだけで、とってもとっても嬉しかった。判ったから、わたしはちゃんとここにいるだって」

 

 

 

 

お前はこの子を救っただ。

 

・・・俺も救われた。

 

そして今も・・・救われてる

 

 

 

 

「?アキト・・・泣いてる

 

 

 

 

なら今度は 『俺達』が借りを返す番だな。

 

絶対に助けてみせる。ユリカを、お前を・・!!

 

 

 

 

「泣いてなんかないさ」

 

 

 

 

絶対にまた会わせてやる、お前の大好きなルリちゃんに!!

 

そしてラピスにも・・・

 

今度は五人で・・・屋台を押すだ!

 

 

 

 

「ううん。泣いてる

 

 

「・・・あ」

 

 

 

 

もう流れないと思った涙が流れていた。

 

口に入ったその液体が少し・・・ほんのちょっとだけ『しょっぱい』と思ったのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

「!・・・・・・これで、泣いてないだろ?」

 

 

 

 

涙をぐいっと腕で拭う。マジマジと見つめるラピス。

 

 

 

 

「うん。わたし、あのヒトの名前、教えてもらった」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

「・・・・ん・・・・・・ん・・・・・・・・・!」

 

 

 

「ラピス?」

 

 

 

「・・・・・・覚えてない・・・どうして・・・・・・どうして・・・?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「どうして・・・絶対忘れないってヤクソクしたのに・・・わたし・・・・・・忘れちゃダメなのに・・・」

 

 

 

いつもより、少しだけ暗い表情。

 

涙も流さず泣いているラピスを、やさしく包み込む。

 

 

 

「また、覚えればいい。今度は忘れないようにすればいいんだ」

 

 

 

「・・・うん」

 

 

 

「よし。いい子だ」

 

 

 

「うん・・・おしえて・・・あのヒトの名前」

 

 

 

「ああ。よく聞くだぞ」

 

 

 

 

方膝をつき、彼女に視点を合わせた。

 

 

 

 

「アイツの名前はな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カイト』っていう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも〜!YOUです。

ごめんなさい。とりあえずいつもどおり謝っときます。

今回色々詰め込みすぎて疲れました〜。

しかも長い!!文ばっかり!!妄想100%!!!!

そしてこのあとがきも今回長い!!

 

カイトにはラピスの名付け親になってもらいました。

彼なら、どこにいても他人を気遣うのではないでしょうか。

そして、少しでもルリを感じていたい。

だから雰囲気が似ていた彼女に「ラピスラズリ」という名前を与えただと思います。

もちろん、善意からです。

身代わりといってはそれまでですが、ラピスがいることでカイト自身も救われていただと思います。

救われたのはなにもラピスだけではないのだと。

そう思いたいです。

ま、そのことはまた機会があったら、ということで。

短編にして書いてみるのも面白いかも。

 

オリジナル設定がほとんどですので、公式と違うところがあるかもしれませんが・・・

お願いです!ミノガシテクダサイゴメンナサイ!!←ちょっと可愛く書いてみました。

 

そして、この第四話の主役と言っても過言ではないでしょう彼。

ツクオミ・元一朗

カタカナで苗字だけ書くと誰かわからなくなるという素敵なお方です。

実際読み直していたとき、自分で書いたのにもかかわらず、

「ツクオミ君?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、月臣か」

と、ザ・ワールドをくらったような状態に陥りました。

さらに思い出したところで特に嬉しくもないという後味の悪い豪華特典付。

超燃ゑる・・・!

 

 

では、次回です。

 

レッツ宇宙!!レッツ墓!!レッツ月!!(英語書けません)

そして我らのルリルリは!?
あと、次回タイトルの元ネタわかった方すごいです。

 

 

 

 

次回

 

第五話

 

【強襲、悲しみの『追撃者』】

 

 

あなたはカイトさんです

 

 

 

 

 

お楽しみに!

いや、たいした展開ないっスよ。

 


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