「護衛艦サイネリア、ムスカリ、共に沈黙!!!」
「ステルンクーゲル部隊、第一、第二、第四小隊全滅!!だめです!!押し切られる!!」
アマテラス防衛部隊旗艦「デンドロビウム」。そのブリッジが混乱に包まれる。
無理もない。
統合軍、ヒサゴプランが誇るアマテラス防衛部隊のもう半数が撃破されているのだ。
「護衛艦ベゴニア撃沈!!!・・・もう・・・」
「護衛のステルンクーゲル部隊、全滅!!!残りは後継者側のものです!!」
「っ・・・!!先ほどの黒い機体ではないのか!?」
「わかりません!!なにもわかりません!!!」
オペレーターは、かつてない事態に混乱し、頭を横に振る。
皆も同じだ。
なんとかこの場を凌ごうと必死になる者、諦め、絶望し、自暴自棄になる物、逃出そうとする者・・・
様々だが、彼らの頭に浮かぶことは一つだった。
死ぬ・・・のか?
「・・・後継者側の機体か・・!!」
今、アマテラスの残存部隊は壊滅させられようとしていた。
突如ボソンアウトしてきた機体。たった、一機に。
「!!??敵、こちらに向かってきます!!!」
「なに!!??」
それはブリッジの真正面で停止した。
その色・・・黄金。
「!!敵、強制通信!音声出ます!!」
ブリッジにいるもの、いや、艦内にいるもの全員がその言葉を待った。そして祈った。
どうか・・・未来を・・・!
《じゃあな》
宇宙を行くその姿は、流星のようにも、雷のようにも見えた。
機動戦艦ナデシコ
〜The
Prince of darkness〜
U
― 傀儡の見る『夢』 ―
第三話
【『Shiver
Gold』】
「旗艦デンドロビウム撃沈!!護衛部隊壊滅!!!」
「そんな・・・!」
「・・・・・」
言葉を失っていた。
旗艦デンドロビウムの撃沈。
それはアマテラス防衛部隊の事実上全滅を表していたからだ。
彼らとて無能ではない。いや、有能であるからこそ艦を任され、パイロットを任される。
その彼らが、いとも簡単に堕とされた。
二匹目の幽霊、その得体の知れない「モノ」に。
艦内を沈黙が支配しようとした直前、ルリが口を開いた。
「ナデシコB、戦線を離脱します」
「え?助けには行かないんですか?」
「だめ。敵の正体がわからない以上、ミイラ取りがミイラになる可能性があります」
「はい・・・」
「ナデシコBは、今収容している負傷者、避難者の安全を最優先します」
こんなときこそ冷静に。
「ナデシコB、タカスギ機回収後、最大戦速で宙域を離脱。チューリップを通り、安全圏内まで避難します」
「「「了解!!」」」
ルリの言葉に、皆が各々の作業を始める。
「サブロウタさん!聞きましたか!?早く帰艦してください!」
《はいはい・・・わーってるよ。こっちはもう一人しょってるんだから・・・》
「!敵反応!!レーダー、センサー捕捉しました!!」
「《え゛?》」
- アマテラス -
- 遺跡ユニット -
「ククク・・・あれが堕ちるのは時間の問題・・・女を取るか・・・きゃつらを取るか」
《・・・・っ!!!!》
ジャンプするサレナ。巻き起こる、爆発。
《隊長、準備できましてございます・・・我々も・・・》
「うむ」
遺跡ユニットの周りに取り付く六連と夜天光。
光が集まる。
「・・・あはれよな、テンカワ・アキト・・・そして・・・」
光は消えた。「彼女」と共に。
- ナデシコB –
「敵所属不明!!全長10m前後、人型、金色の機体です!!」
「金色!」
《間違いねぇ!もう一匹の幽霊だ!!》
「かまいません、早く帰還してくださいサブロウタさん」
「!!!敵、一直線に当艦に接近!!すごいスピードです!!もう肉眼に入ります!!!」
「えええ〜!?ど、どこに!?」
ハーリーがキョロキョロと周りを見渡す。
目の前にサブロウタのウインドウが開く!
《このバカ!真下だ!!》
グアアアアアン!!!
「わあああああ!!」
「きゃ・・・!!」
激しく揺れるナデシコ、エンジンの一部が半壊。
「っ・・・被害状況を・・・」
ルリは指示を出そうと顔を上げた。その目に飛び込んできたもの。
黄金に輝く機体、その手に掴まれた、上半身だけの青いエステバリス。
《ぐ・・・あ・・・》
《てめー!!大丈夫か!?くっ・・オレをかばったりするから・・・!!》
リョーコの叫びが聞こえる。
「あ・・・あ、て、敵パイロットからの強制通信!音声、入ります!」
(!オモイカネ)
ルリ、その一瞬を逃さずオモイカネにコネクト。強制通信の侵入路から敵機体に逆侵入、掌握開始。
そして、その声が聞こえた・・・
《これが宇宙軍最強の戦艦だ?・・・期待はずれもいいとこだな》
「・・・・・・・・!」
ドクン!!
心臓が 大きく 一回 鳴った
聞こえてきた声 それは「あなた」の声
― 僕はもうナデシコには戻れない・・・ ―
ドクン!!
間違えるはずがない
でも・・・
そんなの、ありえない
あなたは・・・
《・・・ま、お前等で最後だ。少しもの足りねェが・・・》
― 僕はルリちゃんの大切な思い出になれるかな・・・? ―
ドクン!!
だってあなたは・・・!
カイトさんは・・・!!!
《死ねよ!!》
「!!」
ドオオオオ・・・・ンン!!!
ブリッジ真正面での爆発、誰もが死を覚悟した。
しかし、いつまでたっても死は訪れず、変わりに聞こえてきたのは、声。
《ちぃ!!次元跳躍か・・・?なんだテメェ!!》
《・・・お前だけは・・・》
急な攻撃を受け、一瞬ひるむ黄金。
その視線の先、姿を現すブラックサレナ・・・!
「え・・・あれは・・・さっきの!?」
《アキト!!》
「・・・!」
サレナが完全に姿を現すと同時に敵システム表層部の掌握が完了。
ナデシコをかばうように黄金の機体の前に立ちふさがるサレナ。
[敵コックピットのウインドウを開きますか、ルリさん?]
オモイカネにうなずいて答えるルリ。
そして、アキトは叫んだ。
《お前だけはこの子を傷つけちゃだめだ!!カイト!!!!》
ヴヴン!!
同時に、大きくブリッジに映し出される敵コックピット。
映っていたのは・・・
・・・時が・・・止まった。
《な・・・!?カ、カイト!?お、お前、カイトじゃねーのか!?》
私は今・・・息をしているだろうか。
ゴオオオオン!!
私は今立っている?それとも座っている?
「きゃあああああ!!!」
「っ!くうううぅ!!!」
ここはどこだったろう・・・もう「私」が誰なのかさえ考えられない。
「!!っ・・・!!敵グラビティブラスト!フィールド、貫かれました!!」
「左舷被弾!!フィールドユニット破損!!出力低下ァ!!」
「ミサイルも数発・・・!!着弾確認!!」
今私が知覚できるのはウインドウに映ったカイトさんの姿だけ。
「フィールド出力40%まで低下!危険です!」
「整備班がユニットへの移動許可を求めています!」
「!?避難民の中に混乱が生じているようです!!艦長、指示を!!」
「艦長・・・艦長!?どうしたんですかぁ!!しっかりして下さい!かんちょお!!」
きっと脳がカイトさん以外の情報をそぎ落としてしまったんだろう。
ハーリーの言葉がむなしく響き渡る。
その間にも状況は暗転してゆく。
カイトさんの声しか聞こえない。カイトさんしか見えない。カイトさんしか感じない。
《やめろ・・・!カイト!!》
カイトさん、カイトさん、カイトサン、カイトサン・・・
《ち・・・!!なんなんだテメェ!!俺はミカズチだ!!カイトとかいう野郎じゃねえ!!》
「・・・・え」
急激に頭が覚めてくる。
《その艦にはルリちゃんが乗っているんだ・・・!》
《ぐだぐだうるせェんだよ!!そんなヤツ知らねェ!!》
ボーっと男の映ったウインドウを、目の前に繰り広げられる漆黒と黄金の戦闘を見つめるルリ。
その目には光がない。
『ミカズチ』
必死に呼びかけるハーリー。
答えはない。
ナデシコBの混乱は増してゆく。
私からカイトさんを奪った忌々しい名前。
「かんちょう!・・・あ!サブロウタさん!大丈夫ですか!?サブロウタさん!!」
《気絶してるみてーだ!!オレはまだ動ける!こいつを持ってくから、ハッチ開けてくれ!!》
「あ・・・?は、はい!!」
背筋が冷たくなる。暑くもないのに汗が吹き出る。
リョーコの声に応えるハーリー。
急いで格納庫に通信を入れる。
(ボクがしっかりしなくちゃ!)
ミカズチ・・・
「こちらブリッジ!タカスギ機が入ります!ハッチの開放を・・・」
「敵両肩に再び重力波反応!!!」
「ええええー!!」
カイトさんの本当の名前・・・
「砕け散れェ!!」
「させるか!」
・・・・・・爆発。
喉がカラカラになって、身体が震えだす。
サレナが取り付く前に、黄金の両肩の砲が砕け散る。
爆煙に包まれる黄金。
「ちいぃ!!二発はもたねえか!!」
「・・・!ラピス、ヤツに取り付ついて跳ぶ!とにかく、遠くに・・・!」
ミカズチ・・・
《ブリッジ!こちらドック、エステバリス二機回収しました!!》
「あ、はい!」
《あと・・・降りてきた女性が、エステバリスをよこせと・・・》
「はぁ!?」
《つべこべ言ってねーで早くエステを貸せ!!》
「わああ!!」
・・・・・・
ハーリーの目の前に大きく開くリョーコのウインドウ。
《エステのあまりくらいあんだろ!?早くしねーと・・・!!アキトと・・・カイトが・・・!!!》
「サブロウタさんの一機しか積んでませんよおぉぉ!!」
《なにぃ!!!》
ちがう・・・!
爆煙に、黄金に突っ込むブラックサレナ。
だが・・・
「なに・・!?」
そこには何もなかった。
あるのは、どこまでも広がる闇・・・
《アキト!》
ラピスの声。
理解したときにはもう遅かった。
グシャア!!!
ちがう・・・!違う・・!!
「く・・・!ボソンジャンプだと・・・!!」
「はっ!詰めが甘いんだよ」
後ろに現れた機体は、その巨大な爪でサレナのバックスラスターを丸ごともぎ取っていた。
爆発。
大破するブラックサレナ。
その漆黒の鎧が宇宙に飛び散る。
「ふ・・はは・・・はははははは!!!・・・・・・さぁ、これでラスト!!!」
その鈍く光る爪が、ナデシコBのフィールドを引き裂いた。
あなたは・・・
《ふ・・はは・・・はははははは!!!》
マキビ・ハリの目の前で、その男が狂ったように笑い声を上げている。
クルーの一人も声を出さない・・・いや、出せないのか。
艦内各セクションからの悲鳴にも似た報告は、止むことのない嵐のように続いている。
小さなウインドウは無数に開き続ける。
しかしそんな艦内とは裏腹に、ブリッジは静まり返っていた。丁度、嵐の中心のように。
目の前で起きていることを、皆、まるで映画でも見ているかのように見つめていた。
《さぁ、これでラスト!!!》
近づいて来る黄金の機体。その爪を振りかぶる。
ふと、彼女を見る。唇が微かに動いていた。震えているのだろうか・・・
雪のように白い肌を持った彼女は、こんなときでも美しかった。
涙が、あふれた。
彼女と一緒なら、いいか。
そう、思った。
その横顔、唇が、今度は、はっきり、動いた。
あなたは・・・!!
《じゃあな》
「カイトさん!」
ヴォォォン!!!
切り裂く音。それは死の音。
・・・・・・・
(ボク・・・もう死んじゃったのかな・・・艦長・・・)
目を開ける。
彼女はちゃんと、そこにいた。
自分達を貫くはずだったその爪は、ブリッジに食い込む直前で停止していた。
そして、その声は聞こえた。確かに。ハッキリと。
自分たちを殺そうとした、目の前の見知らぬパイロットの口から。
《ルリ・・・ちゃん・・・?》
ルリの身体がビクッと震えた。
《え・・・!?ぐぅ!!がああぁぁぁぁ!!!》
男は、突如頭を抱えて叫び出し、機体はナデシコを大きく離れ、痙攣したような奇妙な動きをはじめる。
突然のことに、誰も声を出せない。
先ほど男を呼んだ、ルリでさえも。
男は叫び続ける。
《あ゛ああああ!!!ふぅう!!違う!俺はミカズチだ!!カイトじゃねぇ!!》
ところ構わず頭を打ち付ける。
《ホシノ・ルリ!!お前のことも知らねぇ!!・・・いや・・・知っている・・・?なんで・・・名前・・知って・・・》
震える両手を見つめ、つぶやく。
《なんなんだよ一体!?俺は・・・僕は・・・だれだ・・・?》
《君はミカズチ。火星の後継者のパイロットだよ》
男のコックピットからくぐもった音声が聞こえてきた。
その声は続ける。ゆっくりと諭すように。
《・・・君はミカズチ。火星の後継者のパイロットだよ》
《俺は・・・ミカズチ・・・火星の後継者の・・・パイロット・・・》
呆けたように言われたことを繰り返す男。その目から生気が消えてゆく。
「・・・!・・・!!」
ルリは叫んでいた。
精いっぱい、力いっぱい叫んでいた。
ちがう!ちがいます!あなたはカイトさんです!!
お願いです!私を見てください!カイトさん!カイトさん!!
伝えたいのに・・・
届けたいのに・・・
極度の緊張と疲労、激しすぎる胸の鼓動、カラカラに乾いた喉・・・
ついにルリの想いは言葉にはならなかった。
《さぁ、君はだれだい?》
《あ・・・おれ・・・は・・・俺は・・・!!》
男の目に光が戻る。
憎しみの・・・光が。
《・・・!!ちぃぃっ!!》
《おっと、今日はここまで》
《邪魔すんじゃねぇ!!こいつら・・・!!》
《君は自分が思う以上に疲労してる。それに宇宙軍の応援が来ちゃったみたいだしねぇ》
レーダーに次々と映る宇宙軍の戦艦。真っ直ぐにこちらに向かってきている。
(それにどうせ今のミカズチではナデシコを堕とせない)
《っ〜〜!!!!!・・・女ァ!!》
何の感情もこもっていない声で、憎しみがこもった目で。
《次は・・・殺してやる》
黄金は、跳んだ。
不思議な色のボソンの光と、残酷な言葉を残して。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《・・答しろ!応答しろ!!こちら地球連合宇宙軍第・・・》
「・・あ!?はっ、はい!こちら第四艦隊所属試験戦艦ナデシコB・・・」
オペレーターの声に、皆が正気に戻り始める。途端、慌しくなるブリッジ。
「各部被害チェック開始」
「館内放送。みなさん、大丈夫ですか?だいじょうぶですか〜?もう危険はありませんよ〜」
「怖かった〜・・・」
「黒い方も消えちゃったみたいね」
「うん・・・味方だったのかな・・・」
少しずつ、緊張がほぐれてゆく。
「はっ!!あ・・・サブロウタさん!!サブロウタさん!!」
《聞こえてるよ・・うるせぇなぁ》
「よかったぁ〜〜!!無事だったんですねぇ!!」
《あんま無事でもないけどな》
少しおどけた調子で腕を上げるサブロウタ。その様子に心底安心するハーリー。
《にしてもあの金ピカのヤツ・・・とんでもなかったな》
「・・・ええ。あんなのが敵にいるとなると厄介ですね」
《ああ・・・っておいハーリー!お前・・・泣いてるのかぁ??》
「え・・・?あ、ああ!!なな泣いてません!泣いてませんよぉ!!」
いつもの調子に戻りつつある艦内。一人うつむいているルリ。
そんなルリの前にウインドウが開く。
《なぁ、ルリ・・・アイツは、アキトだよな・・・?もう一人は・・・カイト・・・なのか?》
リョーコの問いには答えられなかった。でも、僅かに動くようになった唇、喉の奥から、一番伝えたかった言葉が溢れ出した。
誰にも聞き取れないほど、小さな声で。
もう流さないと誓った、涙とともに。
「あいたかったです・・・カイトさん・・・!」
- 地球連合宇宙軍機密ファイルより一部抜粋 -
- ・・・・・・この襲撃により、アマテラスは全壊。 -
- ヒサゴプランにおける最重要拠点を失うこととなった。 -
- 今後、この事件にかかわった白色の未確認戦艦、黒色の未確認機体、金色の未確認機体の危険度をS+とし –
- この悲劇の戒めとする為 –
- 直接的にアマテラス及び防衛部隊を壊滅に追い込んだ金色の機体を -
- 『Shiver
Gold』(戦慄の黄金)と呼称、最優先破壊目標に定めることとする・・・・・・ -
To
Be Continued。。。
あとがき
『Shiver
Gold』(戦慄の黄金)?ええ。パクリですよ。
ごめんなさい・・・好きなんですブルー○ィスティニー。憧れだったんです。
その憧れをそのままカイトに重ねました。ごめんなさい。
遅れましたが、どうも〜!YOUです。
や〜!!マイッタまいった!!・・・・・・なんか今回ダークですね。自分らしくありません。
てかおめー!!カイト!!ルリちゃんになんてことをォォォォォ!!!!!
まぁ、そうです。カイト君、敵です。
ってゆーか、カイトだったりミカズチだったり・・・あ゛ーー!!紛らわしい!!
めんどくさいのでこの回は『男』で統一しました。
これからなんで敵にいるのかーとか、なんでミカズチなのかーとか、イタイ設定を明かしてゆくことになってしまうでしょう。
いや、多分皆様の思った通りでしょう。
では次回。
ルリご一行は傷ついたナデシコを癒すため地球へ!
その時アキトが、ラピスが!その過去を明らかにする!そして、我らのルリルリは!?
次回
第四話
【アイツの『名前』】
今でもずっと、カイトさんが・・・好きです
お楽しみに!
いや、たいした展開ないっスよ。
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