《ラピス・・・準備はいいか・・・》

 

 

 

 

「うん、アキト・・・いつでもいける」

 

 

 

 

《よし・・・もう一度確認する》

 

 

 

 

 

 

 

 

- ネルガル重工 地下ドック -

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴヴヴ・・・・ンン

 

 

 

 

低い音を響かせ起動するブラックサレナ。

 

 

 

《俺が先にアマテラスに跳ぶ。そこで足の速い機動兵器を引きつけ、一旦引く》

 

「・・・」

 

《このタイミングでお前は敵の懐に跳び、グラビティーブラスト。鈍亀どもを一掃してくれ》

 

「わかった」

 

《俺はそれに合わせて再突入する》

 

「うん」

 

《よし、いい子だ》

 

「・・・」

 

 

 

・・・なんだろう、このあったかいキモチ。

 

「いい子」・・・そう言われるのはとてもスキだ。

 

 

 

《・・・それにはまず・・・》

 

わかってる・・・アマテラス・・・コネクト」

 

 

 

ラピス、アマテラスへのハッキング開始。

その顔に幾重にも分かれた光がはしる。

次々とセキュリティーブロックを突破。あっという間、システム最深層に辿り着く。

 

 

 

「ここは・・・けっこう・・・頑丈・・・」

 

《・・・・・・》

 

「でも・・・どんなに厚い壁でも・・・小さな穴はある・・・」

 

《・・・》

 

「アキト・・・呼びかけて・・・きっと・・・答える・・・」

 

《・・・ああ》

 

 

 

アキトの意識とラピスの意識が重なり合う。

 

 

 

(ユリカ・・・)

 

 

「・・・答えて・・・」

 

 

(ユリカ・・・!)

 

 

「あなたは・・・どこにいるの・・・?」

 

 

 

 

ユリカ!!

 

アキト・・・?

 

 

 

 

(・・・!!)

 

「見つけた・・・システム侵入・・・」

 

 

 

ユリカの『意識』が通った、防御壁の「穴」からシステム最深層への侵入に成功。

 

 

 

「ウイルス・・・侵入」

 

 

 

ピ・・・ピピピピピピピピ・・・

 

 

 

ラピスの周りに次々と「OTIKA」と表示されたウインドウが浮かび上がる。

 

ハッキング成功。

 

 

 

「・・・フゥ」

 

《よくやった・・・ラピス》

 

「うん・・・・・・アキト・・」

 

《・・・?》

 

 

 

無表情のまま、言う。

 

 

 

「死なないで・・・」

 

《・・・・・・》

 

 

 

それには答えずアキトは跳んだ。

 

王子のキスを待ち眠っている、白雪姫のもとへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

The Prince of darkness

U

― 傀儡の見る『夢』 ―

 

 

第二話

【『Nightmare Black』】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- アマテラス -

 

 

「システム復旧はまだか!!早くしろ!!こんなと敵に襲われたらどうするつもりだ!!!」

 

 

一方的に内線を切る。

アズマをイラつかせている理由は二つあった。

一つは事故調査と称して探りを入れてきた宇宙軍の小娘。

いや、こちらはもうどうでもいい。問題はもう一方。

 

「OTIKA」

 

そう表示されたウインドウがアマテラス内部を埋め尽くしている。

システムの故障か、敵のハッキングか・・・

それにより、アマテラスのシステムのほとんどが停止してしまっていた。

 

 

「ぬうううう・・・!!!今日は厄日だ!!」

 

 

どん!!!

 

 

そして自分のデスクをぶっ叩くと、先ほどまで食べていた煎餅の入った容器をひっくり返し、鼻息荒く部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いて!みなさん落ち着いてください!」

「・・・ハーリー君、ドジッた?」

「二列に並んでください!」

 

 

自分の周りに浮かぶウインドウ、それにじゃれて遊ぶ子供たちを見ながらルリはつぶやいた。

 

 

「ほら、静かに!」

《僕じゃないです!アマテラスのコンピュータ同士のけんかです!》

「静かにせんかァ!!落ち着けオラァ!!!」

「けんか?」

「さぁ〜、ならんでくださいねぇ〜♪」

《そうなんです!そうなんですよぉ!》

 

 

二列に並ぶ子供たち。ウインドウを見つめるルリ。

 

 

《アマテラスには非公式なシステムが存在します》

 

 

「OTIKA」

 

 

ハーリーの話を聞きながら、文字をじっと見る。何かがおかしい・・・

 

 

《今の騒ぎはまるでそいつが自分の存在をみんなに教えてると言うか・・・》

 

「OTIKA」

 

《たんにケラケラ笑ってるっていうか・・・》

 

「AKITO」

 

「!?」

 

 

- ナデシコB -

 

 

「あ・・艦長!どこ行くですか!?艦長!待ってください!か〜んちょおぉ!」

 

 

突然走り出したルリを追いかけるハーリー。

といっても本人はナデシコBで座っているので、追いかけているのはコミュニケのウインドウだ。

 

 

「艦長!ちょっと待ってください!どこ行くですかぁ〜!?」

《ナデシコに戻ります》

「え?」

《敵が来ますよ》

「え?」

 

 

インドウにへばりつき、器用にルリの背中を追いかけるハーリー。

それを隣で見ているサブロウタ。

 

 

(・・・すげぇ〜・・・どうやってんだ?コイツ・・・これも愛のなせる業なのか・・・?)

 

 

などと、くだらないことを考えていたが、オペレーターのつげた言葉で我に返った。

 

 

「ボース粒子の増大反応です!!」

「なに!?マジかよ!!」

「ほ、ホントに来た・・・幽霊!?」

 

 

ナデシコBに警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙に一機の機動兵器が姿を現す。

その色・・・漆黒。

 

 

「ラピス、これから行動に移る。状況の報告を頼む」

 

《わかった、アキト》

 

 

まだ遠くに見えるアマテラス。

ユリカの奪還。奴等への復讐。

その甘美な響きがアキトの口元を歪ませる。

 

 

キイイイィィィィイイイ・・・!!!

 

 

《フィールド出力最大・・・まだ加速できる・・・アキト》

 

 

凄まじいスピードで迎撃ミサイルを潜り抜け、一息にアマテラスに接近する。

 

 

(まずは一番厄介な奴らを引き付ける・・・!)

 

 

途中、ステルンクーゲルの部隊と交戦、撃破。

純正のエステバリスパイロットにとって、IFSを使用せず、僅かに機体に命令が遅れるステルンクーゲルなど敵ではないのだ。

 

 

(違う・・・違う・・・・・・そこか!)

 

 

アキトの予測に一歩遅れて、レーダーに十二機の敵影が突如表示される。

十一機のエステバリス2・・・そして、一機の赤いスーパーエステバリス。

 

 

(ステルスシートか・・・)

 

 

敵の数、機体、武器射程、そして『スバル・リョーコ』の存在。

CPUが出した結論は「回避」。

 

 

(もとより、そのつもりだ・・・!)

 

 

急旋回、コロニー外部へと一気に遠ざかる。この間、コンマ一秒。

アキトは、およそ尋常ではない速度でその場を切り替えしてみせた。

しかしこの時、リョーコはそれを超える素晴らしい反応を見せつける!

 

・・・被弾。

 

コックピットに衝撃、フィールド出力63%まで低下。

 

 

(相変わらずさすがだな・・・だが・・・!)

 

 

ブラックサレナ、アマテラス第二ライン上まで後退。追撃してくるエステバリス、ステルンクーゲル部隊。

 

 

(・・・作戦通りだ!)

「・・・ラピス!!」

 

 

ゴオオオオオォォ!!!

 

 

アキトの声と同時にアマテラスの懐、守備隊側面にグラビティーブラスト。多数の爆炎が巻き起こり、ユーチャリスがその姿を現す。

それにより、追撃してきた機動兵器部隊の動きが一瞬、止まる。

 

 

(よし・・・突入する!)

 

 

アキトは再度加速した。

愛しい人のもとへ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッカッカ・・・

 

い廊下に足音が響く。

 

 

「今度はジャンプする戦艦かい?」

 

 

ヤマサキはスーツの上に白衣を羽織ながら、隣にいるカトウに視線を向けた。

 

 

「ネルガルでしょうか?」

 

「さぁ?連中は?」

 

「5分で行く・・・と」

 

 

逆隣にいた黒服が答える。

 

 

「はぁ、大変だぁ」

 

 

プシュ!

 

 

研究室の扉が開き、ヤマサキの声が響き渡った。

 

 

「緊急発令!五分で撤収!」

 

 

一瞬の沈黙の後、慌ただしくなる室内。

上げていた右手を下ろし、カトウに耳打ちする。

 

 

「『彼』・・・もうイけるよねぇ」

 

「はい、声明があればいつでも」

 

「!!十三番ゲート、遺跡専用搬入口オープン!!敵のハッキングです!!」

 

「あ〜らら・・・見つかっちゃったみたいだねぇ」

 

「シンジョウ中佐より打電!・・・プラン乙発動!!」

 

いよいよですね・・・ヤマサキ博士」

 

「うーん、楽しくなってきた」

 

 

目の前のディスプレイにシンジョウの姿が映し出される。

 

 

 

 

《・・・地球の敵、木連の敵、宇宙のあらゆる腐敗の敵・・・》

 

 

統合軍の制服の下から、別の服が現れる。

 

 

《我々は、火星の後継者だ!

 

 

 

 

そして・・・火星の後継者は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- 遺跡専用搬入口 -

- 第五隔壁 -

 

 

巨大な対極紋の壁。行く手を阻むように聳え立つ。

 

 

(・・・)

 

 

静かに壁のコントロールハッチに近づく。

 

ゴオオンン・・・!!

 

赤いエステバリスが天井を突き破り侵入、ワイヤー伝いに強制通信を行ってきた。開くウインドウ。

 

 

《・・・オレは頼まれただけでね、この子が話をしたいんだとさ》

《こんにちは。私は連合宇宙軍少佐、ホシノ・ルリです》

 

 

目の前に懐かしい顔が二つ浮かび上がる。

身体の発光をこらえ、ラピスに指示を出した。

 

 

《あの・・・教えてください・・・あなたは、誰ですか?あなたは・・・》

「ラピス、パスワード解析」

 

 

 

 

『SNOW WHITE』

 

 

 

 

白雪姫・・・

それがパスワード。

 

 

バシュウウウウ・・・!!!!

 

 

壁が開く。

 

 

「時間がない。見るのは勝手だ・・・」

 

 

そう、時間はない。

奴らが来る前に・・・

 

 

《!!なにぃ!?》

 

 

リョーコのエステバリスが壁の中部へと飛び込んでゆく。

 

 

(できるなら・・・君たちを巻き込みたくなかった・・・)

 

 

そこにあるのは、あの遺跡ユニットと初代ナデシコ。そして・・・

 

 

《これじゃ・・・あいつらがうかばれーよ・・・》

 

《リョーコさん・・・》

 

《なんでこいつらがこんなところにあるだよ・・・》

 

 

《それは!人類の未来の為!!》

 

 

ブラックサレナ、エステバリスと遺跡ユニットを挟むように巨大なウインドウが開く。

そこに映った人物・・・

その男の名、クサカベ・ハルキ。

 

 

《クサカベ・・・中将!?》

 

 

そう洩らしたリョーコの右にジャンプフィールドが形成される!

 

 

《アキト・・・!あいつらが・・・来る・・・!》

「!リョーコちゃん!右!」

 

「な!うわ!あっ!ああああ!!」

 

 

突如姿を現した、鬼達の機体、六連。その奇襲に、リョーコは翻弄される。

 

 

「ちっ!」

 

 

即座にブーストを最大にし、六連に突っ込む。

 

 

ガゴオオン!!

 

 

吹き飛ぶ六連。しかし第二、第三の鬼が現

接近戦は不利・・・瞬間、距離をとり両腕のカノン砲を放つ。

HIT!

体勢を崩す六連。アキトそのスキを見逃さず追撃。多大なダメージを与える。

 

 

《アキト、上・・・!》

(!)

 

 

ラピスの声に反応、バックスラスター全開で瞬時にその場を離脱、さらに真下に向かって射撃!

 

 

ヴヴン・・・ン!!

 

 

一歩遅れて、アキトのいた場所を通過する六連。そのまま吸い込まれるように、先ほど真下に放たれたカノン砲に着弾する。

さらに攻めてくる六連の攻撃を紙一重でかわしつつ、牽制射撃。リョーコのエステバリスをかばうように前に下りる。

 

 

「お前は関係ない・・・早く逃げろ・・・」

《今やってるよ!》

 

 

リョーコがエステバリスの破損部分を切り離した瞬間、突然辺りに大きな爆発音が響き渡った。

 

 

《な、なんだぁ!?》

 

 

遠くで次々と起こる爆発。

 

 

シャラン・・・・

 

 

爆発に紛れ、この場にはまるで不釣合いな透き通った音が響く。

遺跡ユニットの真上に開くジャンプフィールド。

その周りに次々と現れる六連。

そして。

 

 

『一夜にて・・天津国まで延び行くは・・・瓢の如き宇宙の螺旋・・・』

 

 

「奴」が、姿を現す。赤い衣をまとった、「鬼神」が。

 

 

シャラン・・・・

 

 

 

《女の前で死ぬか?》

「!!!!」

 

 

身体が熱い・・・ありとあらゆる箇所が発光する・・・

 

目の前で花開く遺跡、その中心に「彼女」はいた。

 

愛しくて・・・会いたくて・・・探し続けた「彼女」が。

 

 

《アキトぉ!!アキトなんだろ!?だから・・・リョーコちゃんって・・・おい!!!》

 

 

リョーコの声が響く。

 

 

「滅」

 

 

北辰の声と同時に再び襲い来る六連。

その瞬間天井が爆発。これ以上ないタイミングでサブロウタのスーパーエステバリスが突入。

素早くリョーコの機体を回収すると、そのまま爆炎の向こうへと消えてゆく。

 

 

(よし・・・)

 

 

もう爆発はそこまで来ていた。そんな中激突する、漆黒と、鬼神。

多勢に無勢。

しかし、一対七という圧倒的不利な状況にして、アキトの感覚は限界まで研ぎ澄まされていた。

それにラピスの戦闘補助、ブラックサレナのスペックが手伝い、互角の戦いを演じる!

 

 

「ユリカを・・・返してもらう!!」

 

《クックック・・・》

 

「なにがおかしい!」

 

《いいのか?こんなところにいて・・・》

 

「なんだと・・・!」

 

《女に執着しすぎたな・・・それが仲間を殺すことになる》

 

「な・・・!」

 

 

六連の攻撃が止み、夜天光の後ろに下がる。

爆発の中、真正面に対峙するアキトと北辰。

 

 

 

《人形は動き出す・・・操りの糸を、黄金の鎧を纏い・・・》

 

 

「なにを言っている!!!」

 

 

 

北辰の顔が醜く歪んだ。

 

 

 

 

 

 

ゆけよ傀儡・・・・ミカズチ

 

「!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- アマテラス宙域 -

 

 

ばかばか!!引き返せ!!ユリカとアキトが!!》

 

《・・・艦長命令だ、わりぃな》

 

ルリー!!応答しろー!!聞いてんだろ!!!見てんだろ!!!》

 

 

アマテラスを脱出したサブロウタ。青い機体の腕には、半壊したリョーコのエステバリスが抱きかかえられている。

ルリの戻ってきたナデシコBに、その悲痛な叫びが響く・・・

 

 

《生きてたんだよあいつら・・・!生きてたんだよルリー!!今度も見殺しかよ・・・ちくしょう・・畜生!!》

 

 

戻りたい。

戻って確かめたい。

本当にアキトなのか・・・

あれはユリカなのか・・・

その気持ちは自分も同じだ。

でもそれ以上に、クルーと、収容している避難者の命を危険にさらすわけにはいかなかった。

ルリは、ナデシコBの艦長なのだから・・・

目を閉じて深呼吸。

そして、指示を出した。・・・その時だった。

 

 

「・・・戦闘モード解除」

「!?ボース粒子の増大反応!!前方約80Kmです!!!」

 

「!?」

 

「レーダー、センサー、その他諸々反応なし!!識別不能!相手、応答ありません!!!」

 

「ええええ〜!?またですかぁ〜!?」

 

 

オペレーターの声、ハーリーの声、様々な声がブリッジに響く。

 

 

「ボソン反応消失!!相手の反応、完全に消え去りました!!」

「スキャン開始!・・・・・・だめです!すべて遮断されます!!」

 

「まさか・・・」

 

《もう一体の・・・》

 

「・・・幽霊・・・?」

 

 

ルリのつぶやきは、とたんに慌しくなったブリッジの喧騒に飲み込まれた。

 

 

(カイトさん・・・)

 

 

何故かはわからないが、あの青年の笑顔が頭に浮かんで、消えた。

 

 

 

 

 

 

To Be Continued。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも〜!YOUです。

ごめんなさい。とりあえず謝っときます。

 

え!?カイト(っぽい何か)が出た瞬間終わりかよ!!

これじゃアキトの話じゃんか!!

 

などとお思いの方。

 

ええ、その通りです。

 

というのはウソです。きちんとカイトをストーリーに噛ませる(予定)ですからご心配なく(何の?)!!

 

はぁ・・・今回もだらだらスイマセン。

しかもなんか今回重いし。自分で書いてて胃もたれしました。

ちなみに多分次回も重いです。

暇な方や、憂鬱な気分、アンニュイな気分に浸りたい方は、ぜひ読んでみてくださいね。

おねがいします。

 

 

次回

 

第三話

【『Shiver Gold』】

シヴァー   ゴールド

 

「あいたかったです・・・カイトさん・・・!」

 

 

 

お楽しみに!

いや、たいした展開ないっスよ。


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