− 20分前 −

 

 

 

 

「本当にここまででいいのですか・・・?ルリさん・・・?」

 

車から降り、曇りのない夜空を見上げている少女に、プロスペクターが囁く。

 

「・・・はい・・・ありがとうございました・・・」

 

ルリは一度会釈をすると、そのままスッと夜の闇へと溶けていった。

自分も車から降り、その後姿を目で追う。

 

「ちゃんと家に帰ってくださいよー!・・・・・・うーむ。危ういですねぇ・・・」

 

車に乗り込み、キーを回すと、心地のよいエンジン音が聞こえてきた。

そのままアクセルを踏み込み、顎に指を当て考えた。

 

(まぁ・・・無理もありませんな・・・)

 

景色の色が緑色から灰色へと変わってゆく。

街の灯りが黄色い線となって通り過ぎ、消える・・・

ふと、先ほどのルリの言葉が浮かぶ。

 

 

『少し・・・歩きたいです・・・』

 

 

愛する人を失った悲しみ。

それは失った者にしか判らないだろう。

もし、それを少しでも癒せるとしたなら・・・

 

「!・・・そうですな、アフターケアとまいりましょうか」

 

 

 

 

 

 

ピ!

 

 

 

 

 

 

アタッシュケースに入っていたコミュニケを取り出すと、その電源を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

The Prince of darkness

U

― 傀儡の見る『夢』 ―

 

 

【プロローグ 中編】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・・)

 

 

 

 

近所の公園。

もう人気もなくなったその場所をルリは一人歩いていた。

 

 

とぼとぼ・・・

 

 

ユキナならきっとそんな擬音を口走っただろう。

聞こえるのは虫の音。

見えるのは僅かな家の灯り。

 

 

(・・・・・・)

 

 

そんな灯りを見ていると急に寂しくなり、涙が滲んできた。

 

 

(・・・・・・!)

 

 

でも泣かなかった。

滲んできたものを手の甲で拭い、ずんずん歩いた。

 

もう泣かない。そう決めたから。

 

その小さな公園を抜けるまで、ルリはずんずん歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎし・・ぎし・・ぎし・・

 

 

今にも壊れそうな、古いアパートの階段を上る。

さっき外から見たあの部屋の窓には、何故かのれんが掛けてあった。

 

 

(なんて・・・言おうかな・・・)

 

 

ぎし・・・・ぎし・・・・

 

 

カイトさんは・・・もう帰ってこないだってこと・・・

 

 

部屋に近づくにつれ、だんだんと足取りが重くなる。

 

 

(やっぱり・・・今日はミナトさんのところに・・・)

 

 

そんな考え振って打ち消す。

 

 

(だめ・・・このことは・・・このことだけは・・・わたしが・・・)

 

 

ぎし・・・・・・・・

 

 

(わたしが伝えなくちゃ・・・!)

がちゃ!!

 

 

最後の一段を上ると同時に、少し離れた戸が開く。

びっくりして、立ち尽くしてしまった。

開いた戸から、巨大な門松が・・・いや、巨大な門松を抱えた女性が出てくる。

 

 

(あ・・・)

「これは・・・ここっと。・・・うんうん!ばっちり!」

 

 

狭い玄関前にその門松を置き、満足げにうなずく女性。

 

 

(ユリカ・・・さん・・・)

 

 

ぽと・・・

 

 

そう思った瞬間力が抜け、持っていた手提げは重力のまま地面に落下した。

その音に、門松の女性も首をかしげるようにこちらを向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

パーフー・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くで豆腐屋のラッパの音が聞こえる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルリ・・・ちゃん?」

「あ・・・」

「やっぱりルリちゃんだー!!」

 

 

だっ!と走って、ばっ!と抱きつく。

 

 

「ルリちゃんおかえりー!うわー!ホントにルリちゃんだー!おかえりー!ルリちゃん!」

 

 

しつこいほどに「ルリちゃん!」と「おかえりー!」を繰り返し、やたらと頬振りしてくるユリカに、

ルリは、胸と目頭が再び熱くなるのを感じた。

 

もう一度「ホントにおかえり、ルリちゃん」と言った後、その唇は、いつも隣にいたはずの「彼」のことを尋ねた。

 

「それで、カイト君は?」と。

 

あの時のミナトと、一言一句違わぬ言葉で。

 

 

「カイトさんは・・もぅ・・・」

 

「ん?聞こえないよ、ルリちゃん?」

 

「カイト・・・さん・・・は・・・」

 

 

言おうと決めていた。

 

言えるハズだった。

 

 

「カイ・・ト・・さ・・・は・・・」

 

 

あの時は言えた。

 

今また言えないはずはない。

 

 

「・・・もう・・・・・・」

 

 

だめ・・・

 

泣いちゃ・・・だめ・・・

 

ナデシコでは耐えられた・・・

 

だから今度も・・・!

 

 

「え?え?ど、どうしたの?ルリちゃん・・・?」

 

 

なのになんで・・・?

 

出て欲しいのは言葉なのに・・・!

 

なんで・・・!

 

涙ばっかり出てくるの・・・!?

 

 

がちゃ!!

「ユリカ!カイトが!!」

 

 

再び戸が開き、アキトが飛び出してきた。

すぐに二人の姿を見つける。

「どうしたの?」と目で問うユリカ。

 

その瞳に少しうつむき、そして真っ直ぐユリカを見つめる。

それだけで、ユリカにはすべてがわかった。

 

 

カイトは、もう帰ってこないのだ、と。

 

 

「・・・ルリちゃん・・・!辛いよね・・・!悲しいよね・・・!!」

 

 

ぎゅっと、強く。

強くルリを抱きしめるユリカ。

その目から、涙がボロボロと零れ落ちる。

 

 

「ごめんね・・・!私・・・なんにもできなくて・・・!ごめんね・・・!」

 

 

暖かい雫がルリの頬を濡らした。

 

 

「ルリちゃん・・・」

 

 

アキトが近寄り、その腕で二人を包み込み、本当に優しい声で、言った。

 

 

「悲しいときは・・・思いっきり泣いて、いいだよ」

 

「!!」

 

 

その言葉に、抑えていた想いが、ふくれて、はじけた。

 

 

「カイト・・・さぁん・・・!!」

 

 

ナデシコB艦長としてのルリ。

いつも冷静なルリ。

大人顔負けの戦闘指揮で、皆の信頼を集めるルリ。

 

でも今ここにいるのは、大好きな人を失った、ただの13歳の少女だった。

 

 

「ぁ・・・いかないで・・!!あの人のところになんかいかないで・・!!」

 

 

一度口を出た想いは、もう止まらなかった。

 

 

「わたしのそばにいてください・・!!ずっとずっと・・そばにいてください・・!!!」

 

 

あのとき言いたかったこと、今まで言いたかったこと。

 

 

「また頭をなでてください・・!・・ぅ・・わたしだけに笑いかけてください・・!わたしにだけに優しくしてください・・!!」

 

 

「わたしだけを見てください・・!!・・・すきって・・言ってください・・!!!・・ひっく・・・いかないで・・!いかないで・・!!!」

 

 

幼子が駄々をこねるように、ルリは泣き続けた。

 

 

「ひっ・・く・・・どうして・・?どうして・・!?

カイトさん・・!!カイトさん・・!!カイトさぁん・・!!!ぅ・・うわあぁぁぁ・・・・!!!」

 

 

ユリカの胸が、涙で濡れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓の縁に腰掛ける

 

 

 

 

月の、大きな夜。

 

静かで・・・暗く・・・でも・・・明るい・・・夜

 

 

 

 

深夜

 

 

 

 

窓の縁に腰掛けて、アキトはぼんやり月を見ていた。

 

ふと部屋に目を向けると、泣きつかれて眠ってしまった二人がいる。

その頬にはまだ涙の跡が残っていた。

そのまま目線を押入れに移す。

 

 

 

 

もしかしたら、アイツは帰ってきてるんじゃないか?

 

 

 

 

そんなことが頭に浮かび、押入れの前に立つ。

手をかけ、そのまま横に滑らせた。

 

 

 

 

シャアァァァ・・・・

 

 

 

 

 

 

『アキト!』   

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

彼の姿が一瞬見え、消える。

 

 

 

 

そこにあるのは、布団だけ・・・

 

 

 

 

(そりゃ・・・そうだよな・・・)

 

 

 

 

自分のとった行動が可笑しく思え、苦笑する。

 

 

 

 

窓の縁に腰掛ける。

 

 

 

 

月の、大きな夜。

 

静かで・・・暗く・・・でも・・・明るい・・・夜

 

 

 

 

アキトは、自分たちをおいていなくなった『アイツ』の名前を、もう一度つぶやいた。

 

 

 

 

 

 

「・・・カイト・・・」

 

 

 

 

 

 

窓の縁には、一粒の雫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星の数ほど人がいて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

− 2週間後 -

 

 

コオオオオ・・・

 

 

「にしてもいまさら火星なんてなぁ・・・」

「いいじゃないですかぁ?お二人の思い出の場所なんですから」

 

 

空港のロビー

AM 10:00

 

 

新婚旅行の場所に不満を漏らすリョーコにメグミが答える。

 

 

「なになに〜?リョーコったら〜。自分だったらほかの場所にするって言いたいのかなぁ??」

「な!?そ、そんなんじゃねぇ!」

おーおー・・・どもってるどもってる

「う、うるせぇ!!」

 

 

いつも通り墓穴を掘るリョーコにつっこむヒカルとイズミ。

当の本人たちはもう遠くで手を振っている。

「いってき!」と、とびきりの笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星の数ほど出会いがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃ!・・・ねえルリルリ?ホントについていかなくてよかったの?」

 

「はい。お二人の邪魔になりますし」

 

 

少し離れた屋上から、二人のシャトルを見送っていたクルーの面々。

その場所には、どこから沸いたのか、人、人、人。人の嵐。

新婚旅行の見送りに100人近くも来るのはどうか・・・

手を振り終えたミナトが、隣にいたルリに話しかけた。

 

ユリカとアキトの新婚旅行。

先日ルリは二人に誘われていたのだ。「一緒に行かないか?」と。

そんな二人の心遣いがすごく嬉しかった。

 

でも。

 

 

(お二人にはこれ以上迷惑かけられませんからね)

 

 

あの後、自分たちも結婚式の準備で忙しいのにもかかわらず、ずっと一緒にいてくれ、ずっと励ましてくれた。

ルリが今こうしていられるのも、きっとテンカワ夫妻のおかげなのだ。

 

 

(本当に、ありがとうございます。これからも、どうぞよろしく。新婚旅行、楽しんできてくださいね)

 

 

心の中でお辞儀をし、まだあそこに見える二人の乗るシャトルに、微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(天気予報どおり。今日はいい天気・・・気持ちいい)

 

 

皆同じ気持ちなのか、見送りが終わってもそこから動かず、清々しい太陽の光と、心地よい風を感じていた。

 

 

「・・・さーて、帰るか!」

 

 

誰かがつぶやき、ぞろぞろと空港の中に戻り始める。

 

 

「・・・いこ!ルリルリ」

 

 

ミナトの言葉に笑顔を返すルリ。

 

 

 

 

ビュウウゥゥゥゥゥ・・・!!!

 

 

 

 

強い風が吹き、かぶっていた帽子が飛ばされた。

 

 

 

 

(あ・・・)

 

 

 

 

宙に舞う、帽子。

 

 

 

 

目で追いかけ、空を仰ぐ。

 

 

 

 

見えたのは、「彼」にもらった帽子。

 

 

 

真っ白なその帽子が、ふいに色を変えた。

 

 

 

 

それは夕焼けのように、綺麗な・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオ!!!!!!!!

 

 

 

 

音は後から来た。

 

 

「きゃああああぁぁぁ!!!」

うわああああ!!!」

「な・・・なんだぁ!!!??」

 

 

耳を塞ぐ。

 

音が止み、皆が見上げたその先には、二人のシャトルはなく、

見えたのは、莫大な煙と、シャトルであった『モノ』。

 

 

「な・・・!!!???」

「そんな・・・!」

「い・・・やあーーー!!」

 

 

悲鳴、泣き声、声、声、声・・・

ある人は走り、ある人は泣き崩れ、ある人は立ち尽くす。

 

 

「・・・・・・なんなのよ・・・これ・・・」

 

 

状況をつかめないユキナが、ミナトの服を引っ張る。

その指は震えている。

 

 

「ミ、ミナトおねえちゃん・・・ねえ・・・どうなったの・・!?あれって・・・シャトルだよねぇ!?

ユリカさんとアキトさんは・・・?ねえ、どうなったの!?ねえ!?」

 

「・・・っ!!うるさい!」

 

「!!!」

 

「あ・・・」

 

 

ミナトは、信じられないくらいの大声を上げた自分自身に驚いた。

 

 

「・・・う・・・うえぇ・・・」

 

「ご、ごめんなさい、ユキナちゃん・・・」

 

 

自分も気が動転していたとはいえ、こんな女の子に・・・・・・

 

 

(・・・女の子・・・・・・!!!)

 

 

ハッとした。

あの子は・・・・・!?

 

 

「ユキナ、あなたは大丈夫よ!強い子でしょ?すぐ帰ってくるから、ここで待ってなさい。いいわね」

 

 

ユキナの目を見つめ、彼女がうなずくのを待ってから、すぐに捜し始める。

 

 

「・・・ルリルリ!!」

 

 

その子はすぐに見つかった。

フェンスのすぐ前、後姿で、空を見上げている。

 

 

(・・・よかった・・・いてくれた)

 

 

何故か判らないがルリが消えてしまうような予感がしていたのだ。

ホッと胸を撫で下ろすと、ゆっくりルリに近づく。

 

 

「ルリル・・・」

ふらっ・・・・

 

 

もう一歩でその体に触れるというところで、ルリの影が左にぶれた。

 

 

「ルリルリ!!!」

 

 

すんでのところでルリを抱きとめるミナト。

その小さな体がすっぽりミナトの胸に収まる。

 

 

「ルリルリ!!ちょっとルリルリ!?大丈夫!?誰か!担架を、早く!」

 

 

「ルリルリ!!」

 

 

 

 

− ルリルリ!! −

 

 

 

 

大きな・・・声が聞こえる・・・

 

 

 

 

− ルリルリ −

 

 

 

 

この声は・・・だれ・・・?

 

 

 

 

− ルリ −

 

 

 

 

あたたかい・・・

 

 

 

 

- ルリちゃん −

 

 

 

ああ・・・そうか・・・帰ってきただ・・・

 

 

 

 

− おーい ! ルリちゃん ! カイト ! −

 

 

 

 

屋台で、ラーメンを作るアキトさん

 

 

 

 

− ルリちゃんルリちゃん ! みてみてー ! −

 

 

 

 

近くにいるのに大声で、走って抱きついてくるユリカさん

 

 

 

 

そして・・・

 

 

 

 

− ・・・ルリちゃん・・・ −

 

 

 

 

帰ってきてくれたですね・・・

 

 

 

 

いつも優しく微笑みかけてくれるあなた・・・

 

 

 

 

大好きな・・・カイトさん   

 

 

 

 

 

 

そんな幸せな夢に抱かれ

ルリは眠りにおちていった・・・

 

 

 

 

その手に

 

 

 

 

あの帽子を握り締めながら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも〜。YOUです。

ルリの心。アキトの心。シャトルの爆発。

うまくかけていたでしょうか〜?

結婚式とかそっちのほう期待していた人すいませんでしたm(_ _)

にしても、今回もだらだらと長い文章ですねぇ〜(;-“-)

いや、すんません。スペース使うの好きなんです〜。

 

で〜、今回ですが白地に白色で文字を書き、反転させなきゃ見れない部分を2箇所ほど作っております。

なので「あれ?ここなにか足りないだろ?」ー場所ごがございましたら、その空間をドラッグしてみてくださいね〜。

 

ヒントは

『アキトアキト〜!なににびっくりしたの〜?』

『わたしに優しく微笑みかけるのは?』

です〜!まあ、暇だったら探してみてください。

ーしても見つからない人は、最初から最後までドラッグしてみれば確実に見つかります。(ど〜ん!)

 

では!次回予告!!

 

『家族』を失ったルリ!!・・・と、正直うまくかける気しないので予告中止!!

 

次回

『プロローグ 完結編』(うわぁ〜・・・やっとかぁ〜)

 

 

「カイトさん・・・わたし・・・ひとりです・・・」

 

 

お楽しみに!

いや、たいした展開ないっスよ。


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