あの人の背中が見えた

 

私の中で、何かが弾けた気がした

 

そして、気がつくと

 

私は走っていた

 

 

 

〜答え〜

 

 

 

大晦日の日、エリナさんがやってきた。

カイトさんは、やっぱりエリナさんの頼み―ボソンジャンプの実験を断らなかった。

 

「もしかしたら、これがきっかけで記憶が戻るかもしれない」

 

カイトさんは真剣な表情で、私達に言った。

私は、何故だか分からないけど、とても不安だった。

実験の成功、失敗の事もありましたけど、

何より不安だったのは、カイトさんがどこか遠くに

―帰ってこない気がしたからかもしれません。

 

「大丈夫だよ。だからそんな顔しないで、ルリちゃん」

 

私はとても不安でたまらない顔をしていたのかもしれません。

カイトさんは、私の顔を見て、そう言いました。

いつもの、優しい笑顔で。

 

 

 

『ドウシテ コンナニ ムネガ アタタカイノ?』

答えてくれる人は誰?

 

 

 

ボソンジャンプの実験の後、意識を失っていた、カイトさん。

目を覚まして、少し呆然としていましたけど、みんなが心配していたと聞いて、いつもの申し訳無さそうな顔で笑いました。

それは私がいつも見ていたカイトさんの笑顔です。

アパートまでの帰り道。

カイトさんはテンカワさん達と楽しそうにおしゃべりをしています。

 

テンカワさんにユリカさんが抱きついて、

それをエリナさんがあきれた、と言いながら笑って、

ウリバタケさんが笑いながら冷やかす・・・

 

でも、カイトさんは、いつもと少し違った。

 

いつもなら、そんなテンカワさん達を見て楽しそうに笑うのに、

今日のカイトさんは小さく笑顔を浮かべただけ。

まるでどこか遠くの出来事みたいに、

カイトさんだけがどこか遠い所にいるみたいに。

カイトさんが、私たちの声の届かない所にいるみたいに、私には感じました。

 

 

 

『ドウシテ コンナニ ムネガ イタイノ?』

答えがあるのはどこ?

 

 

 

アパートに帰ると、カイトさんはとても真面目な顔で私に言いました。

 

「ごめん、ルリちゃん。・・・イツキ・カザマさんについてもう一度、調べてくれないかな」

 

私は、そんな真剣なカイトさんの顔をはじめて見た気がしました。

いつものカイトさんが見せない表情。

テンカワさん達も、その事に気づいてる。

私は、思わず頷いてしまいました。

 

「ありがとう、ルリちゃん」

 

お礼を言うカイトさんに、何か言おうとしたけれど、

やっぱりどこか遠い所を見ているようなカイトさんの瞳に、

私を映しているけど、私を見ていない瞳に、

私は、何も言う事が出来ませんでした。

 

 

 

『ドウシテ コンナニ ムネガ イタイノ?』

答えを知っているのは誰?

 

 

 

「・・・両親と、出身地です」

私が読み上げたイツキ・カザマさんのデータ。

エリナさんがいつのまにか少し増えた情報に首をかしげていた、そんな時。

カイトさんがゆっくりと呟きました。

 

その声がとても静かで

とても静か過ぎて

私はすぐにカイトさんの方を見た。

 

ユリカさんや、テンカワさん、ウリバタケさんはこれからの宴会の準備をはじめ、

エリナさんはまだ首をかしげながら端末をいじっています。

 

カイトさんは、テーブルの準備をしている。

もうさっきまでのおかしなカイトさんじゃなく、いつものカイトさん。

 

楽しそうに、笑いながら

テンカワさんからたくさんの料理を受け取って、

ユリカさんのつまみ食いをしようとする手をかわして、

エリナさんにたくさんののコップを渡して、慌てるエリナさんをからかって

ウリバタケさんと一緒にお酒を外から次々と運んできて、

 

そして、私の手を引いてテンカワさん達の真ん中に座らせた。

 

「今年もよろしくね、ルリちゃん」

 

カイトさんは私を見ていた。

だから

 

「はい、今年もよろしくお願いします、カイトさん」

 

そう言って、頭を下げた。

 

 

 

『ドウシテ コンナニ ムネガ アタタカイノ?』

答えは、何?

 

 

 

明け方。

私は、小さな物音で目が覚めました。

押し入れが、開く小さな音。

カイトさん。

 

私たちの方を見た。

何となく慌てて寝たふりをしてしまった私。

でも、こっそりと目を開けてカイトさんを見ていた。

 

カイトさんは、深々と頭を私達に下げていた。

 

そして、顔を上げたカイトさんは、

昨日の、見たことの無い、カイトさんだった。

 

とても静かな表情で、

とても悲しい笑顔。

 

カイトさんは、そのままドアを開き、外へ出て行った。

 

 

 

『ドウシテ コンナニ ムネガ イタイノ?』

―カイトさんが、出て行ってしまったから・・・・?

 

 

『ルリちゃん!』                                                                       『起こしてくれてありがとう』

 

カイトさん

 

『ご、ごめんなさい・・・』                                                                『ルリちゃん、この下に隠れて』

 

カイトさん

 

『大丈夫、僕が守るから』                                                                『はぁ・・・今度はがんばるよ』

 

カイトさん

 

『それでも、思い出したいよ』                                                                 『ありがとう、ルリちゃん』

 

カイトさん

 

『・・・帰ろうか』                                                                        『うん・・・僕も、そう思うよ』

 

 

『ドウシテ コンナニ ムネガ アタタカイノ?』

―カイトさんの事を、考えたから・・・・?

 

カイトさんの笑顔が心の中に浮かびました。

いつも私を見守ってくれていて、

私が困った時にそっと背中を押してくれて、

振り返ると、楽しそうに笑っている。

 

そして、さっきのカイトさんの顔。

昨日のカイトさんの顔。

悲しそうな、カイトさんの顔。

 

そして、真剣な顔をして今、頭を下げていたカイトさん。

顔を上げた時の、悲しそうな笑顔。

 

「・・・カイト、さん」

 

思わず、言葉に出したその自分の声に

私の胸の鼓動が、一瞬、とても大きくなった。

 

そして、私は、

 

答えを見つけた。

 

私は、カイトさんのことが・・・・

 

 


 

 

 

「な・・・・どうしたの、ルリちゃん!?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・わ、私もついて行っていいですか?」

 

「えっ、ルリちゃん?・・・って何で?」

 

「はぁ・・・カイトさん、どこかへ、行こうとしてましたよね」

 

「う、うん・・・でも、それは・・・」

 

「・・・浜松、ですね・・・・私も行きます」

 

「え・・・」

 

「行きます」

 

「で、でも、僕は・・・」

 

「邪魔、ですか・・・私」

 

「そんなこと無い!!うん、絶対に!!!!」

 

「じゃ、行きましょう」

 

「え、ちょっと、待ってよ、ルリちゃん!!」

 

そこには、先ほどの悲壮感など微塵も漂わせていない、

あわてながらも、前を歩くルリについていく

どこか嬉しそうなカイトと

 

そんなカイトの表情を知ってか、知らずか

駅に向かって早足で歩きながら

真っ赤な顔をうつむかせ、カイトの手を引く

ルリの姿があった。

 

 

 


 

大変遅れましたが・・・

Rinさん、HP開設おめでとうございます!!

日ごろ、投稿作を頂いているRinさんばりにラブラブを目指してみました、

「・・・甘くねえ・・・(怒)」

・・・あっしじゃ、ここまででがした・・・

 

これからもRinさんのあま〜い作品を応援しています!

がんばりましょうね!

 

ヨシ

 

 

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