ネルガル第七研究所



「おっしゃぁぁぁぁぁぁ!!塗り終わったぞ!!」

静かな格納庫に男の声が響き渡る。

「・・・・・・終わった。」

カイトがぽつりと呟やいた。なにやら哀愁を漂わせている。

「なんだ?カイト、せっかく塗装が終わったって言うのに?」

「あぁぁぁ・・・もうだめだ。ルリちゃんにしかられる。」

なんか悲愴感まで漂ってきぞ。

「何だ、もう尻に轢かれてるのか?」

不思議そうにに男が尋ねる。

「お前には関係ないだろ!!」

どうやらご立腹のようだ。どうでもいいけど、血管きれるぞ。

「まぁそれはおいといて。お前急いでるんじゃなかっのか?」

「だから困ってるんだろ。ここからアマテラスまでシャトルでだって2時間もかかるんだぞ!」

「なに言ってるんだ?それぐらいだったら30分で着けるぞ。」

「えっ?」

「だから高機動ブースターをつけていけば30分で着くってば。」

「マジで?」

「もちろん!!」

シャトルで2時間を30分に短縮できるとしたら機動兵器としては破格のスピードである。

「じゃあ早速やってくれ」

「へいへい現金なやつだなぁ。」




機動戦艦ナデシコ〜The shining blade〜
                 回りだす歯車



アマテラス執務室



「何だ!貴様は!!」

 怒髪天をつく(といっても髪がないのでたこ入道といった感じだが)というような勢いでターミナルコロニー”アマテラス”
警備責任者、統合軍(地球連合統合平和維持軍)のアズマ准将は、目の前の者を怒鳴りつけた。
思いっきり殴られた机が今にも壊れそうだ。

一部の部下はあまりの声の大きさに耳をふさいでいる。

現在ナデシコは”アマテラス”に来ていた。

当然ながら遅れているカイトはというと、ほったらかしのままで。

「地球連合宇宙軍少佐のホシノ・ルリです。」

いくら大声を出そうとも相手に受け流されては意味がない。

おそらくルリは全く気にしていないだろう。

一層頭に血を上らせたアズマ准将は、上官に対する敬意などまるで持っていない目の前の少佐に、
更に大きさを増した怒声を叩き付ける。

「そんなことを聞いているのではない! 何で貴様ら宇宙軍がここにいるのだ!!」

「先日のシラヒメの事件において、ボソンの異常増大が確認されています。ジャンプシステムの管理に問題がある場合、
近辺の航路並びにコロニー群に影響があります。」

そういうルリの口調に変わりは無い。まぁ、当然といえば当然だが。

「ちなみにこれはコロニー管理法の緊急査察条項が適応されますので、あしからず・・・」

「ヒサゴプランに欠陥は無い!!」

 先ほどよりもさらに大きな声で叫ぶアズマ。

それにともなって、しだいにアズマの顔が真っ赤になってくる。顔と
いっても頭がハゲているために、頭が赤いといったほうがいいかもしれないが。

「───まぁまぁ准将。ここは一つ、抑えて抑えて。」

アズマを落ち着かせようと、に控えていた”アマテラス”技術部総責任者のヤマサキ博士がなだめに入る。
 
彼は、にこやかな笑顔のままルリのほうに向きなおり

「とにかく、宇宙の平和を守るのが我らが連合宇宙軍の使命、ここは使命感に燃える少佐に安心していただきましょう。」

そういうとヤマサキ博士はインターホンでどこかを呼び出した。ほどなくして秘書風の女性が入ってきた。

「さぁ、あちらへどうぞ。中をご案内させましょう。」

これ以上ここにいても意味がないと思ったのか、ルリは言われるままについていった。



ネルガル第七研究所



「ルインスレイヤー高機動ブースター取り付け完了しました。」

シルヴィアが発進準備が整ったことを告げる。

「よ〜し、じゃあルインスレイヤーはっし・・・」

「ちょっと待てカイト。」

カイトを呼び止める男。発進するのに何の問題もないはずだが・・・

「え、なんで?」

「お前何丸腰で出ようとしてるんだ?」

「何って、戦場に行くわけじゃないんだからいいじゃないか。」

「いや最近はコロニーが襲われたり、無人兵器が暴走したりで色々物騒だからな。まぁ用心だと思って持っていけ。」

「まぁ・・・そう言われればそうだよな。」

カイトはカタパルトに置いてあるランサーとライフルを手に取った。

「じゃあ今度こそ発進・・・」

「ちょっと待て!」

「今度はいったいなんだ!!」

少々起こり気味である。まぁ急いでるのに2度も呼び止められれば無理もないが。

「次はいつにする?」

「次って・・・いつ休みが取れるか分からないからなぁ。」

「そうか。だったら折を見て俺のほうから尋ねるよ。」

「あぁ、すまないな。」

「な〜に、気にするな」

「それじゃあ、行ってくる。」

「発進まであと10・9・8・・・」

カウントが開始される。

「カイト!」

「何だ?」

「がんばれよ。」

「ん?あぁ」

何のことだか分かっていなさそうだがとりあえず頷くカイト。

「ルインスレイヤー発進!!」

ブースターの光だけをを残して、強烈な加速で飛び立つ白銀の機体。

瞬く間に星の海へ消えていったそれを見送ると男はゆっくりと歩き出した。



アマテラス内部



「みなさ〜んこんにちは〜〜。」

『こんにちは〜〜』

ヒサゴプランのイメージキャラクターのヒサゴン(どうでもいいが安直な名前だなぁ)の挨拶にこども達がいっせいに答えた。

現在ルリはアズマ達によって子供たちと一緒に見学させられていた。

ルリもある程度の妨害は予測していただろうが流石に子供と一緒に査察させるなんて問題になるだろう。

「未来の移動手段、ボソンジャンプを研究するヒサゴプランの見学コースへようこそ!ガイドは私、マユミお姉さんと」

「ぼく、ヒサゴン!」

ガイドのお姉さんとヒサゴンが自己紹介している。ピンクのお姉さんとヒサゴンのコンビは明らかに子供へのうけを狙ったものだろう。

「そして、何と今日は特別ゲストがいらっしゃっています。皆さんと一緒にコースを回ってくれるのは、あの!」

「「史上最年少の美少女艦長ホシノ・ルリ少佐で〜す。」」

お姉さんとヒサゴンの声が見事にハモる。

「よろしく。」

あきらめのこもった声でルリが答えると子供たちはVサインで出迎えた。



ナデシコB艦橋



「領域11001までクリア・・・そろそろいこうか」

【OK】

ウィンドウボールを展開させたハーリーにオモイカネがウィンドウで答える。

「データ検索、絹ごし。できたスープを順次ボクに、スピードはわんこの中級で……。しかし本当にいいんですかねぇ、これって間違いなくハッキングですよ?」

「いいんじゃねぇの。あちらさんは手伝ってくれないみたいだし、調査委員会も統合軍とグルになってなんか隠してるしな。」

「でも・・・艦長が・・・。」

「カイトがいない間に艦長にアピールしようと思ってたんだろ。かわいそうにな〜。」

「なっななななに言ってるんですか。そんなんじゃありませんよ!ただ艦長が宇宙軍と統合軍の意地の張り合いに巻き込まれてることを思うと・・・。」

サブロウタの茶々に顔を真っ赤にしてどもりながらハーリーが答える。

「はいはい、まっその艦長がマヌケやってるんだ今のうちにできることをやっちまおうぜ。」

「そうですよね」

ハーリーの顔が心持ち凛々しくなった・・・かも知れない。



そのころのカイト



ところ変わってこちら宇宙のとある宙域。先ほど研究所を出発したルインスレイヤーはアマテラスに向かってぐんぐんと加速していた。

「ぜぇはぁぜぇはぁ・・・あ〜意識飛ぶかと思った。なんて加速だよ全く、むちゃくちゃな機体造りやがって。」

現在シャトルの何倍ものスピードでなお加速し続けるルインスレイヤー。今も驚異的な速度で加速しているがかかるGは発進のときほどではない。それほどの加速を続けてGがほとんどかからないのだから余程高度なシステムを搭載しているのだろう。

「しっかし非常識なくらい早いな〜このペースで行けば本当に30分でアマテラスについちゃうし」

どうやら本当に30分でつくとは思っていなかったらしい。

「にしてもひまだなぁ・・・。」

そうはっきり言って移動中のコックピットほど暇なものはない。目的地まではオートで着いてしまうし。宇宙空間ともなると周りの景色にも変化などない。そのためパイロットは各々暇つぶしに何か常備してあるのだが、急いで出てきたカイトは当然そんなものもっていない。

「あぁ〜暇だ〜!!」

アマテラスにつくまでの30分間カイトは暇との戦いを余儀なくされた。



ナデシコB艦橋



「あーー、やっぱり。公式の設計図にないブロックがありますね。」

アマテラスのコンピュータをハッキングしていたハーリー。どうやら成功したらしい。

「襲われるなりの理由って奴かな?よし、次、いってみよう!」

脇で見ていたサブロウタが先を促す。

「ボソンジャンプの人体実験・・・これみんな非公式ですよ!!」

「おいおい、いきなり大当たりかよ・・・」

開かれたファイルに浮かぶのはA・B級ジャンパーと「死亡」「廃棄」「失敗」の文字ばかり、いかに凄惨な実験が行われていたかは容易に推測できた。

「あっ」

ハッキングを続けていたハーリーが突然声を上げた。

「ばれたか!!」

「ハッキング解除、オモイカネデータブロック。」

「進入プログラムバイパスへ!」

ハーリーが的確な指示を出す。しかしそれは唐突に起こった。

『OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA・OTIKA』

「「なっ!」」

今までアマテラスの極秘ブロックを表示していたウィンドウが突然『OTIKA』の文字に埋め尽くされたのだ。

その現象はナデシコだけではなくアマテラス全域に及んでいた。



アマテラス執務室



「何が起きている!!早く何とかしろ!・・・あぁそうだ最優先だ!!こんなところを襲われたらひとたまりもない!!」

アズマ准将は『OTIKA』の文字に埋め尽くされたウィンドウではなく執務卓に備え付けの旧式の電話(流石に黒電話ではない)に向かって怒鳴りつけていた。電話先はアマテラスを管理している、メインコンピュータールームだ。

仁王もかくやと言う勢いで怒鳴り散らしているアズマ准将は一人執務室を出て行くヤマサキ博士に気づくことはなかった。



アマテラス内部



「ハーリー君ドジった?」

開口一番尋ねるルリ。

『僕じゃありません艦長。アマテラスのコンピュータ同士の喧嘩です!』

説明しだすハーリー。

「喧嘩?」

『はい、アマテラスには非公式のシステムが存在します。この騒ぎはそいつが自分の存在をみんなに教えているというか子供みたいにケラケラ笑っているというか・・・』

(子供みたいに・・・?)

ハーリーの言葉を聴きながらうつむき考え始めるルリ。しかし突然はっと顔を上げたかと思うと次の瞬間には走り出していた。

『艦長どうしたんですか?』

後ろからハーリーのコミュニケが追いかけてくる。

「今からナデシコに戻ります」

『えっ』

「敵がきますよ。」

ルリがそういった直後それを肯定するかのようにアマテラスに警報が鳴り響いた。



アマテラス警備艦隊




「ボース粒子反応増大!」

「全長約十メートル、幅約十五メートル!」

「識別不能、相手からの応答、ありません!」

未確認機が出現したことを告げる報告。それと同時にブリッジが緊張に包まれる。

見るものに黒鳥を連想させる黒い機体がボソンアウトした。

「迎撃準備!!敵はターミナルコロニー連続襲撃犯だと思われる!!アマテラスの管制室に緊急連絡を取れ!!」

警備艦隊のとある艦長はすばやく的確な指示をクルーに飛ばす。しかしそれが復唱されることはなかった。

黒い機動兵器のルート上にいた艦が先制砲撃を受けたのだ。

艦が爆発することこそなかったものの機関と艦橋付近に直撃を受けて反撃はおろか通信すらできない状態にされてしまった。

「くそっ!!」

もう反応しないコンソールをたたきつける艦長。艦の被害は甚大では合ったが奇跡的に死者は出ていなかった。
この戦闘のすさまじさを考えれば彼らは幸運なほうであろう。しかし彼らがそれを知る由もなかった。
外部と通信をとる手立てがないのだから。



アマテラス内統合軍指令部



アマテラス周辺の宙域では信じられない光景が展開されていた。

黒い機動兵器が警備艦隊を圧倒しているのだ。警備艦隊が弱い訳ではない。機動兵器が強すぎるのだ。

事実、艦隊の布陣はほぼ完璧といっていいものであるし、今も機動兵器めがけて無数のミサイルやグラビティブラストが機動兵器をスクラップにせんと襲い掛かっている。

通常では機動兵器一機で敵中突破などできないだろう。全方位から襲い来る攻撃をかわし敵に攻撃を殲滅するなんてどんなエースパイロットでも不可能・・・のはずだった。

しかしこの機動兵器のパイロットは、蟻一匹這い出る隙間もないほどのミサイル郡を流れるような動きで回避し、爆発したミサイルの余波が襲い来る前に突破する。グラビティブラストが直撃したかと思いきや戦艦クラスのディストーションフィールドが防ぎきる。瞬く間に突破されていく警備艦隊。

戦闘体勢に入る前に一隻、また一隻と撃破されていく警備艦隊。ようやく出撃したステルンクーゲルもその圧倒的な機動力と火力になすすべなく撃破されていく。

もう既に第3防衛ラインまでもが突破されていた。

司令部ではシンジョウ・アリトモ中佐が指揮を執っていた。

「コロニーに近づけるな!!敵は一機だ戦力を集中させろ。何としてでも最終防衛ラインを死守せよ!!」

シンジョウ中佐は一機でも多くの戦力を黒い機動兵器にぶつけようと苦心していた。

「コロニー周辺および内部での戦闘を許可する!!」

馬鹿でかい声が司令部に響き渡る。アマテラスの警備責任者アズマ准将だ。

「准将それではコロニーが!!」

「いかに敵が早かろうとコロニー周辺では速度を落とさざるをえまい。まさに肉を切らせて骨を絶つ!!」

確かに敵を撃破するだけならこの上ない作戦だろう。しかしもし流れ弾がコロニーの重要区画にでも当たったら事である。そんな可能性は0に近いが、絶対にありえないとは言い切れない、そんなことになったら本末転倒である。もしや准将の頭の中では目的がコロニー防衛ではなくコロニー連続襲撃犯の撃破へと摩り替るっているのではなかろうか?

「おっしゃー!!」

そんなむちゃくちゃな准将の命令に威勢のいい掛け声を上げたものがいた。リョーコである。

「やろうども!いくぜ!!」

『おう!!』

彼女の号令に合わせて次々と投げ捨てられていくステルスシート。それとともに12機のエステがいっせいに黒い機動兵器に向かって挑みかかっていく。
統合軍の精鋭を選りすぐった『ライオンズシックル』だ。

「遅い!」

先頭のリョーコのエステバリスカスタムがレールガンを放つ。正確な狙いで放たれた3発の弾丸をあたかも当然であるかのように黒い機体はかわしていく。

「へっ、逃がすかよ。遅れんなよ野郎ども!!」

後退していく黒い機体をバーニアを光らせて追撃する『ライオンズシックル』果たしてこの追走劇はどちらに軍配が上がるのだろうか。





そのころのカイト



「ぐぅぅぅぅ〜〜ぐぅぅぅぅぅ〜〜」
どうやら彼は暇との戦いに敗れてしまったようだ。コックピットで幸せそうに寝息をたてている。でもいくらやることないからって移動中のコックピットで睡眠をとるのは流石にまずくないか、カイト?


                                                           次回へ続く


あとがき

羊羹「みなさま、私このSSを書かせていただいている羊羹と申す者でして・・・」

博士「黙れ、へたれ作者が!!」

羊羹「ぐはっっ!!痛いじゃないか!!いきなり後ろからとび蹴りをかますとはどういう了見だ!!」

博士「『な〜にがどういう了見だ』だ!!貴様自分の文才のなさに気づかずにいきなり連載などに走りやがって。おまけに俺の名前はどうした俺の名前は!!」

羊羹「ふっ、それに関しては問題ない!!ネタはこのネタ帳に書きだめしてあるし、お前の名前については今後の展開の中で明らかにしていく予定だ。」

博士「じゃあ何でこんなに更新が遅れたんだよ。それに俺は博士って柄じゃないし。」

羊羹「更新が遅れたのは・・・、今年受験生なのさ。おまえの呼び名については・・・そうだな仮に『K』とでもしておこうか。」

博士「『K』ねえ・・別にいいけど。カイトかぶっているのは単なる偶然なのか?」

羊羹「まぁそれは今後の展開しだいということで。」

K「へぇ〜お前にも今後の展開ってやつがあったのか。」

羊羹「ムキー、てんめぇ人を何だと思ってやがる表でやがれ!!」

K「俺に喧嘩売るとは・・・面白い。」

しばらくお待ちください

K「けっっ俺とやりあって勝とうなんざ100万年早いんだよ。・・・え〜腐れ作者もいなくなりましたところで、お暇でしたら作品への感想などメール下さい。辛口のお便りをお待ちしております。」




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