--ネルガル宇宙開発部月面研究所基地--

『所長室』そう書かれた部屋の主

ネルガル会長室長兼、宇宙開発部の長エリナ・キンジョン・ウォン

それが今の彼女の肩書きだ

ただ、その肩書きは伊達ではない

現に彼女は2つの重要ポストに居ながら、一般社員と同様に現場で交渉作業をこなし、

プロジェクトの実験にも顔を出し自ら指示を出すこともあり、その上他の部署の残務までをも処理する

今も机に積まれた、それらの夥しい数のファイルを次々と目を通しては処理していく

その無駄のない動きは流石である。彼女は机上と現場を両立する超一流なのだ。





と、そこに呼び出しを告げる、コール音が鳴りウインドウが開く

「エリナ所長。」

ウインドウには白衣を着た、ここの研究者らしき女性が写った。

「なに?」

エリナは、ウインドウには目もくれず、目の前の仕事をこなしがら返事を返す。

「黒が帰還しました。今、ドックに誘導中です。」

それを聞いたエリナは、手を止めウインドウに向き直り、そして今までに無い真剣な表情になる

「わかったわ、今からそっちへ行くわ。」

そう言うと、身の回りのファイルを片付け関係資料のウインドウを閉じていく、

「それと、地球からの移送中、出撃した白の方も間も無くこちらに到着するとの事です。」

「!……会長の方は?」

「はい、先ほど到着なされました、今は第二所長室の方でお待ちです。」

「そう…じゃぁ、彼は私が迎えに行ってそのまま案内するから、白の方は地球からの指示通りお願い。」

「了解しました。」



通信を切り、音の消えた静かなその部屋に顔を伏せ佇むエリナ

静かな部屋の中で、今、エリナの頭の中には様々な感情が止めどなく溢れかえり、その瞳に揺らぎが見える

(「全ては分かっていた事…あの日から……」)

エリナが顔を上げ、引き締まった表情になる。

「これが最後のチャンス、私も卑怯な手段でも選択すると決めたから」

その先の言葉を飲み込み、エリナの目に輝きが現れ、先程までの迷いの色が消える
そして何かに覚悟を決めその場を後にするエリナ




扉が閉まり、明かりの落ちた部屋のデスクの片隅に、1つのパーソナルデータがあった。

その殆どが、「NO DATA」と書かれた人物、しかし、身体的な事柄が異常なほどに事細かく記されている。

それは・・・






機動戦艦ナデシコ

〜The Knight of Missing〜



『1章 導』





ネルガル月面基地、極秘資材搬入ドック

今、誘導ビーコンによって、1隻の船がドックに収容されていた

「ドック収容ヲ確認…ユーチャリス固定位置へ…」

その戦艦の全てを握るオペレータールームに座る少女、ラピス・ラズリ

その淡々としたラピスの声にあわせるように、次々とドックから固定用アームが伸び、ユーチャリスを拘束していく。

「固定完了…オールグリーン、ユーチャリス待機状態に移行シマシタ・・・コレヨリデータ転送とシステムチェックニ入リマス…」

そう言うと、ラピスは沈黙し、辺りの黄金色に輝く不思議な模様だけが彼女を照らす。










ドックに固定し終えたユーチャリスの艦橋から1人の男が降りてくる

煌びやかに照らされるユーチャリスと相反する様なその黒い姿の男は

今はもう面影も無いほどに変わり果て、黒く、そして復讐に囚われ染まってしまった男、テンカワ・アキト

「お疲れさま…」

と、そこに腕を組み、凛とした態度でエリナが出迎えた。

「フン、所長自らお出迎えとは余程暇らしいな…まぁ、こっちとしてもちょうど良かったがな。」

多少イラつきを見せ皮肉を言うアキトだが、直ぐにその感情を殺しその顔から表情が消える

そのアキトを見てエリナの眉間にしわがよる
これから彼がこれから直面する事実を思うと、何時もなら出来るだけ気にしないようにしては居るものの、この場に来て彼の今の姿に心が痛む
自分たちがもっと早く気づいていれば…あの時もしも…と。


「どうした?」

そんな事を考えている間に、アキトが目の前まで来ている事に気づきハッと我に返る。

「い、いえ何でもないわ…」

エリナの反応に違和感を感じつつも、アキトは先程から自分の中に渦巻く不愉快な感情の元凶について
まるで相手首を締め付ける様な威圧感を放ちながら口にした

「…ところで、さっきの白いサレナは何だ。誰が乗ってる。」

「それは、私ではなく会長に聞くのね、あれは会長の仕業だから…」

ひどく重たい声で問いかけるアキトに、エリナが何時ものように振る舞いながら答える

「何…!?」

アキトの顔に多少の驚きとが見られるが、その目は細くなり相手の視線を捕らえ、その奥にあるものを読み取ろうとする。

「アカツキの?……どう言う事だ…。」

アキトの表情に影がかかる。

「さぁ?本人に聞く事ね…。」

「そう言う事か…」

「ええ、こっちよ、案内するから着いてきて。」

そう言って歩き出したエリナに、アキトは無言で付いていく






アキトらが歩き出し、丁度ドックから地上基地への直通のエレベータ入り口に差し掛かったとき

ドックの一画に、ボソンの光が現れる。

それにつられて2人が振り返り、光の中心に目を向けると
それは見る見るうちに溢れ、まるで蛍のように光の粒子が舞い、辺りを覆いつくすと
その光は次第に収束していき、先ほどシラヒメに現われた白いサレナが姿を現した


しかし、出現した途端、先ほど見た神々しい姿からは陽炎が立ち、箇所によっては火花を飛び散らしはじめる

どうやら、出力に反し機体出力の制御が追いついていない様だ、どんな物も瞬時に凍し熱を奪う宇宙空間ではいざ知らず
ここは、それに比べ遥かに気温が高い、その為出現と同時に機体がオーバーヒートしたのだろう

通常いくら宇宙空間とはいえオーバーヒート寸前の出力を成す様な物は現在存在しない、
それは優れたコンピューター技術により、それらは効率よく制御され負荷が分散されているからだ。 

そのことからもこの機体の異常な出力が見えるが、それはひとえに欠陥品と言える
その証拠に、今その機体は各所の間接が悲鳴をあげ、極小規模な爆発を起こし機体が自己崩壊し始めているのだ

そして、その機体は覚束ない足取りで何とかドックの一画に固定し終えると、瞳から光が消え、沈黙する


「先ほどの動きには感心したが、とんだ欠陥品の様だな。」

吐き捨てるように言い放つアキト・・・その目に、焼けたその身を癒す為、機体の各所から気化状の冷却剤を噴出し
煙に包まれていく白いサレナが写っていた。

そしてその横では、アキトとは違った目でその機体を見つめ続けるエリナが居た・・・

「さぁ、行くわよ。」

だがエリナはすぐさま気持ちを切り替え、アキトを急かす。

そして、身を翻しエレベーターに乗り込んだアキトには
背後で扉が閉まる瞬間、冷却剤を噴出し終えたその機体から降りてくる人影に気づかなかった・・・











ネルガル月面基地、第二所長室、通称 【会長の隠れ小屋】…

三年前より伸びたロンゲのその男は今、地球のある人物と会話中だった

「いやいや、流石だね〜彼の腕は何より、例のアナガリスの方も凄いね〜」

いたって軽い口調で素直に感想を述べるが、相手の反応は冷たかった…

「で…、壊したんでしょ…あれほど言ったのに・・・。」

呆れた様に言うと、じと目でアカツキを見つめる

「(ゲッ…)」(汗)

そしてその相手の反応に、自然と嫌な汗が頬を伝い悪寒を覚える…

「まったくあなたは何を聞いてたのよ!あの機体はまだ未完成で、OSだって初期設定のままだから使えないって!それはサレナの件で証明されてるでしょ!だからって、こっちでは機動兵器用の大規模な実験施設は無いし、外部に情報が漏れる可能性だってあるからって、そっちで開発してた最終パーツを組み込んでの調整とテストをする為に、月面基地に移送になったのよ!大体、素体の新型フレームだってまだまだ実験段階で、実際にテストもしてない赤ん坊同然の機体なのよ!なのにいきなり実戦に使うとはどう言う事よ!あんなに分かりやすくコンパクトに説明したじゃない!大体あなたは・・・(ガミガミ)」

アカツキの予感的中…悪魔の形相で怒鳴り散らし始める相手

「ど、どうしよかね…」(ボソ)

呆れたのかと思えばいきなり怒り出し、説明が始まったかと思えばいつの間にか愚痴に変わる

まさに台風のような(当社比3倍速)状況に、アカツキの顔が引きつっていく。

「・・・だったのよ!って、ちょっと!聞いてるの!」

「あ〜はいはい聞いてますよ。…もう勘弁してよ

「はぁ〜まったく貴方って人は…」

完全に投げやり、と言うか引きつった笑顔のアカツキに、今までの嵐のごとく勢いを失った相手が、溜息と共にガックリ肩を落とす


「なにより、彼の事を考えて…、無理はさせないで頂戴…いくら意識が戻ったとはいえ、今の彼は肉体、精神共にとても不安定なのよ。何時、何処で、何が起こるか予想も出来ない…それは貴方だって分かってるでしょ…」

先程とは打って変わり声のトーンを落とし、真剣な表情で事言う相手に、アカツキの表情も変わる。

「ああ、分かってるよ」

2人の表情は、穏やかでそれでいて、悲しみと自潮の色に染まっていた

「本当なら、絶対安静!っと言いたい所だけど、私たちも、何より彼には後悔はさせたいくないから、だから…」

「分かってる、そして今度こそ彼を救ってくれるさ、彼自身もきっと元の、いや本来のあるべき自分に戻ってくれる。僕はそう信じてる!」

「ええ、そうね…いいえそうでなくっちゃ!」

その場に先ほどまでに無い覇気のこもった決意の様な心地よい空気が満ちていく。

「ああ、でも」

「??…なによ…?(汗)」

今度は、アカツキのニヤリ顔にウィンドウの向こうの相手が嫌な汗を浮かべる番だった

「ドクターには残念になるのかな〜(ニヤリ)」

「だ、だから何がよ……」

もったえぶったアカツキの態度に嫌な予感200%

「だって〜、随分と彼の事かわいがってたみたいだけど…暫くは会えなくなっちゃったからね〜(ニヤリ)」

「かわいがってたって、一体何の……!! あ、アレは!!」

何やら思い当たる節が会ったらしい相手の顔が一気に上気し、目線が泳ぎ始める

「そう言う事♪まぁ、あまりやり過ぎないように気をつけてよ。(ニヤリ)」

「バカ!! そんなんじゃないわよ!」

ウィンドウが急に大きくなりその分相手の声のボリュームが上がる。
と、アカツキのそばに来客を知らせる新たなウィンドウが開く

「おっと、お客さんのお出ましのようだね、じゃ、ドクターもう暫く死人やっててよ。」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!アレは彼の……」

「じゃ〜ね〜♪」

「ちょっ」

そう言って、相手の話が終わらぬ間にウィンドウを閉じる。 満足げな笑みとついでに、着信拒否を忘れない……この男、タダでは転ばない。
軽いように見えて、やられたらやり返す意外と根に持つタイプなのかもしれない。

そう言ってる間に再度、ウィンドウが鳴りアカツキを呼ぶ。

「あ〜はいはい、どうぞ〜」

そう言って椅子に深く腰掛け、脚を組みその上に両手を重ねるように組み客人を招き入れる。
その顔は先程の軽い『落ち目の会長』でなく、『鷹』の様な鋭い顔になる
何やら格好だけ見るとどこぞの黒幕のようだ……膝の上に黒猫でも居ると完璧だ。(まぁ、実際黒幕なのだが……)



扉が開き、先に入ってきた女性、エリナが「失礼します」と律儀に声を掛けてから入室してくる、続いて黒マントのアキトが足音もなくスッっと入ってくる。

「会長、テンカワ・アキト君を連れて参りました」

「あ〜ご苦労さん。取り合えず座りなよ……」

エリナの事務的な報告に答え、立ち上がると目の前の来賓用のソファにアキトを促す。


「……」

アカツキの言葉に何のリアクションもせず、言われたままソファに腰掛けるアキト、その目はアカツキを捉え離さない。アカツキの方もアキトが腰掛けると、先ほど座っていた椅子から離れ、アキトの向かいのソファに腰掛ける

「まずは、久しぶり。 って所かな」

リラックスしたように深々とソファに身を預け軽く挨拶をするが、その軽い口調に反し鋭い視線をアキトに向ける

「あぁ、だが無駄話をしに来たわけでもあるまい、手短に聞こう。 何の真似だか知らんが、あの白いサレナ……アレは何だ、誰が乗ってる。」

アキトに再び重い影が掛かり、その鋭い視線がアカツキを捕らえ、射抜く

「まぁ、そう来るよね。 普通」

アカツキはアキトの鋭い視線もかわし、やっぱりねといった感じで、先程までの緊迫感のある顔を崩し。
普段の軽い態度になり、視線でエリナに合図をすると、エリナは先程までアカツキの座っていたデスクの上から1つの紙の束を取り、アカツキに手渡す。

「ま、取り合えずこれ見てよ。 説明は長くなるけど、大体の事は書いてあるから。」

そう言って、アキトの目の前に薄い紙の束を滑らせる。 その表紙にはこう書いてあった

「X計画 開発報告書?」

「簡単に言うと、設計図だよ。説明はエリナ君簡単でいいからお願いね」

訝しげにアカツキを見ながら、言われるままそれを手に取り、ページを捲りながら簡単に目を通すアキト。
それに合わせ簡単な説明を始めるエリナ

「あの機体は『アナガリス』、新型の機動兵器『アスフォデル』に外部装甲を装備させたブラックサレナの姉妹機よ、主武装は腕の可変ブレードのみの接近戦型、副武装としてG・ユニットを装備可能。 開発は地球の開発部が行っていて、つい先日組みあがったばかりの新型機よ」

エリナの説明の合間にアカツキが口を挟む

「そ、で地球じゃぁあんな物の実験は出来ないし、こっちで作ってた部品の組み込みを兼ねて今日の移送に便乗してきたんだけど、何かテンカワ君がピンチだって聞いて、さっきお助けに向かわせたんだ」

「ふん、余計な真似を……それに、G・ユニットとか言ったか、まさかとは思うが……」

アカツキの言葉に、アキトが見ていた報告書をテーブルに投げ吐き捨てるように言うと、どうやら多少はこの機体に興味が沸いたのか疑問を返してくる。

「そ、そのまさかのグラビティーブラストだよ。 エリナ君」

アキトの言葉に軽く答えると、エリナに説明を促す。

「はい、G・ユニットはこの機体の計画の開発起源よ、大戦中にウリバタケさんが単独で作り上げたグラビティーブラスト搭載型エステバリス、通称エクスバリス。 実はこの機体に装備された小型のグラビティーブラストはそれ自体の完成度は非常に高かったの。 
でも当時の技術力ではグラビティーブラストを撃つ為のエネルギーを得る事が非常に難しかった、実際グラビティーブラストを撃つには想像以上にエネルギーが必要で、エクスバリスはそのエネルギーを得る為に大型の重力波アンテナに、通常の5倍ものエネルギーを得る新型のエネルギー変換機を使ったんだけど、結果、通常の5倍ものエネルギーを搾り出す変換機の膨大なエネルギーに機体が耐える事ができなくて、ジェネレータが暴走、チャージもままならない失敗作だった……」

「ふん、で、そのエネルギーを得るために相転移エンジンでも積んだのか?」

「…いいえ、今現在の技術力でも小型の相転移エンジンは月面フレームサイズが手一杯、通常の機動兵器に積むにはまだまだ先の話ね。 例え小型化に成功しても出力の問題が残るわ、現に相転移エンジンを積んだ月面フレームでさえ未だにグラビティ・ブラストは撃てない…」

「それでは、どうやってそんなエネルギーを得る…結局机上の空論か?」

アキトの挑発するような言葉に、エリナがうっすらと笑みを浮かべる。

「それはね…」











ユーチャリス中枢、オペレータールーム

「…………」
何も事言わず、瞳を閉じ、辺りに輝く模様と同様のナノマシン模様を全身に浮かべながらIFSを通しこの船の全てを握る少女ラピスは
今、先程の戦闘によって得られた戦闘データや、敵のシステムにハッキングして得られた様々なデータを解析し、
月面基地の中枢コンピュータに転送し、船のシステムの更新をも行っているところだ。

「…………ん…」

と、ラピスがうなずく様に僅かに声を漏らすと、辺りに輝いていた光の模様が消え、瞳を開いたラピスの目の前にウィンドウが開く
『データ転送完了!』『ユーチャリス自己診断完了!』『システムの更新終了』『外部端末切断』

「了解…オツカレサマ…」

ラピスがそう言うと今までのウィンドウが消え新たに様々なウィンドウが辺りに開く
『お疲れ!ラピス!!』『大変よく出来ました!!』『問題なし』ets……

と其処に、新たに他のウィンドウが開き、先程エリナと話していた白衣の女性が写る。

シリア・シーベル嬢
(挿絵:海苔さん作)


「お疲れさま、ラピスちゃん♪ 早速で悪いんだけどもう1つ仕事を頼まれてくれる?ちょっと人手不足でさ〜」

先程エリナと話したときとは打って変って、愛嬌のいい笑顔に優しい口調で話す
その女性は、ここの研究責任者で普段ラピスの保護者的存在の『シリア・シーベル』だ…

「シリア…何?仕事ッテ…」

「ん〜とね、今はあんまし詳しく言うとあれだから置いといて♪ ようはある人のIFS調整と身体検査に付き合って欲しいのよね…」

何か含みのある物言いに僅かながら疑問を持つも特に断る理由も無く了承するラピス

「ありがと〜!じゃぁ取り合えず、医療機器開発研究所の入り口で待ってるから!着替えてからいらっしゃい♪」

そう言うと、手を振りながらもそそくさとウィンドウを閉じるシリス

ウィンドが閉じると、ラピスは席を立ち、この船のコンピュータAI『オモイカネ』に声を掛けその場を後にする。

「……ジャァ、行ッテクル、又ネ、オモイカネ…」

『はい!お疲れ様、又ねラピス♪』

そして、主の居なくなったその場は、深い闇に沈んでいった…











再び第二所長室

「なるほど、そのアスフォデルとやらの外部ユニットシステムと、グラビティー・ブラストを完全に本体と別系の大量逐電バッテリーによって外部からエネルギーを得る必要を無くし、エネルギー獲得の問題を解決したわけか…」

「そう、エステバリスのアサルトピットシステムに対し、完全に外部のユニットに頼った、マルチロールフレームによって、フレーム交換を必要としないため機体フレーム強度はエステを凌ぎ、さらに構造的余裕スペースが生まれ、其処に今ユーチャリスに搭載されてる新型のバッタの小型エンジンを補助機関として内臓、Xバリスで浮かび上がった問題は全てクリアしたわ。」

「まさに、ウリバタケ君の予測は大当たり、実用化の道を切り開いたわけだ……」

「それに貴方のサレナの追加装甲や高機動ユニットもアスフォデルの、対要塞戦強襲用外部ユニット…通称、A(アナガリス)装備の技術をそのまま流用してエステに使ってるのよ。 
そして、アスフォデルとG・ユニットに使われてる大容量バッテーリーや小型のボソンジャンプシステムは、貴方のエステの物を流用してる、この2機は、お互いにお互いの欠陥を補いながら生まれてた、まさに双子の機体なのよ。」

「おかげで次世代機開発計画、AsV計画とXU計画は両者とも大成功さ♪、この2機のデータを下に今開発中の、AsV計画の集大成、次世代型新機動兵器、アルストロメリアも大いに期待できるよ♪ これでネルガルも落ち目から盛り返せるってもんさ!」

「ネルガルがどうなろうと知った事ではない…もういい、あの機体の事は分かった」

アキトの言葉により、今までの話題が切り捨てられ、一気にアキトが場の空気を塗り替える

「俺が一番聞きたいのは、あれに『誰』が乗ってるかだ…」

アキトが発した小さく重たいその一言によって、場の空気が一段と重たく緊張感の張り詰めた物に変わる。
そして、それに答えたのはアカツキだった…

「そうだね…君には…話さなきゃなんないよね……」

そう口切ったアカツキの後ろでは、エリナがアキトから目を逸らし顔をしかめていた、事の全てを知るアカツキには其れが何を意味するか分かっていた…

「じゃぁ、ちょっと付いて来てよ。 そのパイロット君に会わせてあげるからさ」

そう言って、重い腰を上げアキトを促す。 アキトもアカツキの言葉に従い、立ち上がるとアカツキに付き部屋を後にする、その後を重い足取りでエリナが付いていった・・・











時間は遡ってネルガル月面研究所−医療開発研究所

その入り口の脇にある休憩所のイスに、先程まで全身にフィットしたボディースーツから、白い短めのワンピースに小さなマント姿に着替えたラピスが自販機で買った紅茶を飲みながら、今や遅しと、しかしながらイラついた様子も無く、待ちぼうけを食らっていた…

それは、脇に積み重なる3つもの紙コップが物語っている…
彼女には自販機のホット紅茶が熱すぎたのか、はたまた彼女が猫舌なのか、「フーフー」と両手で大事そうに抱えた紙コップの中身を冷ましながら、比較的ゆっくりとしたペースで飲んでいるのだ。
そのペースでカップ3つとは相手はかなりの遅刻をしてるらしい…その時。

「ごめ〜ん!待った〜?ちょっと用事頼まれちゃって、遅くなっちゃった〜(涙)」

と、大音量の声がラピスの耳に入ってきた、彼女が声のした方向に目をやると、山のようになった紙の書類の束を良くもバランスよく抱えながら走ってくるシリスが見えた。

ラピスが先程の通信から船を降り、着替えてここに来るまで5分弱、其処からシリアが来るまで20分…待ってるはずが25分の遅刻である…いったい何を頼まれたのか、指にはバンソウコウをして額にまで何かぶつかった様な後が出来ている…その上清潔であるべき白衣は焦げ後だらけだ…(汗

息を切らし、ラピスの前に到着した彼女の第一声…

「そ、そんなに……はぁはぁ…紅茶の、飲ん…だら、夜眠れないわよ・・・・クッ、クッ〜」

悶えながらも、抱えた書類を死守するシリス

「無理シテ喋ルト、窒息スルヨ…シリス…」

「ゼェ〜ゼェ〜、スゥ〜〜〜〜〜、ハァ〜〜〜……あ〜苦しかった〜♪ ごめんね待たせちゃって。 じゃぁ、行こう♪」

「別ニ、シリスノ遅刻ハ何時モノ事ダカラ…」

「何気に痛いこと言うわね、ラピスちゃん(汗」

どうやら常習犯のようだ…(汗

いざ、研究施設に踏み入ろうとする彼女達だが……

何故かシリスが入り口の前で汗をかきながら妙な動きを始める…
何と言うか、クネクネしてる様で踊ってるような…なんとも奇妙な普段人間のしないような動きである。

「ね、ねぇ、ラピスちゃん見てないで手伝ってくれない?」

何を言うかと思えば、手伝え…ラピスが人生初!嫌な汗をかいた瞬間であった…

「…………(汗」

なんとも言えず、ただ黙って事を見ているしかないラピス…その表情こそ何時ものポーカーフェイスながら、頬を伝う汗は隠せなかった…

「ねぇ〜手伝ってよ〜(涙)、両手がふさがってIDが取れないのよ〜おねがい〜」

「ウ、ウン、ワカッタ…」

どうやら、先程からの妙な動きは首から下がったIDを口で銜え様ともがいていただけらしい(汗
そして、しゃがんだシリスの首からIDを取ると、IDをスリットに通そうとするラピスだが……

ちょっと大人サイズのしかも、虹彩、指紋認証とあるセキュリティー装置のスリットは少し位置が高かった(爆
そこで彼女は『ピョンッ』と彼女なりの一生懸命のジャンプをすると、手を伸ばし見事1発でスリットにカードを通すことに成功した!

「ハイ……」

その後ろで、ラピスの動きが相当かわいく見えたらしいシリスは、顔を真っ赤にして身悶えていた。
その身悶えるシリスを見て一瞬?マークを浮かべるラピスだが、何時ものことなので気にしない。

「ありがと〜♪」

そう言うとシリスは虹彩チェックの為、レンズを覗き込み……ん?だが次は、指紋認証だが彼女の両手は塞がっている筈……
そこで彼女がとった行動は



「はぁ〜〜ハッ!チェスト〜〜!ハッ!」

なんと、目にも見えぬ速さで、指紋認証のスキャナに手を置き、書類の束が崩れ落ちる前に腕を戻すと言う離れ業をみせた(汗
その瞬間、横に居たラピスは何が起こったか見えず、シリスの突然の気合の入った声に大きく目を見開き、めったに見せない驚きの表情を見せた。

「さ、どうぞラピスちゃん♪」

「ウ、ウン…」

何となく、本当に何となくだが。 ラピスには彼女の事が、香港映画会伝説俳優の某青の3号さんの親戚に見えたのだった…本当に人間は見た目では分からない物だ。
普段は、細身の体に、化粧もしてないのにその整った顔つき、そして何よりその人に対する優しく暖かい性格の彼女が、今ラピスの目の前で、妙な動きをし、真っ赤になって身もだえ、挙句には、相当な重量に見える書類の束を僅かな間とはえ片手で支え、気合のこもった声と共に無意味な目にも見えぬ指紋認証をみせたのだ。




と、なんやかんや、濃い無駄な時間を過ごしながらもようやく目的の医療研究所に入った2人は、シリスの先導でそのまま研究所内を進み、研究施設の奥にある滅菌所を通り、その出口で待っていた係りの研究員に従って研究所最下層のLv5区域に入る。

ここは、主に感染力の強いウィルスや、未知の病原体等、バイオハザードレベルの物を扱うとてもデリケートで危険な区間である……。

が…この時代、ナノマシン技術の確立によりバイオハザードレベルのウィルス等は殆ど無く、使用されているブロックは極僅かで、なおかつウリバタケ開発のディストンションブロック、最新鋭の防護スーツのおかげで、外部にウィルス等が漏れる危険の無く安全なところである。

今は事実上、倉庫と使用されたり、その外部と完全に隔離された部屋の作りから、外部には知られたくない最重要機密を扱う実験施設として使用されてる。

そんな、今や廃墟のような空気の漂う研究所の暗闇の中、僅かに使われているブロックの光と、通路を照らす光のみの世界を歩いて行くと。
その中でも一際光が漏れる部屋の前で、彼女たちはその歩みを止めた…

先程から彼女たちを暗闇の中、この迷宮を案内してきた係りの人が、先程のシリア同様IDや指紋、虹彩の照合を済ませ。
そしてパスワードを入力すると圧力ドアのロックが解除され、独特の音と共に特殊金属で出来た重たそうな分厚い扉が開き、係りの人の声で中へと招かれる。

「どうぞ、こちらです。」

今まで薄暗い中を歩いてきた為、その扉の向こうの光に多少の眩しさ感じながらも、彼女たちを照らした光は強いものではな。
直ぐにその光に網膜が収縮し適応すると、そこには、今まで歩いてきた廃墟のような空気を一変するかのような夥しい機器や配線、研究員の絶え間ない声と活気に埋め尽くされていた。

「こっちよ…ラピスちゃん逸れないでついてきてね」

先程とは打って変って、引き締まった顔付きになったシリアに、ラピスが所狭しと並んだ機器を身軽にかわしながらついて行く。



ラピスがシリアに付いて行き案内された所は、何かの制御室の様で、目の前のガラス越しにエステ3機分が余裕で入りそうな巨大な空間があり、目に付く物として中に液体の入った大きな筒状の物が左右に2本ずつ、真ん中に一際大きな機械の円柱が地面から天井まで伸び部屋の中央に鎮座し。
それには、棺桶の様な物が小さなアームで繋がっており、その棺桶は表面の大半がガラスで覆われていて、中に何か入ってるようだが暗くてよく見えない。

そしてその棺桶付きの機械を中心に無尽に走る配線やパイプ、数え切れぬ機器、その機器の周りにも、先程同様数人の研究員らしき人物と、機器の設置をしている作業着の人間が見える。 其処はまるで……

ドサッ!!


急に大きな音がその場に響き、その音で現場の異様な空気に呑まれかけたラピスが引き戻され音の方へと振り向くと、先程からシリアが大事そうに抱えていた書類の束を、乱暴にデスクに置いた音だった。

「はぁ〜重かった〜、腕が千切れるかと思ったわ…ん?どうしたのラピスちゃん?」

「ウウン、ナンデモナイ」

「?…そ、じゃぁ、ラピスちゃんは其処の私の隣の席ね、それから……ああ!そこちょっと無闇に触らないでよ!もぅ〜」




とりあえず、ラピスは指定された席に着くと、目の前にあるIFSコネクター用のボードに手を沿え、何時でも使えるように起動させる。

ラピスが簡単に起動させたマシンのチェックと、大まかなシステムの把握と自分に合う様若干のプログラムの書き換えを済ませると
その横で、シリアがインカムや、コミュニケを使い様々な支持を飛ばし始め
その声にテキパキと反応し先程以上に動きが機敏になった研究員たちが素早く自分の仕事をこなし、作業着の関係者達は目の前の機器の設置を終え引き上げて行くき、その内の数人がラピスらの居る部屋に来る。

「じゃぁ、始めるわよ……ラピスちゃんは計器のモニターと、送られてくる観測データの入力と照合、結果をホストへ転送おねがいね♪」

「了解…接続計器ノチェック…クリア、全テ正常ニ稼動中…スタンバイ完了」

ラピスが作業を始めると、IFS用のボードに添えた手の甲にIFSパターンが浮かぶ…それは今までのIFSには見られない模様だった…そしてそれにつられてボードにも先程のユーチャリス内部で、ラピスを照らしていたものと同じような幾何学模様が浮かぶ。

「OK♪、じゃぁ、第二段階に移行!電源入れて…」

シリアの支持に従い、辺りに『カチャッ』と言う軽い音が響くと、次々と各機器が起動する電子音が鳴り
目の前のガラス越しの空間に徐々に光が生まれ、その全貌が姿をあらわにする。

その瞬間、ラピスの目が見開かれる。

「ヒト……」

先程のガラス張りの棺桶の中に人が見える…電源が入ると同時に、寝かされていた棺が立ち上がり、その中に袖の無い全身にフィットしたボディースーツに身を包み、数本のコードに繋がれ棺桶の中の液体に全身を預け、緩やかに漂う様に1人の人間が入っていた。

「そうよ、ユーチャリスを……強いては、ラピスちゃんやアキトさんを守るナイトさまよ」

「ナイトサマ?…」

「そう、今日の戦闘でアキトさんを助けた、白いロボットのパイロットさんよ♪」

「ソウ……シリア、アノ人ノ腕ハ?…」

そう言ったラピスが見つめるのは、棺桶の中の人物の腕…袖の無いボディースーツから除く地肌には、手の甲のIFSから下腕を蝕むようにIFSパターンが伸び、右手には僅かだが、パイロット用のアキトと同じIFSが残っている。
左腕は、右手と同じように下腕を不思議な模様のIFSパターンが蝕むように伸び、僅かながら上腕にまでその侵食が及んでいる




「彼は、アキトさん達と同じ、奴らの実験道具にされていた人よ……あの腕はその代償、傷跡ね……」

シリスの静かな声、だがしっかりラピスの耳には重たく届いたその言葉が『ビクッ』っと、ラピスの体を縛り付けるように強張らせる。

「被検者のIFSコネクトを確認…活性化します、フィードバックレベル上昇3・・・4・・・5・・・」

「血圧、脈拍、脳波、その他異常なし、身体レベル3…安定しています」

「ナノマシンの異常……ありません、こちらも安定しています」

「OK〜♪、じゃぁここらが本番!最終段階に移行…IFSの調整と、ナノマシンのチェック、その他諸々データ…漏らさないでよ、些細な異常も逃さないで・・・もし異常が見られたら、私の指示なしでも中止して、ミスは許されないからね」

シリスや他の研究員が順調に作業をこなす中、シリスの目に俯き体を震わせ何かに怯えきっているラピスが目に入る。

イヤ…ヤダ…!!」

ラピスが先程のシリアの言葉に過去のこと・・・ラピスの居た研究所が襲われ、目の前で人が真っ赤に染まって動かなくなっていく、あの地獄のようなあの日の光景を思い出し、恐怖のあまり体を震わせていた
あの日のことは、まるで暗示のように彼女の心に恐怖と底の無い絶望を植えつけていた

その時、ラピスはゆっくりと自分を包み込む暖かな感触に気づく
それはラピスの震えを止め、脳裏から恐怖感を消し、意識現実へと引き戻す

「ごめん、余計な事言っちゃった…もう大丈夫だから、私が、ここの人たち皆が守ってあげるから、心配しないで…」

シリアだ、彼女は何時もこうだった……
ラピスが不安な時や、夜中にあの日のことを夢に見て飛び起きて眠れない時、必ずそばに居てこうして抱きしめながらこの言葉を繰り返し、ずっと一緒にいてくれた。

「ウン……」

それは、魔法のようにラピスを暖め、彼女の中の不安や恐怖を消してくれる…… そしてラピスが落ち着きを取り戻し、シリアの温もりに安堵した…その時!


(「リ……ちゃん?」)

「!!、エッ?」

「ど、どうしたの、ラピスちゃん!?」

突然、ラピスの脳裏に声が聞こえた…その事に驚き声を上げると、シリアも驚きラピスに顔を向ける。

「今……声ガ……声ガ聞コエタ…シリアヤ、アキトミタイナ、優シイ声……デモ何カ違ウ…不思議ナ声」

「声?」

ラピスの突然の言葉に首を傾げるシリアだが、ラピスを見て直ぐにその答えにたどり着く。
そして、首を目の前の空間に佇む騎士の眠る棺に向け、それは確信になる…。

「あぁ、なるほどね……ラピスちゃん…それは『彼』よ」

そう言ったシリアの言葉に再びガラス越しの人物を見ると、先程とは違い全身にナノマシン模様が青白く浮かんでいた。
気づくとラピスにも同じ、何時もなら白く光るナノマシンが、青白く光り浮かんでいた…

「多分その声は、彼のIFSからのノイズを拾ったのね…ナノマシンの活性化でノイズが計器に混じってきちゃったみたいね……実はね、彼のナノマシンには他の人のナノマシンにアクセスする物があって、今ラピスちゃんがアキトさんのフィードバックに使ってるナノマシンのオリジナルなの、多分そのせいもあってラピスちゃんのナノマシンもつられて活性化しちゃって敏感に反応しちゃったのね…」

「ソウ…デモ、嫌ナ感ジハシナイ、トッテモ暖カイ……」

そのラピスの言葉に、シリアが笑みを浮かべ、シリアまでもが暖かくなる。

「じゃぁ、もう少し、お仕事頼んじゃおうかな♪」

「ウン!」

「ああ、でも計器に影響が出ちゃうといけないから、ノイズが入らないようにフィルターのレベル上げといてね♪」

「ウ、ウン…」

この不思議な体験をもう少し味わいたかったラピスは、ちょっと残念そうにフィルターのレベルを上げるのであった。











月面基地、某所エレベーター内

重い沈黙が漂う狭い空間の中、高そうなスーツを着たロン毛のアカツキ、全身黒ずくめのアキトと両者とも動きを見せぬ中、一人顔を伏せ、拳を握り締めながら他の2人とは少し距離を置き、壁際に立つエリナ。

今、エレベーターの表示は地下を指しているが、階数を示す数字は表示されていない、それは、通常とは異なるルートを辿っている証だ


「ところで、わざわざそのパイロットに会いに行くには何か意味でもあるのか…」

沈黙を破り口火を切ったアキト、先程は気にも留めなかったが、よく考えてみれば不自然なアカツキの言動、エリナの不審な様子をみて疑問を口にするアキト

アキトは 「パイロットは誰だ」 と、聞いたのだ、普段のアカツキであればその人物のプロフィ−ル等、表面上の情報を提示しそうな物だが、「会わせるから付いて来い」と言った、其処に何の意味がある、いや、何か意図があるはずだ…そう今のアキトには思えた。

「それは、君に会わせるべきだからさ…今後彼には君の警護について貰おうと思うし、顔ぐらい合わせておくのが当たり前だろ?」

「そんな物は必要ない!自分の身は自分で守る。 貴様のお遊びに付き合うつもりは毛頭無い、本当の事を言え!何を企んでいる!!」

アカツキの何時もの軽い口調に、強く言葉を返すアキト

「まぁまぁ、そう言わずに会って行ってよ、折角連れ出してきたんだ、警護の件だって月臣君の太鼓判付きなんだ…君の足手纏いにはならないさ」

「そういう問題ではない! これは俺の戦いだ、他の奴の力など要らん! これ以上無用な手出しをする様なら、そのパイロットも奴等共々に消すまでだ……」

一気に場の空気が弾けんばかりのアキトの声と、はっきりと殺意の篭った最後の言葉にアカツキの顔付きが変わる。

「殺す?…フッ、君には出来ないさ、『彼』はもう死んでるんだ……それでも足りないって言うなら、会って蜂の巣にするなり何なり好きにすればいいさ…兎に角、今回は引きずってでも会ってもらう。 その先は君の自由だ、話はその後で十分だ」

「死んでいる…だと……フン、良いだろう会ってやる。 貴様が何を考えて居るかは知らんが、2度と俺の前に現れないよう、お望み通り銃の的にでもしてやる」

アカツキのアキトを挑発するような言葉に、爆発しそうになった感情も、今のアキトにとってさほど挑発としての意味を成さず。 逆に冷静さを取り戻す、だがその時アキトの中で別の何かが切れた…


再び沈黙を取り戻したその場に、到着を知らせるコミュニケが現れ、エレベータの扉が重い音と共に開いた
扉の先には、先程ラピスらが通った薄暗い廃墟のような通路が僅かな照明の下、進むべき道を示すように奥へと続いている

先程と変わり、僅かに使われていたブロックも、今は人気が消え通路の明かりのみの闇の空間だった

エリナを先頭にアキトとアカツキが続き、やはり先程ラピス達が案内された部屋の前で立ち止まる。
そして、エリナが全てのセキュリティーを解除し、扉が開かれアカツキ、アキトが中に入ると、最後にエリナが入り扉をロックする。



彼らが部屋中に張り巡らされた機器やその配線を辿るように奥へと進むと、アキトの目に見知った2人の人物の背中が見えた…

「ナノマシン活性率30%、安全域まで低下、安定しました」

「身体レベル3、依然問題ありません」

「よ〜〜し、取りあえず項目はクリアっと……ナノマシンの活動に異常は無い様ね、じゃぁ次……ん?」

「や、おじゃまするよ」

研究者達の報告にシリアが確認し、次の指示を出そうとした時背後に気配を感じ、振り向くとアカツキが軽い挨拶と共に軽く手を上げる
ラピスは作業に集中している為、気づいていないようだ

「会長〜、それにアキトさんにエリナ所長まで、3人ともそろってどうしたんです?」

シリアの緊張感の抜けたような声に、先程まで引き締まっていた場の空気が緩む…

「な〜に、王子様にうちのご自慢のナイトさまを紹介しようと思ってね」

「はぁ、そうなんですか……」

相変わらず軽い口調で話すアカツキだが、その目に映る何かに気づいたシリアがエリナに視線を送ると

「悪いけどシリア、ラピスを連れてちょっと外してくれる」

「??…はい、何だか分かりませんが、分かりました。 じゃぁちょっと休憩してきますね……ラピスちゃん」

「…何?…!!アキト…」

今まで作業に集中していた為、気づかなかったがシリアに呼ばれ振り向きやっとアキト達に気づくラピス

「ラピスちゃん、ちょっと休憩。 お茶でも飲みに行こう♪」

そう言ってラピスの手を取る

「アキトハ?…」

「アキトさんは用事があるから後から来るわ。 さ、行こう♪」

「…ウン」

渋々といった感じで立ち上がると、アキトを気にしながらもシリアに手を引かれ部屋を出て行くラピス。
その場に僅かな職員と、アキトら3人になり、何となく気まずい空気を職員らが感じ始める……

「俺ら休憩なし?」「え、マジ」「何かこの空気やばくない」
その場に残された研究員の心の会話でした



そして、時は止め様なく進む…拒むことの出来ない運命と言う名の時間は、今その針を進め静かに宿命の鐘を鳴らそうとしていた

「さぁ…紹介しよう。 僕らの切り札……王子様を守るナイトさまを…」

アカツキの言葉を合図に、計器だけの光が漏れるガラス越しの部屋で、一際輝きを増す中央の大きな柱
そして、それに備え付けられた騎士の棺が、今その存在を象徴するかのように輝きだす。






つづく


〜あとがき〜

まず、一言…引っ張りすぎじゃ〜〜〜〜〜(ハイ、おしまい

どうも、やけくそになって作った、新テロップから蘇った第一章……

結果…ろくな文書も書けないくせに、書きたい事詰め込んだ所為で容量オーバー!
当初前後編にしようと思ったんですが、別の話に繋げる事にしました……すみません、まだ引っ張ります!(謝
まぁ、書かずとも皆さんお分かりですがね……(滝汗

と言うわけで今作は機体解説と、シリアの登場話と言う、全くお話の進まない物に終わった訳ですが…話が飛んでる所は
下の設定を見ていただけば、お分かりいただけると思いますので。
因みに、ラピスが体験したナノマシンからのアクセスについては今後詳しく出てきますので今回は略称しました。

と、取りあえず次回はナデシコBサイドのお話から始まりますので、お話はちゃんと進む!・・・・・・と思います(滝汗
う〜数少ないオリキャラさんのシリアさんも登場してこれからもっと大変です。

何とか、これを読んでくださっている皆様に、空気が伝わっていればと良いな思います。
それでは、前回と変わらず多くを語らずこの場を終わりたいと思います。

では〜♪



なぜなにナデシコ出張編〜第二回


設定解説

人物編


シリア・シーベル
 
  年齢     23歳 
  好きな物  可愛い物全部♪
  嫌いなもの らっきょ、にんにく たまねぎ
  特技・趣味 金魚すくい 美食探索 料理

 ・ネルガル月面研究所、医療開発課の最高責任者で、ネルガルのコンピュータ関連開発部の研究者であり
  ネルガル内でも有数の頭脳の持ち主。
  過去には、現エステバリスのAIの開発にも活躍した現役バリバリの天然天才お姉さん
  現在は医療関係の現場の責任者として月面基地に赴任し、アキトやラピスの専門医としての顔も持つ
  医者として経験は浅いが、その十二分の知識とコンピューター開発経験を生かし、関係機器の開発に着いている。


メカ編

ブラック・サレナ
 
 ・ご存知、テンカワ・アキトの駆る復讐機、劇ナデの主役機。
  アキト専用エステに追加装甲を施した、強化型エステとも言える機体で、
  追加装甲に搭載された2機の小型ジェネレーターと、各スラスター、ブースターにより
  機動性、火力共において現存の機動兵器の水準を遥かに超えるスペックを誇る。
  
  武装は両腕に装備したハンドカノン2機、サブアームのテールバインダー1機。
  オプションとして高機動ユニットを装備可能、これを装備した時の機動性は通常の1,5倍を発揮する。
  
  中距離〜接近戦を頭に置いた装備で、機体装甲強度にDフィールド出力も恐るべき機体。
  更に、中身のエステの第一装甲に施された特殊加工、新型の大容量バッテリ−によって、小型のジャンプユニットの運用に成功し
  単独のボソンジャンプをも可能にし、高機動ユニットを装備する事で長距離のボソンジャンプも可能。(要A級ジャンパー)

アスフォデル

 ・現在判明してるのは、アサルトピットを持たず、単一のフレームに外部装甲ユニットによって、エステ同様のマルチロールを実現し
  補助機関に、新型バッタのジェネレータを装備しているが、出力が低い為、エステサイズのスタンドアローンは実現していない。
  しかし、このジェネレーターと大容量バッテリーの実用によって、重力波兵器(G・ユニット)と同時に開発されていた
  マルチ・ディストンションフィールド(MDF)システムの機動兵器での使用が可能になり。
  之を試験的に内臓、他の機体とは一線を記すディストンションフィールドシステムを持つ機体。

アナガリス

 ・今作の第二の主役機、ネルガル試験用新規格機動兵器『アスフォデル』に外部装甲ユニット(A装備)を施したブラックサレナの姉妹機
  
  サレナと違い、エステに追加装甲を装備するのでなく、外部オプション機構により、素体のアスフォデルに直接装甲が施されている為
  『エステ(単体)+追加装甲=サレナ』でなく『素体+A装備=アナガリス(アスフォデル)』と言う図式になりサレナとは少し違う(汗
  
  基本武装はアスフォデル腕部の可変ブレード2機、オプション武装でミサイルポッド、G・ユニットを装備可能。
  基本的スペックはサレナとほぼ同等、只1つ反応速度の速さに秀でていて柔軟な間接のお陰で、
  その速度を妨げることなく現存の機動兵器の中で最も素早い運動性を誇る。
  
  更に中身のアスフォデルの柔軟な間接を生かし、G・ユニットを装備する事で高機動型に可変可能で
  ロボット物の夢、『変形』を叶えるという、設計者の趣味がいかんなく発揮されている面白可笑しい機体。


G・ユニット
  ・アナガリスの追加ユニットで、アスフォデル開発の根源にある武装、機動兵器用グラビティーブラストの事で
   Xバリスで浮かび上がったエネルギー問題を、完全に本体とは別系のエネルギーを事前に大蓄量バッテリーを使い
   確保しておく事で、機体に負荷をかけるエネルギー機関を排除、これを解決し
   本体フレームの強化で、理論上機動兵器用のグラビティー・ブラストを実用させた物だが……



用語編

アナガリス(Anagallis)

 ・サクラソウ科、和名『瑠璃はこべ』と言います。『アナガリス』は学名です。
  学名の由来はギリシャ語の「楽しむ」と言う言葉から来ていて、この花には悲しみを取り除く力があると信じられていた事から成っています。
  花言葉は「約束」「変化」「追想」「変わり身」です。

  又、「恋の出会い」「あいびき」なんて花言葉もあります♪これはこの開花が時間に正確なとこにちなみ、
  晴れの日は朝7時に開花し、午後2時にはぴたりと花を閉じてしまう性質から成ってます。
  更に、曇りや雨の前にもピタリと花を閉じてしまう事から、英名で「貧乏人の晴曇草(Poor man's weatherglass)」とか、
  「羊飼いの晴曇計(Shepherd's barometer)」とも呼ばれているそうです。
   

AsV(エススリー)計画

  ・第3期エステバリス開発計画の略称で、蜥蜴大戦開戦以前、2足歩行兵器として開発され実用されていたものをひっくるめたのが第1期、
  開戦直後、対蜥蜴用に開発されたのが第2期、事実上この第2期からがエステバリスと呼称される。
  
  そして、ステルンクーゲルに機動兵器シェアを奪われたネルガルが、その巻き返しに発案したのが第3期エステバリス開発計画
  開発目標として、ジンシリーズに用いられた簡略のボソンジャンプ(B・J)システムを内蔵し、それらに必要なエネルギーの確保と
  スタンドアローンのステルンクーゲルに対抗し、今まで以上の長時間単独活動の実現を視野に開発が開始される
  
  そして、その試作機として完成したのが、アキトSPエステで、小型のB・Jシステムの内臓、バッテリー容量の増加に成功するも、
  B・Jに必要なエネルギーを満たせず、B・Jフィールドを発生させられなかった。
  しかし、ある時CCに着目した技術者がCCからエネルギーを抽出する事を思いつき之に成功。 
  エステの第一次装甲に、このCCを使った新素材を使用したことで問題を解決。 さらに、バッテリーの逐電容量の大幅な増加にも成功する。
  これによって、XU計画の、G・ユニット、MDFシステムの実現にも貢献する
  そして、その研究成果と、XU計画からの技術を流用し、エステバリスに代わり、次世代型新規格機動兵器『アルストロメリア』が生まれる


XU(エクスツー)計画

  ・X−aestivalisU計画の略称、原案はオモイカネに残っていたウリバタケの設計図。
  オモイカネに残っていたデータと言うのが、大戦中にウリバタケが単独で設計、開発したエクスバリスの再設計版で
  彼はエクスバリスの失敗にもめげず、新たな開発プランを模索、再検討した結果、エステのアサルトピット機構がフレームの強度に悪影響を
  与え、重力波の影響に耐えれないと言う問題に着目し、
  現行のエステに拘らず、強固なオリジナルフレームの新型機動兵器の設計に着手
  
  そして、アサルトピットを持たない『外装甲オプションシステム』と言う、エステのフレーム交換機構をひっくり返した
  新たな機構を持った、実用的な新規格フレームの機動兵器の設計に成功、これによってフレーム強度の問題を解決。
  
  さらにG・ユニットを完全に外部ユニット化に切り替え、設計は進んでいたものの、エネルギー機関の問題に行き詰まり
  その問題は解決されないまま、終戦を迎え、未完成の設計図のままオモイカネに残っていた物のを、ネルガルの技術陣が発見し
  軍にナデシコが封印される前にオモイカネから抜き取っておいたものを、クリムゾンのステルンクーゲルに対抗する兵器開発の声の上がった
  ネルガル上層部に提出したもう1つの計画。
  しかし当時、エステバリスと言う早期開発が可能で、実績がある物に拘っていたネルガルの上層部は、
  未知の規格の機動兵器開発には時間が掛かると、当時経営危機さえ感じていた上層部は早期の開発を優先させるべきと判断し
  「時間の無駄だ!」とをこれを却下。
  しかし、これを見た会長アカツキは独自の経営理念に基づき、極秘裏に開発を容認し
  地球の地下ジャンプ実験ドーム内に、アカツキが連れて来た科学者を筆頭に新たにXU計画専用の開発部を設立、これを推し進め、
  基の設計図の完成度の高さやAsV計画の技術流用、何よりその開発最高責任者の力量も相まって、
  予測以上の期間でアスフォデルの開発に成功する。




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