今日も今日とて、晴れ晴れしい青空が広がる、真夏のある日


ある青年が、頬を流れる汗も気にせず走っていく


何を急ぐのか、周りを気にしながらただひたすらに走っていた。


ここは、連合軍サセボ基地にある問題集団を拘留する為の場所


連合宇宙軍サセボ基地資材管理倉庫D…



通称…



〔ナデシコ長屋〕


機動戦艦ナデシコ
〜The Knight of Missing before〜



anather story 1

「閉鎖された町の中で…」






時はもうお昼過ぎ,3時になろうとしている

どれだけ走っただろう?疲労一杯のその青年は日の当たらない木陰を見つけると、一目散にその木陰下目指して再び走る

「はぁはぁ、はぁ〜・・・・・・・・。」

木陰で休みながら、上がった息を整え一息つくと、何かを探すように目をこなし、全神経を使って辺りの気配を探る。

辺りに何も感じられないことを確認すると、木陰ならではの気持ちいい風が全身を癒していく事に気づく。

すると今度こそ本当に肩の力を抜きその気持ち良い風にに体を預けた。何故かその場は木の上だったりするのだが・・・


「ふぅ、何とか逃げ切ったみたいだな…それにしても、なんであんな事に…って…考えるだけ無駄だな…はぁ〜

その場に深い深いため息と共に肩を落とすと、先程のあまり思い出したくない出来事が脳裏に蘇り。

「はぁ〜ぁ〜」

ただため息が出るだけだった・・・






それは、今までと同じ清々しい朝の筈だった…


その日、いつも通りアキトを作る朝食の良い匂いに刺激され、薄っすらと目を開くと、これもいつもの如く声がかけられた。

「よう、起きたか?さっさと起きて顔でも洗ってさっぱりして来い。」

朝食を作る手を止め、相変わらず朝の弱い同居人にいつものあいさつで起こし、タオルを差し出す。
すると、今にもまた眠ってしまいそうな目で辺りをキョロキョロ見渡すと、寝ぼけた声で返事が返ってきた。

「おふぁようござ・い・・ま…す〜す〜…」

「って寝るなよ…(汗)」
そんな様子に苦笑いを浮かべると、アキトは急に悪戯な笑みを浮かべ最終手段に出る
「また朝食なくなるぞ?(ニヤリ)」

「!!」

アキトの「朝食なくなるぞ」の言葉にカッと目を覚ますと、眠そうな目をしながらようやく起き上がる。
そんな手のかかる弟の様な同居人の姿に再び苦笑いしながらも、アキトは再度タオルを差し出す。

「ほら、顔でも洗って来いよ。」

「すいません、いつも起こしてもらっちゃって。」

すまなそうにそう言うと、アキトからタオルを受け取り肩にかける、アキトは「いいから顔洗ってこい」と言って台所に戻っていく。
それを見届けると、本格的に起きるべく布団から出てフラフラと洗面所に歩いていく

程なくして、さっぱりした顔で戻ってきた同居人、カイトは布団をたたみ着替えを済ますと、アキトの手伝いをすべく台所に向かった。


「アキトさん何か手伝うことありますか?」

なにか手伝いたくて仕方が無い、そうった事が体全体に伝わってくる。
まるで子供が、お手伝いをせがむようなその姿に思わず笑みがこぼれる。

「そだな…あっそうだ味噌がちょっと足りないから、ホウメイさんとこに行って貰って来てくれないか?」

「分かりました!じゃ、ちょっと行ってきます…あっ!帰って来てもし又『朝食がのこって無い』なんて事は勘弁してくださいよ…」

「分かってるって(汗)そん時は全力で阻止するよ。前みたいなことは2度とさせないから、じゃぁ頼んだぞカイト。」

「はい!いってきま〜す!」

そう言って、元気一杯に玄関から飛び出していくのを見届けると
先程カイトが言った事が思い出される。

今までカイトは2度朝食を食べ損ねている。
1度目はあまりにもよく寝ていて起こしても起きなくて、その隙にユリカがカイトの分まで平らげてしまった時、
2度目は、カイトが急用でほんの少し出かけた隙に、これまた素早くユリカが平らげてしまった。
当人曰く、「アキトのご飯って、とっても美味しいから、いくらでもお腹にはいっちゃうの(ハァト)」だそうで
アキトがそんなユリカに「太るぞ…」と言うと、「大丈夫、しっかり食べて、しっかり働けば太らないもん」とのこと。
なんともご都合主義な事である。

カイトと出会って約3ヶ月、カイトはいい意味でも、悪い意味でも不幸な目に会ってばかりだと思った。
そもそもここに拘留されたのもそうだが、その中でも初めての、そして最大の不幸はやはりその名が、ユリカのご臨終した、かつての愛犬からとった名前だと言うことだろうか…その愛犬(チワワ)も今頃は、お空の上で元気に走り回っている事であろう…。

それを想像すると、なぜかカイトにピッタリと重なって見えてしまうのはそんな不幸のせいかもしれない…

そして、そんなカイトが朝食を重宝するのもやはり、そんな不幸が関わっている。


カイトは記憶喪失ながら、何でもそつなくこなす小器用な体質で、朝食が済むと必ず直誰かに拉致されていき、昼食をとるのがやっとと言うほど引っ張りダコにされ、朝から晩までたらい回しにされている。
これは、本人が望んでやっている事ばかりなので、一概に不幸とは言えないかもしれないが、爆発実験や、別の用件で行ったのにいつの間にか説明地獄の餌食になってたり、退屈しのぎに無茶なお願いをされ口答えしようものなら半殺しに遭うは、ゲームの対戦に誘われ、それで勝つと八つ当たりに遭ったりと、その幅は果てしなく広く、どれを取ってみても、傍から見ればどれも不幸としか言いようがない。
そのため普通の人よりカロリー消費の激しいカイトはエネルギー源たる食事は必然的に欠かせない物になる訳である

そしてそんな事もあってか最近は本当に楽しそうに笑うようになり、そんなカイトの回りはいつも笑みが絶えない。
自分だってそうだ、カイトとの共同生活も充実感に満ち溢れ、早くに両親を無くし、身寄りも無かったアキトにとって初めて家族の暖かさを実感させてくれた。
今ではもう弟と言えるほどカイトの存在は大切なものだ。そんなカイトの姿を見ていると堪らず笑みが心の底から湧いてくる。

初めて会った頃は、記憶が無い事に対する不安や、見慣れない環境に戸惑い、おそらく疎外感の様なものを感じていたのだろう、寂しそうな笑みしか見たことが無かった、だからこそ放っておけなかった、アキトも両親を無くし施設に入れられたとき同じような体験をしていたから、だからアキトはカイトとの同居を望んだ、そしてやっと最近、心の底から笑うようになった。

それを考えると、それはそれで良い事なのかもしれないと思った、するとアキトは止まっていた朝食の支度を再開するのだった。




その頃カイトは、アキトがそんな事を考えてるとは露知らず、ホウメイさんの台所、長屋食堂に向かって走っていた。

だが、やはりそこは不幸なカイト、不幸の神様はそんなカイトを見逃さなかった。

「よぉ、カイトこんな時間に珍しいな。」

「あっ、おはようございます、ウリバタケさん。」

彼はウリバタケ・セイヤ、言わずと知れたナデシコの整備班長である、彼はカイトの小器用さに目を着け、メカの整備を手伝わせた所、メキメキとその真面目な性格と努力で腕を上げ、今ではイネスのご教授もあり、簡単な物であれば自分で設計、開発をして一部の人にそれを提供している。
例えば、全自動の掃除機などは今や長屋の必需品である。

「あっ、そうだった…カイト今日ちょっと用事があるから、朝飯食ったら俺ん所に来てくれや。」

そんなウリバタケにカイトは以前と言うか、毎回痛い思いをしてるので警戒しながら聞いた

「爆発するような物じゃなければ良いですけど…」

「はっはっはっ、そんなんじゃねよ、プロスさんからの仕事で人手がいるんだよ。」

「プロスさん?なら安心ですね、そういうことならOKです。朝食が終わったら行きます。ちょっと急ぎますんで細かいことはそのときにでも。」

「ん〜なんか引っかかるが…まぁ。気いつけろよ〜」

そう言ってその場を去っていくカイト。

そして、食堂に行く途中2〜3人とすれ違い、ウリバタケ同様お呼びが掛けられたが急いでいたのといつもの事なので、適当に返事をして走り去って行った。
そして程なくして目的地に辿り着くと、何人かの客が入っていた。

その内の1人がカイトに話しかけた、

「あら、カイト君朝に弱いあなたがこんな時間に現れるなんて珍しい事もある物ね。」

「皆さんにも同じような事を言われましたよ…(涙)、今日はちょっとアキトさんのお使いで来たんですよ。イネスさんこそいつもなら出前で済ましてるのに珍しいですね。」

そう、話しかけてきたのは説明オバ(ギロッ)…お姉さんこと、イネス・フレサンジュその人である
今ではカイトをその1番弟子に持ち、長屋の医療関係を一手に担うお医者さんであるが、彼女の場合『マッドサイエンティト』としての認知度の方が高い

「別に、時間が空いたから来ただけの事よ。」

「そうなんですか…あっ、そうだおつかい!ホウメイさ〜ん!家のお味噌切れそうなんで少し貰えませんか〜?」

「おやぁ、カイトじゃないか!珍しい事もあるもんだねぇ、こんな時間にお前さんが来るなんて。」

カイトが声を掛けると、朝だと言うのに張りのある威勢の良い声が聞こえてきた。
だがカイトは何故かその声とは反対に急にうずくまり地面にのの字を書き始めいじけてしまい、カイトの周りが薄暗くなる。

「いいんだ、いいんだ、どうせ僕なんか…毎朝アキトさんに起こされなきゃ何時までも寝てるようなだらしない人間ですよ…(涙)」

「どうしたんだい?」
その様子にホウメイがイネスに話をふる
「まぁ、おそらくここに来るまで、会う人みんなに『こんな時間に珍しい』って言われて気にしてたのね。」

「あっはははは、まぁ気にしなさんな!味噌だろ確かアキトんとこは赤味噌だったね、ちょっと待ってな!」

そうすると奥に戻って行くホウメイと入れ替わるように、ホウメイガールズ5人が現れた。

「あ〜カイトさんめっけ!珍しい〜お寝坊さんのカイトさんがこんな時間に食堂に来るなんて〜」

すると、1番にカイトを見つけたミカコが途端に地雷をあっさりと踏んだ。
その瞬間カイトの回りが一層暗くなっていくのが感じられる、そしてその様子に気がついたイネスが簡単に説明する。

「あ〜ダメよ、今カイト君、お寝坊〜とか、低血圧〜とか、起こさないと起きないだらしない性格〜、なんて言われて落ち込んでるとこだから。」

何故か余計な事を言い、カイトの回りがますます暗くなり、範囲が広がる…
その様子にミカコは?マークを浮かべ、他の4人が苦笑いしている。
そんな時、奥から味噌を持ってホウメイがやってきた、

「ほら、いつまでもいじけてないで、これ持って帰って朝飯でも食べてシャキッとしな。」

背中を叩かれ、そんなホウメイに励まされたのか、まだ何処と無く暗いがカイトは立ち直ると、味噌を受け取った。

「はぃ、そうします…。では、お味噌ありがとうございました!」

「あっ、ちょっと!お願いがあるんですけど。」

立ち去ろうとしたカイトをサユリが引きとめる。

「なんですか?」

「あの、今日食堂で頼んでた殺虫剤とか色々届いたんですけど、量が多くて私達だけじゃ運び切れなくて手伝っていただきたいんですけど。」

「いいですよ。」

カイトはこの軽く受けたお願いをこのあとものすごく後悔するのだった。

「よかった〜、じゃぁお昼までには運びたいんでこの後にでも、それじゃぁお願いしますね〜」

そういうと、5人揃って「よかった〜」「助かったね〜」「あんなの女の子には運びきれないよね〜」など、途中雑談を交えながら居なくなってしまう。

「えっ?ちょっと!」

「あ、そうそう、一緒に薬品なんかも届いてると思うから、一緒にお願いするわね。」

「あっ!まって!」

カイトが呼び止めたときにはもう、イネスもホウメイガールズもいなくなっていた。そしてその場に崩れ、片手を突き出したまま固まる。

そんなカイトを横目にホウメイが「なにやってんだか…」と言う声が聞こえたそうな。




場所は再び戻ってアキト、カイトの部屋

「「「ごちそうさまでした!」」」

「ごちそうさまでした…」

ホウメイの所からカイトが味噌を持って帰って来てから、20分ほどたって朝食を終え、アキト、ユリカ、ルリのハモった声が響く、それとは別に何処と無く重いカイトの声が聞こえる。

このカイトの様子は帰ってきた時からなのだが、あまりにもカイトが遅いとへそを曲げたユリカが、アキトの手料理を前にお預けを喰らい暴れだし、それを必死にアキトとルリがなだめていて、カイトが帰ってきたとたんさっさと朝食を始めてしまったのと、ユリカの背後に浮かぶラッコのオーラに押され。皆、あまり余計なことを話せず、聞けずにいたのだが、
アキトの作った朝食を食べ終え満足したのか、ユリカのオーラが消えいつもののどかな食後のお茶時間になってやっとルリがその話題を切り出した。
ちなみにカイトは洗い物当番なので、台所で食器を洗っている。


「カイトさん如何したんでしょうか?先程から元気無いですね。」

「そうだな〜、帰ってきた時からずっとだな〜。なんかあったのか?」

そんなことをルリとアキトが話してると、先程までこちらも別の意味で話しかけられなかった人物、ユリカが会話に混ざってくる。

「なに、なに?何の話?」

「カイトさんです。帰って来てからずっと元気が無いんです。」

「ほぇ、カイト君?」

ルリの話にユリカがカイトの方を見ると、ガックリと肩を落とし、背中になにやら重たい空気を漂わせていた。

「ほんとだ、如何したんだろう?いつも元気一杯のカイト君があんな風になるなんて珍しいね。」

「だろ?なんか変なんだよ」


そんな事で3人がカイトを心配していると、食器を洗い終えたカイトが自分の席へと戻ってきた。
とたんに、出された茶に目もくれず、肩を落とし小さなため息をこぼすカイト。

「はぁ〜…」

「如何〜したのカイト君。元気が無いぞ!」

「えっ?あぁ、すいません、ちょっと考え事してて…」

「考え事?なに、何?もしかして恋の悩み〜、ならお姉さんが相談に乗っちゃうぞ〜」

「!!なっ!なななな、なに言ってるんですかユリカさん!」

「ほぇ?違うの?」

なにやらため息ばかりのカイトを見て恋する少年でも連想したのか、ユリカの勘違い発言爆発。壮大に赤面するカイトを尻目に、何故か機嫌の悪くなったルリが冷たいオーラを発し始めアキトがそんな様々な様子に冷や汗を掻いている。

「まっ、まぁなんにせよ悩み事があるんなら話してみろよ。」

その様子を見かねたアキトが軌道修正する。
そんなアキトの一言を聞き、観念した様にカイトが朝あった事、会った人皆に珍しいなど言われ、落ち込んでいたこと、その会った人達との約束が重なってしまい如何しようかと悩んでいたことを、順をおって話し始める。

それを聞いた3人は、そんな事かとそれぞれの反応を表す。

「な〜んだ、恋の悩みじゃなかったんだ、つまんな〜い。」

「カイトさんそういう事は今に始まった事じゃないですし、気にすること無いですよ、それに用事の事だって皆さんだって話せば分かってくれますよ。」

「そうだよ、別に何時までも寝てるからって言っても、別に迷惑してないし、皆だって、そんな事、悪気があって言った訳でもないだろうしさ。用事の方も、今日俺午前中は空いてるから、代わりに手伝いに行ってやるから、何とかとかなるだろう?」

「みなさん…(涙)」

カイトは神に感謝した、こんな素晴らしい人たちに出会えて、自分のことを心配してくれる目の前の天使のような人達に囲まれて、今の自分は本当に幸せです。ありがとう神様…と、心の中で心底神の存在を崇めた。
だがその崇めた神が、不幸の神様とも知らずに…

そうしているまに、アッと今に時間は過ぎるもので、ジュンがユリカを迎えに来たとこで9時を回っていることに気づく。

「じゃぁ、お昼には一回帰ってくるから、アキトのお昼ご飯楽しみにしてるからね(ハァト)それと、カイト君!頑張ってね〜」

そう言ってジュンに連れられ出勤していったユリカを尻目に、その場に残った3人がこれからの事で話していると物凄い音と共にウリバタケが怒鳴り込んでくる

「この野郎ぉ〜!!カイト!一体何時まで待たせりゃ気が済むんだ〜!ほれ行くぞ!」

ウリバタケがカイトの寝首をつかみ拉致し連れて行こうとしていくと
そんなウリバタケにカイトがビックリして固まってる中、次々と雪崩の様に客が舞い込んでくる。



「ちょっとぉ〜カイト君何処連れてくのよ〜!」

「そうよカイト君はこれから私達と荷物を運ぶのを手伝って貰うんだから〜」(ガヤガヤ)

まずはホウメイガールズの5人がそんなウリバタケに非難の声を上げる。

「なに言ってるんだよ!カイトは昨日約束した通り、俺とシュミレーターに付き合うんだよな!」

「ちょっとまった〜カイト君は私のアシに貰っていくわよ〜、締め切り近くて切羽詰まってるんだから最優先!」

突如現れたリョーコが怒鳴り込み、目の下にクマを浮かべるヒカルが声高らかに宣言している。

「ちょっとちょっと、カイト君は私達の買い物に付き合ってもらうんだから〜」

「そうよそうよ!カイトは私とお姉ちゃんが連れて行くからね!他はみんな却下!」

そして、ミナト、ユキナの姉妹ペアが乱入してくると収集が付かなくなってくる、その上今だ人の雪崩は止まらない
メグミやエリナにアカツキ、ゴ−トにプロスに整備班の連中などなど、一層の混乱が激しさを増していった。
その一角で何時の間にやら現れたイネスが、なにやらこの状況について説明を始めているが誰も聞いてなかったりする。そしてそんな中混乱の最後尾にいたイズミがどこからか取り出した面妖なお面をかぶり。

「…お面…お〜面…お〜めん……アーメン…くっ。ふふ、ふふふ…」

などと、誰も見てないにもかかわらず、カイトの今の心境を的確に駄洒落にして満足したのか、不気味な笑い声とともに去って行ったそうな…

そして尚も騒ぎ続けるナデシコクルー等を他所にルリが見たものは。

「燃え尽きたぜ…真白によ…」

などと呟きながら部屋の隅で本当に真白に燃え尽きたカイトの姿だった。
目が死んで、体全体が白く見えてしまうほど極度に力尽きていた。
先程の混乱に巻き込まれ(とは言えカイトが中心なので巻き込まれたとは言えないが)ミナト&ユキナVSホウメイガールズの綱引きにされ、リョーコに締め上げられ、ヒカルにモデルと称して危うく服を剥ぎ取られかけたり、何時のまにか被らされていたメットが爆発しぶっ倒れ、なおもメグミの追い討ちに遭い今完全に精魂尽き果てた状態なのである。

(どうしようかな?)と考えつつ時計を見ると丁度お昼を回った頃だ、9時過ぎからずっと騒ぎ続けて、この時間まで休むことなく続くカイト争奪戦、良いのか悪いのか、どの道カイトが便利屋扱いさせられている事は間違いないようだった。
そう思うと同時に小さなため息が漏れる。
そして再び騒動のの渦に目を向けると、先程までみんなをなだめていたアキトがカイトの代わりに餌食になり、玩具に成り掛けた所で、いつの間にか帰っていたユリカに救出されていた。
それを見つけたルリがユリカへと近寄り、この騒動のあらすじを簡単に説明すると、なにやら思いついたらしくアキトをカイトの近くに避難させると、騒動の渦に向かって話し始める。

「みなさ〜ん、お話が〜…」

『ガヤガヤガヤ』

「ちょっと〜…」

どうやら聞こえてないらしい、と言うかユリカの存在にすら気づいていない様子だ。
するとユリカは大きく息を吸い込み、十分溜め込むと今度は大音量で呼びかけた。

「艦長命令です!みんな話を聞きなさ〜い!!」

すると、一瞬で騒動が止みみんなユリカに気づきいっせいに注目を集める。
そんなユリカを見たルリは改めてこういう人を纏める事に関して本当に艦長向きな人だと思った。
普段の妄想壁が無ければと心の中で付け加えながら…。
ふと、現実に目を戻すと、ユリカが演説を開始していた。

「皆さん!皆さんが家のカイト君の事で、争っているのは聞きました。ですがもうお昼の時間です。ここは一旦みんなで食堂に行きお昼ご飯を食べた後もう一度冷静に話し合っては如何でしょうか?このままではカイト君が死んじゃいます!」

そういって指差すユリカのその先には、真白なカイトがクルーの目に入ってきた。
すると、みんなユリカの提案に乗った様で、皆食堂へと移動を開始する。

「さて!アキト、ルリちゃん、カイト君お願い。」
そう言って先に食堂へと行ってしまうユリカ、残ったアキト達は安堵のため息を吐くとカイトを連れて行く為カイトへと歩み寄る。

「カイト?お〜いカイト!しっかりしろ、みんな食堂の方に行ったから俺たちも行くぞ。」

「カイトさん?お〜いカイトさんいい加減戻ってきてくださ〜い。」

が中々現実に戻って来ないカイトに煮えを切らしルリがアキトの中華なべを取り出し振り上げると、重力に従いカイトの脳天に振り落とした。

ガンッ

「あ〜〜っ、俺の鍋〜〜!!」
「いったぁ〜!!」

アキトとカイトのそれぞれの反応が騒がしい、アキトは涙を流しながら無事と判明した鍋に抱きついてるし。カイトは頭を押さえ部屋中を悶え苦しみ転げ回っている、とりあえず今はカイトを食堂に引っ張っていくのが先決なので細かいとこは気にせずカイトに再度話しかけるルリ
そんなルリの行動にアキトは(「この娘を敵に回したらユリカより怖い…」)そう思い取りあえず無事だった鍋を安全なとこに置くとカイトのとこに戻る


「っつぅぅ〜〜〜〜〜」

「カイトさん、大丈夫ですか?」

「やった本人がそうゆう事言うかなぁ〜」

「呼んでもこっちに戻って来ないカイトさんが悪いんです。」

「まぁまぁ、取りあえず食堂に行こう、みんな待ってるぞ。」

そう言って、今だ頭を摩りながら何とか現実に戻ってきたカイトが立ち上がると、3人揃って食堂に行くのであった。



そして3人が食堂に着くとアキトはホウメイの手伝いに大忙しになり、カイトはルリに付きそわれ席に着くと、取りあえず落ち着き注文をする。
ただ何か気まずそうにカイトは食事を終えるまで一言も話をしなかった。

そして、みんなが食事を終えた頃、ユリカがみんなの見える位置に付くと早速今回の問題に決着を付けるべく
1つ咳払いをしてその場を指揮をとり始める。

「オホンッ、それではみなさん!今回の件で家のカイト君がご迷惑お掛けした様で、このミスマル・ユリカが今回の件について終止符をつけたいと思います。」

「でもよ〜どうやって決着つけるんだ?」

「そうだぜ、こんだけの数の用事いくらカイトでも間に合わねぇだろ」

「それに、私は絶対引く気ないからね!締め切り近いんだから!」

『わたしも』『私だって』『私達も引けませんなぁ〜』(ガヤガヤ)

どうやら皆引く気は無く、又騒がしく成り掛けた時、ユリカがとんでもない提案をする

「分かってます!家のカイト君人気者だから、そして皆さんが引く気の無いことは十分、分かってます!だからこの際、早い者勝ちってことで、皆さんにあることをして貰おうと思います!」


そんな事でみんながユリカに注目してる中、その問題のカイトはルリとその光景の成り行きを見守っていた。

「ねぇルリちゃん、ユリカさん何するつもりだろう?」

「さぁ?艦長の考えることなんて分かりません、でも多分ただじゃ済まないと思いますよ。」

「・・・・・・・・・・・・」

何となくルリの言う、ただじゃ済まない、ってことが分かったのか、何か想像できない恐ろしい目に遭う自分を想像し、押し黙ってしまう。
すると、ユリカ達の方ではどうやらその方法が発表される様だった。

「で、結局如何するのよっ艦長!」

ミナトがなにやら出し惜しみをしているユリカを促し、結論を急がせる。

「ふふ…その方法は〜」

(ゴクンッ)会場が息をのむ。

「その方法は!!」

『その方法は!?』会場の全員が一斉にハモる

「なんと!皆さんで鬼ごっこをしてもらいま〜す!」

「「「「「「なんですと〜!!」」」」」」

ユリカの出した提案に会場一同カイトも含め困惑の声をあげる。
その反応を予測していたのか話を続けるユリカ

「ルールは簡単!これからカイト君に逃げてもらって、それを皆さんで捕まえる!そして、捕まえた人がカイト君を使えるわけです!ちなみに逃走範囲はこの長屋の敷地内のみとします!どうですか?いい提案でしょ〜」

「「「「「おぉ〜〜!」」」」」

どうやら納得した様子のクルー達、途端に目が鋭くなり一斉にカイトに視線を向けるまるで獲物を狙うライオンのようだ
その視線にさらされたカイトは怯える子犬の様に小さくなり、ルリの後ろに隠れ震えている。

「「「「「カイト(君)(さん)〜〜〜」」」」」(ニヤリ)

怪しい誘拐集団と化したクルーの魔の手がカイトに忍び寄る。

「る、ルリちゃん何とか言って、あんな数から逃げ切るなんて無茶苦茶な事出来るわけ無いじゃないか〜(涙)」

最後の砦、ルリにその頼みを託して助けを求めるが、意外な、そして決定的な返答が帰ってくる。

「すみませんが、私は力になれません、それに私は艦長の出した提案に賛成です。」

「えっ?も、ももも、もしかしてルリちゃん…まさか!」

「はい、私も参加します。」

「なんですと!…マジっすか?」

「はい、マジです。(ニヤッ)」

最後の頼みの綱もたたれその場に泣き崩れるカイト。
そこに仕事が1段落したアキトがカイトの様子に声をかける。

「まぁそんなに落ち込むなよ、ユリカの考えることだ…何か考えのあっての事だろ、きっと。」

「あれを見てもそう思います?」

その言葉にユリカを見るとクルー達の反応に満足してピースサインを出し、こっちに向かって手を振りはしゃぐ姿、
ただ単に楽しんでるようにしか見えないその姿を見て、自分の言葉に自信を無くすアキト。

「……まぁ、頑張れよ、きっといつか報われるときも来るって…。」

「うぅぅぅぅ〜〜(滝涙)」

そこに哀愁漂う男が二人いたそうな。合掌(チ〜ン)


そんなカイトを無視してか、場所をうつし今この時『第一回 カイト君を捕まえろ!チキチキ鬼ごっこ大会 (カイトVSナデシコクルー)』
等と書かれた垂れ幕が下がり開始の時を刻んでいた。
その事でカイトが「第一回」と言うのに疑問を持っていた、「2回目も有るのか!?」と、おそらく有るんだろう…きっと
どうやらユリカはただ楽しんでいただけの様で、アキトの言った別の意味や仕掛けなど全く無いようだ。
しかし今やスタート会場は出店が出てお祭り騒ぎである。
さすがナデシコクルーこんな些細な事でもお祭りにしてしまい、その準備の早さに超一流の腕が見える。

しかし、何故軍の基地内にもかかわらずこんな大騒ぎが許されるのか?それはこの場所が基地の隅っこにあるのと、軍上層部がストレスを爆発させたら本当に何を仕出かすか分からないナデシコクルーに警戒して、何もいえないのが現状だろう…もしこの場で中止を迫れば…その者は精神に多大な傷を負うことになるだろ・・・。


さて盛り上がりがピークに差し掛かったその時、特設会場の舞台に司会者の衣装に身を包んだ、ジュンとアカツキが現れその場の注目を集めると、今回の役者を紹介していく。

「え〜それではまず、今回、目標と成ります、カイト君の登場です!」


「「「「「「カイトさ〜ん、頑張って〜」」」」」
「「「「「にくいぞ〜カイト〜!!羨ましいぞカイト〜〜!!」」」」」


カイトが舞台に現れると、花火が上がり紙ふぶきが舞う中、女性クルーの黄色い歓声が、整備班と思われる一団の声を掻き消す。
実はカイトはその人当たりのいい性格と、その整った容姿もあり、もはや一部のナデシコ女性クルーのアイドル的存在になっていた。
(その頃舞台裏で冷たく恐ろしい殺気が、とある少女から放たれいたそうな)

そんな応援に顔を真っ赤にしながらお辞儀をして答えると軽く微笑む、その微笑みに先程の女性クルーの何人か即倒する。
伝説の〔アキトスマイル〕、いや、今や〔カイトスマイル〕となったその笑みは、いまだナデシコの中で受け継がれていた。

そんな光景を見ながらアカツキがインタビューに現れる。

「いや〜カイト君モテモテだねぇ〜全く羨ましい限りだよ。で、今回の意気込みは如何なんだい?」

そういってマイクを向けられると、一瞬照れるが次の瞬間には、真剣な表情を作ると今回の意気込み、もはややけくそと成っていたがそれを述べる。

「はい!今回絶対に逃げ切って見せます!!」

そう言ってガッツポーズをとるとまたもや、歓声が飛び、負けじと野次が飛ぶ。

「はいはい、がんばってね〜。じゃ次」

「え〜続きまして、捕獲部隊と成ります、選手の皆さんの登場です!」

すると、こちらもカイト同様花火と紙ふぶきが舞いその奥からぞろぞろと出てくる選手達、何故か皆迷彩服に身を包み、ガスガン等で武装し、大きな虫取り網をこさえている、ルリは何故か武者姿で虫取り網に、背中に槍を装備している。これ等は言うまでもなく、ウリバタケのコレクションである。
もはや、何か主旨が失われつつあるそんな光景を見てカイトが苦笑いしている。
ちなみにカイトは何故か優人部隊の制服を着て来ている、本人曰く「最初から来ていたものだし、思ったより動きやすくてイイ」だそうだ。


そんな中カイトの時にも勝ると劣らない歓声が飛び交う中『頑張れ班長!!カイトを叩きのめせ!!BY整備班』という大きな旗が振られている


「いや〜みんなやる気満々だね〜、いやはやカイト君も災難だね〜。時間が無いから次行くよ〜。」

「では、ルールの説明を、ルールは簡単この長屋の敷地内を逃げるカイト君を捕まえた人が、カイト君の使用権を貰えるわけです。時間制限は本日午後5時まで、それではまず最初にカイト君のスタートになります。捕獲部隊はその後5分後に一斉スタートです。」

ジュンの説明が終わると、アカツキが引き継ぎ、カイトのスタートの合図を出す。

「じゃぁいくよ、カイト君準備はイイかい?」

「はい!いつでもどうぞ」

「あ、そぅ、それじゃぁ、5・4・3・2・1…(パンッ)スタ〜ト!」

ダンッ

スタートの音と共に、姿勢を低くし物凄い勢いで会場を出て行くカイト。
傍から見れば動きにくそうな服装なのだが、そんな事を感じさせない颯爽としたスピードで走り去っていくそんなカイトを見届けた一同は言葉を失う
そして、5分後、全捕獲部隊が一斉にスタートしていった。



【ユキナ&ミナトSAID】

時は開始から1時間半、カイトの目撃情報は有る物の今だ誰も捕獲できずにいた。
見つけたと思えば、一瞬で居なくなってしまう。そんな事の繰り返しばかり続いていた。
その隠れ場所ときたら、屋根の上か地面の中まで、縦横無尽なその手段に全員が後手に回され、殆ど遊ばれている。
中にはウリバタケの仕掛けたトラップに掛かり、行動不能になった者も居た。

そんな中、中々捕まらないカイトに煮えを切らしたカイト捕獲部隊の面々は、もはや当初の目的を忘れ目が血走り狂ったようにカイトを探すゾンビと化し
そしてこの時、クルー達の中ではもはやこの大会の主旨すら完全に失われていたそうな…

そんな中ミナトと組んでいたユキナがある場所を思いつく。
この前暇つぶしにカイトと隠れんぼした時、彼は見事3時間隠れぬき、ただの暇つぶしが本気になって探しても見つけられないほど素早かったことを、そしてその時使った手を思い出していた。

「ふっふふふ、待ってなさいカイト、今度こそ八つ裂きにしてくれる…は〜はっはは!」

ユキナもまた完全に主旨を見失っているようで、その場に不気味な高笑いを残しミナトを連れ走り去って行った



そして、やっと冒頭に戻り、木の上に隠れていたカイト、今までの出来事を思い出し疲れがドット襲ってくる、そうと頬をなでる気持ちのいい風が吹き、完全にくつろぎモードになっていく。すると、思わず疲れが溜まっていた事で急激な睡魔に襲われてきてそのまま夢の世界へ…。


一方その頃、ミナトを引き連れたユキナが目的の場所に辿り着いた。
今はそのカイトが隠れていると思われる所からは死角になっている位置にいる
そ〜っとその場所を覗くと何やら気配を感じる、どうやらビンゴらしい。

「ちょっとユキナちゃん、こんなとこにホントにカイト君居るの!?」

「ふふっ、甘いわねお姉ちゃん、こんなとこだから居るのよ!見てなさいカイト今度こそ八つ裂きに…」

今居る位置とは、特設会場より程近い広場の公園、その中心にそびえ立つ大きな木の近く。
つまり灯台元暮らしとはこのこと、ユキナも以前隠れんぼをした時、この公園からスタートして、ユキナは開始1番にこの公園を出て探したのだが、実はカイトはずっとここに隠れていたのだ。人間の心理を利用した上手い手である。

そしてユキナがミナトに指示を出し、自分とは反対側に回り込ませる。
作戦はユキナとミナトで木を挟み込み、ユキナがカイトを脅かして、木から飛び降りてきたとこを捕まえると言う簡単な物だが、辺りは障害物が無い上にあの高さから飛び降りれば少なからず、僅かにでも動きを止められる。そういった事では確実な作戦だった。

ミナトが指定位置に着いたのを確認すると、彼女の癖である擬音を口に出しながら動き出すユキナ

「ササッ…抜き足…差し足…忍び足…サッササササ〜」


そして木の近くまで行くと、すぅ〜っと息を吸い込み、臨界点に達すると一気に吐き出す。

「カイトみっけ〜〜〜〜」

果たしてカイトは?



一方ルリもまた、ユキナとは違う観点で会場近くにある公園近くへと来ていた。
ルリは元々運動は得意ではないので、情報を的確に分析することでカイトの位置を突き止め入念な作戦を練った上で、最小限の動きで捕獲しようとしていた。

そしてルリは会場本部に入ってくる情報を元に、出した結果がこの公園なのだ。

あからさまに片寄った目撃情報、しかもそこは居住区、隠れる所はいくらでも有る。一般的には逃げ込むには持って来いの場所だが、そこは道幅が狭い上、ルートが大雑把で、逃げ道がどうしても限定されてしまうし、もし挟み撃ちにでもあえばひとたまりも無いという構造をしている。

それに、カイトの能力を考えれば、人が近づけばその気配に気づき発見する前に逃亡してしまい普通なら見つかるはずが無い、なのに居住区ではかなりの数が目撃されている。そうなると、じっとせずに相当動き回っているはず。

だが午前中のこともあり相当疲労が溜まっているはずだ、そうそう動き続けることも出来ないはず。
だとすれば、何らかの形で休憩をとる筈である…そこでルリはある事に気づく、囮だ!と。

休憩を取るには少なからず気を休め絶対に見つからない所でじっとしてるのが1番、しかし今回の様に複数の追っ手が居る場合。
それには個々の動きを完全に把握する必要がある、だがそれには複数の仲間による監視が必要だ。
ただでさえ一般の行動基準から外れたナデシコクルー、複数の監視による情報が無ければ、個々の動きを把握するのは不可能。
つまり今のカイトにはそれは出来ない。

だが、他にも方法はある、それはバラバラなら集めればいい。
一箇所に固まってくれれば、監視の必要もないしそこから離れた場所に居れば確実に体を休められる。
そしてその結果が目撃情報なのだ、他に先を越されまいと焦って、その情報に釣られて集まってきたクルーをよそ目に、その場から退避、安全な場所に移動して、じっとしてれば、他のクルーが集まってきて一層焦った捕獲部隊はやっけになって探し初め、暫くはその場を探し回ることだろう、そうすればその間は体を休められる。

その事に気づいたルリは長屋の地図をみて、検討した結果居住区とは距離があり、尚且つ目立たないこの小さな公園の存在に目をつけ、そこにカイトが居ると確信してやってきた所だ。
しかし問題はこの公園の何処に居るかである、地図が簡単な物しかなかった為、その詳細が分からず細かな場所まで特定出来なかったのだ。

何処から探そうと考えているその時、「カイトみっけ〜〜」と言うユキナの大きな声が聞こえてきた。
シマッタ!!と思って、その場に向かって駆け出そうとしたその瞬間、ドシンッ「キュゥッ…」と音を立て、ルリの目の前に何かが落下してきた、その落下物をよく見ると頭から街路樹より落下して気を失っているカイトだった!?
そしてそんな間抜けなカイトを見てルリは「バカ…」そう呟いた。
目の前で気を失っているカイトを見ると、今までの自分の考えの正しさと同時に、こんな間抜けな男がよくあんな高等な心理戦をしたものだと拍子抜けしてしまう。

そしてカイトを難なく虫取り網で捕獲したルリは、本部に連絡を入れ。カイトを引きずって会場に戻って行く。
その頬がほんのり赤くなっている事に誰も気づかぬまま…

この出来事、実はカイトはユキナの睨んだ木ではなく、その木の死角の位置の木、つまり最初にユキナが来た街路樹の上に居たのである。
だが、急激な睡魔に襲われ寝ていたカイトはそれに気づかず、又ユキナも先入観もあり気配を目標の木から感じると勘違いしたため、真上に居たカイトに気づかなかった。
そもそも、戦闘訓練を受けていない女の子が気配の元を正確に早々感じるはずがない。

そんなことで、その場を本人も気づかずやり過ごしたのだが、ユキナの大音量の声に驚きバランスを崩して木から落ち、本人は何が起こったかも分からない内に気絶し、今までの苦労も虚しく、あっさり偶々そこを通り掛ったルリに捕獲されたのだった。


そしてその日のお祭りは、悔しがるユキナを尻目に、商品をルリが獲得し翌日のカイト1日使用権が送られ、商品にされたカイトの知らぬ間に幕を閉じていった。

そしてその夜、他のクルーの事を考えたユリカは最終決着手段として、みんなの希望を聞き、カイト仕様予定表なる物を作り、皆に配って回った、この件が切っ掛けでカイトに平和は訪れたものの、カイトの自由な生活は軍の拘留が解除される日まで無くなってしまったそうな。


翌日、その事を知ったカイトは

「のぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

と、叫びながら神様を呪ったそうな、天使の中に小悪魔が居た事を、そしてその事に気付かなかった自分を…が

「あ、でもルリちゃん日もあるからイイかな♪」

「カイトさん…」

等と絶望から一転、彼は天使の中に女神様を見つけていた。


何処まで行ってもただじゃ転ばない、そんなとこはやっぱりナデシコクルーなカイトであった。

そして、その日カイトは1日中ルリの物になり、上機嫌のまま翌日からの悪夢に希望を見出していた。
そんなカイトにルリは「バカ…」と言いながらも、その赤く染まった頬に微笑みを浮かべ、ルリもまたカイトを独占できるその日1日を上機嫌ののまま過ごしたのであった。



おしまい


あとがき

みなさんどうも始めまして!休まんと言います。

初めてのSSで何やらルリの出番が少なかったですが、ま、まぁ、それはお許し下さい。

SS初心者な上、文才がご覧の通りで上手く内容が伝わっていればいいな…って、ただそれだけです!

このSS自体は、今書いている本編「The Knaight of Missing」の番外編として書いた短編物です。

いきなり番外編から入った変なSSですが。

本編ではカイト君、シリアス物になっちゃうんです、でもその本質は優しくて明るい純粋な青年です。

そんな性格が本編では書ききれず補足するような感じで今回のSSになったんですが…こんな感じで、上手く纏めきれなかったのが少し残念です。

それでも、カイト君の感じは出せたと思います。

こんな感じで本編大丈夫かな?何て思いますが、地道に頑張って行きたいと思いますんで。

本編投稿まで暫しの間どうか、暖かく見守ってください。

ちなみに本編は、序章と第一章が40%ほど出来上がっています。

それでは、今回はこの辺で次回「The Knight of Missing」序章でお会いしましょう!


ご感想、ご意見、ご指摘メ〜ルお待ちしてます。(O_O)/






[戻る][SS小ネタBBS]

※休まん さんに感想を書こう! SS小ネタ掲示板はこちら


<感想アンケートにご協力をお願いします>  [今までの結果]

■読後の印象は?(必須)
 気に入った!  まぁまぁ面白い  ふつう  いまいち  もっと精進してください

■ご意見・ご感想を一言お願いします(任意:無記入でも送信できます)
ハンドル ひとこと