昔、変な奴らに会った

一人は女、一人は老人

最初に会った変な奴は女だった

多分、俺が十歳にも満たないようなときだったと思う

年齢なんてその頃から数えることをとうにやめていた

妙な、女だった

戦場とは余りに不釣合いなその透き通った雰囲気に、俺を含めた周りも驚いたことを覚えている

花のような、女だった

その女が、ある日俺に言った

「お医者さんに、ならない?」

聞けばその女は各地の戦場を点々としているボランティアの医者らしかった

そのボランティア団体からはぐれたところを、俺たちの仲間に見つかったらしい

当時、まだ子供だった俺は戦場ではほとんど役に立たなかった

大きめの銃を撃てばすっ転ぶし、出来ることといえば炊事洗濯掃除くらいのものだった

俺たちの仲間に、医者はいなかった

負傷したときは、応急処置などとは程遠い、それこそ傷口に唾をつける程度のリ治療しか出来なかった

俺は頷いた

なにか、自分だけに出来ることが欲しかったから



次に出会ったのは老人だった

変な爺さんだった

ある日俺たちのテントの前に倒れていた

そのとき俺は、確か十五、六歳だったらしい

俺は欠片も覚えていなかった。ただ、女が覚えていた

その前日になんの前触れもなく、俺の年齢は十五、六だと言って満足げに頷いていたのを覚えている

テントの前に倒れていた老人の怪我は、決して軽いものじゃなかった

治療をしたのは俺だった

初めての、患者だった

設備も道具も満足にそろっていない状況下ではあったが、その爺さんはなんとか一命を取り留めた

あのとき、なぜか女がその老人を見て柄にもなく驚いていたのを覚えている

一命を取り留めた老人の話から、彼が軍人であることがわかった

聞けば、今度火星に配属されることになったらしい

その矢先、駐在していた軍の駐屯地をゲリラに襲われ、命辛々逃げてきたらしい

「マヌケな話だよ」そう言ってその爺さんは笑った

そして、翌日。その爺さんは俺たちに護衛されて無事軍に戻っていった

俺たちは、本当ならその爺さんを殺すつもりだった

その爺さんが軍の中でも高い地位だということは分かっていた、もし殺せば依頼元から莫大な謝礼が貰えることも

殺す役目は、俺に渡された

あの爺さんも命の恩人である自分になら気を許すだろうというアホらしい算段

なら、助けなければ良かった

だが寝ている隙に拳銃を突きつけた俺に向かって、老人は口を開いた

てっきり命乞いだと思っていた俺にとって、その言葉の意外さはまるで胸を突き刺されたようだった

「君らを雇おう」

断る理由などなかった。俺はそれを飲み、結局老人が殺されることはなかった

その爺さんが本当に火星に行ったのか、それともデタラメを言ったのかは知らない

だが、正直どうでも良かった

殺してばかりだった俺が、初めて人を助けたときだった



老人が帰ってまもなく、女も忽然と消えた

探すことはしなかった。なんとなくもう見つからないだろうと思ったから

そして、あの女が消える直前に俺に残した『頼み』だけが残った



「あ、なにしてるの?」

「見てわかんねえか?見張りだよ」

「ぶー、そんなの見ればわかるよー」

「分かるんなら聞くなよ」

「きっかけだよきっかけ、会話の」

「別に無理に話さなくても良いだろ」

「よくなーい、だって君って仲間の人たちともほとんど話さないじゃない」

「別に嫌ってるわけじゃないから良いだろ。むしろアイツらは割と好きな方だぞ」

「だったら尚更だよ。好きな人が近くにいるのに話さないなんてダメだよ?」

「嫌、そこまで好きなわけじゃないが」

「もー何言ってんの、生まれたときから一緒に生きてきたんでしょ?嫌いなわけないじゃない」

「・・・・一体どうした?」

「・・・・・え?」

「なに、いつもと様子が違うからさ」

「・・・・・・嫌な十五、六歳もいたものねえ」

「・・・・行くのか?また」

「別にーただ、一個だけ世間話しない?」

「一個?」

「そ、もしさ、君がこれからも医者を続ける気があるんだったら」

「ない」

「黙ってお聞き。で、もしこれからも続ける気で、そしてもし、いつか」

「なんだ?現実と理想のギャップに苦しむな、か?」

「ううん、そんなんじゃないの。君はそういうことあんまり考えなさそうだし・・・・君は、辛い現実をもう嫌ってほど知ってるでしょ?」

「・・・・で?」

「え?」

「続き」

「ああ。で、もしこれからもお医者さんを続けて行ったとするじゃない?もしそのときに」

「・・・・」

「全てを失って、奪われて、奪って、それでも前に進もうとしている人にもし出会ったら―――」

正直、その言葉はその後の生き残ることで、生き延びることで精一杯の日々で忘れかけていた

色んな患者に出会った。生き残ろうと、生きようと必死な奴

自分の死を悟って、達観した言葉を吐く奴

中には死にたがって、助けたことに文句を言う奴すらいた

そういう中で生きてきて、ほとんど忘れかけていたその言葉を思い出したのは



「―――気が向いたらで良いの。助けてあげてね?」



不本意にも、あの根暗男と糞ガキに出会ったときだった





― ナデシコC 医務室 ―



「・・・・腹減った」

ベッドに寝転び、タバコをくわえた白髪の青年は、一人そう呟いた




機動戦艦ナデシコ


Graduation STORY





  『言葉、届きますか? 〜 前編 〜』

 

 



― ナデシコC ブリッジ ―



「前方にターミナルコロニーコトシロを確認」

操舵手のミナトの言葉に、ブリッジにいた全員が中央にあるメインスクリーンに注目した

「ディストーションフィールド全開」

「ルート確認、『コトシロ』『タヂカラ』『ウズメ』を」

「・・・・・ハーリー君、ジャンプ体勢緊急解除」

「え?」

ルリの突然の言葉にハーリーが聞き返した直後、ナデシコCの船体が大きく揺れた

「な、なんだ!?」

「前方のコトシロから緊急入電!現在謎の無人兵器群から攻撃を受けてるそうです!」

「火星の後継者っすかね?」

「状況から考えて、間違いないでしょう。リョーコさん」

『聞こえてるよ。行って来るぜ!』

「お願いします。おそらく敵の目的はコトシロです。なんとか守り抜いてください」

『了ー解!』

『猟師に尋ねた・・・・猟かい?・・・フ』

三者三様の返事をしながら、ナデシコCから三色のエステバリスが飛び出した

それを確認すると、ルリは艦内に緊急警報を鳴らしながらハーリーに指示を出した

「ハーリー君、敵戦力の分析とコトシロとの通信回線の回復を急いで」

「通信はまだ生きてます。モニターに出しますか?」

「お願い」

言葉に答えるのとほとんど同時にモニターに映像が回ってきた

『ナデシコか!?』

ウインドウに現れたのは厳つい顔をした統合軍の軍服に身を包んだ大男だった

「挨拶は省略しますが、ただいまからそちらを援護します」

『ダメだ!今すぐ出撃させた機動兵器を戻せ!!』

「な!なんでですか!せっかく援護しようっていうのに!!」

『違う!我々も同じ方法でやられた!とにかく今すぐ機動兵器を戻して乗員全員を一箇所に集めろ!!』

ハーリーの反論にもウインドウの大男は同じことを繰り返すだけだった

その様子に、ルリが訝しげに眉を潜めていると

「ボソン反応多数!ナデシコC周辺!」

ミナトの報告と同時に、相当数のバッタやカトンボがナデシコの周辺に現れた

「艦長!」

「わかりました。しかしこの状況で援護をしないわけにもいきません。火星に行くためですから」

『くっ勝手にしろ!ただし乗員を一箇所に集めて銃火器を配給しろ!とにかく急げ!』

「わかりました。ミナトさん」

「了ー解」

ミナトの手によって艦内に緊急警戒態勢の放送が流れたのを確認すると、ルリはサブロウタを振り返った

「サブロウタさん、念のために艦内への侵入者に対して遊撃部隊を設けます。戦えそうな人を大至急集めて編成してください」

「うっす」





― 宇宙 ―



「どりゃあああ!!」

新型バッタをディストーションフィールドを全開にしたリョーコのエステバリスが弾き飛ばした

バッタが爆散するのを確認すらせずに、背後に回りこんでいた新たなバッタを振り向かずにラピッドライフルで叩き落す

そしてそれだけでは止まらずに編隊を組んでいたバッタを丸ごと火の海に叩き込む

「おっしゃあ楽勝!」

「えーい!」

スラスターをふかし急停止をかけるリョーコのエステバリスの横を、黄色いエステバリスが通過していった

高速で前方に見える戦艦カトンボに接近しながら持っているレールガンを一点集中で連射する

周りのバッタからの攻撃を全て最小限の動きで交わしながら、寸分の狂いもなくレールガンを撃ちこみ弱まったフィールドにそのまま機体を突っ込ませる

勢いを全く落とさずに戦艦そのものを貫通したヒカルは、その爆発に満足気にうなずいた

「オッケーオッケー!イズミちゃん」

「はいよーバックオーライ」

ヒカルのエステバリスを包囲しようと旋回していたバッタの半数が一斉に爆発した

後方に位置しているイズミからの狙撃だ

「リョーコー!そっちはー?」

「へっへ、もう半分以上片付いたぜ」

幾ら新型とはいえ所詮はAI制御のバッタである

間違いなく一線級のパイロットであるリョーコやヒカルにイズミにとって見れば、このレベルの敵など幾ら現れてもどうにでもなる

「コトシロの迎撃部隊も頑張ってるみたいだし、もう大丈夫かな」

「でも変だな。大した連中でもないのに何でコトシロがあんなにボロボロなんだ?」

疑問符を浮かべながらリョーコはすでにほとんど半壊しているコトシロを見つめた

「さあ?でも壊れてるのほとんど格納庫とかカタパルトみたいだけど」

転送されてきたコトシロの見取り図と被害状況を重ねながらヒカルが答えた

「カタパルトに格納庫?なんだってそんなところに」

「わかんない。でも迎撃部隊の人たちが出て来れないから有効っていえば有効だよね」

「でもそんな格納庫だけ壊せる余裕があるなら司令部でも潰せば良いのにな」

「!!二人とも!!」

能天気に話す二人の間に、イズミのウインドウが割って入った

「な!なんだどうした!?」

「ジャンプ反応!」

「な!?どこだ!!」

「これは・・・・」

返ってきたAIからの回答を見て、イズミは息を呑んだ

「ナデシコ艦内!!」





― ナデシコC 通路 ―



「よーしお前ら全員そろったか?」

「うぃーっす」

マシンガンを片手に声を上げるサブロウタの前には、ナデシコCの乗員の中でも取り分け銃撃戦を戦える人間が集まっていた

二十人近くが集まったとはいえ、その内容は実に心細い

幾ら軍人とはいえ実戦を全く経験していない人間がほとんどだった

それも仕方ないといえば仕方ない。現代の艦隊や機動兵器での戦いが主流となっている戦争では、相手と直接顔を合わせて殺しあうようなことなどまずありえないからだ

「敵はおそらく固まってというよりは分散してそれぞれ艦の重要部分を狙ってくると思う。だからこっちも二手三手に分かれて行動する!良いな!」

かく言うサブロウタ自身、白兵戦など訓練以上の経験は皆無だった

機動兵器同士の命の削りあいなら慣れている、だが、頭で考えただけでそれを実現してくれるエステバリスとは違い、これは生身での戦いなのだ

―――さあて、どこまでやれるか・・・

少なからぬ不安を抱いたまま、サブロウタは全員をそれぞれ二つのグループに分けていった

「!!副長!艦内にボソン反応です!反応は格納庫とエンジンルーム!!」

携帯式の端末を持った索敵係の一人が声を上げた

「・・・・ホントに来やがったか・・・!!」

舌打ちと共にサブロウタはマシンガンを構えた





― ナデシコC ブリッジ ―



「艦長!艦内にボソン反応です!」

「!場所は?」

「格納庫にエンジンブロック!」

「サブロウタさん」

『聞こえてますよ!二手に別れます!』

「いえ、格納庫はウリバタケさんたちに任せてください、それよりもエンジンブロックとブリッジにまわって下さい」

『良いんすか?』

「格納庫なら艦内のどこよりも頑丈に出来てますし、何よりウリバタケさんたち整備班からの要請なので」

『要請?』

「なんでも使ってみたい新兵器が一杯あるとか」

『・・・それ、止めた方が良くないすか?』

「非常時ですから。それよりお願いします」

不安一杯のサブロウタからの通信を切ると、ルリはブリッジにいるハーリーとミナトを見回した

「ハーリー君にミナトさん、増援の危険性も棄て切れませんから、サブロウタさんたちの援軍が来るまでは一応警戒しておいてください」

「はい!!」

「はーい」

ハーリーは拳銃を持ってカチコチに固まって、ミナトはそれとは対照的に目を輝かせて返事した





― ナデシコC 格納庫 ―



「おっしゃー!来るぞお前ら!」

「班長!リリーちゃん15号機から37号機まで全部すたんばってます!!」

「よし・・・・テメエら!ぬかるんじゃねえぞ!!」

「班長ー!」

「なんだあ!?」

「リアルリリーちゃん艦長仕様はどこにしまいますか!?」

「しまうバカがいるか!!ど真ん中だよど真ん中!」

格納庫全面に渡ってバリケードのように展開されている大小さまざまなリリーちゃん、その後方に待機しているウリバタケを始めとする整備班の手には、それぞれサブマシンガンやバズーカ砲が握られている

「艦長ー!ここで良いっすかあ!?」

そしてその後方にはルリと寸分違わぬほどの見事な造形の人形が整備班の手でセッティングされていた

それを見たウリバタケを始めとする整備班一同は、必要以上に満足そうにうなずいた

「班長来ました!敵です!!」

「おっしゃあリリーちゃんスタンバイ!!お前ら!俺らには守り神がついてるからな!!負けるんじゃねえぞ!!」

ウリバタケの掛け声に格納庫は歓声と気合の掛け声に包まれた

そしてそんな彼らの前方に、小型の対人用のバッタが多数ボソンアウトしてきた

「発射あああああ!!!」

格納庫の戦闘の火蓋は、一部不純な部分もあれども、こうして切って落とされた





― ナデシコC 通路 ―



ブリッジに向かっているサブロウタを始めとする遊撃部隊

「!!副長!アレ!!」

「!?」

同行していた遊撃部隊の一人が前方を指差した

「な!?バッタア!?」

現れた予想外の敵の正体に思わずサブロウタは足を止めた

だが敵はその静止を好機と見たのか、赤いカメラアイを光らせ背部の装甲を開放した

「!!」

対機動兵器用のバッタと違うのはその大きさだけらしく、開放された背部ポッドには小型のミサイルがビッシリと詰められていた

「お前ら!」

「うっす!」

それを確認すると少ない一瞬でサブロウタたちは両サイドにあった曲がり角に飛び込む

直後、発射されたミサイルは標的のいなくなった通路を隙間なく破壊で埋め尽くした

「おいおいアイツら、容赦ねえぞ!」

愚痴を言いながら曲がり角から顔と銃だけ出して乱射する

「くっ!!」

黄色い装甲部分に弾かれた弾を見て、サブロウタは頭を引っ込めた

直後、その壁をバッタのガトリングガン砲が抉り取った

「なあ!?シャレになってねえっての!・・・・お前ら!」

「おー!」

バッタの掃射が終わるのを見計らい、総勢十人もの人間のマシンガンがバッタを襲った

その内の何発かがバッタの装甲の隙間か、あるいは装甲そのものを突き抜けたのか、バッタは帯電しながらその場に崩れ落ちた

「よーっし!お前ら!ブリッジに急ぐ・・・・ぞ?」

号令をかけて前に走り出そうとした矢先、通路の向こうに続々と現れるバッタが見えた

「・・・・マジかよ」

その数実に五体にも及ぶバッタの数に、思わず顔を引きつらせるサブロウタ

が、その横にいた隊員があっと何かに気づいたような声を出すと、慌てて口を開いた

「副長!っていうかなんでこいつらこんなとこにいるんすか!?反応があったのは格納庫とエンジンルームでしょう!?」

「!」





― ナデシコC ブリッジ ―



「再びボース粒子反応!今度は今サブロウタさんたちのいる通路と、ブリッジ前です!!」

「・・・」

ハーリーの言葉を聴いたルリは、黙ってコンソールを操作して格納庫を呼び出した

「ウリバタケさん」

『お!?ルリルリどうしたよ!』

ウインドウに映ったウリバタケの後ろでは、なにやら人型のロボットとバッタが壮絶な追いかけっこをしていた

さらに時々、どう考えても配給した拳銃ではありえないような大爆発や大歓声が巻き起こっている

「・・・」

その映像を見て思わず絶句するハーリーとミナトだったが、ルリは顔色一つ変えずに続けた

「ウリバタケさん、そっちで人間見かけましたか?」

『人間?』

「敵のナビゲーターです」

『いや、見かけたのはあのバッタたちだけだが』

「わかりました」

用件だけ聞くとさっさと通信を切る、続けてサブロウタのコミニュケを呼び出す

『ブリッジっすか!?すいません今敵と交戦中っす!エンジンルームに直行した奴らも相転移エンジンの破壊は阻止したらしいっすけど、そっちに行くまでまだ掛かります!』

「ええ、わかってます。こっちも」

言いかけたルリの背後で、ブリッジの扉が凄まじい音を立てた

「・・・・すみません。時間がないみたいなので手短に聞きます。そっちでナビゲーターの人見ませんでしたか?」

『敵のっすか?』

「はい」

『そういや、見なかったっすね』

「わかりました。こっちで調べてみます」

ルリとサブロウタが会話をしている間も、ブリッジのドアを叩く音が聞こえてくる

『そ、それより大丈夫なんすか艦長』

「はい、隔壁を降ろせばもう十分くらい持つと思います」

『いや、でも悪いっすけど十分じゃとても』

「それなら大丈夫です」

言って、ルリは今まで決して崩さなかった無表情の上に初めて不服そうな、不満そうな表情を浮かべて呟いた

「アテはあります・・・・不本意ですが」





― ナデシコC 医務室 ―



「ん?」

「どしたの?」

「いや、なんか嫌な予感が・・・」

緊急警報など無視して呑気にカップ麺をすすっているユキナとジュン、そしてシラキ

「寒気?風邪じゃないの?」

「マヌケー!お医者さんが風邪引くなんてー!」

「やかましい頭吹っ飛ばすぞバカップル」

そういってシラキが麺を口に運ぼうとした瞬間

『べー』

「ぶふおっ!!」

突如目の前に現れた睨めっこでもしているように顔を崩したルリに思わず麺を吹き出した

「な!なにしやがるこのアマ!」

『緊急事態です』

「こっちもだよ!」

『艦内の緊急警戒警報、聞こえましたか?』

「あ?・・・あー、そういえばあったな」

布巾を取り出して吹き出したラーメンを片付けるシラキ、そんなことはお構いなしにルリは状況説明を始めた

そしてそんな二人を尻目に、ユキナとジュンはこそこそと近くにあった机の影にはいっていくのであった





「で、俺に出ろ、と」

一通りの説明を聞いたシラキは、カップ麺を啜りながら面倒そうに告げた

『はい、サブロウタさんも整備班の人たちも持ち場を守るので精一杯ですし、リョーコさんたちはまだ外で敵の殲滅中ですから』

「ふーむ」

考え込む仕草をしながら、シラキは医務室の机の影に眼を向けた

そこには、ユキナとジュンが隠れている

なにやら顔を覗かせてこちらの様子を伺っているようだが、取り合えずシラキは無視した

「数は?」

『艦内カメラがあちこち壊れているので詳細は分かりませんが、取り合えずブリッジ前にいるのは十体前後です』

「十体前後、ねえ・・・だったら、あれだなあ」

『あれ?』

「おい、そこのバカップル」

シラキの声に、机がガタリと音を立てた

『バカップル?』

「そ、バカップル」

答えるように机が二度三度ゆれると、その影からユキナとジュンが顔を出した。ユキナの視線は、恨みがましそうにシラキへと注がれている

『ああ、ユキナさんにジュンさんですか』

『なんですってえ!!!』

ルリの呟きとほとんど同時に、ミナトのウインドウが大画面で医務室に現れた

『ちょっとユキナ!あれほど言ったのにアンタって子は!!!』

「あ、あははははは・・・・」

夜叉も裸足で逃げ出しそうなほどの形相で迫るウインドウに、ユキナは冷や汗を掻きながら笑うしかなかった

『ジュン君!貴方までこんなところで!!』

「は、はい!すみません!」

『またユキナに押し切られたのね!?貴方それでも軍人なの!?』

とばっちりを受けてジュンまで巻き込んで展開し始めたミナトの説教を尻目に、会話を続けるシラキとルリ

「なんだ驚かねえな。銀髪に能面娘も追加してやろうか?」

『いりませんよ煙突白髪さん』

「煙突?」

『いつもタバコをモクモクやってますから煙突です』

「・・・・ほーう?」

『ああもう二人ともなにやってるんですかあ!!』

喧嘩腰の二人の間に割って入ったのは、半泣きのハーリーだった

「ん?誰だお前」

『ハーリー君です。ナデシコCの副オペレーターに副長補佐をやってもらってます』

「副オペレーターに副長補佐?偉い副が多いな、好きなのか?」

『そんなことはどうでも良いじゃないですか!それよりもう隔壁降ろしてから三分経っちゃうんですよ!?』

言いながら半泣きのハーリーのウインドウが目一杯シラキの顔の前まで迫ってきた

その余りに必死な迫力に押されたのか、シラキは面倒そうに立ち上がった

「あーわかったわかった。おい!そこのバカップル!」

「へ?」

「え?」

シラキの声に、ミナトのウインドウから逃げ回っていた二人が顔を向けた

それを確認すると、シラキは近くにあった棚からマシンガンを二丁取り出した

『艦内への銃器の無断持ち込みは禁止ですよ』

「案ずるな実はこれはモデルガンだ」

ルリからの突っ込みに100%の嘘で軽く答えると、ざっとそのマシンガンを眺め回してうなずく

「ほれ、扱いは慎重にな」

なんの説明もなしに、二人に握らせる

「え?なに?」

「だからぁ・・・」

新しく取り出したタバコに火をつけながら、シラキは医務室の扉をあけた

「行って来い!!」

蹴りだすと、素早い動作で扉を閉めた

外でなにやら言っているようだがこの際無視である

『ちょ!ちょっと二人とも!』

ミナトのウインドウも慌てて外にいる二人を追っていった

「・・・よし」

『良しじゃないですよ!なに考えてるんですか!!?』

頷きタバコの煙を吐いたシラキに、滝のような涙を流しているハーリーのウインドウが凄まじい勢いで迫った

「なんだ?増援なら送ったぞ?」

『貴方は、出ないんですか?』

ハーリーのウインドウを押しのけて、ルリが口を開いた

「・・・やることが出来た」

『な!なに言ってんですか!今はそれどころじゃ!』

『待って、ハーリー君』

『でも艦長!』

『良いから』

ルリの言葉に、ハーリーも渋々と言った感じで引き下がった

『一つだけ、聞きます』

「ああ」

『それは、今しないといけないことですか?』

「今じゃないとマズイな」

『・・・・わかりました』

『艦長!?』

『その代わり、約束してください』

「あ?」

『・・・・・裏切らないで、ください』

「するわけねえだろボケ娘」

『はい』

その言葉に満足したのか、ルリは通信を切った

今度こそ一人きりになった医務室を、シラキはゆっくりと見回すと、懐から拳銃を取り出した

だが、特にその拳銃を構えるわけでもなく、鉛筆でも持つような気軽さで右手に持ったまま、ゆっくりと歩き出した

先にあるのは、入院患者用の個室の中の一つだった

開閉スイッチを押す

空気を吐き出すような音と共に開いた扉の先には、一目では信じられないような光景が広がっていた

部屋を、光が満たしていた

拡散していた光はやがてビデオの逆再生を思わせるような動きで、瞬時に人の形を形成していった

その光に銃を向けながら、シラキはその光度に目を細めた

顕現した人影は、すぐにシラキの気配に気づいたのか素早い動きでシラキに対して身構えようとして

シラキの威嚇代わりの発砲にその動きを止められた

が、その発砲はシラキにとっては意外なものだった

本当なら当てようとしていたのだ、だが寸前でそれを逸らした

「・・・アンタがなんでこんなところにいるんだろうな」

その人影の姿を再度確認して、一瞬驚いたシラキだったが、すぐに立ち直ると、くわえていたタバコを床に落とした

そして、改めて拳銃を彼女に向けると、苦笑と共に問いかけた



「説明してもらおうか?テンカワユリカさんよ」














あとがき



前後編になりました



と、いうわけでようやく戦闘に突入したナデシコなのですが、いきなり艦内戦です

まあ当初の予定通りです。ボソン砲とか使えたんならそれこそ無人兵器を直接送り込んだ方が効率良いのでは?と前々から思っていたので

さて、次回この話の大台が見えてくる予定です・・・かな?

いえ、断言できないのが私の悪い癖でして、はい





それでわ次回で







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