― ナデシコC ミーティングルーム ―



「―――というわけで、今回の私たちの任務はターミナルコロニーコトシロを経由、そのまま火星に突入し敵無人兵器を無力化。その後、統合軍第四艦隊、連合宇宙軍の艦隊とそれぞれ合流し、これらを各個撃破していきます」

「はいはいしつもーん」

「はいヒカルさん」

ホワイトボードではなく、オモイカネが展開したスクリーンで今回の作戦概要をクルーに説明していたルリは、なぜか挙手をして立ち上がったヒカルを指差した

「もしハッキングが効かない敵がいたときは?」

「状況にもよりますが、基本的には援軍が来るまでの間に出来るだけ数を減らします」

「・・・・なんだか随分私たち任せな作戦だねえ」

「統合軍も宇宙軍も、お互い気にしてるのは世間体だけだってことさ」

「ま、確かにこの作戦で援軍をわざわざ待つ必要はないねえ」

「石鹸チョップ・・・世間、体」

ヒカルの呟きに、それぞれリョーコ、サブロウタ、イズミが答える

「取り合えず、皆さんが各々の実力を発揮してくれれば、この作戦は簡単に終わっちゃいます。というわけで、よろしく」

ミーティングは三十分程度で簡単に終わった

ルリの言うとおりにこの作戦そのものはほとんど乗員にやることはなく、エステバリス隊の出番すら無い可能性があるので、当たり前といえば当たり前であった

「ルリ、ちょっと良いか?」

「はい?」

ミーティングが終わり、部屋を出ようとしていたルリをリョーコが呼び止めた

「なあ、この船に乗ってるのって全員ナデシコBの奴だよな」

「ええ、そうですけど」

「・・・・なあ白髪の奴なんていたか?」

「え?」

ルリが驚いて聞き返すと、リョーコは自信なさそうに答えた

「いや、俺もハッキリ見たわけじゃねんだけどよ、廊下歩いてたらそんな奴見かけてさ、どうにも見覚えがないから気になってミーティングのときもちっと探したんだが、いないんだよ」

「・・・・若い人でしたか?」

「ああ」

「その人・・・白衣着てませんでしたか?」

「ん?ああ、そういや着てたな・・・なんだ?知り合いか?」

「・・・ちょっと失礼します」

リョーコの言葉に答えず、ルリは持っていた資料を近くにいたハーリーに預けると、そのまま足早にミーティングルームを後にした

「リョーコ、艦長どうしたの?」

その会話を横から見ていたヒカルが不思議そうに声をかける

ハーリーもサブロウタも、ルリの意外な行動に首を傾げてこちらを見ていた

「いや、なんか白髪の若い男が乗ってんだけど知らないかって聞いたら、急にどっかいっちまった。知り合いみたいだったけどな」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「えーーー!!」

「え〜〜〜!?」

しばしの沈黙のあと、ヒカルとハーリーが全く逆の意味で声を上げた





機動戦艦ナデシコ


Graduation STORY





  『二人、似てますか?』

 

 



― ナデシコC 医務室 ―



「あ〜・・・ダリ」

仕事机の上に足を投げ出すという医者にあるまじき格好のまま、シラキは呟いた

別に常に身体を動かしていないと気がすまないわけではないが、地球を出発してから二時間、患者の一人も来はしなかった

「誰か廊下でコケねえかなあ・・・・」

およそ医者らしくないことを呟くと、ふと視界の隅にあるものがとまった

それは、およそ医務室では必要とは思えない三角フラスコだった

それも一個や二個ではない、文字通りダンボールに詰めて山積みにされていた

「・・・・」

両手に一つずつ持ったシラキは、しばらく不審そうにそれぞれの手の三角フラスコを見比べていたが、不意に何かを思いついたような表情をすると

「・・・・よっ」

積み重ね始めた





― ナデシコC 廊下 ―



ナデシコCの廊下をルリは足早に歩いていた

―――なぜ、あの人はここに?

リョーコの言葉を聴いただけで、大体の予想はついた

白髪のくせに若い、その上白衣を着ているところまで一致しているのだ、彼以外の何者でもない

ルリは、シラキと交わした僅かな言葉の中で彼の性格を彼女なりに掴んでいた

あの男が、自分の意志やネルガルの依頼で軍の戦艦に乗るとは考えにくい

ならば、可能性は一つしかない

―――あの人は、アキトさんのことをまだ何か隠している?

確証はなかった、だが、なにか訳があるのは明白だった

それがなんにしろ、聞き出さなければならない

艦長である自分が彼の乗船を知らなかったのだ、おそらく彼をこの船に乗せたのは、ネルガルか軍の上層部

表立った役割はおそらくイネスの後釜

だが、それならわざわざ非合法な闇医者である彼を使う理由がない

なにかあるはずだ、彼でなければいけない理由、あるいは

―――あの人が、自分自身で成し遂げなければ気が済まないようなことが

医務室の前にたどり着いたルリは、軽く息を整えた

先制攻撃の意味も込めて、ノックはせずに扉を開けた

「ん?」

目が合った

なぜか大量に積み重ねられているフラスコの山の前で、両腕を組み真剣な表情をしているシラキと

「なんだお前どうし・・・あ!ぬ、ぬあああ!!」

扉が開いた僅かな振動か、もしくはそれ以外の要因か

フラスコの山はシラキの方に勢い良く倒れこんだ

「・・・」

どうでも良くなるルリだった





― ナデシコC 医務室 ―



「あーいてえ」

「当たり前でしょう」

「そりゃそうだ」

フラスコが直撃したときに出来たタンコブに絆創膏を張っているシラキの呟きに、ルリは淡々と答えた

「で?なんの用だ?見たところどこも怪我してねえみたいだが」

「ええ、怪我はしてません」

「は?怪我もしてないのに医務室に来たのか?変わってるなお前」

ハーリーが聞いたら発狂しそうな暴言を吐きながらシラキはルリを見た

「・・・じゃあなにしにきたんだ?」

「なぜここにいるんです?」

帰ってきた返答は、実にストレートなものだった

「アキトに頼まれたに決まってんだろ」

「・・・え?」

一切なにも隠していない様子のシラキに、思わず聞き返すルリ

「だからアキトに頼まれたんだよ。お前ともう一人テンカワユリカって女を守ってくれってな」

「・・・・アキトさんが?」

「ああ、正直この約束はあんまりマジメに守る気はなかったんだけどな、お前ら軍人だし」

「貴方がナデシコに乗ったのは・・・・」

「テンカワユリカを守れなかったからな。まあ守ろうと思ったところでどうにも出来ないだろうが」

懐から取り出したタバコに火をつけながらシラキは呟いた

「ここ医務室です」

「残念だったな、医務室である前に俺の職場だ」

「そうですか」

別に気にしていない風なルリはそれだけで引き下がった

「で?話ってのはそれだけか?」

「はい」

「だったらホレ」

言うと、いつの間に用意したのか、シラキの手にはチリトリとホウキが握られていた

「・・・・ホウキとチリトリですね」

「そうだな、ホウキとチリトリだな」

言うと、シラキは床を指差した

ルリが目を移すと、医務室の床には一杯に割れたフラスコの破片が散らばっていた

「嫌です」

顔を上げてあっさりと拒否するルリ

「はっはっはっ、面白いことを言う小娘だな」

「そもそも職務時間中にフラスコを積み上げる方が」

「お前だって暇なときに本とか読まないか?それと一緒だ」

「違うと思います」

「じゃあその読んでた本を破られたら、その破れた紙は誰が始末するべきだと思う?」

「破った本人に悪意が無かった場合は?」

「ノックも無しに扉開けた奴に悪意がなかったとでも?」

「・・・・」

「おらよ、ホウキ」

「はあ・・・」

この男はナデシコ向きだ

ルリは心底思った



分担はルリがホウキで、シラキがチリトリだった

シラキが積み上げたフラスコは優に十個は超えていたらしく、床に散らばっていた破片はかなりの量だった

「・・・・楽そうですね」

部屋のあちこちに行って破片をかき集めるルリに対して、シラキはチリトリでゴミを回収して棄てるだけだ

労働力に明らかな差異が見受けられるが、シラキは適当なことを言った

「運動不足じゃねえのか?」

ルリはホウキでガラスの破片を勢い良く弾き飛ばした

シラキに向かって

「うお!?アブねえな何考えてやがるこの銀髪!」

「楽ばかりしている白髪さんに言われたくはないですね」

何事も無かったかのように掃除を再開するルリに、シラキは心底嫌そうな顔で告げた

「似てるのは名前だけじゃねえらしいな」

「?」

「なんでもねえよ」

しばらく無言で作業をしていた二人だったが、部屋の破片もほとんど片付いてきたときに、ルリが不意に口を開いた

「シラキさん、聞いて良いですか?」

「あん?」

「髪の毛」

言われて、シラキはチリトリでゴミを集めながら口を開いた

「・・・・小さい頃に少しばかりハードな体験をしたんだよ、そのときにちょいとな」

「そうですか」

ルリはシラキの少しばかり変わった雰囲気を察して、それだけで質問を切り上げた

ルリとて、ナデシコに来る前のことは、あまり思い出したくは無い

だが別に聞かれたら答えるし、それが嫌で夢に見るようなこともない

聞かれないから話さないだけ、それ以上でも以下でもない

おそらくシラキも似たようなものだ。さっきの質問を自分がもう一度すれば彼は答えてくれるだろう。なんとなくルリにはそれが分かった

「・・・・」

自分とシラキは似ているのかもしれない。床を掃きながらルリはふとそんな考えに捉われた

別に根拠などなかった、ただなんとなくそう思っただけ

「・・・・あー疲れた疲れた」

最後のガラス片を部屋のゴミ箱に放り込みながらシラキは腰を曲げた

「私の方が疲れていると思いますが」

「バカ言え。お前にこの腰の痛みがわかってたまるか」

「その歳で腰痛ですか、頑張ってください」

「・・・・お前は本当に糞ガキを思い出させるなオイ」

「糞ガキ?」

「ラピスのことだよ」

その一言に、ルリは少しだけ言葉を詰まらせたが、すぐに立ち直ると、部屋の隅に置いてあったポットでお茶を煎れ始めた

「おーい、ここは俺の部屋なわけだが」

「医務室の間違いでしょう?」

「・・・・このガキャア」

「・・・シラキさん」

棚から湯のみを二つ出してお茶を入れながら、ルリは口を開いた

「あ?まだ何かあんのか?」

手近にあったベッドに腰掛けながら、シラキは口を開いた

「ナデシコCに乗る前に・・・・ラピスさんに会ってきました」

「そうか」

煎れたお茶を湯のみに注ぐと、その一つをシラキに手渡した

「・・・・・で?」

ルリは手近にあった椅子に腰掛けるとお茶を一口飲んで答えた



「泣いてました」



「・・・・そうか」

会話はそれだけで途切れた、二人はしばらく自分の持っているお茶をゆっくりと飲んで時間を過ごした





― ナデシコC ブリッジ ―



ブリッジに戻ったルリを待っていたのは、異様な光景だった

格納庫で待機しているはずのリョーコに妙ににやついているイズミにヒカルにミナト、さらに整備班のはずのウリバタケまでいる

さらに何やら泣きそうなハーリーや、その後ろでそのハーリーの頭に手を乗せて苦笑しているサブロウタ

「わりいルリ、話しちまった」

何事かとルリが首をかしげていると、リョーコが罰が悪そうに両手を合わせてきた

「はあ」

何がなんやらわからず、取り合えず気の抜けた返事をすると、そこに目を輝かせたヒカルとウリバタケとミナトが顔を挟んできた

「聞いたわよールリルリ?なに?その白髪の男の人とお知り合いなの?」

「軍務で大騒ぎでそんな暇ないと思ってたのに!ルリルリったらやるー!」

「相手は誰だ!?会わせろ!!会わせるんだ!このウリバタケの眼に叶わないような奴ならこのリリーちゃんプロトタイプが!!!」

「うわあああん艦長!本当なんですか!?」

「いやあ〜やりますねえ〜艦長!まさか戦艦の中にまで男を連れ込むなんて!!」

「・・・・大混乱」

七人が七人、全く別のことを同時に話すから、ルリには誰の言葉もほとんど聞き取れなかった

ただまあ、彼らがなんのことでこんなに大騒ぎしているのかは、わかる

「・・・・はあ」

ルリはうんざりしたようにため息をついた





― ナデシコC 医務室 ―



食堂で小腹を満たしてきたシラキを待っていたのは、異様な光景だった

医務室は基本的に入ってすぐ見えるところに自分の机やらの仕事場、ちなみにシラキはそこに冷蔵庫や簡易ソファーにテレビなどを勝手に持ち込んでいる。そこからカーテンで仕切られた奥に、それぞれ病人用の個室が幾つか、さらに大人数を収納できる部屋も二つほど備えられている

シラキが見た異様な光景とは、目の前の自分の冷蔵庫を一組の男女が漁っているという状況だった

「やっぱりマズイよユキナ。こんなところ誰かに見つかったら」

「だってユリカさんが攫われたのって私たちのせいでしょ?黙って指くわえてみてられないよ」

「そりゃあそうだけど・・・・」

「あー!にしてもこの冷蔵庫まともなもん入ってないわね!飲み物ばっかり、こんな冷蔵庫使ってる奴なんてきっと性格も水みたいにスカスカなヒョロヒョロ野郎ね」

そんな二人のやり取りを見つめながら、シラキはくわえていたタバコを吸うと、懐からなにやら黒光りするものを取り出した

拳銃は基本的にはブリッジからの指示がなければ携帯できないが、シラキのこれは私物であり、さらにネルガルから特別許可も得ている

「棚とかになにか食べ物ないかな?ジュンちゃん」

「ダ、ダメだよユキナ!これ以上引っ掻き回したら」

「えーだって昨日ここに忍び込んで以来なにも食べてないんだよ?食堂に行くわけにもいかないし・・・・」

「カップ麺で良けりゃそこの棚にあるぞ」

「え?マジ?やったー!ジュンちゃん意外と目ざといじゃない」

「ユ、ユキナア・・・・」

「なによお、まるで空き巣に入ったところに家の人が帰ってきてそれに気づかないで背後から後頭部に拳銃突き立てられたドロボウみたいな声だして」

「なるほど的確な表現だが、嬢ちゃんはもう少し回りと世間に気を配った方が良さそうだな」

「・・・・え〜〜?」

振り向いたユキナが見た光景は

「はい手を上げろ、そしてその手に持ってるカップ麺離せ」

無人の医務室に忍び込んだところにその部屋の主が帰ってきてそれに気づかずに背後から後頭部に拳銃を突き立てられたジュンの姿だった





― ナデシコC ブリッジ ―



「シラキナオヤ 二十歳 職業はおもて上無職ですが、生計は非公式な闇医者として立てていたらしいです。その手の世界では結構有名だったみたいですね」

艦長席で本を読んでいるルリ以外の先ほどブリッジに集まっていたメンバーはハーリーが展開しているシラキのプロフィールに注目していた

「ねえハーリー君、なんでプロフィールの横に証明写真がないの?」

「どうやら小さいときから戦場に身を置いていたようですね、十年ほど前の南アフリカにある民族国家の独立戦線でそれらしい人物の映像が残っているだけです。プロフィールの写真がないのもそこら辺が原因でしょう」

ミナトの疑問に、ハーリーはコンソールに手を滑らせながら答えた

別に耳栓をしているわけでもないから、ルリにもこの会話が聞こえてきていた

「小さい頃から戦場に?じゃあ両親も・・・」

「それを確認する術はないですが・・・おそらく、もう亡くなっているでしょうね」

「幾らプロフィールを漁ってもこれ以上は出ないか・・・・」

それを聞いているルリは、少しばかり複雑な心境だった



―――「小さい頃に少しばかりハードな体験をしたんだよ、そのときにちょいとな」



不意に、そういったときのシラキの顔が思い浮かんだ

「・・・皆さん、待機命令が出ているはずですが?」

「え?」

「待機命令が、出ているはずですが?」

今の今まで遊んでいたにも関わらず、いきなりなルリの言葉に一同が首を傾げる

ルリの表情も、ハーリーの席に集まっていた一同からでは、背中しか見えない

だが、なんとなくその雰囲気が穏やかなものではないことは、全員が理解していた

「あ・・・・」

察しの良いミナトが真っ先に気づいた

「そ、そうね!ほら、パイロットの皆は早く格納庫に戻った戻った」

「え?お、おい?」

イマイチ状況がつかめていない他の六人を押しやるようにブリッジから追い出すと、ミナトはルリの後ろ姿を見つめた

「ルリルリ、ごめんね」

「・・・・いえ」

一言だけ答えたルリにとっても、自分の先ほどの行動は意外なものだった

不意に、自分とシラキは似ているのかもしれないという先ほどの考えが頭をよぎった

ルリ自身、余りほかの人に掘り返されたくないような過去がある

シラキにとってのそれが、先ほどナデシコクルーが調べていた事なのだろうと察した瞬間、なぜか彼らにどうしようもない苛立ちを感じた

・・・・不愉快だった。色々

そんなことを考えるルリの背中を見て、ミナトは満足そうに微笑むとブリッジを後にした





― ナデシコC 医務室 ―



「ほお?で、その責任を感じて密航してきた、と」

「まあね、そういう意味ではアンタと乗った動機は一緒かもね」

確かにテンカワユリカの誘拐に責任を感じてナデシコに乗り込んだという点では、一緒かもしれない

「アホ抜かすな小娘。俺は仕方なく、お前らは自分から進んでだ」

「ちょ、ちょっと!やっぱりその銃口なんとかしてもらえませんか?」

随分と年上にも関わらず、完全に腰が引けた口調のジュン

今のジュンとユキナの状態は、二人とも同じロープに縛り付けられてベッドの上に座らされている

そして、その前の椅子には、拳銃を二人に向けたシラキが腰掛けていた

「ほら!理由話したんだからこの縄ほどきなさいよ!」

「その理由が本物だったらなあ」

「ほらユキナ、だから言ったじゃないか」

「やっぱブリッジに連絡すっか」

「ダメ!ダメダメダメ!」

「うっせえな、大体人の留守の間に冷蔵庫勝手に漁ってて、捕まったら捕まったでブリッジに連絡するなとか、挙句にテンカワユリカの知り合いでナデシコCにも何回か乗ったことがある?」

「そ、そうよ」

「だったら当然あの銀髪娘とも知り合いなわけだな」

「・・・銀髪娘?」

イメージとしてはルリのことを指すだろうことは理解したが、あの電子の妖精とまで呼ばれているルリを、銀髪娘などと表現する男には初めて出会った

「へへーん!天下の電子の妖精をそんな風に言ってたって私が広めたらアンタあの子のファンに殺されるわよ!さ、言われたくなかったらさっさとこのロープ解きなさい」

「なら口封じしないとなあ」

言うと、拳銃の標準を改めてユキナに向けた

「!ごめん嘘!ウソウソウソ!」

「・・・・はあ、まあ良いや。で?ブリッジに連絡して欲しくない理由を言え理由を」

「それは・・・・言えない」

「ブリッジか?医務室だが」

「わああああ!!ストップストップ!!」

一瞬本当に開きかけたウインドウに慌ててユキナが叫ぶ

「ったく、悪あがきは嫌いじゃないが自分がやられると腹立つなあ。ほれ、キリキリ吐け」

「う・・・・・・・ミナトさんが、怖いから」

「・・・は?」

飛び出した言葉とその態度に思わずシラキは聞き返した

この、拳銃を突きつけられた状況でもケロッとしていた女が、まさか他人に怒られるのが怖いとは。しかも高校生で

「・・・マジ?」

「大マジよ!」

「でもユキナ、一年前もこの間の時もなんだかんだで許してくれたじゃないか」

「ジュンちゃんは知らないからそんなこと言えるのよお!!あの後に笑いながらミナトさんに「今度やったら許さないからね?」って言われたのよ!すんごい怖かったんだからあ!!」

その時のことを思い出したのか、ほとんど半泣きになりながらジュンに詰め寄るユキナ

その姿は必死というより、いっそ悲惨な感覚を漂わせていた

「・・・・はあ、わかったよ。俺の負けだ」

その余りといえば余りのユキナの姿に、シラキはため息をつくしかできなかった

「え?」

「ホント!?」

意外な言葉に思わずジュンを引きずってシラキに掴みかかるユキナ

「あーそーだよ、その代わり見つかったときは知らんからな、それまで空いてる個室でも使ってろ」

ユキナとジュンを拘束していたロープを解きながら、シラキは奥にある患者用の個室を指差した

「ただし、使う個室は一つだけ、そんで医務室の中ではカップ麺とポット以外触るなよ。破ったらダストシュートから宇宙のデブリの仲間入りさせるからな」

「うんうん、わかってるわかってるって」

途端に手の平を返したユキナにシラキは口の端を引きつらせた

と、上機嫌にジュンを引きずりながら個室へと向かうユキナに、ふとシラキが思い出したように告げた

「そうだお前ら」

「へ?」

「夜中にいちゃつくのは良いが、静かにやれよ。俺すぐ目が覚めるからな」

「なっ!!」

その、おちょくる気配の微塵もない、本気で忠告しているシラキの言葉に、ユキナは思わず顔を真っ赤にした

「す、するわけないでしょ!!」

「うそつけ、高校生と大の大人のカップルが付き合っててしねえわけねえだろ」

「〜〜〜!!ふんっ!!」

シラキの言葉を聴いてさらに顔を真っ赤にしたユキナだったが、鼻息荒くそっぽを向くと、ジュンを引きずったまま個室に入っていた

その様子を見たシラキは、タバコに火をつけながら呟いた

「なんだ?ホントにまだだったのか?」














あとがき



今回は宇宙に出てからの休憩みたいな回でした

試しに今回、ルリとシラキを同じ部屋にいれてみましたが、なんかこの二人は放っとくといつまでも罵り合いしてしまいそうな雰囲気でして、こっちとしては非常に困ります

今回、シラキの過去に関して幾つか出てきましたが、前には言った通り大したもんではないです

ナデシコクルーの方々の影が薄い気がするので、なんとかしたいのですが・・・

次回はようやっと戦闘です

いやー、長かった





それでわ次回で







[戻る][SS小ネタBBS]

※白鴉 さんに感想を書こう! メールはこちら[emanoonn@yahoo.co.jp]! SS小ネタ掲示板はこちら


<感想アンケートにご協力をお願いします>  [今までの結果]

■読後の印象は?(必須)
気に入った! まぁまぁ面白い ふつう いまいち もっと精進してください

■ご意見.ご感想を一言お願いします(任意:無記入でも送信できます)
ハンドル ひとこと