機動戦艦ナデシコ 
     〜機械仕掛けの天使〜

                            prince of darckness編













第五話  カイトとルリ


秩父山中

空中にボソンの光が現れ、そこから赤い機動兵器、夜天光が出現する。
そしてコックピットハッチが開き鎧のようなパイロットスーツを着込んだ男が見える。

「決行は明日」

「「「「「「おお」」」」」」

夜天光の前にいる六人の編み笠の男達が声をそろえる。

「隊長のただいまのジャンプがその証拠ですな」

「うむ、各ポイントでの綿密なるデータ収集が今こそ役に立つ」

「我らのこの後の任務は」

「高見の見物・・・」

配下の二人の男の言葉をパイロットの男は否定する。

「いや、我らは我らの本来の任務に戻るまで」

「では、やはり・・・」

「人形と試験体、ラピス」

そこでパイロットの男、北辰は舌なめずりをする。まるで獲物を見つけた猛獣のように。













連合宇宙軍地下ジャンプ実験ドーム

エレベーターの扉が閉まり、地下へ向けてどんどん下がっていく。
その中にはサブロウタとハーリーがいた。

「昨日は眠れたか?マキビ少尉」

「はぁ・・・・・・」

「で、どうだったんだ?」

「え、何がです?」

ハーリーはとぼけたがサブロウタには効かなかったようだ。

「またぁ、知ってんだよ。昨日艦長の部屋に泊まっただろ、おまえ?」

「な、何でそれを・・・!」

ハーリーは驚きながらサブロウタの方に向く。
すると、サブロウタは含み笑いをしながらハーリーに顔を近づけた。

「で、やさしくしてくれたのか?」

「ええ、まあ・・・」

ハーリーの顔が赤くなっていく。

「ほー、言うねえ!で?」

「フルーツ牛乳をごちそうになって・・・」

「それから、それから?」

サブロウタの顔がどんどんいやらしくなっていく。あっち方面の展開を期待しているようだ。

「手をつないで寝ました!」

「はい?」

どうやらサブロウタが期待していた答えではなかったようだ。

チーン

『地下500』

そこで二人は会話を終えた。

「時間がない、急ぎましょう」

どうやらこの施設の主任らしき男の人が出迎えてくれた。





「システム準備完了」

「マキビ少尉、どうかね、具合は?」

「はぁ、なんか操り人形になったみたいで・・・」

少し落ち着かない様子だが、不満があるわけではないようだ。

「ははは、それはジャンプ直前までの君の体組織や精神の状態を見るものなんだ。我慢してくれ」

「はい」

そこにサブロウタが声を掛ける。

「ハーリー、月で会おうぜ!」

「はぁーい!」

手を挙げながらハーリーは答える。

「ナビゲーター、中心部に到達」

「チューリップクリスタル活性化、開始します」

オペレーターが次々と報告をしていく。

「マキビ・ハリです、よろしく」

「よろしくね」

ナビゲーターの女性がハーリーの握手に応えて握り返す。
顔はよくわからないが、金髪の女性だ。

「行き先のイメージは私がします。あなたは気を楽にして、目を閉じて、楽しいこと、うれしいこと、何でもいいからとにかくリラックス」

「リラックス、リラックス・・・」

すると、周りが一気に輝き始める。
オペレーターがジャンプの進行がどんどん進んでいくのを報告していく。
サブロウタの声がそこに重なる。

「よーし、行ってこい!!」

「マキビ君、行くよ!」

「はい!」

そして、ハーリーは月へと飛んだ。
















ハーリーがジャンプする頃の二分ほど前・・・


墓地に二人の男が立っていた。アキトとカイトである。
アキトは黒いマントにサングラス、カイトは白いマントでいる。
以前のような顔を隠す真似はしていない。
もう意味をなさないから。

「本当に会うのか?ルリちゃんに」

アキトがカイトに問いかける。

「ええ、まあ。あそこで顔を見せちゃってるんですし、今隠しても彼女には気付かれるでしょう」

「そうじゃなくて、本当に彼女に会っても大丈夫かを聞いてるんだ」

アキトは真剣にカイトに言う。

「そうですね。実際会うのは怖いですよ。ルリちゃんはどう思うかは知らないけど、俺はたぶん心の奥底で怖いと思ってます。たぶん彼女に拒絶されるのが怖い んでしょうね。今更なのに・・・」

カイトはそこで俯く。

「そうか・・・」

アキトはそれ以上は言わなかった。
自分がこれ以上言える立場でもなかったからだ。
すると、近くで気配を感じる。

「どうやら来たみたいだな」

「そのようですね」









ルリとミナトはお墓参りに来ていた。
そして、イネスの墓の近くまで来た所で止まる。
イネスの墓の前にはアキトとカイトが立っていた。

「アキト・・・君?それにカイト君?」

ミナトが呆けたように呟く。

「「・・・・・・・・・」」

二人は無言のまま立っていた。




ルリは墓の前で拝んでいたかと思うと、ふと話し出した。

「早く気付くべきでした」

「え?」

ルリの言葉に驚くミナト。

「あのとき、死んだり行方不明になったのはイネスさんやアキトさんや艦長だけではなかった」

「・・・・・・」

アキトは無言のまま聞いている。無論、カイトも。

「A級ジャンパーのみんな火星の後継者に誘拐されていたんですね」

「誘拐・・・?」

「ああ、そうだ」

ここでアキトは初めて口を開く。
カイトは腕を組んだまま目を閉じながらただただ聞いている。

「この二年余り、アキトさん達に何があったのかは知りません」

「知らない方がいい」

「私も知りたくありません。それに、カイトさん」

ルリ言われてカイトが目を開いてルリの方に向く。

「あなたはいつ地球に戻ってきたんですか?」

ルリの質問にカイトは静かに答える。

「つい最近だよ。シラヒメ襲撃事件の前にね」

「何故アキトさんと一緒にいるんですか?」

「それは言えない」

カイトの答えにルリはしばし沈黙する。
その後、再びルリは口を開く。

「そうですか・・・。でも、どうして、どうして教えてくれなかったんですか?戻ってきた事を。戻ってきた時にネルガルを通してならば、すぐにでも連絡はと れたはずです。どうしてなんですか?」

ルリの真剣な問いにしばしの沈黙の後、カイトは答える。

「教える必要がなかったからだよ・・・」

「そうですか・・・」

その瞬間ミナトの平手がカイトの頬を叩いた。

「あんた、なんて事を言うのよ!?」

ミナトが叩いた後、カイトの左頬に赤い跡があった。

「謝りなさい、カイト君!謝って!この子は本当はカイト君の事を・・・」

続きを遮るかのようにカイトはミナトに腰から抜いた銃を向ける。
すると、アキトも同様にミナトに銃を向けている。

「カ、カイト君?アキト君?」

さっきの態度から一変、焦りながらミナトが言う。
それに気付いてルリが振り向く。
しかし、二人の構えた銃は違う方向に変えられる。
その方向には編み笠の男がいた。

「迂闊なり、テンカワ・アキト。我々と一緒に来てもらおう」

すると、後ろから配下の者と思わしき人が六人左右に出てくる。

(あれが北辰・・・)

カイトは先頭の男を見据える。実際に会うのはこれが初めてだ。
あれがアキトの『相手』らしい。

「な、何アレ?・・・・・・!?」

ミナトが呟くと同時にアキトとカイトは銃を同時に発射する。
そして、二人とも先頭の男、北辰に弾丸を六発ずつ浴びせる。
しかし、全く効果がない。マントでよくわからないが、本人の体が特殊なのだろう。
アキトはすぐに弾丸を入れ替えるが、無駄だとわかったカイトは銃をしまう。

「重ねて言う。一緒に来い」

「アキト君・・・」

ミナトが心配そうに言う。

「手足の一本は構わん。斬!!」

「あんた達は関係ない。とっとと逃げろ!」

銃を再度構えながらアキトが言う。

「こういう場合逃げられません」

「そうよねぇ」

「意外と冷静だね、二人とも(汗)」

ルリとミナトの言葉にカイトは苦笑いしながら言う。
その間に、北辰達は何やら部下とやりとりとしている。

「隣の男は」

「殺せ」

「女は」

「殺せ」

「小娘は」

「あやつは捕らえよ」

そして、北辰はルリを睨みつける。

「ラピスと同じ金色の瞳、人の業にて生み出されし白き妖精。汝には我らの研究の栄光ある礎となってもらう」

(まさか、この人達が?)

ルリはそこである事に思い至ったが、その時、敵が動く。

「烈風!!」

「おう!ちえぇぇぇーー!!」

北辰の部下の一人がアキト達に襲いかかる。
手には短刀を持ち、低い姿勢ながらも疾走してくる。
そこにすっとカイトが前に出る。

「アキトさん、俺が行きます」

「ああ・・・」

カイトはそう言うと襲ってくる男を見据える。
男とカイトの距離がかなり縮んでほぼ目と鼻の先というところでカイトの姿が消える。

「!!」

一瞬だった。カイトは構えもせず、男が目前に来るのを待っていた。
そして、カイトが見定めた距離をきった瞬間、カイトは地を蹴り、そのまま抜く手も見せずに鋭い突き手を相手の鳩尾に叩き込んだのだ。
男の体をその衝撃が突き破る。

「がはっ!!」

男はそこで気絶した。
この一瞬の出来事にアキトもルリもミナトもただ呆然とするしかなかた。

「北辰、俺はアキトさんみたいに甘くはない」

「!」

一瞬だが、カイトの放った殺気に北辰は押された。
その時、仲間をやられ、黙っていられなくなった部下の二人が飛び出す。

「「シャアアアッ!!」」

それを予測していたカイトは手の上で倒れたままの部下をその二人に軽々と投げつける。

「「うわっ」」

カイトのこの行動はさすがに予想できなかったのか二人の男は投げられた仲間をもろに受け止めてしまう。

「北辰、お前達だろ?A級ジャンパーを誘拐していた実行部隊は」

確かめるようにカイトは言う。

「そうだ、我々は火星の後継者の影、人にして人の道を外れた外道・・・」

「「「「「すべては新たなる秩序のため!!!」」」」」

「はっはっはっはっはっ!」

「何!?」

後ろにいた人物にルリとミナトは呆然とする。ほかにも人がいるとは思わなかったからだ。

「新たなる秩序笑止なり」

しかもその人物はあの月臣元一郎だったのだ。

「確かに破壊と混沌の果てにこそ新たなる秩序は生まれる。それゆえに産みの苦しみを味わうは必然・・・しかし!草壁に徳なし」

北辰達は月臣の方に向き直る。

「久しぶりだな、月臣元一郎。木星を裏切った者がよく言う・・・」

「そうだ、友を裏切り、木星を裏切り、そして今はネルガルの犬」

その言葉を合図に周りに隠れていたSSが展開する。
それぞれ銃や刀を構える。

「隊長!」

「慌てるな」

北辰は囲まれても平静を保っている。

「テンカワにこだわりすぎたのが仇をなったな、北辰」

「え?え?」

その光景にミナトはキョロキョロしている。すると、イネスの墓が盛り上がる。

「キャア!」

「久しぶりだな、ミナト」

墓を割って出たのはゴート・ホーリーだった。服は迷彩服で、手には銃を持っている。

「そ、そうね、はは・・・」

ミナトはもう苦笑いすることしかできない。

(ゴートさん、いくらなんでも墓の中はちょっと・・・)

カイトはゴートがそこに隠れているのを知っていたが、心の中で突っ込まずにはいられなかった。

「ここは死者が眠るべきおだやかなるべき場所、おとなしく投降せよ」

月臣が北辰に通告する。

「しない場合は?」

「地獄へ行く」

「そうかな・・・?」

「ここにいる全員に勝てると思うのか?」

「フフフッ・・・」

「北辰、投降しろ!!」

その時北辰はニヤリと笑いながら言った。

「跳躍」

「何!?」

「単体のボソンジャンプか・・・、道理で・・・」

カイトはそれで何かに思い至ったように呟く。

「うわはははは!また会おう。テンカワ・アキトよ」

それだけ言うと、北辰とその部下は光に消えた。
そしてその後の処理はネルガルのSSに任された。

「奴らはユリカさんを落としたんだ」

「え?」

カイトが言うと、ルリが振り向く。

「草壁との対抗戦も近いし・・・だから」

「だから?」

そこでカイトはルリの方に向く。

「ルリちゃんに渡しておきたい物があるんだ」










新東京臨海国際空港 宇宙船滑走路B

ここにはルリ達が月へ向かうためのシャトルが用意されてある。

「ウルバタケ班長の穴は俺達で埋めるぞ!」

「整備魂を見せてやる!」

「整備班、ファイ!」

「「「「おう!!」」」」

バックでネルガル会長のアカツキ・ナガレが何か言っているがほとんど聞こえていない。
整備班に隠れてしまっているのだろう。

「ルリルリ」

「・・・あ、はい」

「カイト君からもらったものって何だったの?」

ミナトは先ほどからルリが持っている小箱について聞く。

「あ、これですか。これは・・・」

ルリはそこで墓地の近くの野原での出来事を思い出す。











「私、こんな物もらえません!それはカイトさんが帰ってくるとき渡してください!」

その言葉を聞いたカイトは小箱を持っている右手を下ろす。中には瑠璃石のイヤリングが入っている。

「もう俺はルリちゃんやみんなの所に帰るつもりはないんだ。だから今受け取ってほしい」

そして、改めて持っていた小箱を渡そうとする。

「・・・嫌です・・・それなら、私は受け取りません!」

「違うんだよ、ルリちゃん」

少し昔の優しい口調に戻ったカイトはさらに続ける。

「俺にはこれからケリをつけなければいけないことがある、ルリちゃんを巻き込みたくないんだ。それに今の俺はルリちゃんの知ってるカイトじゃない。今のル リちゃんも俺の知ってるルリちゃんじゃない。もう、ルリちゃんが知ってるカイトはいないんだ。だから、最後に過去のカイトとしてのプレゼント、受け取って ほしいんだ。とっても似合うと思うからさ・・・」

カイトは強引にルリの手を掴むとイヤリングの入った小箱を手渡す。この時カイトが口にした言葉は過去の自分に対しての、ルリへの精一杯の決別の言葉だった のかもしれない。あるいはケジメをつける言葉だったかもしれない。

「・・・・・・」

俯いてしまったルリにカイトは言う。

「ルリちゃんには前を向いて歩いてほしいんだ。こんな俺なんかに振り向かず、まっすぐ前を・・・夢に向かって・・・」

その時、カイトは笑顔で言った。だが、そこには悲しさが見え隠れしていた。
そして、そのままカイトは近くで待機していたアキトと一緒にジャンプして行ってしまった。











ルリは改めてカイトから渡された小箱を見つめる。

(カイトさん、確かに私はこの三年間あなたが何をしていたのかは知りません。あなたが私の事をどう思っているのかもわかりません。けど、あなたは昔から何 も変わってませんよ・・・。それに、私は今でもあなたの事を・・・・・・)

ルリは再度小箱を大切そうに握りしめていた。





















あとがき

こんにちは、こんばんわ、ウォッカーです。
今回の作品はカイトとルリが中心に展開しているので、こういうタイトルにしました。
原作では墓地での出来事を主体に書いています。
でも、なかなかうまくいかない所もありました。
自分は意外と感動シーンとかこういう場面での展開を書くのはどうも苦手です。
まだまだ経験不足ということなのでしょうか。
これからもいい作品が書けるようにがんばりたいと思います。
やっと完結に近くなってきているので、来年の四月には完結させたいと思っています。
次回は、シャトルで月に行く時の話です!できれば、火星での戦い序盤も書けたらと思っています。
最近は寒くなって風邪をひきやすい時期ですから体調管理には気をつけてください。
では、また次回にて!さようなら!




[戻る][SS小ネタBBS]

※ウォッカー さんに感想を書こう! SS小ネタ掲示板はこちら


<感想アンケートにご協力をお願いします>  [今までの結果]

■読後の印象は?(必須)
気に入った! まぁまぁ面白い ふつう いまいち もっと精進してください

■ご意見・ご感想を一言お願いします(任意:無記入でも送信できます)
ハンドル ひとこと