機動戦艦ナデシコ
高橋名人の冒険島ならぬカイト名人の宝島



  揺れる。

ゆれる。

ユレル。

俺の周りの景色が揺れて何もかもが潰れて伸びて歪んで。

身体の内部の熱が独自の意思を持って俺の体の内部を荒れ狂う。

身体の真ん中から放射状に広がる不快感。

俺は生きているのか?

死んでいるのか?

これほどつらいものがあったなんて俺は知りもしなかった。




「ただの食べすぎに車酔いじゃないですか」

カイトの隣に座っているルリが冷たい目でカイトの顔を見つめる。

反論がしたそうな顔をしていたカイトだが言葉を出した瞬間『センセー、カイト君がげろはいてまぁーす。』『キャー』『近づくなよ!下呂斗!』とか悲しくもすっぱい状況になってしまいそうなので黙る。

「大体自業自得ですよ。この送迎バスが来るまでの間におすし屋さんに入って」

ココで一旦言葉を切ってカイトの出っ張った腹をチラリと見る。

「メニューを完全制覇だって言って人が止めるのも聞かないで挑戦して、終わったと思ったら2週目ですか。あきれて物も言えません。まさに身から出た錆ですね」

その説教を右から左へと軽く流しながらも目でルリに助けを求めるカイト。

それを無視してかまわず説教を続けるルリ。

「この前もそうですよ。『暇だから鼠狩りやる』って言って3日間行方不明になりましたよね。どうしたら戦艦内を行方不明になれるんですか?方向感覚とかあるんですか?」

過去の失態をえぐられた事とは無関係に嘔吐デンジャラスが近づいてきてかなりやばくなったカイト。

「せ、せ・・なか。さすって・・」

息も絶え絶えカイトは助けを求める。

「いやです」

ルリの瞳に夜叉が宿る。。

「ひ、膝枕」

「いやです」

「う、腕枕」

「いやです」

「む、胸枕・・・はいいや。固そうだし」

びしっ!

「今のは冗談ですよね?」

なぜかルリはカイトの喉元に手を添えて微笑。

「じょ、冗談ですよ。じょーだん」

そこにはおびえた子羊がいた。





  いくらか酔いもさめたのか暇をもてあそびはじめるカイト。隣に座っているルリにくだらないちょっかいを出すがなれない電車のたびで少しお疲れのルリは相手にしない。

相手にしてもらえないカイトはきょろきょろと車内を見回す。

このカイトとルリの乗っているバス――といっても10人ちょっとしか乗れないマイクロバスだが――は今回カイトが申し込んだ宝探しツアーの参加者しか乗っていなかった。今回集まった参加者はカイトとルリを合わせて5人。カイトとルリを覗くと3人だ。

1人目はロングヘアに垂れ目の世の中の男性(ホモとゲイを除く)が9割は確実に可愛いと絶叫するであろう美人さんだ。一応世の中の正常な男性に入るカイトも瞬間的に「ベラボー!」と叫び、名前を聞きに行ったが間近で見たその美貌にびびって立ちすくんでしまったほどだった。

2人目は先ほどの絶世の美女の連れの男性。この男性は妙に印象が薄い。身体は細身で顔のほうもそこそこの男前にもかかわらず印象が薄い。表情がかなり乏しい上にその男前という顔も一般的過ぎて特徴がない顔だった。

この2人には傍若無人という言葉がピッタリ似合いすぎるカイトも名前を聞き出せなった。(別に男のほうはどうでもいいらしかったが)

3人目は品のいい中年紳士だが・・・。やばい。かなりやばい。このツアーに参加したのは考古学の研究と言っていた。職業も某国立大学の教授である。前科もない。何がやばいのかというと言動である。とりあえず何につけても最初の一言は金切り声である。ものすごく会話にはものすごく苦労したがなんとかカイトは名前を聞き出す事に成功した。マツダ・キントン(松田金団)。ちなみに今は前の方の席でこの辺の過去の文献から昔話に都市伝説はては近隣の学校に流布する怪談話までを読み漁っていた。

「あの、カイトさんちょっといいですか?」

ちょっかいを出されなければ出されないでさみしいルリ。

「へ?別に断んなくてもいいのにさ。でなに?」

相手にされなかった事を気にしていないカイトはバックの中の都コンブを探しながらルリに問い返す。

「あのですね・・・。この旅行って本気で宝探しをする旅行なんですか?」

「いや宝探しツアーって言ったじゃん」

その半ば予想していた答えに驚愕するルリ。もちろん顔には出さないが。

「宝探しなんて冗談だと思った?そもそもこの世の中に宝が埋まっている場所なんてないと思った?確かに宝が埋まっていない場所はたくさんあるけどそれが世界中に宝が埋まっている場所がない証明にはならないよ。それにないと証明されない方がいいものもたくさんあるよ」

いつものおちゃらけたカイトの笑み。それがルリにはとても羨ましい物に見えた。

「どうしちゃったの?俺の顔かっこよすぎ?そんな・・・てれ」

「山田と岩鬼と殿馬を足して割ったような顔でよく言えますね」

「せめて里中と言ってくれ・・・」

何故ルリが『ドカベン』と言われる昭和の名作野球漫画を知っているかと言うと宇宙の哨戒任務といういささか平坦な作戦に従事中にカイトがルリに貸したのだ(半ば無理やり)。半ば強制的見せられたこの『ドカベン』はいがいにもルリだけではなくナデシコ艦内中の9割がたに感染した。理由としては『ゲキガンガー』と似た熱血に高校野球のシビアな冷たさがあいまって中世のペスト並みに感染が広まったのである。

ちなみに艦内で開催された『ドカベンオンリーイベント アレは夏祭りだ 中根と動機入部した彼はいずこへ』で一番売れたものは里×山、山×里、と思いきや岩×里が一番売れたらしい。マニア受けでは仲根×今川が・・・。

「まぁ、話を戻そう。宝がある根拠というものはたくさんあるんだよ」

といってグッとこぶしを握る。

「とりあえず『浦島太郎』って知ってる?」

「はい。一応知っていますけど・・・」

「よし。ちょっとはなしてごらん」

なぜかカイトは諭すように語り掛ける。

「話さないと駄目ですか?」

「話さないと相互理解が出来ないよ?昔話なんて地方で結構細部が変わってくるんだからね」

「わかりました、話しますけど・・・絶対茶化さないでくださいね」

少し頬を赤らめて『お願い』する。

「わかってるよ。ほれ話してみて」

「えーと、まず始めに浦島太郎がいじめられている亀を助けます」

「うんうん」

「そのあと助けた亀が龍宮城に連れて行ってくれますよね。そこで贅を尽くさんばかりのおもてなしを受けて帰り際には重箱に入ったお土産をもらってもとの浜辺に帰るんです」

「そうそう、俺の知っているのもそんなもんだね」

「浜辺で浦島太郎は自分が独りぼっちになってしまった事に気付くんです。自分がいた時間が過ぎてしまったんです。悲しみにくれた浦島太郎は乙姫に開けてはならないと言われた玉手箱を開けてしまうんですよね。そして浦島太郎は老人となって」

「そうそんな感じだね。ココで一つ問題。今の話と現代科学とで似通った点は?正解した場合は虎屋の羊羹を好きな時に買ってあげる権。不正解の場合はウルトラマン全話ぶっ続けで見てもらいます。それではスタート!」

気分は2流クイズ番組の司会者のカイトと虎屋は別にしてウルトラマン全話はきついので真剣に考えるルリ。

「・・・もしかして『ボソンジャンプ』ですか?」

「せーかい。ココからは完璧な俺の推測になるけどいいかな。コホン。まず最初に言いたい事はボゾンジャンプと言う技術をこの世界に残した存在が火星と木星以外にもその勢力を伸ばしていてもおかしくない。それが当時の人間にどんな影響を与えたか?『浦島太郎』で見てみると浜辺から竜宮城に行くのは空間の『ボソンジャンプ』だし浦島が一人ぼっちになったのも時間の『ボソンジャンプ』とも取れるしね」

「カイトさん・・・。頭がいい様に見えますね」

「おいおい。いい様にって本当は凄いバカって言ってるように聞こえるんだけど」

「そうですけど・・・。もしかしてカイトさん自分で頭がいいと思ってるんですか!?」

ルリは目の前に平社員の島耕作がいたかのようにびっくりする。

「まあいいけど。それにしてもよく分かった。さすが俺が見初めた女性だ」

「だっ、誰が見初めた女性ですか!」

「焦ってるね・・・くっくっくっ」

その慌てた反応がうれしいのか怪しい笑いをするカイト。

「ところで『浦島太郎』でも捕まえるんですか!老人虐待で捕まりますよ!」

焦りを隠したいのか話題を変える。しかし少し論点がずれているルリ。

「いや『浦島太郎』今回の宝探しと関係はないだけどね」

「ないんですか!?」

真剣に浦島太郎を話したのにそれが意味がなくて少しご機嫌が斜めになるルリ。

「まあまあ落ち着いて。時には意味の無いことも大切だよ」

「カイトさん見ていると必要のないものばっかりのような気もしますけど?」

「まあ今回の件に関係あるのが『天女の羽衣』なんだよ」

「『天女の羽衣』ですか?」

「そーだよ。まぁこの手の話しがあちらこちらにあるしさ。信憑性は別として数だけは結構あるし。そういうわけで俺は結構あると思うよ」

目を少年のようにきらきらさせて自分の『天女の羽衣』論を語るカイト。

バカ・・・・と言ってしまえばそれだけなのだけれどもルリにはそのカイトの姿はうらやましく思えた。

少し頬を朱色に染めてカイトの顔を凝視する。

「うん?なんかついてる?」

「いえ・・・カイトさん・・・その・・・」

カイトはルリの思いつめた表情を見て慌てた。

「だっ、大丈夫!?また俺馬鹿だからなんかやっちゃった?」

「ちがうんです。その・・・カイトさん・・・かっこ・・・かっこいいですよ」

いつものルリの表情ではない表情からその言葉が嘘でも皮肉でもない事が分かったカイトは急に恥ずかしくなった。

「そっ、そんな事急に言われたらちょっと照れるな・・・・それにココバスの中だよ」

そうである。ココはバスの中。つまり他人がルリの告白めいた発言を丸聞きしている。

「カイトさんがいけないんですよ!」

恥ずかしさの余り逆切れする。

「ひ、ひでぇ!いくら俺の美しさが妬ましいからって!」

「さっきのは撤回です!やっぱりカイトさんはモンタージュ顔です!ルパン顔です!悪性新生物です!」

「そんなこといったらルリちゃんはパット3枚胸!」

「わたしの胸はこれから成長する希望があります!カイトさんは未来永劫その顔とお付き合いして生きていくんです!」

このような口げんかはナデシコの中では2日に一度は目撃される出来事。

いわゆる針鼠のコミュニケーションみたいなものだったりする。

ナデシコの中ではそんな二人のイチャツキを止めるのはあまりにアホらしくていなかった。

「そこの2人!少しは静かにしな!」

前方の席から怒鳴り声が聞こえる。

「すいません」

迷惑をかけたと反省したルリはとっさに謝った。

「イイィィィィィィィィィィィィ!」

マゾのカイトはショッカー張りの叫び声をあげた。

この反応に眉をしかめた声の主はゆっくりと立ち上がってカイト達のほうに歩いてきた。

声の主は美人さんであった。

改めてみる美女の姿は同姓であるルリから見ても嫌味がなく素直に綺麗だと思える美しさを持っていた。

「なんなのあんたたち?頭の方が少しご病気な方たち?」

すかさず、

「ええ。カイトさんのほうは少し・・・」

「そうなんですよ。俺はちょっと頭がおかしくて・・・っておい!」

いわゆるのりつっこみ。

「俺は頭がおかしいんじゃなくてみんなが俺について来れないだけだ!」

一回ため息をついて、

「いつの時代も天才は冷遇されるものよ・・・」

バスの窓から真っ青な空を見上げる。

しばらくの間。

もう少しのしばらくの間。

さらにもう少しのしばらくの間。

「なんか言ってよ!」

相手にされないと悲しいのか自分で突っ込みを求めるカイト。

「まぁ、いいわ。とにかくあんた達少しうるさいわよ。全く親の顔が見てみたいもんね」

少しだけ目じりを上げてカイト達に抗議の声を上げる。

少しの間。

「わたしは遺伝子操作から生まれましたし、親は・・・コンピューターの中にあるライブラリーでしかありませんでした」

淡々とルリは自分の生い立ちについて語る。

「笑止!このカイト様が親の股の間からへその緒をたらして生まれたと思っているのか!」

どんな事にも自信満々なカイト君。

「そ、そのごめんなさいね・・・。あ、謝ってすむ問題じゃないわよね・・・」

自分の幸せが故の過ちに動揺を隠せない美女。

「いえ・・・。わたしは別に気にしてませんよ」

ルリは自分が遺伝子操作から生まれた事については負い目を感じていなかった。

ひとえに今は宇宙のどこかを悩みながら彷徨ってる黒衣の王子のおかげであろうか。

「そうだよね・・・。僕・・・傷ついたよ。だからお姉さんのその豊かな胸で母性を教えてくれぇぇぇぇ!」

座っていた席をけつの力だけで飛び上がり隣にある高尾山には目もくれずエレベストよろしく美女の豊満な胸に飛び込む。

瞬間。

カイトの身体に激痛が走った。

「ぎょええええええええええええええ」

カイトはコミックのように物理法則を無視して真上に飛んで天井に頭をぶつけもう1度痛みを味わう。

「な、何をしたんだ?」

カイトは息も絶え絶えに痛みの原因を作ったであろうルリに話しかける。

「いえ・・・。イネスさんがカイトさんに身体中に痛みを走らせるナノマシンを埋め込んだっていうので試してみました」

「イネスさんは何ていうことを。というかいつの間に。というかルリちゃんも使うなよ!」

「さすがに宇宙軍から変質者が出るとまずいですから」

「ねえねえ。あんた達ってどういう関係?」

会話の内容と行動だけでは全く理解できない2人の関係。

「そりゃもちろん・・・ラバーメン。じゃなったらばーず」

「それはカイトさんの想像の中の話で・・・。ただの上司と部下の関係です。ちなみにですけどわたしが上司です」

とりあえず言ってることがバラバラなのでルリの言葉だけを信用する事に決めた美女。

「なるほどそういうこと。さっきは気にしてないって言ってたけどやっぱりごめんなさいね。私はトウマ・カナコ。よろしくね」

「俺は世界で一番かっこいい男と書いてカザマ・カイトと読む」

「ホシノ・ルリです。カイトさんにセクハラされたらすぐに言ってください」

「ええ。そうさせてもらうわ。よろしくねルリさんにカザマさん」

トウマはルリにのみ握手を求める。

出した手の所在がないカイトはその手でわざとらしく頭を掻く。

「賢明な判断ですね」

「狼に手を出したりしないわ。それに私の彼すぐヤキモチ焼くから」

チラリと先ほどまで隣に座っていた男の方に目をやる。

男は手にした文庫本に目を落としているためかトウマの視線には気付いていないようだった。

「本当、男って何かに夢中になると何も見えないのよね」

トウマは腰に手をやってわざとらしくため息をする。

「それわかります」

「男どもはこんな様子だし少し私の話し相手になってくれないかな?ルリさん」

「あ、その・・・」

チラリとカイトに視線を向ける。

その視線を受けたカイトは

『いいよ。旅は道連れ世は情け。少しお話してみれば?』

とこれまた視線で返した。

「はい。トウマさんお話にお付き合いします」

そうすると今座っている最後尾の席から2つ前の2人がけの席に座って話し始めた。

いつの間にか意気投合した2人は仕事の事からプライベートの事まで話し合っていた。

もっともトウマが話す事にルリが相槌を打ってめったに自分のことを話さないルリの言葉の端々からルリの情報をうまくトウマが突き止めるというような感じだが。

カイトはその光景を見て少しだけ安心した。

近頃のルリは自分でも気付かない泥のような苛立ちを心の中にずっと溜め込んでいた。

それを少しでも無くなればと思ってこの旅行に誘った。

多少自分が宝に興味があったのも事実だけど。

ルリが自分につらい事や悩みを話してくれないのは正直悲しかった。

そんな事を考えているとバスが目的地である旅館の前に到着した。





後書き:
えー。井川が勝つまでかけないといったわけですが重大な事に気付いて筆を取りましたしだいです。
なんと続きを書いていない期間の井川の勝率が0っぽいです。
詳しく調べていないのでなんともいえませんが私は結構信心深いので書いてみることにします。
もしこれで井川が勝つことがあったら今までの負けは私のせい!となりますね。
ま、そんな事はないのかもしれませんが。
きょう(9月22日)の試合。
は色々ありましたがよかったです。
それではー。






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