機動戦艦ナデシコ

〜天魔疾駆〜





<???>


 「行ったのか…カイトは…」
 「えぇ…彼らしい答えでね…ホント…“バカ”よね…」
 「………」
 「あら? 妬いてるの?」
 「…悪いか…」
 「いえ、嬉しいわ…」
 「…アイツは…」
 「大丈夫…あの子なら…私達のムスコですもの…」
 「………そうだな…ガンバレよ…ミカヅチ…いや…カイト…」


第0話:願わくば『優しき再会』を…


<火星・クリムゾン研究所>


コポッ…

 …なん…だ…

コポコポッ…

 …み…ず?……みず……水!?

ゴボボボボッ!!

 ちょっ! マテ! ?…水…じゃ…ない?

 『主任! “天魔”持ち直しました!』
 『! よしっ! 生命維持をメインにして、様子を見よう』
 『『『『『はい』』』』』

 ………えーと………あー………そういや、戦闘用MCに跳ばすとか言ってたか…
 と、すれば…この連中は……クリムゾンの研究者…か………嫌な目つきしてるな…おい………

 『心拍数、脳波、共に正常!』
 『…なんとかなりましたね。また、最初からやり直しかと思いましたよ…』
 『うむ…ネルガルでは成功していると言うのに…我々が失敗していてはな…』
 『本社の連中は無茶ばかり言いますからね』
 『全く…ただのIFS強化体質ならともかく…更に戦闘用にするなんて…無茶もいいトコですよ』
 『…そう言うな…お陰で、こちらは研究が出来るんだからな………さて、今日はココまでにしておこう。落ち着くまでは何も出来ないだろう…』
 『ですね…やっと寝れる…』
 『ココ一週間は研究室から出る事も出来ませんでしたからねぇ』
 『あぁ、今日はゆっくり休んでくれ。それじゃ、解散だ』

 ………大変だな…企業付きの研究者ってのも………
 いや、それはともかく……どうするかね……つーか…子供…か…俺?
 …小さいな…5,6歳…って所かね…
 …アレ?…黒の髪?…茶色の…眼…? 何でだ? 
 ……ルリちゃんにせよ、ラピスちゃんにせよ…色素…薄かったよなぁ………ハーリー君は………置いておこう…
 まぁ、いいか。この方が目立たないで済むし。…うーむ、都合が良いと言うか何と言うか……

 さて、とりあえずは…情報収集か…火星のクリムゾン研究所ってのは分かってるが…
 ? IFS…両手に? 右手は…パイロット用…左手は…オペレート用か…
 単独での行動を可能にする為…か?
 …ま、それは置いといて…
 ………これは…ナノマシンを含んだ培養液か……なら…ココからハッキング…出来るか?
 …うぅむ……ルリちゃんから色々教わっといて良かった………

 ………

 ……

 …

 お…ホントに繋がった…今は…2184年………84年…木連が攻めてくる前か…どうしたモノか…
 …そういや…この研究所…火事で無くなるとか言ってなかったっけ………
 ………いつだよ…火事になるの………
 ココから出れない事には手の出しようが無いし………

 …寝よ…





<同研究所・天魔個室・1週間後>


 ………ぐあ………体中いてぇ………
 ……見事に体中筋肉痛が………
 アイツらぁ……いくら何でも限界ってモノを…考えろっての………

 まぁ、お陰で身体能力が自覚出来たけどさ…
 ある意味…反則なんだろうな…1の訓練が5にも10にもなる…ってのは…
 しかも一度付いた筋肉も落ちづらいし…コレは確かに強力かもな…
 兵器として造り上げる事が出来るなら…最強クラスの切り札にもなる。
 さて、これからどうするかね。抜け出すだけなら…簡単なんだけど…
 抜け出した後が問題だしなぁ………?
 血の…臭い? それに…焦げ臭い…か?
 ………電気が…来てない………

 ………

 ……

 …

 うむ、逃げるか。





視点変更:第3者視点−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 カイトはドアに近づいてロックを解除するが、全く動かない。
 電気が通っていない為、力を入れると抜け出るだけの隙間が開く。

 (…一週間でココまで力が付くのか…非常識だねぇ…)

 苦笑しつつ通路を走り抜ける。
 まだ火は回りきっていないが、煙が回り始めている為床を滑るように走っていく。
 子供の肉体と言う事もあり、身長が低い分楽に走れる。

 (…しかし…ただの火事って事は無いよなぁ…電源が切れる…しかも予備にも切り替わらない…)

 エレベーター横の非常階段を駆け上がる。
 現在地、地下5階。
 ここ一週間で、大体の構造は調べ上げている。
 自我を持たないとはいえ、戦闘用MCの研究所である以上逃げられない様に、通路を封じる仕掛けが山の様にあったハズだが…。

 (本格的に工作されてる。…俺が目的だったりしてな………)

 地下1階まで来た所で止まる。

 (………血の臭いが強くなった……何処だ………)

 周囲に気を配りながらゆっくりと臭いの強い方に歩く。
 天井付近を黒い煙が流れていく。肌に感じる温度もやはり多少熱く感じる。

 (…この感じ…何処かで………まさか………ッ!)

ザンッ

 「クッ!」

 瞬間感じた殺気から後方に向かって跳ぶと、今まで居た場所を刀らしきモノが高速で通り過ぎる。

 (…何故……アンタがココに居る……)

シャラン…
 金属がぶつかり合い音を立てる。

 「…流石よな…造られし破壊神…今の一撃を避けるか…」

 ゆったりと仕込み刀の錫杖を構えながら爬虫類顔の男が姿を現す。



――――― 北辰 ―――――



 (…最悪…か………何故かは分からない…が…この男が…主犯か……)

 何も武器が無いのを悔やみながら無手で構えを取る。

 「………何者だ…貴様………」

 声を抑え今の感情を見破られない様に言葉を紡ぐ。
 北辰の目は一瞬たりともカイトから外れない。

 (逃げる…ってのは…選択も出来そうにない…か)

 左手を軽く伸ばして胸の前へ、右半身は半歩分後ろにずらし、右手を腰の横に置き拳を握りしめる。

 「…もう一手…付き合って貰うぞ…」

 口元を歪ませる北辰。

 「…断る…って訳にもいかない…か…」

 煙が充満し始めている。カイトは腰を落とす。

 「…貴様の力が本物であるならば…」

 北辰の左半身が下がる。

 「我らが力となってもらおう…」

 更に錫杖を左の腰へ、左手で錫杖を軽く支え、右手が錫杖に触れるか触れないかという位置で止まる。

 (…居合い…ナイフの一本でもあれば…無いモノは仕方がないんだけど…)

 「…その場合は最低でも生きていられる…って事か?」

 互いの視線が交差する。

 「…然り…我が最速の一撃…見切ってみせろ…破壊神……ッ!」
 「…黙れよ…修羅っ!」

 集中が極限になった瞬間に奇妙な現象がカイトに起きる。

 (? 音が…消えた? 何だ…北辰の動きが…遅く?…ッ…こっちも…動きが…遅い………)

 音の無い世界で動く体を重く感じながらも北辰の居合いの軌道から体をずらす。
 膝を限界まで折り、体が床に着く程に下げる。
 錫杖の刀部が高速で頭の上を通り過ぎる。
 左脚をバネに堅く握った右拳で、通り過ぎた北辰の右肩付近を殴りつける。
 同時に前に出した右脚で床を踏みしめ、軸にして回転、北辰に背を一瞬向け左肘をアバラに叩きつける。

 「ッ! ヌゥ!」

 北辰は肩を殴られ宙を泳いだ右腕はそのままに左手の掌でカイトの肘を止める。

 「チィッ!!」
 「グ…まさか…返されるとはな…」

 深く息を吐き呟く北辰。

 「ゼッ…ゼッ…ハッ…ハァァ………」

 カイトは思った以上に体に纏わりつく疲労感に息を切らす。

 (…な…なんだったんだ…まるで…時間がゆっくりになった様な…)

 カイト自身は気づいていないが、居合いを避けてから肘打ちまでの行動は子供の体で出来る速度ではない。

 「クックック…大したモノだ…体も出来上がっていない年齢で…我の居合いをかわし、更に肘打ちに来るとは…」

 (…感触から行けば…左手は折れてるハズ…最低でもヒビは入ってる…とは言え…)

 子供の体…ましてや、異常なまでの疲労感。もう一度やれと言われても出来ないであろう。

 「…まだ…やる気…」

 額から流れる汗を手の甲で拭き問う。

 「………」

 無言。

 (…何か言えよ…もう次は無いぞ…俺がだけど………ココで死んだら…あの自称母に殺される気がするが…)

 息を無理矢理整えながら今一度同じ構えを取るカイト。

 「…その必要は無い…」

 北辰がゆっくりと口を開く。

 (…これで舌先が二つに分かれてりゃ…正に“蛇”だよな…)

 本人に聞かれたら殴り倒されそうな事を考えながら北辰の行動からは目を離さない。

 「貴様には二つの選択肢をやろう…」
 「…二つ?」

 訝しげに北辰に問う。

 「二つだ…一つ…我と共に来い…その力の振るう場をくれてやる。」

 予想通りの答え。

 「二つ…この場で…眠りにつくか………選べ…この世に目覚めながら、最も死に近きモノよ…」

 北辰も今一度居合いの構えを取る。

 (…選択肢…か…ソレは?………まぁ、この場を凌げれば、何とか…なる…か?……なると良いなぁ…ホント…)

 選択の無い選択肢を突きつけられて…頷く。

 「…分かった…一緒に行こう………」

 北辰は口元を大きく歪ませて、ニヤリと笑みを浮かべる。

 「…では…行くぞ“天魔”…我の事は北辰と呼べ…」

 そう言ってカイトに背を向け通路を歩き出す。

 「…あぁ…」

 一つ頷きカイトはその背から視線を外さない様にして付いていく。

 (…“天魔”ね…木連でもソレで呼ばれそうだな……しかし…何だって北辰が…この時期に火星……分からんなぁ…まだ…クリムゾンと繋がってるって事は無いだろうし…)

 「…天魔よ…」

 不意に北辰から声を掛けられ身を堅くする。

 「…なんだ…」
 「ここから先は…」

 そこまで聞こえた瞬間にカイトの意識が薄れていく。

 「…?……あー…そうい…う……」

 (…しくじった…な………この蛇面……この手の裏技が有るからこその…暗部なんだし………いいや…ねよ………)

 床に倒れたカイトを見ながら北辰が呟く。

 「…全く…大したモノだ……火星遺跡関連の研究と地球側の技術を見に来てみれば……最高の拾いモノをしたかもしれんな………“天魔”…か………我々にとっての切り札ともなろう………」

 この時北辰は、戦闘用MC天魔には自我と呼ばれる程のモノは無いと思っていた。
 ………それこそが彼、最大のミスだったのかも知れない………。





<木星プラント・ヤマサキ研究所・1年後>


 「いやぁ、流石は天魔くん! 君が教えると二人共良く覚えてくれる!」

 イイ調子で喋る研究者に内心吐き気もするが、感情の籠もっていない声で返す。

 「…それは、貴方達が彼らを一人の人間として扱わない結果だろう…」

 ガラスの向こうでは、5歳前後の少年と少女が横になっている。
 奇妙なのは、二人の体に何本ものチューブが刺さり、二人の体は拘束具で台に固定されている事だ。

 「いやいや、アレを人間として見るなど…兵器に感情は必要ないよ」

 そう言う男の眼には狂気とも言うべき光が見え隠れしている。
 研究者の横に立つ7歳になった少年は溜め息を一つ。

 「…人は感情があるから強くもなる…」
 「逆もあり得るだろう? 感情があるから…あっさりと死ぬ事があり得る」

 嫌らしい笑みを浮かべたまま喋る研究者―――ヤマサキ博士―――を横目で覗き見て少年―――“天魔”カイト―――は更に溜め息を増やす。

 「ま! この話題は止まらなくなってしまうからね♪ あの二人の教育は君に任せた訳だし♪」

 カイトの溜め息に気づいているのか、いないのか。相も変わらずヤマサキは続ける。

 「それにしてもIFSとはねぇ♪ 地球の連中も面白いモノを作るね、ホント♪」
 「…面白い?」
 「ああ! 面白いだろう? 自分の体にナノマシンを注入し、それをもって乗り物を操り、コンピュータと会話するんだ♪ 僕たち木連じゃ、やろうとも思わないだろう?」

 確かに、IFSを知り完全では無いとはいえ、理解している。
 だが、それを転用して、木連独自のシステムにすらしないのである。

 「ま、僕たちには必要すらないけどね〜♪」

 「…無人ロボット…か…」

 かつては、何千機と破壊した。黄や橙でカラーリングされた、虫型の兵器。

 「そうそう。それに僕が居れば、目的に応じて幾らでも命令の書き換えが可能だしね〜♪」

 自信過剰気味…とも言える発言。だが、彼の木連への功績は確かに大きい。

 「そういや、あの二つに名前付けたって聞いたけど?」
 「…あぁ、男の子には“ミカヅチ”、女の子には“イツキ”と…」

 自称母はどうなるか分からないと言ったが、過去の自分―――の代わりだろうか―――と、自らの手で生き終わらせた女性…
 そういえば…と以前から不思議に思っていた事をヤマサキに問う。

 「…あの二人の親は誰だ? ココの親達は子供を大切にしているだろう…大概は…」

 その質問に口の両端を、にやぁぁと歪ませ、嬉しそうに答える。

 「そうっ! いつその質問が来るかと待ってたんだよ〜♪」

 いつも以上にテンションが上がったヤマサキを見て顔が引きつる。
 タレ目で緩んだ顔つきが必要以上に崩れる。

 「…誰だ? そこまで面白い男か?」
 「ふっふっふ〜♪ 聞きたい? 聞きたいかい? では、教えて上げよう♪ 他ならぬ、天魔くんの頼みだしねぇ♪」
 「…ヤマサキ博士…頼むから顔を近づけるのは止めてくれ…」

 数cm先に来たヤマサキの顔を力ずくで押しのける。

 「ちぇ〜…ま、いいや。じゃ、教えよう♪ じ・つ・は♪…―――のお子さん何だよ♪」

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 「………は?………」

 完全に記憶が飛んでいる。
 彼は…ヤマサキは今…何と言った?

 (………えーと………在ってはいけない名前だったような………)

 「あははははははははははは!!! いやぁ、イイ顔だよ! 天魔くん! そうだろう? そうだよねぇ! いやぁ、僕も最初は自分の耳が壊れたかと思ったよ!」

 ヤマサキは何故か知らないが爆笑しっぱなしだ。

 「………スマン、ヤマサキ博士…もう一度言ってくれるか? どうも、耳鳴りがした気がするんだが………」

 認める訳にはいかない…在ってはいけない…そんな訳がない…そんな感情がカイトの中で暴れる。

 「あはははははは!! だよねぇ、ウンウン。じゃ、もう一度だけ言うよ♪ ―――のお子さん♪」

 ………

ピシッ…

 そんな音が頭の中でした気がする。

 「………」
 「くくく♪ くっくっく♪ あはははは♪
 「………」
 「あはははははははははははははははははははは!!!!

ドンッ! ガッ! ズダン!!
 気が付くとヤマサキは部屋の外れで横になって休んでいた。

 「…む、ヤマサキ博士…寝るなら自室の方が良いぞ。仮にもココは研究所だからな。寝るには適さないぞ…」

 何やら、白目を向いていたり、口から泡を吹いていたり、右の頬が異常に腫れ上がっている様な気がするが、見えない事にして、ガラスの向こうで横になっている二人に―――聞こえないだろうが―――声を掛ける。

 「………まぁ、親が何であれ、お前達には関係の無い事だ。うむ、俺の弟と妹…その事実で充分だろう…ミカヅチ…イツキ………」

 額を押さえながら、そう言葉を紡ぐカイトの声に力は限りなく無かった………。



 ………ちなみに…5時間後にヤマサキは誰も居ない研究室で目が覚めたらしい。





<木星プラント・白鳥家>


 「あ、お帰り。天魔、ミカヅチくん、イツキちゃん」

 白鳥家…木連に連れて来られたカイトを迎え入れた家庭である。
 庭先では、白髪が多少生え始めた男が紺の浴衣で盆栽をいじっている。

 「はい、ただいま戻りました。義父さん」

 カイトは軽く頭を下げ挨拶する。

 「ただいま!」
 「…ただいま帰りました…」

 ミカヅチは明るく短く、イツキは静かく丁寧に挨拶を返す。
 カイトに預けられた二人はそのまま白鳥家に連れていかれ、そのまま居候する事になった。
 ヤマサキ達は「研究所で充分」と言っていたが、カイトの意見を聞き入れた草壁によって、一緒に住む事が許された。
 カイトと年齢の近い白鳥家の長男である九十九は良くカイトと遊んでいるし、ミカヅチ達の面倒も良く見てくれている。
 もっともカイトからすると、

 「………“ゲキガンガーごっこ”は勘弁してくれ………」

 との事だが…。
 更には、白鳥家の二子にして、長女であるユキナは基本的にミカヅチやイツキと遊んでいる。彼女からしてみれば、カイトは二人目の良い兄と言っていいだろう。
 何はともあれ、白鳥家に来た事で、ミカヅチとイツキは世間を知る事になった。研究所では、常識として聞いた事が実体験する事が出来る。
 これは非常に良かったと言えるのかも知れない。―――カイトにとっては―――だが。
 少なくとも、ヤマサキや、草壁にとっての道具にならずに、自分の大切なモノの為に戦う、と言う事が可能になりえるのだから。
 尤も、その結果…カイトと戦う事も有り得る訳だが…。

 「お! テンマ! お帰り! 遊びに行こう! 元一朗はもういつもの場所に居るんだ!!」
 「あぁ、ただいま…って、マテ! 九十九! 俺は休みたい………」

 家に上がろうとしたカイトを九十九が掴んで連れ去って行く。

 「「…いってらっしゃい…天魔兄さん…」」

 まだ、この家にとっての“普通”に慣れきっていない二人は、ソレを見送るしかない。

 「…ったく。九十九のヤツは……はっはっは、二人共気にするな。いつもの事だ!」
 「はぁ…」
 「そう…ですか…」

 二人は思う。



――――― この人達は…私達の存在理由を知ってなお…          
          友人…家族で居てくれるのだろうか………と ―――――





<木星プラント・訓練場>


 「………」
 「………」

 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 無音。

 表面は鏡の様に磨かれ人の姿さえ鏡の様に映そうとする木床。
 壁際には十数人の男達。
 中央には一人の男と一人の少年。
 どれ程の時がたったのか…男の体が揺らぐ。
 …だが、それは相手に向かうのでは無く、床に向かって落ちる。
 頭から落ち掛けた所を膝をついて倒れるのを止める。
 ただ…彼の頭を映すべき床面は…紅く染まっている。

 「………ッ!………」

 男は息を吐き出し立とうとするが動かない。体が否定している。
 今立てば………



――――― 殺される ―――――



 ………

 更に時が過ぎる。
 無音。
 男が吐き出した吐息以外に音がしない。
 男がゆっくりと前に立つ少年を唯一見える右目で見上げる。

 「………」

 無言。
 少年の右手を見れば人差し指と中指が深紅に染まっている。
 男は理解する。
 あぁ、アレで自分の左目を抉ったのだと………。
 今一度少年の顔を見る。
 周りを囲む男達は一切動かない。
 それは、“動けない”のか“動かない”のか………。
 ふと…少年の顎から一滴の雫が落ちる。

 「…ふ…」

 ソレは、吐息か言葉なのか他の者達には分からない。

 「………やってくれる…天魔………」

 左目から紅い血を流す男は呟き、命令をする。

 「…烈風…天魔を医師に連れて行け…」

 命じられた男は「は?」と、不覚にも動作する事が出来なかった。

 「…医師の所へ連れて行け…と、言っている…」

 片目であろうとも、その威圧感は揺らがない。

 「! ハッ! しかし…」

 今まで自分達の主と互角―――もしかすると、それ以上に―――に戦っていた少年を見る。

 「…気にするな…気を失っている…見事なモノだ……気を失って…なお、戦う意志を消さんとは…な………」

 爬虫類顔の男―――北辰―――は深く息を吐き出す。

 「ハッ! 直ぐに医師の元に!」

 烈風にとって北辰の命は絶対だ。直ぐにカイトを抱え上げ医者の元に連れて行く。

 「…烈風…」

 訓練場を出かけた烈風に北辰が一言。

 「…ヤマサキには見つかるな…あの男は何をするか分からん……天魔を…ヤツにくれてやる訳にはいかん………」



――――― ソレは自分の獲物だ ―――――



 コレ以上無いという凄惨な笑みを浮かべる北辰。

 「…ハッ!」

 北辰に軽く一礼し、天魔を抱えた烈風が訓練場を出ていく。
 北辰は左目から血を流したままカイトの立っていた場所を見続ける。

 「…あの年齢で我が左目を…な………ヤツの臓器は我が一撃で致命的であろう………生きて戻って来るなら………む…アレをくれてやるか………我が子では無いのが残念な限りだな………」

 他の誰にも聞こえない声で呟き、更に一言。

 「………見せてみろ……天魔………我に…自らが…最強なのだと………己の命を懸けて…な………」

 中央に立つ北辰を除き、他の男達は未だに動く事すら出来ないままだった。





<木星プラント・天魔病室>


 「大丈夫か、天魔?」

 北辰と戦っていたハズが、気が付くと病院のベットで横になっていた。

 「…え…あ、うん。大丈夫…だと思う………無茶苦茶…腹が痛いけど………」

 そこまで口に出して思い出す。

 (そういや…北辰の打突…腹に直撃してたっけか………あの…蛇面………覚えとけよ………)

 実際カイトは北辰の左目を抉っているのだから、言える立場ではないのだが。

 「………驚いたよ…天魔…君が事故に遭ったと聞いてね」

 心配そうに自分を見る義父に頭を下げる。

 「ご心配をお掛けしました………そういえば…どれくらい寝ていたんですか?」

 義父とはベットの反対側に居たイツキが答える。

 「…一週間です…大変だったんですから…」

 手を腰に置いて機嫌の悪い声で………怒っているらしい…尤も、その容姿と相まって“可愛らしい”と見てしまうが…。

 「いや、すまん…」
 「ホントだよ! 天魔兄ぃ! ユキナちゃんなんて、大泣きして大変だったんだよ!」

 やはりミカヅチも怒っている様だ。何やら「よけいなこというなー! げしげし」とユキナに怒られている様だが。

 「一週間かぁ…随分寝てたな…」

 良くもまぁ、一週間も寝ていたモノだと思う。

 「天魔…後二週間は入院だそうだ」

 義父の言葉に大きく口を開く。

 「ちょっ! ちょっとまって下さい! 何でそんなに!!」

 過剰なまでに反応する。

 「? どうした…テンマ…?」

 義父の横に居た九十九が問う…が…カイトは答える事は出来ない。



――――― 病院は…嫌いだ………嫌な…記憶しかないから…          
          彼女の訃報を聞き…あの三人を看取った場所だから… ―――――



 「………天魔…お前がココに運ばれた時の状態はな………」

 義父はそこで言葉を句切り、残りの言葉を言う。

 「………重度の内臓破裂だったんだ…」

 カイトは、なるほど、と理解する。
 内蔵破裂…しかも重度の…そりゃあ心配する…というか、半殺しにされても文句一つ言えない。

 「………ゴメンナサイ………」

 ただ、頭を下げるしかなかった。





<木星プラント・同病室>


 まぁ、何はともあれ、入院中に“飽きる”と言う事は無かった。
 何せ、毎日の様に白鳥家の二人と、ミカヅチ、イツキの二人が見舞いに来るのだから。九十九に至っては、親友の元一朗までも強引に連れてくる。
 更には、入院して二週間目には北辰まで来たのだ。
 しかも、左目に眼帯をして…これには、医師や看護婦達が引きまくった。

 「………」
 「………」

 無言。

 (何を言えと……しかしその左目…どうしたんだ?)
 (む…どう言ったモノか………悩むだけ無駄か………)

 病室の外で聞き耳を立てている連中にも、この異常な緊迫感が伝わっているのだろう。
 物音一つ立てずにじっとしている。

 「…天魔よ…」
 「…なんです…北さん…」

 ………

 空気が凍る。

 「………北さん?………」
 「えぇ、北さん。…て、ココで本名言っていんですか?」

 ………

 「まぁ、それでよかろう…容態はどうだ…」

 納得された以上はこのまま会話を続けるしかない。
 無性に笑いたくなったカイトだが、持ち前の精神力で堪える。

 「…まぁ、後一週間程で退院出来るそうですよ…」

 ………

 どうにも、会話が一言毎に途切れる。

 「そうか…汝の技…見事だった………まさか、左目を抉られるとは思わなかった…」

 ………

 (…俺がやったのか?…ははは…全然覚えてねぇ………スマン北辰…)

 「…誉められてる?」
 「うむ…そこで…な………汝にコレをやろう………」

 北辰はどこからとも無く一振りの刀をカイトの前に出す。

 「? コレは?」
 「我の保有する名刀の内の一つだ…受け取れ…汝こそコレを持つべきであろう………」

 刀をカイトの前に出したまま、手を引こうとしない。

 (…受け取るしかないか…)

 カイトはゆっくりと北辰の持つ刀を受け取る。
 刀を抜いてみると、室内の明かりが手元から剣先へと流れる。

 (………こいつは………)

 「………刀の善し悪しも分かる様だな……その刀の銘は“臥竜”と言う………好きに使え………では…な…」

 そう言って病室の窓から飛び降りる。

 ………

 (………普通に入ってきたんだから、普通に出ていけよ………)

 一人心の中で文句を言う…恐らくドアの向こうでは大騒ぎだろう………。
 カイトは深く息を吐く。



――――― 何なのだろう…この妙なノリは… ―――――





<木星プラント・病院前・退院当日>


 「それじゃ、お世話になりました」

 出入り口まで見送ってくれた医師と看護婦達に向かって頭を下げるカイト。

 「うむ、退院したとはいえ、完全に治った訳ではない。余り無理をしない様に」
 「いつでも良いから、遊びにきてね〜♪ テンマくん♪」

 まぁ、医師からは、自重の言葉を、看護婦からは………何だろう…まぁ、嫌われてはいないと言う事か。

 「はい、それでは…」

 そう言って、荷物を手に―――と言っても、刀だけだが―――白鳥家に向かう。
 ソレを見送りながら、医師と看護婦は話す。

 「良い子でしたね〜、テンマくん」
 「確かにね…彼の家族達も良い子揃いだったし…」

 …確かにツクモ、ユキナ、ミカヅチ、イツキは医師や看護婦、更には入院患者にも人気が高かった。

 「…まぁ、時たま妙な人も来ましたけどね………」

 妙な人………やはり筆頭は北辰であろう。
 少し言葉を交わしたら、刀をカイトに渡して窓から帰って行ったのだから…。
 次は…ヤマサキだろうか。北辰の三日後に来てぐだぐだと研究の事で文句を言っていたが、2時間後に看護婦が様子を見に病室に入ったらカイトの寝ているベットとは反対側の壁に張り付いていた。
 不思議と言えば、その二日後には草壁春樹が来た事だろう。
 カイト自身もコレには焦っていた。
 北辰や、ヤマサキの直属の上司とは言え来るとは思わなかった。
 医師や看護婦も驚いたであろう。草壁のカリスマ性は今や木連を席巻し始めている。
 ただ、一言二言声を掛けて帰ってしまったが…。

 「…ホント〜に不思議な子でしたよねぇ…」
 「うんうん。誰かが居ると、年齢相応の対応してるのに、希に一人で居るとすっごく大人びた顔したりするし…」
 「あぁいう子が息子なら…嬉しいわよねぇ…」
 「ですよねぇ…あと、私が10歳若ければ…」
 「こらこらっ! そのくらいにしておきなさい…さっ! 仕事よ! 仕事!」

 タダの雑談になり始めた所で婦長からの激が飛ぶと、ソコに居た全員が直ぐに動き出す。

 「………」
 「? どうしたんですか? 先生?」

 一人ソコに立ったままでいる医師に婦長が尋ねる。

 「………イヤ…彼は…いつか木連を動かすかもしれないと…思ってね…」

 壮年の医師は目を閉じてその時を夢想する。

 「………そうですね…そうなったら…この病院で怪我を治した事がある、って宣伝して貰いましょうか」

 婦長は笑いながら答える。

 「うむ、それも良いかもしれんな…」

 目を閉じて夢想しつづける医師に婦長から一言。

 「なら! その時まで現役でこの病院を引っ張って行って下さいね、先生。…さ、仕事ですよ!」

 婦長の言葉に苦笑しつつ、医師は思う。
 その時…木連はどんな道を歩んでいるのだろうか…と。





<木星プラント・白鳥家>


 「草壁少将までもが見舞いに来るとはね…君は何をしているんだ? 天魔」

 義父の言葉に苦笑する、カイト。

 「…いえ…ミカヅチとイツキの教育を彼から頼まれたんですよ…何でも彼の知り合いの子…と言う事で…」
 「…そうか…まぁ、余り無茶をしないで欲しいね。九十九達が大騒ぎだったからね…」

 ………どちらかと言えば、その騒ぎの場所は病院内で…だった様な気もするが………。

 「…ご迷惑をお掛けしました…」

 それでも、自分がどこぞの蛇面に相打ちになったのが原因なのだから、頭を下げるしかない。

 「うむ。…それで…草壁少将とは何の話を? あ、いや、言えない事なら構わないが…」
 「構いませんよ………ミカヅチとイツキを正式に自分の弟と妹にして欲しい…との事で…」

 義父の表情が驚きに変わる。

 「なっ! だが…二人の親は何と?」
 「彼らの親は…亡くなったそうです…まぁ、ソレを言えば自分も親はいない訳ですが…」

 カイトは続ける。

 「そこで、自分に姓を与え、彼らを家族にして欲しい…と」
 「姓を…君に…か?」

 義父の悩み顔を見つつ話を続ける。

 「はい、まぁ、何かしらの理由があるのでしょうが……そこまでは流石に教えて貰えませんでした」

 義父は黙考、そして一言。

 「………そうか」

 色々納得しきれない所があるが、とりあえずソレ以上は聞かない事にする。

 「それで…姓はどうする? 白鳥を名乗るかね? そうしてくれるならば…私としても嬉しいのだが………」

 義父の思いは嬉しく思う。
 素性の分からない自分を迎え入れ、更にはミカヅチやイツキすら快く迎えてくれた。
 だが………やがては木連から出るつもりの自分や…ミカヅチ達に…彼らの家名を貰うわけにもいかないだろう。
 ………何よりも…、自分達が名乗るべき姓は…自分が一番良く…知っているのだから………。

 「お心遣い感謝いたします。…しかし…自分には…自分達には名乗るべき姓が在ります…」

 カイトの表情を見て、義父は深く頷く。

 「聞こう…君達三人が名乗るべき姓は…何だ?」

 カイトは深く息を吐き出し、応える。



――――― 風間 ―――――





<木星プラント・草壁春樹執務室・2年後>


 「…火星…ですか…」
 「そうだ…君達には…地球へ行って貰いたい…」

 個人で使うには大きすぎる机に両肘を置いた男―――草壁春樹―――。
 北辰、ヤマサキの上司であり、自分達の上司…と言ってもいい男。

 (………この時期で…火星…なる程…かつて俺とイツキが地球へのスパイとして送られたのも………)

 目の前の男を冷静に見つつ、尋ねる。

 「…よろしいのですか…自分は…」
 「地球の研究者に作られたMC…だから…裏切る…と?」

 草壁は苦笑してカイトを見上げる。

 「…それも構わないさ…君の戦力は確かに欲しいがね……君に裏切られるなら…私に忠誠させるだけの力が無かった…そういう事だろう…」

 草壁の言葉、目の動きを見ても嘘では無いと分かる。
 見事なモノだ…とカイトは思う。

 (…これだけの懐の広さを見せるか……生粋の木連生まれの人間なら、崇拝したくなるのも分かるな…)

 かつては…敵…ただひたすらなまでに。

 …兄と姉から未来を奪った男達の一人。
 …独りだった少女が手に入れた家族を奪った男達の一人。
 …私怨の為に…数多の人々を巻き込み…殺し合いをさせた男。
 …かつての自分では、認める訳にはいかない男。

 なら…今は…と自分に問う。

 (…好きになってる…木連を…義父さん…九十九…ユキナちゃん…元一朗………)

 他にも知り合った人達…切り捨てて良いのだろうか…と。
 途中で、蛇面の男やら、タレ目で緩んだ顔のマッドサイエンティストが浮かんだ気がするが、見えなかった事にしておく。
 …少なくとも…今、彼らが非人道的行為をしているかと言えば、ほとんどしていない。
 草壁達はまだ地球側と歩み寄ろうとしているし、北辰は草壁からの命が無ければ動かない。
 唯一、ヤマサキがムカつくが、彼とて無茶はしていない………妹達―――最初はミカヅチがイツキの兄…の予定だったが、見事に立場が逆転しイツキが姉になった―――に対してやった行為は許せる事ではないが…。

 しばし無言が部屋に充満した。

 「…分かった…行こう」

 カイトは頷くと一つ尋ねる。

 「…で、何を調べれば良い…」

 草壁は一つ頷いて、何も…と。

 「…調べなくて…いい…と?」
 「あぁ、君達は…自分のしたい様にすると良い。…必要とあれば、我々と敵対しても構わない…」

 まるで敵対する事を前提にしている様な話し方である。

 「………」
 「…私は危惧しているのだよ…」

 溜め息を深く一つ。

 「…このままだと木連は…危険な道を選びかねん…そうなった時は…君に止めて欲しい………」

 予想外の答え…カイトの知る限り、彼の行動によって火星の後継者が発起したハズだ。

 「…俺に止める力が在る…と…」

 カイトの答えを分かっていた様に微笑む。

 「…これでも君の力をそれなりに評価しているつもりだよ…私は…。2年前に北辰の左目を義眼にさせたのは誰だったか?」
 「………」

 彼は、何かあるとこの事を口にする。
 その度にカイトは口を閉じるしか無い。

 「ふ…火星までは責任を持って送ろう。…その後は君達しだいだが…無責任だと思うかね?」

 カイトは軽く溜め息を一つ。

 「…その程度には信頼されている…そう思って良いんでしょう?」

 苦笑まじりの答えに草壁は笑みを深くする。

 「…その通りだ。…信用はせんがね…」

 二人して軽く笑う。

 「それで、いつ向かえば良い?」
 「直ぐにでも…まぁ、知り合いに挨拶程度はする時間は有るがね…二人を頼む…」

 草壁の言葉に苦笑を浮かべるとドアに向かって歩き出し一言。



――――― 彼らは…強いよ………と ――――――





<木星プラント・白鳥家>


 「…この家を出る?」

 義父は不思議そうに首を傾げる。

 「はい、草壁少将から頼み事をされたモノで…」

 やはり、彼らには報告しなければならないだろう。

 「ふむ…何処に行くのか…と聞いてはマズイかね?」

 カイトは頭を下げる。

 「すみません、極秘…と言われていますので…」

 そんな事は一言も言われてはいないが、彼らに本当の事を言えばどれほど心配させてしまうか分からない。

 「…そうか…イツキちゃんとミカヅチくんもかね…」
 「はい、自分達三人で行け、と」

 義父は溜め息を深く一つ。

 「…そうか…寂しくなるな……いつ出るのかね…」
 「明日の昼には…」

 正直、我ながら早いと思うが、ゆっくりすれば未練が残るだろう。

 「…そうか…今日の夕飯は食べていけるのか……では、今日は盛大に行こうか…なぁ、九十九、ユキナ!」

 襖の向こうで聞き耳を立てている二人に声を掛ける。

 「「はっ! ハイィッ!!」」

 二人は体を硬直させた後、おのおの動き出す。

 「父さん! それじゃ、買い出しに行って来ます! 元一朗達も呼んできますね!」
 「あ! お兄ちゃんズルイ! 私もミンナ呼んで来る!!」

 二人は風のように走り去っていく。

 「………やれやれ…困った奴らだ…」

 そういう義父の目は優しい。

 「…だからこそ…イツキ達も気を許せたのでしょう…本当に感謝しています…」
 「はははっ! 感謝など必要ないさ…君達三人は私の子供だと思っている…いや…本当に私の子供達だ…」

 そう言って、カイトの体を優しく抱きしめる。

 「…天魔…きっと君は誰にも話せない事を持っているね………そしてそれは、とても重いものなのだろう………」

 カイトはただ抱きしめられるまま何も言わない…。

 「私達ではそれを分かち合うことすら出来ないのだろう…天魔…君がどんな思いを覚悟に立っているのかすら理解できない………」

 だから…せめて………と、

 「休みたくなった時は、いつでもココに帰ってきて休むと良い………例え…どれ程の距離が離れようと、時間がたとうとも………私達は…家族なのだから………」

 (彼らには本当に感謝をするしかない…。俺は何一つ教えていないのに…それでも…家族と…)



――――― …心からの…感謝を… ―――――





<木星プラント・白鳥家・出発当日>


 「では…さような………いえ…行って来ます…」

 カイトは途中で言葉を変えて白鳥邸の玄関から呟く。
 おそらく、その言葉は隣に居る二人以外に聞こえてはいないだろう。
 前日の夕食はパーティーといっても良い程の大騒ぎになった。
 白鳥家の近所の連中が集まり、男達は酒を飲み、女達は料理を作り、微笑む。
 九十九の集めた友人達は、カイトと料理の早食いだの早飲みなどで笑い合う。
 ユキナの連れてきた友人達は、イツキとミカヅチらを巻き込んで歌い、踊る。
 これ程までに騒いだ事は無いだろう。
 全員が潰れてから僅か数時間しかたっていない。
 ふと、見れば心地よい倦怠感が白鳥邸を包んでいる。

 「天魔兄さん…楽しかったですね…」

 イツキが感慨深く呟く。

 「…そうだな…まぁ、ミカヅチが今だに起きない程騒ぐ事になるとは思わなかったが…」

 カイトは苦笑し、背中で平和そうに寝ている弟を見る。

 「………」
 「………」

 無言…理由は…分かっている。
 …自分達は…ココに胸を張って帰ってこれるのだろうか…と。

 「…イツキ…」
 「………大丈夫です………天魔兄さん…」

 イツキは頭を白鳥邸に向けて深く下げる。

 「………ありがとう…ございました………」

 イツキの足下の道路に幾つか水滴の滲んだ後がある。

 「………行こう…前に…進むために…ココで出会えた人達に…いつか…笑って会えるように………」
 「………ハイッ!」

 そうして二つの影は白鳥邸を背に歩き出す。

 ………

 二つの影が見えなくなった後、ゆっくりと二つの体が起きあがる。

 「………行ったようだな………」

 どこか…気落ちした声。

 「…はい…」

 少年の答える声。

 「…お前は…これからどうする…」

 父から息子へ…。

 「…軍人になろうと思います…天魔や…イツキ…ミカヅチ達に負けないように…」

 少年らしく無い…覚悟を決めた声………そういえば、彼がこういう答え方をしていたな…と、思う。

 「…そうか…負けるなよ…お前の親友と…その妹と弟に………」

 それは…父として…軍人として…。

 「これからお前は、抜刀術と柔術の道場に行け……まずは…自分を鍛えろ…彼のように…」

 「…はいっ!」

 それは…彼が木連に起こした波紋の一つなのかも知れない………。





――――― …願わくば…我が息子達に…優しき再会を… ―――――





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−−−−−


あとがき(鬼嫁との)対談


???:また…随分長くなったわね………

Tasqment(以下Tas):………ですねぇ……いや、予想外(汗)

???:………嫌がらせ?

Tas:いや、そんな事は…無い…ハズ………

???:嫌われなきゃ良いわねぇ…

Tas:ぐ…

???:まぁ、それはともかく…私…出たわね…冒頭だけだけど…

Tas:うぃ、ゲスト出演って事で。まぁ、友情出演でも良いけど…いや、この場合は家族出演になるのか?

???:どうでも良いって、そんなの…それにしても…火星研究所〜木連編…長くなったわね…

Tas:です。いや、もう少し短い予定だったんだけど…

???:予定だと、火星に渡った後を少し書くんじゃなかった?

Tas:なんですけど…予想外に木連の人達が動いてくれて…(大汗)

???:キャラクターに支配される作者………

Tas:………

???:ま、それはともかく、さっそく質問があるんだけど…

Tas:………なんでしょ………

???:私の旦那って誰?

Tas:…秘密…

???:なんでよぅ!

Tas:言っても意味ないから…つーか、そもそもココにアンタが居る事自体………

???:………………

Tas:…何でもないです。

???:いいわ。じゃ、二つ目。作中のMCに跳んだカイトの髪と目の色はなんで?

Tas:…だってあの戦闘用MCの目的は、“暗殺を中心とした裏仕事”ですよ?

???:…まぁ、ルリちゃん達みたいなのだと…目立つわね………

Tas:目立ちすぎですって…だもんで、“黒髪茶眼”なんですよ。

???:なるほど。じゃ、三つ目。

Tas:…まだ有るのか…

???:有るわよ、当然。で、カイト達三人の名字だけど…漢字…あれで良いの?

Tas:…知らん。どう見ても当て字だけどな…

???:じゃ、“カイト=カザマ”で良いの?

Tas:んにゃ、〜天魔…〜では“カザマ=カイト”“カザマ=イツキ”“カザマ=ミカヅチ”で統一します。

???:なんで?

Tas:だって、カザマの姓だけが西洋式で名前の後に来るんだよ? 他の人達みんな姓、名の順なのに………

???:…そういや、そうね…木連も…そうか…

Tas:地球の連中―――まぁ、大概が日系だけど―――だって、そうだし…まぁ、メグミ=レイナードは違うけどさ。

???:確かに違和感あったもんねぇ…

Tas:そゆことです。

???:んじゃ、四つ目〜。

Tas:へいへい…

???:重度の内臓破裂で…退院まで3週間て………化け物?

Tas:うむ。………で、頷くと終わってしまうので、少しだけフォロー。単純にカイト…というか、戦闘用MCに投与されたナノマシンの影響ですな。

???:それにしたって…

Tas:効果としては、傷ついた部分が発生すると、すぐに再生を始める。って事なんですが、当然治すのに大量のエネルギーを消耗します。

???:ほうほう…

Tas:詰まる所、カイトが北辰の左目を抉ったと同時に、北辰の一撃をくらって内臓破裂を起こします。破裂したと同時に再生が始まり、それまでで消耗した体力に対してトドメとばかりに根こそぎ奪って、気絶した…と。

???:………実は無茶苦茶タチ悪いナノマシン?

Tas:まぁ、問答無用で再生を始めますからなぁ…ヘタをすると、戦闘中にナノマシンに体力使われて死ぬ可能性もありますな。

???:都合良く行かないのね…

Tas:そらそうでしょ…まぁ、あの一戦でその辺はカイト君本人も気づいてるんで…

???:少しはマシ…か…

Tas:まぁ、致命傷さえなければ良いので、至って“えげつない”シロモノかと。

???:はぁ…送る体間違えたかな………まぁ、いいや、次、最初の北辰戦の現象は何?

Tas:…アレもナノマシンの影響…で終わって良い?

???:なんで?

Tas:いや、知ってる人が見れば…某ゲームの奥義の歩法じゃねぇか! と。

???:有名なんだ…

Tas:結構ね…だから…パス………まぁ、簡単に言えば、思考の高速化です。ハイ。

???:ふぅん。ま、それで良いとしとこ…どうせ御都合なんだから………

Tas:そそ、気楽に読んで下さい…所詮は未熟者のSSですから………

???:妙に卑屈な………それじゃ、次。

Tas:は。

???:草壁…どうしたの…アレ…妙に優しいけど…

Tas:………なんだろうね…ホント…

???:…考えて…ない?

Tas:いや、有る程度は…まとまって…る…ハズ………

???:自信なさげね………聞くだけ無駄そうだし…最後、行くわよ。

Tas:うむ。

???:なんで、カイトの視点から、途中で第3者の視点になってるの?

Tas:まぁ、カイトの視点では書ききれないから…ってのが理由の大部分。

???:『プロローグ』は?

Tas:あれは、アレで良いの…というか、アレを第3者の視点で書く根性が無かっただけ(涙)

???:………だとしても…なんで『0話』の途中から? 最初から書けば良いのに…

Tas:………カイト視点で書いてた名残なんだけど…まぁ、あのシーンはカイト視点の方が個人的に好きだったってだけ(汗)

???:読み手の側で考えない?

Tas:………ゴメンナサイ………

???:あほ。

Tas:(一言かよ…)

???:ま、この辺にしておくか。で、次は…“1話”で良いんだ?

Tas:あい。TV版の1話に突入します。

???:しばらくは…マンネリ気味になりかねない?

Tas:あ〜…どうしてもTV版のおさらいに近くなるから…まぁ、出来る限り努力しますが…

???:…ん、努力しろ。では、ココまで読んで下さった皆さん、また会える日を期待して…

Tas・???:さよ〜なら〜♪

Tas:(“また会える”って事は……やっぱり次も呼ばなきゃダメなんだろうなぁ………)


−−−−−


ホントにあとがき


 と、言う事で、第0話完成しましたー。(汗)

 なんつーか、プロローグ早々にナデシコクルー全滅だったり…今回ので…走りっぱなしだった気もしますが…。

 もう“ウチのカイト”は“カイト”じゃ無くなってるし…暴走気味だなぁと。

 次の話からはTV版を追う形になります。そうすると、あんまり走れないんで…ゆっくりと歩く事になると思います。

 なんか、今回、木連関係書いて…草壁が随分“イイ人”になりつつあるなぁ…と。

 おかしいなぁ…しかも、北辰と妙なフラグが立ってるし…なにやら、カイトVS北辰になりそうな………(滝汗)

 それはそうと、さっさとイツキとミカヅチが出てきてしまった…。

 更には白鳥一家………親父…居るんだろうな…少なくとも…まだ…。

 TV版で九十九が出てきた時には…鬼籍に入ってそうだが………うぅむ。

 不幸な事に元一朗に関しては…名前だけでセリフの一つも入ってないし(爆)

 プロローグと0話を書いて、ヒロインのセリフがプロローグで一言(回想含んでも二言)のみ…。

 …もう、誰がヒロイン何だか(笑)

 ま、これで、木連側に対して色々フラグも立ったみたいだし………イイ事にして置こう…うん。

 さてさて、1話を書き始めますよー…何処まで行けるだろ………。

 今回よりは…短くまとめたいですね…うむ、努力だけはしてみよう………努力と結果は別物だけど………。

 でわでわ。こんな所まで読んで下さった皆さん。ありがとうございました…さ、つぅぎ行ってみよー!


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