地球、連合宇宙軍本部の会議場。 本来は地球の平和を守るべく日夜奮闘する人々がほとばしる熱いパトスをぶつけて論議すべき場であるここは、今や小さなお茶会が開催されていた。 「しかし、先程の戦線布告からとんと音沙汰がありませんなァ」 ガッシリとした体格の男、秋山元八郎が煎餅をバリッと気持ちの良い音を立ててかじる。 「今頃、新地球連合も報道機関各所への対応に追われているんでしょう」 飄々とした雰囲気を持つ老人、ムネタケ・サダアキが羊羹をお茶請けに熱い緑茶をすする。 「何をのんきに他人事みたいなこと言ってるんです! 総司令が人質に取られたんですよ!」 まるで世間話でもしているかのような二人の態度にちと線の細い青年、アオイ・ジュンが噛みつく。 ……とは言いつつ彼の手にもイチゴショートの載った皿があるのだから全くもって世は不可解である。 「しかしなぁ、ウチの月基地が占拠されたってのに情報をくれるどころか動くなと来たもんだ。よほど統合軍に解決させたいらしい」 「一番早くて正確な情報がニュースというのも皮肉な話ですな」 菓子を取る手は休めず秋山は苦笑を浮かべ、ムネタケは視線の先をテレビへ移す。 そこには先程、月基地を包囲した統合軍艦隊が戦闘を開始したと、レポーターが興奮気味に伝えている。 彼の背中では僅かに光点が点滅し、確かに戦闘が始まっているようだ。 もっともカメラの近づける距離では爆発や砲撃は確認できても実際にどう戦っているのか判別はつかないが。 「だからって黙って見ているなんて……」 ショートケーキをつっつきながらますます口調を荒げていくジュン。どうやら苺は最後に食べる主義のようだ。 「まあまあ、落ち着こうよジュン君。さっきナデシコBに連絡したら救出作戦をしてるみたいだし。……あ、ジュン君お砂糖は2個だっけ?」 長髪の女性、ミスマル・ユリカは馴れた手つきで紅茶を淹れてジュンに差し出す。 「落ち着こうって、向こうにはおじさんやルリちゃ……総司令やホシノ少佐が人質に取られてるんだよ!?」 「大丈夫だって、火星の後継者さん達は草壁元中将を釈放させる為に人質を取ったんでしょ? 取り敢えず交渉してる間は心配ないよ、うん」 なんの根拠もないが彼女に『大丈夫』と言われるとそんな気がしてくるのは本人が持つ人徳の成せる技だろうか。 「だからって……」 ジュンは情けない声を上げながら彼女の差し出したお茶を受け取る。 彼の反論は結局、自分たちが何もさせて貰えないのを確認しただけだった。 自らの溜飲を下げようとするかのように紅茶をぐぐっと一気飲みする。 ミスマル・ユリカは窓から空を見上げると、視界の端に夕月が見えた。 茜色の夕日に照らされ、僅かに赤く染まる月。 (大丈夫、大丈夫だよね? ルリちゃん、お父様……) 今日に限ってやけに紅く見えるのは気のせいか、はたまたこれからの惨劇の予兆なのか――― |
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だウソだウソだウソだウソだうそだうそだうそだ! アキトの思考は停止し、ただ目の前の存在を全力で否定する。 呼吸が乱れ、動悸が激しくなる。 『アキト? どうしたのアキト!?』 彼の異変を感じ取ったラピス・ラズリが呼びかける。 だが今の彼には返事をする余裕すらない。 ラピスは無防備なサレナを守るべくバッタを周囲に集める。 白いエステは動かなくなったブラックサレナを静かに見据える。 マシントラブルか、パイロットに異常が発生したか。 どちらにしても関係無い、テンカワ・アキトは最優先目標だ。可能な限り捕縛、不可能ならば殺害という命令が火星の後継者全軍に行き渡っている。 この好機を逃す術は無い、白いエステはサレナを取り押さえるべく歩を進め――ようとした。 『そこまでだ、カザマ君』 「何故? テンカワ・アキトを捕らえるまたと無い好機――」 『罠の発動時間だ、すでに全員が退避を始めている。ここは無人兵器に任せて退きなさい』 目の前には膝を付いて停止したブラックサレナ、ほんの数歩近づけばそこに手が届く距離だ。 『悔しいのは判るがただでさえスケジュールが押してるんだ、君だけ月に置いていく訳にはいくまい?』 「……はい」 『よろしい、ルート71で回収する。経路は判るな?』 「問題ありません」 『終始おされ気味とは言え旧式の機体でテンカワ・アキトの機体と渡り合えたんだ、初戦の評価としては合格点だよ』 「ありがとうございます、ヤマサキ博士」 カザマ、と呼ばれたパイロットはにこりともせず、ヤマサキの言葉に答えた。 『アキト? 聞こえるアキト、どうしたの!?』 モニターの端に離脱するエステバリスが見える。 どう考えてもここで退避するのは不自然だ。 「……見逃して、くれたのか?」 混乱する頭を振りつつ機体を立ち上げる。 頭痛が酷い、感情の高ぶりに反応してナノマシンが異常活発化を引き起こし、神経を圧迫しているのだ。 「状況は?」 『動悸、脈拍、規定値を若干オーバー、許容範囲内。体内ナノマシン活性率68%、危険域』 「オレの身体はどうでもいい、周囲の状況だ!」 『統合軍との戦闘により火星の後継者は損耗率は35%突破、徐々に戦線が後退してる』 「よし、混乱に乗じてホシノ少佐を救出する。統合軍との戦闘に巻き込まれる前にユーチャリスは回収ポイントまで退け」 『了解。でも……』 「身体の方は大丈夫だ、問題無い」 心配する相棒に淡々と答えるアキト。 『そうじゃない、どうして急激にナノマシンが活発化したの?』 「どうしてだと?」 そんな事は尋ねるまでも無い、殺したはずの仇敵が生きていた挙句、自身の前に現れたのだ、動揺しない方がどうかしている。 「お前はさっきの通信を聞いていないのか?」 『通信? さっき?』 年相応のあどけなさで首をちょこんと傾げるラピス。 どうもとぼけている訳では無いらしい、本当に知らないのだ。 「……サレナに通信が入ってきたろう、たった今」 『サレナ、ユーチャリス共に多重プロテクト済み、百回ログを見ても私達の会話以外ないよ?』 「なんだと……!?」 いくら自分の身体にガタが来ているとは言え、戦闘中に幻覚を見るほど悪化した覚えは無い。間違い無くさっきの通信は現実の出来事だ。 しかし、ユーチャリスのプロテクトを易々と突破した上にログを完全に消し、ラピスには侵入した痕跡すら悟らせないとは常人の成せる技ではない。 こんな芸当が可能な人間は地球圏でも片手で数える程、それこそラピスと同じく情報処理のみに特化した人間、ホシノ・ルリぐらいな物だろう。 だが火星の後継者がそちらの方面に優れた能力の人間を保有しているという話は初耳だし、それほどの技術者ならネルガルの情報網に引っかからない筈が無い。 『ホントにどうしたのアキト? 撤退する?』 「問題無い、細かい事は後回しだ。今は当初の目的を優先する、いいな?」 『了解、アキトの突入後ジャンプにて戦闘宙域を離脱します』 白いエステバリス、ラピスを上回る技術を持つ人間、そして何より『あの男』からの通信。 不可解な要因が多すぎる。が、自分のすべき事はひとつだけだ。 「貴様等が存在する以上叩き潰してやる、何度でもな……!」 黒い復讐鬼は静かに呟く、暗き怨念をその胸に。 |
『火星の後継者』の軍服に身を包んだガイは廊下をひた走る、目指すはミスマル総司令とホシノ少佐の囚われている貴賓室。 「……おかしいですね」 『どうしたんですか、大尉?』 ガイの後を追いかけてくるコミュニケ画面のハーリーが心配そうに尋ねる。ルリの安否が気になってしょうがないらしい。 「いえね、さっきから基地内を走り回っているのに誰ともすれ違わないのは妙だと思いまして」 『うーん、前回の叛乱でボク達がすぐに潰しちゃったから思うように人が集まらなかったとか』 確かにハーリーの言う通り、単純に『火星の後継者』自体が崖ッぷちで人員が不足しているという可能性は有るだろうし、人数が少ないのは間違い無いだろう。 しかし幾らなんでも誰もいないのはおかしい。人手不足にも程が有る。 「ハーリー君、念のためナデシコを月に向けて発進してください」 『ええ!? でもさっきは罠の危険性があるから近寄るなって……』 「戦闘宙域までこなくてもいいんです。万が一の為にすぐにナデシコに逃げ込めるように。保険ですよ、保険」 しばし悩むハーリー。しかし、結局はこの人の良さそうな笑顔を浮かべる大尉を信頼する事にした。 『……判りました。今からそちらに向かいます。ついでににコレ以上の通信は敵に見つかっちゃう危険が高いから切りますね』 「うん、総司令やホシノ少佐の救出は任せといて」 まるで「今日の晩御飯は任せといて」と子供が言うような気安さだが不思議と説得力があった。 盛大な轟音を立ててブラックサレナが基地内部に突っ込む。 アサルトピットが開き、アキトは周囲を見まわした。 「とりあえず侵入は成功、か。だが……」 アレだけ派手に突入して誰も来ないとはどういう事か。 さすがにどこかの少年のように『人手不足』の一言で片付ける気は無いが、さりとて他の理由も思い当たらないのもまた事実。 「まあいい、罠なら罠で乗ってやろう」 唇の端を吊り上げてアキトは走り出した、目指すは貴賓室。 そこに囚われているであろうホシノ・ルリを救出してしまえば『火星の後継者』の計画はご破算、再決起表明から半日とたたず今度こそ根こそぎ潰すことができる。 今、アキトを突き動かしているのは暗い情念、復讐の炎だ。 結果的にルリを助けることになるのも彼女が大事だからではなく、彼女の救出が火星の後継者を潰す事に繋がっているのに他ならない。 「……?」 足音が聞こえる。 著しく五感の減退した自分にも聞こえると言うことは相当な慌しく走っているのか。 廊下の角から覗きこむと火星の後継者の軍服に身を包んだ青年が一人。 青年はエレベーターに乗ろうとしているらしく、『△』のボタンを押して扉の前で待っている。 青年は肩からサブマシンガンをさげ、周囲には誰も居なく一人のようだ。 (……少し、情報を聞き出してみるか) そう決断してからのアキトの行動は迅速である。 一瞬で無防備な背中に接近、左腕の間接を極めつつ青年をドアに叩きつける。 開いた右腕でガチャリ、と撃鉄をあげる音を響かせて黒塗りリボルバーを相手の後頭部に当てる。 「抵抗しなければ殺しはしない。少々教えて欲しい事がある」 |
「さてと、そろそろ頃合だ。行くとしよう」 ウィンドウに映ったルリを見据えながら南雲は腰を上げた。 『行く? この統合軍の包囲網を突破する気かね?』 そんな事はできるわけが無い、とばかりにコウイチロウ呟く。 「ご心配痛み入るよミスマル総司令。だが月基地を占拠した時点でこうなるのは目に見えていたし、当然ここから移動する方法も確保してある」 南雲の顔に負け惜しみの色は見られない、淡々と事実を告げているような態度。 『と、言う事は私達も一緒に誘拐されてしまうんでしょうか?』 のんきささえ感じられるルリの口調。 「いやいや、我々がココを占拠したのはナデシコCの確保と地球への宣戦布告のため。お二人を連れていく理由は無い」 『……草壁さんの釈放交渉に使うつもりだったんじゃないんですか?』 「ホシノ少佐自身が指摘したとおり、地球側は閣下の釈放に応じまい」 南雲はあっさりとルリの言葉を否定した。 「確かに、ホシノ少佐。貴方を生かしておくと後々の作戦の邪魔になる可能性が高いが、戦艦を奪われた少佐はただの少女にすぎんよ。一方的に殺すには忍びない。それに――」 『それに?』 「戦ってみたいのだよ、一人の武人としてな。草壁閣下を破ったナデシコの艦長の貴方とね」 『雪辱、ですか。元木連の軍人さんらしいといえばらしいですが。……その考え、後悔しますよ?』 「是非とも後悔させて頂きたいものだな」 南雲が不敵に笑うとそのまま通信を切り、部下へ指示をだす。 「よし、作戦は第二段階へと移行する。準備の程は?」 「神宮寺と六人衆は既に地下の跳躍施設で待機しております」 「それ以外の人員はすべて移動を完了。あとは傀儡さえ帰還すればすぐにでも発進可能です」 「よし、予定通り罠の発動を急げよ。我々はこの後、ターミナルコロニー『コトシロ』を使い火星極冠遺跡の占拠へ向かう!」 「了解!」 |
ガイは思案に暮れていた。いくらここまで誰にも会わなかったからといって流石にエレベーターで貴賓室のある階まで行くのは不用意すぎるだろう。 とりあえずセオリー通りエレベーターを無人のまま行かせ、自分は階段で昇るか……、などと考えを纏めた所で突然襲われた。 背後からの襲撃者は手練らしく一瞬で左腕の間接を取られそのままエレベーターのドアに押しつけれる。 「抵抗しなければ殺しはしない。少々教えて欲しい事がある」 男の声は低く、抑揚が無い。エレベーターはゆっくりと下降している。現在6階。 「銃を頭に突きつけながらとは道を尋ねるにしては随分乱暴ですねー」 左腕をギリギリと捻られながらもいつもの調子で喋るガイ。今4階を通過した。 「優秀なナビが居るので道案内の必要無い。聞きたいの貴様等自身のことさ」 左腕を限界まで捻る。あと少し力いれるだけで簡単に折れるだろう。ドアの上にあるエレベーターの位置を示すランプは「2」の部分が光っている。 「私達、と言いますと『火星の後継者』の事ですか? それなら……」 ピンポーンとエレベーターの到着を知らせる電子音が鳴り、同時にガイが押さえつけられていたドアが開いた。 「私に聞いても無駄ですよ!」 前方に空間が出来た事により間接技が緩む。その隙を逃さずガイは空中で前転し技を外すと同時に背後の相手の顔を蹴り上げる! カラン、と軽い音が響きバイザーが落ちる。ガイの蹴りは僅かに浅く、相手の顔を掠っただけだ。 「チィ!」 「クッ!」 ガイが素早く振り向きざまに腰の銃を抜き、蹴りを避けた襲撃者も銃を構えて間合いを詰める! 「動けば殺す、大人しくしろ!」 「落ち着いて! 私は宇宙軍の人間です、助けにきました!」 互いの銃を互いの頭に突きつけ。 「「え?」」 両者、つまりアキトと火星の後継者に変装したガイは同時に間抜けな声を上げた。 で。 二人はエレベーターに乗っていたりする。 目的地は人質が捕まっているであろう貴賓室。 重苦しい沈黙に耐えかねてガイは口を開いた。 「テンカワ・アキトさん、ですよね? コロニー連続襲撃事件、ならびに火星の後継者による叛乱事件の重要参考人の」 「……だとしたらどうする? この場で捕まえるか?」 殺気を滲ませるアキトの言動も通じてないのか気づかないほど鈍いのか、いつもの調子で話すガイ。 「いいえ、貴方を逮捕しては総司令達の救出に支障がでます。取り敢えず、この場は協力……してくれますよね?」 「仲良くするつもりは無いが、貴様が敵対しないなら俺も自分から貴様に危害は加えん」 「ええ、それで充分です。自己紹介がまだでしたね、私は――」 「自己紹介などいらん」 あっさり言い切られてちょっと傷つくガイ。 「殺し合いする可能性がある人間の名前は聞かない主義なだけだ、スマンな」 薄く苦笑するアキト。 「……それはそうとお前は何か武道の心得でもあるのか?」 突然の話題の転換に驚きつつも答えるガイ。 「いえ、特には。仕官学校時代に軍式格闘技の授業も有りましたけど私、成績が悪くって、それがどうしたんですか?」 「いや、何でも無い。忘れてくれ」 「?」マークを浮かべているガイは無視してアキトは考える。 自分の使う格闘技、木連式柔だが、アレの逆技(間接技)を何の心得も無い人間が外せるとは到底思えない、というかあり得ない。 間接技を外すというのは相手のパンチを避けるの訳が違う。必要なのはカンや力ではなく、知識と場数だ。素人が偶然で外せるような物では無い。 だが、目の前の青年にウソを吐いている気配は無いし、ウソを吐く理由も無い。 まあ確かに無我夢中で偶然外せてしまう可能性はゼロではない、たまたまその何千分の一が今だった、というだけの話だ。 ピンポーン、とアキトの思考を中断するように音が鳴る。エレベーターのランプが示す数字は「7」、貴賓室のある階だ。 「……お喋りは終わりだ、遅れればすぐに見捨てるぞ」 無言で頷いて二人は廊下にでた。 二人は慎重に廊下を進む、が敵の影は愚か人っ子一人見当たらない。 「人が居る気配が全くないですね、何処かに潜んでいるんでしょうか?」 「いや、こいつは潜むというよりもぬけの空だな」 確かにラピスに探らせた時、このフロアに火星の後継者の姿が無い事は確認している、だからこそエレベーターでのこのこと上がってきたのだ。 だがやはり、人質が居る階に見張りすらいないというのは妙過ぎる。 何らかの罠の可能性も考えたが相手はたった二人、数で押せば貴賓室に近づく事さえままならないのに、ワザワザ手の込んだ仕掛けをするとも考えにくい。 怪しい、怪しすぎる。 何か意図する所があるのは確実なくせに何をしたいのか全く判らない。 「……悪いがここで別れよう、俺は南雲義政を追う。貴様はホシノ少佐達を連れてすぐに離脱しろ。何か起こる」 「何か、ですか?」 「ああ、さっぱり確証は無い。だが、何かを狙っているのは間違いない。それに――」 あの男からの通信。幻影なのか、生きているのか。少なくともそれだけは確かめておかねばなるまい。 「それに?」 「いや、なんでもない。俺はいざとなればジャンプで脱出できる、お前等は早く立ち去ったほうがいい」 そう言うとアキトはすぐさま来た道を戻ろうとする。 「――テンカワさん!」 「……なんだ、やはり逮捕する気にでもなったか?」 「貴方はホシノ少佐の旧知の仲、なんですよね。会わなくて良いんですか?」 アキトは一瞬だけ寂しそうに微笑み。 「大きなお世話だ」 黒い背中を見せて走り出していった。 「ラピス、ハッキング要請。現在の南雲の位置を頼む」 『了解……見つけた。今はエレベーターで地下に降りてる。地下ドックから艦を出して逃げるつもりみたい』 「追いつけるか?」 『ダッシュで走れば。そもそも出撃したってこの統合軍の包囲を抜けれるワケないと思う』 「あいつらが何を考えていようが興味は無い。どんな策を弄しようと頭を押さえれば無意味だ」 黒の王子はひた走る。 自らの復讐を完遂する為に。 |
「あ〜かんちょ〜ご無事でいてくださいね〜」 ハーリーが落ち着き無くブリッジをウロウロしていた。 「ったく、ちったぁ落ち着けよ。……腰に箒でも括りつけとくか?」 「え! そんな安全祈願のおまじないでもあるんですか!」 さっそく実行しようとするハーリーにサブロウタが呆れながら答えた。 「そんなにウロウロしてるなら箒つけときゃ床が綺麗になるなって意味だ、男だったらデーンと構えてろよ」 皮肉も通じないのかよ、と呟きながら副長席で大きく伸びをするサブロウタ。 「サブロウタさんは艦長が心配じゃないんですか!?」 「そりゃ心配だが、今は大尉に任せたんだし。俺達に出来る事はなんにもねーよ」 「そうですけど、冷た過ぎるんじゃないですか?」 サブロウタはハーリーの方に向き直り、少しだけ真面目な顔を作る。 「いいか、ハーリー。そんな気を張り詰めていたらとっさの対応が遅れちまう。大事なのは切り換えの速さと手を抜く所と入れる所の区別さ……っと噂をすればなんとやら」 コンソロールに触れるとブリッジにウィンドウが大きく表示される。 『ナデシコ、聞こえますか? こちらガイです!』 『ハーリー君、急いで防御障壁展開して!』 「あ、艦長! 良かったご無事だったんですね」 ウィンドウに映ったガイとルリの姿に胸を撫で下ろすハーリー、しかしルリの様子は助けられた人間の物では無い。 それに気がついたサブロウタは即座に身を起こす。 「艦長、どうしたんすか! 何かあったんですか?」 『説明してる時間はありません、サブロウタさん! すぐさまナデシコは反転して最大戦速で月から離脱を……』 ノイズと共に通信が切られる 「艦長、艦長! オモイカネ、どうなってるんだ!?」 《原因不明。通信機系に何らかのトラブルが生じた模様》 「どーなってるんでしょう、サブロウタさん?」 不安そうなハーリー、だがそれは彼自身が聞きたい事だろう。 「取り敢えず大尉が一緒だったって事は救出されたんだろうが……」 (脱出に失敗したのか? いや、それなら救援要請こそすれど月から離れろとは言わないだろう。じゃあ何が?) サブロウタの思考を遮るようにオペレーター席のサクラ准尉(20代前半、メガネッ娘)が叫んだ。 「副長、通信機系に反応。なにか来ます!」 次の瞬間、ナデシコBは『それ』に襲われた。 |
金属パイプが剥き出しの廊下、そこの両端に二者は対峙していた。 「南雲義政だな?」 アキトは部下を伴った首領と思わしき男に銃を向ける。両者の距離は約13メートル、動いていない的ならともかく、乱戦になると射線を部下に封じられて盾にされ、逃げる時間を与えてしまう。一撃で仕留めるしかない。 「こうして直接会うのは初めてだったな? 復讐人、テンカワ・アキトよ」 しかし当の南雲は銃を向けられているというのに平然としている。アキトに突っ込もうとする部下も手で制して止めている。 「余裕だな。懺悔でもする気になったか?」 「いやいやこの南雲、生憎とまだ貴様に殺されてやるわけにはいかんよ」 「死ぬ前に一つだけ質問に答えて貰う。俺に見せた『アレ』はなんだ?」 アキトの銃に殺気がこもる。しかし南雲は意に介した風も無く答える。 「アレ、とは何のことかね? さっぱり解らないな」 「とぼけるな、俺の機体に送ったあの悪趣味な通信だ!」 「答える義理は無い、と言いたい所だが復讐人、お前には知る権利があるな。……貴様が見たアレはな、『亡霊』だよ」 「馬鹿な、アイツは確かに俺が火星で……!」 「死体は確認したのかね?」 「なんだと?」 アキトの表情の変化を見て満足そうに笑う南雲。 「死んだはずの者が生きていて、行きた人間を殺すことによって存在を消す。ネルガルの専売特許ではないよ、なあ?」 虚空に向かって呼びかけるとウィンドウが開いた。 『そういうことだ、テンカワ・アキト。これで我等はお互いに一度死んだ身になった、というわけだ』 「!!」 ウィンドウに映るその顔、見間違うはずも無い。例え自分の顔を忘れても奴の顔だけは覚えていられる自信がある。 「……!」 呆然とその名を紡ぐ、いや紡ごうとしたが声が出ない。 心臓が握られたかのような錯覚を覚える。 手足が震えて銃が持てなくなる。 そんな馬鹿な。間違い無くアイツは火星で倒した筈なのに。 なぜそこで平然と会話しているのだ? アキトの全身から力が抜け、床に膝をつく。 南雲はそんなアキトに興味を無くしたらしくウィンドウへと向き直る。 「で、どうだ、準備のほどは十全か?」 『ああ、問題無い。予定通り今から始める、本隊は直ちに火星を目指せ』 「よろしい。ではな、復讐人。お相手したいのは山々だが時間が無い。それに今の貴様では殺す価値すらないな」 そう言い残すと南雲は背を向けて艦へと乗りこんだ。 「いいのかい、彼を放っておいて?」 艦の入り口には白衣を着た男が待ち構えて居た。 「ヤマサキ博士か……そちらの方はどうなっている?」 「地球への跳躍準備は終了してるよ、後はココからでも操作できる、それよりもホントにほっとくのかい?」 「これ以上モルモットが必要か?」 鋭い眼光でヤマサキを睨みつける南雲、睨まれているヤマサキ本人はニヤニヤと人を食ったような笑みを浮かべるだけだ。 「例の『種子』への適応体という意味合いではカザマ君がこっちにいるだけで充分だからねぇ。私的な研究材料という意味でもテンカワ君は弄り過ぎたからね、興味は無いな」 「ならばとやかく口出ししないで頂こうか」 「いやいや、私はいい。だが、あのお嬢さんはいろいろ煩いと思ってね」 「それこそいらん心配だ。ヤツラは技術と資金提供、そして我等は直接戦う。共闘関係であって、スポンサーではない、多少の文句は聞き流せばよかろう」 不機嫌な表情で答える南雲。どうやらその人物たちは話題に出すのも嫌なのだろう。 「くだらんお喋りはそれまでだ。閣下の御迎えに失敗するわけにはいかん。持ち場につけ」 「はいはい、判ってますよ南雲中佐。今からデータも採取して実用化しなくちゃいけないしね」 軽薄な笑みを浮かべたままヤマサキは奥へ消えていった。 「ふん……相変わらず腹の底が読めん奴だ。各員、最終チェック急げよ。罠の発動後本艦は月から離脱する。目的地は火星、『イワト』だ!」 「了解!」 南雲の号令が響いた。 |
停めておいたエステバリスに乗りこむガイ。 「さあ、二人とも早く乗ってください」 「しかし、なんと言うかこれは……」 「ド派手、ですね」 コウイチロウの言葉にルリが続いた。 アキトと別れた後、貴賓室の鍵を壊して捕まっていた二人を救出しここまで来たのだ。 もちろんその間に誰にも遭遇していない。 というか誰も居ないのだ。他に囚われていた宇宙軍の人達も解放したものの、それらも部屋に閉じ込められているだけで見張りの一人すら居なかった。 とりあえず彼等は一室に纏まって隠れて貰ってもっとも人質として価値が高いであろう、コウイチロウとルリを連れ出して今に至る。 「まあ、大尉のカラーリングに対するセンスの追求は後回しにして今はナデシコに合流しましょう」 そう言いつつコウイチロウとルリはそれぞれシートの左右へ立つ。 「それじゃ、お二人ともしっかり掴まって……行きますよ!」 金色のエステバリスは地上目指して走り出した。 帰還しようとしていた白いエステバリスの動きが止まる。 『どうしたのかね、カザマ君』 異変に気がついたヤマサキが通信を開く。 だがエステのパイロットは意に介さない 「……やはり来ている」 『何がかね?』 「始めはテンカワ・アキトと誤認したとばかり思っていたが間違い無い、あの人だ」 『おーい、カザマ君?』 「ごめんなさい、ヤマサキ博士。私はここで一度降ろさせて頂きます」 そう言うや否や、突如機体は反転。月面基地に背を向け再び戦場へと走る白いエステバリス。 モニターにはちょうど地下から上がってきた金色のエステバリスが。 ガイは周囲を確認する。 「まだ戦闘は続いてるみたいですね。ダイゴウジ大尉、今の内にとっとと逃げちゃいましょう」 「了解、ホシノ少佐」 既に月面での戦闘は勝敗が決まりつつあった。 積尸気やステルンクーゲルといった有人機の姿は既に無く、火星の後継者側の戦力はバッタやカトンボなどの無人機しかいない。 統合軍がこれらを殲滅するのも時間の問題だろう。 「では行きましょう、提督、少佐。ちょっとスピードだし……」 《レーダーに反応。敵機急接近!》 ガイの言葉を遮って警告音と共にウィンドウが開かれる。 回避運動に移る時間すらなく、ガイのエステは横からの衝撃に弾き飛ばされた。 「なんとっ!」 とっさの姿勢制御でなんとか機体が倒れるのを免れる。 目前には先程ブラックサレナと戦闘を繰り広げていた白いエステの姿が。 「ただで逃がしてくれるつもりはないって所ですかね」 互いにイミディエッドナイフを抜いて対峙する2体のエステバリス。 両者の緊張がピークに達した時、それは来た。 《システム不全》 《エラーが発生しました。強制終了します》 《機体制御OSに異常発生、危険です》 次々と新たなウィンドウが出現して眼前が埋め尽くされる。 「ダイゴウジ君、どうなっているんだ!?」 「解りません、突然OSがバグりだして……」 慌てるガイとコウイチロウを尻目にルリは次々と出現するウィンドウを見る。 強制的な外部操作? 通信機系から侵入して瞬間的に機体の制御権を奪う。 この手法、自分が一月前に実践してみせたものではないか。 「機体がハッキングされてる……?」 ルリは目前を埋め尽くす邪魔なウィンドウを払いのけ、外部映像を見る。 外に見える統合軍の機体、その全てが停止している かつて自分がやった時はここまで。ここまでは同じだ。 だが、圧倒的な戦力差があるのなら、一体この先どういう手段をとるのが有効か。 ルリはひとつの結論に行きついた。 「大尉、機体の制御を此方に回してください! ナデシコは今どこにいますか?」 「えっと、多分こっちに向かってる最中だと思うんですが……」 猛烈な勢いで機体のプログラムを弄りながらガイに指示を出す。 「急いで通信を開いて下さい」 「どうしたんだね、ルリ君」 「火星の後継者によって、月面全体がシステム掌握されます!」 「なんだとッ!?」 火星の後継者が仕掛けた罠。 それは想像されうる手法の中で最悪の手段であった。 周囲の停止した機体が同時に再起動する。 彼等の機体に入力されたコマンドはただひとつ。 《周囲の動く物体全てを破壊しろ》 始まる。 凄惨な戦いが。 もはや戦場に敵味方の区別など無く。 一体の動きに反応して新たな一体が動けば、今度はその機体に数十機からの攻撃が殺到する。 そこにあるのは秩序ある戦闘ではなく。 無秩序な共食いであった。 |
会場は水を打ったように静かだった。 ウィンドウに映る光景に言葉を失っている。 無理もない、統合軍の艦隊が突如同士討ちを始めたのだ。 『これが我々の切り札のひとつだよ。新地球連合の諸君』 呆然とする高官達を見て満足そうにささやく。 「い、いったい何をしたんだ!?」 『なに、前回の叛乱での鎮圧のされ方は我々としても面白くなくてね、その教訓を生かしてみたのさ。どうするかね、草壁閣下を解放して頂けるならば止めさせるが』 「馬鹿を言うな!」 「そうだ、我々はテロには屈指無い!」 興奮から声を荒げる議員たち。南雲はそんな彼等を嘲るように見る。 『前線の兵の命は捨てるつもりかね……まあ、諸君のこの反応は予定通りだ。おかげで無用な被害が増えるだけだがね』 「なんだと?」 「会議中失礼します!」 血相を変えてスーツ姿の男が会議場に入ってくる。 「一体なんだ!」 「ハッ、宇宙軍からの連絡で草壁春樹が拘留されている牢が襲撃を受けているとの事です!」 「な、なぜもっと早く報告せんのか!」 「ハッ! その、報告によりますと襲撃者は牢の内部に突然出現したようです!」 議長の顔が青ざめていく。 「そんな、まさか……」 『ご想像の通りだよ、議長殿。既に閣下の身柄は我等の方で自主的にお迎えに上がらせて頂いた。では、目的を果たしたので、ここらで失礼させて貰おう』 「ま、待て! 月面から逃げ出せると思っているのか!」 『ご心配重ね重ね痛み入るがね、この惨状で我らを阻める者はおらんよ。言うまでも無いが増援は無用な被害が増やすだけなので止めておいた方がいい』 一方的に通信は切られた。 |
宇宙軍の管理下にある施設のひとつ、そこに草壁春樹は囚われていた。 厳重な警戒の中、独房で一人座禅を組んでいる。 何かを察知したのか、ピクリと片目を開く。 部屋の片隅に光が集中し、七つの人影が出現する。その内の六人は編み笠に外套を纏った北辰六人衆、しかし真ん中に居るのは北辰では無い。 真ん中の男が膝を着き、頭を下げたまま静かに口を開いた。 「草壁閣下、お迎えにあがりました」 六人衆の一人から火星の後継者の軍服を受け取り、草壁は静かに立ちあがる。 「……うむ、状況はどうなっている?」 「作戦は第二段階へ移行、本隊は火星極冠遺跡を目指し進行中です」 「『種子』の捜索は?」 「現在もアステロイドベルトを捜索中ですが芳しくはありません」 「ふむ、フレサンジュ博士の身柄はどうなっている?」 「現在は極冠遺跡で調査隊を率いています。確保は容易かと」 「よかろう。で、これから私はどうすればよい?」 「クリムゾンの用意した新型艦で宇宙へ上がって頂き、そのまま南雲中佐の本隊と合流を」 草壁の異変に気がついた警備の人間がドアの隙間から覗きこむ。 「おい! 何を喋って……侵入者だと? 大変だ――」 仲間に警告を発する間もなく、投げられた小太刀が彼の頭を貫いた。 「……神宮寺、どうする?」 「知れた事、我等暗部の成す事は一つ」 六人衆と神宮寺と呼ばれた男が立ち上がる。 「「「「「「「全ては新たなる秩序の為に!」」」」」」」 本来、人を捕らえる為の牢である刑務所。 今この瞬間、中にいる人間を逃がさないための地獄と化す。 |
『艦長、どうしたんすか! 何かあったんですか?』 「説明してる時間はありません、サブロウタさん! すぐさまナデシコは反転して最大戦速で月から離脱を始めてください。私達は自力で脱出しますから……もしもし!?」 《通信が切断されました》 「ジャミングされているのかね?」 「いえ、これは通信機系から侵入されて回線がパンクしてますね」 コウイチロウの問いに応えながらもルリは超高速でプロテクトを構築していく。 《システム閉鎖。OSを再起動します》 「終了です。これでこの機体は完全なスタンドアローンになりますが暫くは持つ――」 ガイ機がハッキングを免れた事を察知したのか、周囲の機体が一斉に襲いかかってくる。 四方八方からの射撃、回避は不可能だ。 「ディストーション・アーム作動!」 《D・アームLR同時起動。オーバーヒートまでカウント90秒》 両腕を左右に突き出し、強力なフィールドで耐えるガイのエステ。 「くそ、統合軍の機体だから迂闊に攻撃できない……!」 「大尉、体当たりで抜けちゃいましょう。こーゆー場合、手段を選ぶ余裕はありません」 強力なフィールドに物を言わせ、周囲のステルンクーゲルを蹴散らしていく。 しかしそれを追従するひとつの機体の影が。 「さっきのエステ!」 襲いかかる白いエステバリスのナイフを左腕に集中されたフィールドで受け止める。 ギリギリと互いの力が拮抗し、両者は空中で停止する。 周囲のステルンクーゲルには格好の的であり、システム掌握された彼等には敵味方など関係無い。 レールガンの銃口が一斉に2体のエステバリスへと向けられる。 やられる、コクピットの3人がそう思った瞬間、白いエステバリスの姿が消滅した。 一瞬の空白の後、包囲網の外に出現した白いエステはナイフ一本で次々とステルンクーゲルを破壊していく。 まるで戦いを邪魔されたことに怒っているようにも見える。 「白いエステバリス……ボソンジャンプ……」 呆然と呟くルリの脳裏に一人の姿が浮かぶ。 白いエステバリスに乗り。 一対多数の戦いにも怯むことなく。 単独でボソンジャンプできるという人物。 自分はそれに該当する人間を一人知っているでは無いか。 始めに思い出すのは笑顔。 人の良さが滲み出るような優しく暖かい笑顔。 だが、彼は私を選びはしなかった。 私を守りこそすれど、彼は自らが殺した彼女と朽ちる事を選び―― 超絶的な技量を持ってしても、数の差はいかんともしがたいらしく、遂に白いエステの足が止まる。 止まってしまえば最早成す術は無い。最初に左足、次は頭部を、既に回避する事もままならず、集中砲火を浴びる。 「ダイゴウジ大尉、あの白いエステバリスを助けてください!」 「しかし、ルリ君。ここは同士討ちしている隙に離脱するべきでは……」 「お願いです、『あの人』が、アレにはきっと『あの人』が乗って――」 ルリの悲痛な叫びをガイは聞き遂げた。 「ま、なんとかしましょう少佐。助けられたのは事実ですし、火星の後継者の情報は少しでも欲しい。捕虜としても価値は有ります」 言うや否や、全速で機体をステルンクーゲルの中心へ突っ込ませる。 右腕で弾丸を弾き、すれ違いざまに左腕で白いエステ――既に大破寸前でアサルトピットしか形を残していないが――を掻っ攫う。 システム掌握された統合軍機は複雑な命令をこなす事は出来ないらしく、エステを追おうともせずに同士討ちを再開する。 こうして、ガイ達は月から逃げ出した。 |
「それじゃ、開けますよ艦長?」 アサルトピットを前に切断用レーザーカッターを構えたメカニックマンが確認するように尋ねた。 あの後、月から脱出した3人はなんとか月軌道上に居たナデシコBに回収され今に至る。 コウイチロウは地球に連絡を取る為にブリッジに上がったがどうしてもパイロットを確認しておきたいルリが格納庫に残り、ガイもそれに付き合っているのだ。 パイロットは気絶しているらしく、外からこじ開けるためこうして解体しているのだ。 周囲にはアサルトピットをこじ開けるスタッフと万が一ハッチを開けた際に暴れても取り押さえる為の人間が数名、それぞれ銃を構えている。 金属が擦れる時特有の摩擦音を鳴らしながら外側の装甲を削り取り、中の機械類が露出する。 「では、このレバーを引くとハッチが開きます……いいですね?」 「はい、お願いします」 ルリの言葉にその場の人間全員に緊張が走り、銃をアサルトピットへ向ける。 ガコン、と重い音を響かせてハッチが開かれる。 「カイ――」 中にいるであろう青年の名を呼ぼうとしてルリが静止する。 そこにいたのはあの青年ではなく―― 「……おんな……の、こ?」 「の、ようですね。ホシノ少佐」 金髪の美少女だった。 外の明かりが射し込んだ事に気がついたのか2、3度まばたきしつつ少女が起きあがる。 ゴクリ、と息を呑むナデシコBの面々と不安そうに周囲を見渡す金髪少女。 不意に彼女の視線が一箇所に固定される。 その先にいるのはガイ。 「お兄ちゃん、会いたかった!」 突然少女はガイ目掛けて飛びこんだ。 撃つべきか撃たざるべきか迷うクルーの視線が集中するなかで 「……なんで?」 少女に抱きつかれたガイはそれを言うのがやっとだった。 『まっこと申し訳無い、草壁に脱獄されたのは我々の落ち度です』 「いや、ワシも捕まってしまっては人の事は言えんよ。しかし、間違い無いのかね秋山君」 アサルトピットから美少女が出てきた頃、コウイチロウはブリッジで地球と連絡を取っていた。 『現在崩壊した刑務所で救出作業中ですが、見つかる可能性は低いでしょうな。どうも助かった職員の話では突然現れたようで……』 《全チャンネルへの強制通信。発進源の特定は不可能》 二人の間にいきなりウィンドウが出現する。 『統合軍、宇宙軍の諸君。月での戦闘はどうだったかね?』 「火星の後継者!」 「南雲義政、でしたか。お忙しいことですな」 ハーリーとプロスペクターが驚きの声を上げる。 『先程宣戦布告したばかりではあるが、やはり我等の指導者が戻った今、改めて挨拶しておこうと思ってね』 南雲の後ろから一人の人物が歩み出る。 草壁春樹。1ヶ月前に未曾有の叛乱を起こした男。 『月面での戦闘で我々の力は十二分に理解して貰えたと思う、既に我々の戦力は統合軍に相手に一歩も退く事は無い!』 そう、最初から―― 最初から彼等は交渉で草壁を取り戻すつもりなぞなかったのだ。 『今再び、ここに宣言しよう! 堕落した新地球連合に都市遺跡という遺産を継ぐ資格は無い。我々、火星の後継者こそが真に継ぐべき者也!』 今の火星の後継者には統合軍を相手に易々と壊滅に追い込む力があり、ボソンジャンプを自由に使える人材が居ると言うアピール。 始めから地球側に自分達の脅威を知らしめる為のデモンストレーション。 『これは既に叛乱などという生ぬるい物では無い。我々と君達の戦争なのだよ!』 草壁の演説が、いや宣戦布告が高らかに響いた! |
レミア「本っっっっっ当にお待たせしました。レミア・アンダースンです!」 作 者「本っっっっっ当に申し訳無いです作者です」 ル リ「本っっっっっ当に待ちましたホシノ・ルリです」 レミア「前回から11ヶ月よ、あと1ヶ月で一年になっちゃうじゃない。一年で一話ってハ○ター×ハン○ーかっつーのアンタは」 ル リ「なんか微妙に伏字になってませんが……どうせなら荒木飛○彦を見習って欲しいモンですね」 レミア「まあその二つはどっちも待ってる読者がいるけどアンタのは」 ル リ「誰も待って居ないという点では別に幾ら書かなかろうが問題ないですよね」 作 者「ううう、面目次第も御座いません」 ル リ「まったく、風の通り道自体が更新停止してるのを良い事にまったく書かないから……しょうがない人です」 レミア「殊勝過ぎてあんま苛める気もしないわ。ま、アタシは遂に本編に登場したからいいけど。おめでとう私!」 ル リ「そうですよ、なんですかアレ! なんで中身が予想と違うんですか! 詐欺ですか!? 外れですか!?」 レミア「私はチョコエッグ以下の価値なの……?」 作 者「……いいんだ、どうせ私には関係無いんだ」 ル リ「もうとっとと次回予告いきます。月での大敗、それは地球に大きな衝撃を与えるに十分な一撃でした」 レミア「チョコエッグ以下……」 ル リ「しかし、そんなメチャメチャにやられてもへこまないのが私達の良い所というかコリない所というか」 レミア「チョコエッグ……」 ル リ「ナデシコは再び火星を目指す。私達の今までの戦いを無為にしないためにも。次回「戦い済んで『日が暮れて』」を御待ち下さい」 レミア「チョコエッグ……」 作 者「下手に予告するのは墓穴掘ってる気がするよなァ」 《できるだけ早い内に続くと良いなあという願いを込めて》 |
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