最新鋭戦艦のブリッジに一人の少年が居る。 あまりにも戦艦に不釣合いな容姿の少年は報告書をまとめていた。 「……以上がコロニー連続襲撃事件、ならびに火星の後継者による反乱事件の顛末である。戦闘終了後、幽霊ロボットと噂されていた機体と火星の後継者所属の夜天光と呼称される2体の機動兵器の残骸を確認。しかし、パイロットの確認はできず両者共に生死不明である」 音声入力で文章を作成しているさまは、まるで小学生が国語の授業で朗読しているようにも見えるがそれを指摘すると烈火のごとく怒り出すので止めておく。 「幽霊ロボットの残骸は徹底して全てのパーツから製造タグを消しており背後関係の確認は困難。ただし、極秘裏にあれほどの戦艦と機動兵器を作れる企業はおのずと絞られる。これを受けてネルガル重工は会長アカツキ・ナガレ氏自らがコロニー連続襲撃事件の最重要参考人、テンカワ・アキトとの関係を完全に否定」 すらすらと読み上げる様は少年がその年齢に不釣合いな能力を持っている事を思わせる。 「火星の後継者の本拠地からは大量の人体実験や犯罪行為の記録を押収。余罪の追及に今後も慌しくなる物と思われる。首謀者、草壁春樹は逮捕できたものの、一部の幹部クラスの人間が逃亡中との情報もあり、今回のような事件を起こさない為になお一層の警戒を怠らない必要があると思われる。小休止!」 そこまで一息に読み上げてから少年―マキビ・ハリ―はシートの上で大きく伸びをした。 「う〜ん。とりあえず、こんなものかな」 「よ!何してんの?」 「ウワァァァァァァ!!!!」 人もまばらなブリッジにハーリーの悲鳴が響き渡る。 眼前に展開されたウインドウから突然、顔を突き出されたら誰だって驚くだろうが。 「何もそんなに驚くこたぁないだろーが。2回目だし」 キーンと響く耳鳴りにタカスギ・サブロウタは顔をしかめた。 「ウ、ウインドウボールの中に無断で、入らないで下さいって先月も言ったでしょうが!」 「そうだっけ?で、今は合流まで待機だってのに何やってんのさ?」 それならお前自身はじっとしてなくて良いのか、サブロウタ? 「報告書作りですよ。その、このあいだの事件の」 「ほうこくしょお〜?お前、誰にもそんな事を頼まれて無いだろーが」 「下書きですよ!し・た・が・き!艦長はマスコミ対策だとかナデシコCの再調整だとか、あの事件の事後処理に忙殺されて、今日だって月に入りっぱなしなんですから」 「ほほう。そこで他ならぬマキビ少尉が上官の為に草稿をまとめておいたと」 「当ったり前田のクラッカー!言われて言うのもおこがましいですが僕はナデシコBシステムサポーターですよ!僕が艦長を影に日向に支えなくてどーするんですか!」 鼻息荒く詰め寄るハーリー。 確か君は役職上は副官であるサブロウタのサポートが主な任務だった筈なんだが……。 本人はすっかり電子の妖精の右腕のつもりらしい。 「へーへー。お前さんの艦長への愛はひしひしと解ったよ」 「解ったなら部屋へ戻ってください、まだ合流まで時間があります。待機も立派な任務です!」 「いいジャン別に、俺もやる事ないんだよ。事件解決から3週間、台風一過みたいに宇宙は平和そのもの。ハッキリ言ってヒマだぁ〜ねぇ〜」 大きな欠伸をしながらぼやく。全身からいかんともしがたいほどダルイ空気が滲み出ている。 「ようやく面倒くさい事後処理が終わったと思いきや『火星の後継者』残党狩りは統合軍が一手に引き受けちまったし、うちら宇宙軍は艦一隻動かすのも締め付けがキツクなっちまったもんな」 「その説明くさい台詞、誰に向かってしているんですか、サブロウタさん?」 そうなのである。 先の反乱事件、『火星の後継者』よる未曾有の規模の反乱劇は宇宙軍のホシノ・ルリ少佐率いる独立ナデシコ部隊の手によって異例の速さの解決を見る。 しかし、そこでめでたしめでたしと終わらないのが世の中。 統合軍から3割を超える離反者を出した事やクリムゾングループ等反ネルガル企業との癒着もさるものながら一番の衝撃はたったナデシコC一隻でこれを鎮圧して見せた事だ。 とりもなおさず、このことはナデシコ一隻で統合軍全軍を相手取っても戦う事が出切ると証明して見せたのである。 この事実は完全に優位に立っていた統合軍と閉店休業も間近と噂されていた宇宙軍の両軍に微妙な影を落す事になる。 統合軍の信頼は地に落ち、文字道理少数精鋭を体現してみせた宇宙軍に支持が集まり、大量の軍人を保有する統合軍には軍縮の動きが見え始めた。 それらの動きを押さえつけるべく、統合軍は強攻策にでた。 火星の後継者の残党狩りを一手に引き受け、単艦で大軍と渡り合えるナデシコCを保有する宇宙軍を危険とし、戦艦一隻動かすのにも山のような書類と正当な理由付けが必要になったのである。 といってもほとんどイチャモンに近いこの暴挙、統合軍としてはサッサと宇宙軍を廃業に追い込み、火星の後継者残党も全て自分達が逮捕することでヒサゴプランに端を発する背徳行為や汚点を握りつぶしたいという意図が見え隠れどころか丸出しであった。 「まあ、確かに飼い殺されているのには同意しますし、僕達の仕事は奪われっぱなしでヒマなのも事実です。だからって人をからかって遊ぶ事はないでしょう?」 「もーハーリー君ったら連れないんだから、やっぱ愛しの艦長が不在でイライラしてるのかなぁ?」 「ななななな、何を言い出すんですか!」 この露骨な反応こそ、この少年のからかわれ易い最大の理由であった。 幸か不幸かそれを指摘してやる人間はこの艦には居なかったが。 月軌道上を静かに航海するナデシコB。 この時地球は平和だった。まだ、この時までは。 |
「くしゅん!」 可愛らしいクシャミが貴賓室の中に響き渡った。 「おやおや、風邪かい?ルリ君」 「いえ、そう言う訳では……。どうぞ、お話を続けてください」 「そうかい?連日の激務で疲れが溜まっているのかもしれないね。それとも誰か噂してるのかな?」 「非科学的です」 目の前に座るアカツキの軽口をさっくり切り捨てると、横に座ったミスマル・コウイチロウが口を開いた。 「オホン!話をまとめるとだね、今回の訓練航行はネルガルの協力を得て実施されるということだ」 「いやぁ、先の反乱鎮圧でウチに再び注文が殺到すると踏んでたんだけど、逆にすっかり閑古鳥。ますます統合軍から嫌われちゃってねぇ」 全然堪えていない口調でアカツキが説明する。 「それでネルガルさんがスポンサーですか」 「そーゆーこと。ウチとしてもアルストロメリアを始めとする新型機の実戦テストやナデシコCの運用を踏まえたもう一歩ツッコンだワンマンオペレーションのデータが欲しくてね」 確かに手広くやっているとはいえネルガルのメインは軍事産業である。おかしくは無い。 しかし、この時期に訓練航行とはあまりにも不自然過ぎる。 「お二人とも、何か隠してません?」 「アッハッハッ!さすがに鋭いねぇルリ君」 愉快に笑うアカツキに対して苦々しげにコウイチロウがぼやく。 「知っての通り、戦艦一隻動かすのにも山のような書類が必要なのが現状だからね。今回ナデシコBを動かすだけで相当な骨を折ってねぇ」 「ま、宇宙軍が健在だというポーズ。もしくは統合軍に対する嫌がらせだと思ってくれれば差し支えないよ」 「じゃあ今回ナデシコに来る候補生さんはただのお飾りなんですか?」 彼女の言葉に慌てるコウイチロウ。 「いやいや、彼自身は軍大学で非常に優秀な成績でね。ヨソに引き抜かれる前に形にしてしまいたいというのも確かに有る」 「要するに一石で二鳥も三鳥もお得ということだね。この場合は一隻ニ鳥かな」 「活字でしか解らない上にあまり面白くありません」 「そりゃ手厳しい。……さて、そろそろ僕は失礼させてもらうよ。このまま地球にとんぼ返りさ、貧乏ヒマ無しってことでね」 オーバーに肩をすくめた後、ゆっくりと立ちあがる。 ドアに手をかけた瞬間、ルリは彼を見ずに口を開いた。 「……あの人は、アキトさんは。今、何処にいるんですか?」 途端に部屋の空気が重くなる。 「さぁねぇ?僕等も反乱事件以来手を尽くして探してるんだけどコレがサッパリ」 「本当、ですか?」 「モチロン。君や艦長……もとい、ユリカ君の怒りを買ってまで男の友情を守るほど浪花節には出来てはいないよ、僕は」 場の重さに気づいているのかいないのか、大げさにおどけてみせる。 「……そうですか」 彼女の口から搾り出された言葉はそれだけだった。 バスンと、大きな音を立ててルリはベッドに身を預ける。 あてがわれた自室で呆然と天井を見上げていた。 あの人は今何処に居て何を思っているのだろうか。 ホシノ・ルリの心は今も尚、一人の男性に囚われたまま。 その男はテンカワ・アキトと呼ばれていた。 夢も希望も家族も。 あらゆる幸せを理不尽な暴力によって奪われた男性。 彼は今も復讐の炎に身を焦がしているのか。 それを、自分には知る術が無い。 ルリは泣いていた。 声も上げず、ただ静かに。 今はまだ良い。彼を思って涙を流す事が出来るのならば。 テンカワ・アキトという存在が自分の中で風化してしまう事。 それが今のルリにとって最も恐ろしいことであった。 その涙を拭ってやれる人間は今、何処に? 何気無く視線を窓にやると丁度、アカツキを乗せた専用機が飛び立つ所であった。 滑走路を滑るように走り、地球を真正面に据えて離陸する。 次の瞬間、専用機が何の前触れも無く爆発した。 「!!」 目の前で起きた信じられない事態に跳ね起きるルリ。 警報が建物全体に鳴り響き、廊下を慌しく駆け回る幾人もの足音が伝わる。 その足音も銃声により次々と沈黙させられる。 (敵襲?そんな、一体誰が?) パニックを引き起こしかける頭を無理矢理冷静に引き戻す。 廊下からは複数の男の声が聞こえる。 ドアを蹴破りこの部屋に雪崩れ込んでくる武装した兵士達。 彼等の服装には見覚えがあった。 「火星の後継者……」 「いかにも。そちらはホシノ・ルリ少佐だな?」 ルリの言葉に答える様に兵士達の間から一人の屈強な木連人が前に出た。 リーダー格とおぼしき彼は銃口を向けたまま話しかけてくる。 「我が名は南雲義政。先の戦いでの借り、返させて頂く」 地球はまだ平和であった。そう、今この瞬間までは。 |
貸し切り状態のシャトルの中、一人青年が爆睡していた。 黒髪を短く整えた典型的な日本人の外見を持つ青年は宇宙軍士官の制服に身を包んでいる。 柔和な雰囲気の青年には軍服はお世辞にも似合っているとは言い難い。 「もしもし?」 中年男性が青年を起こそうと肩をゆする。 「ん〜?あれ、貴方は?」 軍人とは思えない覇気の無さで反応する青年。 だらしない青年の態度も気にせず、丁寧に挨拶する。 「初めまして、私ネルガル重工会計監察官プロスペクターと申します」 「ぷろすぺくた〜?変わったお名前ですね」 寝ぼけた頭をさすりながら手渡された名刺を見る。 「いえいえ、ハンドルネームみたいなものでして。今回スポンサーであるネルガル重工からの派遣社員と思って頂ければ結構です」 「はぁ……」 「あなたが今回の訓練航行でナデシコに乗船する方ですね?」 そこまで言われてようやく目が覚めたのか突然立ちあがり敬礼してみせる。 「ハッ!今回ナデシコに艦長候補生として乗り込む事になりました、ダイゴウジ・ガイです!」 「ハハハッ。まあ、正式なご挨拶はナデシコに着艦してからゆっくりという事で……おや?」 ネルガルの人間だろうか、黒服サングラスといったあまりお近づきになりたくない人種がプロスペクターに耳打ちしてくる。 「ミスター、ナデシコBからの救難信号をキャッチ。何者かに襲われている模様です」 「なんですと!?……それは穏やかではありませんな」 「ええ〜!!!」 落ち着き払ったプロスペクターと慌てまくるガイの対照的な声が響いた。 |
現在ナデシコは突然現れた機動兵器の集団にタコ殴りにされていた。 「サブロウタさん!どうしましょ〜」 突然の事態に既に半泣きのハーリー。 格納庫でパイロットスーツに着替えたサブロウタはウインドウに向かってあやすように答えた。 「どうするった……ま、迎撃するしかないでしょ?しかし、敵さんは一体何処から湧いて来たんだ?」 《第一波を食らう直前にボース粒子を検知。本艦を中心に半径数百キロメートル圏内に活動中のチューリップが存在しない事から単体の長距離ボソンジャンプだと推測されます》 彼の質問にオモイカネが的確に説明した。 「それじゃ、外の数十機に及ぶ機動兵器全部にA級ジャンパーが乗ってるとでも言うのか?んなバカな」 《データ不足により解答不能》 「現に襲われてるんだから早く迎撃してくださいよ〜!」 ハーリーの泣きは半泣きから本泣きへと移行しつつある。 「ま、この戦力差じゃどうしようも出来ないが、助けが来るまでは粘ってやるよ」 《グッドラック》 ナデシコB艦唯一の艦載機、サブロウタのスーパーエステバリスが発進した。 「とは言ったものの多勢に無勢。このさい統合軍でも良いから早く来てくれよ……」 普段の余裕有る表情では無く真剣な面持ちなって呟くサブロウタに現実は何処までも冷淡だった。 《30分以内に救援に来れる可能性が有る軍艦は両軍ともに無し。唯一、宇宙軍保有のシャトルが一隻こちらに向かっています》 「今日は厄日だな……」 《全く同感です》 絶体絶命のピンチの割に緊張感の無いパイロットと艦載AIであった。 |
船内では黒服の一人とプロスペクターが額を合わせて相談していた。 「通信内容によると突如ジャンプアウトした機動兵器に包囲されている模様です、その数約20機弱。いかがなさいますか、ミスター?」 「いやぁ、困りましたなぁ。軍保有のシャトルと言えど本艦には戦闘用装備は搭載されていませんし。最も近い戦艦は?」 「最大戦速でも戦闘区域に到達するまで2時間はかかります」 「2時間ですと?位置的には月面基地が近いでしょうに」 「宇宙軍月面支部へはこちらからも救難信号をキャッチした旨を伝えようとしましたが相手に繋がりません。……我が社の月ドックも同様です」 「なんですと!?それは穏やかではありませんなぁ、ジャミングの類を掛けられているのかそれとも……」 もっと悪い事態に陥っているのか。 さすがにその言葉は飲み込んだ。まだ決断を下すには早過ぎるし、どのみちナデシコを見捨てておく事も出来はしない。 ひとしきり騒いだ後、ずっと黙っていたガイは静かに口を開いた。 「カーゴスペースハッチを開いてください、シャトルに載せて来た私のエステバリスを使いましょう。私が救援に向かいます」 「本気ですか!お言葉ですがあなた一機が向かったところで……」 「資料によるとナデシコの艦載機はスーパーエステバリスが一機のみ、少なくとも黙って見ていては2時間も持たない事は明白です」 プロスペクターの反論をピシャリと押さえ込む。 「……一機加勢したところで現状を打破できるとは思えません。何か考えがお有りで?」 「ま、エステとハサミは使い様ってことで」 ガイはイタズラを思いついた少年のように笑って見せた。 |
青いスーパーエステバリスは大量の積尸気に囲まれていた。 「積尸気ってことはやっぱり火星の後継者の残党なワケね……」 『ナデシコB艦とマキビ・ハリ少尉を渡せば他の乗員の命は保証してやろう。どうする?』 「なんだと?」 隊長機とおぼしき機体からの通信内容は少々意外だった。 「てっきり『草壁閣下の仇』とばかりに問答無用に襲ってくると思いきやハーリーを渡せってか、何者だ?」 『先程キサマが指摘した通りだよ。ただし、今の軍の規模から『残党』という表現は適切ではないがな』 相手の声に変化は無い。 『サブロータさ〜ん……』 ウインドウから話題の渦中にある少年が弱気な声を上げた。 その表情を見てからサブロウタはヤレヤレと敵機へ向き直る。 『返答は?』 「答は……コレだ!!」 同時にスーパーエステの両肩のミサイルポッドが火を吹いた。 圧倒的な火力に辺り一帯の空間が白煙に包まれる。 「やったか?」 白煙の向こう側は見え無い。 《自機後方にボソン反応》 「何!!」 間一髪、手にしたレールカノンで積尸気のパンチを受け止める。 ギシギシと凄まじい力で金属が軋む。 『交渉決裂だな、残念だ』 「お前等のは交渉じゃなくて脅迫って言うんだよ!」 スーパーエステがキックを放ち両者の距離が離れる。 「ハーリー!」 『サブロウタさんの攻撃の直前、光子、重力子その他もろもろを感知。オモイカネに言わせると98%、単独ボソンジャンプに間違いないと』 「正真正銘A級ジャンパーってか……ったく何がどうなってるのかねぇ!」 ボヤキつつも戦闘を開始するサブロウタ。 肩の連射式キャノン砲で、あるいはレールカノンで牽制するが、いかんせん数が多過ぎる。 直撃こそ無いもののいずれ撃墜されてしまうのは誰の目にも明らかだった。 弾丸の隙間を縫うように隊長機が迫る。 レールカノンは威力こそ高いものの接近戦では邪魔だ。 サブロウタは迷うことなくレールカノンを目前の積尸気目掛けて投げつけた。 『ぐお!』 予想外の行動に一瞬判断が遅れた。 まともに長い銃身に当たり、後方へと弾き飛ばされる積尸気。 「大当たり〜!ザマーねーな!」 『そうでもないさ』 背後に出現した別の積尸気に羽交締めにされるスーパーエステ。 目の前でレールカノンを食らったのは陽動でこちらが敵の本命だった。 『タカスギ大尉!!』 「くそぉ、ドジ踏んじまった……」 『最後通告だ。渡すか、否か。一人の命の為にクルー全員を危険にさらすのか。副長としての懸命な判断に期待しよう』 ハンドガンをコクピットに突き付けながら再度、同じ質問をする。 ウインドウの向こう側でハーリーがうなだれていた。何か考えている様子だ。 『わかりました、ボクが……』 「お断りだ!!」 ハーリーの言葉を遮ってサブロウタはキッパリと告げた。 『そうか、残念だ』 ハンドガンのトリガーが弾かれようとした瞬間。 何の前兆も無く羽交締めにしていた積尸気の頭部が弾け飛んだ! 『何だと!?』 『敵襲か?』 『どこだ!?』 うろたえる積尸気部隊。 その間も次々と彼等のハンドガンが謎の射撃を受けて爆発する。 『あっちだ!』 積尸気の一体が指差した方向に一つの星が見える。 黄金に輝くその星は徐々に姿を大きくしていく。 否。 それは星ではなかった、一体の金色のエステバリスU。 高速でこちらに向けて突き進む。 『援軍だと!?撃て、撃て!』 号令の元、一斉に射撃を開始。ハンドガンと対艦ミサイルが殺到する。 金のエステは手にしたラピッドライフルを放り投げて回避行動に移るどころか両腕を前に突き出し加速する。 《ディストーション・アームL展開始動》 《ディストーション・アームR展開始動》 《連続稼働時間カウント開始。残り90秒》 「ウォォォォォォォォ!!」 コクピットで吼えるガイ。エステは更に更に更に加速する。 着弾し爆炎と白煙がエステを包みこむ。 『やったか?』 『あれだけの対艦ミサイルだ、機動兵器では影も形も残さんさ……』 そこまで言った瞬間、煙を切り裂いて金色の影が躍り出る。 超高々密度に収束されたフィールドパンチ+加速度を載せた一撃がいとも簡単に積尸気のフィールドごと右腕をえぐり取る。 《残り68秒》 『クソォォォォ!』 積尸気の射撃に対して金のエステが右腕を一振り。 こともなげに全ての弾丸が弾かれる。 そのまま左腕で一突き、上半身と下半身を両断する。 『闇雲に仕掛けるな。数で押せ!』 隊長機の指示で冷静さを取り戻したのか金のエステバリスを囲む積尸気部隊。 《D・アーム最大出力。残り43秒》 両腕を左右に突き出して敵の攻撃に耐えるエステ。 『おい、ハーリー。ありゃ誰だよ?』 「わかりません、とりあえず敵では無いでしょうけど……」 事態の変化に着いて行けず呑気な会話をする二人。 『ナデシコB、グラビティブラスト発射用意。急いで!!』 「ええ!?」 突然、金色のエステからの通信に慌てるハーリー。 『早く!目標は私の機体を中心に捉えて!』 「は、はい!グラビティブラスト、発射!」 『ってオイ!ハーリー!』 サブロウタの静止も聞かず反射的にグラビティブラストを発射するナデシコB。 『!!全機回避!』 直前でナデシコの行動に気づいた隊長機によって回避行動に移る積尸気。 一瞬遅れて彼等の居た位置を重力波が通り抜ける。 「馬鹿が、自爆しやがった」 『そうでもありませんよ』 嘲るような積尸気の台詞に対して何事も無かったかのように平然とたたずむ金色のエステバリス。 「重力波の直撃に耐えられるほどのフィールドを張れる機動兵器だと……?」 『私に気を取られ過ぎですね。ナデシコBの主砲の有効射程内です、まだやりますか?』 「当然だ、任務は遂行させてもらう」 『もうすぐこの宙域に増援が掛けつけます。退くならば今のうちですよ?』 「ハッタリを……」 『た、隊長!こちらに一隻向かっています。詳細は不明ですがフィールド張っている事から最低でも駆逐艦クラスかと!』 『機動兵器だけではさすがにキツイでしょう?』 両者の間に沈黙が落ちる。 《残り19秒》 「退くぞ、全機跳躍用意。……キサマの名前は?」 『ガイ、ダイゴウジ・ガイです』 「憶えておく、また会おう」 そこまで言って積尸気の姿は一機残らず掻き消えた。 「フ〜、助かった」 安堵の息を漏らすサブロウタ。 『お〜い、皆さんご無事ですかぁ〜!』 積尸気の一団に増援と誤認させたプロスペクターを乗せたシャトルがようやくナデシコに到着した。 |
「いやあ、さすがに通信を聞いていて冷や汗を流しましたよ」 にこやかな笑みを絶やさずプロスペクターはガイに話しかけた。 「機動兵器のみでジャンプで奇襲を仕掛けたのならば、逆に言えば相手もナデシコ以外周囲に何があるのか察知出来なかった筈です。だから増援というハッタリも効果があるかなぁと思って」 「『ジャンプによる奇襲は諸刃の剣』最初の一撃をしくじれば相手にタコ殴りにされる危険性が高いってか。先の反乱が残した教訓だな」 ガイの考えをサブロウタが補足した。 「確かに『ヤタガラス』と同型の宇宙軍シャトルにはフィールド発生装置が付いてましたが、よくまああんな無茶なハッタリをしますねぇ」 プロスが呆れと感心の中間地点の表情でガイを見ていた。 「あの〜」 ブリッジで談笑する男三人に取り残されていたハーリーがおずおずと挙手をした。 「結局、そちらの方はどなたなんでしょうか?」 その言葉にガイは素早く敬礼の姿勢になる。 「本日艦長候補生としてナデシコに着任しました、ダイゴウジ・ガイです!」 「おお!アンタがウチに配属される事になった艦長見習いか。俺はタカスギ・サブロウタ。ナデシコの副長で階級は大尉。ヨ・ロ・シ・ク」 「マキビ・ハリ少尉です。先程は助けて頂いてありがとうございました」 相変わらず軽い感じのサブロウタと年齢に不釣合いな丁寧なハーリーが対照的に挨拶を交わす。 「それで、艦長のホシノ少佐は?」 「実は今日は月に入りっぱなしで……。本当ならあなたが来る前に合流する予定だったんですが」 「ふむ、それは妙ですな。先程、私達が月に通信をした時全く繋がりませんでしたぞ」 「ええー!一体何が!?」 ハーリーの叫びに反応したかのように一つのウインドウが開いた。 《宇宙軍月面基地より入電。全チャンネルに対しての緊急通信です》 「へ?」 巨大なウインドウに移ったのは一人の男だった。 年齢は大体30代前半か、身長は180センチ程ある大柄な男だ。 黒髪黒目の典型的な日本人。否、この場合は木連人か。 屈強な外見を持つ男は静かに口を開いた。 『地球ならびに月、そして火星に住む諸君。お初にお目にかかる、我が名は南雲義政』 南雲と名乗った男の服装には全員見覚えがあった。 「火星の後継者!」 「やはり今回の襲撃に一枚噛んでましたか、いやはや」 『先の反乱において、草壁閣下は俗物どもの手に落ちてしまった。しかし、これは我々の正義の敗北か!?』 ウインドウの南雲は腕を振り上げて熱弁を振るう。 『否!断じて否!!たとえ我等の身が滅び様とも決して我等の正義は死なぬ!既に先の反乱の最功労者と言えるであろうホシノ・ルリ少佐の身柄とナデシコC艦は我等の手に落ちた!』 「ええええええええええ!!!!!!!」 「ハーリー!!落ち着け、聞こえないだろうが!」 真空の宇宙にすら響きそうな大声を上げるハーリーをサブロウタがとがめる。 「オモイカネ、確か通信先は……」 《宇宙軍月面基地からに間違い有りません》 「まさかとは思っていましたが、いきなり頭を押さえつけられましたか。想像以上の手際の良さですな、これは」 さすがのプロスもいつもの営業スマイルを消し真剣な表情になる。 『我々火星の後継者は、新地球連合ならびに統合軍に対して、ここに再び宣戦を布告する!』 火星の後継者の新たなる指導者、南雲義政は高らかに宣言した。 こうして平和はあっさりと打ち破られた。 |
レミア「どーもー!本作初のオリジナルキャラ、レミア・アンダースンでーす!」 ル リ「皆さんお久し振りです。ヒロインのお約束とはいえイキナリ囚われの身になってしまった、ホシノ・ルリです」 レミア「アレ?そう言えば作者は?」 ル リ「八月中旬に東京湾に『放流』したっきり行方知れずですね。そーゆーわけなんで私達だけでちゃっちゃと進行しましょう」 レミア「(犯罪の匂いがするんですが)……では!まずは私のプロフィールから!性別女、花も恥らう16歳!チャームポイントは腰まで伸びたサラサラのストレートロング、スリーサイズは……」 ル リ「何を始めてるんですか!そーゆーことは作品に登場できてからして下さい」 レミア「はぁーい。冗談はともかく遂に始まりましたね〜」 ル リ「『一応』ドリームキャストのゲームの再構成だと作者は言い張ってますが……」 レミア「ギリギリで原型を残してるわねぇ。火星の後継者の宣戦布告とか艦長候補生が金色のエステバリスに乗ってる所とか」 ル リ「作者からのダイイングメッセージによると全体で2部構成の予定でコレは第1部『THE MISSON』編だそうです。キチンと書ければ第2部『逆襲のシャア』編(謎。最初のチャットに参加した人なら判るかも)に移行する予定だそうで」 レミア「(やっぱ殺ってんじゃん!)まあ、あくまで予定は未定ですからどこまで信憑性があるのかかなり疑問ではありますね」 ル リ「それ以前に『あの人』が何話から登場するのかが最大の疑問なんですが……」 レミア「そーよねー。……最後まで登場しなかったりして」 ル リ「それはそれで斬新だったりして……」 レミア「……」 ル リ「……」 レミア「……」 ル リ「……」 レミア「……まあ、とにかく次回予告!」 ル リ「終わった筈の戦争、過去の亡霊、復讐、人の執念。闇ある所、光あり。火星の後継者のある所、彼来たり」 レミア「復讐はいまだ終わらず。いま、再びあの男が黒き衣を身に纏い、戦地へと赴く!」 二 人「次回「『王子』、再び……」を首をながーくしてお待ち下さい!!」 えーどうも。ご無沙汰してます、作者です。 そんなこんなで新シリーズ。一応本編の手前でも断ってありますが前作の直接的な続編ではなく、あくまで『劇場版アフター』。もしくは今は亡き『ドリキャス版の再構成』とお考え下さい。 混乱しますんで。 とりあえず次回更新の目標は20万ヒットしたら続きを書きます(弱気)、気長に待っててください。 では最後にクイズです。 問題「『あの人』ことカイトは一体、第何話から登場するでしょう!?正解者の中から抽選で一名様に今作最終話をアップに先駆けてプレゼントします。(オイ)」 ではでは〜。 |
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