星の数ほど人がいて、星の数ほど出会いがある。そして、別れ……





2201年8月20日16時53分 火星極冠遺跡内部




「君を、殺しにきた……」

「カイトさん!」

背後から声をかけられる。
カイトはゆっくりと振りかえり彼女の名を呼んだ。

「やあ、ルリちゃん。少々、イレギュラーが発生したとはいえ見事な手並みだったよ」

ルリの姿を確認すると横にいたラピスはカイトの左横にガシッと引っ付く。
恐らくカイトを彼女に渡さないという意思表示なのだろう。
普段は無駄に大人びているが、こういった感情面においてラピスはひどく未成熟であった。
小さな子供そのままのラピスの行動に苦笑しながらもカイトは話を続ける。

「墓地で尋ねた僕の戦っている理由。その答えのひとつがこれさ」

自分の背中、遺跡を指差す。
かつてアマテラスで見た際、ユリカが埋まっていた箇所に同じようにイツキ・カザマが取り込まれていた。

「イツキ……さん?」

「なるほど、そう言うことね」

「やあ、イネスさん。ご無沙汰してます」

「ご無沙汰なのは君が無断で定期検診をサボるからでしょうが」

いつの間にか二人の横に白衣を着た女性、イネス・フレサンジュが居た。
彼女はノートパソコンから延びる電極をユリカに取り付けていた。
ユリカの健康状態をチェックしているのだろう。

「どいうことですか、イネスさん」

「多分イツキさんは、遺跡とユリカ嬢を結合する為の『繋ぎ』として使われた、違う?」

「さっぱり話がわかんねーぞ!」

バタバタと彼等に駆け寄ってくるクルー達。
一向に話が見えないことに焦れたリョーコが声を上げた。

「元々、遺跡には有機物を取り込む機能はなかった。そのため火星の後継者はA級ジャンパーと演算システムの二つを近づける為に両者の中間に位置する存在を取り込ませたんです」

「そんな……!」

カイトの言葉に絶句する一同。

「助ける手段は無いんですか?」

「艦長と違い彼女は深く融合しているので、切り離しは不可能。解放は彼女の死をもって……てところかしらね」

遺跡を一瞥したイネスの答えは極めて簡単だった。

「ジョロやバッタと同じ扱いを嫌悪した彼女は皮肉にも死してなお、道具としての生を強要された。だから僕は彼女の尊厳を守る為、彼女を殺す為に……」

「もういいです!」

カイトの悲痛な決意をルリが遮った。

「もういいじゃないですか!私達と帰りましょう!あなたの身体の事も、イツキさんの事も皆で協力すればきっと何とかなります。だから……!」

「悪いがそれは無理だよ」

「何でよー!やっても無いのに!」

カイトの態度にユキナが声を上げた。

「どのみち、僕の身体はもう限界なんですよ。立っているのが精一杯ってやつです。だからせめて、彼女の事は自分自身の手で始末をつけたい。巻き込んでしまった罪滅ぼしを含めてね」

「自己犠牲か無理心中ってところ?あんまり感心しないわよ」

ミナトが非難がましい視線を浴びせる。

「そんな立派な物じゃ無いですよ。……歴史を歪めてしまった後始末をしなきゃいけないだけです」

「歴史を歪めた?後始末?」

カイトの言葉にルリとイネスの二人を除いて困惑する一同。
彼等には構わず、懐からコルトガヴァメントを抜いてイツキに向ける。

「カイト君、あなたまさか……!」

「ええ、多分イネスさんの想像している考えが正解だと思います」

「一体何をするつもりなんです?」

ルリの質問に答えたのはイネスだった。

「アキト君が目覚めないのはカイト君と入れ替わっているからと、説明したわね」

「はい、でもそのことに何の関係が?」

「彼はムリヤリ修正するつもりなのよ、自分の存在を消すことで本来の歴史の流れに乗り直すのね」

「遺跡と融合したイツキを殺すことにより遺跡は僕と彼女の存在を消失、演算システムによる強力なパラドックス補正により歴史は最も近い近似事象へと推移する」

イネスの仮説をカイトは肯定した。

「意味がわからん……」

「ようするに彼は『The prince of darkness』直後の世界に切り換えようとしている。それによってもたらされる事実は……」

ウリバタケのボヤキに反射的に説明するイネス。
ルリは理解した、彼が最終的に何をしようとしていたのか。

「カイトさんの存在の抹消と引き換えにアキトさんとユリカさんが普通に暮らす世界が来るということ……」

「なんだと、テメー!」

理屈はサッパリだったがルリの言わんとしてる事を理解したリョーコが怒鳴る。

「カイト!例えアキトとユリカが幸せになっても、オメーが戻らなきゃ意味ねーだろ!」

「別に悲しむ必要はありません。そもそも本来の歴史において、2198年3月25日にナデシコにボソンジャンプした人物など存在しない」

「何わけわかんねーこと言ってんだ!」

怒鳴るリョーコに構わず、自分の横にいる少女に向き直る。

「ラピス、君には本当に世話になったね」

「ミカズチは私を置いていくの?」

金色の瞳が不安げに揺れている。

「1年間、どれだけ君の存在に心救われたか判らない。だが、ここでお別れだ。補正に巻き込まれるといけない、IFSリンクを切断するんだ」

「イヤ!」

カイトは優しく微笑んだ直後、彼女に当身を食らわせる。

「ミ……カズ…チ?」

非難がましげな視線を放ちながらラピスは気絶した。
彼女の身体をイネスに預ける。

「この娘の事、よろしくお願いします」

「補正のかかった世界がどうなるか解らないけど、多分彼女の身に危険が迫ることは無いわ、安心して」

カイトはルリの正面に立つ。
最後の別れ、文字通り今生の別れというやつだ。

「ルリちゃん、君に会えて嬉しかったよ。本当なら成長したその姿を見ることすらなかったんだからね」

「どうして、どうして戦うんです!ボロボロになって、自分の存在を賭けてまで!」

墓地の時と同じ質問。
だが、今度は違う答えが帰ってくるような気がした。

「約束、したろ?」

「やくそく?」

「『これから先、どんな悲しみが君を襲おうとも必ず守って見せる』って」

「!!」

そうだ、彼は木星での別れ際、確かにそう言った。
あの時の自分は彼の言葉を本気にしてはいなかった。
ただ、ひとときの慰めに過ぎない無責任な約束だと思いこんでいた。
しかし、彼は約束を果たしに来たのだ。文字通り自身の存在を賭してまで。

「所詮僕の存在は一夜の夢のようなものさ。朝がくれば全て忘れてしまうほど儚い」

「本来の歴史だとか!パラレルワールドだとか!そんなの、私には関係ありません!」

あんまりなカイトの物言いにルリの感情が遂に爆発した。

「私達にとって、私にとって、あなたが大切な人だってだけじゃイケナイですか!?」

カイトの胸に飛び込む。
ルリの頭を優しく撫でながら彼は空を見上げた。

「……ああ、そうか。やっとわかった」

「え?」

「僕は君達のようにアキトを信じられなかった。……だから安易に歴史を変えてしまった」

『帰ってきますよ』

かつて、夢で見た彼女はそう言っていた。
どうしてもカイトにはそれが信じられなかった。だが、今なら解る、アキトの立場になって初めてそれが理解できる。
そうだ、始めから彼は家族の為に戦っていたのだ、たとえ時間がかかって必ず帰ってくるに決まっている。
なぜなら大切な人だから、大好きな人だから。
だが、もう遅い。
身勝手な自己満足の為に歴史を改竄した報いは受けなければいけない。
どのみち、この身体も限界だ。
動かない筈の右手を無理に動かし、ルリを抱きしめる。
左手で銃口を彫像と化したイツキに向けた。

「ごめんね、姉さん。バカな戦いに巻き込んでしまって」

『いいのよ、ミカズチ。どうせ私は何年も前に死んでいるし、最後を看取るのがあなたなら本望よ。フフフッ、それにしても……』

「それにしても?」

『『姉さん』ときたか、一応私達、恋人同士じゃないの?』

「いや、それはその……」

慌てまくるカイトを見て満足したイツキは優しく心を繋げる。

『フフ、いいのよ。それにその娘ほどじゃ無いにしろ、私の事も大切に思ってくれてるって事でしょう?』

「ああ、君はミカズチにとってたった一人の家族だから」

『今回は、まあそういうことで納得しておいてあげるわ』

カイトはルリを抱きしめたまま、自分とイツキを見ている大切な人々、ナデシコクルーを一瞥した。

「本当に、僕は幸せでした。人形に過ぎない自分が、人として楽しく笑って過ごせたかけがいの無い時間を貰って幸せでした。これで皆は僕の事を忘れてしまうけど、それでも幸せでした」

もはや、彼の言葉に答えられる者はいない。
笑顔を絶やさないカイトに対して、微笑む者、泣く者、涙を見せまいと必死な者、様々であった。
ルリが顔を上げて潤んだ瞳でカイトをみつめながら叫ぶ。

「今度は、私が『約束』しますから!どんなに遠く離れても、どんなに時間がかかっても!」

カイトの身体が光に包まれる。
ボソンジャンプによく似ているが何か違う。
どうしようもない寂しさ感じさせる蒼い光。

「絶対、忘れませんから!絶対、ぜったいに!逢いに行きますから!」

ルリの言葉には答えない。
ただ少しだけ困ったような、優しく哀しい笑み。

「……それじゃ、サヨナラだ」

次の瞬間、同時に様々な事が起きた

銃声

崩れる遺跡の一部

自分を包む暖かさの消失

まばゆい閃光

誰かの悲鳴

―――そして自らの頬を伝うひとすじの、ナミダ




同時刻 連合宇宙軍病院 特別病棟707号室




大慌てで看護婦が部屋から飛び出す。
ちょうど巡回中であった担当医を呼び止める。

「せ、先生!大変です!707号室の患者が意識を取り戻しました!」

「本当か!?す、すぐにホシノ少佐かミスマル総司令に連絡だ!」

真っ白な病室。
その部屋の主であるテンカワ・アキトは呆然と涙を流しながら天井を見つめていた。

「―――」

家族であり友人であった人の名を呼ぼうとして唇が微かに動く。
しかし、そこから彼の名が紡がれることは無かった。

知らない人の名を、存在しない人間の名前を呼ぶことなど、できはしないのだから。



『The prince of darkness』




「アレ?……みんな、老けたね」

約2年ぶりに目覚めたお姫様の第一声はそれだった。
彼女の言葉に一同は盛大に脱力しながらも安心する。

「ふー、いつものボケだ」

「どうしてみんな、泣いてるの?」

「どうしてって……アレ?」

不思議がるクルーを尻目にユリカは言葉を続ける。
自らの頬を伝う涙を拭おうともせずに。

「私、ずっと夢見てた。みんなの夢、家族の夢。アキトやルリちゃん、それにあの人……」

「あの人?」

「あの人……あの人は、ドコ?」

ユリカの質問に答えられる者はいない。
彼女の見上げる先には太陽光を反射した氷の粒子と大気層のナノマシン、そしてオーロラが幻想的に火星の空を彩っていた。

涙がでそうなほど、綺麗だった。










最終話「『アナタノオモイデニ、サヨナラ』」





同年10月某日 試験戦艦ナデシコB艦




アキトさん、ユリカさん、お元気ですか?
私は今、艦長候補生の訓練航行中の寄港地、月でこの手紙を書いています。
(なんとこの艦長さん、お名前ダイゴウジ・ガイって言うんです。こういう偶然ってあるんですね。もっとも性格は全然違いますけど)
今回の航行は彼の艦長としての経験を積む意味もありますが同時に私の部下である二人もワンマンオペレーションの訓練も兼ねています。
そう、二人です。
一人は以前、何度かお見舞いの際にお会いしたハーリー君。
そして、もう一人。
今度は妹が出来ました。
彼女の名は――――



そこまで書くと不意に背後でブリッジの扉が開いた。
そのまま賑やかな声を上げて入ってくる。

「ああ、もう!あの場面で味方機を巻き込んでグラビティブラストなんて無茶苦茶ですよ!」

「ハッハッハッハッ。腐るなよ、ハーリー」

「シミュレーターとはいえ味方艦に撃墜されそうになった本人の台詞ですか!」

「でも、設定上タカスギ大尉はアルストロメリアに乗っていますから、跳躍によって緊急回避するのは反則ではありませんよ。奇襲と言う点では良い作戦でした」

「ダイゴウジ艦長までなにを呑気なこと言ってるんですか!」

「ま、とにかく勝負は俺とラピスのチームの勝ちだな」

「……ルリ、ただいま。艦のオペレートを含む訓練、終わった」

「ラピスさん!上官を呼び捨てにするなって何度言ったら判るんです!」

見るに見かねて手紙のウインドゥを閉じて4人に向き直る。

「別に公の場じゃないですし、いいんですよ。好きなように呼べば」

「ホラ、ルリもこう言ってる。大事な人なら名前で呼んでもいいって」

「でも……」

ハーリーはまだ不満なようだ。

「ハリも呼べば?『ルリ』って」

「そうそう、良い機会だから呼んじゃえよ『ルリさん』って」

サブロウタが面白がってラピスの言葉の尻馬に乗る。

「な、な、な、なに言ってるんですか!ね、ホシノ少佐」

「……私は別にかまいませんけど」

助けを求めて同意を得ようとしたらむしろ追い詰められたよ、この人。

「さあ、ハーリー君頑張って」

ニコニコと悪意の無い笑みで微笑ましく見守っているガイ。
本人に悪意は無くともハーリーには彼の笑みが悪魔のそれに見えた。

「ル、ル、ル、ル、ル……」

真っ赤になって『ル』を繰り返す。
だが、プレッシャーに負けた。

「うわぁぁーん!みんな、大ッ嫌いだー!」

半泣きのまま猛ダッシュでブリッジから駆け出していくハーリー。

「あらら、行っちゃった」

「タカスギさん……」

心底残念そうなサブにルリは非難がましい視線を向ける。

「わかってますって、ちょうど月で半舷休暇の時、適当な店で甘い物でも奢ってやりますよ」

「結局、食べ物でごまかすの……?」

ラピスの指摘は大胆に無視した。

「ラピスさん、あんまりタカスギ大尉を苛めないであげましょう」

「了解、艦長」

「んじゃ、ちょっと行ってきます。艦長、ラピス、二人も一緒に謝ってくださいよ」

「はいはい」

「私にも何か奢ってくれるなら」

小走りにハーリーの後を追う三人。
なんだかんだ言ってみんな彼の事が可愛いのだろう。

ホシノ・ルリとラピス・ラズリという宇宙軍の誇る二体の電子の妖精と共に任務に当たるという他人から見れば羨ましくて仕方ない立場に居るハーリーであったが彼なりに問題は山積みであった。
……二人とも恋愛対象として彼を見てないし。合掌。
ルリは再び手紙に取りかかる。



彼女の名はラピス・ラズリ。
火星の後継者に囚われていたんですが私達が首謀者を逮捕したことにより助かった人の一人で、ネルガルに親権があったのですがエリナさんの手引きで私達の艦に乗ることになりました。
たぶん、研究対象にされるよりは私やハーリー君と一緒にいた方がいいと考えたんでしょう。彼女もずいぶん変わりましたね。
私と同じ身の上の人間ですが当時の私よりもずっとしっかりした子です。
今度の航行が終わったらお二人にも紹介しに行きますね。楽しみにしててください。
お二人はそれぞれリハビリで大変かもしれませんがすぐに二人とも以前のようにラーメンの屋台をやれる日が来ると思います。
是非ともその時は一番最初の客として招待してくださいね。
それではまた、手紙書きます。

あなた達の家族、ホシノ・ルリより。

落ちる?いや、沈んでいる?永遠の浮遊感。酷く不快だ。

―――起きなさい。
ルリは艦長席を離れナデシコのとある場所へと歩き出していった。
うるさいなぁ、ただでさえ気分が悪いのに。
軽いスライド音を立てて扉が開く、この艦の展望室。
―――起きなさい、不確定因子よ。
無限の星空を映した部屋には先客がいた。
うるさい!……ってあれ?自分が認識できる!?
白銀の髪に金色の瞳の少女、自分の妹と呼べる人物、ラピス・ラズリだった。
僕はゆっくりと目を開く。そこは黒い部屋であった。
「皆と一緒に行かなかったの?」
目の前に壁があるようで遥か向こうまで奥行きを感じる。
「うん、たまには『男同士で話し合いたい』ってサブロウタが」
ドーム球場の内側を全て漆黒に塗りつぶしたらこんな感じかもしれない。
「そう……隣、いい?」
―――おはよう、不確定因子。あなたの名前は?
ラピスは無言で頷いた。
声が聞こえる。近いようで遥か遠くから呼びかけられている感じ。声の主の姿は見えない。
ルリはゆっくりと彼女の隣に腰を下ろす。
ミカズチ・カザマ。……カイトって呼ぶ人もいるけれどね。ここは一体何処なんだい?
「……また、泣いていたのね」
―――全ての事象のはじまりの地であり、全ての事象の行きつく先。同時に全ての事象から外れた場所。
「ルリ……」
因果地平の彼方?
ラピスはゆっくりと姉と呼べる人物の胸に体重を預ける。
―――なんですか、それは?
「いいのよ、いいのよ、好きなだけ泣いて」
……いや、なんでもない。それよりなんで僕はこんなところにいるんだ?
恐らくは『彼』が何度もそうしたようにラピスの背中を優しく撫でてやる。
―――本来の歴史に存在しないあなたは正史『The prince of darkness』から弾き出されたのでしょう。
「あの人の事を想って涙が出るのならば、まだ私達があの人を忘れていない証」
それで、行き場を無くして流れ着いたと?ハハッ、僕はどこまでいっても邪魔者扱いか。
「ウン……」
―――戯れに、ひとつ問いかけをしよう。

なんです?
そう、あの日以来、世界中の人々は彼の事を忘れてしまった。
―――もしも、もう一度やり直せるチャンスがあるのならば、『いつ』から始める?
まるで、始めから存在などしていなかったかのように。
いつ?
写真も、映像も、書類も、そして人々の記憶からも彼の生きた証は消えてしまった。
―――火星にチューリップが落ちた時か?家族の乗ったシャトルが爆発した時か?最初と同じくナデシコが演算ユニットを宇宙へ放った時か?
残ったのは僅かばかりのレシピに残された彼のアイディアだけ。
……いや、どれもゴメンだ。
だけど、私達は覚えている。
―――何故?
あの人の声も、あの人の顔も、あの人がくれた優しさも。
現在の記憶を持ったまま過去に戻る。そんな行為に何の意味も無いよ。
きっと希望はある。
―――ほう?
自分達が彼の事を覚えているのならば、間違いなく彼は何処かに存在している証。
それはゲームの展開が気に食わないからってリセットボタンを押す子供と同じだ。負け戦にだって経験値は入るモノさ。
私は昔の私より少しだけ強くなろうと思う。
―――死んでしまっては同じでしょう?
彼の守った、大切な家族と共に。
それは誰もが一緒さ。最低限、守るべきルールはある。僕は『The prince of darkness』を肯定する。
いつかあなたに逢える日が来ることを信じて。
静寂が訪れた。声の主は何やら考えているようであった。
だから、いまだけ……。
―――いいでしょう、あなたを『The prince of darkness』の世界に存在させましょう。
いまだけ泣いてもいいですよね?カイトさん――――――
へ?

―――ただし、あなたが自分の存在を賭けてまで守ろうとした人々に再び同じ苦痛を与える他なりません。それでも?

ああ。それに無駄じゃないよ、少なくとも木星で眠っていた時の僕に同じ問いかけしたら過去を修正しようとしていた筈さ。

相手は答えない。静かにこちらの言葉を待っているようである。

でも少しだけわかった。変わってしまったことは悲しいかもしれないけど、きっとそんなに悪いことじゃない。

―――ずいぶんと前向きな意見ですね。

星の数だけ出会いがあって、出会いの数だけ別れがある。だけど―――
それだけが取り柄なもんでね。それに変わらない物だってきっとあるさ。それを証明してみせる。

―――わかりました。お行きなさい、ミカズチ・カザマよ。

目の前が眩しい光で包まれる。

―――さよなら、いつかどこかで逢ったかもしれない人よ。

……ありがとう、いつかどこかで逢うのかもしれない人よ。


―――だけど、別れの数だけ再会の可能性が、きっと……






To Be Continued




火星極冠遺跡。

2枚の写真が落ちている。

片方は家族の写真だろうか?

ラーメンの屋台を中心に優しそうな青年と満面の笑みを浮かべる長髪の女性、そして無表情ながらもしっかりカメラ目線でチャルメラをくわえた少女の『3人』が写っていた。

もう一枚はブルーの背景に何も写してはいない、奇妙な写真だった。

ただ下半分に「元気出せ!」と女性特有の文字で書かれているだけの奇妙な写真。

2枚の写真は風に吹かれ、ひらひらと火星の空へ舞い上がる。







それは、ハッピーエンドを夢見た一人の青年の残滓だった








END

おまけ・最終回記念座談会


作 者「どーも作者でーす」

カイト「主人公のはずだった、カイトでーす」

ル リ「宇宙最強のヒロイン、ホシノ・ルリです」

ラピス「本作の真のヒロイン……ラピス。……よろしく」

カイト「いやー遂に終わったねぇ」

作 者「一応エンディングは「Dearest」かCDアルバム電子の妖精の「Tenderness」を想定してます」

ラピス「で、なんなの、コレ?」

作 者「一応、最終回なんですけど……」

ル リ「……どうしてこんなことになったんです?」

作 者「さあ、フラグ立てが足らなかったんじゃ……」

ル リ「……」

作 者「ホラホラ、途中でラピスルートに分岐しようとしてたのに結局、ルリルートに……」

ラピス「……」

作 者「あのーひょっとして二人とも怒ってる?」

ルリが無言で指を鳴らすとゴートと月臣が出現。

両脇をガッチリ抱えられた作者。

ル リ「最近は暑いですから、東京湾で海水浴でもして来たらどうです?」

作 者「目がマジだよこの人……って、うわ連れて行かないで、助けてー!」

ラピス「……浮くか沈むかぐらいは好きな方を選ばせてあげれば?」

ル リ「なかなか、良い考えです。人道的ですね」

作 者「ぎゃー!たすけてー!そんな選択肢はイヤー!」

退場する一同。

ユキナ「……まじでコレで終わり?」

ミナト「うーん、ある意味タイトルに忠実といえば忠実だけどねー」

イネス「まあ、私としてはなぜなにナデシコをやりたいのだけど、疑問質問のメールを募集してもどうせ集まらないだろうからって企画倒れになったし」

セイヤ「まあ、オバさんに説明を長々と聞かされてもねぇ」

イネス「誰がオバさんじゃー!メール、感想フォーム等での質問の数によっては本気でやるわよ!」



カイト「まあ、そんなこんなで本作はこれで終了」

イツキ「果たして私達にまた逢えるかどうか?そればっかりは神のみぞ知るってやつね」

カイト「それでは皆さん、遺跡が『僕達の存在する未来』を演算することを祈りつつ!」

二 人「また逢う日まで!」



作 者「誰でもいいから助けてぇー!」



ばいばい!
『The prince of shining』へ続く……



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