再会、それは喜びなのだろうか?

確かに、別れという物は哀しい物だ

確かに、出会いはとても嬉しい事だ

しかし、再会は喜びとは直結しない

『再び会う』ということは『再び別れる』ということのはじまりなのだから





第4話「『同窓会』で逢いましょう」





2201年8月中旬 連合宇宙軍病院 特別病棟707号室




まぶしい陽射しの射し込む白い病室。外からセミの大合唱が聞こえる。
静かに眠っている青年。ルリは静かに備え付けのイスに座っていた。
サイドテーブルに置かれた写真立てを見る。『2198・10・1天河ラーメン開店記念』と書かれていた。
ラーメン屋台を中心に右側に少し困った顔のアキトと満面の笑顔で腕を組んでいるユリカ。
左側に無表情にチャルメラをくわえているルリ。そして、彼女の肩に手を置いて優しく笑っているカイト。
唯一、4人全員そろっている家族写真だ。

「アキトさん、ユリカさんが生きてましたよ。……カイトさんも」

青年―テンカワ・アキト―に話しかける。しかし、反応は無い。かれこれ二年ほど、ずっとこうだった。



2199年6月19日
アキトとユリカが新婚旅行で乗ったシャトルの墜落事故が起きた。
見送り行ったルリたちの目の前で爆発したのだ。あのときの事はよく覚えてはいない。
ただ、喪失感だけがあった。



2199年8月中旬
ルリはミナトに引き取られオオイソシティで暮らすようになってから数日、一本の電話が入った。

「テンカワ・アキトさんが発見されました。至急ご家族の方に確認していただきたい」

テンカワ夫妻の葬式後、無気力状態だったルリは家を飛び出しすぐに病院に向かった。
そこには2ヶ月前に別れたあの人と同じ寝顔があった。

「一体どうやって助かった不明だが外傷は全く無い。しかし、意識が戻らんのだ」

それが医者の言葉であった。
ナデシコクルーたちは「多分、すんでのところでボソンジャンプで脱出したのだろう」と見ていたし、
当時のメディアには『シャトル事故唯一の生存者』だの『奇跡の生還』だの色々と言われていたがルリにはどうでも良かった。
アキトが生きていた、アキトが自分の元に帰ってきた。それだけで充分だった。
その後、ミスマル総司令の好意でアキトは施設の整った軍病院へ入院させた。



始めの内は月に何度か見舞いに来て一方的に話しかけるだけだったが、
一年も経つとアキトの入院費のため、なによりミスマル総司令には恩があったので宇宙軍に入隊することになる。
それ以来ルリは地球に寄る度この病室を訪れアキトに話し掛けるのだ、返事など返って来ない事を知りながら。
そう、彼は一度も目覚めてはいないのだ。



不意にサイドテーブルに置かれた花瓶が目に入る。考え事に集中していて今まで気がつかなかった。
あまり見舞いの花にむいているとは思えない大輪の白百合、カサブランカだ。
はて、自分以外の人間が最近お見舞いに来たという話は聞いていないが……?

「!!」

そこまで考えてからある答えに至る。
廊下に飛び出し手近にいた看護婦を捕まえる。

「あら、ホシノ少佐。どうしたんです、そんなに慌てて」

「すみません。今日誰か彼のお見舞いに来ませんでしたか?」

妙に焦っているルリの様子も気にせず答える。

「あら、会いませんでした?ついさっきまでいらしたのに」

「どんな人でしたか?」

「若い男の人よ、大きなバイザーみたいなサングラスをかけて白い……」

最後まで聞かずルリは走り出していた。

「ちょっと、少佐!廊下は走っちゃ……!」

看護婦に心の中で謝りつつルリは玄関を目指した。



一気にロビーを走り抜け玄関まで来ていた。周囲の人間の妙な視線に晒されるが気にしてはいられない。
乱れる息を押さえながら辺りを見渡すがもうそこには彼の姿は見つからなかった。
そもそも、彼にあってどうしようというのだ。何故ユリカがああなっているか尋ねるのか?
それともいつ目覚めたのか聞くのか?どうして一番に自分のところに来てくれなかったか責めるか?
混乱する頭を軽くふる。まだ息が乱れている。
こんなことなら基礎体力をもう少しつけておくんだったかな……と思ったとき、一人の見知った顔がこちらに歩いてくるのが見えた。

「やあ、ルリ君。ここに来ていると思ったよ」

「総司令?どうしてこんなところに?」

「まあまあ、取り合えず中に入ろう。外は暑くてたまらんからな」

そうコウイチロウに促され二人は病院の中に入っていった。



ネームプレートに『707号室 テンカワ・アキト』と記されている部屋に二人で入っていく。

「ナデシコしぃ?」

「そう、3代目のナデシコ。ABCのC。君はタカスギ大尉、マキビ少尉と共に遺跡奪還の極秘任務に当たってほしい」

「どうして総司令がわざわざこちらに?呼び出していただければ……」

コウイチロウは厳しい顔で答える。

「秋山君の情報によると統合軍内部に不穏な動きがあってね」

「ふおん?」

「元木連軍人を主に火星の後継者への賛同の動きがあるそうだ。既に一部は軍を離反して合流している」

無理も無い話だった。休戦から2年、いまだ木連人を取り巻く状況は厳しい。
政財界における発言力ならば尚更だ。まして、首謀者は草壁である。
巻き返しを考え、彼の担ぎ上げる「新たなる秩序」という神輿にあやかりたい人間はいくらでもいるだろう。

「私のオフィスもどこで盗聴されているか判ったものでは無いのでね、こちらから尋ねさせてもらったと言うわけだ」

「じゃあ、正規の軍人さんは使わないほうがいいですね」

「その通り!」

ルリの理解力の高さに満足そうに頷くコウイチロウ。

「でも、艦を動かす人員はどうするんですか?」

「おまかせください!」

自分の背中、廊下側から声がした。

「扉の影からこんにちわぁ〜♪」

声と共に現れたのは懐かしい顔だった。



「ぷろすぺくたぁ?」

「本名ですか?」

宇宙軍の格納庫近くの公園。すでにサブロウタとハーリーも呼び出されていた。
先程、秋山少将から極秘任務の話を聞いたらしい。

「いやいや、ペンネームみたいなものでして」

ニコニコと以前とまったく変わらない笑みで答える。

「それでは各人手分けして人集めといきましょうか。歴史はまた繰り返す。ま、ちょっとした同窓会みたいなもんですかな……」

「はい」

キョトンとしているサブロウタとハーリーを尻目にルリは笑みを浮かべる。

「まーそれにしてもルリさん、お久し振りですねぇー」

「ええ、本当に……」




病院の裏手に黒塗りの高級車が停めてある。
自動車の中に正反対のカラーで彩られた青年が入っていく。
車の中には先客が二人いた。銀髪の少女とスーツ姿の女性である。

「おかえり、ミカズチ」

「ああ、ただいま。ラピス」

もう一人の先客、スーツ姿の女性が尋ねる。

「どうだったのアキト君?」

「よく眠っていました。ドクターの推論どおりですね」

「まったく、アナタが直接見に来なくても良かったんじゃないの?」

付き合いきれない、といった風に彼女はため息をついた。
まあ、お見舞いだけで月から地球まできたらそのリアクションもやむ得ないだろう。

「まあまあ、エリナさん。決意表明ってことで大目に見てくださいよ」

「……決意表明ねぇ。本当はルリちゃんに直接会いたかったからじゃないの?」

エリナは少し意地悪く聞く。『ルリ』という名前にラピスが微かに反応し身を震わせる。

「まさか、でなきゃコソコソ正面玄関を避けて急患搬入口から出てきやしませんよ」

彼女の言葉をミカズチと呼ばれた青年は笑いながら否定する。

「で、次はどうするの?」

「一週間ほど独自に動かせてもらいます。もちろんラピスも連れて」

先程から不安そうにこちらを見上げているラピスの頭をなでながら言葉を続ける。

「何をするつもり?」

「万全を期するためです。それよりも念のため、ホシノ少佐の警護をお願いしますよ」

「月臣チーフが付いてるから大丈夫よ。それより具体的には何をするつもりなの?」

ラピスを伴って車から降りようとする背中に呼びかける。

「『第一回同窓会の集いのお知らせ』」

不思議がっているエリナにミカズチは楽しそうに微笑んだ。



オオイソシティ とある高校の教室




黒板に大きく『特別夏季補講』と書かれている。
青春真っ盛りの夏休み、ワザワザ学校に来て勉強する奇特な人間と
一学期の期末テストで成績のかんばしくない人間の2種類の生徒が教室で補講を受けている。
黙々と課題をといていく者と外を見たりプリントとにらめっこしたりする者にきれいに分かれていた。
どちらがどちらなのかは一目瞭然である。
監督役の教師が時計を見る。11時52分。そろそろお昼だ。

「うーん、ちょっと早いけど今日はここまでにしよっか」

その一言で教室全体の空気がゆくっりと弛緩する。

「終わったぁー。メシだメシだ」

「どこ食いに行く?」

「あーオレ今週ピンチだからパスね」

「ふー疲れた」

「ね、ね、これから海いこうよぉ」

「えー今から?」

「来週の夏祭りどうする?」

「あーあ私も彼氏がいれば一緒に行きたいのになあ」

思い思いに午後の予定を立てている生徒たちにクギを刺す。

「コラコラ、補講組はちゃんと次回までに課題提出すんのよ?」

「はぁーい」

「じゃーねセンセー」

「ハルカ先生、また明日」

「ハイじゃあね。あんまり寄り道するんじゃないわよ」

あっという間に教室から生徒がいなくなる。課題に対してもこれぐらい素早く動いて欲しいものだ。
授業に使ったプリント類をまとめて教室を出る。そこには思いがけない顔があった。

「カイト……君?」

プリントをバサバサと落しながらも教師―ハルカ・ミナト―はそれだけつぶやいた。



3人はファミレスに来ていた。
通学路から外れたこの店は生徒が来る事は滅多になく教師同士の話の場として重宝されている店である。

「ユキナには見つかって無いでしょうね?」

ミナトは開口一番そう言った。

「校庭を避けて裏門から入りましたし、校舎でも誰一人すれ違っていません。安心してください」

店の中でもバイザーを外さず、カイトはアイスココアを飲みながら釈明する。
ちなみにラピスは少し離れた席でジャンボチョコレートパフェDX(1200円)と格闘中である。

「さっきはすごく驚いてましたけどプロスペクターさんから連絡が入ってますよね?」

確認するように尋ねる。

「話のさわりだけね。キミが生きてて艦長が囚われの身でナデシコに乗って欲しいってゆう。……話に聞かされていても2年間も死んだと思っていた人間が目の前に現れたら誰だってああなるわよ」

ミナトは非難がましい目つきで睨みつける。先程だされたアイスコーヒーには手もつけていない。
どうやら相当怒っている様子だ。

「で、何の用なの一体?」

不機嫌なのを隠そうともしないで尋ねる。
大人の女性である彼女がここまで露骨な態度に出るのは極めて珍しい。
少なくともカイトは初めて見た。
軽くビビリながらも用件を伝える。

「単刀直入に言えば今度のナデシコに乗って欲しいんです」

「いやよ。プロスさんにもそう伝えたハズだけど?」

即答。まあ、今更軍だ戦争だに関わりたくない彼女の気持ちは良くわかる。
ましてや今はユキナが一緒なのだ。
あの娘の性格から考えて事の真相を知れば絶対に首を突っ込んでくるに決まっている。
カイトもにこやかな笑みを消して真剣な顔になる。

「ならばせめて彼女に一目だけでも会ってください」

「ルリルリに?」

「ええ、無理をしているのは明らかです。本人は普段道理のつもりでしょうけど」

「それなら、それこそキミが側に居てあげればいいじゃない!」

バン!とテーブルを思いっきり叩き付ける。
穏やかでない空気を察したのか店員がチラチラと横目で見ている。
他人には別れ話をしているようにでも見えるのだろうか?

「元は言えばあの娘が笑わなくなったのはキミが……」

「木星プラントから帰ってこなくなってから、ですか?」

言いよどむ彼女の言葉をあっさり続ける。
ラピスを見ると今だチョコパフェと格闘していた。どうも苦戦中のようだ。

「あの時の選択を後悔してはいないし、彼女も理解はしているはずです」

納得はしていないだろうけどね、と心の中で付け加える。
おそらく当時のナデシコB艦クルーはカイトとルリの身に何があったか知らされていない。
確かなのはあの日以来、目に見えてルリが塞ぎこむようになったということだけだ。

「よくそんなことが言えるわね」

「大体想像はつきます。その後アキトやユリカのおかげで再び笑えるようになった矢先、今度は二人とも居なくなった。ってところでしょう?」

「!!」

いよいよミナトの顔が険しくなる。これ以上余計な事を言うと殴られそうだ。

『ミカズチ、イジメられてるの?』

不意に頭の中に少女の声が響く。視線を移すとラピスが心配そうにこちらをうかがっている。
子供は大人の話を詮索しないで静かにパフェでも食ってなさい!と、アイコンタクトとブロックサインで伝えるとどうやら正確に伝わったようだ。
一瞬ムッとすると店員にチーズケーキとイチゴショートを追加注文しだした。

(あんにゃろう、人の金だと思って……)

「キミは変わったわね」

ミナトはゆっくりと息を吐き肩の力を抜きながら話を続ける。

「その表現は正確ではありません。『戻った』だけですよ、ナデシコに跳んだあの日以前に」

カイトの表情に生まれた微妙な影をミナトは気づいた。睨み合う二人。緊張が高まる。
ミナトが視線を落すとカイトの右手首に目が止まる。
プラスチックの玉付きの、女の子がするような髪留めのゴム。
彼女はそれに見覚えがあった。……本来の持ち主にも。

「……いいわ、ルリルリに会ってあげる」

先に折れたのはミナトだった。

「本当ですか!ありがとうございます」

まるで自分のことのように嬉しそうに笑う

「会うだけよ、ナデシコに乗るって決めたわけじゃない。それに、条件があるわ」

「条件ですか?」

「一度、面と向かってルリルリに会いなさい。それが条件よ」

カイトは考える。厳密には考えるフリをする。

(正直会うのは避けたかったが致し方ない。どのみち本来の流れから考えると会わざるおえないしね。……これが歴史の復元力ってやつか)

いつだったかドクターに長々と『説明』された内容を思い出す。

「会うの?会わないの?」

「わかりました、条件を呑みます」

交渉成立。これでようやく一人目だ。

「それじゃ後日迎えに行きます。準備しておいてください」

レシートを取りながら立ち上がる。

「ラピス、行くぞ」

連れの少女に声をかける。
ちょうど三皿目をたいらげ次は何を注文しようかメニューを見ている最中だった。
彼女は名残惜しそうにメニューを閉じ、席を立つ。

「二つ、質問があるわ」

レジに向かおうとした時、席についたままのミナトが話しかける。

「いまでもルリルリのことが大事なの?」

「ノーコメント」

おどけ気味に答える。空気を少しでも和らげたかったとしたら逆効果だったが。

「その手首の髪留めはなに?」

カイトは軽く手首を振りカチカチと打ち鳴らしながら笑顔で答える。

「僕にとって幸運の女神のお守りですよ」

それだけ言うと店を出ていった。

「……バカ」

ミナトは3年前と変わらない笑顔を浮かべる彼の背中にそう言い残した。



一方そのころ 都内某所




「ボクらがいるじゃないですか!ボクら3人なら敵なんて……勝てますよ!」

散々繰り返すハーリーを軽く無視しつつルリたち3人組は旧ナデシコクルーの一人を訪ねていた。

「ごめんください」

「うわぁ〜久しぶりだね、ルリルリ」

充血した目の下に壮絶なクマを作りながらもアマノ・ヒカルは3人を出迎えた。



「うおー!」

「おおおー!」

「マンガの生原稿だぁ!」

「プロの線ってすごいんですねー」

勝手に盛り上がっている二人をよそにルリは事情のあらましを説明していた。

「ナデシコしぃ?」

「ええ、今度の作戦は極秘任務なので正規の軍人さんは使えなくて……」

「ふーん、いいよ」

「え?」

「いともあっさり……」

「でも連載、あるんですよね」

唖然とするハーリーとサブ。
ルリはそんなアッサリした彼女の性格に慣れているため至極もっともな疑問を口にする。
ヒカルは不気味な笑いを浮かべつつルリの手をガシッと握る。

「ホント丁度良かったァ。今夜〆切なのにアシの子が急病やらお見合いやらで困ってたのよぉ〜」

「はあ、それは」



「ルリルリそこ61でカゲパイルね」

「はい」

ルリは馴れた手付きでトーンを貼る。
以前、拘留生活中何度かヒカルの新人賞応の原稿を手伝ったことがあるが、まさか今更になってやるとは思わなかった。

「サブちゃん点描そこラブリーにね」

「うぃーっす」

背景を黙々と書いてゆくサブ。

「ハーリー君カレーは超辛で」

「ううう、なんでボクが……」

泣きながらタマネギを刻むハーリー。

「『歴史は繰り返す』って言うけどホントよねー。2年前もナデシコに臨時で乗ることになってカイト君たちに原稿手伝ってもらっちゃてね〜」

思えばあれはヒカルにとっての転機だった。
ちょうど少女マンガ誌に投稿しては最終選考まで残っては落ち、残っては落ちの繰り返しの日々。
思いきって初めて少年誌送ったのがカイトたちに手伝わせた原稿だった。
〆切4時間前に完成というハードなスケジュールにもめげず投稿したところ、あれよあれよという間に入選、担当が付き今では複数の連載を抱えるそこそこの人気作家になった。

結局、当時ナデシコB艦時代に趣味で書いていた『記憶を無くした男』を主人公にしたマンガは未完成。
急に忙しくなったのも理由のひとつだったが本当はモデルがいなくなってしまったからだ。
いまもその原稿はヒカルの自室で日の目を見ることなく眠っている。

「はあ……」

2年以上たって自分の知らない彼の思い出を聞くとは思わなかった。

「1人で無理でも4人ならなんとかなる!あと12ページ、ガンバロー!」

「おおー」

すでに連日の徹夜でナチュラルハイのヒカルの呼びかけに3人は力なく同意した。



シンジュクシティ 歌舞伎町界隈 なかよし横丁 BAR花目子




まるっきり昭和40年代を思わせる内装のバーでウクレレを鳴らしつつ歌う女性が1人。

「一歩二歩三歩〜散歩のときは連れてって〜♪」

カウンターでプロスペクターが静かにグラスを傾けている。

「ママのお知り合いで?」

「戦友です」

カウンター横のコルクボードにはナデシコ時代の写真が幾つも貼りつけられている。
薄暗い店内にまた1人新たな客が入ってくる。

「隣、空いてます?」

店内だというのにバイザーを外さず青年は問う。

「ええ、どうぞ」

振り返りもせずプロスは着席を促す。

「お久し振りですプロスペクターさん」

「直接お会いしたのは一年以上前ですからね、カイトさん……いやミカズチさんとお呼びしたほうがよろしいですかな?」

ネルガル会長室警備部第三課。通称ネルガルシークレットサービス所属ミカズチ・カザマ。それが青年の現在の肩書きである。

「ま、ミカズチの方が有りがたいですね。そうそう、ミナトさんはオッケーです」

「その連絡は私も先程、ご本人からうかがいました。しかし、人が悪いですねアナタ」

「いやいや、プロスさんほどじゃないですよ」

「ハハハ、これは手厳しい」

人が悪い、というのはルリに会う条件を取りつけさせたことだろう。
どのみち自分はあの娘に直接会う日がそう遠くない内にくるだろうし、
ミナトの性格から考えてとても今のルリを見て「一度会ったら帰る」などできるワケが無いのは彼女を知る人間なら判りきっていることだ。
条件、などど言われながらも実はミナトがナデシコCに乗るように仕立て上げたにすぎない。
プロスはミカズチの分のカクテルを注文してから話を続ける。

「申し訳ありません。本来なら憎まれ役は私がするべきことでした」

「その件はいいですよ、久しぶりに彼女に会えて嬉しかったですし」

「棒の当たり屋そりゃバット、ブラに入れるはそりゃパッド〜♪」

静かな店内にイズミの歌が響く。……2年前も同じ歌を歌ってたような気がするがまあいいや。
目の前にスッとカクテルが差し出される。
ミカズチは一口だけ飲むと話を続ける。

「奴らの動向は?」

「その件に関してはゴートさんが調査中でして……」

『ミカズチ、お話まだ?』

少し苛ついた感情が頭の中に響く。そういえば店の前に待たせっきりだった。

「どうされました?」

「連れが待っているのに飽きたみたいで」

「おやおや、お姫様を待たせてはいけませんね」

「じゃ、もう行きます。……僕の方でも、もう何人か当たってみます」

カクテルを一気に空にして立ち上がる。

「ええ、お気をつけて」

閉める直前のドアの隙間からイズミの歌声が聞こえる。

「私の出番、これだけかぁ〜♪」

……これだけです。



ラピス・ラズリは店の前に静かに座って待っていた。
「子供はこういうお店に入ってはいけません」とミカズチに言われたからだ。
透き通る程の白い肌に輝く金の瞳、まぶしいほどの銀髪は街の光彩を映して神秘的に揺らぐ。
少女は数分でじっとしているのに飽きて光に彩られた街を眺めていた。
目の前を通り過ぎる人々が一様にラピスの外見に目を奪われる。
幸い、変なちょっかいをかける酔っ払いはいない。

「!!」

ラピスの視界に一つの人影が止まる。編み笠を被った男が1人。忘れようも無いあの男と同じ姿。
次の瞬間、ラピスは駆け出していた。路地の奥へ奥へと。恐怖から逃げるように。

(イヤ!)

彼女の思考はただそれだけに支配された。



「ハアハア……」

息が切れる。道をメチャクチャに走ったのでここがどこなのかすら判らない。
薄暗い路地裏、目の前が行き止まりだったので足を止めただけだ。
道が続いてさえいれば心臓が破裂するまで走っただろう。

―――退き返して、別の逃げ道を探さなきゃ。

そう思い振りかえるとそこに恐怖の主はいた。

「!」

息が止まる。恐怖のあまり叫ぶことすらできない。

「妖精、ラピス・ラズリだな?」

「……イヤ」

消え入りそうな声でつぶやく。恐怖の毒は既に頭だけでなく身体全体に及んでいた。

「我々のラボに来てもらおう」

一歩一歩、じりじりと近づいてくる。

「……イヤ、イヤ」

もはや男の声はラピスに届いてはいない。ただ震えているのがやっとだ。
背中に固い感触、壁だ。もうこれ以上後ろへはいけない。

「心配することは無い。栄光ある研究の礎になってもらう」

「私は…………イヤ」

もはや彼女の口から出る言葉は意味を成さない。
一年前、まだ彼らに囚われていた時に刷り込まれた条件反射にすぎない。
自分の全身が男の影に完全に埋まる。それだけで全身を掻き毟るような嫌悪感に襲われる。

「全ては新たなる――――」

「『秩序のため』ですか?」

「な!!」

今度は男が面食らう番であった。
路地裏の入り口に街の光を背に受けて1人の青年が立っている。
大きなバイザーと白いマントに身を包んだ男。顔の判別はできないがあの男だ。

「殺人傀儡。御神鎚風間(ミカズチ・カザマ)に相違ないな?」

ゆっくりとラピスからカイトに向き直る。
滑らかな動作で脇差に手をかける。

「北辰六人衆のひとりか、珍しいな個別に動くとは。……火星の後継者もよほど人材不足と見える」

「ほざけ!人形風情が!」

脇差を大きなモーションで投げる。
一本目の脇差は囮。本命は続けて投げた黒塗りの小太刀。一本目の動きと暗闇では見えないはずだ。
カイトは半身をずらして脇差を避ける。しかしその位置は絶好の小太刀の的。

(殺った!)

六人衆が一人、烈風は自らの勝ちを確信した。しかし、彼の予想は簡単に覆された。

「親分に比べて以外と幼稚な手を使うね」

言葉と共に左手の人差し指と中指で飛来する小太刀を事も無げに掴むとそのまま投げ返す。
もと来た軌道を正確に辿り小太刀は烈風を襲う。

「く!」

慌ててもう一本の脇差で叩き落す。
焦る事は無い、妖精はこちらにある。そう自分に言い聞かし顔を上げる。
しかし、そこにカイトの姿は無い。

「後ろだ」

淡々とした声が響く。
慌てて身を捻るがカイトの左拳で吹き飛ばされる。

「ち、浅いか……」

殴った瞬間、自ら後ろへ跳んで衝撃を逃がしたか。

「ラピス、ケガは無いかい?」

優しい口調で尋ねる。ラピスはただコクコク頷く事しかできなかった。
今、どうやって後ろに廻りこんだか全く解らなかった。
烈風は混乱する頭を落ち着かせるべく口を開く。

「なぜ、一刀目が囮だと気づいた?」

「答えは簡単。一刀目は元々当てる気が感じられなかった。二刀目に露骨に殺気がこもってたからな」

アッサリ答える。そんなマンガじゃないんだから気配を感じるなんて……。

「ともかく形勢逆転だな」

「ふざけた事を言うな」

そう、ふざけている。
確かに妖精は手元から離れたが状況だけ見れば路地裏に自ら閉じ込められたに過ぎない。
籠の鳥が一匹から二匹に増えてむしろ好都合だ。

「オレが言ってるのはそうじゃない。こちら側ならラピスに顔を見せなくて済む」

「意味のわからぬことを……」

再び脇差を構える。突き技の構え。
烈風は気づいていないかった。カイトの口調が変わっているのに。
ラピスは感じとっていた。彼の心が別の何かに変質してゆくのを。

「木連式抜刀術。この狭い路地では突きの技しかないな」

そう言いつつ、懐からコルトガヴァメントを取り出す。今から2世紀も前の古式銃だ。
無造作に地面を撃つ。途端に煙幕が辺りを覆う。

「めくらましか!下らぬ手を……」

気合を込めて一刀、煙幕が晴れる。そこには先程からへたりこんでいるラピスの姿しか見えない。

「何!」

後ろに振りかえる。しかし、僅かな光と雑踏が聞こえるだけで彼の姿は無い。

「残念、正面だよ」

何も無い空間からカイトが出現、左拳が軽く腹に当てられる。
反射的に烈風は後ろに跳ぶ。だが、それが命取りだ。
拳を当てたまま烈風と同じく軽く跳んだカイトは着地の勢いを踏み込みに転化。
爆音のような足音と同時に凄まじい衝撃が烈風の中で爆ぜる。
声も上げることすらできず、烈風は反対側の通りまで弾け飛ぶ。
積み上げられたダンボールとポリバケツが崩れ、盛大な音を上げた。

「木連式柔、浸透性打撃術だったか?確かお前らは『遠当て』と呼んでいたか」

相手の腹に直接拳を当てた状態で踏み込み、殴る。
相手の体の外側をも拳の一部として内臓に直接ダメージを与える技だ。
習得するのも大変なら実戦レベルで放てる人間は木連にも数えるほどしかいまい。
そのため先程のように相手の動きを重ねるなどの大道芸に近い前振りが必要なのだ。

「ぐぐ……」

烈風が身体を上げようとするがムダだろう。

「やめておけ、完璧に入ったから数分は動けまい」

「……先程後ろに出現したのも光学迷彩か?」

「ああ、さすがに目の前で使うとバレるけど、これだけ暗いと効果がある」

白いマントの光学迷彩を消してカイトの全身が出現する。

「……不覚」

「北辰に伝えろ。『本気で捕らえるなら全員で来い』……人形風情に不覚をとりたくなければな」

別人のように冷たい目で告げる。

「……それとも後々の障害は今のうちに叩いておくべきかな」

再びガヴァメントを構える。

「一発目は煙幕弾、二発目以降は実弾だ。まだあと七発ある……試してみるかい?」

烈風は目の前の青年に恐怖した。
命のなど別に惜しくはない。しかし、目の前の人形が放つ殺気は尋常ではない。
これではまるで我らの主、北辰様と同じ……。

「バイバイ」

引き金を弾こうとしたその時。

『ダメ、ミカズチ!』

頭の中に声が響く。小さく消え入りそうだが綺麗な感情。ラピスだ。
その声を聞いた瞬間、カイトの中の殺意はアッサリと霧散してしまった。

「……わかったよラピス。とりあえずコイツの身柄を拘束しよう」

銃をしまい、烈風に近づく。しかし、相手は不敵に笑っている。
動かない体で逃げることすらままならぬというのに。

「跳躍」

瞬間、烈風の身体は光と共に掻き消えた。

「なるほど、タイマーセットしておいたジャンプユニットで逃げたか」

短距離ジャンプだろうがおそらくはもう追いつきはしまい。
始めからラピスのみをさらう手はずなら逃走用の車か何かの所へ跳んだはずだ。
今頃は仲間に連れられ何処かへ逃走、といったところだろう。

「ラピス、大丈夫かい?」

へたりこんだままの彼女に膝を折って、目線を合わせる。
視界にカイトを捕らえると彼女の目に徐々に生気が戻ってくる。

「ミ……ミカズ…チ?」

「ああ、もう安心だ」

「ミカズチ!」

弾けるように抱き付いてくる。

「たっくバカだなぁ、店の中に逃げ込んでくればよかったのに」

落ち着かせる為に彼女の背中をなでる。

「それが無理でも精神同調で呼べばこんなに探し回らなくてすんだのに」

「だってだって……」

泣きじゃくるラピス。

「そうだね、ゴメン。君を一人にした僕が浅はかだった」

優しく抱きしめてやる。
遠くでサイレンの音が聞こえる。誰かが通報したのだろう。
人気の無い裏路地とはいえあれだけ派手に立ち回ればしかたないだろう。

「面倒になる前にココから移動しよう。行くぞラピス」

彼女はイヤイヤと押し付けた頭を振る。どうやら離れたくないらしい。

「まったく、しょうがない娘だ。……よし行こう」

……まるで娘をあやす父親のようだな。
自分の考えに苦笑しつつ左腕一本で彼女を抱き上げる。
そのまま二人は夜の闇へと消えて行った。



2199年 木星プラント




数人の男がこちらに迫ってくる。
足音から考えて10人弱といったところか。
棺と化した機械が開けられ無理やり運ばれる。

―――そうだ、それでいい。この展開こそ僕の『望んだ』未来。

僕を囲む男の内の一人がもう一つの棺に気づく。

―――やめろ!彼女は関係無い!

まるで新しいオモチャを見付けた子供の様に白衣の男は目を輝かせる。

―――彼女の眠りを妨げるな!

乗せられた担架から飛び起きる。周りの人間は起きているとは思わなかったのだろう。
慌てて取り押さえようとするがまるで統制が取れていない。
一人の男の腕を取り軽く触れた、ように見えたのだろう周りの人間には。

「がああああああ!?」

一瞬で男の右腕の間接がひとつ増えた。
男の手からこぼれ落ちる拳銃を空中でキャッチ。
そのまま流れるような動きで後ろに振りかえり羽交い締めにしようとした大柄な男の太股を撃ちぬく。

「ぐあああっ!」

そのまま左側の男に銃を軽く放り投げる。つい反射的に受けとってしまう男。

「へ?」

その刹那で男に肉薄、一撃でアゴを跳ね上げ昏倒させる。
崩れ落ちる男の先に彼女の棺を開けようとする人間を視界に捉えた!
二歩の踏み込みで白衣を着た男に襲いかかる。
恐怖に歪む男の顔。白衣の横に付けられた名札に『ヤマサキ・ヨシオ』と書かれているのが見えた。

―――彼女に触れるな!

右拳が男の顔面を捉え、吹き飛ぶ。

―――もう一発!

大きく左腕を振りかぶる。しかし、その拳が下ろされることはなかった。
振りかえると編み笠をかぶった一人の男に腕を掴まれている。

「少々、遊びが過ぎるな人形よ」

他の人間とは明らかに違う気配を纏った男が唇の端を吊り上げ笑う。
相手の言葉に答えず無言で右腕を振るう。しかし、拳は宙を薙いだだけだ。
白衣の人間に背を向け油断無く新手の編み笠と対峙。しばし、睨み合う。

「斬」

それだけいうと編み笠は懐から一本の太刀を取り出した。
ほぼ同時のタイミングで駆け出す。
大振りなモーションで右腕を振るう。

「甘いな」

易々とパンチをかわし編み笠の凶刃ががら空きの右脇にせまる。

―――甘いのはそっちだ

元々、右拳は当てるつもりは無い。相手の攻撃を誘うためのものだ。
右腕の軌道を変えて腕にワザと刃を突き刺させる!
肉の繊維がぶちぶちと千切られる感触。

「!!」

編み笠の顔が初めて驚愕に歪む。
刃は抜けない。骨に引っ掛けているのだ。

―――スキあり!

左手が編み笠の目を潰すべく迫る。
眼球を潰す感触と背中から撃たれた衝撃を脳が感じ取ったのは、ほぼ同時だった。

―――な!?

崩れて行く体を無理に捻ると白衣の男が銃を構えていた。どうやらこいつに撃たれたようだ。

「戦闘における動き。これすなわち全て伏線と心得よ」

―――そうか最初から僕の動きを止めておくのが目的で……。

冷たい床に身体崩れ落ちる。

「北辰様!大丈夫ですか?」

「片目が潰されただけだ、問題ない」

力を振り絞って顔を上げると編み笠は左目から血の涙を流しながらこちらを見る。

「我が名は北辰。覚えておくが良い、風間の姓を持つ殺人傀儡よ」

―――ほくし…ん?

唇が動くも声を出せていたかどうかは怪しかった。

「悔しかろう、憎かろう?自らの力が及ばず愛しい女を奪われるのは」

流れ続ける血も拭わず歪んだ笑みを向ける。
北辰の視線の先を追うと彼女の入った棺が開けられようとしていた。

―――やめ…ろ、これ以上彼女を…踏み……にじる…な!

「汝らは我が結社のラボにて栄光ある研究の礎となるがよい」

―――僕はいい。『知ってて望んだ』ことだ、でも彼女は!

「全ては―――」

もう北辰の言葉も聞き取れない。意識が薄れる。

「全ては―――」

何度も頭の中で声が響く、自分の意識が急速に暗闇に呑みこまれて行くのがわかる。

「全ては―――」

―――北辰。貴様だけは、貴様だけは殺す!

殺意を込めた視線で北辰と名乗った男を睨んだあと僕は気絶した。



「全ては新たなる秩序のため!」





「北辰!!」

自分の上げた声の大きさに驚いて目を覚ます。

「……夢?」

呼吸が乱れ、脈打つ自分の心臓の音がやけに耳障りだった。
一度目を閉じゆっくりと深呼吸してから再び目を開く。
そこはもう木星プラントではなかった。
ネルガルの孫の孫会社あたりが経営するシティホテルの一室。
シークレットサービスの人間が臨時のセーフハウスとして使うこの部屋が今日の寝床であった。
あの後、しがみついたまま離れないラピスを連れてホテルへ行き、なんとか彼女を寝かし付けて自分もようやく眠りについたところだった。
妙に身体が重い、夢見が悪いのもそのせいだったのだろうか?
しかし、金縛りや疲れとは違うような……。
不信に思い布団を上げるとそこには……。

「コラ、なにしてる」

思いっきり人の上でスヤスヤと寝息を立てているのはラピスだった。

「起きなさい、ラピス」

「んー?」

「『んー?』じゃない、起きなさい!」

身を起こして眠そうに目をこする。

「……なんで僕の布団に君が入っているんだ?」

「だって、怖いんだもん」

「だからって年頃の娘が男のベッドの中に入ってくるんじゃない」

呆れながら横を見ると先程まで彼女の寝ていた空のベッドがひとつ。

「まったく道理で夢見が悪いワケだ。こんな重りが載ってるとは」

「私、重くないよ、エリナの体重の2/3だもん」

「……そういう発言はくれぐれも本人のいない所だけな」

本人に聞かれたら(僕の)命が危険に晒されそうな発言を咎める。

「とにかく降りなさい、重くてかなわん」

「えー」

「えーじゃない。……別にベッドに戻れとは言わないから」

そう言って彼女を自分の左横に移す。

「明日も出かけるからもう寝なさい」

「了解」

銀髪の少女の頭優しく撫でてやる。
元々、眠っていた所を無理に起こされたからか、すぐに寝息を立て始めた。
自分の右腕に巻かれた髪留めのゴムを見る。

「……ルリ」

なんとはなしに元の持ち主の名を呼んでみる。
……そういえば2回ぐらいこうして彼女が横に寝ていたことがあったな。
ふと、昔を思い出す。
一度目は疲れて潜り込んでしまった時、二度目はあの木星プラントに行く直前か。

「おやすみ」

地球のどこかいるだろうルリを思いながら目を閉じた。



ベッドの中、ラピスは固く目を閉じたまま起きていた。

(また、『ルリ』の事を考えている)

ラピスは彼の減退した五感を補う為にIFSでリンクさせているのだがその副作用で二人の精神の一部が繋がっているのだ。

「もともと、彼らには精神同調と呼ばれるテレパシーみたいな能力があったみたいね」

あまりにも説明が長すぎたので子細は忘れてしまったがリンクした自分にも彼とだけは心で繋がることができる。と、ドクターは言っていた。
ミカズチは自分が彼の心にリンクすることを咎めはしなかったし、自分も特に気にしてはいなかった。
昔から彼の奥底にあったその感情はアマテラス戦以来、顕著に現われている。
『ルリ』という自分と同じ少女に対する思慕が。

彼女は特に未来への展望という物を抱いた事が無かった。
元々そんなことが望める身分ではなかったし、彼に助け出されてからは死ぬまで共にいると思っていた。

しかし、最近は不安になる。全てが終わった後、自分を捨ててルリの元に行ってしまうのではないかと。
結局、自分はミカズチにとってルリの代わりでしかないのかと。

そう考えると彼女はルリと同じである、自分の金の瞳も、銀の髪もすべてが憎かった。

人はその感情を嫉妬と呼ぶのだろう。
けれども、彼女はその感情と折り合いをつけるにはまだ幼すぎたし、純すぎた。

今はまだいい。彼の戦いが続く限り自分はまだ彼に必要とされる。

この心の痛みすら、彼が与えてくれるモノならば自分にとっては喜びだと、そう自分に言い聞かせて少女は眠れぬ夜を過ごした。









おまけ・対談式あとがき第4話


作 者「どーも、あとがきのコーナーのお時間です。今回は地球に通信を繋いでいまーす」

ジュン「ど、どうも」

作 者「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。ユキナ嬢も呼んでないんで毅然としてれば」

ジュン「そ、そうですか。オホン、連合宇宙軍中佐アオイ・ジュンです」

作 者「それでは今回の裏話なんかを」

ジュン「確か初めはBパート全部書くっていってましたね?」

作 者「そうそう、なんでこんな長くなったかっていうと……」

《この空間が強制ハッキングを受けています》

ジュン「な、なんだ?」

《アオイ・ジュン様との通信が切断されます》

《この空間に新たなゲストが入室しました》

ル リ「みなさんこんにちは。宇宙最強のヒロイン、ホシノ・ルリです」 

作 者「うわ、前回に続いてまた乱入しにきたよ。つーかナデシコCが無いのに人のパソコンシステム掌握するとはどういうことだ」

ル リ「あなたのマシンぐらいオモイカネと私の力でお茶の子さいさいです。それよりどーゆーつもりですか!?」

作 者「どーゆーとは?」

ル リ「ルリ×カイトと言ってるハズなのに今回は完全にカイト×ラピスじゃないですか!」

作 者「いや、本来は作者としてもラピス関係はサラッと流すつもりだったんですが書いてる内に情が移っちゃって」

ル リ「情が移るって犬や猫じゃないんだから……」

作 者「いいじゃん、(多分)世界で唯一のカイト×ラピスSSってことで」

ル リ「よくありません!怒りますよ!」

作 者「(もう怒ってるじゃん)まあ、とにかくカイトサイドの描写が膨らみすぎちゃって一回で書ききるつもりが前後編になっちゃいました」

ル リ「一体いつになったらカイトさんと再会できるのやら」

作 者「次回はカイトが誰に会いに行くか次第で長さが変わりそうです」

ル リ「もう面倒なんでホントにメグミさん関連エピソード全部カットしましょうよ」

作 者「ヒロインだからってなんつー発言。それもなぁ、ネタは一応あるし」

ル リ「そうそう、今更ながら言っておきますが本作のカイトさんは「『虚空』の遺産」から「うずもれた『恋のあかし』」の途中で」

作 者「一回「キミがめざす『遠い星』」に寄り道して最終的に「『思いで』は刻のかなたに…」をクリアしたという設定になっています」

ル リ「一口に『カイト』といっても世間にはいろんなパターンがあるのでキチンと最初に言っておくべきでしたね」

作 者「うーん迂闊だったねぇ。そんなわけ基本的なカイトの設定はシナリオ3に準拠します」

ル リ「少々余計なものも少し加わってるような……?」

作 者「まあ、それも許容範囲内でしょう。精神同調だってゲーム中にイツキのテレパシーが木星と地球という距離に関わらず届いてるんだし」

ル リ「そういう能力があっても不思議ではないと?」

作 者「そーゆーこと」

ル リ「うーん納得できるような、できないような」

作 者「まあ、いつかなぜなにナデシコでまとめて『説明』してもらいます。裏話や設定全部含めて、それじゃお時間です」

ル リ「次回、機動戦艦ナデシコ劇場版改竄録」

作 者「ザ・プリンス・オブ・イレギュラー第5話!」

二 人「「『恋』する少年少女たち」をお楽しみに」



ジュン「……あのー僕の出番はこれだけ?」

《第4話のあとがきが終了します》



続けば?



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