“星の数ほど人がいて”




「う〜ん。もうちょっと寝させて、むにゃむにゃ」


「かわいい声だしてもダメです。起きて下さい」




“星の数ほど出会いがある”




「記憶が無いから今を大切にする。それでいいんじゃないですか」


「僕にとってルリちゃんは……いい“思い出”になりそうな気がするよ」




“そして――――――”



「ルリちゃん……」

「ごめん……僕はもうナデシコには戻れない」


「私にキス、してください」

「そうすれば……私にも変えることができるかも……」




“―――そして、別れ………”




――――それから、二年半の月日が流れた。




第1話「『思いで』は刻のかなたに…」





2201年6月中旬 トウキョウ 連合宇宙軍病院 特別病棟707号室




病院の個室。まばゆい程の青空に蝉時雨が響く中、黒髪の青年が静かに眠っている。
見た感じでは異常なところなど何も無いように見える。
……かれこれ、二年ほど目を覚まさないところを除けばだが。
備え付けのイスに腰掛けた長い髪を二つに束ねた少女が一人。
静かに本―20世紀の詩集―を読んでいる。
ふと、部屋の時計を見ると8時を回っている。そろそろ、時間だ。

「それじゃ三回忌のお墓参り、行って来ますね」

サイドテーブルに置かれている四人の男女が写った写真立てを一瞥し、
少女―ホシノ・ルリ―は物言わぬ部屋の主にそう挨拶すると病室を後にした。



同年7月31日 午前7時 第八番ターミナルコロニー『シラヒメ』




管制室の中を慌しく人が行き交う。敵襲。

「ボース粒子増大!」

「なに!?」

何も無かった空間が波打つように歪む。次の瞬間、漆黒の機動兵器が出現した。



コロニー職員専用通路をおよそ不釣合いな格好をした7人が歩いてゆく。
彼らの通った後にはおびただしい数の死体が無造作に転がっている。
またしても目の前の男の喉を一突き。殺人になんの感慨も抱かないらしい。
白衣の男が怯えながらも喋る。

「まってくれ、我々がいなくては研究が……」

編み笠をかぶった男達はこともなげに言い放った。

「機密保持だ」



モニターに映されたターミナルコロニーを機動兵器のパイロットは万感の思いで見上げた。

(……シラヒメ。ここに『彼女』がいるのか……)

青年は薄く唇の端を吊り上げ笑う。

(ここにこぎつけるまで、どれほどの犠牲を払ったか)

(しかし、ここまでくればもはや歴史の流れの改竄は不可避)

「さあ、行こう」

何の感情も込めずにつぶやくと、呼応するように右腕のIFSが輝いた。
鳥を思わせる機動兵器が加速、一瞬にして最高速に達した。
防衛ライン上に配置された数多のステルンクーゲルを蹴散らし、蹂躙する。

「うわぁぁぁぁ!!」

「なんだ、捉えきれない!」

幾多の銃撃をこともなげに潜り抜ける。

『パープルアイ、後退しろパープルアイ!』

目標の進路を塞ぐ機動兵器を体当たりで排除する。

「うわっ!うわぁぁぁぁぁ!」

(殺しはしないさ。少々、おとなしくしてもらうけど)

敵機の通信を聞き流しながら、青年はつぶやいた。
目標は中心部のラボ。フィールドを全開にし、隔壁をブチ破りつつ突っ込む。
酸素に満たされたラボの中にガラスの割れる音が派手に響く。

「な……!」

しかし、そこには目的の物は既に無く、大量に職員の死体が横たわっているだけだ。
部屋の中心にいる時代錯誤もはなはだしい7人組。中央の男には見覚えがある。

「既に『女』の移送は完了した。徒労だったな」

「同胞まで殺すのかよ!北辰!」

「遅かりし復讐の時。未熟以外の何者でもないわ……滅!」

次の瞬間、空間は閃光と爆発に飲み込まれた。



「シラヒメ、シラヒメ!応答してください、シラヒメ!」

「負傷者の救助を最優先!フィールド展開しつつ、接近!」

浮き足立つオペレーターたちに艦長の指示が飛ぶ。
救難信号を傍受した連合宇宙軍第三艦隊所属『アマリリス』が到着したとき、
既にシラヒメは無残な姿を晒しつつあった。

「ボース粒子の増大を確認!何者かがジャンプアウトします!」

「何!?」

スクリーンに映された異形の機動兵器が徐々に実体化してゆく。

「何だ、アレは!?」

完全に実体化した漆黒の機動兵器が爆発の炎に照り返されて不気味にたたずんでいた。



「失敗……か。まあ、予定通りなんだろうけどさ」

崩れ、無重力に従い拡散してゆくシラヒメを機動兵器の青年は忌々しげに睨み付ける。

「任務失敗、撤収する。ラピス、軍の索敵センサー外の適当なところで拾ってくれ」

「了解」

通信を切ると、黒い機動兵器は虚空に掻き消えた。



「ボソンジャンプ?あれは……一体」

事態の変移について行けず、アマリリス艦長―アオイ・ジュン―は呆然とつぶやいた。










機動戦艦ナデシコ劇場版改竄録
〜The prince of irregular〜











同年8月2日 地球連合・緊急事故調査委員会 査問室




「何故、こうもヒサゴプランが襲われる?」

「先月1日の『タカマガ』を皮切りにこれで4つ目ですな」

「本当に見たのかね?アオイ中佐」

Uの字型に配置された机の内側でジュンが強い口調で答える。

「確かに見ました。アレはボソンジャンプです!」

「全高8メートルクラスの機動兵器が跳躍ねぇ」

「誤認だというのですか!?」

「落ち着きたまえ、中佐」

「現時点ではそんなサイズでジャンプ可能な人型兵器など作れない。というのがネルガルにクリムゾン、木連技術省における共通の見解なのだよ」



「クソォ!」

腹立ち紛れに壁を殴る。左ストレートだ。

「こらこら、物にあたるのはいかんよ」

先ほど査問室でメタクソに叩かれたジュンをムネタケがなだめる。

「あいつら、ハナっからやる気が無いんだ。後は統合軍に任せる?宇宙軍をバカにしやがって!」

よほど腹に据えかねているのか録音されて軍法会議に提出されでもしたらエライ事になる発言をしつつ肩を震わせている。

「かくして連合宇宙軍は蚊帳の外、統合軍と委員会の合同捜査とあいなり」

「参謀!!」

まるきっり他人事のような口調のムネタケを咎める。

「はは、確かに黙って見てるのもシャクだからねぇ。早速、行ってもらうことにしたよ、ナデシコにね」

「ナデシコ?」



同年8月9日 試験戦艦ナデシコB




「おはようございます、みなさん」

《おはようございます、ルリさん》

ブリッジに彼女が入るとクルー全員とオモイカネがピシっと目礼する。
……いや、コンピュータまで挨拶しているというのに一人だけぐでーっとした格好でモクスポ(定価150円)を読んでいる男が一人、高杉三郎太大尉がいた。

「ああ、艦長。おはようさんっす。どこの新聞も『幽霊ロボット』で持ちきりっすよ」

とてもじゃないが軍人とは思えない、いい加減な挨拶を新聞から目も離さずする。

「タカスギ大尉、もう少しキチッとできないんですか?」

反対側の席に座った少年、マキビ・ハリ少尉は不愉快な顔を隠そうともしないで注意する。

「へいへい、マキビ少尉はいつも真面目だねぇ」

「サブロウタさん!」

「ハーリー君、別に艦の中でそんなに肩肘張らなくても大丈夫ですよ」

声を荒げるハーリーをやんわりとルリがいさめる。

「そうそう、艦はウチも同然、クルーは家族と同義ってね」

しれっと言葉を続ける。

「まったくもう。これからアズマ准将に会いに行くっていうのにそんな調子で……」

ブツブツとぼやくハーリー。齢11歳にして胃に穴が空きそうな少年である。

「艦長、前方にターミナルコロニー『タキリ』を確認」

その声でハーリーのぼやきが中断される。

「ルート確認。タキリ、サヨリ、タギツを通って『アマテラス』へ」

一転してブリッジの空気が引き締まる。

「光学障壁展開」

「ナデシコB、速度このままでチューリップへ進入。各員最終チェックよろしく」

ルリの声と共にオペレーターの報告が次々と入る。

「通信回路閉鎖」

「生活ブロック準備完了」

「エネルギー系統OK」

「艦内警戒体制パターンBへ」

「フィールド出力異常なし、その他まとめてオールオッケイ!」

《よくできました》

チャイムと共にウィンドウが開く。
虹色の絵の具をぶちまけた、としか表現しようのないチューリップ内部に完全に侵入する。

「フェルミオン=ボソン変換順調」

「艦内異常なし!」

「レベル上昇中。6、7、8、9……」

「じゃんぷ」

ポツリ、とつぶやいた瞬間ナデシコBはジャンプした。アマテラスへと。



ターミナルコロニー『アマテラス』




「座標確認、ターミナルコロニー『アマテラス』です」

(しかし、世の中便利なったもんだねぇ。)

ハーリーの報告を聞き流しながらサブロウタはしみじみと考える。

(一昔前は地球も木連も短距離ジャンプすら命懸けだったてのに。いまや高速道路と同じ扱いだもんな)

「オモイカネ、管制システムにアクセス」

「ようこそ、アマテラスへ」

目の前のウインドゥにCGの管制官が出現する。

「こちらは地球連合宇宙軍第四艦隊所属、試験戦艦ナデシコB。誘導、お願いします」

「さぁて、これからが大変だぁねぇ」

「サブロウタさん!」

どこまでいっても緊張感の欠落したサブロウタにハーリーがカッとなる。

「航行システム、アマテラスにコネクト。車庫入れお任せします」

「了解」

後ろのじゃれあいをさして気にせず、ルリは淡々と入港手続きをしていた。




――――このとき、私はまだ知らなかった。歴史が繰り返されることを――――










おまけ・対談式あとがき


メグミ「どーも、お耳の恋人メグ姉ことメグミ・レイナードでーす」

作 者「皆さんはじめまして、作者です」

メグミ「で、ここはどこなんです?」

作 者「作者のパソコンの中ですよ、メグミさん」

メグミ「なぜ、こんな所に呼ばれたんでしょうか?」

作 者「実は文章書くのも初めてなら投稿するのも初めて、当然あとがき書くのも初めてのはじめてづくしなんで司会進行を手伝ってもらおうかと思いまして……」

メグミ「なんで私なんです?作品の性質上、カイト君やルリちゃんがでるのが妥当じゃないんですか?」

作 者「キミは劇場版で影うすいし、本作でもあんまり出番割り振れそうもないから……」

メグミは正拳突きで攻撃。
作者のみぞおちにヒット!
作者は35のダメージ!


作 者「げふっ。そ、それはシナリオ4で猛威をふるった鉄拳……」

メグミ「ふふん、劇場版を再構成するのに私の出番を増やさないという暴挙に出るとは愚かね」

作 者「キャラ変わってるし……」

メグミ「フン、その程度の筆力だから一話だってのにオリジナル要素がカケラも入ってないのよ」

作 者「ぐはぁ!」

メグミの精神攻撃!
クリティカルヒット!!
作者は1472のダメージ!!!


メグミ「(笑顔で)何か言いたいことは?」

作 者「……ごめんさい」

メグミ「よろしい、ならばチャッチャッと進行しましょう。じゃあ、この話を書き始めたキッカケは?」

作 者「今年の五月下旬に初めてこのサイトを見て、一連の作品(特に海苔さんと異界さん)に多大な影響を受けまして自分も書いてみたいなーとか思いまして」

メグミ「優等生っぽい受け答えねぇ〜」

作 者「一個目の質問でどうボケろというんだキミは」

メグミ「……まあ、いいわ。(カンペに目をやる)次に本作の内容は……ってどうでもいいわこんなの」

(ビリビリと破り捨てられるカンペ)

作 者「あーなんてことを!」

メグミ「と・に・か・く!私の出番を増やしてもらうわ」

作 者「しない場合は?」

メグミ「地獄へ行く。作者、(書き直して)投稿しろ!」

メグミは大きく息を吸い込んだ。
メグミは力をためている!
作者は北辰風の笑みを浮かべた!


作 者「……跳躍」

メグミ「なにぃ!」

作 者「メグミ・レイナード。二度と会う事もあるまい。わははははは!」

メグミ「単独の……ボソンジャンプ!?」

作 者「それじゃー皆さん次回、第2話「『改竄』の幕開け」でお会いしましょー!わははー!」

メグミ「ちょっと、まちなさい!まちなさーい!……まてぇコラァ!!」



……続く……かもしれない。



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