NADESICO WARS 2196 

〜Memory of Battlefield〜





プロローグ1






善や悪を語ることなど、もはや無意味である―――










2193年12月、木星探査船『ネオ・ジュピター2』が木星の大気圏内で謎の構造物を発見した。

しかし、直後にネオ・ジュピター2は何者かによる攻撃を受け破壊される。

翌2月、これを受けて火星より発進した調査船団は木星付近で謎の『敵』と遭遇する。

そう、それはまさに『敵』だった。

彼らが調査船団に向けたのは敵意以外の何者でもなく、瞬く間に船団は撃破されてしまった。

同4月、アステロイドベルトにて地球連合軍戦闘艦隊群第4艦隊の先遣部隊が敵と交戦状態に突入する。

だが敵の技術力は地球のそれを凌駕しており、部隊は壊滅してしまう。

この敵は『木星蜥蜴』と呼称された。

その後も木星蜥蜴の侵攻は止まらず、ついに火星にまで到達する。

連合軍はこれに対し、火星軌道艦隊に加え、第2、第4、第7艦隊、及び第3機動艦隊を投入して対抗した。

後に言う第一次火星会戦である。

戦いは熾烈を極めた。

連合軍の主力は『エステバリス』と呼称される人型機動兵器であったが、『ディストーションフィールド』と呼ばれる防御機構を持つ木星蜥蜴には歯が立たず、撤退を余儀なくされてしまう。






そして2195年6月、ついに木星蜥蜴は月軌道に到達した。






さあ始めようか。


戦場で紡がれた、戦いの物語を―――



















▼2195年6月 月軌道上 巡洋艦アドニス


 彼女、ラビオ・クラインは見た目はごく普通の少女だった。
 容姿は、一言で言えば美少女。肩の少し上まで伸びた青みがかかった黒髪に、グリーンの瞳。若干幼さの残るその顔は、いたずら好きの子猫を連想させる。
 しかし、そんな彼女には他の人間には無い能力があった。その能力のおかげで彼女は現在、月軌道上の戦艦に乗っている。しかもパイロットスーツを着て、機動兵器のコクピットに収まったまま。
 彼女は、連合軍の月教導団に所属するパイロットだった。そこで彼女は、対木星蜥蜴用の次世代機動兵器の開発にテストパイロットとして参加していたのだが、その新型の開発が先の火星会戦には間に合わず、連合軍は敗北。ついに木星蜥蜴は月に侵攻してきた。
 遊ばせておく戦力など無い連合軍は、月教導団から実働可能な戦力を抽出し一個の部隊として月軌道に配備した。それにラビオも組み込まれたのだ。

「クライン少尉、機体の方はどうだ?」

 機体のコクピットで待機していたラビオに、通信が入った。機攻部隊(機動兵器からなる部隊)の隊長を務めるロバート大尉だ。

「問題ありません。この子の扱いは慣れています」

「確かに、『それ』のテストは君がやっていたからな」

 大尉が『それ』と呼ぶもの、ラビオが乗っている『XR−9α エーザ』は、対木星蜥蜴用次世代機動兵器開発計画、通称『N計画』で試作されたうちの1機だ。それまで連合軍の主力であったネルガル重工製の人型機動兵器『エステバリス』を元に、様々な最新技術が惜しげもなく投入され、既存の兵器を遥かに凌駕する機体となった。
 しかし、高性能ゆえのコストの高さが原因で量産はされなかった。実際に量産されたのは、同時に開発されていた『XR−9β ナーガ』だ。
 バランスに優れたこの機体は、正式採用された現在『AR−9 エステバリス・ナヴィ』という名称になっている。
 現在、月防衛部隊の機動兵器は7割が『ナヴィ』に換装されている。今回の戦いには、ぎりぎり間に合ったという所だ。

「少し気難しいけど、『エーザ』はいい子です。大尉のナヴィはどうですか?」

 この部隊もラビオのエーザ以外は全てナヴィが配備されている。

「素直な機体だな。反応系もいい感じだ。もっとも、キミのエーザには負けるがね」

 大尉がそう言った直後、別の通信が入った。艦長から全クルーに向けての放送だ。

『告げる。こちら艦長。先ほど敵が第2次防衛ラインに到達したとの報告が入った。これより我々は担当戦域をD3エリアとし、迎撃戦を開始する。この部隊は急遽編成されたものだが、諸君は精鋭揃いだ。自らの職責を十二分に果たしてくれると信じている。以上だ』

「よし、機攻部隊は3分後に発進する。遅れるなよ!」

 ロバート大尉の声に、ラビオは鼓動が速くなるのを感じた。実戦は初めてだ。怖くない訳がない。
 手のひらに汗がにじんで来る。ラビオは大きく息を吐いた。
 その時、コクピット脇の機体コンディションウィンドウに『オールグリーン』の表示が浮かび、続いて正面のメインディスプレイに文字が表示された。

〈Ready? RABIO〉

 エーザはこう言っていた。

 ―――準備はいいか?ラビオ

 ラビオはそれを見て、エーザが自分を励ましてくれているように感じた。自分は一人ではない。エーザや、そして仲間たちがいる。そう思うと、急に落ち着いてきた。

「行くよ、エーザ」

 リニアカタパルトから一気に射出。エーザは星の海へとダイブした。




 ▼月軌道上 D3エリア


 戦況は五分五分だった。8機編成で出撃したラビオ達の部隊は、5番機を落とされ一時押され気味であったが、後方から増援部隊が到着したことで勢いを盛り返していた。

 ラビオは右からの圧迫感を感じて反射的に回避行動に入った。直後、機体の横をマシンガンの火線がかすめた。そのマシンガンを放った敵を正面に捉える。バッタと呼ばれる木星蜥蜴の無人兵器だ。
 ターゲット・インサイト。ロックオン。ラピッドライフルのトリガーを引く。弾丸がバッタに直撃。
 ディストーションフィールドを突き破り、本体が爆発に包まれた。ディストーションフィールドは木星蜥蜴が持つ一種のバリアだ。空間を歪めている為に光学兵器は射線を捻じ曲げられてしまう。連合軍はこれの実用化を最優先とし、ナヴィ、及びエーザに局所的ながら実装することに成功している。
 ラビオは再び圧迫感を感じた。今度は下方。
 驚異的なまでに洗練された第六感。それが彼女の持つ特殊な能力の正体だ。
 バッタの射撃。回避はしない。はずれると直感で認識しライフルで反撃。―――撃破。
 ターゲット撃破の報告にホッとしたのも束の間、コクピット内にアラートが鳴り響いた。見ると、広域レーダーに巨大な移動物体が映し出されている。戦艦クラスだ。

「チューリップ!?」

 それは、チューリップと呼ばれる木星蜥蜴の大型空母だった。まっすぐに月に向かっている。

「まさか、月に落とすつもり!?」

 ラビオは思わず叫んでいた。
 エーザが即座にコース計算。出てきた結果は、月最大の都市『アポロ・シティ』への直撃というものだった。

―――止めないと……!


 ラビオは機体をチューリップへと向けた。しかし即座にチューリップの周囲にいたバッタが行く手を塞ぐ。

「どいて!!」

 迫りくるミサイルを強引にかいくぐり前に出ようとする。しかしバッタ達はそれを見透かした様にエーザを取り囲んだ。味方がやられても躊躇せず、数でエーザを抑えようとする気だ。
 大量のバッタに囲まれて、ラビオは身動きが取れなくなった。そこで彼女は、自分が担当戦域を大きく外れていることに気付く。

―――こんなくだらないミスをするなんて……!

 ラビオは唇を噛んだ。しかし今更言った所で遅い。ラビオが諦めようとしたその時、横殴りの弾丸が側面のバッタ達に襲い掛かった。
 エーザが高速で接近する機体があることを伝えてきた。IFF(敵味方識別装置)の表示は、味方。
 続いて正面のバッタが攻撃を受けて破壊される。
 その機体はエーザを上回る速度でバッタの群れに切り込み、次々と屠って行く。瞬く間にエーザの回りの敵は撃破された。その機体から通信が入る。
 ウィンドウに映る、『サウンド・オンリー』の文字。

『そこの機体、無事か?』

 若い青年の声だった。慌てて答える。

「だっ、大丈夫です……あなたは?」

『クリュウ少尉だ……、一旦そこの残骸の陰に退避しよう。ついて来てくれ』

 そう言うとそのパイロット、クリュウ少尉は、近くに浮かんでいた戦艦の残骸の影に機体を移動させた。ラビオも慌ててついて行く。
 その機体は、全身ブラックにカラーリングされていた。全長八メートルのエーザより二回りほど大きい。脚部はスラスターと一体化しており、肩アーマーは大きく張り出している。両腕には、大口径のハンドカノン。
 見たことも無い機体だった。

『その機体、サレナの3番目の子供か……』

いきなりクリュウ少尉が呟くように言った。

「サレナ?」

『この機体の事だよ。ブラックサレナ、N計画で最初に開発された機体だ。っと、そんなこと言っている場合じゃなかった。あのチューリップを止める為に援護してくれないか』

「でも、もう突入コースに……」

 既にあのチューリップは月への突入コースに入っている。完全に消滅させない限りどうしようもない。当然、それを可能とする武装など持っていない。

『少しでも減速させることが出来ればいいんだ。そうすれば後は何とかなる』

「何とかって、一体どうするの?」

『突入角をずらして落下速度を低下させれば、後続の艦隊が破壊してくれる。あれが落ちれば俺達の負けだ。君だって負けるのは嫌だろう?』

「えっ?」

 唐突な問いに、一瞬戸惑う。同時に、なぜ自分がここにいるかを思い出した。

―――何も出来ないのが、嫌だから……!

「そう……ね。ええ、負けるのは嫌!」

『決まりだ』

 クリュウ少尉が言った。

『先端部を破壊すれば、爆発の反動でブレーキがかかる筈だ。時間を稼げればいい。俺が切り込んで、周りの雑魚を蹴散らすからキミが破壊してくれ』

「分かった」

 ラビオはAS(武装選択)パネルからレールカノンをセレクト。機体後部に折り畳まれていたレールカノンを展開させて、脇に構える。

「いきましょ」

 ラビオがそう言うと、相手は頷いてから、

『ああ、そういえば……』

「?」

『君の、名前は?』

 言われてラビオは、自分がまだ名乗ってない事に気付いた。

「ラビオ・クライン少尉よ」

『よし少尉、行こう!』

 そう言うとブラックサレナは一気に飛び出した。










NEXT・・・



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