Blackonyx Typhoon!


「3人で……」

シックル





 ピチャッ…… ピチャッ……



 密室に、湿った音が響く。



「あっ……はぁ……ん……」



「ふふっ……どうしたんだい? そんな声を出して……」



 若い男女が、一糸纏わぬ姿で身を寄せ合う。



「んぅ…………ふぅっ……」



「……ルリちゃん、気持ちいいのかい? こんな事で……」



 男の両手が、女の上で蠢く。



「あぁっ! ……は……はい…………き……気持ちいい……です……すごく……」



「ふぅん……だったら、もっとしてあげようか…………こうやって……!」



 僅かに荒々しさを増す男の指遣い。



「んぅっ…………そっ、そこぉっ! そこがイイですっ! カイトさんっ!」



「へぇ……この辺り? それともこの辺かな?」



 その、微妙にポイントをずらした動きに、固く目を閉じた女の眉間が歪む。



「……そんな……! い……意地悪……しないでください……」



「はははっ、ごめんごめん…………じゃあ、そろそろ終わりにしようか……?」



 そう言うと、男の動きが激しさを増す。それでいて、その手先は的確に彼女のツボを捉え……





「……おかーさん……? ……おとーさん……?」





 場違いなほど幼い声が、その場の空気を凍らせた。



「「……め、メノウ……?」」



 娘に見られていたと気付き、思わず動きの止まる2人。



「おかーさん……そんなに、きもちいいの?」



「え……」



 突然の問いに戸惑うルリ。



「おかーさんが……じぶんでするより…………おとーさんにしてもらうほうがいいの……?」



「ど、どうして……そんなことを……?」



 狼狽えながら言葉を返すルリ。カイトは相変わらず硬直したままでいる。



「そうなんだ…………ねえ、おとーさん……





 わたしにも……おかーさんみたいに……して……」





「「な……!?」」





 激しく驚く2人。



「おとーさん……」



「め……メノウ……!」



「え…………か、カイトさん……!?」



 ルリの傍を離れ、娘の方へと近づいていくカイト。



「メノウ……本当に、いいのかい? 僕で……」



「うん……おとーさんに、してほしい……」



 そう言いながら父の目を見つめるメノウ。



「そうか……じゃあ、まず目を閉じて……」



「ん…………」



「そ、そんな、カイトさん、ちょっと待って……!」



 焦ったようなルリの言葉も、全く耳に入らない様子の父と娘。



「それじゃあ……いくよ……!」



「ん…………!」










 シャカシャカシャカシャカシャカッ!!










「……ちゃんと目をつむっていないと、目に染みて痛いからね?」

「ん〜」

 カイトは、子供用のシャンプーを手に取り、娘の頭を洗い始めた。

「どうかな、気持ちいいかい?」

「う〜ん……おかーさんのほうがいい!」

「うっ……そ、そう?」

「うん! ……おとーさんのて、ごつごつしててちょっといたい……」

 何げに辛辣な娘の言葉に、少し落ち込むカイト。

「そ、そっか……ルリちゃん、そういう事みたいだから、代わってもらえる?」

「……その前に、私の頭を流してもらえませんか?」

「え? あっ! ご、ごめん……すっかり忘れてた」

「もう……!」

 咎めるようなルリの声を聞き、カイトは慌ててシャワーを出すと、先程まで自分が洗っていたルリの髪にお湯を浴びせる。

「ふぅ……全く、いくらメノウにせがまれたからといったって、私の方がまだ終わっていなかったのに……」

「ごめん、ルリちゃん…………メノウの頭って洗ったことなかったから、つい……」

「はあ……まあ、いいでしょう。さて、それじゃあメノウ。今度は私が洗ってあげますね」

「うん!」

 そう言って、ルリはメノウの頭を慣れた手つきで洗い始める。手持ち無沙汰になったカイトは、そんな妻と娘の様子をただぼうっと見ていた。

 やがて、メノウの洗髪が終わると……

「それじゃあ、おとーさんのあたまはわたしがあらってあげる!」

「えぇっ!? え〜と……うん、わかった。それじゃあお願いしようかな?」

 背中を大きく曲げ、頭の位置をできる限り低くするカイト。

「えっと……よ〜し!」



 わしゃわしゃわしゃっ!



 一生懸命に父の髪を洗うメノウだが、どうにも手の動きがぎこちない。

「うぅっ……おかーさん、てつだって〜」

「……はい、それじゃあ2人で洗ってあげましょうか」

「うん! おかーさんといっしょ〜♪」



 しゃかしゃかしゃかっ! わしゃわしゃわしゃっ!



(おおっ、こりゃ気持ちいい〜)

 世界一愛しい妻と、世界一可愛い娘の2人に髪の毛を洗われる……カイトは今、男としての至福の境地の1つに辿り着いていた。



 そして、カイトの頭を洗い終えると、3人の親子は大きな湯船へとその身を沈ませた。

「ふう〜、極楽極楽……」

「……カイトさん、年寄り臭いですよ」

「おとーさん、おじーちゃんみたい〜!」

「うっ! そ、そうかな……で、でも、やっぱりこの屋敷のお風呂は広くていいよね」

 何かを誤魔化すかのようにして強引に話題を変えるカイト。

「……そうですね。私たちの家のお風呂では、さすがに3人では入れませんから」

「わ〜い、おっきなおふろ〜♪」

 パシャパシャパシャッ!

「あっ……メノウ、あんまり動き回ってはダメですよ。転んで溺れたりでもしたら大変でしょう?」

「は〜い」

 言葉とともに娘を抱き寄せて膝の上に抱えるルリ。

「そうそう、お風呂っていうのはこう、ゆったり〜、のんびり〜、って入るものだからね」

「……カイトさん、やっぱり年寄り臭いです」

「うっ…………そ……そんなこと言うルリちゃんは、こうだ!」

「きゃっ!」

 カイトは、ルリの身体の下に片手を入れると、そのまま膝の上のメノウごと自分の方へ引き寄せる。そして、向かい合うようにしてルリを膝の上に抱え上げた。

「ちょ……や、やめてください、こんな格好! は、恥ずかしいです……」

「恥ずかしいって……別に僕たち以外は誰もいないよ? それよりさ、こういう風にすればウチのお風呂でも3人一緒に入れるんじゃないかな?」

「そうですね、入れるかも……って、そうじゃなくて、メノウが見ています! 早く降ろしてください!」

「えぇ〜、別にこのままでもいいじゃない。メノウもそう思うよな?」

「え? えっと……うん! おとーさんとおかーさんのあいだ〜♪」

 ルリの剣幕に戸惑っていたメノウだが、両親に挟まれてご機嫌な様子。

「メノウまで……はあ、仕方ないですね…………カイトさん、くれぐれも”変なこと”はしないでくださいね」

「はいはい、わかってるよ。そういうのは今度2人だけで入ったときにね?」

「……な…………ば、バカ……」

 俯いて呟くルリ。

「?? おかーさん、かおあかいよ? どーしたの?」

「その……それは……」

「ああ、きっと長くお風呂に浸かりすぎたんだよ。じゃあ、そろそろ出ようか?」

「うん!」

「……はい」



 そうして3人は湯船から上がり、脱衣場の方へと歩いていく。

 風呂上がりにフルーツ牛乳を一気飲み。

 その後、カイトは和室でテレビを見ながら晩酌をする義父コウイチロウに付き合い……

 一方、ルリとメノウは一足先に用意された寝室に下がり……

 そして、ミスマル家の屋敷に泊まったある日の夜が過ぎていった…………





 3人で、一緒にお風呂♪ 完



あとがき

 電波が〜! 電波が私に命令する〜!!





 ……どうも、お見苦しいところをお見せしました。作者のシックルです。

 …………電波なんです。全ては電波がいけないんです。入浴中、メ○ット(リンスin)で頭を洗っているときにちりちりとやって来た電波が……

 ……よくあるパターンといえばよくあるパターンな本作、如何でしたでしょうか。つかみ、オチともにまだまだだとは思いますが、多少なりとも笑って楽しんでもらえれば幸いです。

 それでは、読者の皆様、最後まで読んで頂き、真にありがとうございました。ご意見・ご感想などあれば、遠慮なくお申し付けください。次回作でまたお会いしましょう。

 では、これにて………




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