機動戦艦ナデシコ


〜a Jewel Baby〜

シックル





 2201年12月31日、大晦日。明日、地球は新たな年を迎える。師走の世間は正月祝いの支度に忙しいが、そんな時でも普段と変わらず働いている人間達はいた。
 ここ、連合宇宙軍試験戦艦ナデシコBとそのクルー達もそういった人間の仲間だ。もっとも、彼らはこのところ、8月に起こった「火星の後継者」事件、及びその事後処理や残党狩りに追われ、数ヶ月の間ろくな休みが取れずにいた。その為、明日地球に帰還した後は軍人としてはかなり長めの正月休暇を貰えることになっている。
 現在、クルーのほとんどは、残った仕事を消化したり、あるいは明日からの休暇をどう過ごすかの予定を考たりしている。といっても、後は地球に降りてサセボにあるドックに停泊するだけ。ほとんどの人間はもはや仕事など残っておらず、後はこのまま休むだけ……といった状態で、艦全体にのんびりとした雰囲気が漂っている。
 そんな中、ただ1人だけ、不機嫌そうな顔で隣にいる人物を見ている少年の姿があった。

「む〜〜〜〜」

 険しい目で同僚を睨んでいる少年の名はマキビ=ハリ少尉。若干11歳ながら、ナデシコBのオペレーターを務めている。
 睨まれている男性はナデシコBの副長タカスギ=サブロウタ大尉。派手な色に染めた長髪といい、その表情や言動といい、見た目は相当に軟派な人物だが、元木連優人部隊の出身で、本質的にはなかなかの熱血漢だったりする。

「む〜〜〜〜」

「……なあ、ハーリー。さっきから一体どうしたんだ?」

 サブロウタも、この弟分の奇行を初めのうちこそ無視していたが、長い時間ひたすら睨みつけられるのには我慢できなかったようだ。

「む〜〜〜〜〜〜〜〜」

「俺に何か用なのか? それとも他に理由でもあるのか?」

 問い質すサブロウタをさらに強く睨むハーリーだったが、しばらくしてその口を開いた。

「……サブロウタさん、昨日、艦長と何かお話してましたよね」

「ん? あ、ああ、あれか。なんだハーリー、お前そんなこと気にしてたのか。あれは別にそんなたいしたことじゃあないぞ」

 そう答えたサブロウタに対し、声を荒げたハーリーが言い返す。

「誤魔化さないでくださいっ! 僕の方にも少しは聞こえてきたんです! なんでサブロウタさんと艦長が一緒にどこかに行く約束なんかしてるんですかっ!? それも2人だけで!!」

 サブロウタの頬を汗が一筋流れる。

「ぬ、盗み聞きはよくないぞ。ハーリー」

「サブロウタさんっ!!」

「あ、あれはただ、一緒にラーメンを食いに行くだけだぞ?ほら、艦長の義理の姉さん達がこの前食堂を開いただろ?あそこまで護衛としてついて行くって理由だ。ラーメン食ったらそこで別れる予定だし……」

「……本当ですか?」

「おう、もちろんだ」

「じゃあ、何であんなにコソコソとしてたんですか?」

「それはほら、周りの目とかがあるだろ。今やうちの艦長は地球圏最大のアイドルと言ってもいいくらいの有名人だし。そんな人が堂々と出歩いてたら、マスコミだのなんだのがうるさいからな。それに、艦長の義姉夫婦も、目立つと何かと問題のある人達だしな」

 ナデシコB艦長ミスマル=ルリ少佐(旧姓ホシノ=ルリ、2ヶ月程前に宇宙軍総司令ミスマル=コウイチロウの養女となる)。その神秘的な美貌と能力から『電子の妖精』と呼ばれる。宇宙軍や統合軍にも熱狂的なファンが多く、『電子の妖精ファン倶楽部』なるものまで存在している。一般人への知名度も高く、その人気は超一流の芸能人にも勝るとも劣らない。

「そうですか……」

 サブロウタの話を聞いたハーリー、一応理解はしたが、どうにも納得がいかないと言った様子をしている。そんなハーリーに、今度はサブロウタが声をかけた。

「じゃあお前、『一緒に行きたいです!』って艦長にお願いしてみるか? 別にお前なら連れて行っても構わないと思うし。なんなら俺からも頼んでやるぞ」

 それを聞いたハーリーは一転して明るい顔になると、

「そうですね! 頼んでみます!」

 と言うと、早速艦長の部屋に通信をつなげる。

(全く……)

 呆れたような、しかし微笑ましげな様子でそれを見ていたサブロウタだったが、ふと、クルーの現在位置を表示するウィンドウを見て、奇妙な事に気付いた。

(艦長の部屋に2人……? 誰か、艦長の他にもう1人、居る……)

「おいハーリー、ちょっとまっ……」

 異変に気付いたサブロウタはハーリーを制止しようとしたが間に合わず、すでにウィンドウが開いた後だった。

「艦長! 実は明日からの休暇のことでお話が…………!?」

 絶句したハーリーが見たものは、ウィンドウいっぱいに映った、見たことのない男と艦長が抱き合っている場面だった……










 ハーリーがサブロウタを問いつめている頃、ルリはナデシコBの自室で物思いにふけっていた。

(後もう少しで地球……クリスマスは一緒にいられなかったけど、お正月を家族で過ごすことくらいはできそうですね……)

 義理の父と姉、その夫や子供のことを考えていると、ふと、かつての同居人……今はここにはいない、はるか宇宙の彼方にいるもう1人の家族のことを思い出した。別れ際、彼と交わした約束も……

(カイトさん……)



>2199年3月某日 火星極冠遺跡

「……行ってしまうんですか?」

「うん……長いこと忘れていたけれど、僕の故郷はあそこで、友達も、親や兄弟みたいな人達もいるんだ…………ナデシコのみんなとの生活は楽しかったけれど、向こうで色々とやらなきゃいけないこともある。それに……」

「……それに……なんですか?」

「ああ、いや……別に、なんでもないよ。とにかく、そういったものを全部捨ててまで、地球に残るような理由はこれといってないから。だから、やっぱり行くことにしたよ」

「……そんな……」

「……………………」

「……私……
 ……私では、ダメですか……?」

「え?」

「私では、カイトさんが残る『理由』にはなれませんか……?」

「ルリちゃん……?」

「……私は、カイトさんのことが……好き、です…………ナデシコ長屋で、ミスマル家のお屋敷で、アキトさんのアパートで、これまで一緒に暮らしてきて……このままずっと、一緒にいたいって、思いました……」

「ルリちゃん……
 ……………………
 ……僕も、ルリちゃんのことは、好きだよ。でも、ルリちゃんの『好き』は僕の『好き』とはきっと違う。アキトさんやユリカさんへの『好き』と同じで……」

「そんなことありません!!」

「え……」

「……アキトさんとユリカさんが結婚するって聞いたときは、少し胸が苦しかったです。でもあれは、2人が私から離れて行ってしまうのが怖かっただけ…………それに、『結婚したからって、2人がルリちゃんを嫌いになるはずないだろ?』って言ってくれたのはカイトさんです……」

「……………………」

「大晦日の夜、カイトさんの実験中に事故が起こった時は、とても怖かった…………もう二度と会えないかもしれないって思ったら、目の前が真っ暗になって、立っていられなくて…………カイトさんが無事に目を覚ましたときに、気付いたんです。私は……カイトさんのことが、1人の男性として好きだって…………家族とか、兄弟みたいにじゃなくて……でも、傍にいたい、いて欲しいって……」

「ルリちゃん……!!」

「……でも、ダメですか? やっぱり、行ってしまうんですか? ……カイトさんは、私の気持ちには答えてくれないんですか?」

「……泣かないで、ルリちゃん……」

「……あ……」

「……帰ってくるよ」

「えっ……?」

「3年……待っていてくれないかな? さっきも言ったけど、僕には向こうでやることがある。それに、向こうの知り合いにももう一度くらい会っておきたい。でも……帰ってくるから。3年以内に、必ずルリちゃんの所へ帰ってくるから……だから……それまで、待っていて欲しい」

「カイトさん……!」

「……いいかな?」

「はい……!!」



(その後、カイトさんの顔が近づいてきて……そのまま目を閉じた私に……
 ……はっ! い、いけない、いけない、こんな事を考えている場合じゃありません。地球に降りて、アキト義兄さん達のお店に行く用意をしないと……)

 そう思いながらも、顔が耳まで真っ赤になっている。ふと、ルリの視界にカレンダーが入った。

(あれからもうすぐ3年……約束、守ってくれますよね? カイトさん……みんな、会いたがっていますよ? 早く……帰ってきて、ください……)

 思わずこぼれかけた涙を堪えるルリ。
 ……すると突然、目の前が激しく光り輝き始めた。

(これは……!?)

 その光は、瞬く間に部屋いっぱいに膨れあがると、今度はだんだんと収束していき、ルリの目の前で人の形になっていく。
 やがて光が収まると、そこには、つい先程まで頭に思い浮かべていた相手が、尻餅をついて倒れていた。

「あいててて……ここは……?」

「……カイトさん!!」

「うわっ!?」

 思い切り抱きつくルリ、両腕をカイトの首にまわし、胸に顔を埋める。溢れる涙で、カイトの服に大きな染みができる。

「カイトさん……カイトさん……カイトさん……カイトさん……カイトさん…………」

「る、ルリちゃん……?」

 戸惑うカイト。しばらく呆然としていたが、やがてルリの両肩を抱き正面から向き合う。

「ルリちゃん…………その……大きくなったね」

「カイトさん……帰ってきてくれたんですね……? 夢じゃ、ありませんよね? 本当に……
 お……お帰りなさい、カイトさん……」

「うん、長い間待たせてゴメン…………ただいま、ルリちゃん」

「……カイトさん……」

 そのまま見つめ合う2人、そこに、ブリッジからの通信が入る。

『艦長! 実は明日からの休暇のことでお話が…………!?』










 絶句したままのハーリーを横目に、サブロウタはルリと抱き合う男を見ていた。誰にも知られずにいつのまにか艦長室に入った侵入者なのだ。今のところ艦長は無事だが、もし侵入者が艦長に危害を与えるつもりなら非常に危険な事態だ。

(……けどあいつ、どっかで見たことがあるような気がするんだよな……?)

 そうしていると、硬直状態が解けたカイトが言った。

『えーと。誰なんだい、君は?』

 その言葉を聞いたハーリーが、

「あ、あなたこそ誰なんですか!? 何で艦長とあんな事……! 艦長! その人は誰なんですか!?」

『……この人はカイトさんと言って、元ナデシコクルーの1人です。
 カイトさん、あの子はハーリー君、ナデシコBのオペレーターです』

『ナデシコB? ……それにオペレーターって、ルリちゃんがオペレーターじゃないの?』

『今の私はナデシコBの艦長です』

『艦長!? ……じゃあ、ユリカさん達は?』

『ユリカさんは……』

「艦長ぉ! その人とばかり話してないでくださいぃぃ!!」

『……わかりました、今からブリッジに行きます。そこで説明しますから、カイトさんも一緒に来てください』

 ルリがそう言うと艦長室との通信が切れる。

「艦長ぉ〜」

 悲痛な声を上げるハーリーを余所に、

(……!! そうか、あいつか! 3年前に、火星で会った……でも、あいつは確か……?
 ……ハーリー、艦長のことは諦めた方がいいかもしれないぞ……)





 やがて2人がブリッジにやってくる。主要メンバーを集めたところで、ルリが、

「じゃあ、私がそれぞれ紹介します。この人はカイトさん、元ナデシコクルーの一員で……」

 それから、ブリッジのクルー達にカイトのことを紹介し始めた。勿論、古代火星人の仲間だとか、自分との個人的な関係とか、あまり知られない方がいいことは除いてだが。それでも、話がアキトやユリカとともに一緒に住んでいた辺りになると、皆この衝撃の事実に驚き、囃し立てていた。……1名、この世の終わりのような顔をしている者もいたが。
 次にカイトに向けて、あれから起こったことを話し出す。アキトとユリカが新婚旅行で事故にあったこと、そのときに密かに誘拐されていたこと、自分が宇宙軍に入り、ナデシコBの艦長に就任したこと、火星の後継者のこと……

「……それから、目を覚ましたユリカさんと一緒にアキトさんを捜して、どうにか説得したんです。それで、アキトさんはずっと火星の後継者の実験材料になってたことにしました。幾つかの隠れ家のうち1つにアキトさんが改造されたときのデータが残っていたので、それを元にしてイネスさんがアキトさんを治療したんです」

「……そんなこと、こんな所で話して大丈夫なのかい?」

 表だって話せるようなことではない。架空の人物にコロニー落としの罪をかぶせているのだ。公式にはコロニー襲撃犯は未だ行方不明、大破した無人の機体のみが発見されたことになっている。真相については様々な噂が流れているが、多くは情報操作として意図的に流されたものであるため、本当のところはごく一部の人間しか知らない。

「平気です、ここにいる人は全員知っていますから。……それから、リハビリを終えたアキトさんとユリカさんが改めて結婚し直して、さっき話したラピスという子を2人の娘にしました。今は、3人で小さな食堂を開いています。私は、そのときに正式にミスマル家に養女として引き取られて、ユリカさんの義理の妹になりました。……ですから、今の私の名前は『ミスマル=ルリ』です」

「……そうだったんだ、そんなことが……」

 拳を強く握りしめるカイト。

「カイトさん? ……どうしたんですか?」

「うん……もっと早く帰ってこられたら、少しでも手助けができたのに…………この3年間にそんなことがあったなんて…………ゴメン、ルリちゃん、今頃になって……」

「……それは、仕方ありません。それに、約束通り3年以内に帰ってきたんですから、そのことは許してあげます。……だから、そんな辛そうな顔をしないでください」

「ルリちゃん……わかったよ、ありがとう」

 いい雰囲気の2人。そこに、ハーリーの声が割って入る。

「艦長ッ!」

「ああ、そうでしたね。それではカイトさん、次はここにいる人達を紹介します。まずは……タカスギ大尉」

「ようっ! 久しぶりだな!」

 そういってカイトに声をかけるサブロウタ。しかしカイトは彼が一体誰なのかさっぱりわからない。

「え……? ええと、どこかで会ったことありましたっけ?」

「おいおい、冷たいなぁ。火星では同じ釜の飯を食った仲じゃないか」

 そのセリフを聞いてカイトよりもハーリーが驚いた。

「サブロウタさん、この人のこと知ってたんですか!?」

「ああ、3年前に少しだけな」

 それを聞いたルリも思い出したのか、

「……そういえば、タカスギさんもあの時調査団に加わってましたね」

 そこまで聞くとさすがにカイトにも引っかかるものがあった。

(火星……? 3年前……? 調査団……? それに、タカスギ大尉、サブロウタさん……!?)

「ああ、あの時の!」

「おぉっ、思い出してくれたか?」

「ええと、自分のことを臆面もなく『誰の味方でもない、正義の味方だ』って言い放った、木連優人部隊出身の高杉三郎太さんですね? ……でも、ずいぶん様子が変わりましたね……」

 当時は典型的な木連軍人だったサブロウタだが、今やまるでサーファーのようである。もっとも、彼がこうなったのにもそれなりの理由はあるのだが……

「ん〜、まあ、色々あったんだ。それと、今の俺はナデシコの副長、連合宇宙軍大尉タカスギ=サブロウタさ。それよりお前、この3年間一体どうしてたんだ?」

「う〜ん、それはちょっと……言えないんです。すいません」

「そうか……そっちにも色々あったみたいだな」

 なにやら意気投合しているらしい2人に危機感を憶えたのか、ハーリーが声を荒げる。

「サブロウタさん!!」

「おう、悪い悪い。カイト、こいつはハーリー。5歳年上の美人に憧れる11歳の少年だ」

「……な……!」

「そうなんですか? ええと、ハーリー君……?」

 カイトに呼ばれると、目一杯険しい顔と目つきで、

「マキビ=ハリ少尉です。ナデシコBのオペレーターをしています」

「ああ、ハーリーっていうのはニックネームか何かなのかい? 僕もそう呼んで良いかな?」

「……はい、ハーリーで結構です!」

 とは言うが、これ以上ないほど不機嫌!といった様子なので、本当に結構なのかよくわからない。

「……ええと、どうしてそんなに機嫌悪そうにしてるんだい……?」

「……別に、これが普通です。気にしないでください!」

「そう……?」

 ……先程までの様子や、サブロウタの言葉を考えれば、彼がどうしてそんな態度を取るのかわかりそうなものだが……

(やっぱりなんだか怒ってるよなぁ…………人見知りが激しいのかな? でも……)

 などと、さっぱり気付いていないカイトであった。さすがに、鈍感さではかつてナデシコでアキトと一、二を争った強者である。
 そこにそのハーリーが、

「……それよりカイトさん、艦長とはどういった関係なんですか!?」

「どんな関係って……」

 思わずルリの方を向くと、向こうもこちらを見ていたようで、ばっちりと目が合ってしまった。

(ルリちゃん…………うーん、なんて答えよう?)

 ルリは僅かに頬を赤く染め、潤んだ瞳で少し上目遣いに見上げてくる。

(うっ……その顔は反則だよ、ルリちゃん……)

 顔はルリの方に向けたまま、ハーリーの質問に答えるカイト。



「……ルリちゃんは、僕にとって宇宙で一番大切な人、だよ」



 ビキッ!!



 ……音を立てて固まるハーリー。一方でルリはカイトと見つめ合いながら、嬉しそうに顔を綻ばせる。

「ヒュ〜、言うねぇ(やっぱり諦めた方が良さそうだぞ、ハーリー……)」

 サブロウタの心の声が果たして聞こえたのか、復活したハーリーが今度はルリに問う。

「か、艦長はどう思っているんですかっ!?」

 問われたルリはやはりカイトの方を向いたまま、



「……私も、カイトさんと同じ、です……」



「ルリちゃん……」



 2人の世界を作り出そうとするカイトとルリ。それを見たハーリーは、



「……う、うわぁぁぁぁぁん!!!」



 ……泣きながら、どこかへ走り去っていった。

「……ハーリー、その足なら世界が狙えるぞ……」

「どうしたのかな、いったい……?」

「さあ……? ……ハーリー君、職場放棄ですね。勤務評定につけちゃいましょう」

 どこか違う世界を見て誤魔化すサブロウタ、よくわかっていないカイト、同じくよくわかってないながらも、何気なく酷い事を言うルリ……
 その後、残りのメンバーの紹介を終え、新たにカイトを加えたナデシコBは改めて地球への針路を取った。なお、サセボドックに到着するまでの間、ハーリーは自室に閉じこもったまま一歩も外に出てこなかったが……まあ、どうでもいいかと言えば、どうでもいいことではある。










 場所は変わって、トウキョウ・シティのとある一角。一般には下町などと言われる地域に、最近新しく小さな定食屋ができた。若いが腕のいいコックと、美人で明るい店主兼給仕の夫婦、及びその娘の3人が経営している。人妻ではあるがまだ20代半ばの美女と、その娘だという11,2歳の美少女という2人の看板娘が評判を呼び、また料理の方も安い割に美味しく、特に代表メニューの特製ラーメンはそこいらの専門店顔負けであった。おかげで、あまり賑やかとは言えない場所にもかかわらず、その店はかなり繁盛しているらしい。
 2202年1月1日、元旦。ナデシコBがサセボに到着し、仕事を終えたクルー達が正月休暇に入った次の日、ルリ、カイト、それにサブロウタとハーリーの4人はこの定食屋「テンカワ食堂」を訪れていた。

「ここです、カイトさん」

「へぇー、ここがアキトさん達の店かぁ…………うん、いいお店だね。周りがちょっと寂れているのが気になるけど……」

「それは仕方ありません。あまり目立つのはよくありませんから…………でも、結構繁盛しているみたいですよ? 今日は貸し切りになっているので、お客さんはいないでしょうけど。
 ……じゃあ、入りましょうか」

 そう言うと扉を開けて入っていくルリ。それにカイトが続き、少し遅れてむくれた顔のハーリーとそれを苦笑いしながら見るサブロウタが入っていった。

「すみませ〜ん、今日は貸し切りで……あ、ルリちゃん! いらっしゃーい!!」

「こんにちは、ユリカ義姉さん」

 カウンターにいたユリカがルリを見て言った。テンカワ=ユリカ、旧姓ミスマル=ユリカ、現在ではルリの義姉であり、また、テンカワ=アキトと正式に結婚、その際にラピスラズリを養女として迎える。

「ルリ、イラッシャイ」

 その娘、ラピスラズリ=テンカワがレジの脇にある椅子に腰掛けたまま言う。愛想がないのは相変わらずではあるが、同じマシンチャイルド、よく似た境遇であることなどから、これでもルリとはだいぶ仲がいい。ただ、5歳しか違わないこの2人だが、戸籍上は義理の叔母と姪になる。もっとも、ルリオバサン……などとは決して口にしない(させない?)だろうが。

「……って、ええっ! カイト君!?」

 ルリの後ろにいるカイトに気付いたユリカが、驚愕の声を上げる。一方ラピスは誰のことなのかよくわかっていないため、そんな義母の様子を首を傾げて見ている。

「どうも、お久しぶりです、ユリカさん」

「うわぁー、本当にカイト君!? やっと帰ってきたんだぁー! ねえねえ、アキトぉー。カイト君が帰ってきたよぉー!!」

「何、本当か!?」

 懐かしい家族との再会を喜ぶユリカが夫に向けて放った言葉に答え、厨房の奥からアキトが現れた。

 テンカワ=アキト。元ナデシココック兼パイロット。ナデシコCにより火星の後継者が制された後は各地で残党狩りを始めるが、やがてユリカやルリ達に捕まり、彼女らの説得を受けて帰還。イネスの手によって五感を取り戻し、リハビリを驚異的な速さで完了。ユリカと正式に結婚、ラピスを養女に引き取り、3人で定食屋『テンカワ食堂』を開く。

「うわぁ、久しぶりだなぁ、カイト! よく帰ってきたな」

「お久しぶりです、アキトさん。その……ちょっと変わりましたね」

 コック姿のアキト、さすがに黒装束とバイザーではないが、以前はつけていなかったサングラスを着用していた。これは、イネスの治療により、以前のように顔全体が発光することはなくなったものの、目の周りだけは相変わらず感情が高ぶると光り出すため、そのことを誤魔化すための対策である。
 そういったことも含めて、アキトに何があったかだいたいはルリから聞いているカイトだったが、その話をわざわざ蒸し返すこともないだろうと思い、無難な感想にとどめた。
 アキトにもそれがわかったのか、

「まあ、3年も経つからね。まるっきり同じじゃいられないさ。俺なんかより、ルリちゃんの変わり様に驚いたんじゃないか?」

 と、さりげなく話題をそらす。

「そうですね、久しぶりに会ったら凄く綺麗になってたんで驚きました。前も充分可愛かったけど、それに加えて少し大人っぽくなってたし……」

「……何を言うんですか、もう……」

 2人の話を聞いていたルリが赤面して俯く。

「ううっ、艦長ぉ〜」

 そんなルリを見て涙を流す少年が1人。もっとも、誰も気にかけてくれないのが哀愁を誘う。

「あ、そうだ、アキト〜、私あの子連れてくるね!」

 そう言ってユリカが奥に引っ込む

「??? アキトさん、あの子って?」

「なんだ? ルリちゃんから聞いてないのか?」

「ええ。あの子ってどの子なんですか?」

「う〜ん、そういうことなら俺には話せないなぁ……」

「そうなんですか? ねえ、ルリちゃん……」

 カイトがそう尋ねようとしたところで、ルリに奥にいるユリカから声がかかる。

「ルリちゃ〜ん、ちょっとこっち来てぇ〜!」

「あ、はい、今行きます…………カイトさん、そのことはまた後で」

 そう言って奥へ入っていくルリ。

 手持ちぶさたなカイトは、2人を待つ間、アキトにラピスを紹介されたり、色々とお互いのことを話しあったりなどしていた

 ……しばらくして、ユリカとルリが戻ってくる。

「あれ? その子……」

 ルリは、見たところ2歳くらいの子供を抱きかかえていた。黒髪の女の子で、今はルリの腕の中で眠っている。

「へぇ、可愛い子ですね…………ひょっとして、アキトさんとユリカさんの子供ですか?」

 アキトに聞くが、苦笑したまま、

「違うよ、俺とユリカの子供はまだラピス1人だ」

「じゃあ、あの子は一体……」

 と、そこに子供を抱きかかえたルリがやってくる。

「ルリちゃん……?」

「カイトさん……」



「この子は……の、子供です…………それに、あなたの……」





「「「……えええぇぇぇっ!!!」」」





 驚くカイトと、ついでにハーリー・サブロウタの3人。

「る、ルリちゃんの子供……? それに……ぼ……僕の……?」

「……はい。『メノウ』と、名付けました……」

「だ、だって僕たち、そんな……ま、まさか、あの時!?」

 カイトの脳裏に3年前、ルリのもとを去った時のことが思い出された。



(確かあの時、目を閉じたルリちゃんにキスをして……それから…………

 『カイトさん……』『いいの、ルリちゃん……?』『はい…………カイトさんのこと、信じる為の……約束の証を、ください………』『…………わかった…………』『その……私、初めてですから……』

 それから……!! でも、あの時は……)



「……そうです」

「でも、たったあれだけで!? それにあの時、確かルリちゃん、『大丈夫だから』って……」

「もし万が一子供ができても、なんとかして育てるから大丈夫、と言ったんです」

「そ、それって……」

「大当たり、でした……」

「……………………」

 絶句するカイト。そこに、気を取り直したサブロウタが、

「3年前の艦長って、1(ピー)歳だよな……

 カイト、お前ってロリコンだったのか……?」

「ううっ……そ、そんなことは……」

 それらの話を聞いたハーリーは、



「う……う……う…………うわああぁぁぁぁぁぁぁん!!!!



 入り口の扉を蹴破って走り去っていく。

「……新記録だな、ハーリー」「……どうしたんだ、あの子は?」「あー、入り口が壊れちゃった。後で弁償してもらわないと〜」「……バカ?」

 好き勝手なことを言いつつ彼を見送る一同。一方、ルリとカイトはそんなことは気にせずに見つめ合っている。
 硬直したままのカイトに、ルリの形のいい眉が僅かにひそめられる。
 するとそこで、周りが騒がしかったのか、子供―メノウの目が開いた。

「ふぁぁ……おふぁようございまふ…………あ、おかーさん……」

 寝ぼけながらも、辺りを見回すメノウ。ふと、その顔がカイトの方を向いた。
 そして、メノウとカイトの目線が重なると……



「……おとーさん……?」



 はっとするルリとカイト
 開いたその目は、片方はカイトとよく似た黒い瞳、もう片方はルリと同じ金色の目をしていた。

(……!! あの目……!?)

 この瞬間、カイトは、この子は間違いなく自分とルリの子供だと確信した。

「……お、おとーさん!? ねぇ、おとーさんでしょ!?」

「カイトさん……」

 足下に飛びついてきたメノウと、それを心配そうに見守るルリ、その2人を見て、カイトは、



「……うん、そうだよ。お父さんだよ。えっと、はじめまして、メノウ」



 メノウとルリの顔がパァッと明るく輝く。

「おとーさん!」「カイトさん!」

 カイトは左手でメノウを抱え上げ、右手で抱きついてきたルリの頭を撫でながら、

「ゴメン、本当に苦労かけたんだね……ありがとう、ルリちゃん。こんな可愛い娘を……」

 かつてはNERGALに雇われ、その後は宇宙軍の士官となり、それなりの高給を取っていたルリだが、やはりあの年の少女が未婚の母となるには相当の障害があっただろう。ナデシコの仲間達も手助けしてはくれただろうが、それでも並大抵の道ではなかったはずだ。

「大変だったろうね……」

「いいんです……信じていましたから、きっと、カイトさんは約束通りに帰ってきてくれるって」

「そう……本当にありがとう、ルリちゃん」

「カイトさん……」

 見つめ合う2人。カイトがメノウをそっと床におろすと、どこからともなくやってきたユリカが抱き上げ、「シィッ……」とやりながら2人からゆっくりと離れていく。



 2人の顔がだんだんと近づいていき…………










「こんにちは〜」

「ねえねえ! カイト君が帰ってきたっていうのはホント〜!?」

「きゃあ、何これ? ドアが吹き飛んでるぅ〜」



 懐かしい顔ぶれが、大勢で押し掛けてきた。



「おい、カイト、てめえ今まで何してやがったぁ〜!」

「そうだよ〜。君がいなくなってから、いろいろ大変だったんだから〜」

「……直射日光を浴びる鰤……日差し、ブリ……久しぶり…………」



 ルリとカイトは、唇が触れ合うまさに直前で固まっている



「おやぁ、僕たちひょっとして、お邪魔だったかい? お二人さん?」

「あなたが帰ってきたらすぐそれとわかるように色々と準備してあったのよ、見つかってすぐにみんなに声をかけたわ」

「いやはや、本当にお久しぶりですなあ」

「全くだ……」

「もう、今日の分の仕事全部放り出しちゃうんだから……まあ、今日ばかりは仕方ないわね」



「み、みなさん……」



「あ〜、久しぶりだな、カイト君……」

 そこに、クルーをかき分けて現れる壮年の男性。宇宙軍総司令ミスマル=コウイチロウ、ユリカの父であり、現在ではルリの義理の父親でもある。

「あ、コウイチロウさん……お久しぶりです」

「うむ……」

「あの……何か?」

「……メノウちゃんのことは聞いたかね?」

「あ、はい……今、ちょうど……」

「そうか…………」

 そう言ったきり黙り込むコウイチロウ……ややあって、

「……ルリ君は今ではワシの娘、メノウちゃんはワシの孫娘だ。カイト君……



 ……責任を、取ってもらおうか」



「はい?」



責任じゃ、責任…………我が家の婿養子になれ。ユリカはアキト君に嫁に取られてしまったからな。なに、準備はすでにできておる。早ければ3日後にでも式は挙げられるぞ」





「なんですと!?」





「そうよカイト君、責任取りなさい。あなたのせいでルリルリは本当に苦労したたんだから」

「ルリ、結婚するんだぁ。いいな〜…………ねえ、ジュンちゃ〜ん」

「ぼ、僕たちにはまだ早いよ、ユキナちゃん」

「あははっ。あたしはまだ何も言ってないわよぉ〜?」



 わいわいがやがや、喧々囂々、あーだこーだそーだ
 突然人数が増え、良くも悪くもナデシコらしい雰囲気に包まれたテンカワ食堂



「ね、ねえ、ルリちゃん。な、なんとか言ってくれないかな……?」



「……嫌ですか?」



「え?」



「私が相手では、嫌なんですか……?」



 震える瞳でカイトを見つめるルリ、その目を見たカイトから、迷いや戸惑いが消え失せた。





「……そんなこと、あるわけないじゃないか。喜んで責任を取らせてもらうよ。



 その……し、しよう、結婚…………」





「……はい……」





 いつの間にか静まりかえっていた食堂に、カイトとルリの声が響く。一拍の後、テンカワ食堂はこれまでで一番騒がしくなった。

「「「「「おめでとー! ルリちゃん!」」」」」」

「ひゅーひゅー!」「式には呼んでねぇ〜」「お幸せに〜」

「カイトぉ、これでおめぇも年貢の納め時だなぁ。でも、相手がルリルリだっていうのは羨ましすぎるぞ〜。この野郎!」

 ……………………

 …………

 ……

 ……そんな中、食堂の片隅でメグミがメノウに話しかけていた。

「よかったねぇ〜、メノウちゃん。お父さんができたよ〜?」

「うん! わたし、まえからおもってたの! こんどのたんじょうびには、おとーさんがほしいって!!」

「あらぁ〜。それじゃあ、最高のお誕生日プレゼントになったねぇ〜」

「うん!!」

 メノウとメグミの会話を聞いていたカイトがルリに聞く。

「ルリちゃん、メノウの誕生日って……?」

「……今日です。この集まりも、本当はお正月祝いを兼ねたメノウの誕生祝いの予定でした」

「そうだったんだ…………でも、さっきはどうして僕が父親だってわかったんだろう?」

「それは……その、私が、よくカイトさんの写真に話しかけてたからだと思います……

 前に、『わたしのおとーさんってだれなの?』って聞かれて、この写真の人だって、教えちゃいましたから……」

 顔を伏せるルリ。それを見て黙り込むカイト……





「……これからは、ずっと一緒にいるよ。ルリちゃん…………」

「…………はい…………!!」

 涙を流しながら微笑んだその顔は、これまでに彼女が浮かべた中でも最高に美しい笑顔だった




















 2202年1月某日、1人の青年が家路を急いでいた。
 数日前に籍を入れたばかりの新婚である。家では愛しい妻と可愛い娘が自分の帰りを待っているのだ。どうにもにやけがちになる顔を手で叩いて引き締め、早足で歩くことしばし、ようやく目的地の我が家へと到着する。

「ただいま〜」

 鍵を開けて中に入り、扉を閉めると再び鍵をかける。

「お帰りなさい、今日は遅かったんですね」

 そう言って彼を出迎えた女性はまだ若く、少女と言うのがふさわしいような年頃であった。

「ああ、お義父さんに捕まっちゃってね。色々と話してたら長引いちゃった。あの子は?」

「待ちくたびれてもう寝てしまいました。どうします? ご飯にしますか?」

「うん、お願い」

「はい。じゃあ、少し時間がかかりますから、その間に着替えていてください」

 それからしばらくして、普段着に着替えた青年は、リビングでテレビを見ながら夕食を取っていた。

 今流れているのはニュース番組がほとんどだが、どのチャンネルをつけてもとある話題一色である。

「『電子の妖精、電撃結婚!!』『宇宙軍のヒロインに隠し子がいた!?』『…………』・・・
 はあ……」

「何を見てるんですか?」

「ん〜? ……いやぁ、最近どこもかしこもこの話題ばかりだなって」



 宇宙軍の若きヒロイン、電子の妖精ことミスマル=ルリ少佐が数日前に突然結婚したことは、地球圏全体に衝撃を持って伝えられた。しかも、実は彼女には既に2歳になる娘がおり、3年ぶりに姿を現したその子の父親がお相手だというのである。



「まあ、それだけ人気があった、ということでしょう? ふふふ……」



 軍内に存在する彼女の公式ファンクラブ『電子の妖精ファン倶楽部』のメンバー達は、このニュースを聞き、地獄の底へとたたき落とされたかのような絶望に襲われたが、その後、軍人としては異例の記者会見の中で彼女が見せた”母親”としての顔にさらなる衝撃を受け、新たに、『聖母ルリ親衛隊』なる組織を結成したとかしないとか……



「でもさ、なんだか、この相手の男の扱いはちょっと酷いんじゃないか?」



 彼女のお相手はミスマル=カイトと言う名前の男性だが、実のところその人物像はよくわかっていない。わかっているのは、3〜4年ほど前に彼女とのつきあいが約1年間あったこと、その後一旦消息不明となるが、つい先日になって再び姿を現したこと、後見人はミスマル総司令で、結婚後は彼の義理の息子となること……という程度である。彼もかつてナデシコに乗っていたクルーらしい、という噂もあるが、確証は得られていない。



「あの年の女の子に子供を産ませて、それを放っておいたまま3年間も逃げ回ることより酷いことは無いと思いますけど?」

「ぐっ…………」



 そう、彼自身に関する情報がほとんど無いこともあって、彼の評判はあまりよくはなかった。むしろ悪い。世間では彼は当時まだ幼かった彼女に子供を産ませたあげく、その母娘をほったらかして3年間逃げ続けていた極悪人と受け取られているのである。
 彼の名前はすでに『ロリコン』だの『鬼畜』だの『無責任男』だのの代名詞として世界中に知れ渡っている。裏では、妖精を騙していいように弄んだ悪魔だなどと言われており、噂では、『魔王カイト討伐隊』なる組織が極秘に結成されているらしいとかなんとか……



「ま、まあ、あれだけの美少女と結婚できたんだから、そのくらいのことは我慢できるだろう……できるかな……? できなくはないよな……う〜ん……
 ……やっぱり、いつか後ろから刺されるかも……」

「大丈夫ですよ、人の噂も75日って言いますし」

「そうだといいけど………」

 話題を変えようとテレビを消す青年。ふと、娘のことが頭に浮かぶ。

「そういえば、あの子はもう寝ちゃったんだっけ?」

「ええ、ぐっすり。『おとーさんがかえってくるまでおきてる〜』なんて言ってましたけど、さすがにこの時間までは無理だったみたいですね」

「そうか……久しぶりに3人そろって晩ご飯にできたかもしれないんだけどな…………よし、明日は1日休みだし、一緒にどこか遊びに行こうか」

「はい、よろしくお願いしますね……ふふふ」

 意外と子煩悩な夫の様子に、思わず笑いがこぼれる妻。

「む、何がおかしい」

「いいえ、なんでもありません」

 なおも笑みを浮かべたままの妻に対し、青年は突然、

「ところで、風呂にはもう入れる?」

「……お風呂の用意ならできてますけど……?」

 その答えを聞いた彼は、とびきりの悪戯を思いついたような顔をして、

「……そういえばさ、この前あの子が『わたし、おとーとかいもーとがほしい〜』なーんて、言ってたんだよね…………一緒に入ろうか? お風呂」

「なっ……!」

 耳まで赤くなる彼の妻。

「な、何を言い出すんですか、全く……」

「今からなら来年の誕生日に間に合うかもよ?」

「……知りません!」

 頬を染めながらあさっての方を向く妻。

「あれ? 怒っちゃった?」

「……………………」

「あー、ゴメン。悪かった。からかいすぎました。すいません。許してください」

 誤りながらもなんとか彼女の顔を正面に見ようとするが、青年が前に来るたび彼女はぷいっ!と反対側を振り向き、なかなか顔を合わせようとしない。
 しばらくそのやりとりを繰り返した後、青年は、突然背後から妻の体を抱きしめるとその耳元で小さく囁いた。





「……愛してるよ、ルリちゃん……」



「もう……そんなセリフで誤魔化さないでください……



 …………私も、愛してます。カイトさん…………」





FIN


あとがき

 ぐはっ…………

 初っ端からすみません…………我ながら、書いてて余りの甘さに胸焼けがしそうになりました……
 思えば、(「あなたの子です」「なにぃ〜っ」「責任取れ、カイト」)をやりたいがためだけに書き始めたこの作品……
 こんなに長くなってしまうとは、当初は思っても見ませんでした……

 さて、気を取り直して、「風の通り道」をご来訪の皆様、はじめまして。私、シックルと申します。
 ナデシコの創作はこれが微妙に初めて?で、他作品を含めても2本目という未熟者ですが、このお話、いかがでしたでしょうか?
 ああっ、石を投げないでください! やばいテーマを選んでしまったのはわかってるんですっ! でも、どうしても上記のシーンを書いてみたかったんですぅっ!!
 えー、この作品に関しては、文法の誤りや誤字脱字、意図しない設定ミス、文章の構成、各所でのオチの付け方や演出方法などについての批判は受け付けますが。内容そのものへの批判は一切受け付けません。あらかじめご了承ください。

 『Jewel Baby』などと謳っておきながら、オリキャラの『メノウ』はちょっとしか出てませんね…………当初はもっと小さくて、おくるみに入っているような赤ん坊の予定でしたが、年代的な都合と、会話をさせたいという理由でこのようになりました。
 正直、2歳児であんなに言葉が話せるわけないだろ!とは思いますが……地球人と古代火星人それぞれの遺伝子操作技術の結晶ということで、勘弁してください。一応、あの時点で4〜5歳程度の知能があるという設定です(IQ200〜250!)。

 それでは、長くなりましたが、読者の皆様、最後まで読んで頂き、真にありがとうございました。ご意見・ご感想などあれば、遠慮なくお申し付けください(上記の代物は除く)。それでは、あるかもしれない次回作でまたお会いしましょう。では、これにて………




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