『小さな入れ物、大きな想い』




唐突ですが風邪を引きました。

寄りにも寄ってバレンタインの前日にです。

原因はどんなチョコにするのか悩んで湯上りのままボーっとしていた所為でしょうか。

お蔭で折角決めた手作りの予定も甲斐無く、ベッドに括り付けられてしまいました。

今は一日たった所為もあり、だいぶ良くなってます。

まあ元々病気にも成り難く、抵抗力も人より高いですから。え?ならなんで風邪を引いたって?それは聞いては行けない事です。

それはともかく、私にしては珍しく寝込んだと言うことでカイトさんに随分心配掛けてしまいました。私の熱を測ったときの心配そうな顔が今でも浮かびます。

今私とカイトさんは一緒に暮しているのですが、カイトさんは有給を取ってずっと看病してくれています。嬉しいんですけどこっそり抜け出してチョコを作れないのが残念だったりします。

まあ、作るにしろ材料が無いんですけどね。



お昼になりました。カイトさんは先ほどお昼の材料を買ってくると言って買い物に出ています。

なんだか喉が乾いたので台所に行って冷たい麦茶を飲みます。本当は歩き回らないようにと言われてましたが仕方ない。と、自己弁護して見たり。

だるい身体を動かして麦茶を仕舞おうと冷蔵庫を開け、元の位置に戻して閉める前にある物が目に入りました。

たった一つだけ有るチ○ルチョコ。

普段なら別に気にも止めないそれを手に取ったのは今日という日、だからでしょうか。特に何も考えず(何も考えられなかっただけかもしれませんが)手に持ったまま、ベッドに戻ります。



三十分程して、買い物袋を下げたカイトさんが帰ってきました。

「ただいま」と一言言うとまず私の所に来て手で熱を測ります。こういう所はカイトさんらしいです。

カイトさんの手は外の風の冷たさが移ったのかひんやりして心地良いです。

「熱はだいぶ下がったね。何かして欲しい事とか有る?」

いつもの優しい笑顔を向けてくれるカイトさん。

だから、熱と今日という日が後押ししてくれたのか、普段は絶対出来ない事を思い付いてしまいました。

「それじゃあ…目を、瞑って下さい」
「え?…こう?」

カイトさんらしく素直に言うことを聞いてくれます。

「良いと言うまで、開けないで下さいね」
「うん」

念を押してカイトさんが目を瞑っているのを確認して、さっきのチョコを取り出します。

音が聞こえないように布団の中でゆっくり包装を剥がして口に入れます。

熱で普段より熱い口の中で早くも溶け始めるチョコ。

それが少し躊躇する気持ちを吹き飛ばしました。

ドクンドクンと破裂しそうな胸を押さえながら、想いを込めるにはあまりに小さい容器に沢山の気持ちを込めて。


私は、未だ目を瞑っているカイトさんに、顔を近づけた――――



翌日、寝込むカイトさんと看病する私。

・・・・・・人に風邪を移すと早く良くなるって本当なんですね。


Fin♪



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