バカップル 〜CAT EAR〜

 

 

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

その日、ナデシコ艦内でひとつの悲鳴が上がった。

宇宙空間に浮かぶナデシコの閉鎖された艦内にこだまする悲鳴。

逃げ場のない艦内でナデシコクルーを恐怖が襲う。

・・・わけではなかった。

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

よく悲鳴を聞いていると、普通の悲鳴と違うことがわかる。

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

そう語尾に♪が付いていたのだ。

しかも悲鳴に混じって「可愛い〜」や「触りた〜い」等といった言葉も聞こえてくる。

さて、どうしてこんな悲鳴が聞こえてくるかというと、時間は数日前までさかのぼる。

 

その日、メインブリッジでの当直を終えたネコサワ・ハルナ少尉とイヌヅカ・マユミ少尉は交代の人と挨拶を交わすと連れ立ってネコサワ少尉の自室へと向かった。

「ね〜、早く見せてよ〜」

どこか落ち着かない様子でハルナの腕を引っ張るマユミ。

「ちょっと、落ち着きなさいよ」

苦笑しながら自室の鍵を開けたハルナ、その後ろからマユミも中に入る。

「で、で、どこにいるの?」

「はいはい、すぐに見せてあげるわよ」

少し興奮気味に応えるマユミを抑えながらハルナは目的のモノを腕の中に抱いた。

「うわ〜〜、可愛い♪」

ハルナの手の中で眠たそうに目を細めている子猫の姿を見て、マユミはうっとりとした顔をした。

「でしょ〜〜、もうこの子を見てるだけで心が潤うって言うか。幸せいっぱいになっちゃうのよ〜」

ハルナもうっとりとした顔で胸の中にいる子猫にほお擦りをする。

「いいな〜〜、ねえ私にも抱かせてよ〜」

「ん〜、いいけど優しく抱いてよ?」

「わかってるって♪」

ハルナから子猫を受け取ったマユミは大事に自らの胸に抱きかかえた。

「うわ〜、柔らかくて暖か〜い」

子猫の毛ざわりやぬくもりがマユミの腕から全身に広がる。

「この子の名前は何ていうの?」

「メアよ」

ハルナが子猫を頭をなでながら応える。

「へ〜、メアちゃんって言うんだ。メアちゃんよろしくね〜」

マユミもメアのノドを撫でながら話しかける。

「でも、よく艦長が許してくれたね。たしか艦内は動物の持ち込み禁止だったでしょ?」

「う・・・」

マユミの言葉を聞いてハルナの顔が強張る。

「あ、あなたもしかして・・・」

「実は、艦長にはまだ話してないの・・・。本当はすぐにでもお願いに行くつもりだったんだけど。もし駄目って言われたどうしようって考えるとどうしても言えなくて」

「あなたね〜」

呆れ顔でハルナの顔を見るマユミ。

「そ、それに部屋の中にいれば他の人に見つかることもないかなって」

そういいながら指をモジモジさせるハルナ。

「ハ〜、まああなたのおかげで私もメアちゃんを抱けるんだけどさ」

そう言いながら腕の中のメアに視線を戻すマユミ。

「大丈夫よ、きっと。今回の任務も後一週間ほどで終わるはずだしソレまでならきっと見つからないって」

まくし立てるようにマユミに話しかけるハルナ。

「はいはい、私も協力すればいいんでしょう」

「ありがと〜、マユミ〜」

そう言って笑顔でマユミに話しかける。

そんな二人の姿をメアはまだ眠たそうな目でじっと眺めていた。

一通りメアとのスキンシップを行った二人は満足した顔で眠そうにしているメアをクッションにそっと寝かせると、食堂に向かうことにしてドアを開けた。

すると丁度目の前を通りかかったのか、そこにはルリの姿があった。

「か、艦長!」

「あ、ネコサワ少尉にイヌヅカ少尉」

まさか目の前にルリがいるとは思わなかったハルナとマユミは扉を開けたままその場で固まってしまった。

そして、それが悪かったのかさっきまで眠そうにしていたメアが素早くドアの外に駆け出した。

「あ!駄目!」

一瞬反応が遅れたハルナがメアを捕まえようとするが一歩遅く、メアはルリの前へとその身をあらわした。

「子猫・・・ですか?」

いきなり目の前に子猫が現れて少しびっくりするルリ。

メアはそんなルリの足元で。じっとルリの顔を見上げていた。

「フ〜、話を聞かせてもらえますか?」

ルリは小さくため息を付くと足元にいるメアを抱き上げるとハルナとマユミに声をかけた。

「「はい・・・」」

いきなりバレてしまったことに暗い顔をしながら二人をうなずくのだった。

 

結局そのままハルナの部屋に入った三人。

ルリはメアを腕に抱いたまま、テーブルを挟んで向かい側に座るハルナとマユミに声をかけた。

「それでどうして子猫が艦内にいるんですか?」

怒っているというよりも、どちらかといえば困った顔をしているルリ。

「それは・・・」

言いづらそうにしているハルナだったか、意を決して口を開く。

「実は、前に地上に降りたときに、その子猫を飼い始めたんです。任務が始まるときに、実家のほうに預かって貰うはずだったんですが、両親が旅行に行くとかでそれもできなくなったんです。それで、一緒に艦に連れてきたというわけです」

「なるほど・・・ですが、艦内へのペットの持ち込みは禁止されてるのは知ってますよね?」

ルリは一通りハルナの言葉を聞いて答える。

「はい・・・でも、今回の任務はそんなに長くないみたいでしたから見つからないようにすれば大丈夫かと思って」

「困りましたね・・・」

ルリも見るからに反省しているハルナを前にして悩む。

「お願いです!この任務が終わるまでどうか許可していただけませんか!?ハルナも子猫を大切に思っていたからつい連れてきてしまっただけなんです。」

するとさっきまで黙っていたマユミがルリに向かって頭を下げて言った。

「ハルナ・・・艦長、お願いします!どうかこの任務が終わるまでメアと一緒にいさせてください!」」

ハルナはマユミの行動に一瞬驚くもすぐに自分も同じようにルリに頭を下げてお願いする。

「・・・フ〜、わかりました。今の任務も後一週間もすれば終わりますし。それまでの間、部屋の中でなら飼うのを許可しましょう」

ルリはため息をつくと二人に向かってそう話しかけた。

「「本当ですか?」」

その言葉を聞いて二人が顔を上げる。

「ええ。でも、部屋からは出さないようにしてくださいね」

「もちろんです!ありがとうございます艦長!」

「やったね、ハルナ!」

「うん!マユミもありがとう私のために」

「あの〜それで・・・ですね」

お互いに喜び合うハルナとマユミにルリがコホンと咳払いをしつつ話しかける。

「どうしました、艦長?」

それに気づいたハルナがルリに訊ねる。

「暇なときでいいのですが・・・・・・あたしもこの子に会いに来ていいですか?」

頬をほんのり赤く染めながら、自分の腕の中にいるメアを撫でながら言うルリ。

((か、かわいい・・・))

そのルリの様子にハルナとマユミは見とれていた。

「も、もちろんです。いつでも好きなときに来てください」

「艦長のおかげでこの子もここにいられるんですから」

ハルナとマユミも大歓迎といった感じで答える。

「ありがとうございます」

照れながらお礼を言うルリの姿に、二人が再び見とれてしまったのは言うまでもない。

その後話もまとまって、三人は食事をするのも忘れて思う存分メアと遊んだのだった。

 

ルリとメアの出会いから3日が過ぎたころ。

いつものようにハルナとマユミがメアと一緒に遊んでいた。

「ゴロゴロ〜、気持ちいいですか〜?」

メアのノドを掻きながらマユミが話しかける。

「ねえ、マユミ」

そんなマユミに話しかけるハルナ、その手には光る粉の入ったビンが握られていた。

「これって、何なの?」

目の前にビンを持ってきてじっと眺めるハルナ。

「ああ、それ?実は面白いものを作ったからハルナにも分けてあげようと思って」

メアを撫でながらマユミが答える。

「え・・・もしかして、またあの本で何か作ったの?」

今までのこともあり、嫌な予感がするハルナ。

「大丈夫だって今度のはそんな変なものじゃないから」

「本当?」

「もちろん、今回のは一種のおまじないの道具だから」

疑いの目を向けながら訊ねるハルナにマユミが笑って答える。

「おまじない?って言うと恋のおまじないとか?」

ほんの少し興味がわいて、マユミに聞き返すハルナ。

「ん〜〜、それにも使えると思うけど」

「も〜、はっきりしないわね〜」

「実を言うと、それは願いがかなうおまじないなの」

「願いが叶うおまじない?」

「そう、その粉をね。ビンに入れて夜寝る前に月の光に透かしながら三回同じ願い事をするの、それで次の朝にビンの中身が消えてたら願いが叶うって書いてあったわ。その名も『流れ星の粉』よ」

「う〜ん、なんとなく胡散臭い気もするけど」

「まあ、だめもとで試して見てもいいんじゃない?もし、願いが叶えばラッキ〜って感じで」

ハルナからビンを受け取って、手の中で何回か振って見せる。

「それもそうね。別に何をなくすわけでもないし」

「そうそう、何事も試してみるのが一番よ」

笑顔でそう言いながら、新しく取り出した小瓶に粉を入れるマユミ。

そのときハルナの部屋に来客を告げるブザーが鳴った。

「あ、多分艦長ね」

ハルナは早速ドアのロックを外すとルリを中へと通した。

「お二人ともこんばんわ」

「「艦長、こんばんわです」」

挨拶をしながら入ってくるルリを見ながら二人も挨拶をする。

「ミャ〜」

部屋の中に入ってきたルリの姿を見たメアが、ルリの足に擦り寄った。

「メアさんもこんばんわ」

ルリはメアを抱き上げると、柔らかな体毛に顔を寄せた。

「メアはずいぶんと艦長のことを気に入ってるみたいですね」

それを見たハルナが笑顔でそう言う。

「だとしたら、嬉しいです」

ルリは照れた顔をしながら答えると、メアを撫でさすった。

「ハルナさん、それは?」

一通りメアと遊んでいたルリがテーブルの上にあるビンを目にして訊ねた。

「あ、これはさっきマユミからもらったんですが」

「艦長もいりますか?願い事が叶うおまじないの粉」

ハルナの言葉をつづけるようにマユミがルリに話しかける。

「おまじないの粉・・・ですか?」

「ええ、この粉をビンに入れて、寝る前に月の光に透かしながら三回同じ願い事をすると、願いが叶うんです」

「へ〜、すごいですね」

「それじゃあ、艦長の分もビンに詰めておきますね」

感心したように言うルリを見て、マユミは新しいビンを出すと粉を入れてルリに渡した。

「ありがとうございます」

「いいんですよ。それより艦長はどんな願い事をするんですか?」

「そうですね〜・・・すぐには思いつかないので後でゆっくり考えてみます」

「そうですか。因みにハルナの願い事は”早く彼氏ができますように”なんですよ」

ニヤリと笑いながらルリにそう言うマユミ。

「あ〜!何勝手に人の願い事を作ってんのよ!」

「だって、この間恋人がほしいって言ってたじゃない。それともこのままずっと一人身でもいいの?」

「う・・・それは・・・嫌だけど」

マユミの言葉に弱弱しく答えるハルナ。

「クスッ、ハルナさんは奇麗ですからすぐに素敵な恋人ができますよ」

二人のやり取りを見ていたルリが小さく笑いながらハルナに話しかけた。

「は〜、艦長はいいですよね。カザマ大尉っていう素敵な恋人がいて」

「そうそう、艦長とカザマ大尉は誰もが羨むラブラブカップルですからね」

「そ、そう言ってもらえると嬉しいですが、ちょっと恥ずかしいですね」

(いまさら、こんなことで恥ずかしがられても困るんですけど・・・)

(普段から食べさせあいや、キスを平気でしてるのにそこで恥ずかしがられるのは・・・)

ポッと頬を染めながらそう言うルリに無言でツッコミを入れる二人。

「どうかしましたか?」

二人が黙ってしまったので不思議そうな顔をするルリ。

「い、いえ、何でもないです」

「そ、そうそう」

「・・・?私はそろそろ、部屋に戻りますね。メアさん、また今度遊びましょうね」

ルリは腕の中のメアを床に下ろすと挨拶をしてハルナの部屋から出て行った。

「う〜ん、元はといえばあたし達のせいとはいえ艦長と大尉にはもう少し周りの目を気にしてほしいんだけど・・・」

「でも、最近はそれにも慣れてきてる自分がいてちょっと悲しいかも・・・」

普段からルリとカイトのバカップルぶりを見せられているナデシコのクルーは多少のことには驚かないようになっていた。

「それじゃあ、私もそろそろ戻るね」

「うん、それじゃあまた明日」

マユミもハルナに挨拶をすると自分の部屋へともどっていった。

 

部屋へと帰ってきたルリ。

(願い事・・・ですか)

寝る準備を済ませたルリはマユミから受け取ったビンを手に持ち月の光に透かしながら考える。

カイトという最高の恋人がいるルリにとってそれ以上の望みが思い浮かばないルリ。

(私はカイトさんがいればそれだけで幸せですから特に思いつかないのですが・・・)

そんなルリの頭にメアの姿が思い浮かんだ。

(そういえば、メアさんは可愛いですね)

ホワッとした表情でメアのことを思い出す。

(特にあの耳と尻尾が可愛らしさを引き立ててます・・・私にもあの耳と尻尾があればカイトさんは可愛いと言ってくれるのでしょうか?)

月の光を透かしたビンを見ながらそんなことを考えるルリ。

「メアさんのように可愛くなれますように・・・メアさんのように可愛くなれますように・・・メアさんのように可愛くなれますように・・・」

なんとなくそんな願いをするルリだったが、そのうち疲れが押し寄せてきたのかそのまま眠りについたのだった。

 

次の日の朝、ブリッジへと向かっていたハーリーはその途中でルリと出会った。

”おはようございます、ハーリー君”というルリの言葉に嬉しそうな顔で答えようとしたハーリーの目に入ってきたのは、ある意味生身の人間がグラビティブラストを打ち込まれたぐらいの衝撃だった。

そしてその日、ハーリーはこの世の天国を目にした。

「ポ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「どうかしましたか?」

黙ったまま立ち止まっているハーリーに不思議そうな顔をして訊ねるルリ。

ピクピクッ

すると、ルリの『頭についた耳』が小さく動いた。

「ポ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「ハ〜リ〜君?」

再度声を変えても反応が返ってこないので、あきらめたルリは一言”先に行きますね”と声をかけるとブリッジへと向かうのだった。

「ポ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

ブリッジへと向かうルリを呆然としながら見送るハーリーの目には左右にゆれる『尻尾』が映っていた。

 

「皆さんおはようございます」

ブリッジに集まった全員に向かってルリが挨拶をする。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

だがルリの挨拶に答える言葉が聞こえてこないで不思議そうな顔をするルリ。

「あの〜、皆さん・・・?」

不思議な顔でたっているルリを見ながら、ルリ以外の全員の考えはひとつだった。

 

(((猫耳だ・・・)))

 

そう、全員が見つめる先、ルリの頭にはピクピク動く二つの猫耳がついていたのだ。

「ル・・・ルリちゃん・・・」

ルリ以外の全員を代表するように隣に立っていたカイトがルリに話しかける。

「なんですか、カイトさん?」

ピクピクッ

ルリが話すたびに猫耳が小さく動く。

(うあ・・・可愛い・・・)

全員がそんなルリの姿に見惚れいていた。

「ちょっと、あんたまた何か変なことしたんじゃないでしょうね?」

ハルナは隣にいるマユミに小声で話しかける。

「そ、そんなわけないじゃない。今回は私は無関係よ」

慌てて首を振るマユミ。

「本当?」

「本当だって」

「む〜、そこまで言うんなら信じてもいいけど・・・」

「まったく、変なことが起こったら全部私の所為だと思わないでよ・・・」

「「・・・・それにしても・・・・可愛い♪」」

「え・・・っと、その耳はどうしたの?」

「耳・・・ですか?」

ルリは顔の横についている自分の耳を触る。

「耳がどうかしましたか?」

何故そんな質問をするのかわからないルリがカイトを上目遣いでじっと見つめる。

ピクピクッ

そのときも頭の猫耳は小さく動いている。

(ああ〜〜〜さ、触りたい)

それを間近で見てしまったカイトの手がプルプル震えながらルリのソレへと近づいていく。

「カイトさん?」

突然黙ってしまったカイトに不思議な顔をするルリをよそに、カイトの手がついにソレへとたどり着いた。

「フニャァ♪」

するとルリは気持ちよさそうに目を細めて鳴いた。

「・・・え?え?今のは?」

先ほどの全身を暖かいものが包み込むような感じに驚くルリ。

「カ、カイトさん、今何を?」

「えーと、ごめん。つい触ってみたくなっちゃって」

照れた顔をしながらそういうカイトの言葉に意味がわからず、先ほどカイトが触った場所に自分の手を持っていくルリ。

「・・・え?」

自分の手に触れた物の感触にルリの言葉が止まる。そしてあわてて鏡を取り出すと自らの頭についているものを見つめる。

「・・・猫耳・・・」

唖然とした声で呟くルリを、周りの人はどう言ったものかわからずじっと黙って見つめていた。

「ど、どうしてこんなものが・・・朝起きたときには付いてなかったのに・・・」

心底困った顔をしているルリ。

(まさか昨日メアさんみたいに可愛くなれたらいいなって思ったせいでしょうか?)

「ルリちゃん、落ち着いて」

そんなルリの困った顔を見たカイトがやさしくルリに話しかけた。

「でも、カイトさん、こんなことになるなんて。これじゃあカイトさんに嫌われちゃいます」

ふえっと泣きそうな顔になるルリを優しく抱きしめるカイト。

「そんなことで僕がルリちゃんを嫌いになるわけないじゃないか」

カイトの腕に抱かれたままルリが上目遣いでカイトの顔を見つめる。

「本当ですか?」

「本当だよ。それに猫耳のルリちゃんもすごく可愛いよ♪」

「カイトさん・・・嬉しいです(ポッ)」

お互いに幸せそうな顔をしながら抱き合うルリとカイト。

(((朝からこの二人は・・・)))

そんな二人を周りの人たちは泣きそうな顔で見ていた。

ハーリーに至っては「僕の艦長が〜〜〜!!」と泣きながら走り去っていったが誰も気にするものはいなかった。

 

「コホン、それでは会議を始めます」

約20分間のカイトとの抱擁を終えたルリが顔を赤くしたまま言う。

カイトは満足げな顔でルリの言葉に耳を傾けていた。

「・・・・・・・・・」

ただルリとカイト以外の人たちはげんなりとした顔だった。

因みにハーリーはまだ戻ってきていない。

「今回の任務も後少しで終わります、最後まで気を引き締めてがんばりましょう。それでは各部署の現在の状況を報告してもらいます。まずは整備班から」

「あ、ああ、こっちは今のところ問題はないぞ、特に戦闘もなかったからな。ただ、今日の午後からパイロットは格納庫に来てくれ一応機体の調整をしておきたいから」

ウリバタケの言葉にパイロット達がうなずいて答える。

「わかりました、それでは次は・・・」

最初にハプニングはあったものの、その後は順調に会議は進んでいった。

途中ハーリーが泣きはらした顔で戻って来たが、皆ハーリーの気持ちがわかるため下手に声をかけることができなかった。

会議中もルリが言葉を発するたびに頭に付いている猫耳が可愛く動くので、ルリ以外の人たちが会議に集中できなかったのは言うまでもない。

(うう〜〜、触りたい〜〜)

ルリを除く全ての人の思いは一致していた。

「・・・各部署の報告は以上ですね。それでは、次は・・・フミァ〜♪」

ルリがまじめな顔で各部署の報告を聞き終わったとき、突然ルリが可愛らしい声を上げた。

「は!・・・カ、カイトさん」

慌てて隣にいるカイトの方に顔を向けるルリ。

「ア、アハハ。つい気になっちゃって」

そう答えるカイトの手にはルリの尻尾が握られていた。

「も〜、駄目ですよ。今は会議中ですよ」

困った顔をしながらもどこか嬉しそうは顔で言うルリ。

「ルリちゃんの可愛い尻尾を見てるとつい・・・。それとも僕に触られるのは嫌?」

「そ、そんなことないです。私もカイトさんに触られるのは嬉しいです・・・でも」

カイトの言葉に慌てて答えるルリ。

「やっぱり、今は駄目です。後で好きなだけ触らせてあげますから今は我慢してください」

「わかったよ、それじゃあ後でじっくりと触らせてもらうよ♪」

困った顔で言うルリにカイトもおとなしく従うことにした。

「はい、後で・・・(ポッ)」

ルリはカイトの言葉にうっとりとした顔をして答える。

(く〜〜〜〜〜うらやましい!)

周りの人はカイトを心底うらやましそうに眺めていた。

 

会議が終わりルリとカイトがブリッジから出たのを確認したウリバタケは近くにいたサブロウタやハーリーなどの男性クルーを呼び集めた。

「よー、お前らルリルリのあの猫耳、触ってみたくないか?」

「もちろん、このまま見てるだけってのはないでしょう」

ウリバタケの言葉に乗り気で答えるサブロウタ、他の男性クルーからも賛成の意思が伝わってくる。

「で、でも、艦長の・・・に触るだなんて・・・」

ただひとり、ハーリーだけがモジモジと言いよどんでいる。

「なんだ、ハーリーお前艦長の猫耳触りたくないのか?」

そんなハーリーをあきれた顔でサブロウタが見ている。

「そういうわけじゃ・・・」

「素直になれよハーリー、猫耳は男のロマンだぜ、あれを見て何も感じないようじゃ男として、いや人類として間違ってるってもんだ!」

熱く語るサブロウタに回りの男性クルーも激しく賛同する。

「想像してみろよ、お前の手であの艦長が嬉しそうな顔をする瞬間を!」

サブロウタの言葉にハーリーの顔がだんだんと赤くなる。

「自分の指があの猫耳に触れるたび、艦長が赤い顔をしながら嬉しそうに鳴く瞬間を!」

ハーリーの頭はすでに真っ赤になり煙を噴出しそうなほどになっていた。

「ハーリー!」

「わ、わかりました、僕も男です!」

ハーリーがはっきりとした声で答える。

「よ〜し、ソレでこそ男だ。それじゃあ早速作戦を練るとするか!」

サブロウタの言葉に全員がうなずく。

今ここに『艦長の猫耳を触る会』が発足された。

「いきなり触らせてくれと言ったところで断られるのは目に見えてるからな、まずは初歩的な引っ掛けでいくか」

ウリバタケが自分の作戦を話し出す。

 

「ルリルリ、ちょっといいか?」

廊下を歩いていたルリは自分を呼ぶ声を耳にしてそちらに振り向く。

「ウリバタケさん、どうかしましたか?」

「いやな、さっきの会議で報告し忘れたことがあってな・・・」

そういうとウリバタケはワザとらしく手に持っていたボールペンをルリの方へと落とした。

「おっと、落としちまった」

それを見たルリが自分の足元に落ちたボールペンを拾おうと手を伸ばした。

(チャ〜ンス!)

体を折り曲げた状態のルリにはウリバタケの姿は目には入らない、その隙を付いて目の前にあるルリの猫耳を触るというのが今回の作戦だ。

(もらった!)

ウリバタケの手がルリの猫耳へと迫る。

まさに勝利を確信したウリバタケだったが、あと少しのところでそれは叶わなかった。

「ウリバタケさん、どうしたんですかこんなところで?」

丁度カイトが目の前の角を曲がってきたのだ。

「あ、いや・・・」

まさかカイトに出会うとは思っていなかったので一瞬動きが止まるウリバタケ。

「はい、ウリバタケさん」

その間にボールペンを拾ったルリが、それをウリバタケに差し出した。

(くう、おそかったか!・・・カイトの目の前じゃ触るのは無理か)

悔しそうな顔でボールペンを受け取るウリバタケ。

「まだまだ、諦めね〜ぞ!」

そんな台詞をはきつつウリバタケは通路を走り去っていった。

「え・・・と、どうしたのウリバタケさん?」

不思議な顔をしつつルリに訊ねるカイト。

「報告を忘れてたと言ってたんですが・・・行っちゃいました」

ルリとカイトは二人して不思議そうな顔をしてウリバタケの走り去った通路の先を見ていた。

 

作戦1:ウリバタケのボールペン作戦

カイトの乱入によりウリバタケ敗北

 

「いい線まで行ってたのに惜しかったっスね」

悔しそうにしているウリバタケの肩に手を置き声をかけるサブロウタ。

「く〜、まさかあそこでカイトの奴が出てくるとは!」

「カタキは俺がうってやりますよ」

サブロウタは自信満々に答えるとその場を後にした。

 

「さ〜て艦長はっと・・・」

ルリを探して歩くサブロウタの目に丁度目の前の角を曲がってきたルリの姿が入った。

「どうも、艦長。これから昼飯ですか?」

「はい、そろそろお昼時なので」

サブロウタの言葉に答えるルリ。

「またカイトと一緒ですか?相変わらず熱いですね〜」

「ええ、食堂で待ち合わせてるんです(ポッ)」

ニヤニヤしながらいうサブロウタの言葉にルリが顔を赤くしながら食堂の方へ顔を向けた。

(く〜、うらやましいぞカイト!)

顔を赤くしながら嬉しそうに答えるルリを見てサブロウタが心の中で涙を流す。

(っと、今はそれどころじゃないな。カイトのいない今がチャンス)

ルリが視線を逸らしているうちにサブロウタは隠し持っていた糸くずをルリの頭に飛ばした。

「あれ、艦長。頭に糸くずがついてるっスよ」

早速作戦を行動にうつすサブロウタ。

「え?本当ですか?」

サブロウタの言葉を信じたルリが頭に手を当てて糸くずを探す。

「う〜ん、どこでしょう?」

「いいっスよ、俺が取ってあげますから」

「そうですか、それじゃあお願いします」

サブロウタの言葉にそう答えると、ルリは頭をサブロウタの方へ向けた。

(あ〜〜ついに俺の手に艦長の猫耳が!)

感極まって涙を流しそうになるのをこらえながらゆっくりとルリの猫耳に手を伸ばすサブロウタ。

目の前で可愛らしく動く猫耳が近づくにつれてサブロウタの手が震えてくる。

夢見た猫耳まで後1cmのところで又も運命のいたずらが起こった。

「ルリちゃん、ここにいたんだ!」

「おわっ!」

突然、カイトの声が聞こえて思わず手を引っ込めてしまったサブロウタ。

「あ、カイトさん」

ルリはカイトの声を聞いて嬉しそうな顔で答える。

「カイトさん、先に食堂に行ってたんじゃ?」

「そのつもりだったんだけど、やっぱりルリちゃんといっしょに食堂に行きたくて探してたんだ」

「そ、そうですか。うれしいです」

カイトの言葉に嬉しそうに顔を染めるルリ。

そんなルリを見ていたカイトが、ルリの頭についている糸くずを見つけた。

「あれ、ルリちゃん、頭に糸くずが付いてるよ」

そう言ってルリの頭についている糸くずに手を伸ばすカイト。

「ちょっとごめんね」

そう言って糸くずを取ろうとしたカイトの手にルリの猫耳が当たった。

「ウニャァ♪」

その瞬間ルリがウットリした顔で鳴く。

「はい、取れたよ」

「あ、ありがとうございます(ポッ)」

ルリは顔を赤くしながら答える。

「それじゃあ、行こうか♪」

「はい♪」

二人はそのまま手を繋いだまま食堂へと向かっていった。

「・・・・・・・・・・」

結局その場に取り残される形になったサブロウタはというと。

「・・・・・・・・・・」

言葉もなくその場に立ち尽くしていた。

 

作戦2:サブロウタの頭に糸くず作戦

カイトに先を越されてサブロウタ敗北

 

「あと、もう少しだったのに!」

「わかる、わかるぞその気持ち!」

肩を組みながら涙を流すサブロウタとウリバタケ。

「く〜、こうなったらハーリー!後は任せたぞ!」

「そうだ、俺達の分までしっかり頼むぞ!」

二人はハーリーの肩をしっかりとつかみながら詰め寄る。

「あ・・・・う・・・・」

ハーリーは二人の迫力にただ黙ってうなずくしかなかった。

 

「う〜、うなずいては見たもののいったいどうすればいいんだろう・・・」

うつむいたままトボトボと通路を歩くハーリー。

「サブロウタさんたちでも駄目だったのに僕なんかじゃ・・・うわ!」

下を向いたまま通路の角を曲がろうとした瞬間、ハーリーは誰かにぶつかりよろける。

「だ、大丈夫ですか?」

慌ててぶつかった人に声をかけるハーリーの目に入ってきたのは、ピクピクと動く猫耳だった。

「は、はい、大丈夫です。すみません急いでいたものですから。ハーリー君は大丈夫ですか?」

通路に尻餅をついたままにハーリーの顔を見上げるルリ。

(はうっ!艦長・・・やっぱり可愛い・・・)

「は、はい、僕は大丈夫です!」

顔を真っ赤にしながらそう答えるハーリー。

(はっ!これはチャンスなんじゃ、今なら手を伸ばすだけで艦長の猫耳を!)

なぜかそう結論付けたハーリーはお尻をさすりながら立とうとするルリの猫耳に両手を伸ばした。

「よし、今だ!」

「そのまま、一気にいけ!」

そんなハーリーに、通路の角に隠れながら声をかけている人物が約二名ほどいるがハーリーは気づいていない。

(艦長、失礼します!)

心の中で謝りつつハーリーの両手がルリの猫耳に迫る。

しかし、神様はそんなハーリーの行動を許さなかったようだ。

「ルリちゃん、どうしたの?」

いつの間にか現れたカイトが通路に座っているルリに声をかけたのだ。

「あ、カイトさん♪」

ルリは慌てて立ち上がるとカイトに近づいた。

(うわ!)

あと少しのところでルリの猫耳を触り損ねたハーリー、そのままバランスを崩して通路の床にうつぶせに倒れこんでしまった。

「ネコサワ少尉たちが呼んでたよ」

「あ、はい。今から向かうところで、ハーリー君とぶつかっちゃって」

地面に座っていた所を見られて、カイトに恥ずかしいところを見られたと思ったルリの顔が赤くなる。

「怪我はない?」

「は、はい。少しお尻を打っただけですから」

心配そうに訊ねてくるカイトの言葉が嬉しくて、笑顔で答えるルリ。

「そっか、よかった。ルリちゃんに何かあったらすごく悲しいからね」

「カイトさん・・・心配してくれて嬉しいです(ポッ)」

「ルリちゃん・・・」

「カイトさん・・・」

二人は結局その場で20分ほど抱き合ったまま過ごした。

そんな二人を床に倒れたまま涙を流しながら見上げているハーリーの姿は、言いようもなく哀れだったと後に影から見ていた二人の人物は語った。

その後あわてて用事を思い出したルリが急いでその場を離れてからも、ハーリーはボーゼンととしていてのだった。

 

作戦3:ハーリーの偶然ぶつかった作戦

カイトの乱入によってハーリー敗北

 

「う・・・うう・・・・ぐす・・・」

部屋の隅で膝を抱えながら嗚咽を漏らしているハーリー。

「ま、まあなんだ・・・こういうこともあるさ!」

「そ、そうだぞ、過ぎたことは気にするな!」

そんなハーリーを引きつった笑顔のまま励ますサブロウタとウリバタケ。

「うう・・・僕って・・・いらない人間・・・ぐすっ・・・なんでしょうか・・・」

「ば!何言ってんだ!そんなことあるわけないだろ!」

泣きながらそう言うハーリーを二人はこれから数時間に渡って励ますのだった。

 

その後も、何人もの人間がルリの猫耳を触るために挑戦していった。

しかし、もはや偶然とは言い切れないほどのカイトの出現率により、全ては失敗に終わるのだった。

そして・・・時は流れ。

ある一室で、真っ白に燃え尽き横たわる『艦長の猫耳を触る会』の面々。

「な〜んで、誰も触れないんっすかね」

誰かが呟く。

「詐欺だ、あんなの。どうしてあそこでカザマ大尉が出てくるんだよ」

「そうだよな〜」

「ぜったい、おかしいって」

それに答えるように誰かが言うと、皆がうなずいた。

「え〜い、諸君!いつまでこうして腐ってる気だ!」

そんな暗い雰囲気を吹き飛ばすようにサブロウタが声を上げる。

「そんなこと言っても、どうするってんだ」

投げやりにウリバタケが答える。

「そうですよ、もうこれ以上何も思いつきませんよ」

ハーリーも力なく答える。

「だが、このままあきらめるわけには!」

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

何とか皆のやる気を奮い立たせようとするサブロウタのは突然聞こえてきた女性の悲鳴によりかき消された。

「な、なんだ?」

慌てて声の聞こえてきた壁に耳を当ててるサブロウタ。

「いや〜〜〜ん、本当に猫耳だ〜〜♪」

「尻尾も本物よ、ふさふさで気持ちいい〜♪」

「ウニャ〜〜〜ン♪」

「あ!次は私の番よ!」

「え〜、次は私だよ〜」

「・・・ちょ、ちょっと、皆さん落ち着いてください」

「艦長〜、次は私ですよね〜♪ほらほら♪」

「ですから・・・ンニャ〜〜〜♪」

「「「「いや〜〜ん、艦長可愛い♪」」」」

壁の向こうからは大勢の女性の歓声とルリの可愛い鳴き声が聞こえてきた。

「「「「・・・・・・・・・・」」」」

いつの間にかサブロウタ以外の全員も壁に耳を押し当ててその会話を聞いていた。

そしてゆっくりと壁から離れると、お互いに右手を重ねあい深くうなずく。

「我々の戦いはまだ終わらない!いやこれから新たに始まるのだ!そして必ずや勝利し艦長の猫耳を触ってみせるぞ!」

サブロウタの言葉を皮切りに辺りからは、

「よっしゃ〜〜〜!」

「やってやるぜ!」

「次こそは必ず!」

等と明日からの新たなる戦いに燃える男達の叫び声が響き渡っていた。

 

そして、彼らの新たなる戦いが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ルリちゃん。猫耳はどうしたの?」

「それが、今朝鏡で見たらなくなってました」

「そうなんだ、ちょっと残念かな」

「・・・カイトさんは、猫耳がない私は嫌いですか?」

「そんなことないよ。猫耳があってもなくても、僕はルリちゃんのことが大好きだから」

「カイトさん・・・嬉しいです(ポッ)」

「それにルリちゃんの猫耳は昨日の夜にしっかりと堪能させてもらったからね」

どこかからかうようにそう言うカイトの言葉に、ルリはそのときのことを思い出し顔を真っ赤にするのだった

 

 

始まる前に、終わったのだった・・・

 

 

 

END


 

どうも皆さん、D=DASHです。(^^)

今回は”バカップル〜CAT EAR〜”を呼んでくださりありがとうございました。

さて、今回のSSはルリちゃんの猫耳が中心の話です。

たまにはこんな話もいいかな?と思いつつ書いてみましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

それではまた別の作品でお会いしましょう。(^^)


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