静岡の浜松にあるイツキさんの家から帰ってきた私たちを待っていたのはアキトさんとユリカさんのちょっと怒った顔でした。
目が覚めた時に私たちがいないのに気付いて心配したそうです。
(ご心配をおかけしてすみません)
私は心の中で謝りながら本当に心配してくれたお二人に感謝しました。
それからウリバタケさんの一言で昨日に引き続き宴会が行われました。
そのせいでアキトさんもユリカさんも二日酔いで寝込む事になったんですけど。
やっぱりお酒は恐いですね。
何故あんなものを好き好んで飲むのか分かりません。
まあそのおかげでカイトさんと二人だけでお散歩にいけたんですけど(ポッ)
そのお散歩の途中でミナトさんとユキナさんに出会いました。
お二人とも元気そうで、そのあと揃って昼食を食べにミナトさんの知っている『いい店』にいきました。
そのお店は元ナデシコ食堂のホウメイさんが経営しているお店でした。
久しぶりに食べたホウメイさんの料理はとても美味しかったです。
(さすがアキトさんの料理のお師匠さんなだけありますね)
それから家でお腹を空かせているお二人のために買い物を済ませて家に帰りました。
その時にユリカさんから、実家の方に新年の挨拶と結婚の報告をしに行くと聞きました。
あの提督がそう簡単に結婚を許してくれるとは思いませんがお二人には頑張って欲しいです。
次の日、いつも通りの提督と挨拶をしてそれからユリカさんとアキトさんの結婚の話になり、私とカイトさんはなんか居辛くなってその場から退散。
その後に私たちを呼びに来たユリカさんといっしょに戻るとアキトさんの料理人としての腕を確かめるためにラーメン勝負をする事になったそうです。
そしてなぜか私とカイトさんがラーメン勝負の審査員に選ばれてしまいました。
仕方なくも引き受けた私たちが、提督にアキトさんの対戦相手を聞くと提督が意味ありげに対戦相手について答えました。
「元ナデシコ食堂のシェフ、ホウメイさんだ」
と・・・
まさかこんな形でもう一度ホウメイさんに会う事になるとは思いませんでしたが、アキトさんとユリカさんの結婚は本当に認められるのでしょうか?
アキトさん、応援していますから頑張って下さいね・・・
機動戦艦ナデシコ
〜妖精の微笑み〜
エピソード13:師弟対決
「ホウメイさんですか?」
私はもう一度提督に確認するつもりで聞きます。
「うむ」
腕を組んだまま頷く提督。
間違いないようです。
「まさかホウメイさんが相手だなんて・・・」
カイトさんはどこか難しい顔で呟きます。
カイトさんにもホウメイさんの料理人としての実力が分かるようです。
それはアキトさんやユリカさんも同じです。
ナデシコにいた人ならホウメイさんの料理の腕を疑う人はいないでしょう。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
カイトさんが提督に声をかけます。
「なんだね?」
「どうしてホウメイさんなんですか?」
それはこの場にいる人全員の疑問だろう。
「わしとホウメイさんは昔からの知り合いでな、今回のことを話したら喜んで引き受けてくれたぞ」
頷きながらそう話す提督。
「初耳ですわ、お父様」
ユリカさんがびっくりしてます。
「まあ、特に話す必要も無かろうと思ってな。それより勝負は一週間後の午後12時から、場所はこの家で行う。異論はないな?」
「はあ」
何処か気の抜けた返事を返すアキトさん。
なんか展開が早足で進んでますので戸惑ってますね。
「それから、これから一週間はユリカとルリ君、カイト君の3人はこの家で暮らしてもらう。そしてその間はアキト君と会うのを禁止する」
「え〜〜〜〜〜、なんでそうなるの!?」
その提案に真っ先に反対するユリカさん。まあ無理もありませんけど。
「私たちはともかくどうしてユリカさんもなんですか?」
まあ確かに私とカイトさんは審査員という立場上しょうがないかもしれませんが、どうしてユリカさんもなんでしょう?
「さっきも言ったが私はアキト君の料理人としての実力を見たいのだ」
提督が私の疑問に答えようとした時、
「あ、そういう事ですか」
何か気付いたのだろう、私の隣にいたカイトさんが声を上げる。
「どういう事ですか?」
私が訊ねるとカイトさんが自分の考えを話し始めます。
「つまり、提督が言いたいのは、アキトさんが一人で何処までできるかを知りたいと言ってるんだよ。もしユリカさんが側にいないことで料理の腕が落ちればまだ料理人として未熟だということになる。提督はそれを確かめようとしてるんだよ」
「うむ、カイト君の言う通りだ」
提督が頷く。
(なるほど、そういうことですか)
まあ、なんとなくカイトさんの言いたいことも分かりますけど、ユリカさんが納得するとはおもえません。
「む〜〜〜〜、わたしはそんなの納得できない〜〜〜!」
やっぱりユリカさんは反対します。
「大体、お父様は!」
「ユリカ!」
尚もなにか言おうとするユリカさんをアキトさんが止めます。
「アキト・・・」
「分かりました」
一言呟くアキトさん。
「え!?」
ユリカさんは驚いた顔をしてアキトさんを見てます。
「そういう事なら俺、一人で頑張ります。それで提督に認めてもらえればユリカとのことを認めてくれますね」
アキトさんが真剣な目で提督の目を見ます。
「わしも男だ、約束は守る」
お互いに目をそらさずに話すアキトさんと提督。
それから、時間にして十数秒の後、アキトさんが立ち上がりました。
「それでは、一週間後にまた来ます」
そう声をかけて玄関に向かいました。
「アキト、待って!」
ユリカさんもその後に続きます。
私とカイトさんも二人を追うために席を立つと正面に座っていた提督が声をかけてきます。
「二人とも・・・わしは酷い父親なのだろうか・・・」
どこか寂しそうな声で。
「私には・・・よくわかりません」
私は正直に答えます。
正直子供を持つ親の気持ちなんて今の私には一番理解できない事です。
「親が子供の心配をするのは当然だとおもいますよ、やっぱり自分の大切な人には幸せになってもらいたいですから」
私の代わりにそう言って笑顔で答えるカイトさん、なぜか私の肩に手を置いてきました。
「親子なんですから、自分の気持ちを正直に話し合うのが一番です。なにより、提督自身が決めたことなんですから結果が出るまで最後まで悔いのないようにするのが一番だと思いますよ」
「そう・・・だな、わしが決めたことだからな。そうと決まれば絶対に二人の結婚を諦めさせてやるぞ」
提督が笑いながら答える。
「そうはいきませんよ、アキトさんはやる時にはやる人ですから。今回もきっとやり遂げてくれますよ」
そう言って自信をもって答えるカイトさん。
「そうですね、アキトさんならきっとやってくれます」
私も自信をもってそう言えます。
「二人とも、アキト君を信じているんだな」
「「家族ですから」」
私とカイトさんは声を合わせて笑顔でそう答えます。
その後玄関で、泣きそうになっているユリカさんを私とカイトさんでなだめつつ3人でアキトさんの後ろ姿を見送りました。
一週間後、きっとアキトさんは笑顔で私たちの前に現れてくれるはずです。
その日まで
(アキトさん、頑張って下さいね)
私たちがミスマル家で生活をはじめて3日目。
「う〜、アキト〜」
朝からユリカさんの情けない声がミスマル家に響いている。
「ユリカさん、何を朝から情けない声を出してるんですか」
私は傍にいたユリカさんに話しかける。
「だって、アキトのことが心配で心配で」
目をウルウルしながら話すユリカさん。
「アキトさんならあれでしっかりしてますから大丈夫ですよ」
廊下の向こうをカイトさんが歩いてきながらユリカさんをなだめます。
「もしかしたら、アキトがコンロの火でヤケドしてるかもしれないし、寒空の下でラーメンを売ってて風邪をひいてるかもしれないのよ」
(はあ〜、この人は、まったく・・・)
私はあきれた顔をしてユリカさんに話しかける。
「提督との約束ですから今は我慢してください」
「う〜〜〜〜〜」
うめきながらも我慢するユリカさんを見ながらカイトさんも苦笑いを浮かべていました。
4日目
「アキト〜〜〜〜〜〜〜」
朝からユリカの声がミスマル家の庭に響いている。
今日は朝からアキトのラーメン屋台があるだろう方向に向かってひたすらアキトの名前を呼び続けていた。
「アキト〜〜〜〜〜〜〜」
そんなユリカさんを縁側から眺める私とカイトさん。
「どうしましょうか、あれ」
「どうしようか」
(まさかここまでユリカさんが壊れてしまうとは思いませんでした)
いくらユリカさんに話しかけても馬の耳に念仏でまともな返事もかえってきません。
私たちが途方にくれていると提督が話しかけてきました。
「二人ともユリカの様子はどうかね」
「見てのとおりです」
「やっぱりアキトさんと離れ離れになったから・・・」
「そうか・・・」
提督は大声で呼び続けるユリカを見ながらはぁ〜とため息をつくとユリカさんに声をかけます。
「仕方ない・・・ユリカ、遠くからアキトくんを見るだけならパパも許可しよう・・・」
”アキト”という言葉を聞いてユリカさんが反応します。
「本当!お父様!」
うれしそうに提督に詰め寄るユリカさん。
「ユリカ、アキトくんの姿を遠くから見るだけだぞ、くれぐれも」
「わかってるわ、お父様♪アキト〜〜〜〜待っててね〜〜〜〜〜〜!!」
提督の言葉がほんとに聞こえているのか怪しい感じでしたが、とりあえずユリカさんが元気になって良かったです。
「う〜〜〜、やっぱり心配だ。ルリくん、カイトくん、ユリカがアキトくんの前に出て行かないように見張っていてくれんか」
提督が情けない顔をして私とカイトさんに話しかけてきます。
「はあ〜、しょうがないねルリちゃん・・・」
「ユリカさんがアキトさんの姿を見るだけで終わるわけありませんしね・・・」
その言葉に提督がうれしそうな顔をしています。
まあしょうがないですね。
「二人とも、頼んだぞ〜〜〜〜」
私たちは提督の応援を背中に聞きながらユリカさんの後を追いました。
ラーメン屋台から15メートルぐらい離れた曲がり角
「あ〜〜〜、アキト〜〜〜」
ユリカが感極まって泣きながらアキトの姿を角から覗き見ている。
泣きながら屋台を覗き見る姿はかなり怪しいものがあるがユリカにそんなことは関係ないようだ。
「う〜〜〜〜〜やっぱり我慢できない〜〜〜」
我慢の限界にきたユリカがアキトのところに駆け出そうとしたところでユリカを抑える四本の腕が背後から迫る。
「だめですよユリカさん」
「いま出て行ったら提督に結婚を許してもらえなくなりますよ」
ルリとカイトがユリカの体を曲がり角に引き込みながら言う。
「う〜、お願いルリちゃん、カイトくん見逃して!」
ユリカが瞳をウルウルしながら二人に懇願する。
「「だめです」」
「はう〜〜〜」
しかしルリとカイトが声をそろえて拒否するとユリカもしぶしぶながらも諦めることにした。
「わかった、今日のところはアキトの姿を見るだけで我慢するわ・・・」
そう言ってもう一度アキトの姿を覗き見るユリカ。
とりあえずユリカが落ち着いたので安心したルリとカイトもそっとアキトの姿を眺める。
(アキトさん、元気そうですね)
(アキトさん、後もう少しです。がんばってください)
心の中でアキトのことを応援するルリとカイト。
そんな二人の隣ではやっぱり「アキト〜〜アキト〜〜」とうめきながらアキトを見ているユリカの姿があった。
そんな三人の耳に屋台から話し声が聞こえてきた。
「よお、兄さん。いつもいっしょにいる子達はどうしたんだい?最近見かけないけど」
お客の一人がアキトに話しかけている。
「ええ、実はちょっと事情がありまして、今は離れた所にいるんですよ」
「そうか〜、この店のあのあったかい雰囲気が気に入ってたんだけどなぁ」
「大丈夫ですよ。もうすぐ皆戻ってきますから」
アキトが笑顔で答える。
「事情は良くわからないけど一日も早く前みたいな店に戻るのを楽しみにしてるよ」
「はい」
力強く答えるアキト。その顔は来るべき勝負に対する決意の表れでもあった。
そんなアキトの顔を見て三人とも自然と笑顔になった。
(アキト・・・私、アキトが迎えに来てくれるのをずっと待ってるから早く迎えに来てね♪)
ユリカはアキトの決意の深さを知り、今は会えないのは寂しいがアキトのことを信じて待つことにした。
ルリとカイトもアキトの強さを改めて確認できて良かったと思った。
そして三人は屋台でラーメンを作り続けるアキトに背を向けてミスマル家へと戻っていった。
決戦の日まであと3日・・・
残りの日はいつもどおりに平和な毎日だった。
ユリカさんもアキトさんの姿を見ることが出来たのでなんとか普通に戻ったし、私とカイトさんもアキトさんを信じているので心配はしていません。
そして今日は決戦当日です。
「アキト〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ミスマル家にやってきたアキトさんに向かってユリカさんがフライングボディーアタックをかまします。
「ぐぁ、ユ、ユリカ・・・重い・・・」
玄関でユリカさんにつぶされるアキトさん、ちょっと情けないです。
私は気を取り直してアキトさんに話しかけます。
「アキトさんお帰りなさい」
「待ってましたよ」
カイトさんも私の隣でアキトさんに声をかけます。
「ルリちゃん、カイト。二人とも元気そうで安心したよ」
「まあたった一週間ですから」
「でもユリカさんにとっては一週間は長すぎたのかもしれませんけどね」
話をしている最中でもユリカさんはアキトさんに抱きついたままです。
「アキト〜♪アキト〜♪」
「と、とにかく家の中に。提督が待ってますから」
とりあえずユリカさんを無視して話を進めるカイトさん。
(まあユリカさんもしばらくすれば元に戻るでしょう)
私たちは提督の待っている部屋に歩いて向かいました。正確に言うとユリカさんはアキトさんにしがみついたままひこずられていたのですが・・・。
ミスマル家の一室
部屋の中には提督とホウメイさんが座っています。
「来たかね」
「久しぶりだね、テンカワ」
提督とホウメイさんがアキトさんに話しかけます。
「お待たせしました、提督。お久しぶりです、ホウメイさん」
アキトさんも二人に対して挨拶をします。
「早速で悪いが準備のほうはいいかね?」
「はい、大丈夫です」
提督の目をまっすぐに受け止めながら答えるアキトさん。
「では付いてきたまえ」
その言葉を聞いて私たちは台所へと移動を開始しました。
先頭を歩いていた提督が台所の前に着くと私たちの方を振り向いて言います。
「ここから先はアキトくんとホウメイさんの二人だけで行ってもらう。
その言葉にいち早く反応したユリカさんが異議をとなえます。
「えー、どうしてー!私もアキトと一緒に行くー!」
「だめですよユリカさん、ここから先はアキトさんとホウメイさんの二人だけしか入ってはいけません」
私はユリカさんに話しかけます。
(そうです、これはアキトさんとホウメイさんの一対一の戦いですからそれ以外の人が立ち入ってはいけませんね)
「でも・・・」
なおも異議を唱えようとするユリカさんに今度はカイトさんが話しかけます。
「ユリカさん。これまでの一週間、アキトさんを信じたように最後の最後までアキトさんのことを信じて待ちましょう」
「・・・」
私とカイトさんに言われてユリカさんがゆっくりと頷きました。
「わかったわ、アキトのことを最後まで信じる」
「待ってろよユリカ、今の俺にできる最高のラーメンを作って見せるから」
アキトさんがユリカさんの肩に手を置きながら力強く言いました。
その言葉を聞いてようやくユリカさんの顔に笑顔が戻りました。
「話のほうはそろそろ終わったかい?」
それまで私たちの様子を黙って見ていたホウメイさんが口を開きました。
「はい」
アキトさんがホウメイさんの方を向いて答えます。
「じゃあ行こうかテンカワ。手加減はしないからね」
「望むところです」
二人は並んで食堂の中へと入っていきました。
そして台所の扉が閉まった後に提督が私たちに言いました。
「それではわし等は食堂のほうで待つとするか」
私たちは食堂へと移動を開始しました。
それから料理ができるまで、私たちは黙って待っていました。
提督は腕を組んで目を瞑りながら。
ユリカさんは台所のある方を時々ちらっと見ながら。
カイトさんは窓の外をじっと見ながら。
皆さんが何を考えているかは私にはわかりません。
でも多分考えていることは皆同じようなものだと思います。
そしてしばらくするとアキトさんとホウメイさんがお盆に乗ったラーメンを持って食堂へとやってきました。
「お待たせしました」
「お待ちどうさん」
アキトとホウメイがそれぞれに言葉をかける。
「アキト」
ユリカがアキトの姿を認めて何か話しかけようとするがその前に口を開くものがいた。
「うむ、それでは早速審査のほうを始めてもらおうか」
コウイチロウはそう言ってルリとカイトのほうに顔を向けた。
ユリカはその言葉を聞いて、話しかけるタイミングを逃してしまった。
「わかりました」
そう言ってカイトは窓から離れてルリの隣に座る。
そして二人はラーメンの横においてある箸を手に取る。
二人の様子を四人がじっと見詰めていた。
ルリはアキトのラーメンを、カイトはホウメイのラーメンを目の前に持ってくる。
「「いただきます」」
ルリとカイトはそう言ってラーメンに箸をつける。そしてゆっくりとラーメンを食べ始める。
二人は二口三口味わった後、黙ってもうひとつの器に手を伸ばす。
そんな二人のことを四人は黙って見守っていた。
そしてルリとカイトが箸を置く。
「・・・それで、審査のほうは?」
コウイチロウが二人に問いかける。
ルリとカイトは一瞬考えた後に、ひとつの器をコウイチロウの方に差し出した。
「あ・・・」
その様子を見ていたアキトが声を出した。
二人が差し出した器・・・それはホウメイのものだった。
食堂の中が静まり返る。
そんな中ユリカがルリとカイトに詰め寄る。
「ルリちゃん、カイトくんどうして!」
ユリカには今の光景が信じられなかったのだろう。二人がアキトのラーメンではなくホウメイのラーメンを選んだことが。
「ねえ、もう一度よく味わってみてよ!」
ユリカがなおも二人に詰め寄ろうとしたのをアキトがとめる。その顔は少しだけつらそうだった。
「よすんだユリカ」
「でも!」
ユリカはアキトの方を見る。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「二人の意思に変わりはないのかな」
コウイチロウがルリとカイトを見ながら聞く。
「はい、これが僕の正直な結果です」
カイトが答える。ルリも静かに頷く。
「そうか・・・わかった」
コウイチロウが目を瞑ってただそれだけ口に出す。
「どう・・・して・・・」
この結果に納得できないユリカがその場にへたり込む。
「ユリカさん・・・この勝負を提督に聞いたときに僕は決めました。自分の中でたとえどのような結果に行き着いたとしても決して偽らないようにしようと」
カイトがユリカに話しかける。
「僕もルリちゃんもアキトさんとユリカさんには、結婚して幸せになってもらいたいです。でもアキトさんも提督も自分の気持ちを偽らずにお互いの信じるもののためにこの勝負を行いました。そしてそんな二人の真剣な思いに対して僕たちも真剣な思いで応えなくちゃいけないと思ったんです」
カイトの言葉にルリも静かに頷く。
(そう・・・アキトさんも私たちが嘘をつくことなど望んでもいないし、そんなことをして苦しむのはアキトさんのほうだから・・・)
「・・・・・・・・・」
ユリカはうつむいて黙ったままだった。
「アキトさん」
カイトがアキトの方に顔を向けるとアキトが静かに笑って答える。
「ありがとうな、カイト。それにルリちゃん」
その言葉を聞いてユリカが顔を上げる。
「ユリカ、二人は俺たちにとって本当の妹、弟だ。その二人が真剣に提督と俺、そしてユリカのことを考えてくれたことがすごくうれしい。たとえどんな結果でも俺は後悔したりしない。ここで嘘をついたって誰も本当に幸せにはなれないんだから。俺も、ユリカも、ルリちゃんも、カイトも、提督も・・・」
そう言ってユリカの肩を優しく抱く。
「アキト・・・」
ユリカが力なくアキトの名前を呼ぶ。
「アキトくん・・・」
そんなアキトたちを見ていたコウイチロウが口を開く。
「提督、約束は守ります・・・」
そう言ってアキトは食堂を出て行こうとする。
「ちょっと待ちなテンカワ」
そんなアキトを扉のそばにいたホウメイが引き止める。
そしてホウメイがコウイチロウに話しかける。
「ミスマル提督、出された料理を食べるのは料理を作ったものに対する最低限の礼儀でしょう」
「ホウメイさん?」
アキトはホウメイの言っていることの意味がわからなかった。それはユリカたちも同じだった。
「・・・そうだな」
ただコウイチロウにはその意味が分かったのか、そう言ってテーブルに置かれていたアキトのラーメンを手に取りそれを口に入れた。
「「「「あ」」」」
アキトたちはそれを見て声を上げた。
なにも言わずにラーメンを食べるコウイチロウ。
「ズズ・・・ズズズ」
スープまで飲み干したコウイチロウが顔を上げる。
「・・・・・・・・・」
コウイチロウの様子をじっと見詰めるアキト達。
「・・・うまかった・・・」
そう一言だけ口に出すコウイチロウ。
「お父様・・・」
ユリカが話しかけようとするのを手で制してコウイチロウが言う。
「本当においしいものに優劣をつけることは間違っていたのかも知れんな」
そう言って席を立ち上がり食堂から出て行こうとするコウイチロウ。最後に扉を開けたときにアキトに背を向けたまま話しかける。
「アキトくん、娘を・・・ユリカをよろしく頼む・・・」
今度こそコウイチロウは食堂から出ていった。
「えっ・・・・・・・と」
いまだにコウイチロウの真意が読めないアキト達四人。そんな四人を見てホウメイが話しかける。
「よかったじゃないかテンカワ。ミスマル提督があんたのラーメンを、あんた達の結婚を認めてくれたのさ」
笑顔でそう言うホウメイの言葉にだんだんとアキト達の顔が笑顔になっていった。
「アキト!私たち結婚できるんだ〜!」
「ああ!ユリカ!」
アキトとユリカが抱き合って喜ぶ。
「アキトさん、ユリカさん。本当によかったですね」
「おめでとうございます。アキトさん、ユリカさん」
ルリとカイトも本当にうれしそうに二人に声をかける。そんな光景に優しい笑顔を向けながらホウメイは食堂から出て行った。
食堂を離れていくホウメイの耳には喜びを分かち合う声がいつまでも聞こえてきた。
「ふう・・・」
食堂から縁側へと移動してきたコウイチロウがため息をついた。
「ここでしたか、ミスマル提督」
そんなコウイチロウにホウメイが声をかける。
「ああ、ホウメイさんか」
ホウメイはコウイチロウの横に腰を下ろした。
「・・・」
「・・・」
お互いに黙ったまま空を眺めているとコウイチロウが口を開いた。
「わしは怖かったのかもしれん・・・ユリカが結婚することでわしの元からいなくなっていくのが」
「子供はいずれ親から離れていくものですよ。けど家族という絆は決して消えません、たとえどんなに遠く離れたとしても必ず繋がっているものですよ」
ホウメイはコウイチロウに話しかける。
「そうだな」
「それに今回のことでミスマル提督には新しい家族ができるんですから」
「ああ、アキトくんはわしが思っていたよりも立派な青年だった。それにルリくんもカイトくんもとてもまっすぐでいい子達だ。二人ともアキトくんやユリカのことを本当に慕っていたのがよくわかった。二人を審査員に選んで正解だったよ」
コウイチロウが穏やかに応える。
「ありがとう、ホウメイさん。君のおかげで自分の気持ちをようやく整理することができそうだ」
「いいんですよ、私にとってもテンカワや艦長はナデシコに乗っていたときの”家族”ですから。二人に幸せになってもらいたいですからね」
二人は静かに空を見上げていた。
(ユリカ、幸せになるんだぞ・・・母さんもきっと喜んでくれるはずだ)
コウイチロウはさびしそうな気持ちになりながらもどこか晴れやかな顔をしていた。
こうしてアキトとユリカの婚約を機にルリ達四人の絆がよりいっそう深まっていくのだった。
〜続く〜
後書き:
S=DASH:ども〜みなさんこんばんは、S=DASHで〜す。前回からかなりの時間が空いてしまいましたが”エピソード13:師弟対決”はいかがだったでしょうか。楽しんでもらえたなら僕もうれしいです(^^)いや〜アキトくんもユリカさんも結婚を許してもらえて本当によかったですね〜。アキト×ユリカFANとしてはうれしい限りです。(シミジミ)
ルリ:まったく一時はどうなるかと思いましたよ。(−−;
ルリがSのことをジト目で見る。
S:あれ、ルリちゃんどうしたの?
ルリ:どうしたのじゃありませんよ。今回のラーメン対決のことです。
S:何か問題でも?
ルリ:アキトさん負けちゃってるじゃないですか。
S:ああ、そのことね。
シレッと答えるS。
ルリ:ああ、じゃないです。どういうつもりですか。
S:う〜ん、単純に考えてアキトくんよりまだやっぱりホウメイさんの方が料理の腕は上かなって思っただけだし。それにほらちゃんとアキトくんもユリカさんも結婚は許してもらえたんだし。
ルリ:当然です!もしお二人が結婚できなかったらこれから先の話が続かないじゃないですか。(−−メ
そう言ってSをにらみつけるルリ。
S:(ビクッ)す、すみません・・・(−−;
蛇ににらまれた蛙のように縮こまるS。
S:でも二人の結婚をそんなに真剣に心配するなんてやっぱりルリちゃんも優しい女の子なんだね。
ルリ:当たり前じゃないですか。このお話が続かなくなったら、私とカイトさんの甘〜くとろけるようなラブラブなお話がなくなってしまいますから。(ポッ)
頬を赤くしながら答えるルリ。
S:・・・・・・・・・
二人の心配よりもカイトとの甘い生活を心配していたルリの言葉に固まってしまうS。
S:(な、なんて自分勝手な・・・)(−−;
カイト:あ、ルリちゃん。探したよ。
ルリ:あ、カイトさん(ハァト)
カイトの出現で猫かぶりモードになるルリ。
カイト:アキトさんとユリカさんの結婚を許してもらった御礼に、提督に何かご馳走を作ろうと思ってるんだけど一緒に買い物に付き合ってくれないかな。
ルリ:もちろんです。私もアキトさんとユリカさんの結婚が決まってとってもうれしいですから♪それに心配だったんです、二人には幸せになってもらいたいですから・・・
さっきまでとは違うことを言うルリ。
カイト:そこまで二人のことを・・・やっぱりルリちゃんは優しいね(^^)
カイトはルリの言葉に感動している。
ルリ:そ、そんな家族として当然です(ポッ)
カイトの笑顔に真っ赤になってうつむきながら答えるルリ。
S:女の子って怖い・・・(ボソッ)
ルリの言葉に小声で突っ込むS。
ルリ:(ピクッ)じゃあちょっと準備してきますから先に外で待っていてくれますか?(^^)
いまだにルリが地獄耳なのを理解していないSは今日も今日とて自滅するのであった。
カイト:わかったよ、それじゃあ。
ルリ・カイト:読者の皆さん、今回のSSも読んで下さってありがとうございました。次の話も精一杯頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。感想や意見などメールにて送って下さい。作者に返事もきっちり書かせますので。それでは次のお話でまたお会いしましょう。(ペコリ)
カイト:じゃあまた後でね、ルリちゃん。(^^)
ルリ:はい♪
その場から去っていくカイト。そしてゆっくりとSの方に振り向くルリ。
ルリ:Sさん、やっぱりSさんはこれが大好きなんですね(^^メ
壮絶な笑顔を浮かべながらG釘バットを振り上げるルリ。
S:あ・・・あははははは(^^;
もはや笑うしかないS。
ルリ:さ・よ・う・な・ら♪(^^メ
S:(ドガスッ)なんで僕がこんな目に〜〜〜〜〜〜〜〜〜(キラン)
ルリの一撃でお空のお星様になるS。
ルリ:・・・私だって本当にアキトさんとユリカさんが結婚できてうれしいんですから。
ちょっぴし素直になれないルリの本音をSが聞くことはなかったのだった。
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