新しくカイトさんという仲間を加えたナデシコ。
私ことホシノ・ルリはカイトさんとの出会いで生まれてきた感情に戸惑い気味です。
そんな私の悩みも知らずにナデシコクルーは、私の今までにない行動に冷やかしモード120%。
まったく皆”バカばっか”
さらにバーチャルルームでの”おでこにキス事件”がさらに拍車を掛けてしまいました。
そんな私の事を影から優しく見守る一人の女性。彼女曰く
「ルリルリもあーやって段々と大人になっていくのね」
と寂しさ半分、嬉しさ半分に語っていたとかいなかったとか。
そんな中、今だ記憶の戻らない事に一人悩むカイトさんや、周りの事など気にせずテンカワさんにべったりの艦長。
ナデシコクルーのいろんな事情を載せて、ナデシコは地球へと帰ってきました。
こんな事で私たち、これからどうなるんでしょうか・・・
機動戦艦ナデシコ
〜妖精の微笑み〜
エピソード3:絆
サセボシティにあるドックに収容されるナデシコ。
私たちナデシコのクルーはブリッジに集められました。
「みんな、もう分かってると思うけど。みんなにはこれからしばらくこのサセボシティで拘留生活を送ってもらう事になるから」
アカツキがネルガル会長として話す。
「まあ、火星の遺跡を宇宙の彼方に飛ばしちゃったんだ。宇宙軍に対しての対応と、秘密漏洩のこともあるし。この命令には黙って従ってもらうよ」
「まあ、当然ですね」
私は誰に言うともなく呟く。このぐらいの事は覚悟していたので今更驚きません。他のナデシコのクルーも同じです。ただ一人”僕も?”と言う顔でいる人が一人いますけど。
「カイトさん。あなたの記憶があるないに関わらずナデシコに乗っていたと言う事実は変わらないですから、諦めて下さい。それにネルガルがあなたを手放すとはおもえませんし、一人になるよりは私たちといっしょの方がいいと思いますよ」
「はは、そうだねルリちゃん。今の僕の知っている人はナデシコの人達だけだからね」
私の言葉にカイトさんは渇いた笑みで返します。
(これで少なくともここにいる間はカイトさんと居られますね。・・・ハッ、私ったら何を考えてるんでしょう)(ポッ)
自分の考えにほんのり顔を赤くするルリ。
とにかくこれからしばらくの間、サセボシティでの拘留生活が始まる事になります。
ルリ達の住む場所はサセボシティにあるドックのすぐ側、町からは少し離れた所にある長屋だ。
なぜ、科学の進んだこの世界に長屋なんて物があるのかは謎だが。とにかくここで暮らしていく事になる。
「何か・・・汚いですね」
私はその家を見てそう一言。一応掃除はされているが建物が建物なだけにやっぱり奇麗とは言えない。
「まあ、しょうがないよ。牢屋なんかよりはマシだと思うよ」
カイトさんが私の言葉に答える。たしかにそれよりはマシですけど。
「カイト、俺達の部屋はあそこみたいだぞ」
「アキトさん、僕と相部屋でよかったんですか?ユリカさんといっしょの方がよかったんじゃ」
カイトがアキトに向かって意地悪そうに言う。
「ば、ばか、何言ってんだよ!」
カイトはナデシコの中でからかわれた事をまだ根に持っているようだ。
「ははは、冗談ですよ」
「まったく・・・」
アキトはぶつぶつ言いながら手に持っている鍵でドアを開ける。
「アキト!!」
そのアキトに背中から声を掛ける女性が一人。そこには怒った様子のユリカがいた。
「何で、私とアキトがいっしょの部屋じゃないの!?」
「何でって、当たり前じゃないか」
「どうして!?アキトは私といっしょにいたくないの!?」
ユリカの剣幕に押されてあせるアキト。ユリカは尚もアキトに詰め寄っていたが突然カイトの方に振り向く。
「カイト君!!」
「は、はい?」
カイトはちょっとビクッとして答える。
「私と部屋を代わって!!」
「へっ?」
「だから、私と部屋を代わって!アキトとは私が住むから、カイト君はルリちゃんをお願い」
「か、艦長!」
(い、いきなり何を言うんですか!私とカイトさんの二人で生活しろなんて・・・そりゃあいやじゃありませんけど・・・ってそうじゃないです)(ポッ)
「そ、そんなの駄目に決まってるじゃないですか。大体女性と男性が二人で住むなんてヤバイですよ・・・結婚してるわけじゃないんだし」
後ろの方はよく聞こえませんけど、カイトさんもさすがにこの案には賛成できないようです。当然ですね。
「それにルリちゃんだって僕よりもユリカさんといっしょの方がいいですよ。ルリちゃんは今が大事な時なんですから、ルリちゃんのためにも女性であるユリカさんがいっしょのほうがいいです」
「むう〜〜〜、わかったわよ〜」
ユリカは真剣な顔をしたカイトの”ルリの為”と言う言葉にしぶしぶ納得したようだ。
(カイトさん、私のためにそこまで考えてくれるなんて・・・)
私のために真剣になってくれるカイトさんを見て、嬉しくなりました。
「艦長、そんなに落ち込まなくても。私たちの部屋はテンカワさんたちの部屋の隣なんですから」
私は落ち込んでいる艦長にそう話し掛けます。
「隣?ほんとルリちゃん?」
「はい」
「それならそうと早く言ってくれればいいのに。アキト、ユリカに会いたくなったらいつでもあそびにきてね!」
艦長が一転して嬉しそうな顔でテンカワさんに話し掛ける。
(まあ、こんな事になると思ってあらかじめテンカワさんの隣の部屋にしてもらったんですけど・・・・・・それにこれで私もカイトさんの隣に住めますし)(ポッ)
ルリが少し頬を赤くしながらカイトの方を見るとカイトは優しく笑いかけていた。
「とにかく、中に入ろーぜ」
「そうですね」
部屋の中に入っていくカイトさんとテンカワさんを見て私も艦長に話し掛ける。
「艦長、私たちもとりあえず中に入りましょう」
「そうだね、早く荷物を置いてアキトのところに行かないと」
(いきなりですか・・・この人にはゆっくりするという考えはないんでしょうか?)
私は少しあきれつつ、鍵を明けて部屋の中に入る。
結局荷物を片づけてから私は、艦長に連れて行かれてテンカワさんの部屋に上がる事になりました。
「ア〜キ〜ト〜、遊びに来たよ!」
「ユ 、ユリカ」
テンカワさんはとても驚いています。無理もありませんね、まさかこんなに早く来るとは思ってなかったでしょうから。
「ルリちゃん、いらっしゃい」
カイトさんは艦長の行動に驚くのを諦めたのか苦笑した顔で私に挨拶してきました。
「こんにちは、カイトさん・・・って言うのも変ですね」
「ははは。さっき別れたばかりだからね」
私とカイトさんは二人で笑い合いました。その横ではいつも通り艦長がテンカワさんに抱き着いていましたけど今更なので気にしません。
それからしばらくはちゃぶ台を囲んで色々とお話をしました。特にカイトさんが居なかった時のナデシコの事をカイトさんに話してあげました。
「・・・と言うわけで、ナデシコは火星の遺跡のコアを飛ばす事にしたんです」
「ふ〜〜ん、それでナデシコは火星からボソンジャンプしたんだ」
「はい、その時にカイトさんが現れたんです」
私の説明が終わって、カイトさんはうんうんと頷いていました。
「ほんと、びっくりしたよな。いきなり、知らない人がナデシコに乗ってたんだから」
「すみません、ご迷惑をおかけして」
カイトが済まなさそうな顔をして言う。
「謝らなくてもいいよ。カイト君のおかげであの時助かったんだから」
「そうだぜ、それにもうカイトは俺達の仲間なんだからさ」
「そうですよ、カイトさん」
「ありがとうございます」
カイトはアキト達の言葉に嬉しそうな顔で答える。
(この人達と出会えてほんとによかった)
カイトはナデシコに飛んできた事を神様に感謝していた。
「カイトさんは、これからどうするんですか?」
私はカイトさんにこれからの事をたずねました。
「え・・・そんなこと聞かれてもなぁ、特に行く当てもないし・・・ルリちゃんは?」
「私も同じです。私はナデシコに乗るためにネルガルにきましたから、ナデシコがなくなれば私の行く場所はなくなります」
「そうなんだ・・・ごめんね変な事聞いて」
「いえ・・・私も・・・カイトさんにも行くところがないのを知ってたのにこんな事聞いてしまって」
すこし俯きかげんになるルリとカイト、そんな二人にユリカが声を掛ける。
「二人とも、大丈夫だよ!」
「「え?」」
「行くところがないんなら、ユリカの家にくればいいんだし!」
「でも、いいんですか?」
「もちろん!それに私の家、広いから余ってる部屋もたくさんあるしね!」
「艦長・・・」
「ユリカさん・・・」
「ねっ、そうしなよ二人とも!」
お互いに顔を合わせるルリとカイト。
「ありがとうございます、ユリカさん」
(艦長・・・ありがとうございます。・・・・・・でも、と言う事は私はカイトさんと一つ屋根の下で暮らす事になるんですね・・・)(ポッ)
「あ、それからルリちゃん。私の事はユリカでいいから!」
「え?」
「やっぱり一緒に住むんだからその方がいいでしょ!」
「は・・・はい、か・・・ユリカさん」
「うん!よろしい!」
(いきなり呼び方を変えるのは、ちょっと照れてしまいますね)
嬉しそうにているカイトとなぜか顔を赤く染めているルリを見ながら笑っているユリカ。その顔はまるで二人の本当の姉のように優しい物だった。
「ユリカ・・・お前・・・」
そんなユリカを優しく見詰めるアキト。
この日から四人の間に新しい絆が生まれる事になる。
それはまだ小さな絆・・・だがこれから大きくなる絆。
そう・・・”家族”と言う名の絆・・・そしてそれはルリとカイトにとってとても大事な物になる。
長屋での生活にも慣れてきた頃、カイトは最近アキトに習ってラーメンの練習をしていた。
「いいか、カイト。前にも言った通りラーメンは麺も大事だけど、それと同じようにスープも大事なんだ」
「はい」
「スープはブタの骨のコクを出すためによく煮込むんだ、それから・・・」
ガチャ
いきなりドアが開いて、ユリカが入ってくる。
「アキト〜〜、ご飯食べにきたよ〜」
ユリカはそう言うとアキトに抱き着いた。
「おわっ!ユ、ユリカ!今、火使ってるんだから抱き着くな!」
「む〜なによ、アキト!そんなに嫌がる事ないじゃない、アキトは私の事が好きじゃないの!?」
「そう言う問題じゃないだろ!」
アキトはコンロの火を切るとユリカに話し掛けた。そんな二人をほっといてちゃぶ台の前に座ってお茶を啜るルリとカイト。
ズズズズ・・・フゥ
「カイトさん、お茶入れるの上手くなりましたね」
「ありがとう、ルリちゃん」
ズズズズ・・・フゥ
「平和だね〜」
「ですね・・・」
アキトとユリカのいつもの痴話喧嘩を聞きながら平和を感じる二人。その後痴話喧嘩が終わるのに30分の時間がかかった。
「まったく、カイトにラーメンの作り方を教えてたのに」
「だって、早くアキトの料理が食べたかったんだもん」
ユリカが拗ねた声でアキトに話し掛ける。
「で、カイトさんの腕はどうなんですか」
私はテンカワさんに聞きました。
「結構、上達したんじゃないか。味の方もいい感じになってるし」
「だって、先生がいいもんね」
ユリカはアキトの方を向いて笑っている。
「アキトさんに比べたらまだまだですよ」
「でもテンカワさんが言うんですから、きっと上達してるんですよ」
「そうかなぁ?」
「そうですよ」
私は照れているカイトさんに微笑みます。
「じゃあ、今度僕のラーメンを食べてくれるかなぁルリちゃん?」
「え!私が・・・ですか?」
「うん、ルリちゃんにはナデシコでもお世話になったからそのお礼に食べて欲しいんだ。それにアキトさん以外の人にはまだ食べてもらった事がないから」
(カイトさん・・・私のために・・・)(ポッ)
私はそんなカイトさんの気持ちが嬉しくなりました。
「はい。それなら喜んで」
そんな二人を見ていたアキトが何か思い付いたのか二人に話し掛ける。
「それじゃあ、二人で買い出しに行ってきてくれないか?」
「買い出しですか?」
「そう、そろそろ材料も切れてきてるし、俺とユリカはちょっと用事があるから」
「それなら僕だけで」
「カイト君はまだこの辺りの地理に慣れてないでしょ。だから、ルリちゃんと行ってきた方がいいと思うよ」
アキトの考えに気が付いたユリカがアキトに続く。
「でも・・・」
「そう言う事なら、私はかまいませんけど」
私はカイトさんの言葉を遮って言う。
「じゃあ、頼むよ。買ってくる物はこの紙に書いてあるから」
アキトはメモ用紙を渡す。
「はぁ・・・分かりました」
カイトはなんか納得いかないような顔をしている。
「それじゃあ、行ってきます」
そういう訳で私たちは二人で買い出しに出かけました。
買い物途中の道
「なんか、アキトさんもユリカさんも変な感じだったけどどうしたんだろう」
「そうですね。でも、あのお二人の行動を気にしても仕方ありませんよ」
「そうだね・・・」
「・・・」
「・・・」
二人は黙ったままスーパーへの道を歩く。だが二人の間に気まずさはない、まるで長い付き合いのように自然な空気が流れている。
「・・・そう言えばルリちゃんと二人だけで外を歩くのは始めてだね」
「そうですか?」
「うん、いつもは四人で買い物に行ってたから」
「そう言えばそうですね」
(言われてみればこうやってカイトさんと二人で歩くのは始めてですね。二人きり・・・ですか。なんかこれってデ、デートみたいですね)(ポッ)
二人きりと言う事実に今更ながら顔を赤くするルリ。この時になってようやくアキト達の考えを理解した。
(そういう事ですか。まったくあのお二人は・・・・・・でも、今日のところは感謝・・・ですね)
そう考えて、心持ちカイトに近付くルリ、二人で並んで歩いている姿はまるで仲の良い兄妹のように見える。
ルリは今のこの時間を大切にするかのようにゆっくりと歩く。カイトもそんなルリの気持ちに気づいたのかどうか分からないが少し歩調を遅くする。
この瞬間、ルリとカイト・・・二人の心が少しだけ近付いた・・・気がした。
二人が買い物から戻ったのは夕方六時を少し回ったところだった。
買い物袋を持ったルリとカイトが部屋に入ってくる。
「おかえり、二人とも」
「おそかったね」
アキトとユリカが二人に話し掛ける。
「すみません、ちょっとスーパーが混んでて」
カイトはそう答えると袋を持って台所に向かう。
「すぐに用意するからルリちゃんは座って待ってて」
私は頷くとテンカワさんとユリカさんの居るちゃぶ台に向かいました。
(カイトさんのラーメン・・・楽しみですね)
アキトとユリカはニヤリとした顔でちゃぶ台の前に座るルリに話し掛ける。
「ねえ、ルリちゃん。二人だけの買い物はどうだった?」
「お二人の考えてる様な事はありませんでしたから、気にしないで下さい」
ルリは少し冷たい目で二人を見る。アキトとユリカは自分達の考えがばれているのを知ってバツが悪そうに笑う。
「ははは、ルリちゃん気づいてたの?」
「あれだけあからさまにされれば誰でも気づきますよ」
アキトの言葉にルリが答える。
(まったく、この人達は・・・まあ、そのおかげでカイトさんと二人だけで買い物に行けたんですけど)
「どうしたのかなルリちゃん、すごく嬉しそうだけど?」
「えっ、そ、そんな事ないです」
(いけません、顔に出ていたようです・・・な、なんですかその顔は?)
さっきまでルリの攻撃を受けていた二人だが、ルリの嬉しそうな顔を見てやっぱり自分達の思ったとおりの結果になったことに喜んでいる。
「ルリちゃん、そんなに怒らないでこれも全部カイトのためなんだから」
「そうだよ」
「カイトさんのため?」
ルリは二人の言葉に不思議そうにたずねる。
「そうだよ・・・最近カイト、ちょっと元気がなくてさ。やっぱり記憶が戻らない事を気にしてるんだろうな・・・でもカイトの奴、ルリちゃんといっしょに居るとすごく安心した顔するんだよ。だからたまには二人だけにしてやった方がカイトにも良いんじゃないかって思って」
「そうですか・・・」
(カイトさんが私と居て安心できる・・・ですか。そんな風に思ってくれて嬉しいですね)
「それにルリちゃんもカイト君といっしょの時の方が嬉しいみたいだしね?」
「そ、そんな事は・・・」
ルリはユリカの言葉にほんのり赤くなる。
「ううん、私にはわかるよ。カイト君と居る時のルリちゃんの顔、すごく嬉そうだもん」
「・・・」(ポッ)
アキトとユリカは顔を赤くして俯くルリを優しい顔で見ている。
「俺達にとって、ルリちゃんとカイトは妹、弟みたいなもんだからさ。二人が笑ってくれるのが嬉しいんだよ」
それは二人の偽りなき思い、この長屋での生活は二人にとってもとても大事な物になっていた。
その言葉を聞いてルリの心は暖かい気持ちでいっぱいになる。
(この人達は私達の事を真剣に考えてくれてる・・・とても嬉しいです。それに心の中がなんか・・・暖かいです。これが”家族”なんでしょうか)
台所の方ではカイトも二人の言葉に嬉しそうな顔をしていた。
しばらくして、カイトがラーメンを持ってやってきた。
「おまたせ、カイト特製ラーメンの出来上がりですよ」
四つのラーメンの器を持ってルリの隣に座るカイト。並べられたラーメンからはおいしそうな匂いが湯気と共に匂ってくる。
「良い匂いですね」
「何しろ、秘密のダシを使ってるからね」
ルリの言葉に笑って言葉を返すカイト。
「さっ、食べて見て」
「それじゃあ、いただきます」
ズルズルズルズル・・・コクン
「・・・」
「どう・・・かな」
カイトが真剣な顔でルリにたずねる。アキトとユリカもルリの方をじっと見ている。
「お・・・」
「「「お?」」」
「おいしいです」
「ほんと!?」
「はい、スープのダシもちゃんと取れてますし、なによりさっぱりしてとても食べやすいです」
「よかった、ルリちゃんに気に入ってもらえて!」
カイトは嬉しそうに声を上げる。
「よかったなカイト!」
「はい!これもアキトさんのおかげです」
「俺はちょっと手助けしただけだよ。ルリちゃんが誉めてくれたのはお前の作ったラーメンがおいしかったからだよ」
「じゃあ、私も食べてみようかな」
ユリカは箸を取りラーメンを口に運ぶ。
ズルズルズルズル・・・コクン
「ほんとだ!おいしい!アキトのとはちがった味がするけど、おいしいよ!」
「やっぱり自分だけのラーメンを作って見たかったから、アキトさんの味をそのまま使うわけにはいきませんしね」
ユリカの言葉に嬉しそうに答えるカイト。
「うん、良い味出してるじゃないか!」
アキトもこのラーメンの味が気に入ったようだ。
「よかった・・・これで今の自分に少し自身がもてました」
「カイトさん?」
ラーメンを食べていたルリがふと寂しげな顔をしたカイトに声を掛ける。アキトやユリカもカイトの顔を見る。
「最近思うんです。もし自分の過去を思い出した時、今の記憶はどうなるんだろーって・・・」
カイトは三人を見ながら話し出す。
それは三人も気になっていたこと。たいていの場合記憶喪失の人が記憶を取り戻した時それまでの記憶は無くなる方が多いのだ。
(記憶が戻っても今の記憶を忘れてしまったら・・・カイトさんが私の事を忘れたら・・・)ズキッ
ルリは胸が痛くなってきた。
(嫌です、そんなの!カイトさんが私の事を忘れるなんて・・・)
ルリはさびしそうにカイトの顔を見る。
「もしかしたら、今の記憶はなくなるのかもしれない、そうなったらいつか皆も僕の事を忘れるのかもしれない。そう思ったら、寂しくなってきて。皆の事を忘れたくない、皆にも今の僕の事を忘れて欲しくない。そう思って、今の自分を証明する物が欲しくなったんです」
「「「・・・」」」
三人ともカイトの言葉を黙って聞いている。
「もっと他にも残せる物があったのかも知れないけど、僕にはこれしか思い付かなくて・・・。僕の記憶がなくなっても、僕のラーメンの味を皆が思い出してくれたら僕がここに居た事を思い出してくれるかもしれない。そう思ってラーメンを作ろうと思ったんです」
カイトは自分の心にある気持ちを素直に話せた事に満足している。
「ばかやろー、そんな事しなくても俺達がお前の事を忘れるわけないだろ!」
アキトが大声でちゃぶ台をたたく。
「そうだよ。私たちはもう他人じゃないのよ、”家族”じゃない!」
アキトに続いてユリカも少し怒った声で言う。
「カイトさん、そんな悲しい事を言わないで下さい」
私はカイトさんの手をそっと握って声を掛けます。
「ルリちゃん・・・」
「テンカワさんと艦長の言うとおりです。私たちにとってカイトさんはとても大切な”家族”なんですから」
この時の私の顔は自分でも信じられないくらいとても悲しい顔をしていただろう。それでも私は嫌だったから、カイトさんがそんな事を言うのが。
「過去よりも、未来よりも、今を一生懸命生きていく。それで良いじゃないですか」
「そうだぜ、未来の事なんか誰にも分からないんだからさ」
「そうだよ」
ユリカさんが私とテンカワさんの言葉に頷く。
「皆・・・・・・ありがとう」
カイトさんはこの時始めて私たちの前で涙を流しました。それはきっとカイトさんが不安から立ち直ってくれた事の証。
その涙は私たちの絆をより高める物になるでしょう。そして私の気持ちも・・・
(私はこの人といっしょに生きていきたい)
私はその時そう思いました。
〜続く〜
後書き:
S:どうもS=DASHです。今回も読んで下さってありがとうございます。”エピソード3:絆”をお送りします。この話でルリ、カイト、アキト、ユリカの間に新しい絆が出来ました。この事は後々大事になります。
ルリ:相変わらず、話のつながりが強引ですね。
S:ぐはっ、相変わらずきついねルリちゃん。
ルリ:ほんとの事ですから。
S:・・・・・・(−−;
ルリ:まあ今回はこれぐらいにしてあげます。カイトさんとデートも出来て気分も良いですし。
S:カイト君にはそんな気持ちは全然ないですけどね。
ルリ:なにか言いましたか?(−−)(ジロリ)
背中から釘バットを取り出すルリ。
S:い、いえなにも・・・それより前回の後書きでのあれはあんまりじゃないですかせっかくキスシーンも書いてあげたのに。(TT)
ルリ:確かに前回は少しやり過ぎたかもしれませんね。
S:え・・・ど、どうしたのいきなり・・・(ルリちゃんがこんな事言うなんて)
ルリ:これからもSさんには私とカイトさんのラブラブを書いてもらわなくてはいけませんから
S:(ようやくルリちゃんも僕の偉大さがわかったんだ)まったくそのとおりだよ。話の中のルリちゃんはあんなにかわいいの・・・
ルリ:ピクッ(−−♯
S:そんなことじゃあカイト君に嫌われちゃう・・・ハッ。
ルリ:・・・
釘バットを構えてニッコリ笑うルリ
S:ル・・・ルリちゃん。お、落ちつい(ガスッ)
頭から血を流してピクピクするS。
ルリ:せっかく謝ってあげたのに余計な事を・・・馬鹿な人ですね(ニヤリ)
なぜか目の前に止まっているゴミ収集車にSを捨てるルリ
カイト:あれーおかしいな。確かここに居るはずなんだけど。お〜い、ルリちゃ〜〜ん
カイトの声に反応するルリ
カイト:ルリちゃ〜〜ん、早くこないとラーメン冷めちゃうよ〜〜。
ルリ:あ、カイトさんが私を呼んでます。カイトさんのラーメンを冷ますわけにはいきませんね、もう行かなくちゃ。それじゃあ皆さんまた次のお話でお会いしましょう。(ペコリ)
カイトのところに走って行くルリ、その方向とは反対に発車するゴミ収集車
S:なんで僕がこんな目に〜〜〜〜〜〜(TT)
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