降り止まない雨の中・・・
一人の少女と一人の青年が向かい合っている・・・
「ルリちゃん、どうして・・・」
青年が少女に声をかける・・・
「私はカイトさんがいなくても一人で平気なんです!だから放っておいてください!」
少女が大声で答える・・・
そんな二人の体をどしゃ降りの雨が打ち付けていた・・・
雨上がりの”Happy Birthday”
1.ルリ編1
アキト、ユリカ、ルリ、カイトの四人が住んでいるアパートに目覚ましの音が鳴り響く。
ジリリリリリリリリリリリ
7月7日、今日も外はすがすがしいほどに晴れ渡っている。
ジリリリリリリリリリリリ
そんな朝と共に今日の主役である、ホシノ・ルリが目覚ましの音と共に目を覚ました。
ジリリリリリカチッ
「う・・・ん・・・、もう朝・・・ですか」
目覚ましのスイッチを押したルリが目をこすりながら布団から上半身を起こす。
そして枕元においてある目覚まし時計を手に取る。
だんだんとはっきりしてくる頭のなかで時計の日付が目に入った。
「今日は7月7日・・・私の誕生日でしたね。なんか今日はいいことがありそうな予感がします♪」
ルリはわくわくしながら布団を出て、いつもどうり押入れで寝ているカイトを起こしにいく。
そうしていつも通りのあさをすごしてあっという間にお昼過ぎ。
「じゃあ俺たちは買い物に出かけてくるから」
「ルリちゃん、誕生日プレゼント楽しみにしててね。あっ、でもカイトくんからのとっておきのプレゼントには負けるかもしれないけどね♪」
「ちょっ、ユリカさんなにをいきなり」
ユリカの言葉に驚くカイト。
そういってアキトとユリカは部屋から出て行った。
そんなカイトの様子にルリが笑顔を浮かべる。
(誕生日を祝ってもらえることがこんなにうれしいことだとは思いませんでした)
そんなことを思いながらもルリはユリカの誕生日プレゼントという言葉に反応を示した。
(そういえば・・・誕生日プレゼントといえば、昨日読んだ小説で主人公の女の子が誕生日プレゼントに婚約指輪を貰っているシーンがありましたね・・・はっ!まさかカイトさんのとっておきのプレゼントって・・・)
そしてルリは果てしない妄想の旅へと旅立っていった・・・(笑)
ルリの妄想
「カイトさん、お話ってなんですか?」
誕生日パーティーの途中でカイトに声をかけられたルリはカイトにつれられて二人だけの秘密の場所に来ていた。
「うん、ちょっとみんなの前では渡しにくくて・・・」
カイトがテレながらそう言い、胸ポケットから小さな小箱を取り出した。
「ルリちゃんにこれを受け取ってほしいんだ」
「これは?」
「ルリちゃんの誕生日プレゼント」
カイトのその言葉を聞いてルリは顔を赤くながらその小箱を受け取る。
「ありがとうございます」(ポッ)
「開けてみてもらえるかな・・・」
「はい・・・」
カイトにそういわれてルリはゆっくりと小箱を開ける。
そこには小さな銀色の指輪が入っていた。
「え!カイトさん・・・これは・・・」
ルリが驚いた顔をしてカイトの顔を見る。そんなルリの顔をじっと見つめながら答えるカイト。
「こんなことをいきなり言ってもルリちゃんは困るかもしれない、でも僕の本当の気持ちをルリちゃんに知ってほしいんだ」
いつになくまじめな顔をするカイトの顔を見てルリの胸の中がどきどきしてくる。
「カイトさん・・・」
「ルリちゃん・・・・・・僕は君のことが好きだ。家族としてじゃなくて一人の女性として君の事を愛している」
「!」
その言葉でルリの顔に驚きの表情が出てくる。
「だから、僕と結婚を前提として付き合ってほしい」
「・・・・・・」
カイトは言うことを言った後は黙ったままルリの返事を待っていた。
「・・・ちゃん」
やがてルリが意を決したように口を開く。
「本当に私でいいんですか?」
「ルリちゃんじゃなきゃだめなんだ」
その言葉を聞いた瞬間ルリがカイトの胸の中に飛び込んだ。
「ずっと、そう言ってくれるのを待ってました」
「じゃあ!」
「はい、喜んでお付き合いさせてもらいます」
ルリがカイトの顔を見つめながらそう言う。
カイトはルリの頬に手を添えルリを見つめる。
「・・・リちゃん」
ルリはゆっくりと目を閉じてカイトの温もりに心を委ねる。
「ルリちゃん・・・」
「カイトさん・・・」
やがて二人の影はだんだんと近づき・・・・・・・・・
「ルリちゃん!」
「え?」
いきなり大声で自分の名前を呼ばれびっくりするルリ。
目の前では心配そうな顔をしているカイトの顔があった。
「あ、カ、カイトさん」(赤)
さっきまでの妄想もあり、カイトの顔を見て顔を赤くするルリ。
「どうしちゃったの、さっきから呼んでるのに返事がないから心配したよ。まさか気分でも悪いの、顔も赤いし」
ルリの顔がどうして赤いか知らないカイトは本気で心配している。
「あ、いえ。大丈夫です。それよりどうかしたんですか?」(赤)
ルリはまだ赤い顔をしながらも話をそらそうとカイトに話しかける。
「あ、うん。これから僕も買い物に行こうと思うからルリちゃんに言っておこうと思って」
「買い物ですか?」
「うん、ちょっとね」
「だったら私も一緒に行っていいですか?」
(せっかくの誕生日ですから、一日でも長く一緒にいたいです)
ルリは元に戻った顔をまた赤くさせてカイトの顔を見ている。
「ご、ごめん、ルリちゃん。今日は一人で行きたいんだ」
「え?」
ルリはカイトの否定の言葉に自分の耳を疑った。
(カ、カイトさん・・・どうしてですか?)
「ほんとにごめん、ルリちゃん!」
カイトはルリの悲しそうな顔に耐えられずに足早に玄関から出て行った。
「カイトさん!」
ルリがあわてて追いかけようとしたところでふとある言葉が頭に浮かんだ。
『じゃあ俺たちは買い物に出かけてくるから』
『ルリちゃん、誕生日プレゼント楽しみにしててね。あっ、でもカイトくんからのとっておきのプレゼントには負けるかもしれないけどね♪』
(まさかカイトさんの買い物って私へのプレゼントを買いに?・・・・・・だったら仕方ありませんね)
ルリは理由がわかってほっとしたのだった。
それから30分後。
時計の時刻は1:30を指している。
(・・・それにしても暇です。どこかに散歩にでも行きましょうか、確か私の誕生日パーティーは7:00からでしたし)
とりあえず部屋にいても暇なのでルリは外に出ることにした。
町の本屋さんで恋愛小説を購入し、お気に入りの公園に向かうルリ。
公園の入り口に着いたところで、ふと空を見上げる。
(なんか、雲が多いですね。雨が降らないといいんですが)
空いっぱいに広がる雲を見てなんとなくそう思うルリだったが、小説を読むことに集中し始めたルリの頭の中からやがてそのことは消えていった。
「・・・・・・ふうっ」
小説を読み終えたルリが小さなため息をつき、余韻に浸っている。
気がついたように腕時計に目を移すと時刻は5:00を指していた。
「思ったよりもいい時間つぶしになりました、そろそろ帰りましょうか」
ルリはスカートの汚れを手で払うとみんなの待っているであろう部屋へ向かった。
その途中で商店街の方を歩いているルリの目にデート中であろうカップルの姿が映った。
「・・・・・・」
その姿を見てルリの頭の中が真っ白になっていった。
「・・・カイト・・・さん・・・」
ルリがつぶやいたその先には楽しそうに話をしているカイトとそしてハルカ・ミナトの姿があった。
(どうして、ミナトさんと・・・そ、そうです、きっと買い物の途中で偶然あって話してるだけです)
頭を振って無理やりそう思おうとしてもう一度カイトたちの方に目を向けたルリの目の前にさらに無残な光景が映っていた。
カイトとミナトが道の真ん中で抱き合っていたのだ。
カイトの手はミナトの肩に。
ミナトの手はカイトの胸に。
(そ・・・そんな・・・カイトさん・・・一人で買い物に行くって・・・なのにミナトさんと一緒に・・・)
ルリの顔がだんだんと悲しみにゆがんでいく。
(・・・私の誕生日プレゼントを買いに言ってくれてると思ったのは、私の勘違いだったんですか・・・?・・・本当はミナトさんと会うからあたしがついていくのを断ったんですか・・・?・・・・・・・・・ドウシテウソヲツイタンデスカ?)
ルリは悲しみの涙を流しながらその場を走り去った。
目の前の現実から逃げるために・・・
2.カイト編
「ただいまー」
そう言ってカイトが部屋のドアを開ける。
「お、帰ったか」
「お帰りカイトくん」
そんなカイトにアキトとユリカが声をかける。
「あれ、アキトさんにユリカさん帰ってたんですか?
「ああ、30分ぐらい前にな」
「そんで、今はパーティーの準備をしてたの」
アキトはパーティー用の料理を作りながら、ユリカは部屋の飾り付けをしながらカイトに答える。
「そうなんですか、じゃあ僕も手伝いますよ」
「それじゃあカイトはケーキの方を頼む。買ってきても良かったんだがお前の手作りの方がルリちゃんも喜ぶだろう」
「そうそう、カイトくんが作ってくれたって知ったらルリちゃんもきっと大喜びで、カイトくんへの高感度も大幅アップだよ!」
「ユ、ユリカさん・・・高感度大幅アップって・・・」
カイトは冷や汗をかきながらもルリが喜んでくれるならとケーキ作りをはじめるのだった。
「そういえばアキトさんたちの方は誕生日プレゼントはどんなものにしたんですか?」
ふとアキトたちがどんなプレゼントを買ったのか気になって聞いてみるカイト。
「俺たちはルリちゃんに似合いそうな洋服があったからそれを買ってきた。ただそれを選ぶのにお店を何軒もはしごしたからな疲れたよ」
「何言ってるのアキト。せっかくのルリちゃんの誕生日なんだから一番ルリちゃんに似合うものを探さないと!これくらいなんてことないよ!」
「まあ、そうだなルリちゃんが喜んでくれるといいけど」
「きっと喜んでくれるよ♪」
アキトとユリカがルリの喜んだ顔を想像して笑顔を浮かべている。
(アキトさんもユリカさんも本当にルリちゃんを大切に思ってるんだなぁ)
そんな二人の姿を見てカイトも笑顔になる。
「それより、カイトの方はどうなんだ?」
「え、僕ですか?」
「そうだよ。ルリちゃんが一番楽しみにしてるのはカイトくんのプレゼントなんだから」
カイトは二人の言葉にテレながら答える。
「え・・・と、僕の方もルリちゃんに似合いそうなアクセサリーがあったんで・・・」
「えー、まさか指輪とか!♪」
ユリカがカイトに詰め寄る。
「な!何でそうなるんですか!」
カイトが慌てて言い返す。
「だって、誕生日に贈るアクセサリーって言えば指輪しかないじゃない。ねえ、そうなんでしょ」
さらに詰め寄るユリカ。
カイトは助けを求めるような目でアキトの方を見る。
「ユリカ、それぐらいにしとけ。早く準備をしないとルリちゃんが帰ってくるぞ」
そんなカイトを見かねてアキトが助け舟を出す。
「それもそうだね。まあ誕生日プレゼントが何かはパーティーまでのお楽しみにしておきましょう」
そう言って飾り付けの準備を再開するユリカ。
「助かりました、アキトさん」
「俺もルリちゃんへのプレゼントが何か楽しみにしてるよ」
笑いながらそう言うアキトも料理に戻る。
「はぁー、アキトさんまで・・・。それよりルリちゃんどこかに出かけてるんですか?」
「俺たちが帰った時にはもういなかったぞ」
「うーん、どこか遊びにでも行ったのかな?」
なんとなく気になったカイトだったが時間になれば帰ってくるだろうと思い、ケーキ作りに専念した。
夜7時
パーティーに呼ばれた元ナデシコの仲間たちが全員そろった。
だがこれから楽しいパーティーが始まるとは思えないほど重苦しい雰囲気に包まれていた。
「遅いな、ルリちゃん・・・」
カイトが誰に言うでもなくつぶやく。
「そうだな、いつものルリちゃんなら約束の時間に遅れるはずないのに・・・」
アキトも深刻な顔で言う。
「ルリちゃんどうしたんだろ・・・」
ユリカも心配そうにつぶやく。
夜8時
「いくらなんでも遅すぎる。ルリちゃんが時間に遅れて連絡も入れないなんて」
その場にいる全員が同じ気持ちだった。
「僕ちょっとその辺を探してきます!」
「カイト、俺たちも」
アキトがそう言うとカイトが片手で止める。
「いえ、アキトさんたちはここにいてください。もしかしたらルリちゃんが帰ってくるかもしれないし」
「わかった」
「カイトくん、気をつけてね」
アキトとユリカの声を背中にカイトが部屋を走って出て行った。
(ルリちゃん、どこにいるんだ!)
カイトは自分が知っている範囲でルリの寄りそうな場所をしらみつぶしに探し回った。
(くそっ、ここにもいない!)
それでも一向に見つけられないことからだんだんとカイトの中にいやな予感があふれてきた。
(アキトさんからの連絡もないって事はまだ家には帰ってないってことだし・・・ルリちゃん、まさか何かの事件に巻き込まれたんじゃ!・・・いやそんなことないさ、ルリちゃんはきっとどこかにいるはずだ、あと探していないのは・・・・・・)
どれだけ走り回ったかわからなくなったカイトが最後にやってきたのはアキト、ユリカ、ルリ、カイトのお気に入りの公園だった。
そこでカイトは公園のベンチに座っている一人の少女を見つけた。
「ルリちゃん・・・」
少女はカイトに気づかないでうつむいたままじっと地面だけを見詰めていた。
なんとなくその雰囲気が悲しそうだったのでルリに話しかけづらかったが、意を決して声をかけた。
「ルリちゃん」
「!」
自分を呼ぶ声を聞いてルリがはっとして声の方へ顔を向ける。
「・・・カイト・・・さん」
「ルリちゃん、心配したよ。さぁ、帰ろ」
カイトは優しい声で話しかけながらルリのほうに手を差し出した。
カイトはルリが自分の手を握っていつものように笑ってくれると思っていたが、現実はそうならなかった。
パシッ
「!」
ルリがカイトの手を払いのけたのだ。
カイトはなぜルリがそんなことをしたのかわからずに思考がとまってしまった。その間にルリはカイトが来たのと反対方向の公園の出口に向かって走り去っていった。
「はっ、ルリちゃん!」
ようやくわれに返ったカイトはルリの駆け出した方向へ走り出した。
「ルリちゃーーーーん!」
カイトは大声で呼びかけながらルリを追いかけるが、その声が聞こえないかのようにルリはただ前を見て走っていた。
(ルリちゃん、どうして?・・・いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。とにかくルリちゃんに追いつかないと!)
カイトは頭の中をルリに追いつくことに切り替えるとさらにスピードを上げた。
そんな二人をあざ笑うかのようにいつの間にか空からはどしゃ降りの雨が降っていた。
3.ルリ編2
時間は少しさかのぼって
カイトとミナトが抱き合っているところを見てしまったルリはいつの間にはお気に入りの公園に来ていた。
ルリにはどうしてここに来たのかは自分でも良くわからない。
ただ、一人になりたかっただけなのかもしれない。
「・・・」
公園のベンチに座ってさっきまでのことを考えるルリ。
(結局私だけが一人ではしゃいでただけなんですね。カイトさんが私のためにプレゼントを買ってきてくれると思ったのも、本当はカイトさんが私のことを気にかけてくれてるって思ってたのも、全部私の勘違いだったんですね・・・)
考えるほどにルリのつぶらな瞳から涙があふれてくる。
(やっぱり、私はカイトさんには必要とされてないんですね・・・それなら・・・)
ルリは心のどこかでいつも恐れていた・・・カイトが自分のそばから離れていくのを。
そしてそうなることで自分が一人で生きていかなければならなくなることを。
「あ・・・」
ふと目に入った腕時計が9:00をさしていた。
(そういえば、7:00から私の誕生日パーティーがありましたね。・・・でも家には帰りたくありません)
カイトに会うことが怖くてその場から動くことができないルリ。
(いっそ、このまま誰もいないところに行きましょうか・・・そしてカイトさんのことを忘れて一人で・・・)
そんな自暴自棄になり始めたルリの耳に自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ルリちゃん・・・」
「!」
(この声は、まさか!)
忘れるはずもない。ルリの一番大切な人の声、そして今一番会いたくなかった人の声。
ルリがその人の名前を口にする。
「・・・カイト・・・さん」
「ルリちゃん、心配したよ。さぁ、帰ろ」
ルリの目の前にはいつもどおりに優しい笑顔で手を差し出しているカイトの姿があった。
(どうして、カイトさんがここに!)
ルリは頭の中がパニックなり、声が出てこなかった。
しかしルリの中でカイトのいつもどおりの笑顔と、あの時のミナトと一緒にいたときの笑顔が重なる。
「!」
とっさにルリはカイトの手を払いのけてカイトに背を向けて走り始めた。
公園を出たところで背中にカイトの声が聞こえたがそれを頭から追い出すとがむしゃらに走り続けた。
(いや・・・なにも聞きたくありません!)
ルリは今の自分を取り巻くすべてを否定するためにひとつの決意を固めた。
(・・・カイトさんの傍にいてこんなに苦しい思いをするのなら・・・・・・一人で生きていく方がマシです・・・)
走り続けるルリの顔に流れる雨のしずくの中にルリの悲しみの涙も混じっていた。
ルリが逃げ。
カイトが追う。
そしてカイトがルリに追いついたのは、ルリとカイトが二人で散歩しているときに見つけた二人だけの秘密の場所。
そこでカイトがルリの腕を握る。
ルリに追いついたことでほっとするカイト。
「放してください!」
しかしルリの口から出たのは拒絶の言葉だった。
「ルリちゃん、どうして・・・」
カイトの顔に悲しみの表情が浮かぶ。
(!・・・そんな顔しないでください・・・私はもう決めたんです・・・)
ルリはカイトの顔を見て決心が揺らぎそうになるのを必死に耐える。
そして別れの言葉を口にする。
「私はカイトさんがいなくても一人で平気なんです!だから放っておいてください!」
「・・・」
二人の間に沈黙が訪れる。
振り続ける雨は二人の体を休むまもなく濡らしていく。
そのままどのくらいの時間がたったのか・・・実際には数秒しかたっていないのかもしれない。
その沈黙を破るようにカイトがゆっくりと話しかける。
「・・・僕は・・・いつの間にかルリちゃんを傷つけてたんだね」
「・・・」
沈黙で答えるルリ。
「でも、一人で平気なんて言わないで。僕が嫌いならそれでもいいけど、ルリちゃんは一人じゃないんだから・・・」
カイトは優しい声で話しかける。
「・・・そんなことありません、私は一人でも・・・」
こんな状態でもルリの様子を心配するカイトにルリの言葉もだんだんと勢いをなくす。
「ルリちゃんは誰よりもそのことがわかってるはずだよ・・・だって僕が記憶を失ってナデシコに来たとき、不安でいっぱいの僕に皆と一緒にいることの大切さを教えてくれたのはルリちゃんだから・・・」
「!」
「だから僕はずっと皆と一緒にいたい・・・アキトさん、ユリカさん、ナデシコの皆」
カイトがゆっくりとルリに近づく。
「・・・」
ルリはカイトから離れようとするが体が金縛りにあったみたいに動かない。
「・・・そして、ルリちゃんとずっと一緒にいたい」
そして優しくルリを抱きしめるカイト。
「どうして・・・そんなこと言うんですか・・・私は・・・」
ルリがなおも拒絶の言葉を口にしようとしたがそれを言う前にカイトが話しかける。
「僕にはルリちゃんが必要なんだ」
一言でよかった。
いまのルリが一番聞きたかった言葉。
自分がカイトにとって必要である事の証。
そしてその一言がルリの中の悲しみや妬みを消していった。
「・・・カイトさん」
ルリの両手がゆっくりとカイトの背中に回される。
カイトに抱きしめられて、カイトの暖かいぬくもりを感じるルリ。
(やっぱり、私・・・カイトさんと一緒にいたいです・・・)
ルリはカイトの傍にいることが自分にとって一番幸せであることに改めて気づいた。
そんなルリの心に呼応するかのようにさっきまで降っていた雨も上がり空にはきれいな星空が広がっていた。
カイトの胸に顔をうずめていたルリの頬に何か硬いものが当たった。
「カイトさん、それは?」
「え?」
ルリの視線に気づいたカイトは、思いついたように胸ポケットから小箱を取り出した。
「そういえば、ルリちゃんを追いかけるのに夢中ですっかり忘れてたよ」
そう言って小箱をルリの目の前に小箱を差し出す。
「はい、ルリちゃん」
「私に・・・ですか?」
「う、うん、ルリちゃんへの誕生日プレゼント」(赤)
カイトは照れた顔をしながらルリに微笑む。
「あ、ありがとうございます」(ポッ)
ルリは顔を赤くしながら両手でそっとプレゼントを受け取った。
「開けても・・・いいですか?」
「うん」
カイトの返事を聞いてルリがゆっくりとプレゼントを開ける。
(カイトさんからのプレゼントって何でしょうか♪やっぱり婚約指輪だったりするんでしょうか♪)
ようやくいつもの調子に戻ってきたルリがプレゼントを開けると、中には瑠璃色のブローチが入っていた。
「・・・きれい・・・」
ルリはその美しさにさっきまで考えていたことなどすっかり忘れて見入っていた。
「気に入ってくれたかな・・・?」
「はい、とっても!カイトさんありがとうございます!」
笑顔でそう答えるルリを見てカイトも安心して笑顔で答える。
「良かった気に入ってくれて、いろいろと探してみたんだけどなかなかいいものが見つからなくて。途中で会ったミナトさんに女の子が喜びそうなものをいろいろと教えてもらったんだ」
「え?」
カイトのその言葉を聞いてルリは気づいてしまった。
(も・・・もしかして全部私の勘違い・・・ですか・・・)
「で、でもミナトさんと抱き合って・・・」
「え?もしかしてルリちゃん見てたの?」
「・・・はい」
「そうだったんだ、あれは転びそうになったミナトさんを支えただけだよ」
「そう・・・なんですか?」
ルリの体からどっと力が抜けていくのがわかった。
「ル、ルリちゃん、大丈夫!」
いきなりルリがもたれかかってきたのでカイトはびっくりしてルリの名前を呼ぶ。
「大丈夫です、なんでもありません」
(・・・よかったです。取り返しのつかないことにならなくて・・・)
カイトの胸の中でルリがそっと微笑む。
「ならいいけど」
カイトがルリの体を立たせる。
自分の足で立ったルリが空を見ながらカイトに話しかける。
「カイトさん見てください」
カイトもルリと同じように空を見上げる。
「うわー」
そこには空満天の天の川があった。
すこしして、空を見ていたカイトがルリの方に顔を向けた。
天の川を見つめるルリの横顔を微笑みながら見つめるカイト。
「ルリちゃん」
「え?」
カイトの呼ぶ声を聞いてルリが振り向く。
雨の上がった夜空に瞬く満天の星に包まれたルリの姿はまるでおとぎの国から舞い降りた妖精のように美しかった。
そんなルリを眩しそうに見ながらカイトが言う。
「お誕生日おめでとう(Happy Birthday)」
カイトの言葉に笑顔で答えるルリ。
その笑顔は今までで一番輝いていた。
そして二人はもう一度空を見上げる。
ルリは降ってきそうな星空を見上げながら思う。
今日のことはずっと忘れません
カイトさんの暖かい温もり
カイトさんの優しい笑顔
そして・・・
雨上がりの”Happy Birthday”を・・・
Happy End♪
どうも皆さん、RinさんのHPに初めて投稿させてもらったS=DASHです。
もしかしたら知っている方がいるかも知れませんがはじめましてと言っておきますね。
いやーなんか久しぶりにSSを書いたなーって感じです。
以前投稿していたHPさんが閉鎖なさったのでSSから遠ざかっていましたが。
久しぶりになんか書いてみようかなーと思って今回の作品が出来たわけです、はい。
楽しんでいただけたらうれしいのですが。
何せ一日で書き上げたものですから・・・(−−;
実はこれを書き上げた二日後には海外出張に行くことになっています。
ふー、海外に行くのは初めてなので正直不安です・・・
それでは、もし次の作品があればそちらでお会いしましょう。
作成日 6/29
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