機動戦艦ナデシコ
真紅の冥王




機動戦艦ナデシコ〜真紅の冥王〜

Story/Y


夢。
誰だか分らない女性3人に囲まれて過ごす日々。
名前も何も知らない起動兵器…紅い起動兵器が必ず出てくる。
楽しい、幸せ、そんな生活。
だが、何も分らない。
彼女たちの名前も起動兵器の名前も…。
いきなり、見るに堪えられない顔になった彼女たちがこう言う。

「「「助けて!!」」」


‡軍宿舎‡

「ッ!!」

夢から目覚めて飛び起きる。
服が汗で肌にへばりつき気持ち悪い…。
何だ今の夢は…。

「シャワー浴びるか」

とりあえず、すっきりしたい。
そして、出来ることなら“全てを忘れたい”。
名前も何もかも…そうすれば楽になれる。

「いや、決めたんだ…自分を捨ててあいつ等の為に行動しようと」

体を拭いて服を着て、【あの場所】に行く。
憶えてはいない。
しかし、体が覚えている。
そんな気がするんだ。

「行くか…」

何処へ行くのかは分らない、でも辿り着ける気がする。
そして俺は、そこへ行かなければならない気がする。
だから行くんだ、あいつ等のために。



‡廃墟‡

何に乗って来たのだろう。
覚えていない。
部屋を出て…気づいたらここにいた。
そして、目の前に立つ倉庫は確かに【あの場所】。

「…何が出てくるのかね」

いつまでも立ち止まってはいられない。
時間はないんだ。
仲間同士で殺しあうなんて悲しいじゃないか。
だったら…異邦人の俺がやればいいこと。

「鍵は空いてるのか」

俺が来るのを待っていたかのようにドアはすんなり空いた。

「何も無いな」

外見はボロボロだったが中は案外奇麗だった。
といっても機材も何も無く空っぽだからそう感じるのかもしれない。

「どこかにあるはずだ」

何があるかは知らない、憶えていない。
だから、体に案内してもらう。
きっとお前なら覚えているのだろう。

「…さすがだな」

気づけば廃墟となった倉庫にはあるはずのない奇麗なドアがあった。
ここで疑問が浮かんだ。

「俺は、ここに何しに来たんだ?」

「…その前に俺は誰だ?」

ぽっかりと穴が開いたように“全てを忘れて”しまった。



‡火星‡

遺跡の上空にボソンアウトする戦艦…ナデシコC。
それと同時に防衛隊が持ち場を離れていく。

『こらッ!貴様ら持ち場を離れるな!!』

「離れたのではない!機体が勝手に」

『なんだとぉ!?』

「うわッ!」

管制室との通信画面が切り替わり【休み】となる。
そして、次々と同じ現象になる部隊、艦隊、管制室。
最後には研究室までも。

「乗っ取られた…?妖精……!?」

「糞ッ!復旧作業がまだ終わっていないというのに!!」

「駄目です研究長、ブロックレベルは上げられません」

「アイツさえいなければ!」

怒り机を殴る研究長。
装置の前には血の跡があるだけだった。



‡ナデシコC‡

ウィンドウボールを展開してシステム掌握をしているルリ。

「相転移エンジン異常なし」

「艦内警戒態勢パターンBに移行してください」

ミナトといつのまにかシャトルに乗り込んでいたユキナが報告をする。

「ハーリー君、ナデシコのシステム全てあなたに任せます」

「え?ぜ、全部!?バックアップだけじゃないんですか?」

「ダメ、私はこれから火星全体の敵のシステムを掌握します艦までカバーできません、ナデシコを預けます」

「で、でも」

【そう思うならルリが辛いとき支えられる男になれ】

躊躇するハーリーの頭に浮かぶのは正人の言葉。

(そうだ、僕が頑張らないと…)

「はい!任してください」

「お、ハーリー君かっこいい♪」

ハーリーの言葉にミナトが反応する。
ちょっと顔を赤らめるハーリーだがすぐに真顔に戻り集中する。



‡中央指令室‡

『みなさんこんにちは』

『私は地球連合宇宙軍所属、ホシノ・ルリです…元木連中将草壁春樹、あなたを逮捕します』

「だまれッ!魔女め」

「我々は負けない!」

「徹底抗戦だ!」

ルリの言葉に反発するシンジョウたち。
だが、草壁は静かに言った。

「…部下の安全は保証してもらいたい」



‡ナデシコC‡

「ボソン反応7つ!」

「ルリルリ!」

「かまいません」

「「「え?」」」

ユキナの報告に慌てるミナト。
しかし、ルリは平然と言い放つ。

「あの人…に任せます」

ルリの脳裏に浮かぶのは二人の男。
黒き王子と…。

(カイトさん、居るんですか?ここに…)



‡廃墟‡

ドアに寄りかかって座っている正人。
ポケットに入っていた煙草を吸っている。

「何がしたいんだ俺は…」

虚ろな眼はどこを見ているのか。
まわりには吸殻が数本落ちている。

「ここは何処だ、俺は誰だ、何をしようとしてた」

先ほどから何度口にしたか分からない言葉。
答えは何度言っても出ない。

「俺は…俺は……」

急に襲ってきた眠気に負けて目を閉じる正人。
煙草の煙がドアの向こうに吸い込まれていった。



‡夢‡

誰だか分らない女性3人に囲まれて過ごす日々。
名前も何も知らない起動兵器…紅い起動兵器が出てくる。
楽しい、幸せ、そんな生活。
だが、何も分らない。
彼女たちの名前も起動兵器の名前も…自分が何者なのかも。

「団長、薬飲みました?」

「ああ」

「嘘!団長飲んでないよぉ〜」

「お、おい鈴(汗)」

「だ〜ん〜ちょ〜」

「…飲まないと困る」

「だってアレ苦いし」

「子供ですか!!」

「あ〜私も苦いお薬きら〜い」

「おお、そうだよな鈴」

<なんだこれは>

「鈴、団長には薬飲んでもらわないと困るでしょ」

「あ、うん」

「鈴…天使が悪魔に騙されちゃ駄目だ!」

「誰が悪魔ですか?」

<誰だお前らは>

「…有香は起こると怖い」

「静穂まで、何言うのよ!」

「暗黙の了解ってやつだな」

「暗黙のりょ〜かい〜♪」

<俺の記憶なのか?>

「ふざけないでください!」

「これを飲まないと…団長は私たちのことも……■◆ちゃうんですから」

「ゆ、有香…泣くなって、な?」

「あ〜団長ゆうちゃん泣かしたぁ〜」

「…女泣かせ」

<今なんて言った?>

「軍にも秘密にして情報も偽ってるんですから薬も飲んでください!」

「分かった、分かったよ」

「俺もお前らのことは■◆たくないからな」

<何だ?何故一部だけ聞こえない>

「ずっと一緒にいような」

「もちろんです」

「うん♪」

「…了解」

急に目の前が真っ白になった。
そして、誰かが俺の前に立った。
顔は見えない。

<誰だ>

「お前さ」

<なんだと?>

「龍冥正人であり俺でありお前でもある」

<龍冥…正人?>

「仲間の事を忘れ、ついには自分のことも忘れたか」

<教えてくれ、俺は何者なんだ!>

「お前は俺であり、俺はお前でもある」

<答えになっていない>

「病になんて負けないと言ったのにな」

<病だと?>

「たった一日薬を飲まなかっただけでこれか」

<何のことだ!>

「お前に、俺にある選択肢は二つ」

<人の話を聞け>

「この薬を飲んで思い出すか、自力で思い出すか」

そいつは錠剤を持っていた。

<それを飲めば思い出せるんだな>

「どちらを選ぶ?」

<決まっている俺は…【薬なんてなくても思い出す】ッ!?>

「どうした」

<俺は…【だから安心しろ】>

「さあ答えるんだ」

<俺…は【自分のことは忘れてもお前らのことは忘れない】>

「答えは出てるはずだ」

<薬をかせ>

「…ほら」

渡された錠剤を握りつぶした。
手を開くと錠剤は消えていった。

「よかったのか?思い出せるのか?自力で」

<約束した…らしい>

「そうか」

「なら目を覚ませ、そして約束を果たせ」

そいつの言葉と同時に今度は目の前が真っ暗になった。



‡廃墟‡

「ん…」

目を覚ます。
随分長い間寝ていたと思ったのに煙草は、まだ煙をあげていた。

「夢か…?」

「約束」

「俺は…俺は龍冥正人」

「あいつはそう言っていた」

「有香…鈴…静穂」

『団長』

『だんちょぉ』

『…団長』

そう呼ばれた気がして振り返った。
あるのはドア。
そんなのはさっきから分かっている。

「入るしかないな」

どうやって開けるのかとりあえずドアに触れてみる。

「あ…」

それだけでドアは開いた。
中は真っ暗で何も見えない。
とりあえずドアの横を探ってみるとレバーがあった。

「電気のスイッチであってくれ」

それを上にあげる。
低いモーター音と共に照明がつき視界がはっきりとした。
そこにあったのは…。

「これは…起動兵器?」

紅い起動兵器。

「思い出せ…俺はこれを見てるはずなんだ」

「思い出せ…」

『団長、これの名前は?』

『■◆■◆■◆だ』

「思い出すんだ」

『ホ◆ト◆ス◆だ』

「約束を果たすために!」

『”ホワイトスター“だ』

『ホワイトって…こんなに紅いのに』

『う、五月蠅い!紅いのはこれだけだ』

「そうだ…ホワイトスター」

<思い出したか?>

「ッ!?」

突然さっきの奴の声が響いた…今更気付くが俺の声だな。

<思い出せないわけがないんだ、さっきからお前は…俺は思い出していたんだから>

「なんだと?」

<仲間との会話、大切な記憶だろ?>

「!」

<さあ、全てを思い出せ!そしてここに何をしにきたのかも>

「俺は…」

<さあ!!>

―キィン

頭の中で何かが外れた感じがした。
そして、膨大な量の情報が流れてきた。
それは…記憶。
仲間との大切な記憶。
悲しいこと嬉しいこと辛いこと…。
全ての思い出。

「すまん…忘れててすまん」

涙が止まらなかった。



‡記憶‡

「人造人間?」

「ああ」

研究所にやってきた3人を前に俺はそう言った。
3人とも驚いていたっけ。

「冗談…ですか?」

「真面目な話をしている」

「すいません」

「あのぉ本当なんですかぁ?」

「ああ、一つを除いてそれほどお前らと変わりはない」

「…気になる言い方」

「何ですかそれは?」

「俺は記憶を封印してしまう」

「「「?」」」

「つまりだ、数日後俺はお前らの事を覚えていないと言うわけだ」

「そ、そんな」

「ああ、安心しろ薬を飲めば大丈夫だから」

「記憶喪失になっちゃうんですかぁ?」

「いや、喪失はしない封印だ」

「ちなみに封印されるのは記憶であって経験じゃない」

「…分かりやすく」

「お前らの事を忘れても飯の食い方起動兵器の操縦方法なんかは忘れないというわけだ」

そうだ、俺は人造人間。
軍にばれるのが嫌で偽情報で登録したんだった。

「何故、そのことを私たちに?」

「…軍の上層部にも秘密なはず」

「仲間だからだ」

「え?」

「仲間だから話しておきたかった」

「「「…」」」

「お前らとはこれから起動兵器の試験で隊を組む」

「こう言うのもなんだが俺は一緒に戦わない奴らは仲間として見ない」

「じゃあ研究所の人たちも?」

「戦うの意味は色々あるさ」

「そして、俺は仲間の為に戦う」

そうだ、俺は仲間の為に戦うと決めていた。
仲間?
俺の仲間は…。



‡ホワイトスターコックピット‡

「試作機は地球に隠しておいたんだったな」

火星にあったはずの機体が地球にあるわけ。
仲間と造ったコイツの構造を誰かに知られて流用されたくなかった。
地球で造ったコイツの試験を火星で行ったのもそのためだった。

「俺の仲間…ナデシコ」

「そうだ、俺はあいつ等を助けるためにここに来たんだ」

「仲間同士で戦うなんてことは俺がさせない」

イメージする。
きっとナデシコはあそこにいる。
そしてアイツも…。
だから跳ぶ。

「仲間を救えなかった俺には丁度いい刑罰だ」

「残された時間は少ない…」

:続く:




あとがき(偽)

ここまでお読みくださりありがとう御座います。
さて、やっと6話まできた真紅の冥王ですが次回で未完結です(ヲイ
いや、話としては次回で終わるのですが…自分で読み返すと謎が多いなと(爆
A-03とか紅騎士団のデータとか正人の病気について人造人間についてとか…その他諸々。
とりあえず最終回では解明されません。( ̄^ ̄)えっへん
…威張るなって?御免なさいm( _ _ )m
これはどういう意味?という疑問がありましたらメールで送っていただけると嬉しいです。
その疑問を解明するオマケストーリーを作成します。
ではでは、最終回でお会いしましょう。


最後くらい予告

「…ルリ」

「帰りたいんだろ?俺が手伝ってやる」

正人とカイトの戦い…その結末は?

「抜き打ちか…笑止」

「…」

アキトと北辰も最後の戦いに挑む。

最終回〜別れと再会〜


「俺が負けるのか……ユリカ」


「さて、行こうかユーチャリス…仲間の仲間のために」



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