機動戦艦ナデシコ
真紅の冥王




[Story/V]

‡アマテラス‐廊下‡

「通るぞ!!」

借りた乗り物で廊下を爆走中。
私の横では正人さんが笑いながら運転してます。
ハンドル握ると性格が変わるんでしょうか?

「ワハハハ!邪魔だぁ!!」

白衣を着た人を轢きそうになりました…。
記憶が無いにしては凄い運転です。
どうしてこのスピードで曲がれるんでしょうか。

「お客さんもう少しで着きますよ!」

「…馬鹿」

久しぶりに言う言葉。
少し昔を思い出してしまいます。
でも、今はそんな場合じゃありません。

(予感は的中、敵が来た)

『OTIKA』

(あれは暗号?あれは偶然?)

(でも、あの人は…)

(あの人たちは…)

『ルリちゃん!』

頭の中であの人が私の名前を読んで…。
それが妙にリアルで、少し驚いてしまいました。



‡アマテラス‐防衛線‡

正体不明機はアマテラスにまっすぐに向かう。
防衛部隊はグラビティブラスト・ミサイルを一斉照射する。
しかし、正体不明機を落とすことは出来ない…。



‡アマテラス‐管制室‡

「コロニーに近づけるな!弾幕を張れ!」

「第三中隊、出すぎるな」

「キルタンサス現状維持!」

シンジョウの指示をしている管制室。
彼の後ろにアズマが上がってくる。

「肉を斬らせて骨を断ァつ!」

「な、何をおっしゃるのですか、准将?」

「コロニー内およびその周辺での攻撃を許可する!」

「ええっ!?じゅ、准将、それではコロニーが…」

「飛ぶハエも止まれば打ちやすし」

アズマの指示に戸惑うシンジョウ。

「多少の犠牲はヤムをエン!」

『おっしゃあ!』

アズマの前にウィンドウが開きパイロットスーツ姿のリョウコが写る。
その顔は何か嬉しそうな感じである。



‡アマテラス‐近辺‡

アズマの命令を待っていたかのように姿を現すエステバリス隊。

「野郎ども、行くぜ!」

『おう』

突如出現したエステバリス隊に対し回避行動をとる正体不明機。

「遅い!」

リョーコがレールカノンを即座に撃つ。
が、避けられる。
正体不明機はそのままエステバリス隊をかわし突き進む。
すぐに追うエステバリス隊だが守備隊にあたりそうになる。

「わーッ!?」

「ごめんよッ」

律儀に謝りつつ追うリョーコであった。



‡ナデシコB‐ブリッジ‡

「おまたせです」

ブリッジに何故かピースしながら入ってくるルリ。
正人の姿はない。

「戦闘モードに移行しながらそのまま待機、当面は高みの見物です」

「見物ですか…あれ?正人さんは?」

「格納庫に行きましたよ」

「ええ!?…いいんですか?」

「非常時以外、発進許可は与えませんし上層部への言い訳は考えてあります」

「はあ、でも強硬手段とか…」

「そんなことよりハーリー君、もう一度アマテラスにハッキング」

ハーリーの呟きを無視するルリ。

「え?またですか?」

「そ、キーワードは…」

指の上に表示されたウィンドウを回すルリ。

「『AKITO』です」

「え!?」

ハーリーが何か言っているがルリは艦長席を前にスライドさせる。
ウィンドウボールを展開する。

「……アキト……」

記憶の中のブリッジ。
エリナがユリカに注意をしている。

「…」

少し頬を赤く染めて微笑むルリ。



‡ナデシコB‐格納庫‡

「到着」

ドアがスライドして中に入ると整備員達が走り回っていた。
数人見かけた顔が居るな…食堂に来た奴らか。

「ん?大佐、いかがいたしましたか?」

「お前は…」

声がした方を見ると食堂に来た整備員の中でリーダー格だった男が立っていた。
それにしても、言葉が…。

「止めてくれ、敬語なんざ」

「そうか、わかった」

「……切り替えが早いな」

「いいことだろう?」

意地悪そうに笑う。

「まあな…それより俺が乗れる機体はあるか?ルリの許可は貰ってる」

「ああ、連絡があったが…大丈夫か?」

記憶が無いことを言っているのだろう。
不安な表情を見せる男。

「機体が壊れたら困るんだよな…」

「おい」

「冗談だ」

そう言って笑う男。
機械はいくらでも替えがある、と付け足す。

「で、大丈夫なのかよ」

「記憶はなくとも体が覚えてるだろうさ」

「でもな…」

「これでも一応部隊の長だったんだぞ?大丈夫だって」

胸を張って答える俺。

「ん?そうなのか?」

「……あれ?誰かそう言ってなかったか?」

「いや、オモイカネの検索じゃあそんな事言ってなかったぞ」

「ん?」

「艦長たちに聞いたのか?」

「いや…」

腕を組んで考え込む俺。
すると男が肩を掴んでくる。
なにやら興奮している。

「お前記憶が戻りつつあるんだよ!」

「おお、なるほど」

「よかったじゃねぇか!」

笑いあう俺と男。
と、話しがそれちまった。

「で、機体は?」

「ああ、アレだ」

そう言って男が指差したのは真紅の機体だった。
横には青い機体がある。

「予備なんだがな、あの色は俺の趣味だ」

「趣味かよ」

怪しく笑う男。

「ま、お前を信じてやるよ」

「それに艦長の許可がなければ出れないしな」

「さんきゅう」

礼を言って真紅の機体に向かう。
後ろから男の声が響く。

「予備機のセッティングも始めろ!!出るかもしれねぇ!」

「「「う〜す」」」

男の声に答えた整備員が真紅の機体に向かっていく。
俺はまっすぐにコックピットに向かう。



‡スーパーエステバリス‐コックピット‡

「よっと」

座席に身を沈める。
同時に目の前にウィンドウが開く。

『おい、準備完了だ』

「早いな」

『予備機だからな、いつでも出れるようになってるんだよ』

「なるほど」

ハッチを閉めコンソールに手を置く。
どうやら本当に体が覚えてるらしく迷うことなく体が動く。
紋章が光るとコックピットに外の映像が出力される。

「さて、ルリの指示があるまで待機しますか」

「…長か、他にも何か思い出せることが」

腕を組んで記憶の封印を解こうとする。
不思議と頭痛は襲ってこなかった…。



‡アマテラス‐管制室‡

「敵、第二防衛ラインまで後退、味方機動部隊なおも追撃中!」

「ガハハハハ」

「見たかねシンジョウ君!これこそ統合軍の力、新たなる力だ!!」

「はあ…」

興奮しているアズマの後ろでシンジョウは呆れたような顔をしている。

「ボース粒子の増大反応!」

「え?」

オペレーターの報告に抜けた声を出すアズマ。
突如第二次防衛ライン上に現れた戦艦。
守備隊の横腹にグラビティブラストを放つ。

「守備隊の側面へグラビティブラスト、被害多数!」

「質量推定…戦艦クラスです!」

再びグラビティブラストを放つ白亜の戦艦…。
正体不明機もコロニーに向かってくる。



‡ナデシコ‐ブリッジ‡

オモイカネお手製のおさらいウィンドウがルリの前に開かれている。

「不意な出現、そして強襲」

「反撃を見透かしたかのような、伏兵による陽動」

「その間に突入ポイントを変えての再強襲…」

ウィンドウでは可愛いアイコンが動き回っている。
そのウィンドウに重なるように三郎太と正人の通信が開いている。

『やりますね』

「気づいたリョーコさんもサスガです」

『…どうするんだ?』

「もうちょっと待ってください」

『は?』

「敵の目的…敵の本当の目的、見たくありませか?」

ルリには何か考えがあるようであった。

「ところで正人さん?」

『何だ?』

「どうかしたんですか?顔色が悪いですよ」

『いや、何でもないさ大丈夫だ』

「そうですか?」

『ああ』

そう言うと正人は通信を切った。
不安に思うルリ。



‡アマテラス‐管制室‡

「撃てぇ!!」

「撃ちまくれ!!」

アズマの指示に従い守備隊が撃ちまくる。
が、正体不明機を追っていたリョーコにもあたりそうになってしまう。
即座にアズマの前に大きくウィンドウが開かれる。

『てめぇら邪魔なんだよ!黙ってみてろ!』

「何を!今はそれどころじゃない」

「お前こそ邪魔だ!」

『邪魔はそっちだ!』

「キ・サ・マ!」

『う〜』

喧嘩を始めるアズマとリョーコ。
と、ルリが写ったウィンドウが突如開く。

「ゲート開いてますよ。いいんですか?」

「『え?』」

ルリの言葉に二人とも抜けた声を出す。

「13番ゲート、オープン!敵のハッキングです!!」

遺跡専用搬入口とウィンドウに表示された13番ゲート。

「13番?何だそれは?わしゃ知らんぞ」

「それがあるんですよ、准将」

「!?」

黙っていたシンジョウが喋りだす。

「どういうことだ!?」

「茶番は終わり、ということです」

「……人の執念」

ポツリと呟くシンジョウ。



‡アマテラス‐13番ゲート内‡

外部パーツをパージした正体不明機は奥へと突き進んで行く。
リョーコもそれを追うが。

「うわぁたぁ、どぉあ〜!!」

リョーコに無人機が襲い掛かる。
が、彼女にそんなものは通用しなかった。
最後の一機を倒すとリョーコは上下逆さまになっていた。

『お久しぶりです、リョーコさん』

「ああ、二年ぶり…元気そうだな」

ルリからの通信が開く。

『相変わらずサスガですね』

「へッ、無人機倒したって自慢にゃなんねえよ」

『無差別に侵入する者を排除するトラップのようですね』

「ふ〜ん」

『この先にトラップはもうありません、案内します』

「すまねえな…あッ、お前人んちのシステムにハッキングしてるな!?」

『敵もやってますし、非常時です…ちなみに張本人はハーリー君です』

「ハッハッハッハ」

表情を変えずにしれっと言うルリ。
思わず笑ってしまうリョーコであった。



‡アマテラス‐管制室‡

指揮権は完全にシンジョウにうつり変わっていた。
アズマは後ろで二人に押さえられている。

「敵、第五隔壁に到達」

「プラン乙を発動!各地に打電、『落ち着いていけ』」

「はッ」

「離せ!わしは逃げやせん!」

「准将、お静かに」

「シンジョウ中佐!!」

「何を企んでいる?君らは一体何者だ!!」

「地球の敵、木星の敵、宇宙のあらゆる腐敗の敵……」

「何?」

服に手をかけるシンジョウ。

「我々は火星の後継者だ!!」

一瞬で制服を脱ぐ。
服の下にもう一着服を着ていたらしい。
……何も言うまい。
手をかけたのは上着だけだったのに下も脱げてるなんて。
ベルトはどうしたのかなんて。
言うまい…。



‡13番ゲート内‐第五隔壁前‡

正体不明機がパスワードを入力するとゆっくりと開き始める隔壁。
リョーコが有線交信用のワイヤーを打ち込んだので通信プロテクトはクリアできた。

『時間が無い、見るのは勝手だ』

隔壁が全開し奥に見える光。

「何ぃ!?」

「ルリ!見てるか!?」

『リョーコさん』

「何だよありゃぁ」

『リョーコさん落ち着いて』

「ありゃ何だよ!」

『リョーコさん』

そこにあったのは解体された初代ナデシコ。
さらに消失したと思われた遺跡があった…。
意外な存在にリョーコは動揺を隠し切れない。

「ヒサゴプランの正体はこれだったんですね」

『そうだ』

「なんでコイツがこんなところにあるんだよ」

リョーコの呟くと同時に大きくウィンドウが開く。
写ったのは…。

『それは人類の未来のため!!』

「草壁?中将?」

『リョーコちゃん!右!』

突如正体不明機のパイロットが叫ぶ。

「くッ!くッ!うわぁ!」

リョーコに襲い掛かる謎の機体。
攻撃をすると飛び去る。



‡ナデシコ‐ブリッジ‡

「律儀な人だな…」

シンジョウの爆破宣言と逃げよと言う言葉に呟くハーリー。

「データは取れた?」

「あ、はい!」

ルリの質問に元気よく答えるハーリー。

「三郎太さんお願いします」

『了解!』

『俺は?』

「正人さんは待機です」

『了解』

正人の顔色が戻っている事に気づくルリ。

「…よかった」

『ん?何が?』

「いえ、なんでもありません」

『?』

クビをかしげながら通信を切る正人。



‡13番ゲート‐第五隔壁内‡

『リョーコさん大丈夫ですか?』

「今度はかなりヤバイかな…」

長い棒がリョーコのスーパーエステの数箇所を貫通していた。

『動けます?』

「どうかな…おっと」

貫通した左足が爆発する前にパージする。
上ではリョーコを襲った謎の機体と戦闘する正体不明機。

『お前は関係ない、早く逃げろ』

「今やってるよ」

と、アマテラスの各所で爆発が起こり始める。

「な、何だ!?」

それと同時に上部の方に穴が開き赤い機体…夜天光が降りてくる。

『一夜にして、天津国まで延び行くは、瓢の如き宇宙の螺旋…』

『あの女の前で死ぬか?』

北辰の言葉に怒りを表す正体不明機のパイロット。
そして、遺跡に異変が起こる…。
花のように開いていく遺跡の中から出てきたのはユリカであった。

「アキト!」

「アキトなんだろ?だからリョーコちゃんって…オイ!?」

『滅』

北辰の言葉で六人衆が攻撃を始める。
それと同時に壁を突き破り現れるスーパーエステ。

「久しぶりの登場!!」

リョーコの乗るアサルトピットを抱え飛び去る三郎太。



‡ナデシコ‐ブリッジ‡

「戦闘モード解除、高杉機回収後この宙域を離脱します」

ユリカの存在に呆然としつつ艦長としての仕事を果たそうとするルリ。

「艦長!待ってください!本艦前方にボソンジャンプ反応!!」

「え?」

ハーリーの叫びと同時に、ナデシコの前に現れる白い機体。
見たこともない形状。
両手が大きなクローになっている。

「三郎太さん!気をつけてください!!」

ハーリーが叫ぶ。

『なんだコイツ!?』

三郎太に襲い掛かる白い機体。
リョーコを抱えたままなので満足に戦闘できない。

『ルリ!』

「正人さん」

ルリの前に正人のウィンドウが開く。

『俺を出してくれ!あのままじゃ落とされる!!』

「…分かりました、お願いします」

『了解』

頷いて通信をきる正人。

「三郎太さん、正人さんが出ます一旦帰還してください」

『了解』

ハーリーの言葉に頷く三郎太。
正人と入れ替わりでナデシコへと帰還する。

「…なんだろう、嫌な予感がする」

ふと心に浮かぶ不安に戸惑うルリ。



‡ナデシコ‐前方‡

『大丈夫か?』

「任せとけ!」

三郎太の言葉に力強く答える。
…大丈夫だ。
白い機体を見据える。
と、相手から通信が入る。

『…』

「何者だ?」

『…ルリ』

「何?っと!?」

高速で接近してくる相手。
どうやらクロー以外の武器は装備してないようだ。
こっちの装備はライフルだけ…。
距離を取るしかない。
離れつつライフルを連射する。
が、全て避けられる。

「くそ…早い」

「ちぃ」

距離を詰められクローが機体をとらえそうになる。
咄嗟にライフルで防ぐ。
残った弾薬が爆発して相手が怯む。

「退くか」

攻撃してカウンターなんて食らったらマズイ。

『おい!助太刀に来たぜ!』

「三郎太か、助かる」

『どうする?』

「ライフルで援護射撃してくれ」

『了解』

後方からライフル弾が飛んでくる。
サスガだな俺より正確だ。

「さて、どうしたものか」

相手から距離を取って出方を考える。
三郎太の攻撃のおかげで先程より距離を取れる。

「仕方ない、クローが恐ろしいが接近戦で!」

距離を一気に詰める。

『無理するな!』

「わかってる」

三郎太の注意を聞きながら相手に対峙する。
両機とも攻撃範囲内に入る…その寸前。

「何!?」

相手は光に包まれ消えた。

「なんだ?今の!?何処だ!!」

レーダーを見るが反応はない。

『くそ!!』

「三郎太!?」

三郎太の叫びに反応し振り返る。
振り返った俺が見たのは…。
クローで突きぬかれた三郎太のスーパーエステバリス。
それに被って爆破するシャトルが見えた気がした。

「あ、あ…」

クローが引き抜かれる。
スーパーエステバリスを蹴り飛ばすとコチラを向く相手。

「三郎太?」

通信をするが応答がない。

「嘘だろ?」

―キィン

何かが俺の頭の中で弾けた…。

「貴様ァァァァァ!!」

相手に突っ込む俺。
光に包まれ、俺の意識は途切れた。

:続く:



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