機動戦艦ナデシコ
真紅の冥王




[Story/T]

‡食堂‡

「うぅ…ん?」

寝起きではっきりとしない視界。
少し目を擦ると鮮明に現在居る場所が見える。
目の前にはテーブル、周りにも数個ある。
置くにはカウンターと厨房。
食券の販売機も見える。

「…で、なんで俺は食堂に居るんだ?」

「ん?俺は、何処に居たんだっけ?」

口に手を当てて考え込む。

―キィン

「ッ!?」

一瞬、ぼやけた映像が頭に浮かぶが酷い頭痛がして消えてしまう。
コックピットのようだったが、よく分からない。
他の事を思い出そう。

「えと〜俺は、龍冥正人大佐…これは覚えてる」

「ん?俺、どうやって大佐になったんだ?いつ軍に入ったんだ?」

「……記憶喪失ってやつか?マジ?」

現状で何も思い出せないということはそういうわけで。
頭を抱えて悩む。
と、遠くの方から足音が聞こえてくる。

「ん?」

足音の方へと目を向けると整備服に身を包んだ男共がやってくる。
…なにやら視線が痛い。

「……お前か、侵入者ってのは」

「どうだろうな?なにせ、何も思い出せないもんでね」

椅子をテーブルから離して整備員が円になる。
囲まれると痛い視線が四方八方から浴びせられる。
全部で5人。
その中のリーダーなのか、一人が話しかけてくる…面倒そうに。

「思い出せない?もう少しまともな嘘をついたらどうだ?」

「いや、マジだって」

真剣な目で訴えかける。

「…本当か?」

「ああ」

「ふぅ、ちょっと待て」

リーダーはそう言うと、腕につけている機械を操作しながら俺に背を向ける。

(あれは、何ていったか?え〜と、あ!コミュニケだ!!…まずいなこんな事も思い出さないといけないのか俺は)

「艦長、侵入者を確保しました」

『ご苦労様です、何か身元は分かりましたか?』

「あの、それが記憶喪失らしいんです」

『記憶喪失ですか?』

「はい、本人はそう言っています」

『…わかりました、今からそちらに向かいます』

「了解です」

どうやら通信が終ったようで俺に向き直る。
それにしても、今の艦長って言ったよな…にしては声が。

「艦長が来るそうだ、逃げるなよ?」

「いや、この状態で逃げれるわけが無いだろう」

椅子に座っていて360℃周りを囲まれているのだ。
イジメにあってる気分だ。
…ある意味イジメなのか?これ。

「っと、そうだ一つ質問があるんだけど?」

「…なんだ?」

「今の通信の相手、艦長だよな?」

「ああ」

「にしては、声が可愛らしいと言うか何と言うか…」

「当然だ!我が艦長は軍の一部から【電子の妖精】と呼ばれる最年少美少女艦長ホシノルリ少佐なのだ!!」

「そ、そうなのか」

「「「「「驚いたろう!」」」」」

「いや、そのぉ…」

「「「「「ワハハハハ!!」」」」」

怖い…突然リーダーが張り切って喋り出して、五人全員が綺麗に声を合わせてる。
だが、これは言わねばならん。

「で、誰だ?そいつは」

「「「「「は?」」」」」

「いや、だからホシノルリなんて知らないんだよ」

「「「「「なんだとォォォォ!?」」」」」

「というか、記憶喪失だって言ったよな?」

「「「「「あ…」」」」」

全員が呆けたような顔になる。

「オホン!…本当に知らないのか?」

「ああ」

「その目、嘘を言ってるようには見えないな」

「だから、本当だって」

そう言って考え込むリーダー。
と、右に居た一人が俺の肩を叩く。
振り返ると…。

「ならば!ホシノルリFC会員番号1021の俺が知る艦長の全てを教えてやろう!!」

―スパァン!

「ぐはッ!」

そいつがそう言うと同時に後ろからハリセンが頭部を直撃した。
結構な威力だったらしく倒れる会員番号1021。

「変なこと教えようとしないでください!」

ハリセンを持って立つ軍服に身を包んだ少女。
銀色の髪に金色の瞳、そして白い肌。

「綺麗だ…」

「え?」

つい思ったことが口に出てしまう。
急いで口を押さえるが時既に遅し。
少女は驚き目を見開いていた。

「艦長、コイツが侵入者です」

「…この人がですか」

リーダーの言葉に表情が戻る少女。
なるほど、美少女艦長か…納得。
気づけば後ろにも二人軍服姿の男が立っている。
髪をオールバックにした艦長同様かなり若いであろう少年。
もう一人は金髪の男…軍人か?

「どうも、ナデシコB艦長宇宙連合軍少佐のホシノルリです」

「ナデシコB?」

「知りませんか?」

「全く」

「……」

「艦長、どうやら本当の記憶喪失らしいですよコイツ…艦長の事も知りませんでしたし」

なにやら語りだそうとしたリーダーであったが艦長がハリセンを握りなおすと黙った。
…あのハリセン、常時装備なのか?

「名前も思いだせませんか?」

「あ、名前なら…龍冥正人大佐」

「「「「大佐!?」」」」

整備員が得意の声あわせで驚いている。
前の三人も驚いている様子。

「オモイカネよろしく」

『了解…検索中』

艦長がそう呟くとウィンドウが開き何やら機動兵器のようなものが走り回っている映像が出る。
…あれ、どこかで見たような。
ま、いっか。

『検索完了』

画面が切り替わり、文字が並ぶ。

『名前:龍冥正人…階級:大佐…所属:紅騎士団…2195年火星シャトル基地防衛の任務に就任時行方不明、戦死とされる』

「「「「「「「………」」」」」」」

「…なんだって?俺が死んだ?」

「戦死とされるですから、おそらく見つからなかったのでそう判断したのでしょう…現に大佐は生きています」

「紅騎士団…シャトル基地防衛…」

―キィン

「ぐぁ…」

先程同様、頭を頭痛が襲う。
頭を抱えて倒れこんでしまう。

「お、おい!大丈夫か!?」

リーダーが寄って来る。
一分も経たないうちに頭痛は消えてくれた。
だが、先程よりも長い。

「大丈夫ですか?」

「ああ」

「医務室に案内してあげてください、私たちはアマテラスに行くんで」

「了解です」

「待ってくれ」

「どうかしましたか?」

俺の呟きに耳を傾ける艦長。

「アマテラスだったか?俺も一緒に行かせてくれ」

「え?」

「医務室なんかにいたら気がめいる…頼む」

「なら、艦内を自由に回ってください」

「軍艦の中なんて何処行っても同じような景色だろう?」

「…わかりました」

「か、艦長!?」

艦長の言葉に後ろに居た少年が驚く。

「では、行きましょう大佐」

「ありがとう…あ、俺のことは正人でいい」

理由は分からんが艦長は俺の願いを聞いてくれた。
頷いて歩き出す艦長の後を追う。
少年が何か文句を言っているようだが、気にしない。


‡廊下‡

「三郎太にハーリーか」

「ああ、よろしくな正人」

「…よろしくお願いします」

食堂を出て廊下を歩きながら後ろに居た二人と簡単に自己紹介をした。
やはり、ハーリーは機嫌が悪い。

「気にするな、艦長を取られそうで怖いから機嫌が悪いんだ」

「な、何言ってるんですか!!」

「ハーリー君、ウルサイ」

「す、すみません…」

三郎太が小声で話しかけてきたがハーリーには聞こえたようだ。
にしても、なるほど…青春だねぇ。

「安心しろ、ハーリー…艦長は俺が責任を持って」

「だ、ダメです!!」

「冗談だ」

「う…」

冗談にも過敏に反応するとは…重傷だなこりゃ。
三郎太と二人で笑いあう。
そんな俺達を見てかハーリーはさらに不機嫌になったようだ。
ふと、艦長の方を見ると微笑んでいた。

「…“天使の笑み”なんて言葉が似合うな」

「え?ぁ…///」

俺にそう言われてかすかに頬を染める艦長。

「そういえば、正人さん」

「ん?なんだ」

「私のことは別に艦長じゃなくても良いですよ、正人さんはクルーではないので」

「そうか?じゃあ、親しみを込めてルリと呼ばせてもらおう」

「はい、構いません」

「か、艦長〜」

「?…ハーリー君、置いていきますよ」

涙ぐみながら止まるハーリーに冷たくあたるルリ。
嫉妬かね、頑張れよハーリー。
…ふと、気づけば俺は記憶喪失だという事を全く気にしていなかった。
それは、この三人とあの整備員のおかげなのかもしれない。
軍艦なのに軍艦な感じがしないこの艦。
ナデシコB。
俺はこの艦を好きになれそうだ。

:続く:



[戻る][SS小ネタBBS]

※龍師 さんに感想を書こう! メールはこちら[shadowhearts_1@yahoo.co.jp]! SS小ネタ掲示板はこちら


<感想アンケートにご協力をお願いします>  [今までの結果]

■読後の印象は?(必須)
気に入った! まぁまぁ面白い ふつう いまいち もっと精進してください

■ご意見・ご感想を一言お願いします(任意:無記入でも送信できます)
ハンドル ひとこと