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「それじゃあ、僕の部屋でのんびりしようか♪」

冷蔵庫から取り出したお茶とミネラルウォーターのペットボトルを脇に抱え、
2人分のマグカップをまとめて手にしたカイトさんが、私を振り返りそう切り出してきた。

「私は別にここでも……」
「ダメ」

台所に居るのでも構わないという私の希望は、最後まで口にする前に却下された。
彼のにっこり笑顔に、先程感じた妙な予感が再び首筋をチリチリとなでる。
…………カイトさん、笑い方が元に戻ってます。

「はい。これ持ってくれる?」
「あ、はい」

山盛りクッキーの大皿を彼から手渡された。
大して重くは無かったが、バランスを崩しそうになってしっかりと両手で抱え直した。
彼は例のチョコの包みも手にして、私の背中を軽く押して積極的に促してくる。
やっぱりいつもと違う。にこにこと笑みをこぼす彼の様子に私の警戒心が疼いた。

「さ、行こうか」
「やっぱり台所の方が落ち着……」
「却下(にっこり)」

2度目の即答に空気が止まる。
私たちの間に視線が交錯しあう時間が流れた。
背中に当たる腕から逃れるように一歩横にずれようとすると、
彼の手がガッシリと私の腰を抱えてそれを阻んだ。

「ルリちゃん、このチョコ、食べさせてくれる約束だよね?」
「それは……」
「約束したよね?」
「……えぇ、まぁ、一応」

カイトさんの妙な迫力に気圧された私は言葉を濁しつつも頷いた。
頭の中で危険信号が点滅している。
意地悪モードは終わったんじゃなかったのだろうか?
警戒する私の足どりは自然と重くなったが、勢いづいた彼の押しに叶うはずもなく、
私たちはじりじりと彼の部屋に向かって移動していった。

「デートの話で思い出しちゃったよ。僕ね、前回めちゃくちゃ反省したんだ」
「何をです?」

部屋の手前でカイトさんがふと口にした内容に、私は反射的に聞き返してしまった。
その問いかけに彼はものすごく嬉しそうな表情を見せる。
…………失敗したかも。今更手遅れだけど。

「焦らずゆっくり進もうなんて、悠長な事を考えるんじゃなかった――って」
「…………」
「あんな邪魔が入る前に、ちゃんと口説いておけば良かったんだよねぇ」

口説くって……。思わぬ単語に気を取られたところで、目の前でガチャリとドアが開いた。
気がつけばもう彼の部屋の前だ。どうしよう。

「おかげで1ヶ月も遠回りしちゃったよ」
「あの……」
「大丈夫。今回、時間は充分あるから」
「何が、どう、大丈夫なんですか?」
「ん〜? すぐに分かると思うよ?」

ズイズイと身体全体で部屋に押し入れようとするカイトさんに、
私は最後の抵抗とばかりに両足を床に突っ張った。
ルリちゃん、と。ひどく甘い響きを持った声が耳元で囁く。

「あんまり抵抗すると……ホントに襲っちゃうよ?」

ピタリと止まった私の後ろで、部屋のドアがパタンと閉まった。





-End-











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