『眠れぬ理由』



は…ふぁあ。


背骨に響くようなあくびがこぼれる。


うぅ…眠い…。


目じりに浮かんだ涙をぬぐっていると、隣でサブロウタさんも同じように大あくびをしていた。

一拍おいてハーリーくんも大口を開けてる。

へぇ…珍しいな。と思っていたら自分の意思とは別にまたあくびがあふれた。



うぅ…うつった。



「まったく…カイトの眠気がうつったな。」


サブロウタさんが脇からこそこそと肘うちをしてくる。


「パイロットが寝不足なんて真剣身が足りないと思います!」


ハーリーくんにまで怒られてしまった。


「う…。すみません。」


と小声で謝りながらも、また浮かんできたあくびを必死に噛み殺す。



うぅ…確かに情けないかも。



そんな僕をサブロウタさんが呆れたように覗き込んでくる。


「…お前ホントに眠そうだな、カイト。
 まぁ、今のとこ実戦の予定もないしな。別にいいが……何でそんなに眠いんだ?」


「えっ…。いや…その…ちょっと。」


「あん?俺達には言えないようなことか? …もしかして……艦長がらみとか?」


「えっ!?どういうことです!」


いっ…言えない!


「ちっちがいますってば(汗)」


絶対に言えない!!


焦りまくる僕をよそに、にまにまからかい顔のサブロウタさんと
おもいっきり目の釣り上がったハーリーくんがタッグを組んで迫ってくる。

2人から必死に逃げる僕。



次の瞬間、パタンと本を閉じる音がやけに大きく響いた。


男3人で気まずい視線を交わしながら背後の気配をそっと探る。


「3人とも…そろそろお仕事してくださいね。」


「「「は…はい(汗)!!」」」


やはり彼女には見逃してはもらえないようだ。

















ふぅ。確かにこの状態はまずいよなぁ…。

もう1ヶ月か…。

やっぱりそろそろ限界かな…。



















「今日は大変でしたね。」


夜も遅いルリちゃんの部屋で、
僕に背を向け髪を梳かしている彼女が鏡の中から意味ありげな視線を投げかけてくる。


「はははは……。」


僕は苦笑するしかなかった。

あの後、眠気と闘いながら1日中サブロウタさんとハーリーくんの追及をかわし続けたのだ。


さすがにくたびれた。



はぁ〜ふ。



ため息をつく前にまたもあくびがでてくる。


「…大丈夫ですか?」


いつのまにか隣に座っていたルリちゃんが心配そうに覗き込んできた。


「はは…。大丈夫、大丈夫。ちょっと眠いだけだから…。」


乾いた笑いの僕を見つめながらルリちゃんは何だか複雑な表情をしている。


「…体調管理も仕事のうちですよ、カイトさん。
 艦長としてはそんな寝不足状態のパイロットは見逃せませんけど。」


「ひどいなぁ。半分は…ルリちゃんにも責任あるのに?」


途端に耳まで真っ赤になる彼女を引き寄せて唇を寄せたところで、
彼女の小さな手のひらが僕の顔を遮った。


「ダメ(////)」


「…どうして?」


ルリちゃんは真っ赤になって俯いたままだ。


「……………。」


不安にかられて思わず聞いてしまう。


「……もしかして…イヤ?」


「っ!?ちがいますっ!」


弾かれたように首を横に振る彼女を見て僕は心底ホッとした。


「じゃあ、どうして?」


「……だって…またカイトさん…寝不足になっちゃいますよ…。」


拍子抜けした。


「な〜んだ。そんなことか。全然ちがうよ。」


「っ!ちがうって…!さっき半分は私の責任だって言ったじゃないですか!それって…やっぱり昨夜の…。」


「う〜ん。まぁそうだけど、そうじゃない…かな。」


ルリちゃんが不思議そうな顔をして僕を見上げてる。



そりゃまぁ、そうだろう。

どうしよう…話そうか…。

怒られちゃうかもしれないけど…。



悩むだけ悩んだけどやっぱり正直に言うことにした。

心配そうに見上げるルリちゃんに囁くように話す。


「そんな心配しなくていいよ。
 むしろ…ここで拒まれちゃうと…その方が寝不足になっちゃうよ。」


「でも…。」


「あのね。僕が寝不足なのは……なんていうか……その……眠れないんだよ。」


「え…?部屋に戻ってから…ですか?」


「うん。そう。」


驚いた瞳をしたルリちゃんを腕の中から解放して、照れながらも続きを話始める。


「恥ずかしい話なんだけど…どうも1人だと落ち着かなくて……寝つけないんだ。」


頭の後ろを掻きながら視線をさまよわせる。

切実な問題とは言え、やはり情けないことには変わりない。


「ナデシコBに乗り込む前まで2人で寝てたろ?
 ルリちゃんが隣にいないと落ち着いて眠れなくなってるみたいで……。」


「…もしかして……この1ヶ月ずっと…?」


「………じつは…。」


「どうして言ってくれなかったんですか!そんなことになってるなんて…っ。」


真っ赤になって声を荒げるルリちゃんの頭を撫でながら続ける。


「ごめん…。でもルリちゃん気にしてたろ? ナデシコの中で僕とこうしてるの。」


「っ!それは…。」


「わかってる。…ちゃんとわかってるよ。
 ホントは僕がここにいるのもまずいんだよね…軍規上は…。 いくらナデシコとはいえ…ね。」


「………ごめんなさい…。」


瞳をふせてしまった彼女を見て僕のほうが慌ててしまった。


「待った待った。元々謝るのは僕の方だってば。
 ルリちゃんは艦長さんなんだから責任感じて当たり前だってば。」


困った僕はルリちゃんを強く抱きしめる。


「ごめんね…。」


「謝らないでください。私だって…。」





我慢しなきゃいけない。

でも…。

でも…。

でも…。





「…ルリちゃんの邪魔はしたくないんだ。だけど……我ままだってわかってるけど……。」


おでこをルリちゃんの額に当てて祈るように目をつぶる。


「やっぱりさみしい。」


「カ…カイトさん。」


「さみしい。」


「あ…の…。」


「さみしい。」


「……。」


「さみしいよ…ルリちゃん。」


「…………………………………………………………………私も。




















その夜は1ヶ月ぶりにぐっすり眠れた。







僕の我ままはルリちゃんの非番の日だけ叶えてもらえることになった。

彼女曰く、「クルーの悩みを解決するのも艦長の役目ですから」 とのこと。

あらぬ方向を向きながら真っ赤な顔でそう話すルリちゃんを改めてかわいいなぁと思う今日この頃である。

まる。








































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<あとがき>
いらっしゃいませ。皆さま『風の通り道』へようこそ〜♪ やっとこオープン記念SSのお披露目でございます。

さてさて今回の甘さ加減はいかがなものでしょうか?

本日のお題は『甘えっこカイトくんの砂糖な日常編』でございます。

……あ〜……………はずかしかった(爆)
初っ端から意味ないベタな話ですみません。糖度が上がると恥ずかしさも倍増ですね。あはははは。
じつはこの話…プロット段階では、カイトくん、もっと積極的でした(汗)
やばいと思って書き直しちゃいましたけど。

こういう没ネタ・没シーンは今後SS小ネタ掲示板に載せてますのでそちらの方もよろしくお願いいたします。


『風の通り道』では他のサイトにはとても投稿できないような作品を載せていく予定です。
投稿作品と同じようにこちらの作品もかわいがっていただけると幸いです。
ちなみに下の感想アンケートに反応をいただけると執筆速度が上がる……かも(?)しれません。
気が向かれましたらどうか一言お願いいたします。

訪れてくださった皆さまが少しでも楽しんでくださることを祈って。
それではまた時をあらためて・・・。

(2001/12/24 掲載)
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