『いたずらの後で』








秋の風が身に染み始めた昼下がり。



それでも暖かな光が差し込む部屋で。



僕は悩んでいた。



ずっとず〜っと悩んでいた。







「どうかしたんですか?」


ルリちゃんが座り込んでる僕の顔を覗きこんでくる。

瞬間どきっとする。



ばか。落ち着け。



「う〜ん。ちょっと…考えごと…。」


内心あせりながらも笑顔を返す。

返したつもりなんだけど…苦笑いになってるかな?これは…。

心配してくれるルリちゃんには申し訳ないんだけど…
こればっかりは相談する訳にもいかないし…。

ルリちゃんも僕の様子を察してくれたのか
心配そうな顔をしながらもそれ以上追求してこなかった。





ふぅ。

自分がどうしたいのかはわかってる。

どうすれば解決するのかも。

問題なのは……。




う〜ん。




ホント…どうしようかなぁ…。



























一週間前のこと。

ちょっとした事件があった。

ていうか,事件を起こしたのは僕なんだけど(汗)


可愛らしい『いたずら』のつもりだったんだけど

相手にとってはものすごい衝撃だったらしい…。


アキトさんには呆れられるし,

ユリカさんには「最低!!」と怒られるし,

ルリちゃんには手痛い一撃をくらうし…。



反省してます。



う〜。ちょっと甘えてみたかっただけなのに…。

あ,いや,ホント,反省してます。

まぁ。その話は置いといて。



そのとき,ちょっと…その…

ルリちゃんに急接近するようなことがあって…。

それ以来どうも……こう……もやもや〜って……。


…………。

…………。

…………。


だぁっ!そ〜だよ!わかってるよっ!!

あのときのルリちゃんがあんまり可愛くて頭から離れないんだよ!


…………。

…っかしいなぁ。

今までルリちゃんをそんな風に見たことなかったんだけどなぁ。

別に彼女とどうこうなりたい,とか考えてる訳じゃなくて…。

あんな風に甘えたり甘えられたりするのは僕とだけにしてほしいなって思ってるだけで…。

これってやっぱし独り占めしたいってことなのか?

う〜。でもそうやって彼女を縛り付けるようなことはしたくないし…。

第一,ルリちゃんもそういう風に僕とだけ甘えたいとか思ってくれるとは限らないし…。

そもそも例の事件からこっち,まだ微妙に警戒されたまんまじゃないか。

最近やっと落ち着いてきたところなのに。

こんなこと考えてるって知られたらまた怒られちゃうよ(涙)

はぁ。

ホント…。

どうしようかなぁ…。


















もう何度目だかわからないため息を吐くと
そのまま畳に寝転がる。

目をつむったまま
窓から差し込む陽の光を全身で感じていた。

あんまり気持ち良くて
ついウトウトとしてしまう。

ふと陽がかげった。

すぐそばに優しい気配を感じる。

そぉっと瞼を開けると
やっぱりルリちゃんが覗きこんでいた。


「あ…。すみません。起こしちゃいましたか?」


ささやくような声が聴こえる。


「いや…。大丈夫だよ。」


そう答えてから瞼を閉じてそのまま待つ。


少しためらう気配の後,
そっと前髪に触れる指先を感じる。

その指先が優しく頭をなでおりて
左耳にかかる髪の毛先をからめとる。




うれしかった。




僕が知ってる限り,
ルリちゃんがこんな風に甘えてくるのは僕の前だけだ。




少しだけ刻が流れた。




「ルリちゃん…。」


「はい。」


僕は身をおこして彼女の顔を見つめた。


「ちょっと…いいかな?」


「はい…? ………って,カイトさん?まさかまた? 」


「はは。ちがうよ。」


苦笑しながら僕は答える。

そういえば一週間前もこんなセリフで始めたんだっけ。


ルリちゃんは一瞬しかめた顔をといて
今度は不思議そうな顔で僕をみつめる。

その瞳をみつめ返して微笑んだ。



…心臓がはじけそうだ。



「ルリちゃんは…どうしてさっきみたいに僕に甘えてくれるの?」


「え…?あの…ご迷惑…でしたか?」


「まさか!違うよ!そうじゃなくて…。
 どうしてかなって思っただけなんだ…。」


ルリちゃんの左手を取って
そのままくちびるで指先に触れる。


もう後戻りはきかない。


耳まで真っ赤に染まったルリちゃんに
静かに…でもはっきりと自分の気持ちを伝えた。


「僕は…ルリちゃんがそばにいて…こんな風に甘えてくれるのが嬉しい。

 ………ずっと……君の…一番そばにいたいと思ってる。
 
 だから…………その……ルリちゃんがどう思ってるのか…知りたい。」


俯いたままのルリちゃんから返答はない。

心臓の音で頭が壊れそうだ。

全身から汗が噴き出してる気がする。


「……たしは………。」


「えっ?」


小さな声をもらさず聴き取ろうと耳を近づける。


「…わたしは……わたしが…こんな風にできるのはカイトさんだけです…。

 カイトさんの前でだけ………。
 
 だから……だから…その……わたしも……………。」


顔をあげたルリちゃんと視線が重なる。

今彼女に言われた言葉がやっと頭に染み込んできて……。


全身が熱い。

たぶん僕の顔も真っ赤だ。

ルリちゃんも耳まで真っ赤だ。


なんだか無性に笑いたくなってきて笑ってしまった。

ルリちゃんも笑ってた。





笑いの衝動が収まった後





ゆっくり彼女の両肩に手を置く。

ちょっとビクッとした彼女の瞳をみつめて

大丈夫。というように優しく微笑んだ。

真っ赤になって瞳をふせるルリちゃん。



身体が熱い。


一度頭を振る。


そっと深呼吸。


それから

少しずつ

少しずつ顔を近づけて……
















































…そうして…僕の悩みは解決した。



























「ありがと。ルリちゃん…。」

「……しりません(真っ赤)」


































---
<あとがき>
この作品はヨシさんのサイト『蛙鳴蝉荘』に投稿しました。
2作目『いたずら』の後日談になります。じつは世に発表されたのはこっちが先でした(笑)


さて。今回の甘さ加減はいかがでしょうか?

今回のお題は,『カイトくん,自分を知る』 in 「うずもれた『恋のあかし』」編です。
何ていうか自爆ってるカイトくんを書いてみたくなっただけなんですけど……なんでかこういう話に(汗)
今までで一番書いてて恥ずかしかったです(爆)
つっこみは勘弁!頼むよぉ(泣)今回だけは見逃してください。


↑とかいうあとがきを当時は書いていたのですが…
その後もっと恥ずかしい作品を書くに至り…う〜む、この頃は初々しかったのね(爆)と思う今日この頃。
こういう面ではずいぶん成長したような気がします(爆)

ありがたいことに、この話に感想メールくださった方が結構いらっしゃいまして
「ルリちゃんがカワイイ!」「もっと砂糖を!」というお言葉に励まされて
その後も甘いSSを書き続けいつのまにやらサイトまでできていた次第…。

今このサイトがあるのもそのときの感想メールが後押ししてくれたです。
メールくださった皆さま本当に本当にありがとうございましたm(_ _)m
これからも砂糖吐くようなSSをどんどん書きますのでどうかよろしくお願いしまぁす。

それではまた時をあらためて・・・。


(2001/10/14 投稿)
(2002/03/11 転載)

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