『いたずら』







「カイトさんも……髭……生えるんですね…。」

「へっ!? 」





それは彼女の予期せぬ言葉から始まった。







秋の風を感じ始めた昼下がり。

ルリちゃんと2人で昼食を食べた後
僕は畳の上に寝転がって陽の光を堪能していた。

暖かな日差しの中、ルリちゃんのひざまくら。

連日のバイトと屋台の手伝いの掛け持ちで
少々オーバーワーク気味だった僕には天国のような刻である。

――たまにはこういうのもい〜よなぁ――

うとうとと夢見心地で考えていた。







たまに…本当にたまに…2人でこんな時間を過ごすことがある。

互いにひざまくらをしたりされたり
ただ景色を眺めたり、背中合わせで本を読んだり。

理由なんかないけど
何となく2人で穏やかな時間にひたる。

今日もそんな穏やかな昼下がりのようだった。







ルリちゃんの指が僕の前髪をそっと掻きわけ優しくなぶる。

少し…くすぐったい。

だけどイヤじゃない。

目を細めて見上げると
彼女の大きな金色の瞳が興味深げに僕の顔を覗きこんでいた。


「カイトさんも……髭……生えるんですね…。」

「へっ!? 」


さすがに予想もしなかったセリフに眠気がとぶ。



――どういう意味だろう…?――



少しざらつく自分の顎をなでながら身を起こす。

たぶん複雑な顔をしてるんじゃないだろうか。



「まぁ…。僕も男だしね…。
 普通程度には生えてると思うけど…。」



どう答えていいか分からず
言葉を選びながら返事を返した。



「あ。すみません。変な意味ではなくて。
 不思議だなぁと思っただけなんです。
 こんなにじっくり見たことなかったし…。」



ルリちゃんは少し慌てたように言葉をつないだ。

ほんの少し赤く染まった頬がかわいい。

苦笑したままゆっくりと彼女の頭をなでた。





ここ数日のバイトはウリバタケさんの手伝いだった。

ネルガルの紹介で入った大口のカスタマイズ作業。

急ぎの仕事だったらしく
どうしても手が足りないと泣きつかれた。

いつもお世話になっているし、
確かにすごい作業量で見捨てられないとバイトとして手伝うことにした。

昨夜は最後の追い込みで
泊りがけの作業になり今朝方やっと開放されたのだ。

朝帰ってから昼まではずっと眠っていて
昼食後もそのままぼ〜っとしていたし……

さほど濃くはない僕の髭も目立ち始めている。

アキトさんもそれほど濃い方ではないし、
ルリちゃんが興味を持ってもおかしくはないのかもしれない。





「う〜ん。そんなに珍しいかな?」

「はい。」



間髪いれずにうなずきながらも
ルリちゃんの視線は僕の顎から離れない。

どうにも落ち着かない気分になる。

しばらく考えた後
おそるおそる提案してみた。



「……さわってみる?」

「えっ!?」



突然の申し出に固まってしまった彼女の手をとり自分の頬にあてる。

そのまま様子を見ていると
ルリちゃんは真っ赤になりながらも
手のひらの下のざらつく感覚に驚いているようだった。



「どう?」

「チクチクします…。」



ちょっと笑ってしまう。

ルリちゃんは一瞬すねた瞳をしたけど緊張はほぐれたらしい。

何とはなしに僕の頬をサワサワしてみたり
そっとつまんでみたりする。





やっぱりくすぐったい。





いつのまにか間近に彼女の顔がせまっていた。

真剣な表情で僕の頬と格闘していて気がついていないようだ。

甘い…香りがする。


・・・・・。



「ルリちゃん…。ちょっと…いいかな?」

「はい?」


僕の頬から手を離し
首をかしげつつも素直にうなずいてくれた。

そのまま僕の動きを待っている。



ゆっくり彼女の両肩に手を置く。

ちょっとビクッとした彼女の瞳をみつめて

大丈夫。というように優しく微笑んだ。

真っ赤になって瞳をふせるルリちゃん。



――か…かわいい!――



しまった!
クラクラする…。


頭ではヤバイと思いつつも
胸のドキドキがおさまらない。

手のひらに汗が滲んでいる気がする…。


身体が熱い。


一度頭を振る。


そっと深呼吸。


それから


少しずつ


少しずつ顔を近づけて……













































じょぉ〜り。じょぉ〜り。




























・・・・・・。




























・・・・。






























・・・。






















固まるルリちゃん。

その頬に顔をすり寄せ
ちょっと至福の刻を過ごす僕。





「な!何するんですかっ!?」





衝撃から立ち直ったルリちゃんが
珍しく叫び声をあげて飛びのいた。



「いやぁ。あんまり珍しそうに見てるから、つい…。」



照れながら頭の後ろを掻く。

ルリちゃんは絶句しているようだ。

俯いて……これは……怒っている……よね?




「あのぉ…ルリちゃん? もしも〜し…?」



反応がない。

すごく不安になってきた。


おそるおそるルリちゃんの顔を覗き込もうとすると
いきなり彼女は立ち上がり台所へ向かう。

あっけにとられて見ていると
何かをつかんですぐに戻ってきた。






「カイトさん……」

「は、はいっ!(汗)」










緊張がはしる!












「……当然……反撃は許されますよね!!(怒)


「げっ!?ルリちゃん!ちょっと待った!!」




ルリちゃんの手にあるのは…タワシ!
ジト目のままゆっくりと近づいてくるルリ。




これは本気だ!!




「ごめん!ホントにごめん!!
 謝るから許してぇ〜(泣)」


「ダメです。」



平謝りしながら部屋中を逃げ回る。

完全に目の据わってるルリちゃんは許してくれそうにない。

とうとう壁際に追い詰められて
ルリちゃんとタワシがセットで迫ってくる。

もはや逃げ場はない。

タワシの一撃が来る瞬間。








「何やってるの?2人とも。」


玄関口であきれたようにつぶやくアキトさんであった。



















結局、その後ルリちゃんに一撃をくらい
夜中まで平謝りを続けてなんとかお許しをいただいた。


その間、アキトさんは苦笑いして見ないフリだったし
ユリカさんはルリちゃんの味方だった。



ユリカさん曰く 「カイトくん!最低!!」 とのこと。











……ごめんなさい。もうしません。

許してください。












「カイトさんの…バカ。」































---
<あとがき>
この作品は『大塚りゅういちの隠れ家』で開催された『カイト祭』に投稿しました。
いただいた感想メールに有頂天になって書いた2作目です。
いやぁ懐かしい…ていうか…恥ずかしい(^^;
この作品と次の『いたずらの後で』の2つでRinの作品の方向性が決まったような気がしますね。


さて。今回の甘さ具合はいかがなもんでしょうか?

お題は 『ルリちゃん、オトコを知る』 in 「うずもれた『恋のあかし』」編 です。
ま、幾つになってもイタズラ小僧はかわらんなぁってことで(^^;
たまにはおバカなカイトくんもありでしょう…たぶん…。
最後は暴走してしまいましたが、そこは修行不足ってことでご勘弁ください。

砂糖吐き足りない皆さまへ
3作目『いたずらの後で』はこの話の後日談になります。お気に召しましたらそちらも覗いてみてくださいな。

それではまた時をあらためて・・・。


(2001/10/13 投稿)
(2002/03/11 転載)

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