機動戦艦ナデシコ

〜 Endless  Story  第三章  あなたが歌う子守唄 〜







流れ・・・


今までの私は大きな時代の流れをただ見つめているだけだった・・・


本当は見つめるだけしか出来なかった


でも、今は違う


気づいたら私は流れの中にいて


でも・・・


何も出来なくて


ただ、流されていく・・・そんな気がしていた・・・






第二話 リョーコとアヤ




「(頭が痛い・・・)」

その日、リョーコは起きたと同時に嫌な気分に襲われた。とりあえずベッドの上でボ〜っとしながら頭を掻いてみた。そうしてみると次の瞬間頭が痛いのではなく気分が悪い事に気がついた。

「嫌な気分だ・・・」

体の体調が悪いわけではない、そのことだけは分かる。何故なら健康管理に関しては人一倍気をつけているのだ、ここ数年風邪をひく事すらない。となると・・・

「嫌な事が起こる気がする・・・」

職業柄リョーコは妙に鼻が利くようになった、そのおかげで何度も命を救われている。だから今回も変な意味で自信があった。しかしこの時点でリョーコはこれから起こる事件を知る由も無かった・・・






ナデシコB ブリッジ

「艦長!前方にチューリップを確認、活動は休止中のようです・・・どうしますか?」

ルリは後ろに立つカガミに向かってそう報告した。目の前のウィンドウの地図上に月、チューリップ、ナデシコが表示される、それを見る限りでは前方とは言ってもチューリップはナデシコの進路上には無く幾分か遠回りになる。そしてその地図を見ながらカガミは顎に手を当て考える仕草をした。

「少し進路は外れますが破壊しましょう・・・休止中といっても何があるかわかりません、それに『火星の後継者』の艦隊を地球に送らせるわけにはいきません」

「そうですね、では・・・。」

「進路変更・・・目標、チューリップ」

「了解!」

その言葉を聞いたハーリーが操作していく。そしてそれを見たカガミはウィンドウを開いた。

「おぉ〜艦長・・・どうした?」

「目標を変更してチューリップの破壊に向かうのですが、エステバリス使えますか?」

ウィンドウの先に現れたのはウリバタケだった、相手はチューリップ・・・バッタなどの機動兵器を出された場合やはりエステの方が迎撃しやすいと考えたのだ。

「実はな・・・整備中のが数機有る、それ以外なら大丈夫だ。」

「・・・誰が行けますか?」

「リョーコとアヤちゃん・・・あとは艦長、おまえさんだ。」

「そうですか、わかりました。」

その言葉を聞いたカガミは返事を返してウィンドウを閉じようとした。報告ではそのチューリップは活動を休止してるらしい、エステバリス三機で十分だと考えたのだ。しかしそのカガミをウリバタケが引き止めた。

「おっと待ってくれ艦長・・・実は艦長の機体は特別でな、作戦前に少し説明しておきたいんだ。」

「・・・・・・。」

その言葉を聞いたカガミは様子を窺うようにルリを見た、そしてルリもその様子を察したのだろう。笑顔で言い放った・・・

「大丈夫です艦長、まだ到着までに時間があります・・・行ってきてください。」

「わかりました。ではウリバタケさん、今から行きます」

「おぉ!」

ウィンドウを閉じたカガミはルリに軽く会釈しブリッジから出て行った。






ナデシコB 食堂

「お!アヤ・・・」

制服に着替えたリョーコはまず食堂に現れた、まだ残る寝癖は愛嬌だ。そして既に席について火星丼を食べているアヤに声をかけた。

「んっ!リョーホハン!!」

驚いた顔をしながら火星丼の象徴であるタコ型フランクを口いっぱいに含んだアヤは明らかに呂律が回っていない。

「・・・ま、まぁ、食べろよ」

「「・・・・・・。」」

二人の間に奇妙な空気がしばし流れた・・・

「ふ〜・・・どうしたんです?これから朝食ですか?」

「あぁ・・・」

「・・・?なんか有りました?」

いつもと違う様子のリョーコにアヤは首を傾げた。

「実はな・・・」

リョーコがそこまで言うとキラッと目を光らせたアヤは突然席を立ってリョーコを指差した。

「わかった!好きな人が出来たんだ!!」

「・・・・・・違うわ!!」







ナデシコB 格納庫

「・・・・・・。」

格納庫に来たカガミは辺りを見回した、前来た時のようにパイロット達の姿は見えない。

「・・・いた。」

一番奥の白いエステバリスの前にウリバタケの姿を見つけた、カガミは自分に気づく様子の無いウリバタケに近づいていく。

「ウリバタケさん・・・来ました」

エステバリスを見上げていたウリバタケは後ろを振り返った。そこにはいつものように姿勢をピンッと伸ばしたカガミの姿がある。

「おぉ、来たか・・・いきなりで悪いが説明するぞ!」

「えぇ・・・お願いします。」

「とりあえず艦長には・・・コレ!何に見える?」

ウリバタケは後ろの白いエステバリスを指差した。その手の動きにあわせてカガミも自然とエステバリスを見上げてみる、カスタム機やスーパー機とは少し多少違うところが見られるが、どう見てもエステバリスだ。

「・・・エステでは?」

その時、まさにしてやったりとウリバタケが微笑んだ。心の中の声は「俺の時間が来た!」ともでも思っているのだろう、その顔から容易に想像できる。

「ハッキリ言ってこれはエステじゃない・・・全くの別もんだ。」

「別もの・・・ですか?」

「あぁ・・・まず武装から説明する。表面的には両前腕部に装備された大型クローだけなんだが・・・本体の中にどうやらボソンジャンプのシステムがあるようなんだ」

「でも私はジャンパーではありませんが?」

カガミは思った事を口にした、確かにボソンジャンプは凄いシステムだがジャンパー以外の者が使っても意味は無い、と言うか使えない、まさに宝の持ち腐れなのだ。

「それについては俺も聞いている・・・だからイマイチわからなくてな、それに外せないようにプロテクトがかかってる、無理に外すとエステ自体が使えなくなっちまう。それに出力面でもかなり強化されているんだカスタム機やスーパー機の同等、もしくはそれ以上だな・・・エステの中でもかなり異質な機体だ、まるで新しい機動兵器の試作機みたいな」

「そうなんですか・・・」

カガミはこの事について上層部から何の話も聞いていなかった、ただ既に自分のエステバリスはナデシコに送られたと聞いただけだったのでイマイチ現状が把握できなかった。なぜウリバタケの言う異質な機体が自分の乗機なのかと・・・

「正直、リョーコ達でもコイツを乗りこなせるかどうかはわかんねぇ〜な、それほどまでにコイツは操縦方法がシビアだ・・・」

「・・・・・・。」

「まぁ、一応艦長の機体だからな・・・完璧に整備はしとくが、あんまり無茶はしないほうがいい。敵にやられる前にコイツにやられっちまうぞ!!」

「・・・大丈夫ですよ」

ウリバタケはその言葉に違和感を感じた。その口調からはこのエステバリスを扱いきれる、リョーコ達よりも強いと聞こえたのだ。もちろんそんな事を顔には出したりはしないが・・・

「そういうんなら大丈夫そうだな・・・ところで艦長・・・」

今までで一番真剣な面持ちで、カガミの近くまで来たウリバタケは親しげにカガミの肩に手を置いた。

「何です?」

何故か嫌な空気を感じる、思わずカガミは一歩身を引いた。そしてそれに反応するようにウリバタケは怪しく微笑んだ・・・

「艦長!!頼む・・・あのエステ分解させてくれ!!」

「は?」

「あんな謎テク、新テクぎっしりなエステ・・・技術者魂が疼かないはずがない!!」

熱く拳を握り締めて語るウリバタケをよそにカガミの表情はいたって冷静だった。そして呆れたように頭をポリポリと掻いたカガミが即答した。

「駄目です。これから使うかもしれないのに分解されて時間を取られる訳にはいきません」

「だぁ――――・・・」

あっさりとしたその言葉にウリバタケはその場に崩れ落ちた。上からウリバタケを見下ろしながらカガミは黙っていた、そして一つの結論に達する。

「要するに扱いに難しいから気をつけろ。っという事ですね?では・・・」

ピクリとも動かないウリバタケに苛立ったカガミが簡単にそう告げ、その場を離れようとした。

「お、オイ!ちょっと待て・・・」

もがくように手を伸ばすウリバタケに呼ばれカガミは振り返った。そこではウリバタケがゆっくりと立ち上がってきている。

「大事な事を聞くのを忘れてた・・・」

「んっ?」

「艦長、何色にする?」

「へ?」

「エステのカラーリングだよ!見ての通りココじゃあ色、統一されてないからな・・・」

「・・・・・・。」

カガミは改めてエステを見上げた・・・傷一つ無いエステに白いボディが映えている。

「まぁ〜今ある色は避けて・・・紫、黒、ピンク・・・その他諸々あるが」

「・・・・・・。」

しかしそれでもカガミは悩むように首を傾げていた。

「・・・じゃあ金色なんてどうだ?艦長らしく目立って・・・」

「いえ・・・このままでいいです。」

「白いままでか?」

「えぇ・・・白は、好きなんですよ。」

何かを思い出したようにカガミはそう言った。

「そうか・・・まぁ、艦長がそれがいいというならそれでもいいが・・・」

「白いと何か問題でも?」

「・・・ナデシコに乗って白いエステに乗ると言う事はココではちょっとした意味があるんでな」

「はぁ・・・」

「おまえさんも何時か知ることになるだろう・・・まぁいいか、でも艦長」

「はい」

「一つ覚えておけ、ナデシコで白いエステに乗って負けることは俺が許さねぇってな!!」

「肝に銘じておきます」

真剣な表情のウリバタケを受け止めるようにカガミの瞳はウリバタケを凝視していた。思わずウリバタケも目の前にいる男が新人艦長ということを忘れてしまいそうになる。

「(不思議な男だな)」

知り合って間もないというのに不思議な雰囲気を放つカガミにウリバタケはそう感じた。そして会話の終了を図ったようにカガミの前にウィンドウが開かれた。

「艦長、まもなく作戦可能領域に侵入します。ブリッジに戻ってくきてください。」

「わかりました。」

ウィンドウの先に現れたルリは急ぎ早にそう告げた。カガミのその言葉を聞くとウィンドウを閉じる。

「ではウリバタケさん・・・私は行きますので」

「おぉ・・・エステの整備は任せておけ、艦長は自分の仕事に専念しな・・・」

「はい、ありがとうございます。」

「あっちょっと待て!!」

背を向け今にも走り出しそうなカガミをウリバタケが呼び止めた。急ぎたい気持ちを抑えてカガミは振り返った。

「・・・?」

「スペシャル・・・エステバリス・スペシャルがアンタのエステの名前だ!!」

「はい。わかりました」

ウリバタケに向かってカガミは頭を軽く下げると駆け足で格納庫から出て行った。

「つい最近知り合った男とは思えねぇ〜な・・・」

カガミを見送ったウリバタケは改めて白いエステバリスを見上げた。何かが引っ掛かる気がする・・・いくら高性能でも操れなきゃ意味が無い事をウリバタケは重々承知していた。それなのにカガミのあのエステバリス・・・何か隠れた何かがあるような気がした。しかし直ぐにその考えはウリバタケの中から消え去った。

「(まぁ〜所詮俺なんかがどうこう考えたって・・・どうなるわけでもないし、まっいっか・・・)」

それがウリバタケのいい所であり悪い所でもあった。そして未だにエステバリスを見ていたウリバタケは一つの事を思い出した。

「(分解したい・・・じゃなくてあの新人艦長の空気、誰かに似てると思ったらあのお人好しヤローに似てるんだ)」

ウリバタケは一人納得したように頷いた。

「(それにしてもカスタム、スーパー、そしてスペシャル・・・次はハイパーかウルトラ辺りが来そうだな・・・いや、意表を突いてミラクルか?)」

ウリバタケの頭は既に切り替わっていた・・・






ナデシコB ブリッジ

「現状は?」

カガミはブリッジに入るなりそう告げた。その言葉にルリが反応する。

「前方のチューリップに依然反応なし、あと一分でグラビティブラストの射程内に入ります。」

「わかりました。グラビティブラストの準備をしておいてください、射程内に入り次第発射。」

「了解」

「・・・それとスバルさんとアヤさんにエステで待機して置くように伝えてください。」

カガミの中で作戦はほぼ決まっていた。それを実行するために的確に指示を飛ばしていく。

カガミはまずグラビティブラストによる攻撃、装甲の固いチューリップのため二撃目もあることは頭に入れておく。そして非常事態、例えば一撃目の攻撃でチューリップが活動を再開した場合に備えエステの準備をしておく、これでいかなる状況になっても対応できる。これがカガミの考えでもあった、そしてその考えはまもなく現実になる。

「チューリップ、グラビティブラスト射程内に入りました。」

「グラビティブラスト発射・・・直ぐに二発目の準備を!」

カガミの言葉と同時に黒い閃光がチューリップを貫いた、しかし爆発は起こるもののその原形は保たれたままだ。そしてチューリップがその名に恥じないように開いていく、カガミは自分の考えが的中した事を悟った。

「前方チューリップより無数の無人兵器を確認、バッタです!!」

「エステを出撃!艦内警戒体制をパターンAに移行。」

「了解!」






ナデシコB 格納庫内

「リョーコさんまだその嫌な予感ってのを信じてるんですか?大丈夫ですって!!」

「・・・今回は俺とお前しか出れないからな、援護はしにくいかもしれない。気をつけろよ!」

「これでもリョーコさん・・・隊長にミッチリしごかれてますから、私がリョーコさんをフォローしてあげますよ!!」

その言葉に俯いて微笑んだリョーコは顔を上げた、上げた顔は吹っ切れたように輝いている。

「それだけ大口叩いたんだ・・・撃墜されたら承知しねぇからな!行くぞ、アヤ!!」

「オッケーで〜す!!」

「よし!」

その言葉を聞いたリョーコはハッチから出て行った、それに続くように緑のアヤ機も飛び出していく。

「こっちは数がいないからな、二手に分かれていくぞ!」

「はい」

「無人機だからって油断するんじゃね〜ぞ!!」

手にラピッドライフルを持った二機はナデシコを中心に左右に展開した。しかし改めてみる前方から襲い来るバッタの量にアヤは少々気圧される。しかし決してアヤはそれに恐れは抱かなかった。

「全く馬鹿みたいな量で・・・質より量ですね、ありゃ」

「だな・・・質と量、どっちが優れてるか教えてやろうぜ!」

その言葉にアヤは不敵に微笑んだ。

「もちろんです!」

そして二人の乗るエステバリスは急加速、バッタを迎撃するために飛んでいった。バッタの数は40、アヤは心の中で『上等!』と呟いた。






ナデシコB ブリッジ

「そろそろ私も行きますか。」

ウィンドウに表示された戦略図を見つめていたカガミは唐突にそう口にした。その言葉を聞き逃すはずのないブリッジクルーは一斉にカガミに注目する。

「ほ、本気ですか、艦長?」

ハーリーが一番に口走ってしまった。その顔は明らかに驚きに満ちている、しかし対照的にカガミの顔は冷静そのものだった。

「えぇ、そうです。」

もちろんカガミがそう言いだしたのは理由が有った。バッタを迎撃している二機は素晴らしい活躍で宇宙を飛び回っている、しかし増援に次ぐ増援で何機かのバッタのナデシコへの接近を許していたのだ。もちろん近づいてきたバッタは無難にミサイルで撃墜していく、しかし数が徐々に増えていく現状にカガミは先ほどの決断に至った。

「では、行ってきます。」

ブリッジから出ようとしたカガミはドアの前で振り返った。

「ホシノ少佐!グラビティブラストの準備が出来次第発射、その際エステに連絡しておく事を忘れずに・・・」

「了解しました。」

その言葉を聞いたカガミはブリッジから駆け足で飛び出していった。ブリッジクルーの明らかに戸惑いの視線を背中に感じながら・・・






ナデシコB 格納庫

「艦長、行くのかい?」

青いパイロットスーツに身を包んだカガミはその声に振り返った。そこには先ほど会ったままのウリバタケの姿がある。

「えぇ・・・確か私のエステってレールカノン使えますよね?」

「おう!いつでも準備は出来てるぜ!!」

その言葉にカガミは頷くとエステバリスのコックピットの中に入っていった。直ぐにエステバリスを起動させていく、準備されたレールカノンを手に取るとハッチの前まで運ばれていった。

そして白く光るカガミのエステは宇宙に飛び立っていった。






「アヤ!そっちはどうだ?」

「なんとか・・・でもこのまま増えていったら突破されちゃいますよ!」

「あぁ・・・さすがに二人でこの数はキツイな・・・」

頻繁に相手の事を確認しながら二人は戦っていた。急加速、急停止を繰り返し相手を翻弄していく・・・

「クッ・・・まだまだ・・・」

アヤもリョーコに負けじとバッタを打ち落としていく、しかし集中力が切れかかっていたのも確かだった。

「アヤ!後ろだ!!」

「えっ・・・」

リョーコの言葉にアヤは振り返った、その瞬間血の気が引いていく気がした。目前には自爆覚悟のバッタの姿があったのだ、必死に機体を制御・・・手に持つラピッドライフルをバッタに向けようとしたが距離が無かった、必死に身を捻って回避しようとする。

「コノッ!!・・・・・・ってヤバイ!」

アヤの行動虚しく爆発の衝撃がアヤ機を襲った。思わずアヤも怯んでしまう。

「アヤ!!生きてるか?」

「リョーコさん?・・・・・・ひ、被害は?」

まだ生きている事を知ったアヤは急いで辺りのウィンドウを見渡した。先ほどの爆発の損傷を調べようというのだ。

「損傷無し?」

何度も確認してみるがやはり損傷は皆無、何があったのかと思ったが迫り来るバッタはそんな時間を与えてはくれなかった。気持ちを切り替えたアヤはラピッドライフルで打ち落とす。

しかし先ほど何が起こったのか遠くから見ていたリョーコは知っていた。それだけに驚きを隠せなかった。

「(・・・・・・何者だ?)」

一番素直な感想だった。あの時リョーコが見たもの・・・それはナデシコから出現したエステバリスがレールカノンの一撃でアヤに迫り来るバッタを打ち落としたのだ。もちろん目視なんて出来はしないのでセンサーなどを見ての想像も半分混じっている。しかし当たっている自信はあった。

それに恐らくレールカノンの限界ギリギリの射程距離だろう。その距離でバッタ一機を狙った精密射撃、一歩間違えばアヤ機に直撃したのだ・・・それだけにリョーコは艦長の能力の高さを素直に認めた。

「二人とも、大丈夫ですか?」

焦りを隠せないアヤと驚きを隠せないリョーコの前にウィンドウが開いた、艦長であるカガミだ。

「「艦長!!」」

「もう少しで二波目が来ます、それまで耐えてください」

「わかってるよ!」

「はい!」

戦況が一変した、敵の中で戦う二人を一歩置いた距離でカガミが巧みにフォロー、急造とは思えないほどコンビネーションだ。その様子をルリ達はブリッジで見守っていた。






ナデシコB ブリッジ

「凄い・・・」

ハーリーは艦長のエステバリスの腕前を見て、ようやく納得した。カガミがナデシコにやってきた日、彼は艦長を辞めてパイロットとしてココに残ろうかと提案した時ハーリーは疑問を一つ持った。

『艦長は自分のエステの腕を過信してる?』のかと、自分の知る限りナデシコのパイロット勢はレベルが高い、それは数値的にも確かでハーリーも信頼していた。その中に入ろうというのだ、どれほどの力の持ち主かハーリーは疑問に思っていたのだ。今この場で解消された訳だが・・・

「(確かに凄い、とても配属されたばかりの艦長候補生とは思えない・・・)」

そしてルリも戦況を見守りながら今までの自分の考えを形にしようとしていた。

「(・・・なにか、仕組まれた何かが有る気がする。)」

突然の任務解雇・・・訓練艦の乗船・・・火星の後継者の決起・・・艦長候補生の高い能力・・・そしてあまりにも不可解なカイトの行動、全てが繋がっているようにタイミングが合っている気がした。

「(今回の件にネルガルと宇宙軍が関係している?)」

ここまで行き着いたルリだったがその先が続かなかった、時間も証拠も無い・・・ルリはひとまず考えるのをやめ戦況を見守る事にした。

「少佐!グラビティブラストの準備完了しました。」

サブロウタの声を聞いたルリは急ぎ早にウィンドウを開いた。

「艦長、準備できました。散開してください!!」

ウィンドウの先に現れたカガミは頷くと残りの二人にもそう伝えた。そして射程内からエステバリス三機が出て行ったことを確認したルリがグラビティブラストの発射を指示・・・今までリョーコ達と交戦中だったバッタを含めチューリップが黒い閃光に貫かれ爆散していった。






ナデシコB 格納庫

「よっと・・・」

掛け声と共にカガミはコックピットから飛び降りた。まるで羽のようにフワリっと着地に成功した。そして急ぎ早に格納庫から出て行った。

「ふぅ〜・・・」

そして一足遅れてリョーコとアヤも格納庫に足を降ろした。

「あぁ〜あ・・・」

アヤは同時に大きく肩を落としながら溜息を吐いた。明らかにその様子は沈んでいる。助かったとはいえ、あそこまで絶体絶命の危機まで陥ったのだ。自分の未熟さを恨むばかりである。

「・・・どした?(まっ聞かなくても分かるがな)」

「そうだ・・・リョーコさん、さっき何が起こったか分かります?」

その言葉にリョーコは直ぐにアヤが何を聞こうとしたのかが理解できた。そして自分の想像を交えていると言った後、先ほどの事を語った。

「・・・マジですか?」

「・・・恐らく」

そして遠くから二人の様子を見守っていた待機中の二人が近づいてくる。

「お疲れ〜〜♪」

「戦闘(銭湯)無くて、今日は風呂なし。」

ヒカルとイズミだった。手を振りながら近づいてくる・・・

「イズミさん・・・そのギャグ前にも言いましたよ。」

肩を落としながらアヤが突っ込んだ。その言葉にイズミはショックを受けたのか、ついつい一歩か二歩後ろによろめいた。

「す、少し違うのに・・・」

「どうだった、あの艦長?こっから見た感じなかなかやるみたいだったけど・・・」

「!!」

その言葉にリョーコは驚いた、パイロットから見ての評価だから他の人間よりも厳しいのは分かる。しかしリョーコの目から見たカガミは絶対『なかなか』というレベルではなかったからだ。

「どうかした?」

「んっ!あぁ・・・まぁ足手まといにはならないかな?」

「へ〜〜、やるじゃん・・・あの艦長!でもどれくらいなんだろうね?」

「!!・・・それだ!」

ヒカルの言葉に閃いたようにリョーコは手を叩いた。そして今までウジウジ考えていた自分が馬鹿みたいに思えてくる。

「「「・・・?」」」

「(そうだよ・・・自分で戦ってみればいいんだよ!!)」






ナデシコB ブリッジ

「お疲れ様でした。」

カガミが入ってきたのを見たルリが一番に声をかけた。そしてハーリーやサブロウタも似た様な声を掛けてくる・・・

「・・・いえ、とりあえずナデシコ各部位の被害箇所をチェック!」

そんな言葉にも表情を変化させず淡々と指示を飛ばした。あれだけの戦闘を行って一片の疲れた様子も見せないカガミの様子は少し違和感を放っている。艦長に疑いの目を持つサブロウタはなおの事であった。

「・・・エステバリスが多少損傷、それ以外の被害はありません。」

ハーリーの言葉にカガミは頷いた。

「進路修正・・・改めてネルガル月ドッグを目指します。」

「了解。」




30分後・・・




「よっ!艦長!!」

先ほどの報告書を作成していたカガミの前にウィンドウが開いた。そこには先ほどまで一緒に戦ったリョーコの姿がある、カガミは顔を上げてウィンドウを見つめた。

「・・・スバルさん、どうしたんですか?」

「そろそろ休憩時間だろ?もしよかったら付き合ってくれねぇ〜か?」

「!!」

その言葉に一番敏感に反応したのはサブロウタだった、首を傾げるカガミとは対照的に全神経を耳に集中している。

今までリョーコの事が気になってちょっかいを出してきたが少なくとも今までサブロウタはリョーコから『付き合ってくれ』なんて言葉は聞いたことが無い。イラつきにも似た感情をサブロウタは抱いていた。

「いいですが、何故?」

「艦長もエステ乗りだからな・・・艦長の腕を知っておくのも大事だろ?」

その言葉に納得したようにカガミは頷いた。これから命を預けた戦いをするのだ、前線で一緒に戦う仲間の能力を知っておく事は思った以上に重要な事だということをカガミは十分承知している、リョーコの考えも当然とカガミは考えたのだった。

「よし・・・じゃあ休憩時間になったらシュミレーションルームで待ってるから!」

カガミが頷くのを見たリョーコは嬉しそうにウィンドウを閉じた。そして覚悟を決めた男が一人・・・

「(偶然を装って俺も行こう!!)」

サブロウタだった。






ナデシコB シュミレーションルーム

「おっ来たな?」

部屋に入ると同時にカガミはリョーコに歓迎された、リョーコの後ろにはヒカル、イズミ、アヤの姿がある。

「お待たせしました。で、どうしますか?」

「はいは〜〜い!!」

カガミの言葉にヒカルがピョンピョン飛び跳ねながら手を上げた。その姿を見たカガミがヒカルに意見を求める。

「せっかく艦長がきてくれたんだから艦長と私達の総当たり戦がいいと思いま〜す♪」

「わかりました、私は別に構いません」

「オッケー♪じゃあ誰から行く?」

ちょうどその時誰かが部屋の中に入ってきた。パイロット以外この部屋を使う人はいないということを考えると容易にその人物が誰か想像できた。

「あれ?みんなこんなところで何やってんの?」

当然の如くその声の主はサブロウタだった。もちろん偶然に部屋の中に入ってきたはずもない、部屋に入る機会を外から窺っていたのだ。

「おっいいところに・・・」

入ってきたサブロウタをヒカルは歓迎すると、今までの事の簡単に説明した。サブロウタも簡単に納得するとその案に合意した。

「で、続きだけど誰から行く?」

その言葉に反応するようにカガミ以外の全員が円を作りなにやら話し始めた。

「「「ごにょごにょ・・・うんうん・・・じゃあ決定!!」」」

全員が納得するように頷くと、ヒカルは何処から出したのか分からないが手に5本の紙切れを持っていた。本人曰く番号が書いてあってその順に対戦しようという事らしい。それぞれ紙切れを手に取った。

結論から発表しよう。サブロウタ、イズミ、ヒカル、アヤ、リョーコの順であった。そして一試合目を行うべく二人が席に着いた。

「(これで艦長が何者か・・・少しはわかるかもな・・・)」

「・・・・・・。」






30分後・・・






『GAME OVER』

「ッ!!」

「・・・・・・。」

全ての試合が終り、リョーコとカガミがみんなの元に戻ってきた。カガミを除いた他のパイロット達は顔面蒼白、全員が言葉を失っていた。結果から述べよう・・・カガミ『5戦5勝無敗』驚くべき結果だった。そしてカガミは無表情のまま口を開いた。

「・・・・・・弱いですね。」

「「「「「!!」」」」」

その言葉にリョーコを含めた全員が怒りを感じた、リョーコなど今にも飛び掛らんばかりの形相をしている。しかしそれでもカガミは自分の言葉を止めようとはしなかった。

「ガッカリです、実戦での指揮はサブロウタさんかスバルさんに任せようと思ったのですが・・・これでは・・・」

「てんめぇ・・・」

「ちょ、ちょっとリョーコ!」

一歩踏み出したリョーコをヒカルが必死で止めた。しかしその瞬間ヒカルの横をアヤが通り過ぎていった、その顔はリョーコ以上に赤くなっている。

「艦長!そこまで言う意味あるんですか?確かに私達は負けました!でもそんな言い方ないじゃないですか!?たかが一回勝ったぐらいで!!」

「アヤさん・・・それを戦場でも言うつもりですか?」

「!?」

「確かにこれは訓練でゲームみたいなものです・・・しかしやることは実戦となにも変わらない、あなた方は今死んだんですよ・・・死ぬのは弱いからです。」

カガミの黒い瞳にアヤは完全に呑まれていた、怒りすらも忘れて全身を寒気が襲ってくる。喋ろうにも喋れないアヤを尻目にカガミは話を続けた。

「皆さんの顔を見れば分かります。悔しい、ムカツク、あぁ・・・それとも私を殴りたいって思っているのでしょう。」

「グッ・・・」

いつになく饒舌なカガミにリョーコは奥歯を噛み締めた。今まで命の危険に晒されたことはあったが、これほど自尊心を傷つけられたのは初めてのことだったのだ。怒りのゲージが限界に達しようとした瞬間、カガミの雰囲気が変わった。

「だったら強くなりなさい・・・私よりも誰よりも強く・・・」

その時だけは今までの無表情の淡々とした口調ではなく、少し寂しそうな顔をしていた。その言葉に雰囲気に全員が呑まれ言葉を失ってしまう。

「あなた達は・・・まだ、強くなれる」

そう言い残すとカガミは一人部屋を後にした。部屋に残された他のパイロット達は思わず立ち尽くしてしまう・・・

「クッ・・・クソッ!!

やり切れぬ思いをリョーコはそのまま壁にぶつけた、蹴りつけた壁の音が部屋に木霊する・・・しかしそんなリョーコを宥める余裕も周りの者にはなかった。各々が自分の世界に入り込んでいるのだ。

そして少しは落ち着いてきたリョーコは大きく息を吐いた。そして天を仰ぐ・・・そして思うのだ・・・





「(今日は、最悪だ・・・)」




つづく

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