機動戦艦ナデシコ

〜 Endless  Story  第二章  狂気という名の仮面 〜







無駄・・・


果たしてこの世に無駄なモノがあるだろうか?


答えは『無い』だ・・・


この世の全てには意味がある


流した一粒の涙であろうと・・・


愛する人との戦いだとしても・・・


全ては意味を持ち・・・無駄な事などありはしない・・・


しいてあげるなら無駄な事を探すのが無駄なのだ・・・






最終話 いつか僕が見た夢




「敵艦、機動兵器を一機と無人兵器を大量に射出・・・機動兵器こちらに向かってきます!!」

ナデシコのブリッジで女性オペレーターの一人が艦長であるルリに的確に報告した。

「(敵?そう、敵なんですね・・・出会い頭のグラビティブラスト、冗談にしてはキツすぎます・・・)艦内は警戒態勢パターンA!システム統括!!エステバリスのパイロットは迅速に出撃してください!!」

「・・・じゃあ艦長、俺も行ってきます!」

そう言って今まで驚いた表情で座っていたサブロウタが席を立った。

「サブロウタさん・・・」

「なんです?」

今にもブリッジから出て行きそうだったサブロウタをルリが引き止めた。それは何故か、実のところ深い意味は無い・・・ただ他の人の意見を聞いてみたかっただけなのだ。

「あの機動兵器のパイロット、やっぱり?」

「・・・・・・それは分かりません、もしかしたら火星で会ったあのクサナギとか言う男かもしれませんし・・・」

「そうですよね・・・まだ何とも言えませんよね。」

確かにサブロウタの意見も一理ある、ルリはそう思った。そして返事を聞いたサブロウタはブリッジから駆け足で出て行った、その足取りは普段とは打って変わり真剣そのものだ。

しかしルリは不思議と迫り来る機動兵器のパイロットがカイトという自信も少なからずあった。

「ハーリー君!」

「はい?」

「いまからあの戦艦のシステムをハッキングします、一隻とは言っても向こうもオモイカネ級のコンピューターを搭載した戦艦。ハッキングに全てをかけるのでナデシコの方はお願いします!」

「・・・わかりました。」

「それとハーリー君・・・あの人が本気だとしたら逃げる事は出来ません・・・肝に銘じておいてください。」

「・・・はい。」

その言葉に笑顔で返事を返したルリは前方にシートをスライドさせ立ち姿勢に移行した、それと共にウィンドウボールがルリを包み込む。

「(カイトさん・・・・・・何故?とは聞きません、もう迷わない・・・あなたが教えてくれたから、夢に向かって精一杯生きろと・・・だから引っ張ってでもあなたを連れて帰ります!夢のために・・・私達に逃げ道は無いのですから。)」

ルリは高まる高揚感と共に焦りも同時に感じていた・・・幾ら危険になり逃げようとしてもA級ジャンパーであるカイトからは逃げられないと言う事実に・・・






「リョーコさん・・・今の話、本当なんですか?」

「あぁ・・・今回の相手はカイトだ!」

エステバリスのコックピットの中でリョーコは真剣な面持ちでウィンドウの先に写るアヤを凝視していた。

「・・・・・・。」

「どうしたビビッたか?」

「いえ・・・そんなことありません・・・」

しかしやはりアヤの態度はいつもに比べて暗かった、それなりの仲のリョーコにはそんな事すぐに分かる。しかしその理由がイマイチはっきりしなかった。

「(相手が自分より強い奴でも躊躇わずに向かっていく奴なんだけど・・・)」

相手が強ければ強いほど向かっていく、負けん気の強さがアヤの中の魅力でもあると思っていたのだが、どうやらそれとは違う理由があるらしい、そこまではリョーコでも理解できた。しかしそこからが分からない・・・

「アマテラス、それにシャトルに火星・・・その人に三度も命を救われました、火星の時なんか特に・・・あの時は本当にダメだぁ〜っと思いました・・・でも私はココにいる、そしてその命の恩人に向かって剣を向けることに何か気が引けて・・・」

「(そういうことか・・・)」

リョーコはアヤの言葉に溜息と共に頷いた。負けん気の強さと同じぐらい優しい奴・・・リョーコはアヤをそう評価していた事を思い出した。

「だから・・・その・・・」

その言葉にリョーコの顔つきが厳しくなった。

「ならここでやめとけ・・・そんな気持ちで戦場に出たら・・・死ぬぞ!」

「・・・・・・。」

「っで、どうする?」

「・・・・・・行きます!!だって私も行かないとリョーコさん達やられちゃうでしょ?」

アヤは笑顔で厳しい顔のリョーコに返した。アヤにもリョーコの気持ちは痛いほど理解できる、だからこそアヤは一つの結論に達した。

「(私は軍人・・・そしてココは戦場・・・だったら戦わなきゃ、皆を守るために!!)」

その言葉にリョーコは厳しい顔を崩し、その顔にフッと笑みが浮かんだ。

「・・・なら行くぞ、ヒカルもイズミも行ってるからな!」

「ハイ!!」

そう言って二人は開かれたハッチから出て行った。

「いやぁ〜乙女事情と山の天候はわからないっていうけど・・・いやはや、頼もしい限りだね!!」

「オイ!コラッ!!オマエもとっとと出て行け!!他の奴らはみんな行ったぞ〜」

サブロウタのコックピットにウィンドウが開いた・・・頬に引っ掻き傷のある男、ウリバタケだ。そしてその顔は明らかに怒気に満ちていた。

「ハイハ〜イ♪・・・(相手はカイト、果たして俺はナデシコを守りきれるのか?いや、その前にアイツは一体何を考えているんだ。)」

真剣な面持ちなサブロウタはウリバタケに急かされるようにハッチから飛び出していった。その頭には幾つもの疑問が渦巻きながら・・・






「お兄ちゃん・・・バッタの配置完了したよ。」

ユーチャリスの前にその白銀の機体は有った。そしてそんなアンスリウムの中でカイトはリンの報告を聞いている、その顔にはいつもの余裕や笑みは感じられない。

「わかった・・・じゃあ、あとは作戦通りで頼むよ・・・」

「うん・・・」

明らかにリンの声は暗かった、もちろんそのことにカイトも気づくがあえて触れはしない。

「(ゴメンね・・・君には辛いことばかりだ、やはり君はココにいるべきではなかった・・・)」

カイトはゆっくり目を閉じ大きく息を吐いた・・・そしてあらためて前方を見つめる。辺りは闇に包まれ煌く星の輝きが妙に心地良い・・・そして今から旧友と戦うというのに想像以上に冷静な自分にカイトは正直驚いていた。

『エステバリス五機確認』

「・・・来たか、カウント開始・・・」

『10:00』

新たなウィンドウがカイトの前に開いた。それと同時にカイトの乗るアンスリウムは急加速してナデシコの元に近づいていく・・・そして、戦いは始まった・・・






「敵、機動兵器凄い速さでこちらに向かってきます!!エステバリス隊とあと10秒で接触!!」

湿度がコントロールされたブリッジで、女性オペレーターは冷や汗に寒さを感じていた。正確にはそこにいる全ての人間が・・・皆、現在の状況が今までとは違うと言う事を肌で感じているのだ。

「(相手はカイトさん・・・幾らサブロウタさんやリョーコさんでも正直勝ち目は薄い、でも一秒でも早くあの戦艦のシステムを奪う事が出来たら・・・)」

微かな望みを繋ぐためルリは自分の持てる力をハッキングという行為に賭けた。ナノマシン活性化の線がルリの体に表れ始め、それと共にオモイカネと意識を同調させていく・・・






「来るぞ!!」

そのリョーコの一言で宇宙にパイロットにしか分からない独特の張り詰めた空気が広がった。

先手を切ったのはサブロウタだった、とんでもない速さで迫り来るアンスリウムに向けてレールカノンを連続で放つ。

「チッ!」

しかし放った弾丸はアンスリウムの装甲にかすりもしない、そしてそれが合図のように5人は散開した。一点突破で来ると考えていたリョーコ達は此方に向かってくるアンスリウムを一斉射撃で動きを止めようとしたのだ。

しかしここでアンスリウムは意外な行動を取った。

「なめやがって・・・」

さすがのリョーコ達もその行動にイラつきを隠せない。全員に囲まれるような位置まで来たアンスリウムはその動きを止めたのだ。

もちろんリョーコ達も馬鹿では無い、そんなアンスリウムに向けて集中砲火を浴びせた。いや・・・正確には浴びせようとした・・・

「うわッ!マジ?コッチにくる・・・」

弾が当たる寸前でアンスリウムは急上昇、全員の照準をズラすと最初の標的を決めたのか、ヒカルのエステバリスに襲い掛かった。

ヒカルもただ黙ってそこにはいない、後方に下がりながらラピッドライフルを乱射して距離をとろうとした。

「は、はやいっ!!」

すかさずリョーコ達がヒカルを援護のするためにアンスリウムを囲むように攻撃するが、強固なディストーションフィールドに阻まれ、その動きに何ら損傷を与える事が出来なかった。

そして気がつくとアンスリウムはヒカルのエステバリスの目の前まで来ていた。

「ヒカルさん!逃げて!!」

「うっ・・・」

アヤやリョーコ達が必死に援護するが、状況に変化は無い・・・むしろ悪いほうへ進んでいた。

アンスリウムはハンドカノンを収納してその手を伸ばした。

「ゴメン、やられる・・・」

グシャ・・・

アンスリウムはエステバリスの頭部をその手で握り潰した・・・ヒカルの最後の言葉と金属の嫌な音が他の全員の耳に届くとウィンドウに激しいノイズが走る。

「「ヒカル!!」」

「ヒカルさん!!」

しかし返事は返ってこなかった・・・そして機能を停止したエステバリスをアンスリウムはゆっくりと放り投げる。

「この野郎っ・・・」

リョーコは歯を食いしばった・・・ここで二流のパイロットだったら怒りに我を忘れてアンスリウムに突っ込んで行ったかもしれないがリョーコは違う、奥歯を噛み締め怒りに耐えていた・・・

「中尉・・・どうする?」

ウィンドウの先に現れたのはサブロウタだった・・・普段からは想像できないほど瞳の奥に真剣な輝きが見える。

「サブ・・・単機で向かっていっても勝ち目は無い」

「だろうね・・・ならば数の利を使いますか?」

「あぁ・・・それにしてもあの野郎遊んでやがるな・・・」

「んっ?」

「気づかないのか、カイトの野郎まだ一発も撃ってないんだぞ・・・」

「!!・・・だな・・・って来るぞ!!」

「各機散開!!フォーメーションB」

「「「!!」」」

その言葉に全員が反応すると決められた動作を実行した。

「イズミ!アヤ!!シッカリやれよ!!!」

「真面目な戦い・・・撃たせてもらいます。」

「わかってますって・・・」

最初はレールカノンを装備したイズミ機とラピッドライフルを装備したアヤ機による攻撃、これにより敵の移動範囲を限定・・・それに嵌ったようにアンスリウムはその場に釘付けになっている。

「サブ!行くぞ!!」

次にサブロウタとリョーコが縦一列に並びサブロウタはレールカノンを撃ちながら、リョーコはその背後に隠れながらフィールドランサーを構えている。

「もらった!!」

サブロウタが充分に引き付けた所でリョーコがフィールドランサーで死角からの強襲・・・予定ならこれで決まるはず・・・

「・・・ハハッ・・・マジかよ?」

リョーコはジワリッと脂汗が額に浮かぶのを感じた。フィールドランサーはアンスリウムを傷つけるのではなく、自分の機体の頭部と胴体を離していたのだ・・・

一瞬にしてコックピットのスクリーンにノイズが走った・・・しかしリョーコの目にはシッカリと焼きついていた、アンスリウムがフィールドランサーを振り下ろしたリョーコ機の手をディストーションフィールドを纏ったパンチ一撃で砕き、フィールドランサーを奪うと一閃したその瞬間を・・・

「!!・・・リョーコさん!!!」

頭に血が昇ったアヤはラピッドライフルでアンスリウムの背後を強襲した。しかしその直後アヤは本当の恐怖を知る・・・

「待つんだアヤちゃん!!」

「う、うそ・・・」

サブロウタの言葉は少し遅かった・・・ラピッドライフルを持つアヤ機の両腕はアンスリウムの両肩に備え付けられているアンカークローによって貫かれていた。

「キャ!キャ――――――――――ッ!!!」

アンスリウムはアヤを繋げたまま急加速した・・・アマテラスの時よりも数段増した重力がアヤの体を襲っていた、イズミやサブロウタが必死で止めようとレールカノンを連射するがアンスリウムはその間を縫うように飛び交っていく。

「くっ・・・・・・・このままじゃ・・・。」

必死に意識を保とうとするが既に限界に達していた・・・凄まじい重力のせいで全身の血が何処かに行ってしまうような、そんな妙な気分に陥ってくる。

「・・・まだ両腕を離せば・・・まだ・・・ウッ・・・」

必死に抵抗しようとしたアヤだったが、そこで意識を失った。

「アヤちゃん!!」

その様子は外からはっきりと見て取れた・・・エステバリスから力が抜けるように見えたのだ。そしてアンスリウムに乗るカイトもそれを察したのだろう・・・旋回すると同時にイズミ機目掛けてアヤのエステバリスを投げつけた。

「・・・どうやらマジみたいね・・・」

普段からはかけ離れた真剣な口調なイズミはそう言いながらアヤを受け止めた・・・しかし直ぐ後にこの行動を後悔する事になる。

「!!」

アヤ機を受け止めたと思ったらその影からアンスリウムの姿が・・・一瞬にしてイズミ機も戦闘不能に陥った。

「オイオイ・・・なんて強さだよ。笑えねぇぞ・・・」

冷や汗が纏わりついてくる感覚に不快感を覚えたサブロウタは、そんな気持ちに活を入れるように手に持つレールカノンを握り直した。

「さぁ〜て・・・どうしようか?」

目の前に佇む白銀の機体アンスリウムが今、サブロウタの目にはどんなモノよりも恐ろしい悪魔に見えた。






「(・・・・・・もう少しで向こうのシステムに進入できるのに・・・)」

ルリはまさに選択を迫られていた・・・このままでは敗色濃厚、このままではクルーの命を危険に晒す事になってしまう・・・

「(もう少し・・・もう少し・・・)」

もうちょっと、もうちょっと、そう思いながらルリは作業をこなしていく・・・

「!!・・・進入できた、あとは!」

あとはそのシステムを掌握するだけですむはずだった、この作業にはあまり時間もかからない・・・ルリは夢に近づいた、そんな気がした・・・しかし・・・




『ダメ・・・』




「えっ・・・」

その声はルリが良く知っている声だった・・・しかしだからこそ意外な声でもある。

「リ、リンちゃん?」

『・・・うん』

「なんでソコに?」

『お兄ちゃんの力になりたくて・・・』

「!!」

ようやくシステムに進入したと思ったのだがジリジリと押し戻されている。

「(この力はリンちゃんの?)お願いです、こんな戦いやめさせて!!」

『こんな?ルリはお兄ちゃんの事なんにもわかってない・・・』

「・・・どういうことですか?」

『お兄ちゃん・・・泣いてるんだよ、必死に笑ってるんだけどいつも隠れて泣いてるの・・・』

「・・・カイトさんが?」

『ルリは言ったよね・・・お兄ちゃんの事を不思議な人だって・・・でも違うよ』

「違う?」

『だって・・・お兄ちゃんほど悲しい顔をする人、私知らないもん。』

「・・・・・・。」

『だからね、私は決めた!お兄ちゃんを笑顔にするためにお兄ちゃんの力になるって・・・だからこの船をルリに渡すわけには行かない!』

「・・・それでも・・・それでも・・・私は引き下がれません、いえ・・・だからこそ私はこの戦いに勝ちます!」

『ルリに私は倒せない・・・』

「!!」

その瞬間、ブリッジのライトが全て消えた・・・一瞬にしてクルー達の間に動揺が走る。

『ホラッ・・・』

「(そんな私がリンちゃんに・・・)」

逆にシステムに侵入されている事実にルリは驚きを隠せなかった・・・リンの訓練の成果がココに出たのだ。

『でもお兄ちゃんに止められてるからこれ以上はしない・・・』

リンのシステムの侵入の停止と共にブリッジのライトが再点灯した。

・・・ただ・・・あの人に会いたいだけなのに・・・

心が緩んだ隙間から一瞬出たようなルリの呟く声をリンは聞き逃しはしなかった。

『・・・・・・それは多分お兄ちゃんも一緒』

「えっ!」

『少し前からお兄ちゃんの中で何かが変わっちゃった・・・顔には出さないけど、お兄ちゃん嘘下手だから・・・』

「・・・・・・。」

『でもね・・・ある瞬間だけはいつものお兄ちゃんでいるの!』

「それは・・・?」

『よく私がお兄ちゃんの話を聞くとね、結局ルリの事だけ・・・・・・でもねその時のお兄ちゃんはいつものお兄ちゃんだった。』

「リンちゃん・・・お願い!あの人と話をさせて!!五分・・・いえ、一分だって、お願い!リンちゃん・・・」

『・・・・・・。』

「お願い!!」

しかしルリの切実な願い虚しくリンは無言だった・・・






そしてその頃アンスリウムと対峙していたサブロウタはかつてないほど神経を研ぎ澄ましていた。

「(・・・時間ってこんなに長いものだったけな?)」

この時のサブロウタは一分を一時間とも感じていた。

「(隙を窺っているだけなのか?それとも遊んでいるのか?)」

様々な疑問が頭に浮き出てくるが何一つ解決することはない。その疲労感は絶頂に来ていた・・・

「(カイトには逆立ちしても勝てない・・・ならする事は一つ!)」

そう思ってルリにウィンドウを開こうとした瞬間だった。

「馬鹿な!?」

一瞬の隙を突かれた・・・まさにそう表現するのが正しいだろう、サブロウタがアンスリウムから意識を外した瞬間だった。サブロウタは見たのだ、既に目の前にいるアンスリウムの姿を・・・

「艦長ォ!!逃げ・・・」

そこまでだった・・・ナデシコに逃げるように伝えようとした瞬間、サブロウタの乗るスーパーエステバリスの通信機器は破壊され戦闘不能に陥った。

「クソッ!!テメーは一体何考えてるんだよ・・・」

非常灯だけがコックピットを照らし・・・その中でサブロウタはただ無力な自分に後悔した。






「エステバリス部隊全滅!!敵機動兵器こちらに向かってきます!!」

女性オペレーターは今の状況に困惑していた・・・火星の後継者と戦ってもここまでにはならなかった、しかも相手は一人・・・明らかに今までの相手とは『格』が違う、いや・・・それ以上の疑問が頭の中にあった。

「(あれは・・・本当に私達を同じ『人間』?)」

「フィールド出力全開!!」

その時だった・・・現在ルリの代わりにナデシコを操っている言っても過言では無いハーリーの声がブリッジに響き渡ったのだ。気のせいかその声は女性オペレーターの耳には頼もしい声に聞こえた。

「(こうすれば少しは時間が稼げる・・・その間に艦長が・・・)」

確かにハーリーの考えは正しかった、ナデシコのディストーションフィールドは他の戦艦よりも遥かに出力が高い、並みの機体ではフィールド内に侵入してくることすら不可能なのだ。

しかしハーリーは二つのミスを犯した・・・一つ目、既にルリはユーチャリスをハッキング出来ない・・・二つ目、目の前にいる機体には『壁』など無意味なのだ・・・

「「「!!」」」

今までナデシコの前方にいたアンスリウムが忽然とその姿を消した。

「ボソンジャンプ・・・」

ハーリーがそう言った瞬間だった・・・

「嘘・・・ブリッジ前方にボソン反応を確認」

「「「!!」」」

事態を察するのは意外にも簡単だった・・・しかしあまりにも緊迫した状況に全員がその可能性を失念していたのだ。

「・・・・ぜ、全速後退!!」

ハーリーにはあまりにも時間がなかった・・・指示を出した時には既に遅し、目の前にいる白銀の機体はグラビティカノンの銃口をブリッジに向けていたのだ。






「(やっぱり勝てなかった・・・)お願いです、リンちゃん・・・あの人と・・・カイトさんと話をさせてください。」

ブリッジに銃口が向けられていることはルリも重々承知だった・・・別に全てを捨てている訳ではない、カイトと話せばこの戦いをやめてくれる・・・ウィンドウの先にいるのは自分の知っているカイトだと信じているのだ。

『・・・・・・。』

しかしリンも先ほどまでと変わらず無言の一点張りだった。

「リンちゃん・・・カイトさんをあのままにしていいはずありません!だから・・・」

その時だった・・・ルリの前に新たなウィンドウが開いたのだ。

「・・・カイトさん!?」






「・・・・・・。」

カイトは少々困惑していた・・・ここまでは作戦通り上手くいった、システムも奪われていない・・・そう思っていた、しかしカイトの前にはルリが少し涙ぐみながらウィンドウに映っていた。

「リン!」

「・・・ごめんなさい。」

少し叱るような厳しい口調にリンを映したウィンドウが開き、居づらそうに俯いていた。

「・・・リンちゃんを責めないで下さい・・・私が頼んだんです、カイトさんと話をさせてって!」

「・・・・・・。」

カイトは直ぐにウィンドウを閉じようとは思わなかった・・・横目でチラッと別のウィンドウを見つめる。

『3:54』

「(約6分か・・・やっぱりな)」

カイトが何を考えているかルリにはわからない・・・しかし今まで胸に溜めた思いを吐き出すのにはそんな事は関係なかった。

「なんでこんな事をするのか?・・・とは聞きません、でも覚えてますか?あの『手紙』を・・・あなたは言いましたね『私の夢は何だ?』っと・・・」

「・・・・・・あぁ。」

「私にはありますよ・・・『夢』・・・だから教えてもらいたいんです。」

「何をだい?」

「・・・あなたの夢はなんですか?」

ルリにはバイザーで隠されてカイトの表情は読み取れない・・・しかしそのバイザーの下でカイトの目は大きく見開かれていた。

「・・・・・・。」

「教えてください!」

「・・・ハハッ・・・夢か、昔はあったんだけどね・・・もう忘れちゃったよ」

乾いた笑みをルリに向ける・・・その顔を見るとルリは何とも言えない息苦しさを同時に感じた。

「・・・私の夢は・・・カイトさん『あなたと共に今を生きることです』」

「!!」

「私にはあなたの忘れた夢を思い出させることは出来ません・・・でも、私と一緒に・・・私の夢を見てくれませんか?」

「・・・・・・。」

ルリはまるで聖母を思わせるような笑みをカイトに向けた・・・しかしカイトは無言・・・そしてウィンドウは静かに閉じられた。

でもルリはシッカリと見ていた・・・ウィンドウが閉じる瞬間、少し俯き加減なカイトの口元は優しく微笑んでいたのを・・・

「・・・一緒に夢を見よう・・・か・・・ハハッ、まいったな。」

ピピッ・・・ピピッ・・・

その音に顔を上げたカイトは再度ウィンドウを見つめた。

『0:00』

「時間切れ・・・」

そういったカイトは静かに意識を集中させていた・・・






「・・・機動兵器・・・消えました、ボソンジャンプです。」

汗を拭いながら女性オペレーターは心底安心しながら艦長であるルリに報告した。

「・・・わかりました。エステバリスの回収をお願いします・・・」

ルリもウィンドウボールを閉じて元の自席の位置に戻るとホッと胸を撫で下ろした。

「艦長・・・でも・・・」

ルリの言葉にハーリーは言いにくそうに口を開いた。

「皆さんは・・・エステバリス隊は全滅しました。」

「大丈夫です・・・皆さん頭部を破壊されて連絡が取れないだけでコックピットは無傷のはずです・・・」

「えっ?」

ルリの言葉に驚いたハーリーは急いで確認を取った。それ以上にここまで断言できるルリは、やはり敵だとしてもカイトを信じていたのかもしれない。

「ほっ・・・本当だ・・・じゃあ、あの機動兵器は一体何のために・・・」

安心したように溜息を吐くとハーリーは肩を落とした。

「(そうハーリー君の言葉通り、何故あの人はこんな事を・・・)」

そう思ったルリだったが、内心そんなことはどうでもよかったのかもしれない。

「(でも・・・あの人はやっぱり不思議な人ですよ・・・リンちゃん!)」

ルリは一人微笑んだ、その様子を見てハーリーは首を傾げたが気にする様子はない・・・そして胸にソッと手を置いた・・・

「(だって・・・あの人の笑顔は私の心をあったかくしてくれるから・・・)」

ルリは包み込むようにペンダントを握った。






「はぁ〜・・・」

ユーチャリスへとボソンアウトしたカイトはコックピットから颯爽と飛び降りた。そしてそれと同時にパイロットスーツの上半身を脱ぎ捨てた。

「(・・・6分か・・・分かっていたとはいえキツイな・・・)」

「お兄ちゃん・・・」

溜息を吐きながら格納庫を後にしようとしたカイトを小さなその声が呼び止めた。

「リン・・・どうしたの、こんな所まで?」

「あの・・・ゴメンなさい・・・さっき・・・」

そう言いながらその声は震えていた・・・

「・・・・・・謝る必要なんて無いさ」

カイトはそう言って微笑むと少し乱暴に髪をクシャクシャッと撫でた。

「でも・・・」

「謝るのは僕のほうさ・・・ゴメンね、辛かったよね・・・知ってる人と戦ったんだ・・・ゴメンね・・・」

カイトは屈むと優しくリンを抱きしめた。

「ううん・・・」

カイトに抱きつきながらリンは静かに首を振った。

「・・・それにしても疲れたね・・・安全なところまで行ったらご飯にしようか?」

「うん・・・」

カイトに抱きつきながらリンは頷いた・・・

「(しかし・・・冗談抜きでヤバイことになってきた・・・)」

リンのぬくもりに安心しつつもカイトの中にある疑問が一つの確信に変わった。

そしてその事を語るためには話を遡る事になる・・・火星でカイトとクサナギが再会したあの時まで・・・






「覚えてるよ・・・あの時の『誓い』俺が戦う理由は今も昔もそれだけだからな・・・」

「僕もさ・・・でも仲間になれ?よく言う・・・」

「本気なんだけどな・・・それにオマエもあの時の『誓い』のために戦うのなら俺と組んでもいいだろ?」

クサナギは頭を掻きながら苦笑した。

「目的が同じでも手段が違えば敵だ・・・それにおまえがユウキを殺した事実は消えはしない。」

「ユウキ?誰だそれ?・・・まぁいいや、その言葉に後悔は無いんだな?」

「(誰かも分からず殺すのか・・・いや、僕も昔はそうだったんだ、人の事を言える立場には無いよな)」

「もう一度聞く、いいんだな?」

「・・・あぁ、構わない」

「ならしょうがない・・・代金を貰おうか?」

「随分簡単に引き下がると思ったら・・・代金?なんのことだ・・・」

その言葉にカイトは首を傾げた。

「簡単にって、ただ俺はウジウジしたのは嫌いなだけ・・・それにオマエに全てを教えたんだ、仲間になるんだったらそれで良かったんだが・・・嫌だって言うからな、別な物を頂こうと思ってね!」

「・・・別な物?」

「そうだよ・・・いまさら金を貰ったところで嬉しくもなんとも無い、だからさ・・・」

「・・・・・・。」

「オマエの大事な物を頂く事にしよう・・・何て言ったかな?え〜と・・・」

クサナギは焦らす様に腕を組みながら眉間に皺を寄せた・・・先ほどウジウジしたのが嫌いと言った男とは思えない仕草だ。

「そうだ・・・思い出した・・・確か『ホシノ・ルリ』」

「!!」

「そうだ、その子を貰うとしよう・・・アレだけの話が聞けたんだ、それぐらい払っても罰は当たらないと思うぞ。」

その時、明らかにカイトの目の色が変わった。

「・・・・・・クサナギ、ココで殺し合いをするつもりは無いといったな?」

「あぁ、言ってたな・・・」

「悪いが前言撤回だ・・・」

ダダンッ・・・

銃声がその部屋で木霊した・・・一瞬で胸元から銃を引き抜くと躊躇せずにクサナギに向け引き金を引いたのだ。

「今この場で・・・オマエを殺す・・・」

しかし、カイトの放った銃弾はクサナギに当たる事は無かった。

「・・・フッ、便利だろこのフィールド?重いのがたまに傷だが・・・オマエと話をするにはコレぐらい必要だし」

そう言って不敵に微笑みながらもクサナギは黒いコートの下を小突いた・・・その下からは明らかに鈍い金属音がする。

「・・・・・・あざといな」

「おいおい、俺は慎重なんだ・・・そんな悪い言い方しないでくれ・・・」

「・・・・・・。」

「安心しろ・・・最近俺も忙しくてね・・・一年、いや半年は手を出すつもりは無い・・・しかしその後は・・・わかるだろ?」

クサナギの笑みにカイトの背筋に悪寒が走った。

「・・・・・・。」

「まっ!今回はそれだけ・・・じゃあな・・・」

そう言ってクサナギの体は光に包まれ始めた・・・

ダンッ・・・

再度カイトは拳銃の引き金を引いた・・・

「・・・その前にオマエを殺すよ、例えオマエが何を考えていようと・・・」

カイトもまた笑った・・・辺り一体の空気が震えるほどの強烈な殺気を放ちながら・・・

「無理だな・・・昔も今も、そしてこれからもオマエは俺を殺せやしない・・・」

捨て台詞のようにそう言うとクサナギは跳んだ・・・

「半年・・・正直、本気で隠れたアイツを見つけ出すのは不可能だ、果たして僕にルリちゃんを守れるのか?」

そしてカイトもその場から光と共に消え去った・・・






そしてこの日からカイトの行動に変化が訪れた・・・

急にかなりの情報を手にしたカイトは疑問と困惑が常に頭を過ぎっていた。

普段のカイトだったら持ち前の要領の良さで解決しているかもしれないが、やはりクサナギの言葉がカイトに混乱を与えていたのだ。

そしてカイトは一つの結論・・・というか疑問に達する事になる・・・『果たして今のままでナデシコを守りきれるのか』という疑問である。

それがカイトを今回の行動に踏み切らしたのだった。

旧友と戦う事に後ろめたさは感じる・・・しかし時間があまりにも無さ過ぎたのだ。

そして疑問は解決した・・・カイトの想像したとおり『今のままではナデシコを守れない』と・・・






「(クサナギがナデシコを襲った場合、その情報が届くのがどんなに早くても5、6分・・・そして・・・)」

「・・・・・・お兄ちゃん。」

「(それから、なんやかんら準備して約5分・・・はぁ〜〜、やっぱり駄目だ・・・僕が行く前にナデシコ落とされてるよ・・・)」

「・・・・・・・・・お兄ちゃん!!」

「んっ?・・・あぁ・・・どうしたんだい?」

先ほどから手に箸を持ちながらボォ〜っと考え込んでいるカイトを見かねて、リンは現実に引き戻すように声を大にして呼びかけた。

「今日は私も手伝ったのに・・・美味しくない?」

「ち、違うよ・・・いつもよりずっと美味しいよ!」

そう言ってカイトは笑みを浮かべ、目の前の料理を口に放り込んだ。

「そう?」

「うん・・・ちょっと考え事をしてただけ♪」

「ふ〜ん・・・なんか変なの・・・」

一人納得できないように口を尖らせると、その思いを飲み込むように水を飲んだ。

「(やっぱり何度考えても・・・駄目なんだよな・・・どうしよ?)」






「クソッ!!」

「リョーコさん・・・」

「何がどうなってんだよ!」

「・・・・・・。」

「完璧な負けだったね・・・」

副長としての仕事があるサブロウタ以外のパイロットは食堂にいた・・・しかし全員がその表情に陰を落としている。

「・・・結局、手も足も出なかったんですよね・・・最後まで一発も撃たずに終わったんですから・・・」

「俺達はアイツに遊ばれてたってことかよ・・・」

リョーコは拳に力を入れた。だれも多くは語ろうとはしない圧倒的な力の差を肌で感じたのだ、自分の不甲斐なさだけが頭の中に満ちていた。

と言ってもカイトがハンドカノンやグラビティカノンを撃たなかったのには訳があった。決してカイトはナデシコのパイロット勢をなめているわけではない、ただそれ以外に手段が無かったのだ。いくらカイトでも射撃で相手を殺さない自信は無い、動かない的ならまだしも相手はエステなのだ。もしも・・・その可能性を恐れてカイトは敢えて接近戦による交戦を試みたのだ。

もちろんそんな事情を知るわけでもなくリョーコ達は自分の力不足を恨むしかなかった。

「・・・でも強かったですね!リョーコさんの言ってた通りでした。」

「アヤちゃん、急にどしたの?」

妙にその場に合わない笑みを浮かべたアヤに堪らずヒカルが尋ねた。

「だって凄いじゃないですかあの強さ、火星の時はよく分からなかったけど実際戦ってみたらもぉ〜〜・・・後ろに目があるのか?ってぐらいでしたよ。」

「・・・むかつかねぇ〜のか?遊ばれてたんだぞ!!」

「・・・・・・でも、生きてるじゃないですか?向こうはどうだか知らないけど、私達は皆生きてます・・・生きてるって事は強くなれるって事なんですよね?」

「・・・・・・フッ、確かにそんな事言ったな・・・」

「でしょ?だったら強くなって次に勝ちましょう!!気合です!根性です!!!」

「「「!!!」」」

その言葉に他の三人は一瞬驚くと微かに口元を綻ばせた。そして・・・

「「「ハッハッハッハッハ!!」」」

食堂に三人の笑い声が響いた。

「な、なんですか?・・・失礼な・・・」

「クククッ・・・いいねぇ〜アヤちゃん熱血やってるよ!」

「・・・全く・・・お前と話してると気が抜けるよ、真剣な俺がバカみてぇ〜じゃねぇか?」

いまだに笑い転げているイズミをよそに二人は少し嬉しそうに言葉を返した。

「って私はいつでも真面目ですよ!!」

ククッ・・・そうだな、じゃあ頑張れよ!」

「えっ?」

「だって一番弱いお前が一番頑張るんだろ?」

「ひっど―――い!!でも本当だから言い返せない・・・」

最初在った暗い空気はどこへやら・・・その場は一変していつも通りの明るいモノになっていた。






「(・・・・・・やっぱりあの人が何を考えているのかが分からない。)」

ナデシコのブリッジで先ほどの報告書を作りながら、ルリの頭の中では全く別の事を考えていた・・・いや全く別というわけではないが、とりあえずルリの頭の中はカイトの事でいっぱいなのは確かだったのだ。

「(でも私も・・・突然とはいえ・・・カイトさんに)」

先ほどの自分の言った言動を思い出したルリは思わず頬を赤らめた。

「(・・・切羽詰っていたとはいえ、『一緒に夢を見てください』って・・・でも本心なわけだし・・・)」

思い出せば思い出すほど顔が熱く、赤くなっていく気がした。そしてそれを隠すように手を顔に当てるが現にいつもより熱く感じた。

「(・・・・・・でも言った直後に切られちゃいましたから・・・・・・ふられたのかな?でもあの時確かに微笑んでいるように・・・)」

そう考えるとルリの頬は元に戻っていく・・・

「(でもリンちゃんも・・・色々言ってたし・・・まだふられた訳じゃ・・・)」

またルリの頬は赤くなっていった・・・

「(でも・・・・・・あっやっぱり・・・)」

普段の冷静な艦長は何処に行ったのだろうか、艦長席には年相応の恋する乙女が座っていた。






チュッ・・・

「?」

「あなた・・・あなた・・・起きて!」

「(一体誰だ?・・・ここには僕とリンちゃんしか居ないはずなのに・・・)」

「早く!」

「(・・・それにこの声、どこかで聞いたことがあるような?)」

「・・・おしおきです!!」

「!!・・・さむっ!」

そう言ってカイトは布団を剥ぎ取られた・・・冷たい風がカイトを包み込んでいく。

「ホラッ・・・朝ですよ・・・」

「・・・う〜ん」

そう言って身を起こすとカイトはまだ眠たそうに目を擦った。それにしてもこの声は誰なんだろう・・・不思議と心が安らぐ、そんな感じがした。

「・・・!!」

重い瞼を薄っすら開けた・・・そして目の前の女性を見るとカイトは大きく目を見開き、信じられないように再度目を擦った。

「ル、ルリちゃん?」

カイトは我が目を疑った・・・目の前にいるのはカイトの知っているルリでは無かった、恐らくルリであろうその人は今のルリよりも数年経ったかのように大人になっている姿なのだ、背も伸び、髪型も変わり長い髪を一つに束ねている。

「ルリちゃん?・・・フフッ、あなたがそう呼んでくれるなんて結婚した頃を思いだしますね。」

「・・・・・・へっ?」

首を傾げるカイトに大人のルリは優しく微笑んだ。

「(何がどうなってるんだ?結婚?)」

状況を確認するように辺りを見回したカイトだったが、ますます頭はこんがらがっていた。そこは見知らぬ部屋、右手側にドアが左手側にベランダが見える、今日は晴天だ。いやそれよりも、目の前のルリ・・・何がどうなっているのかサッパリ分からなかった。

「どうしたんです?」

「いや・・・あの」

カイトが何かを言おうとした瞬間だった・・・

「ルリッ―――!赤ちゃんまた泣いてるよ〜!!」

「(この声は・・・もしかして・・・)」

扉が開かれたと思ったら、少女が部屋に入ってきた胸に赤ん坊を抱きながら・・・

「あらあら・・・リン、ちょっと貸して」

「(やっぱりリンなのか?)」

声はリンだった・・・しかしルリ同様そのリンは背が伸び、カイトの知っているリンよりも成長していた。

「うん、わかった」

「ほらほら・・・ママですよぉ〜♪」

赤ん坊を受け取ったルリは優しく微笑んだ、そして今まで泣き喚いていた赤ん坊は嘘のように泣き止んでいる・・・それを見たカイトも何故か心が安らぐ気がした。

「お兄ちゃん!!」

「・・・リンだよね?」

赤ん坊をルリに預けたリンはカイトの隣に腰を下ろした。

「何言ってるの?まだ夢の中ですかぁ〜〜?」

「あぁ、いやなんでもない・・・」

「変なの・・・じゃあ今日のご飯どっちが作る?一昨日はルリ、昨日は私が作ったんだから今日はお兄ちゃんね!!」

「・・・・・・あぁ、うん、分かったよ」

「?・・・ホントに変だよ・・・まだ夢見てるの?」

「・・・・・・。」

「へ〜んなの・・・まぁいいや、じゃあご飯お願いね♪」

そうカイトに声をかけるとリンは部屋から出て行った。

「あなた・・・ちょっとこの子見ててくれますか?布団干しちゃいますから・・・」

そう言って近づいてきたルリはカイトに赤ん坊を渡すと布団を持ってベランダに出て行った。

「ぱぁ〜ぱぁ〜・・・」

赤ん坊の小さな手がカイトの手をそっと握った・・・

「!!」

なんて暖かいのだろう・・・カイトは素直にそう感じた。

「だぁ〜〜」

「(暖かい・・・なんて幸せな暖かさなんだ・・・それが、この子の手から笑顔から伝わってくる・・・いや、この部屋全体にその暖かさが満ちてるんだ・・・)」

カイトはチラリッとベランダの方を見た・・・布団を干し終え部屋に戻ってくるルリと思わず目が合ってしまう。

「・・・・・・。」

なぜか頬が赤くなってしまうカイトだった。

「・・・・・・。」

そんなカイトに微笑むとソッとルリはカイトの隣に腰を下ろした。

「「・・・・・・。」」

心臓の音が隣にいるルリに聞こえるんじゃないかと思うほど、カイトは緊張していた。

「あなた・・・」

ルリはカイトによりかかった・・・ルリの温度すらカイトに伝わってくる、そんな感じがした。

「(幸せだ・・・この時がいつまでも続くといいのに・・・)」

カイトは感じていた・・・自分の求めるべきモノがココにある事を・・・







「・・・・・ちゃん!」

「お・・・ちゃんってば!!」

「お兄ちゃん!!」

「!!」

「やっと起きた・・・こんなところで寝てたらホントに風引いちゃうよ?」

その言葉に体を起こしたカイトは辺りを見回した・・・下は草原、上は青空、カイトの知るユーチャリスの展望室である。そうだ・・・カイトはハッと思い出したリンと夕食を取った後、考え事があると展望室に来たのだ。そしてどうやらその後眠ってしまったらしい・・・

「・・・・・・夢?」

「どうかした?」

「いや・・・なんでもない・・・」

「そう?じゃあ私オモイカネとすることあるから先行くね!」

「うん、わかった・・・」

まだ戸惑いを隠せないカイトはいまだ辺りを見回しながらそう答えた・・・そしてリンもカイトの言葉を聞いて展望室から出て行った。

「夢・・・そうか夢か・・・ハハッ」

カイトは自分をあざけ笑うように乾いた笑い声を出した。そして熱いモノがこみ上げてくる気がする・・・

うぅ・・・ルリちゃん、笑っちゃうだろ・・・僕の夢も君と同じなんだ・・・忘れたと思ったのにな・・・」

熱いモノは涙となってカイトの瞳から零れ落ちた・・・そしてそれを隠すようにカイトは手で顔を覆った。

「・・・・・・なんで、今ごろ思い出すんだよ。」






ルリは言った・・・



『私と一緒に・・・私の夢を見てくれませんか?』っと・・・



そしてカイトはかつて忘れた夢を思い出した・・・



夢・・・それはどんなモノよりも優先させたい思い・・・



カイトとルリの夢・・・



それは奇しくも同じ夢



しかし・・・



同じ夢がいい結果を招くとは決して限らない・・・



夢という思いは交錯し・・・



そして・・・物語は次の舞台に進もうとしていた・・・




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後書き

どうもこんにちは海苔です♪

う〜〜ん・・・なんか中途半端なところで終わった感じでスミマセン(^^;;)

最後にあったように次の舞台に進むので2章はここで終りなのです。どうでしょうか?楽しんでいただけたでしょうか?オリジナルは初めてなのでかなり駄目な所が多かったと思いますが、次の章からはオリジナルからも解放・・・筆も少しは早く進むかな?オリジナルを書いてる人が本当に凄いと思いました・・・

そんなこんなの2章でしたが・・・それではこの辺で海苔でした♪







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