機動戦艦ナデシコ

〜 Endless  Story  第二章  狂気という名の仮面 〜








何故・・・


何故ココにいるのだろう・・・


この場所に『お兄ちゃん』は居ないのに


ココは私の『居場所』じゃない・・・


私の場所は知っている


だって私の『心』が叫んでる・・・




『お兄ちゃん』・・・私の居場所・・・





一体・・・どこにいるの?





誰でもいい、誰か教えて・・・『お兄ちゃん』を・・・私の居場所を・・・








第二話 伝えたい思い




『前回の事件一応落ち着いたようだし、今回の関係者を集めてパーティーを開く事になったから君もどうだい?場所はサセボ・・・君にはナデシコ長屋って言えばわかるかな?まぁ〜堂々と・・・とは行かないだろうけど皆の顔を見に来ること位できるだろ?じゃ!まぁ一応伝えたからね!!』



『ちょっと、カイト君!全くなんで居ないのよ〜!!まぁいいわ、明日ナデシコ長屋があった場所で火星の後継者の件で祝勝会みたいのやるから、ちゃんと来なさいよ!あなたなら何処に居たって来れるでしょ?・・・じゃ、ちゃんと来なさいよ!!』


『以上でメッセージの再生を終わります』

「アカツキさんとエリナさんから似たような伝言が・・・ちゃんと仲良くやってるのかな〜?」

『どうしますか?』

IFSシートに腰を埋めて苦笑するカイトに『オモイカネ』が声を掛けた。ユーチャリスの現在位置は先ほど戦闘のあった木星宙域からかなり離れている場所で周りの安全が確認されている場所、ここでカイトは今後の行動に頭を巡らせていた。

「・・・う〜ん」

『ボソンジャンプの準備は出来ていますが?』

「(パーティーねぇ〜・・・どうしよ?)」

と考えていても頭の中では本当は決まっていたのかもしれない。しかしそれを認めたくない自分がいる事もまた確かだったのだ。

「・・・・・・。」

『・・・』

「・・・よし・・・行こう!」

『では・・・』

「あぁ・・・とりあえずネルガル月ドッグへジャンプ、そこから単独ボソンジャンプで地球に行くよ」

『火星はよろしいのですか?』

「うん、そんなに急ぐ用でもないし・・・実はアキトさんに伝えたい事もあるから!」

『了解』

「さぁ〜て・・・この選択は吉と出るか凶と出るか」

カイトはこの時考えもしなかったろう、たかが地球に降りるという行動が自分の・・・そして一人の少女の運命に多大な影響を与えるという事を・・・






「しかし、どうしたんですか会長?半年も経って祝勝会というのは・・・」

「いや、特に深い考えはないよ。今回の件でナデシコが活躍してくれた事で最近、世間の風当たりが少しは弱くなったからね〜♪」

そう言ってアカツキは笑みを見せる、その笑みは会長室で変な違和感を放っていた。

「・・・本当にそれだけですか?」

「あぁ、そうだよ・・・(それに『彼』のおかげで裏で色々と恩が売れたし)」

「・・・ハァ〜・・・(全くこの人も何を考えているのか)では会長は明日行くんですか?」

「いや、行かないよ!」

「・・・でしょうね。」

エリナはそう言って軽く微笑んだ。これでも長年アカツキと共に居るのだ、大抵の考えは把握している自信がエリナには有った。

「(・・・最初の鍵は上手く機能してくれたらしい・・・とりあえずは流石と言っておこう、さて二つ目の鍵はどうなるのかな?)」






「リン・・・行こ!」

そして日は経ち場所はサセボ、ここで新旧合わせたナデシコクルーがお祭り騒ぎに勤しんでいた。サセボ基地資材管理倉庫D、通称ナデシコ長屋は屋台は出るは、飲めや食えやでドンチャン騒ぎである。元々個性派揃いのクルー達、例え見知らぬ顔があろうとそんな事は今更問題外だった。

そしてそんなお祭りの中を歩く少女が二人・・・

「すっごい人・・・」

「ね。・・・アキト何処だろ・・・」

二人の名はリンとラピス・・・この二人、ラピスは雪のような白い肌に金色の瞳、リンは褐色の肌に赤い瞳とそのあまりにも正反対な容貌は否が応でも辺りの注目を集めていた。そしてその二人を少し距離を置いた所から眺める男が二人・・・

「オイ!ハーリー、声掛けて来いよ!」

「えっ!!・・・な、何て事言うんですか、サブロウタさん!!」

本人としては軽く流したつもりだったのかもしれないが、その顔は赤みを帯び明らかにハーリーの心情を物語っていた。

「あの二人・・・俺の長年の感から恐らくお前と同い年くらいだ!」

「そ、そんなの見れば直ぐに分かりますよ!!」

「ほぉ〜・・・分かるか。しかも俺の感からあの二人・・・一見まるで違うがズバリ二人ともお前のタイプにドンピシャだ!!

そう言ってサブロウタはハーリーの頭の位置まで屈むと肩に手を掛けニヤリッと微笑んだ。

ブッ!!・・・急に何を言い出すんですか!それに僕には艦長という心に決めた人が・・・

ここまで来ると完璧にハーリーはサブロウタの手の中で踊っていた。とうとう普段恥ずかしがって口にしないルリの事まで出す始末・・・

オイ!ハーリー、あの二人こっちに近づいてくるぞ・・・

確かにサブロウタの言葉通りリンとラピスは話しながらも二人との距離を縮めてきていた。

「エッ!」

「いいな・・・絶対声掛けろよ!になるんだぞ、ハーリー!!・・・じゃ!」

サブロウタはそう言い残し颯爽と人ゴミの中に姿を消した。しかもハーリーが最後に見たサブロウタの横顔は不思議と微笑んでいたように見える。

「(・・・何にせよ、同い年ぐらいの『友達』がいるのはいいことだ。頑張れよ!ハーリー・・・)」

とサブロウタが考えているなど想像していただろうか、とにかく今ハーリーは色々な意味で窮地に立たされていた。

「・・・・・・ど、どうしよ・・・」

サブロウタが行ってしまった瞬間、ハーリーの体はガチガチに固まってしまった。しかし、二人とハーリーの距離は急速に縮まっていく・・・そして・・・

「あの・・・アッ!!

この時声を上げたのは意外にもリンの方だった。残念ながらハーリーが勇気を振り絞って出した声もリンの一声に打ち消される。しかもリンの視線の先にはハーリーは居なかった、リンの視線はハーリーの顔の位置よりも上を向いている。

「ルリ・・・」

リンの声に固まっていたハーリーはその言葉に勢いよく後ろを振り返った。

「か、艦長・・・」

ハーリーの言葉通り確かにハーリーの後ろにはルリが少し不思議そうな顔をしながら立っていた。

「ハーリー君、それにリンちゃんにラピスちゃんも・・・どうしたの三人揃って?」

「・・・・・・。」

ルリの言葉を聞いたリンとラピスは、今初めて気がついたように二人はハーリーの顔を凝視した。二人の大きな瞳に思わずハーリーの顔が火を灯したように赤くなってしまう。

エッ!あの・・・その・・・」

「「誰?」」

その瞬間リンとラピスの声は合わせた様に重なってハーリーの心に突き刺さった。実はハーリー以前からこの二人を知っていたのだ。場所は違えど二人の顔は見たことがある、だから二人も名前とはいかないものの少しぐらいは知っていると思っていたのだ。しかし残念ながら二人の眼中にはハーリーの姿はなかったらしい・・・

「あっちゃ〜〜・・・残念だったなハーリー!駄目ッすよ艦長、少年の恋路を邪魔しちゃ・・・」

「サ、サブロウタさん!」

ハーリーの作戦?が失敗に終わった事を悟り、今まで一歩離れた位置から見守っていたサブロウタが姿を現した。額に手を当てながらも口元は少し笑っている。

「あっ・・・そういう事だったんですか、ごめんねハーリー君」

「な、何言ってるんですか艦長!!誤解・・・そう、誤解です全部サブロウタさんが・・・」

「おいおい、見苦しいぞハーリー・・・素直に言えよ、『友達になりたかった』ってさ!」

サブロウタはそう言うと意味深なウインクをルリに送った。

「だって・・・ラピスちゃん、リンちゃん・・・どう?」

「オイ!自己紹介ぐらいしろよ、ハーリー!!」

おもむろにハーリーの後ろに回りこんだサブロウタは膝でハーリーの行動を促すように小突いた。

「!!・・・あの、マキビ・ハリです。ヨロシクお願いします」

深々と頭を下げたハーリーは怯える小動物のような仕草で二人の様子を伺いながら頭を上げた。その目には明らかに動揺と不安が見え隠れしている。

「・・・リンです、宜しく」

「ラピス・・・ヨロシク、ハーリー」

その言葉を聞いた瞬間、ハーリーの顔が輝いた。先ほどまでオドオドしていた少年とは思えないほどその顔は希望に満ちている。

「(・・・よかったな、ハーリー・・・)」

最終的にはサブロウタの手腕が一歩上手だった・・・ということだろう。しかし幸か不幸かハーリーにも出会いが訪れた・・・






「(姉さん・・・)」

騒ぎから一歩離れたところに有るベンチにアヤは一人、浮かぬ顔で座っていた。普段の明るさはどこへやら、その時のアヤは普段からは想像も出来ないほど落ち込んでいるように感じられる。

「どうした、アヤ?」

「!!・・・リョーコさん」

そんなアヤに気が付いたリョーコは手にたこ焼きを携え、アヤの横に腰を下ろした。伊達にリョーコが統合軍に入った時からの仲ではない、直ぐにアヤの異変に気がつくがそれを表に出すような事はしなかった。

「なんかあったらしいな・・・その様子だと・・・」

「・・・・・・。」

「言いたくないか?」

普段からは想像できないほど、この時のリョーコは落ち着いていた。唇に付いた青海苔が浮いて見えるほどに・・・

「・・・お言葉に甘えて、少しいいですか?」

「あぁ・・・」

リョーコの言葉にアヤは一瞬涙ぐむとゆっくり語り始めた。

「実は姉さんが亡くなったんです・・・」

「・・・・・・。」

「ネルガルで働いてたんですけど、半年前・・・事故で・・・」

「!!・・・半年前って言ったら『火星の後継者』の事件の時じゃねぇか!」

「はい・・・詳しくは私もわかりません、ただネルガルからは事故で死んだって」

「・・・・・・おまえ何かあると思ってるのか?」

「はい・・・そんな事考えていたら何か・・・」

「・・・で、どんな人だったんだ?」

「私とは比べ物にならないほど出来た姉で、憧れでした・・・誰からも好かれて・・・機械いじっては笑ってましたよ!」

顔を上げたアヤは今にも崩れてしまいそうな乾いた笑みをリョーコに向けた。そしてその顔を見るだけでリョーコは知るのだ、アヤにとって『姉』の存在がどれほど大きいのか・・・

「ネルガルでは何を?」

「確か整備班に居たと思います。それ以上は教えてくれませんでした・・・でも私よりエステの腕、良かったんですよ!」

「そりゃ、凄いな・・・」

リョーコはお世辞でもなんでもなく感嘆の声を漏らした。何故ならリョーコはアヤの実力を高く評価していた、先の戦いで夜天光に敗れはしたものの六連との戦いでは初めて乗る機体で互角に戦う力を持っている、そのアヤよりも腕がいいというのだ、リョーコが感心するのも当たり前の気がする。

「最初は軍のパイロットだったんですけど、私もパイロットになるって言ったら・・・あっさり辞めちゃいました。」

「またなんで?」

「私も聞いたんですよ・・・気になって・・・そしたら何て言ったと思います?」

「さっぱりわからん!」

「フフッ・・・今でも思い出せますよ、あの夜は・・・」





「姉さん!!何で突然そんな事言い出すのよ?」

「んっ?・・・アヤか!・・・何でって聞かれてもなぁ・・・」

「折角、姉さんと一緒に仕事が出来ると思ったのに・・・」

「・・・そりぁ悪かった。でもどうも俺には機械いじりのほうが合ってるらしいんだよ!」

「・・・・・・。」

「それでな、ふと思ったんだ・・・俺の整備したエステにお前が乗ったら最高だろうなってさ!!」

「姉さん・・・」

「その時が来たら乗ってくれるか?アヤ・・・」

「ど、どうしてもって言うなら・・・」

「ハハッ・・・俺の妹は随分と生意気になってくれちゃって〜、せいぜいエステの腕上げとけよ!俺に勝てるぐらいには・・・」

「い、今でも充分勝ってるわよ!」

「ククッ・・・そうだな、おまえは自慢の妹さ、アヤ・・・」






「・・・そっか・・・カッコイイ人だな。」

「自慢の姉ですから・・・でも不思議ですね、生きていた時は何も思わなかったんですけど、居なくなったら急に・・・駄目ですよね、いつまでも気にしてちゃ!」

「いいや・・・そんな事無いさ・・・ただ、今のお前の心が少し弱かっただけ・・・だから・・・生きろ!!」

「!!・・・リョーコさん?」

「昔なアイツが言ったんだ・・・『強くなるためには生きる事が大前提だ!心も・・・体も・・・』ってな、あの時はあまりに真顔で言うからついつい笑っちゃったけどさ、もしかしたらアイツはこういう事が言いたかったのかもしれないな。」

「生きる・・・ですか?」

リョーコは勢いよく立ち上がるとアヤの方へ向き直った。

「アヤ・・・人の死は忘れるものじゃない、受け止めるもんさ・・・だから強くなれ!心も・・・体も・・・そしてそのために、生きろ!」

「・・・・・・はい!」

リョーコの言葉にアヤは思わず涙した・・・確かにアヤはリョーコのことを尊敬し、憧れている。しかし今回の事でアヤは今まで気がつかなかったリョーコの人の深さを知った気がしたのだ・・・

「アヤ・・・」

「なんですか?」

泣いているアヤにリョーコは優しく声をかけた。

「たこ焼き食うか?」

「プッ・・・はい、頂きます。」

涙を拭うとアヤは爪楊枝を手に取った。

「どうせタダだし、ゆっくり食えや!」

「・・・ハハッ・・・(ユウキ姉さん・・・私まだ大丈夫そうです)」






「ア〜キ〜ト〜♪」

「どうしたユリカ?」

「別に〜な・ん・か♪」

ユリカはアキトの腕を抱きしめながら笑顔で歩いていた。そんなアキトもつられるように歩いている。

「ふぅ〜・・・ところで何処に行ったんだ、あの二人は?」

「こんなに人が多いとね!でも大丈夫・・・」

「?・・・どうして?」

「だってあの二人可愛いじゃない!!きっと人だかりが出来ているところにいるわよ!」

「そ、そんなもんか?」

「そんなもん、そんなもん」

ユリカは終始笑顔を絶やさずグイグイとリードして人ごみを掻き分けながらも道を進んでいた。

「アッ!!アレ!そうじゃない?」

確かにユリカの指差した方向には確かに人だかりがある。だがそれだけでココまで断言してしまうのはユリカらしい・・・

「とりあえず行ってみるか!」

「うん♪」

そして二人は人だかりの中に入っていった。






そして人ごみの中では・・・

「「「「おぉ〜〜!!」」」」

「「・・・・・・。」」

二人の少女が息をも吐かせぬ、熾烈な攻防を競い合っていた。

「あの景品は渡さない・・・」

「こっちだって・・・」

さてこの二人・・・なにで競い合っているのか、至って単純『射的』である。そしてこの二人先ほどから同じ景品を狙い四苦八苦・・・不思議とそんなこんなで人が集まっていた。

「オイ、ハーリー・・・おまえもやったらどうだ?」

リンとラピスを後ろから見ていたサブロウタは小声でハーリーに呟いた。シラッとそう言うサブロウタだったがハーリーの目には確かにサブロウタの背と尻の部分から悪魔の羽と尻尾が生えているように見えた・・・

「えっ!!」

「だ・か・ら♪おまえが景品を取ってプレゼントすればおまえの株は・・・な?」

目を凝らして見るとサブロウタの頭から悪魔の角までも・・・

「(もし僕が景品を落としたら・・・)」

ここで何を想像したか知らないが、ハーリーはまるでサブロウタのような笑みを浮かべた。

「・・・・・・わ、わかりました、やれるかどうか分かりませんがやってみます。スミマセン!弾ください!!」

一瞬考えたハーリーが二人の横に並んだ瞬間、凍てつくような視線が刺さった・・・もちろん『あの二人』である。

「「・・・・・・。」」

ハーリーを一瞥した二人は再度射的を始めた。その後ろではルリが楽しそうに眺めている。

「(もしかして僕は・・・やってはいけないことをやろうとしているのでは・・・)」

「ハーリー・・・出来るだけ近づいて、角を狙え!いいな角だぞ!!回転させて落とすんだ!」

その言葉にハーリーは頷くとゆっくりと弾を込め構えた・・・実はハーリーの射撃能力は零に等しい・・・しかしこの時のハーリーは一味も二味も違っていた。

「(集中・・・集中・・・集中!!)」

パンッ!!

ハーリーが引き金を引くと射的用のコルクの弾は見事・・・景品の角を・・・かすめて・・・外れた。

「(も、もう一度・・・)」

再度ハーリーは弾を込め引き金を引いた・・・

パンッ!!

しかしそこはハーリー、放った弾は見事・・・外れ・・・しかも跳ね返り、リンの額に直撃した。

「イタッ!!」

リンの冷たい眼差しがまたもやハーリーを貫いた・・・

「(やっぱり止めたほうがいいのかも・・・)」

そんなリンにハーリーは苦笑いを返すだけ・・・事態は深刻になっていた。

「ハーリー、ここまで来たらもう後には引けないぞ・・・いいか、全神経を集中しろ!!」

さらに悪魔の囁きがハーリーの耳に木霊した。

「(・・・・・・!!・・・ココだ!!!)」

パンッ!!

ハーリーは引き金を引いた・・・そして・・・

「お、落ちた・・・」

それは偶然、それとも必然か、とにかくハーリーは遂にやったのだ。

「「・・・・・・。」」

グサグサと刺さるリンとラピスの視線・・・ハーリーは居づらそうに二人に近づいていった。

「あの・・・コレ、よかったら・・・」

「「いい!!」」

その瞬間ハーリーはその場に崩れ落ちた。そして一人の男がハーリーの後ろに近づく

「ハーリー、どんまい!」

「サブロウタさん!!・・・うぅ・・・」

この時、ハーリーの中のサブロウタの株が下がった瞬間でもあった。

「いたいた!ほらアキト!やっぱり居たでしょ?」

「まさか本当にいるとは・・・」

「アキト・・・」

二人の存在にいち早く気づいたラピスはもうアキトの横に並んでいた。

「ふぅ〜全く何処行ってたんだ?」

「まぁ〜いいじゃないアキト!今度は皆で行こうね!ほらっルリちゃんも!!」

その言葉通りユリカはリンとラピスの手を掴むと歩き出した。

「全く・・・じゃ、とりあえず行こうか?」

アキトはルリに声を掛けるとユリカの後をついていく、そしてそれにつられるようにルリやハーリー、サブロウタも歩き始めた。






「・・・・・・。」

場所はサセボから少し離れた野原・・・ここに一人の男が光を纏いながらも現れた。辺りはもう暗く、そのボソンの光は幻想的に輝いている。

「(・・・さぁ〜て、ルリちゃんにリンちゃん・・・元気かなぁ〜)」

男は白いコートに身を包みながらも口元には笑みがこぼれている。そして男は辺りを軽く見回すと歩き出した。






「テンカワ・アキト・・・さん、でよろしいですか?」

「えぇ・・・そうですけど何か?」

倉庫内を歩いていた一行に、一人の女性が突然声を掛けてきた。少なくともアキトの知る顔ではない、アキトは首を傾げた。

「・・・あなたに届け物です!」

その女性はホッと胸を撫で下ろすと一枚の紙切れをアキトに手渡した。

「あ、ありがとう。」

「お嬢さん・・・これから俺とお茶でもしません?」

ここで割って入ったのはサブロウタだった。しかし、その女性は動じる事はない、サブロウタにニッコリと微笑み返した。

「それでは、私は失礼します・・・」

アキトが手に取ったのを確認した女性は一度ルリやリン、みんなの顔を凝視すると再度ニッコリ微笑み、人ごみの中に消えていった。そしてそれを見たアキトは手に持つ紙切れに目を通すが何故かその紙を握りつぶしたのだ。

「なんて書いてあったんですか?」

「・・・・・・別に大した事じゃないよ!・・・ちょっと皆、悪いけど行くところが出来たから、ちょっと行ってくるね」

早口でそう言い残すと返事を待つ前にアキトは人ごみの中に消えていった。あまりにも速い展開に他の一同は呆然としている、唯一人を除いて・・・

「・・・ちょ、ちょっとアキト〜!!ってもう、いきなり何処行っちゃたのよ?」

どれぐらい早いかと言うと思わずユリカが愚痴るほどアキトの姿が消えるのは早かった。

「・・・・・・」

「どうかした、リンちゃん?」

「・・・・・・」

「・・・?」

何も答えないリンを不思議がってルリはリンの顔を覗き込んだ。

「リンちゃん?」

「感じた・・・」

「えっ!」

「この感じ・・・わかる・・・」

「・・・何がわかるの?」

「!!」

突然リンは辺りを見回すと、誰に何を言う訳でもなく走り出した。

「リンちゃん!!」

ルリの言葉も耳には入っていない。リンは振り返りもせず、人ごみの中に姿を消した。

「ちょ、ちょっとリンちゃんもどこ行くの〜!!」

「・・・ユリカさん、ちょっと行ってリンちゃん探してきます。」

ルリもまたそう言い残すとリンの後を追って走って行った。

「・・・ハハッ・・・どうしよっかラピスちゃん?」

「・・・アキト探そ!」

ラピスはユリカの手を取ると、アキトの歩いていった方向へ消えていった。

「なんか皆さん居なくなっちゃいましたね。」

「そうだな・・・どうするよ?ハーリー」

「ここに居るのもなんですしね!」

「よし!!俺達は健全なナンパでもしに行くか?先ほど振られた心を癒すために・・・さっきの人、綺麗だったなぁ〜・・・無念!!ってことで・・・」

サブロウタは不気味に爽やかな笑顔をハーリーに向けた。

「エッ・・・ぼ、僕は行きませんよ!!ナ、ナンパだなんて不謹慎な!」

「オイオイ!つれないなぁ〜、何事も経験だよハーリー君!!」

「へっ・・・」

サブロウタはハーリーの首根っこを猫でも捕まえるように持つとその場から消えていった・・・






「・・・確かココであってるよな・・・カイト?」

そこは祭りの開かれているサセボ基地資材管理倉庫Dから外に少し行った所にアキトは居た・・・しかし少なくともアキトの周りには誰も居ない、気配すら感じない・・・しかしアキトはその場で声を上げた。

「えぇ・・・合ってますよアキトさん。」

一体何処から現れたのか、と思うほどカイトは辺りの暗闇から突然姿を現した。

「元気そうだな・・・」

「もちろん!それだけが取り柄ですから!!で、アキトさんの方はどうですか?」

「順調さ、と言っても6割程度だけどな!」

「それはよかった!実は結構心配だったんですよね〜・・・最低3割は回復するとかいった手前・・・」

カイトは笑みを浮かべながらも頭を掻いた。

「で、そんな事を聞くために来た・・・ってわけじゃないんだろ?」

「そうだったらいいんですが、そういうわけにも行かなくて・・・」

「やっぱりな・・・で?」

「最近の火星の後継者の動向をご存知ですか?」

「ニュースでやっている程度なら・・・」

「・・・そうですか、では一応説明しておいた方がよさそうですね!」

「あぁ、そうしてくれると助かるよ。」

「僕が宇宙を回って火星の後継者の残党狩りを知っているのはご存知でしょう?」

「そしてその勢力が既に虫の息だと言うのも知ってるが・・・」

その言葉にカイトの顔が険しくなった。

「それは間違いです。」

「どういうことだ?」

「表面的な勢力は既に無いも同然ですが、半年前の火星の後継者の約4割の存在が宇宙から忽然と姿を消しています・・・」

「それが本当だったら、相当な事が起こせるな・・・」

「はい、残念ながら・・・それに火星の後継者の背後に大きな『何か』が存在している。」

「そんな事できるのは今の所・・・ネルガルと・・・」

「えぇ・・・恐らくそのもう一つでしょう。ヒサゴプランの時から怪しい動きがありましたし」

「また・・・戦争が起きるのか・・・」

「・・・・・・気をつけてください、今度の戦い・・・何かを感じます。」

「何か?」

「えぇ・・・僕の『兄弟』がなんかしそうなんですよ・・・」

その場には不似合いな苦笑いをカイトは浮かべた。思わずアキトもそのカイトの笑みに一瞬戸惑う、それほどその時のカイトの表情からは違和感を感じたのだ。

「・・・・・・。」

「アキトさん・・・『赤い瞳を持つ男』には近寄ってはいけませんよ・・・いい事なんて一つもありませんから♪」






『アカキヒトミ』の男に気をつけろ・・・必ず人に仇をな・・・






「(北辰・・・お前の言いたかった事はカイトの『兄弟』の事か・・・それとも・・・)」

「どうかしたんですか?」

「いや・・・なんでもない・・・」

「じゃ、僕はこの辺で失礼しますね・・・用は済みましたから・・・」

一連の説明を終えたカイトは颯爽と身を翻した。

「待て!!」

「!!・・・何です?」

「ルリちゃんやリンちゃんに会ったのか?」

「えぇ・・・だってその時アキトさんも居たでしょ?」

「???」

「・・・あなたにメモを渡したのは誰ですか?」

「知らない女の人だが・・・」

「ほらっ!会ってるじゃないですか?」

「もしかして・・・」

「そのもしかしてです♪・・・昔取った杵柄みたいなものですよ。」

カイトはまるでイタズラが成功した子供のような笑みをアキトに向けた。

「・・・だったら分かるだろう、あの二人・・・明らかに無理してるぞ、皆は気がついていないがな。」

「・・・・・・。」

「戻れ、カイト!!」

「無理です・・・」

「・・・逃げるのか?」

「・・・・・・逃げてなんかいません。」

「いいや、おまえは逃げている!怖いんだろ、自分の『存在』が・・・そしてそれを受け入れてくれるのか・・・『復讐』に身を焦がすのは簡単だ、俺がかつてそうしたように・・・」

「・・・・・・。」

「何も言い返せないのか?」

「・・・違う・・・あなたは何も分かっていない!!・・・いえ・・・あなたには分からない・・・守れる力を持つあなたには・・・」

アキトはこの時初めてカイトの声に感情がこもった気がした。今までのカイトは何故か自分の心を覆い尽くしている感じがしていたのだ、しかしこの時のカイトは感情を剥き出しにしていたように感じた。

「・・・・・・。」

「スミマセン、大声出しちゃって・・・」

「・・・確かにお前の言う通り分からないかもな・・・」

「・・・・・・。」

「でもなカイト、お前の『苦悩』を分かち合う事は出来るんじゃないか?それが『家族』だろ・・・」

「!!」

カイトの目が大きく見開かれた・・・そしてジワリッと涙が溢れてくる。そしてそれに気がついたカイトは恥ずかしそうにアキトに背を向けた。

「・・・この先は、お前のもっとも大切な『家族』がおまえに教えてくれるさ・・・」

「・・・ありがとう、アキトさん・・・しかし注意してください、全てを手に入れようと両手を広げたら全て落ちてしまうかもしれませんよ、手に入れたいモノ・・・守りたいモノは一つに決めておくべきです・・・何時か来てしまうかも知れないそんな日のために・・・」

その言葉を捨て台詞のように言うと、カイトはボソンジャンプを試みるためにCCを取り出した。しかしまだカイトは気がついていなかった、アキトの横を駆け抜けていく小さな一つの影を・・・

「お兄ちゃん!!」

カイトが光に包まれた瞬間だった、一つの影がカイトの体に体当たりしてきたのだ。

「リ、リンちゃん!!どうしてココに・・・駄目だ!離れないとボソンジャンプに・・・」

カイトは急いで引き離そうとするが簡単にはいかない、リンはその細い腕で大人顔負けの力を発揮したのだ。カイトもリンを乱暴に扱う訳にはいかず手を拱いている。

「リンちゃん!戻るんだ!!」

アキトの叫びも虚しく二人を包む光は強くなっていた・・・そして・・・

「・・・ヤバイ!もう時間が・・・」

カイトのその言葉を最後にアキトの目の前から二人は消えた・・・ただ其処にボソンの光を残して・・・

「ハァ・・・ハァ・・・あっ!アキトさん、リンちゃんコッチに来ませんでしたか?」

「行ったよ・・・」

「エッ?」

「・・・自分の『居場所』にね・・・」






「・・・イテッ!」

そこはユーチャリスのブリッジ・・・ボソンアウトと同時にカイトは尻餅をついた。そして腹部に感じる確かな重み・・・

「スゥー・・・スゥー・・・」

カイトのお腹の上で静かな寝息を立てながらリンが安らかな眠りについていた。

「フゥ〜・・・『家族』か・・・」

カイトは微かに微笑むと優しくリンの髪を撫でた。

「う〜ん・・・お兄ちゃん・・・」

カイトの上でリンも笑っていた・・・眠りながらもシッカリと掴んだカイトの服をもう二度と離さない事を夢見ながら・・・

この時、リンの髪を撫でながらもカイトは昔『ある人』から聞いた言葉を思い出していた。





「いい?ミカヅチ、クサナギ、それにレイ・・・今日は少し為になる話をしてあげる!!」

そう語るカイトの思い出の人はいつも笑っていた。




昔、ある女の人が旅をしていました・・・

その女性は誰にも対しても優しく、その事を誇りにも思っていた・・・そんなある日、その人は一人の子供に会うの!

その子は人生に絶望し・・・周りには誰もいなかった・・・その子は言ったわ・・・

『僕は何故孤独なんだ・・・』

その女の人はその言葉に優しく笑った、そしてその笑顔を見た少年はまた口を開いたの・・・

『何故笑うの・・・』

その言葉に優しい笑みで女の人が言い放った

『あなたは孤独じゃないからよ!』

『エッ・・・』

『こんな言葉を知ってる?己を孤独と語る者は真の孤独を知らぬものだ、何故なら孤独を語るものの前にはそれを聞いてくれる人がいるのだから』

『・・・・・・。』

『あなたの前には私がいる、だからあなたは決して孤独なんかじゃない!』




「うぅ〜〜いい話・・・自分で言っといて泣いちゃいそうだわ。」

「「「・・・・・・。」」」

「な、なによ!その目は?」

「結局どこが為になる話だったんだ?」

カイトは今でもその時の、その人が浮かべた笑みが心に刻まれている・・・あまりにも無邪気で純粋で、何より信頼できるモノのようにカイト・・・いや、ミカヅチの目に映った。

「要するに皆、私の可愛い子供達ってことよ♪・・・絶対孤独になんかさせない、私はいつでもあなた達の前にいるわ・・・私の可愛い子供達・・・







一方その頃、ナデシコ長屋・・・

「アキト〜どこ〜〜?」

「あっちだって・・・」

「そんな事無いわよ・・・きっとコッチよラピスちゃん!!」

「だから〜・・・」

「とりあえず・・・行きましょ♪・・・アキト〜どこ〜〜!!」

まだまだ・・・夜は長かった・・・



つづく



後書き

どうも海苔です♪

どうでしたか?久しぶりに明るいネタだったような・・・(^^;;)

とりあえずこの話は色々あったなぁ〜と言う事で・・・

次話からまた暗そうな話になりますが、もう少しお付き合いくださいね(^^)

それではこの辺で・・・海苔でした♪





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