機動戦艦ナデシコ

〜 Endless  Story  第二章  狂気という名の仮面 〜








生きる意味・・・


もし僕が生きる意味を問われたら・・・


答えはいつも一つしかない・・・


『復讐』・・・確かにそうだ・・・しかし・・・


僕はこう答えよう・・・




死ぬため・・・と・・・




『復讐』・・・本当はどうでもいいんだ・・・


あくまで自分を納得させる理由・・・




ただ・・・今、死ぬ訳には行かない・・・





なぜなら『あの日』の『友』との『誓い』が・・・


僕の足を止める事を許さないのだから・・・








第一話 誓い




「敵の包囲網・・・さらに狭く!!」

木星宙域で統合軍のリアトリス級戦艦『フリーシア』は圧倒的劣勢な立場に立たされていた。

「クソッ!!・・・まさか、これほどの勢力が残されているとは・・・味方は?」

「全滅です・・・」

「・・・もはや、これまでか・・・」

現在の状況にフリーシアの艦長は思わず肩を落とした・・・しかしそれも当たり前のことなのだ・・・

『火星の後継者の残存兵力の殲滅、もしくは捕獲』

これが彼らに下された命令だった・・・当初、木星宙域に確認されていた火星の後継者の兵力はリアトリス級戦艦2隻、駆逐艦1隻、木連型駆逐艦2隻、これが彼らに与えられた全ての情報だった。

しかし現実は彼らに重くのしかかる。情報にあった戦力に加え、リアトリス級戦艦3隻、ゆめみづき2隻、四連筒付戦艦1隻とかなり違っていたのだ・・・それに対して統合軍戦力はリアトリス級戦艦6隻、駆逐艦4隻と戦力としては十分だったはずが情報外の敵戦力に開戦まもなく旗艦『フリーシア』のみを残し全滅・・・

そしてそのフリーシアももはや時間の問題だった・・・

「エステバリス部隊全滅!!」

「・・・・・・。」

艦長の耳に悲報が続々と入ってきた、すでに現状を打破する方法などこの艦長は思いつきもしない、決してこの艦長が悪いというわけでもクルー達がミスをしたということではない、全ては統合軍本部の情報ミス・・・しかしそんな中に可笑しな報告がブリッジに響いた

「敵側面にグラビティ反応!!グラビティブラストです!!!」

「何ィ!?」

その言葉を一瞬疑った艦長であったが、その言葉通り目の前では突然の黒い閃光に何隻かの艦が爆発と共に沈んでいった・・・

「これは一体・・・?」

この光景にはフリーシアの艦長も腰を抜かした。先ほどまで絶望的だった状況に変化が現れたのだ。

「前方50キロ!!戦艦クラスボソンアウトしてきます!!」

「!!」

ここまで来たら認めるしかなかった・・・現実を・・・

そして一同が見つめる中、当時『謎の戦艦、幽霊ロボット』と名を馳せていたユーチャリスが姿を現したのだ・・・

「・・・白い悪夢・・・」

その光景を見つめていた女性オペレーターの一人が呟いた、誰に言う訳でもない思わず口からこぼれたような言葉・・・しかし静まり返るブリッジでは全員の耳にその言葉は届いていたのだ。

「白い悪夢?」

「・・・知りませんか?その圧倒的強さで火星の後継者の残党と戦っている一隻の戦艦と機動兵器、ニュースでは詳しい事を言っていませんが・・・その姿を見た宇宙軍や統合軍の一部の人がつけた名前・・・まさかこの目で見れるなんて・・・」

「・・・一体何を考えているんだ、その『白い悪夢』とやらは?」

「分かりません・・・しかしみんな尊敬と畏怖の念を込めてこう呼ぶんです・・・」

「・・・?」

「『白い悪夢』確かにそう呼ぶ人もいます・・・でもこう呼ぶ人もいるんですよ『白銀の天使』と・・・」






「ユーチャリス・・・統合軍と火星の後継者の旗艦に音声のみで通信してくれないかい?」

『了解しました』

カイトはブリッジにあるIFSシートに腰掛けながら、慣れた口調でいつもの作業を進めていた、実際『火星の後継者の事件』から半年、カイトはこの言葉を何十回と言っていた・・・そしてそんなカイトの前に二つのウィンドウが開く

『SOUND ONLY』

ウィンドウにそう書かれているがカイトは気にする様子はない、正確には気にする必要が無いと言ったところだろうか

「はじめまして皆さん・・・」

カイトは静かに言い放った・・・その声は落ち着き、聞く者を説得する不思議な力が感じられる。

「何者だ貴様!!」

「所属と名前を言ってもらおうか!!」

二つのウィンドウから様々な声が聞こえてきた、その声は怒気に満ちている・・・当たり前と言えば当たり前、統合軍にとってカイトは捕まえたい標的、一方火星の後継者の残党達にとってもカイトは倒すべき敵なのだ、しかしカイトも動じる様子は無い。

「二人共・・・落ち着いてください。・・・それと火星の後継者の方々、早速で悪いですが素直に投降してくれませんか?」

「断る!我らこそクサカベ閣下のご意志を成し遂げるのだ!!」

「どうしても駄目ですか?」

「くどい!!」

「・・・そう・・・ですか・・・分かりました。しかし僕は甘くないですよ?」

「舐めたことを・・・たかが一隻で何が出来る!?」

「・・・では・・・やりましょうか?」

その声に恐らく火星の後継者側の艦長は恐怖した・・・最初とは打って変わりカイトの声は底が知れぬほど冷たかった、しかしその奥には悲しみが見える・・・もっともそんな事、敵艦艦長は気がついていないだろう・・・いや、正確には誰も気づかないのだ・・・そう『ルリ』さえも・・・

「クッ・・・」

今まで威勢が良かった火星の後継者の艦長もカイトの雰囲気に口を噤むと、苦し紛れにウィンドウを閉じた、本当は閉じる事しか出来なかったの知れないが・・・

「さて、統合軍の人達・・・そう言うことですので、さっさと逃げちゃってください♪」

「ば、馬鹿にしているのか?」

「いいえ・・・しかし沈みたくなければ逃げる事です・・・」

「しかし我々にも任務というものがある!!」

「(任務か・・・)・・・ならば選びなさい、達成できない任務か・・・クルーの命かを・・・」

そして静寂が二人を襲った、しかしその静寂も長くは続かない・・・フリーシアの艦長は微かに震えながらもその重たい口を開いた。

「・・・わかった・・・貴公の心遣いに感謝する・・・」

統合軍側のウィンドウもその言葉と同時に閉じられた・・・そしてカイトも大きく息を吐くと首を回し、口を開いたのだ。

「ユーチャリス・・・ハッチオープン、あといつも通りで・・・」

『はい。バッタ展開後、アンスリウムを援護します。』

「いつも言う事だけど回避を重視で・・・帰る所がなくなるのは辛いからさ・・・」

『了解しています。それでは・・・いってらっしゃい♪』

「あぁ・・・行って来るよ。」

そう言ってカイトはブリッジから飛び出していった。






「あれが『白い悪夢』・・・声を聞くだけだと予想以上に若いな・・・」

「・・・ハァ〜、カッコイイ・・・・・・あ゛っ!!」

静まり返ったブリッジでその声は変に響いている、そしてそれに気づき女性オペレーターは赤くなりながらも俯いた。

「これよりこの艦は戦闘宙域より離脱する!!オペレーター!離脱コースを算出!!急げよ!」

「了解!」

そうして統合軍の戦艦はこの宙域より離脱していった・・・

「(『悪夢』と『天使』・・・誰が名付けたか知らないが、上手い事を言ったものだ・・・あの男は普通ではない!)」






「敵戦力の正確なデータを・・・」

『リアトリス級戦艦2、木連型駆逐艦1、ゆめみづき1、四連筒付戦艦1、さらに機動兵器多数・・・以上です。』

「ありがとう・・・」

そう言うカイトの頭の中では様々な戦略が巡っていた・・・そして・・・

「グラビティカノン、セット・・・」

カイトは今度こそ本当に完成したグラビティカノンを構えると単身敵陣に突っ込んでいった・・・

「(頼むから、あの時みたいに壊れないでくれよ!)」

カイトは思わず苦笑した・・・






「お体の方はもう大丈夫なんですか?」

そこはネルガルの特別病棟・・・そこにアキトやユリカは入院していた。アキトは失われた五感の回復・・・そしてユリカは遺跡融合との時に低下した筋力の回復を目的としていた。

そしてココはアキトの病室・・・いつもはユリカが押しかけているのだが、その日は不思議とその部屋にユリカの姿は見られなかった。

「大丈夫・・・とは行かないけど、昔に比べたらだいぶ良くなったよ!」

ベッドに腰掛けながらもアキトはそう言って、ベッドの横に置かれた椅子に座っているルリに笑顔を向けた・・・その顔は少しぎこちない、しかしそれは確かにルリの知っているアキトの笑顔だった。

「そんな事よりもルリちゃん、こんな所にいてもいいの?まだ忙しいんじゃ・・・」

「あぁ、はい・・・でもこれからまた宇宙に上がっちゃうのでその前に来ようと思って・・・」

「・・・カイトの事でかい?」

「・・・はい・・・統合軍が必死に追っているそうなのですが、捕まる様子も無いですし・・・」

ルリにはこの時新たな任務が下っていた、火星の後継者の事件から半年・・・統合軍、マスコミ、様々な人々がカイトの行方を追っていた。しかし当たり前のことながら捕まるはずも無く、今まで人員不足で小規模の戦艦しか送っていなかった宇宙軍も新たにナデシコを宇宙に上げることになったのだ・・・

「それでナデシコ・・・ハハッ、まさにうってつけだ」

「はい・・・でもその前に今回の事件でネルガルが祝勝会を開くとか・・・」

「そういえば・・・そんな手紙が来ていたような・・・」

「出席しますよね?」

その時のアキトの表情にルリも優しい笑顔で返した・・・しかしアキトはこの時不思議な違和感を感じたのだ。

「んっ!あぁ・・・ラピスとリンちゃんを連れて行くつもりだけど」

そしてアキトは何故か、何かを考えるように俯いた。

「・・・?」

「(ルリちゃんもそんな表情をするようになったんだね・・・それが大人になったということなのか、それとも悲しみをただ隠したいだけなのか・・・)」

「アキトさん?」

そんなアキトの様子にルリは心配そうに声を掛けた。

「あ、あぁ・・・ごめんよ・・・ちょっと考え事をしていてね。」

「考え事・・・ですか?」

「うん・・・少し見ない間にルリちゃんも随分大人になったなっと思ってね!」

その言葉を聞いた瞬間、ルリの瞳が大きく見開かれた・・・

「!!・・・そ、そうですか?」

「見違えるほどさ・・・色々あったんだね・・・」

そういうアキトの表情にはかつての優しさに溢れていた。この時の『色々』と言う言葉にはルリが人には語らないカイトの思いを言っているのだろう・・・それはその場にいるルリが一番分かっていた。

「・・・はい・・・」

「・・・そのことを無理に言え・・・なんか言えないよ。でもねルリちゃん、辛い事があったら相談してね!!ユリカでもいいからさ・・・だって・・・俺達は『家族』なんだから・・・」

そう言ってアキトはまたルリに笑顔を向けた、最初の時のようなぎこちない笑みではない、ルリが好きだった微笑み・・・しかしそれは当たり前、何故ならその言葉はアキトの心から出た本心なのだから・・・




最初はちょっとギクシャクするかもしれないけど大丈夫さ!

だってみんなは『家族』なんだから・・・





「・・・!!」

その言葉を聞いたルリはカイトの手紙の一文を思い出すと共に、その瞳から大粒の涙が流れ落ちた・・・

「・・・・・・」

「お互い苦労しそうだね・・・頑固者を家族に持つと・・・」

俯くルリを慰める訳でもなくアキトは優しく言い放った。

「・・・・・・はい・・・」

「・・・ところでルリちゃんもうこんな時間だけどいいの?」

「えっ・・・・・・!!」

アキトが指差した時計の時刻を見たルリは、少し慌てた様子で涙を拭うと席を立った。

「す、すみません・・・なんか慌しくなっちゃって・・・」

「いいんだよ・・・それよりも・・・」

「はい!!じゃあ私はこれで・・・」

「あぁ・・・」

その言葉を聞いてルリは病室のドアに手をかけた・・・

「・・・ルリちゃん!!」

外に出ようとするルリをアキトの一言が呼び止めた。

「?・・・なんですか?」

「伝言を頼めるかい?・・・カイトに・・・」

「!!・・・ハイ・・・」

「半年前にね・・・アイツが言った言葉が今でも脳裏をよぎっているんだ・・・アイツは言った、泣きそうな顔をしながらね・・・」




『最初にアキトさんやユリカさんが消え・・・そしてルリちゃんやみんなが消え・・・新たに出来た親友も消えた・・・そして僕が全てを失った時・・・記憶を得ました。アキトさん僕の記憶は全てを失ってでも得る価値の有るモノだったのでしょうか?』




「アイツは言ったよ・・・全てを失ったと・・・」

「・・・・・・。」

「でもアイツは勘違いしてる・・・確かに『親友』は失ったかもれないけど、俺達は違う・・・失ったんじゃない、見失っているんだけなんだ・・・俺、変な事言ってるかなルリちゃん?」

「私も・・・そう思います・・・(だって私は今でもカイトさんの事を失っただなんて考えていない・・・違う!考えたくもない)」

「・・・アイツに伝えて欲しい・・・『もっと目を凝らして見ろ』そうしたら周りにはちゃんと『家族』がいるってさ、失ってなんかいないんだ・・・だろ?」

「ハイ・・・確かに伝えます・・・必ず・・・」

そう言ってルリは病室を後にした・・・

「(カイト、俺は戦っているぞ・・・おまえは、まだ逃げるのか?・・・復讐に身を焦がしながら・・・)」

アキトの心から後悔の念が消える事は無いのだろう・・・本当はここにいる事さえ辛いのだ。

しかし、それと同時にアキトは思うのだ・・・後悔の念がある限り、まだ自分は人間なのだと・・・






「まだまだ・・・もう少し・・・」

カイトの乗るアンスリウムはあまりにも広大な宇宙を縦横無尽に駆け巡っていた。

一見なにも考え無しに飛んでいるように見えるがその実は違う・・・

「そろそろいいかな・・・」

あまりにも膨大な敵を引き付けながらカイトの回避能力は力を発揮していた。飛び交う弾丸をあっさり回避しながらも、まるで挑発するかのようにグラビティカノンで敵を打ち落としていく・・・

「・・・!!・・・グラビティブラスト発射!!」

『了解!』

カイトの合図に呼応するように、カイトの前方を黒い閃光が横切っていった・・・

それと共に爆発していく機体や戦艦・・・一隻対多隻の戦闘においてカイトがよく使用する作戦だった。カイトが敵をギリギリまで引き付けて、そこをグラビティブラストにより殲滅・・・敵が一機ということもあり大抵の敵はカイトに群がってくる。

まさに其処を突いたカイトだけが行える作戦だった、なぜなら一機で多機をしかも宇宙で相手にすると言う事は予想以上に技術のいる事なのだ。

『敵被害拡大』

「・・・降伏勧告を・・・」

ウィンドウに映る敵の戦力図を一瞥したカイトは静かにそう告げた・・・






「・・・『化け物』め・・・」

火星の後継者側の旗艦艦長はもはや愚痴る事しか出来なかった・・・なぜなら最初のグラビティブラストによる奇襲で予想以上の被害をくらい先ほどの第二波で機動兵器の大多数が破壊されたのだ。

「艦長!敵戦艦から降伏勧告が・・・」

「!!・・・クッ・・・」

艦長は悩んだ・・・このまま『化け物』と対峙するか、囚われの身になっても生きる事を選ぶか・・・

「・・・・・・。」

艦長はブリッジを見渡した・・・その顔はどれも若々しく、艦長が思うに死ぬにはあまりにも早すぎる。

「わかった・・・降伏を・・・受け入れる・・・全艦にそう伝えろ・・・」

艦長は奥歯を噛み締めながらオペレーターに告げた・・・その顔は暗く、理想の終りを物語っていた。

この男は最後に義ではなく・・・命を選択したのだ・・・それが正しいとか正しくないとかは誰にも分かりはしない・・・もし分かるとしたらそれは自分が決める事なのだろう・・・






「よかった・・・本当に・・・」

アンスリウム内で『オモイカネ』の報告を聞いたカイトはホッと胸を撫で下ろした・・・

「これから帰還する・・・一応牽制ぐらいしておいてくれるかな・・・」

『了解』

ウィンドウを見たカイトはユーチャリスに近づいていった、途中で多数のバッタとすれ違ったが気にも留めずハッチから格納庫へ降り立った。

『お疲れ様でした』

カイトはアンスリウムから降りると一直線にブリッジのIFSシートに腰をおろした・・・

「この宙域に一番近い宇宙軍か統合軍の戦艦を検索してほしいんだけど」

『了解しました・・・・・『検索中』・・・・分かりました、宇宙軍の戦艦で『アマリリス』です』

「アマリリス?どっかで聞いた事があるような・・・」

『アマリリス・・・地球連合宇宙軍第三艦隊所属・・・艦長はアオイ・ジュン中佐です・・・』

「!!・・・ジュンさんの・・・そうか!どおりで・・・」

カイトは一人納得した様子で頷くとフッと物思いに耽るように上を見上げた。

「(う〜ん・・・ジュンさんか・・・でもこれ以上この宙域にいるわけにも・・・)」

『どうしますか?』

「・・・う〜ん・・・どうしよっか?」






「艦長!!前方の戦闘宙域の戦艦から通信です!」

アマリリスブリッジでオペレーターは淡々と事実を告げていた。

「通信?統合軍かい?」

その報告にジュンは軽く首を傾げた。

「いいえ・・・統合軍でも火星の後継者でもありません。識別反応無し、未確認艦です・・・」

「!!・・・わかった繋げてくれ・・・」

いくらジュンが優しく、間の抜けた所があろうが一戦艦の艦長である。この状況がどのような事態か分かっていた。

「了解しました。」

オペレーターの言葉と同時にブリッジにウィンドウが開いた。しかし映像は無い、どうやら向こう側の意向で音声のみらしい。

「こちら連合宇宙軍第三艦隊『アマリリス』艦長アオイ・ジュンです・・・できれば所属と名前を教えてもらいたいな・・・」

「ハハッ・・・さすがにそれは無理ですよアオイ艦長!」

「やっぱりね!・・・で何のようなんだい?」

ウィンドウを見つめていたジュンは少し困ったように頭を掻くと改めてウィンドウを見つめ直した。

「これから送る座標に火星の後継者の皆さんが投降していますので・・・」

「・・・わかった・・・相変わらず流石だね!君は・・・」

「艦長!!データ送られてきました。」

その言葉を聞くとジュンはそっと手で合図を送り・・・

「で・・・止めたって行くんだろ?」

「えぇ・・・」

「困ったなぁ〜・・・君を捕まえる事が僕達の任務なんだけど・・・」

「だからこんな所に?」

「そういうことさ!」

「・・・やります?」

「止してくれ・・・今はその投降した残党を逮捕しに行くよ。」

「わかりました・・・それでは!」

「うん・・・」

そう言うとブリッジに開かれたウィンドウが閉じられた。しかし周りのクルーは呆気に取られている、何故なら世間を騒がす謎の戦艦の艦長とジュンが当たり前のように話していたのだから・・・一般常識を持つものなら当たり前である

「・・・副長!!」

「は、はい!」

「今の通信記録消しといてね!」

「・・・・・・わ、わかりました。」

「(カイト君・・・君は変わらないね・・・ホントに・・・)」

ジュンは何かを思い出すように目を閉じるとゆっくり背筋を伸ばした。

「よし・・・全速前進!!目標は前方の火星の後継者の拿捕!!!」






『これからどのように?』

「・・・とりあえずこの宙域を離脱・・・その後ボソンジャンプ・・・」

IFSシートに腰を埋めながらカイトは俯いていた・・・

『目標は?』

「目標?・・・火星・・・」

『火星ですか?』

「そっ・・・」

あまりにもこの時のカイトはおかしかった・・・素っ気無いというか、味気ないというか、とにかくこの時のカイトは暗く感じられた・・・

『では極冠遺跡へ?』

「いいや・・・僕の、僕達の・・・生まれた場所さ・・・」

『・・・・・・。』

「じゃあ・・・準備が出来たら教えてくれる?」

『了解しました。』

カイトは立ち上がった・・・『オモイカネ』は知っている、稀に戦闘後のカイトは心に陰を落としている事を・・・しかし自分ではどうにもならない事も同時に知っていた。

『あなたは自分のことを『化け物』と言った・・・しかし本当にそうでしょうか?・・・私にはあなたほど人間である人を知らない・・・』






「ふぅ〜・・・」

ユーチャリス艦内を少し肩を落としながらカイトは自分の部屋に戻っていった・・・

そしてその度にカイトは思うのだ・・・「この艦は一人で過ごすには大きすぎる」と・・・

冷たい壁・・・物音のしない廊下・・・どれをとってもかつてのナデシコからは程遠く・・・カイトは孤独を感じていた・・・

「(一体幾つの戦場を渡りまわったことだろうか・・・戦いは遊びではない・・・負ければそれは死につながっていく・・・)」

一人になったカイトはよく昔を思い出していた・・・

「(命は尊い・・・命は大事・・・そんな事は誰でも知っている。)」

それはカイトの記憶ではなくミカヅチとしての記憶・・・

それもかつての仲間達との・・・あの激動の時代の記憶・・・

「(クサナギ・・・おまえはあの日の『誓い』を忘れてしまったのか?)」

誓い・・・それだけがあの日々を支えていた・・・

「(と言っても僕は記憶喪失の時に忘れてたけどね・・・)」

カイトは苦笑した・・・様々に頭を巡る思考に・・・
そんなこんなで自室に入るとカイトはベッドに寝転んだ。

「いつまで続くんだろ・・・僕の戦いは・・・」

カイトは感じていた・・・戦場を巡るごとに・・・

「(命を一つ奪うごとに、僕の鼓動が・・・血が・・・弱く・・・冷たくなっていくような・・・)」

少し前はこんな事考えも思いもしなかっただろう・・・しかし今カイトは現実と過去に苦悩していたのだ。

「(理性も、本能も何もかも血で汚れてしまった・・・・・・いや・・・まだ、まだみんなと過ごした一瞬は僕を僕にしてくれる)」

そして仰向けになって寝ていたカイトは右手で顔を覆った。

「(フッ・・・違うよ、わかってはいるんだ・・・ただ認めたくないだけで・・・)」

カイトは笑った、しかしその笑みはあまりにも冷たく・・・あまりにも儚い・・・

カイトは恐怖していたのだ・・・それは『死』でも『孤独』でもない・・・恐怖の名は『自分』・・・いつか、いやもう既に・・・自分の中が全て『黒いモノ』に侵されていそうで・・・

「(クサナギ・・・)」

カイトでも不思議だった・・・漠然とした不安を感じた時、『家族』の顔は浮かんではこない・・・ただかつての『友』であり『兄弟』の顔が自然と浮かんでくるのだ・・・そしてカイトの思い浮かべるクサナギの顔も殺意には満ちていない、むしろ親友のようにクサナギは笑っていた・・・

「(あの時代は生き抜いた・・・しかし今の時代は僕らが生きるには少し辛すぎるよ・・・)」

顔を覆い隠しながらカイトの口元は笑っていた・・・まるで過去と対話するように・・・







カイトとクサナギ・・・運命と言うものがもしあったのなら二人はどうするだろう?

笑い飛ばすだろうか・・・

それとも運命と諦めその道を進むだろうか・・・

かつての『友』そして・・・今の『敵』・・・

運命は辛く二人を襲った・・・ただ苦悩と悲しみを増やすために・・・



運命・・・

かつて二人の男がこの言葉にこう言った・・・



「「そんなくだらない言葉で全てを片付けられるほど俺達は安っぽい道を歩いちゃいない!!」」








『メッセージ2件受信中・・・』

しかし・・・運命という歯車は止まらず、確実に・・・動いていた・・・



つづく



後書き

どうも海苔です♪

二章始まりましたが、いきなり暗いですね(^^;)笑えるところが一つも無い・・・

まぁ、カイトSSは明るい物が多いですからね!一つくらい暗いものがあっても・・・

と、とりあえず・・・

今回はこの辺で・・・海苔でした♪





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