機動戦艦ナデシコ

〜 Endless  Story  第二章  狂気という名の仮面 〜









エピローグ




正直驚いた・・・きっと反対するだろう、僕はそう思っていた。

しかしあの子はあっさり承諾して・・・そして・・・そして・・・

今でも目を閉じると思い出す、あの悲しみに満ちた笑みを・・・






「じゃあ、この手紙をアキトさんに渡してね。」

「うん分かった・・・」

その時の場所はユーチャリスの格納庫、ここに普段通りの格好をしたカイトと手にCC、背中にリュックをしょったリンが立っていた。そして二人とも何故か気まずそうにしている。

「あの・・・コレ・・・」

そう言うとリンはポケットをゴソゴソとあさり何かを出した。

「んっ?なんだい・・・」

「オモイカネに教えてもらって作ったんだ・・・お守り、だからコレ・・・」

リンは少し照れながらお守りをリンに差し出した。

「!!」

カイトは驚いた・・・少し照れながら差し出すその手は、針で刺したような傷が無数にあったのだ。そして思い出した・・・ここ最近リンが隠れてオモイカネと何かをやっているということを、それを黙って見守っていた自分の行動を・・・

「(コレだったのか・・・)ありがとう・・・ずっと大事にするよ。」

「エヘへ・・・」

受け取って優しく微笑んだカイトを見て、リンも照れるように笑った。

リンは嬉しかった、カイトのその笑顔は間違いなく自分に向けていられるのだ、ルリでも・・・他の家族でもなく・・・自分に・・・

「・・・じゃあ僕のお守りをリンにあげるよ、すっごい効果あるんだ♪」

「えっ?」

そう言って微笑むとカイトも先ほどリンのようにポケットに手を入れゴソゴソとあさり始めた。

「・・・んっ・・・コレかな?あっコッチだ・・・」

一人でブツブツと言いながらカイトは目的の物を取り出した。

「・・・・・・これは?」

「鈴・・・僕の大事なお守り!」

カイトは赤い紐のついた鈴をリンの前に差し出した。幾つも傷がつき、錆びていて、正直綺麗だとか高そうだとかは言えない。実はコレ・・・火星の謎の研究所のカイトのロッカーの中にあったものなのだ。

「・・・・・・。」

しかしカイトの手の上に置かれた鈴にリンは不思議な空気を感じた。何故か触れてはいけないような、小汚い鈴に神聖な何かがあるような気がしてきていた。

「・・・貰えないよ、だって・・・大事な物なんでしょ?」

「・・・確かにコレは僕にとって大事な物だよ、だからこそ君に持ってもらいたいんだ。言ったろ?効果は抜群だって!!」

カイトはリンの手を少し強引に持つとその手に鈴を握らせた。

「あっ・・・」

実際鈴を手にしたリンは不思議な事に気がついた、音がしないのだ・・・それに気がつき耳元で振ってみるがやはり音はしない。リンは首を傾げた。

「あぁ・・・それ?音しないよ・・・色々あってね。」

昔のカイト、正確にはミカヅチにとって『音』や『臭い』は致命傷になる仕事をしていた。それを思い出すようにフッと笑ったカイトはこう付け足した。

「・・・でもねコレには秘密があるんだ!!」

「?」

「もしリンに危険が迫ったらその鈴は鳴るのさ・・・僕にだけ聞こえる音で」

カイトはリンに向かってウインクした。リンは呆然とカイトの顔を見つめ返している。

「・・・・・・。」

「君が何処に居てもその鈴を持っている限り君の傍に僕は居る・・・」

その言葉にリンは少し首を傾げながら優しく笑った。その笑顔は時折カイトにだけ見せるルリの笑顔に似ていた・・・

「・・・・・・お兄ちゃん」

「んっ?」

「実は薄々分かってたんだ今日の事・・・」

「えっ・・・」

意外だった・・・そこまで勘のイイ子だとは思えない、それにこの事を告げるまでカイトは態度にも違和感を感じられないように振舞ってきたつもりだったからだ。

「お兄ちゃん考えてる事すぐ顔に出るから・・・」

「そうかな?」

その言葉にカイトは頭を掻いた・・・そしてナデシコBに乗っていた頃を思い出した、あの時もカイトはルリから同じ事を言われたのだ。「嘘をつけない性格・・・」「直ぐに顔に出る・・・」などなど、軽い嘘を吐いてはことごとくルリに見破られていた日々を・・・

しかしそうは言ってもカイトの嘘を見抜けるのはルリ一人だった事を言っておかなければならない、長年一緒にいた二人だけが出来る行為だったのかもしれない。もっともカイトはルリの嘘を見抜けないことが多かったが・・・

「うん、だから作っておいたんだ『お守り』・・・お兄ちゃんいっつも危ない事してるから・・・でも逆に貰っちゃった。ゴメンね・・・力になれなくて、結局何も出来なかったね。」

「・・・そんなことないよ・・・君がいなかったら僕は既にココにいないと思う。君のおかげだ♪」

「「・・・・・・。」」

「・・・じゃ、じゃあ行くね!!」

そう言ってリンは手に持つCCに力を込めた。

リンの真の正体をクサナギから教えられた時・・・もしもの時の事を考えカイトはリンにボソンジャンプの方法を教えていたのだ。

そしてカイトはソッと近づくとリンを優しく抱きしめた・・・

「リン・・・ありがとう・・・」

耳元で呟いたカイトはまたソッとリンから離れた。その言葉を聞いた瞬間リンの体が小刻みに震え始めた。

「・・・駄目だよ・・・折角泣かずに別れようと思ったのに・・・」

「リン・・・」

光に包まれながらリンのその目には今にも溢れ出そうとしている涙に満ちていた。

「お兄ちゃん・・・やっぱりこの鈴、貰えない・・・だから借りとく・・・ちゃんと返すから、また会えるよね?」

「!!・・・あぁ、もちろんさ」

笑顔をリンが作った瞬間、その目から大粒の涙が零れ落ちた・・・そしてリンは光と共にカイトの前から姿を消した。

「ごめんよ・・・」

カイトは手に持つお守りを大事そうに握りながら天を仰いだ・・・

「(あの子のためとはいえ・・・あの子をあんな顔にしたのも間違いなく僕なんだ・・・)」

カイトはリンの最後の表情に心を痛めていた・・・無理やりに笑おうとした、あの笑顔・・・しかしカイトにはその表情はただ泣きじゃくる顔のように見えた。






そしてそれから一週間の月日が流れた・・・

「どうかしたのかい?」

「いえ・・・ところで先日お送りしたデータちゃんと届きました?」

「あぁ・・・アレね・・・でもプロテクトされてて何かわかんないんだけど・・・」

そう言ってアカツキは首を傾げた。確かにアカツキの言葉に嘘は無かった、先日ユーチャリスから送られてきた謎のデータは厳重にプロテクトされておりその中身を見ることは出来なかったのだ。一体何のために・・・アカツキは一人悩んでいた。

「鍵はこちらにありますから・・・」

アカツキの目の前にいるカイトは不敵に笑った・・・その笑みはいつもの、というよりもアカツキが見せる笑みにどこか似ている。

「・・・どういうことだい?」

「ネルガルで作ってもらいたい物があります・・・」

「それがあのデータ?」

「えぇ・・・」

「しかし君の頼みでも利益に繋がらない事はできないな・・・」

「ハハッ・・・大丈夫ですよ、確実にネルガルのためになるでしょう・・・ボソンジャンプ技術が一歩か二歩確実に前進しますからね」

その言葉にアカツキはピクッと反応した。

「・・・それなら大歓迎さ・・・だったらプロテクトをかける必要はないだろ?」

「条件があるんですよ・・・」

その言葉にアカツキの表情は一瞬できつくなった。

「僕と取引しよう・・・ということかな?」

「そう言うことです・・・」




30分後・・・




「はぁ〜〜疲れた・・・まぁ〜全部上手く行ったし」

ネルガル本社の近くにある公園でカイトはベンチに座りながら大きく溜息を吐いた。

「(なんとかココまで上手く行ってるけど・・・それもどこまで続くか・・・)」

頭を過ぎる不安は後を断たない・・・しかしそんな事を気にしてる暇はカイトには無かった。

「・・・・・・。」

そしてふと思い出したようにポケットに手を入れたカイトはリンから貰ったお守りを取り出した。

「フッ・・・。」

それをしばらく眺めていたカイトは思い出したように優しく微笑んだ。そしてお守りの中に入っていた一枚の紙を取り出した。

『お兄ちゃん大好き!!』

リンの字で大きくそう書かれていた・・・

「・・・コレは世界で一番効くお守りだよリン・・・あの鈴なんかよりもずっと効き目がありそうだ・・・」





「ハイ・・・みんなにコレを貸したげる!!」

「何?コレ・・・」

「世界で一番利くお守り!」

「ただの壊れた鈴だろ・・・音もしない。」

「馬鹿ね・・・そういう作りにしたの音が鳴ったら大変でしょ?」

「あぁ・・・なるほど・・・」

「でも皆、コレだけは覚えておいて・・・ソレはあげたんじゃなくて貸・し・て!あげたの・・・だからちゃんと帰ってきて、いつか返しなさい。」

「ケチだな・・・」

「ケチで悪かったわね・・・それに私には聞こえるわよ鈴の音、その音はみんなの事を教えてくれる。皆がピンチになったら空飛んででも行ってあげるから安心しなさい!!」

そう言って・・・あの人は笑っていた・・・ただ無邪気に・・・笑っていた。

「・・・・・・ホントに効き目あるのかねぇ〜?第一ピンチに駆けつけても役に立たないだろ・・・」

「そこ!!ウルサイ!!!」

ゲシッ・・・

「す、既にピンチだ・・・」






不思議とそんなことを思い出したカイトは優しく微笑むと空を見上げた・・・雲一つ無い澄み切った青い空、それはまるでカイトの心の中を現しているようでもあった。

「(ルリちゃん、心配しないで・・・必ず君を守ってみせるから、だから笑っておくれ・・・君が笑えるということは僕がまだ戦えるということだから・・・)」




人は誰しも仮面をつける・・・



喜び、怒り、悲しみ、恨み



それは全て自分の仮面・・・それが人・・・



状況、環境、様々な変化に合わせて人は仮面を変えていく



しかし二人の赤い瞳を持つ男達がつける



『狂気』という仮面は果たして自分の仮面なのだろうか?



それは誰にも分からない・・・



そう、自分でさえも・・・



しかしお互いの事は感じていたのかもしれない



仮面の下に隠れた本当の顔は・・・



優しく微笑みながら、ただ泣いているという事を・・・





第二章 完



後書き

どうも海苔で〜す(^^)

とりあえず・・・終わった・・・

それではこの辺で・・・海苔でした♪

最初も最後もなんか馬鹿な後書きですね・・・(^^;;)ってまだ終わっちゃ駄目だ!!

2章どうでしたか?正直オリジナル色が強くてナデシコらしさで出なかったのが残念でしたが3章はナデシコらしい作品にして頑張っていきたいと思います。

見苦しいところがあったらゴメンなさい・・・でも3章はミッション編、頑張りますのでヨロシクお願いしますm(_ _)m







[戻る][SS小ネタBBS]
※感想メールを海苔さんへ送ろう!メールはこちら
<感想アンケートにご協力をお願いします>  [今までの結果]

■読後の印象は?(必須)
 気に入った! まぁまぁ面白い ふつう いまいち もっと精進してください

■ご意見・ご感想を一言お願いします(任意:無記入でも送信できます)
ハンドル ひとこと